私ハリーはこの世界を知っている   作:nofloor

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第7'話 クリスマスぼっちとサプライズ

 

 

 クリスマスイブの宴会は楽しかったけど、それだけに一瞬で終わっちゃったように感じた。

 パーバティやラベンダーが、ロンたちも、「良いクリスマスを」と言い残して寮を去って行った。

 

 クリスマスの朝起きると、グリフィンドール塔には私一人になっていた。

 なんだか世界に取り残されたような気分だ。

 一瞬謎のテンションになって、普段入らない他の人の部屋を覗いてみたり、談話室のソファの上を飛び跳ねてみたりしたけど……飽きてしまった。

 

 肘掛け椅子に腰かけて、高い天井をぼんやり眺める。

 しん、と静まり返り、暖炉の火がはぜる音だけが聞こえた。

 

「寂しい」

 

 思わず口から言葉が出た。

 でも仕方ないじゃん。いつも賑やかな談話室がこの有様だ。

 クリスマスだから、煌びやかに飾り付けがされているけど、それも何だか色あせて見えた。

 

 鐘の鳴る音が聞こえる。もうお昼時だ。

 随分寝坊してしまったみたいだ。

 

 着替えて寮を出て、少し迷ったけど大広間に向かうことにした。

 お腹はそんなに減ってないけど、夜まで何も食べないのも良くない。

 

 人気のまるでない廊下をコツコツと歩く。

 階段を4つ降りて、大広間の前のホールに繋がる廊下に差しかかった時だった。

 柱の陰から、誰かが結構な勢いで飛び出してきた。

 

「あ、あら、ハリー! こんなところで奇遇じゃない!」

「……ハーマイオニー?」

 

 顔を赤くしたハーマイオニーだった。

 ぽかんとしてその顔を見つめた。

 

「帰省しなかったの?」

「え、ええ、図書館でどうしても借りたい本があって。別にあなたが一人で残るって聞いたからじゃないから」

「……なるほど」

 

 なんて本を借りたのか聞いてみたい衝動に駆られたけど、そんなことはまあ、どうでもいいや。

 にっこりと笑って、手を差し出して言った。

 

「じゃあ、ご飯食べに行こう? 生徒は殆どいないし、きっとご馳走が食べ放題だよ」

「ええ……そうね!」

 

 ほっとしたように頷いて、ハーマイオニーは私の手を取った。

 

 プラプラと手を振りながら廊下を歩いて、大広間の扉に差し掛かった、そのとき。

 柱の陰から、誰かが結構な勢いで飛び出してきた。

 

「お、おや! ハリエット、こんなところで奇遇じゃないか!」

「んー」

 

 目を泳がせたドラコだった。

 また奇遇か。奇遇ってなんだ。

 

「ドラコ、帰省しなかったの?」

「あ、ああ、図書館でどうしても借りたい本が……って」

 

 そこでドラコは、ハーマイオニーの存在に気づいたようだった。

 

「グレンジャー!? 何故お前が!」

「あ、あなたこそ、どうして残っているのよ?」

「二人とも図書館で借りたい本があったんだって。奇遇だねえ」

 

 聡明な二人はそれで理解したようだった。

 お互い気まずそうに、ハーマイオニーは窓の外に露骨に視線を逸らし、ドラコは顔に手を当てて天を仰いでいる。

 

 私と言えば、二人が見ていないのをいいことに、「うへへ」と1人で笑っていた。

 二人が本が借りたいというならそれでいいや。私はただ、クリスマスが独りきりじゃなくなったことを誰かさんたちに感謝しよう。

 

 ドラコのもう片方の手を取って、ハーマイオニーの手と一緒にぐいっと引っ張った。

 

「お、おい……」

「ハリー?」

「行こう? 私、とってもお腹が空いてきた!」

 

 私を見て何を思ったのか、素直じゃない友人たちも、ハーマイオニーは困ったように、皮肉気に笑った。

 

「お昼終わったら3人でなんかしよーよ。チェスとか」

「チェスが3人でできるか……母上から菓子が大量に送られてきたからな、処理を手伝ってくれ」

「あら、学年主席から三席まで揃ってるのよ? やることは決まってるでしょう――」

「「それはない」」

「――勉きょ……まだ何も言ってないでしょ!!」

 

