オリ設定、原作改変など出てくると思います。
それでも宜しければ、お付き合いください。
プロローグ 私ハリーはこの世界で目を覚ます
目も眩むような緑の閃光。
それと同時に額に焼け付くような痛みを感じた。
「ふぁっ? なんあ!?」
は? なんだ!?
と言ったと思ったけど、なんか喋りづらい。
閉じていた目を開くと、目の前には真黒なローブを着て鼻が無い禿げたおっさんが白目をむいてぶっ倒れるところだった。その身体も風に吹かれて塵になって消えていく。
ぽかーんと眺めていると、最後に謎の魂的なかたまりがバァーっとどこかに飛んで行って静かになった。
「えぇ……」
色んなことが急に起こりすぎて処理が追い付かない。
とりあえず、どっかで見覚えのあるおっさんは置いといて現状を確認しよう。
今はどうやらベッドに寝ころんでいるようだ。起き上がり、座る。頭がえらく重いし、手足が短いし小さい。四方に木で柵があるし、これはベビーベッドか。おかしい、成人くらいはしていたような気がしたんだが。
そういうプレイか。
座った状態で首を慎重に回す。
どうやらここはどこかの民家のようだ。ただし天井とか壁とか色々大破してかなり風通しが良い。星がきれいに見える。そして寒い。
民家と言っても日本のじゃないな。文化が違うのが一目で見て取れる。どこの国のと言えるほど家々に精通してるわけでもないけど、多分ヨーロッパのどっか。
そう、私は日本人だったはずだ。そこまで考えてはたと、記憶に穴があることに気付いた。名前や姿に性別、どんな生活をしていたとか、友達とか家族とか、なんでここにいるのとか、その辺りの記憶が一切ない。友達の記憶に関しては最初から存在してなかった可能性もある。
記憶に穴というか、穴のような記憶しかなかった。
見回していると、姿見がある。ベッドの端なら映れそうだ。
どうやら立つことは無理そうなので、短い手足で這って行った。
「うあー……あきゃんぼぅ」
半ば予想通り、緑の目に黒い髪の可愛らしい赤ん坊が映っている。そして決定的なのが、額に、稲妻型の傷。
前世の人生の記憶は無い。でも、覚えていることはあった。読んでいた本とか、漫画とか映画。創作物の記憶。
その中でも、とある一シリーズの記憶が浮かび上がってきた。シリーズ累計で4億5000万冊、堂々の世界一を誇る伝説。
うん、間違いなくハリーポッターの世界です。
あのおっさんは一回見たらまあ見間違えないよね。
問題は。
そう問題は、私自身が主人公様たるハリー・ポッターになってしまっていることだ。
流行りの憑依か転生? 死んだ記憶も神様に会った記憶も無いんですけどー。
しかももう
いや、私もね、ハリーポッターは好きだよ? 世界観とかすごいわくわくするし、本も発売日に買って明け方までかかって読んでた記憶がある。本物のホグワーツ城とかダイアゴン横丁とか行ってみたいと思ったこともあったと思う。
でもそれは外から物語として見てるからであって、間違っても死亡フラグが満載の本編に関わって行こうとは思えないんだよね。
例えなるにしても、ハッフルパフとかの一般生徒Bとかが良かった。それで面白おかしく魔法使いできればそれでよかったのに。どこの誰が仕組んだか知らないけど、本当に余計なことしてくれたなあ。
これから10年間はダーズリー家で精神と肉体をダブルでボコられ、入学してからも毎年毎年ヴォルデモート関連の厄介ごとに巻き込まれる。生きていける気がしない。
しかもこの主人公、愛とか勇気が武器なところあるし、偽物の私が乗り越えていけるのか超不安なんですけど。
はあー。嫌だ嫌だ。
というか、どうせボーナスステージみたいなものだし、死んだらそこまででいいか。ホグワーツ見て、登場人物と適当に会って、適当なところで苦しくない感じで死ねたらいいね。どうせ物語の中だし。
うん、そう考えると気が楽になってきた。
この後はどうなるんだっけ……そんなことを考えて改めて首を巡らした時。
「あ……」
部屋の向こう、多分廊下に繋がるドア。壁もドアも崩れかけているけど、そこに足が見えた。
倒れている。
気づけば、ベッドの柵の留め金が外れて、柵が落ちていた。地面まで1メートルくらいあって、赤ん坊からすれば結構な距離。でも躊躇わず飛び降りた。
痛くはなく、コロコロとしばらく地面を転がって、あとは這って辿り着いた。
女性だった。当然のように死んでいた。
「り、りー、ぽったー」
恐怖に見開かれた、私と同じ色の、でも光は無い瞳。だけど同時に、何かを覚悟しているような顔だった。……何かって。わかってるんだけど。
何とか立ち上がって、金属や木やガラスの破片が散らばる廊下をよたよた歩いた。裸足だったけど、不思議と怪我はしなかった。
ジェームズ・ポッターは玄関で倒れていた。
「…………」
物凄い形相だったから、むにむにともんでおいた。少しは安らかになっただろうか。
「はあ……」
急に疲れた。
大破した玄関にころんと寝ころび、星を見た。
よく考えたら、いやよく考えなくても、「ハリー・ポッター」には父親と母親……ジェームズとリリーがいた。逆によく今まで思い至らなかったなと呆れる。
彼らはハリーを護るために命を落とした。中身が得体のしれない誰かになっていても、リリーの護りの魔法は私を護った。だからこそ、私はこうして生きている。
物語の登場人物だけど、架空の出来事かもしれないけど、その登場人物に私は命を救われた。
二人の命を犠牲にして、生き永らえさせられた。
………。
そうなるとちょっと、簡単に死ぬとは言えないかなあ。
おかしいかな、こんな簡単に感情移入して。
でも、登場人物に助けられたなら、もう私もその一員だ、と思うことにする。こんなのが主人公なのは読んでくれる人に申し訳ないけど、まあ、救われた分、図々しく、生きるために足掻いてみようかと思う。
だから、そのためにできることを考えよう。
とりあえずホグワーツ入学までは準備期間だと思って、魔法の練習をしよう。トム・リドルは入学前からある程度魔法が操れたみたいだし、とりあえずそれを目標に頑張ろう。
あと閉心術も身に着けたい。原作知識が誰かにばれたら事だ。後は……今は思いつかない。おいおい考えよう。
お手本も先生も教科書も無いけど、10年頑張れば何とかならんだろうか。
何だか眠たくなってきた。それもそうか、中身はともかく身体はまだ赤ちゃんだし。
この後は、どうなるんだっけか。
確か……ハグリッドが迎えに来て、プリペッド通り4番地に連れていかれる。
そこでダンブルドアとマクゴナガルが待っていて――。
うん、怪しまれないためにも寝とこ。
私は睡魔に身を委ねた。