β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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さむい。とてもつらい。暖房は出し惜しみするもんじゃないね。
寒かったりセイレムクリアしてたりしてまごついてました。
なんだかなー、簡潔にしよう簡潔にしようってちゃんと思ってんのに書いてるうちにどんどんおかしくなっていく。
まるまる1フェイズ消し飛ばして書き直したのはリメイクして初めてです。
サクサク話を進めたい、展開がちょっと無理矢理でもいいから。
補完なんか後でできるんだよあくしろよ俺。


Fragments:魔人覚醒Ⅰ

 昔、昔、まだ幼い時分、シェレンベルクの森で。

 血の繋がらない兄弟たちと、強く、優しく、小さな母と暮らしていた頃。

 それを、僕は決して忘れない。

 色褪せた視界しか持ち得ないからこそ、それだけは決して忘れない。

 

 そこに辿り着くまでのことを、僕は覚えてはいない。

 どこで生まれたのか、誰から生まれたのか、自分は何者か。

 ただ、気がつくこともなく森の中をさまよっていた僕は、母に保護されたという。

 それから、なにも分からぬうちにシェレンベルクの森の一員となって。

 彼らは、彼女らは皆、自分と同じように母に拾われた孤児だということを知った。

 きっと幽鬼のようにどす黒い一点の輝きも持たない目をしていただろう僕にさえ、笑顔のまま手を差し伸べる、それは道徳に満ちた善き人々だったのだろう。

 

 それでも、僕の視界は常に灰色だった。

 僕はあの人達がなにを考えてそのようなことをするのか分からなかったし、そんな自分が彼らと同じ存在であるとは思えなかった。

 ただ日々を過ごしているうちに、そのようなことを唯一人思っている自分こそが間違っていて、きっと自分は生まれるところを間違えてしまったのだろうと。

 しつこく構ってくる兄弟たちの手を振り払い、森の奥でじっとする日々が暫く続いた。

 そこは光を遮りただ暗く、生き物の息遣いもなく、遠くからただ川の流れの音だけが聞こえる。

 不思議と、なにかが満たされるのを感じていた。

 そのなにかが、母や兄弟たちのような善きものではないと気付いていながら。

 これでいいと思った。

 このままずっと、こうしていれば。

 けれど、彼女は。

「ああ、ヴァルター。やっぱりここにいました」

 何時だって、僕を見つけて、すぐ隣に座る。

「この場所、好きですか?」

 彼女には、ここがどう見えているのだろうか。

 ひとを慈しみ、支える彼女には。

 ただ闇を見つめる僕では分からない様々なものが、見えているのかもしれない。

「……好きとか、嫌いとか、そういう感情は、僕にはないです。知ってますよね」

「けれど、あなたはここが自分に合っていると、自分でそう考えてここにいるのでしょう?」

「それは、単にそれが正しいことだと思っただけで」

「なら、今はそれでいいの」

 僕とあの人は違うというのに。

 僕がいくらそう思った所で、許してしまうのだ。

 今もこうして膝をついて、目を合わせて、その両手が頬に触れる。

「あの子達と、仲良くしてとは言わないわ。心がないことも、心を感じ取れないことも、私はそれを悪いことだとは思わない。だってヴァルター、あなたをずっと見てきた。あなたは決して兄弟を傷つけたりはしなかった。あなたはとても頭の良い子だから、心無くして尚この世の善きと悪しきを知り、それを実践しているあなたを、誰が責めるというの」

 日の当たらない森の中でも、その両手は暖かかった。

 ただ、それだけ。

 それだけであることしか、分からない。

 兄弟たちならきっと、もっと感じ入るなにかがあるだろうに。

「誰が責めずとも、自分が責めるんだ。僕は、ここにいるべきじゃない」

「なら、私があなたを離さない。何度だって、こう言うわ。ヴァルター。ヴァルター・フリードリヒ。私がそう名付けた、私の息子。あなたが、いつしか自分自身を許すその日まで、私があなたを離さない」