 ちなみに生徒は私たちを含めてわずか5人で、昼食は一つのテーブルに先生共々、全員が集まって食事をするという珍イベントだった。

 

 

 

 クリスマスの間は、ハーマイオニーとドラコと主に過ごした。もちろん四六時中3人、というわけではなかったけど。

 片方ずつと過ごすことも多かったし、1人で必要の部屋に行くこともあった。

 

 ドラコとハーマイオニーが仲良くできるかは少し不安だった。でも、思っていたより普通に二人が話しているのを見て、拍子抜けしてしまった。

 原作の悪感情はマグル生まれだからと言うよりも、仲の悪いハリーと一緒に居たからというのが大きかったのかもしれない。それとも、去年の約束を律義に守ってくれているのかも。

 だから、そこそこには3人で遊んだり、魔法の練習をしたり、あと勉強もやった。宿題多いしね。

 ハーマイオニーが言った通り、奇遇なことに私たち3人で、学年の首席、次席、三席を担っている。

 勉強も嫌いじゃないのだ。お互いの得意分野を教え合うのも楽しい。

 

 ある日なんかは、空き教室で決闘の模擬戦をしてみようということになった。

 去年の決闘クラブより断然有意義だっただろう。

 去年が有意義じゃなさ過ぎたというのも、もちろんある。

 

 

 今日はドラコと私の模擬戦の日だった。

 

 赤い閃光が迫る。

 練習を始めた頃に比べれば、ドラコの武装解除は威力も速さも上がってきている。

 

 必要の部屋では攻撃面は練習できても、防御の方はあまりうまくいかない。盾の呪文は練習できる。でも実際は呪文に当たらなければ良いわけだから、避けた方がいい場面も出てくる。

 何しろ、呪文の攻撃範囲は点一個分だ。呪文の速さも力量によって変わるけど、どうしたって拳銃ほどには速くはならない。

 戦闘で変身術がよく使われていたのが、この点一つ分の攻撃範囲を広げるためだったと思う。

 

 と、考えている場合じゃなかった。

 パッとその場でしゃがみこんで、呪文を掻い潜る。

 

「的が小さい!」

「失礼な!」

 

 ドラコに叫びかえして、床を凪ぐように杖を振る。

 石のタイルが一枚ふわりと浮かび、回転し円盤のように空を切ってドラコに迫る。それは途中で網に姿を変え、遠心力で広がりながらドラコに襲いかかった。

 

「っ、ディフィンド(裂けよ)!」

 

 2度、3度と放たれた切り裂き呪文で、私の網はバラバラになって落ちる。でもその隙を見逃しはしない。

 

「エクスペリアームズ!」

 

 私が撃った武装解除は、寸前で横様に飛び退いたドラコに躱された。

 でも急なジャンプで体勢が崩れている――畳み掛けられる。

 

「エクス――!」

サーペンソーティア(蛇よ出でよ)!」

 

 足をもつれさせながらドラコが放ったどこか懐かしい呪文。

 でもその威力は記憶とはまるで違う。全長1メートルを超えていそうなほどの大蛇が杖先から飛び出して、不意を打たれた私の腕に絡みついた。

 まずい、()腕に付かれた!蛇が目の前で大口を開けて威嚇してくる……牙が鋭い!

 去年のバジリスクを思い出す。顔を仰け反らせながら、手首と指を精一杯曲げて杖を蛇に向けた。

 

レラシオ(放せ)!」

 

 蛇に呪文が当たった瞬間、シュルシュルル!と音を立てて一気に腕を巻いていた蛇が解ける。ぼとり、と蛇が床に落ちると同時に、また赤い閃光が飛んできて、慌てて防御を張った。

 

 これじゃまた最初の状況に戻ってしまう。

 でも、最初と違う要素がひとつ。ちらりと下で伸びている蛇を見てから、タイミングを合わせて防御魔法に力を入れる。

 飛んで来たボールを弾き返すイメージ。

 

「プロテゴ!」

「くっ」

 