 決して大人とはいえない小さなひとだった。

 けれど、幼い自分には十分、大きな抱擁だった。

「…………そんな日が、来るんでしょうか」

「きっと来るわ。それも遠くない未来に。だって、ヴァルター。あなた、こんなにも、自分がどうしたいのかを私に語ってくれているのよ?」

「それは、きっと」

 あなたが、どこまでも正しく、美しい人だから。

 そう言おうとして、既に答えを得ている自分自身に気がついた。

「例えそれが偽物でも、真似事でも、心無き理性から生じたものでも、あなたが選び、あなたが語り、あなたが為すこと全てが、あなたという存在の始まりなの。それを、忘れないで」

 

 そう、例え借り物の思いでも、正義でも。

 僕は、その姿を、そのあり方を正しいと思った。

 善も悪もなにもない、社会もなにもない小さな小さな森の中の偏見かもしれない。

 けれど、それでも。

 ヴァルター・フリードリヒはこの人を。

 母を、決して傷つけないと誓ったのだ。

 

 

 ヴァルターの回顧 シェレンベルクの森にて 母と子の会話

 

 

 

 

「で、なにが言いたいんだ」

 帰ってきたのは、どこまでも冷淡な言葉だった。

 その対応に、ベアトリスは暗い瞳をさらに動揺で染める。

「なに、って……それは」

「誰もがおかしくなっていく。自分は止められなかった。理想は破れ、無力を悔いた。それで? そんなことを俺に話してなにがしたいんだ」

 ベアトリスの日々は人ならざるものに侵食されていった。

 リザ・ブレンナーは魔道に狂った。

 忌まわしいヴィルヘルム・エーレンブルグは最早脆弱な人の身では止めることもできず。

 誇りを砕かれた自分は八つ当たりにも等しいことを神父様に行ってしまって。

 そして、そしてヴィッテンブルグ少佐は。

「あなたが……あなたも、そんなことを言うんですか!」

 もう、縋る誇りの掴みどころさえ人の世には残っていなくて。

 それでも、それでもまだこの人なら、と思って。

 そう思って、城を歩いているところを何とか捕まえて。

 久しぶりに会ったこの人は、以前会ったときより益々なにかを失い目の色が希薄になっていたけれど、まだきっと先輩は先輩のままなんだと信じて。

「知ってますよね、全部! アイヒマン少佐も、ナウヨックス少佐も知っていた! ならあなたが知らないはずがない! こんな人ならざる災いを受け入れることが、正しいと言うんですか!」

「正しいとか、間違ってるとか。俺達戦争屋の言うことか。人間なら多少はマシとでも?」

「そんなんじゃない! そんな、理屈で片付けていいことじゃないでしょう!」

「そうか、生憎と俺には分からんな」

「……ッ!?」

 その返答に、彼女の知る先輩の姿はなかった。

 人ならざるものでさえ、自分たちが牢屋でやっている尋問と何が違うのかと。

 確かにこの国は人に誇ることのできない闇の歴史と、今もそれを行っている事実がある。

 だが、それは人の情を介さぬ機械の返答だった。

 嘗てあった、伏せた目の中に人を慮る光を持ったその人ではない。

「黒円卓計画に憤るか。お前の親しい人々が狂っていくのも全てそのせいだと」

「違うとでも……」

「まあ、そういう風に誘導されてるのは事実だろうよ。で、それが。誇りは踏みにじられた。無力を痛感した。このままでは駄目だと思った。ならなんでわざわざ俺を呼び止めてまごついているんだ。とっとと水銀卿を名乗るあいつのところにでも行けばいい」

「なんで……なんでッ!」

 耐えきれずに、拳を机に打ち付ける。

 震えているのはベアトリスのみで、ヴァルターは無機質な瞳を変えず微動だにしない。

「あなたは……あなただけは! 許せないと言ってくれると思ってた!」

「そうか、それは期待外れだったな」

「なにがあったかなんて、私には分からないけど、どうしようもないことだったのかもしれないけれど! 私は、先輩まで狂ってしまったとは思いたくなかった!」

 ベアトリスは憤怒のままに立ち上がり、顔を伏せる。

歯を食いしばる音が、嗚咽を飲み込む音だけが部屋に響いて。

「お願いです、お願いですから……言って下さい。なんだっていい、辛かったなとか、分かるよとか、そんな適当なものでもいいですから、嘘でもいいですから。でないと、私、お兄さんまで……」

「……俺はな、キルヒアイゼン」

 しかし、その願いは届かない。

 今は、まだ。

「元々こうだったんだよ。お前が尊ぶようななにかなんて、きっと初めから無かったんだ」

 

 

「……やれやれ。そろそろ僕も腹決めるか」

 

 

 1942年 ヴェヴェルスブルグ城にて ベアトリスとヴァルターの会話と、聞き耳

 

 

 

 

「へーい失礼するぜ!」

 無遠慮に開け放たれた扉が壁にぶつかる音がした。

 聖剣に祈りを捧げるような姿勢を取ろうとしたベアトリスは集中力を削がれ振り返り。

 それを怪訝に思いながらも見届けていたエレオノーレは聞き覚えのある声に眉を寄せ。

 儀式を取り仕切る男、カール・エルンスト・クラフトは変わらぬ笑顔のまま待ち人来たると言わんばかりに視線のみを向ける。

「ナウヨックス少佐……?」

「おん? ああー、お邪魔だった? ベア子ちゃんとエレちゃんがいるってことはー」

「貴様、その呼び方をやめろと言ったはずだ、ナウヨックス」

「いやーん、階級が同じになった途端辛辣なエレちゃんが先輩悲しいぜ」

 魔人錬成を行おうというその空間に、変わらぬ調子でアルフレートは踏み入る

 非日常の境界線さえ、魔なるものの境界線でさえ、まるで散歩に出るかのように。

 そして、カール・クラフトの前に立ち。

「ふむ、心は決まった、ということでいいのかな?」

「ああ、その通りさ」

 その笑みは頬の裂けた鮫のように。

 悪なるもの、狂気なるものさえ飲み込もうとアルフレートは笑う。

「水銀卿のお誘いを受けよう。第六位の代行守護だったかい?」

「然り。第六の席は太陽の御子の席故に、それをきたる時まで守護する裏の席」

「……なッ!? 一体どういう」

「ちょーっと黙っててベア子ちゃんや。悪いね割って入って」

「割って入るとかそういう問題じゃない! ナウヨックス少佐、あなた」

「いいから」

 焦るベアトリスをやんわりと退け、アルフレートがさらに前に出る。

「ま、僕としても色々考えた結果ってことで。無論対価を要求したいけど、構わないね?」

「君が第六位の裏席につくのであれば、黒円卓は同志として微笑むだろう」

「それはあなたもかい? メルクリウス」

「さて、どうだろうね」

「ははは」

 ははは、はははははは、と空虚な笑い声が響く。

 この恐るべき超越者を相手に、アルフレート・ナウヨックスは一体なにを考えているのか。

 それはきっと当事者たちにしか分からないことだった。

「というかさ。色々考えた結果のうちの一つがそろそろシュライバー君にノリで殺されそうな気がしてきたからなんだけど。アインザッツグルッペンに僕とシュライバー君を一緒に放り込んだのもしかしなくても君だね? 出会わないように裏工作するのもそろそろ限界なんで勘弁して」