 跳ね返った閃光をドラコが躱す。これは想定通り。

 杖を摘んで下に向けて、くるりくるりとかき回す。蛇がじわり溶けるように消える。かと思いきや、そこからポンポンと煙と音を立ててカラフルな猫が飛び出した。

 

「は!? なん、なんだこれ、うわっ!」

「ニャー「ニャー「ウニャ「ニャンニャー「ウニャウニャ「ニャゴ「ナー「ウニ「ナーゴ「ウナー「ナーーオ「ギャバベロ「ウニャラ「ニャル「ラト「ホテ」

 

 ぷー。

 私が宙をかき混ぜ続ければ、猫はどんどん増えていく。

 ぽぽぽぽぽぽぽぽ――と無限のように湧き出た猫の群れが部屋を埋め尽くし、一気にドラコを飲み込んだ。

 

「…………」

 

 猫の波が引いていく。

 カラフルな猫たちはどこかへ消えていき、後にはボロ雑巾のようになったドラコが残された。

 

 部屋の隅で審判をしていたハーマイオニーが近づいて来て、私の右手を掴み、掲げた。

 

「勝者、ハリー」

「おかしいだろ!」

 

 がばっと身体を起こしたドラコが詰め寄って来た。

 

「意味が分からない! 何をどうしたら僕の出した蛇が大量の猫に変わるんだ! あとなんか変なのも混ざってなかったか!」

 

 横で見ていたハーマイオニーも首をかしげる。

 

「確かに、変身術はある程度大きさに融通が効くけど、蛇の大きさに対して余りにも多すぎたように思うわ。ハリーが得意だから、って言われたらそれまでだけど」

「先に小さい猫に変身させてから肥大呪文(エンゴージオ)で大きくしたんだよ。あと、蛇自体が大きかったしね」

「……なるほどな」

 

 実際には存在しない「ミニチュアの猫」とかにも変身させられる。この辺りが変身術の醍醐味、センスが求められるところだ。

 

「それにしても……認めるのは癪だが、決闘においては負けなしだな」

 

 ドラコがボヤくように言った。ハーマイオニーも同意するように頷く。

 

「ええ、何というか、発想の柔軟さもあるけど、それを可能にする引き出しが驚くほど多いわね」

「え、あ、ありがとう……」

 

 曲がりなりにも3年近く特訓をしてきたけど、その成果がしっかり実になっていたみたいだ。それに人を相手にするのは、機械的な動きの石像を相手にするのとは違う。

 でもそれよりも、急な褒めそやしに頰が熱くなった。

 

「……そ、そういえばさ、ハーマイオニーって猫飼ってたよね」

 

 目を窓の外に向けながら聞いた。

 ただ話題を反らすための質問で、大して意味はないはずだった。

 

 

「何言ってるの、私猫なんて飼ってないわよ?」

「……あれれ~?」

 

 悲報。クルックシャンクス、買われてなかった。

 大丈夫、きっと良い飼い主に巡り合えるさ。

 心の中で幸せを祈りつつ、謎の原作乖離に動揺するまいと笑顔を浮かべた。

 

「そうだっけ?? 他の人のことだったかな……」

「そうだと思うわよ。私はペットが欲しいとは思ったことないし……周りに飼ってる人もいないしね」

「ああ、なるほどね」

 

 ロンの存在……というかスキャバーズの存在が、それなりに影響を及ぼしていたわけだ。

 

「買うならふくろうかしらね。それも今は学校のを借りればいいから、やっぱり今は必要ないわ」

「ちなみにドラコの家は孔雀飼ってるよ。真っ白の」

「ええ……」

「あれは父上の趣味だ! 正直あれは僕もどうかと……」

 

 

 

 

 

 

 新学期が近づくにつれて生徒たちが学校に帰ってくるようになる。

 そうしたら何となく予想していたけど、ドラコは会いにきてくれなくなってしまった。

 もう少し堂々と仲良くなれるといいけどね。

 

 でも、2年生の夏ぶりに時間を取って話すことができた。

 ハーマイオニーも残ってくれて、寂しいと思っていたクリスマス休暇は今までで一番楽しいクリスマスになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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