「ああ、それは獣殿の采配だ」

「さり気なく自分が進言した事実を隠さなくてもいいよちくしょう。上司に嫌われるのが辛い!」

「それも獣殿の愛のかたちであると私は思うよ。さて、キルヒアイゼン卿を待たせるのも悪い、手早く済ませてしまおうか」

「跪いたほうがいいかな?」

「いらんよ。時間はかけないからね」

 水銀卿、メルクリウスは手を掲げると、アルフレートの周囲に怪しい光が漂い始める。

 それは彼の周囲を回り、点滅を繰り返す。

 呼応する光は果たしてなにか、それは心の臓に宿す光。

 肉に非ざる宿業、その中心に繋がっていく。

「聖槍十三騎士団黒円卓第六位代行、御子の守り人の座を君に与えよう。アルフレート・ヘルムート・ナウヨックス。その決断を記録した。これより君は円卓を回す歯車に変生する」

 そこで、ベアトリスは違和感に気づく。

 それは些細な、ほんの些細な違和感だ。

 だが、それでも、不気味だった。

 だってそうだろう、この世界の裏側そのものであるような仰々しい男が、『君』等と親しげではなくとも近しげに呼ぶ存在が、他にいただろうか。

「君が担うべき聖遺物は、ここにはない。故に今はその道を指し示そう」

 それはまるで、なんであろうか。

 異世界の住人のようなこの男が、隣の住人に声をかけるような。

「これは本来祝福するまでもないことではあるが、この列席を祝し、魔名を贈ろう。奇械なる星。相容れぬもの。その事実をもってすべてをうちのめし、ひとなるものを裏切り続ける。ツァイトグロッケ――無慈悲に時記す歯車こそが、君の真のかたちである」

 やがて、円を描く光は消失し、メルクリウスの言葉も終わる。

「……へえ。成程成程、それが僕の呪い、宿業ってやつなのかい」

 それを聞いていたアルフレートは。

 顔を伏せ、体を震わせ、やがておかしくなったようにくつくつと邪悪な笑い声を響かせる。

「――面白い。やってやろうじゃないか」

 それは、ただの興味本位ではない。

 この瞬間、彼は普段とは異なるなにかを抱いていたのは間違いなかった。

 運命が、またなにかを定めた。

 歯車が噛み合った音を、そこに聞いた気がした。

「では、栄えある初任務を獣殿に代行し言い渡そう。ハンガリーはその山奥にありし、シュトレゴイカバール鉄塔跡地に向かい給え。そこに、君の聖遺物が待っている。それと契約を結んだ時、真なる同志としてヴェヴェルスブルグはその門を開くだろう」

「どこだよ知らないよ。地図くれ」

「さて、では先んじて対価を支払っておこう」

 列席が終わるやいなや図々しい態度をし始めるアルフレートを無視するメルクリウス。

「君の言い方になぞらえるなら、色々考えた結果のうちの一つ。君の親友の異変について」

 その言葉に、固唾を呑んで見守っていたベアトリスが瞠目した。

「ヴァルターさんの、って……」

 そんな様子をアルフレートは呆れたように横目で見る。

「辛気臭い後輩と世話の焼ける相棒を持つと辛いぜ」

 ケタケタと笑うその姿は相変わらず暇潰しのからかいといった感触だったがそれでも。

 この男が自身の黒円卓加入を対価に、メルクリウスにヴァルターに起こっているなにかの情報を要求したことは確かなのだろう。

 自分は、ただがむしゃらに飛び込んで、そういったことを考える余地もなかった。

 この存在に交渉などという常識的な行いが通るとは思えなかったからだ。

「まあ、簡潔に言わせてもらおう、君に言うべきことは、ない」

「あん? 今更答える必要があるかねとか言わないよね?」

「勿論。何故ならば、その心配は最早杞憂だからだ。次に彼と会う時、彼は君達の知る彼に戻っているだろう。否、それ以上に人間らしくなって、ね」

「……なに?」

 

 

 ヴェヴェルスブルグ城にて ヴァルキュリアとツァイトグロッケの列席

 

 

 

 

 景色が灰色だ、思考がまとまらない。

 否、自分が問題なく過ごしていることは分かる。

 だが、今はいつだったか。

 この感覚、幼い頃の感覚を思い出すのはいつ以来のことであったか。

 あの日、あの日とはいつだったか、どうでもいいことだ。

 今はカール・エルンスト・クラフトを名乗るあの男が、あの日再び現れた時から。

 自分は、静かに衰退を始めた。

 自身の機能がただ一つに集約され、それ以外を失っていくのを感じた。

 それに疑問を持つことなどない、もとより自分はそういうものだった。

 ああ、何だ、その時が来たのか、と思うだけだ。

 もう何か取り繕う必要もないのなら、あの友情を嘯く小男とも、慕ってくる後輩とも、もう人らしい交流をする必要はなかった。

 聖槍とその担い手への殺意のみがあれば、それ以外は不要だった。

 ただ一人、母はそれに異を唱えたのだろう。

 だからこそわざわざ森を抜け出して自分の近くにいるのだろうが。

 ああ、所詮自分はこういうものだという無意識の自覚を得てしまえばそこまで。

 運命を前に思い出は余りに脆弱で、用をなさない。

「そう、それこそが宿業。私が埋め込んだ漆黒の王たる証と、私がかくあれと作った王冠に選ばれる為の無意識。それが君だ、ヴァルター」

 ヴェヴェルスブルグの城で、水銀卿がそう言祝ぐ。

 今や魔人を生み出す為のおぞましき闇の城で。

「獣殿は遂に、自らが動くに足る魂を蓄え、聖槍を携えるに至った。ならば、分かるだろう。ヴァルター、私の『黒の王』、そして当代の王冠に選ばれし者。役目を果たす時だ」

 そうだ、俺は、あの男を阻まねばならない。

 それが俺が生来より持った宿星であり、後から得た宿星でもある。

「さて、席と祝福を与えるのは君が全てを得てからにしておこう。その時こそが相応しい」

 思うところなど、なにもない。

 ただ、そういう機構であったという事実があるだけだ。

「君の始まりの場所に向かい給え、そこに、運命が待っている」

 そして、一瞬のうちに視界は暗転し――

 

 城の中は、森の中へと変わっていた。

 鳥も、虫も、風の音さえもない、ただ水の流れだけが音を満たす、暗い暗い森の中。

 懐かしい、あの場所。

 シェレンベルクの森の、奥の奥。

「ヴァルター」

 ああ、そうだろう。

 この場にいる存在など数限られている。

 自分が既にここにいるのなら、もう一人など考えるべくもない。

「……母さん」

 あの日と変わらぬ、小さな母。

「知っていた、知っていました。王冠はあなたを選んだ。覇道を阻むものとして。けれど……私は、あなたにそれに見合う完全さを身に着けてほしくはなかった」

 母は悲しげに、しかし目を逸らすことはない。

 それは哀れみか、嘆きか。

「元より、俺がそういう存在だったというだけだ。すべて、すべて、意味などない」

 この人は誰よりも人間らしい方法で、俺を導こうとしたのだろう。

 自身が人ではない存在でありながら。

 そして俺も人ではなかったというのに。

 どうしようもないことだ、本当に。

「いいえ、いいえ。それでも、私はそうは思いません」

「…………?」

 なにを、言うのか。

 その哀れみは、嘆きは、一体どこに向けているものか。

 少女は眉を下げながらも、悲しげに微笑んだ。

「ヴァルター、手を」

 頭が痛い。

 なにかが、なにかを訴えている。

 だが、分からない、誰だ、なにを叫んでいる。

 なにも分からない俺は分からないまま、ことを進めようと手を伸ばす。

 伸ばしては、だめだ。

「嘗て、すべてが自由であった頃より。神の子という概念は永遠の信仰として世界の中心にありました。聖槍という聖遺物は時代の覇者を祝福する装置として、刻む聖痕に覇者の性質を反映させる最も純粋な聖遺物として、例え神が死して何代経とうと決して砕かれることなく、人の世に存在しています。絶対にして永遠の力。私が抱く王冠は、それから分かたれた一欠片」

 掲げた手のひらに、輝きが顕現する。

 それは鈍色の王冠だった。

 戦うための武器ではない、かくあれかしと望まれるための証。

 聖槍と対をなすもの。

「私も、じきに魂の寿命を迎えるのでしょう。メルクリウスはそこに付け込んだ。盟主を失う王冠は、次の担い手を探し始める。そして、彼は私よりもそれに相応しい存在を手ずから鋳造し、私の下に仕向けた。ええ、すべては彼の思惑通りです。私はすべてを嘆き自死することも出来なければ、あなたを手に掛けることもできなかった。だから」

 その哀れみは、その嘆きは、彼に向けられたものではない。

 それは、ただ彼女自身に向けられたものだ。

 だめだ、やめろ、手を伸ばすな。

 ■■するぞ、絶対にだ。

 手を、伸ばすな!!!

 

 

『あなたと共に悲しみ、あなたと共に苦しみ、あなたと共にまことに涙を流し』

 

『私の生のある限り、共に行かせてください』

 

『怒りの火に燃やされることなきよう、あなたによってわたしが守られますように』

 

『わたしによってあなたが守られますように』

 

 

 母は、子の手を包むように抱え、すべてを投げ打った。

 滲み出る血が浸透する。

 王冠は魂の軛から開放され、新たな軛へと移る。

 そして黒の王は起点となる魂すら塗りつぶし、絶対の完成を迎え、

 

 

『あなたを愛し、守ります』

 

 

「……あ」

 その瞬間、聖痕が刻まれた。

 ヴァルターの心臓に純黒の十字が穿たれる。

 流れ出すもののない器に刻まれる傷は、一体なにを齎すのか。

 満たされた器を壊すためでなければ、それは。

 即ち、『注ぎ込むための入り口』だ。

 では、注ぎ込まれるものとは一体。

 それは、それは――

「私は、弱いから。こんな、未練がましいことをしてしまうのね。でも、きっとこれでいいの」

「あ、あ、あ」

 カテリナの体が、透ける。

 王冠を通じてヴァルターへと際限なくなにかを注ぎ込んでいる。

「ごめんなさい。こんなの、ただ私があなたのありかたを認められないだけかもしれない。自分に酔っているだけなのかもしれない」

「……めだ、だめだ、だめだ! やめてくれ! あなたが消えてしまう!」

「だから、これは私の勝手。わがままよ。ヴァルター、私のヴァルター・フリードリヒ。どうか、お願い。私を――」

「…………母さん!!!」

 

「私を、そしてあなたが信じた皆を、忘れないで」

 

 




ベア子と喧嘩したヴァルターロボですが次話でもう戻ってます、余韻もへったくれもないね。
作者が事を急いているので仕方ない。


就任、アルフレート・ヘルムート・ナウヨックス=ツァイトグロッケ。
時記す歯車。宿業は『すべてを裏切り続ける』。
ナウヨックスは史実ではポーランドに火を投げ込みに行ったり札束偽造したりしてたけどとうとう不服従で解任されて武装SS東部戦線に投げ込まれたりしてます。
こっちじゃそれがちょっと早まった。
黄金と水銀の暇潰しの結果よりによってシュライバーと同じところに送り込まれた小僧は見つからないよう隠れたり、遂に見つかって追い掛け回されたりしてました。
そろそろ魔人契約結ばないとしぬ、しんでしまう(真顔)。是非もないね、ちくしょうめ。
黒円卓に就任したのでここで戦死扱いです。かわいそう(適当)。


そして、はい。短い間でしたが愛をありがとうお母様。
カテリナ・リディア・シェレンベルクが死亡しました。


ロンバルディアの鉄王冠がヴァルターに移譲されました。

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