私ハリーはこの世界を知っている   作:nofloor

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第8話 ハロウィンパーティと充実した学生生活

 結局のところ、今までは中途半端だったのだ。

 ハロウィンまでの時間を使って、私はそう考えた。

 

 今までは、原作通りに進んでほしいと思いながらも、自分に都合の良いところだけ改変しようとしていた。

 好き勝手に漠然と生きるだけではなくて、私は生きる上で方針を決めなくてはならない。

 

「はい、ハリー、シーザーサラダ。美味しいわよ」

「……あむ。あいがと」

 

 この世界は物語ではない。人々もみんな生きている。

 それを前提に考えるに、大きく分けて、私には2つの道があるように思う。

 

 ひとつは、もうすべての悩みを捨て去って、開き直って「ハリエット・ポッター」として自由に生きる道。

 しかしこの道は、死亡フラグ満載のこの世界で私が自由に行動してどうなるのかわからない、というデメリットがある。

 私に危険が及ぶだけならまだしも、下手をすれば大量に死人が出る可能性もある。

 

「ハリー、こっちのパンプキンパイも美味しいわ!」

「はぶっ……()ぶんで()べれるから」

 

 そしてもうひとつは、今度こそ自分を殺しきって、原作ハリーを死ぬ気で演じて生きていく道。

 茨の道になるとは思う。でも原作通りにことが運べば、間違いなくヴォルデモートは倒せるし、ほとんどの人は救われる。

 

 しかし、こちらについては既に致命的な問題が発生している。

 

「ハリー、皮つきポテトはいる?」

「いただきます」

 

 その問題とは、私の知る原作とは変わってきてしまっていること。

 特に私。少なくとも原作ハリーはさ、

 

「ハリー、かぼちゃチョコよ!」

「だから、自分で……あむ」

 

 こんな風に友人たちに介護されてはいなかったと思うのだ。

 

 

「パーバティ! ハリーは甘いものが好きって言ってたじゃない!」

「だからと言ってそれだけだとバランスが悪いでしょ」

「ハロウィンなんだからそれくらいいいじゃない」

「それでも夕食がかぼちゃとお菓子ばかりじゃ……」

 

 私は意見を言うことはできない。口の中がかぼちゃとポテトで一杯なのだ。

 もぐもぐしながらパーバティとラベンダーの言い合いを見守るしかなかった。

 

 例の飛行訓練から、グリフィンドール生たちは、簡単に言えば過保護になった。

 私が小さすぎるのが悪いのか、同級生ですら妹のように接してくる。

 

 特にラベンダーとパーバティがつよい。

 今日は特にそうで、ハロウィンのお菓子に目を輝かしたらこんなことになった。

 

 原作ではひとまとめにされることの多かった彼女たちだけど、ここ数週間べったりしていれば、嫌でも人となりが見えてくる。

 パーバティは実際にお姉ちゃんで、わりとしっかり者。姉御肌という感じだ。

 ラベンダーは姉ぶりたいというか、小さいものを愛でたいお世話したいという感じ。

 どちらにせよ面倒を見られている……同い年だよね? てか精神年齢は私のが上だよね?

 

 どうしてこうなったし。

 

 

 

 

 この2週間くらいで、ネガティブスパイラルに陥っていた私の思考はだいぶ落ち着いた。

 時間が経って、だんだんと周りの人たちを知ることができたからだと思う。

 原作に出てこなかった人もいるし、知らなかったこともたくさんたくさんあった。

 逆に言えば、今までどれだけ見ていなかったのかと凹む。

 見ていなかったというか、全て原作というフィルタを通して見ていた。

 

 最近は、ただ生活するだけの日常が、きらきらして感じる。

 この学校で、友人に囲まれて、自由に生きられたら、それはどんなに――。

 

 

 だけど、その道を選ぶことはできない。

 

 原作を放棄する、ということ。

 それはつまり、最低保証のグッドエンドを蹴飛ばして、未知のゾーンへ突入するということだ。

 

 「ハリー・ポッター」の位置にいる以上、ヴォルデモートを倒すのは私の役目だ。

 私の、楽しさとか、幸せのために、大勢の人を危険に晒すことはできない。

 だって、グリフィンドールの人とかみんなすごい良い人ばっかりだもん。

 

 

 まだ、軌道修正はできると思う。

 ハリーってほとんど巻き込まれ体質だし。

 

 事件のトリガーは、来年は父フォイがジニーに日記を渡すことだし、再来年はウィーズリー家が新聞に載ったのをシリウスが見ること。その次はウィーズリー家と一緒にワールドカップを見に行くことで、その次からは……大体ヴォルデモートの陰謀かな。

 

 こうして見ると真の巻き込まれ体質を持つのはウィーズリー一族なのかもしれない。

 

 つまり、ロンとその兄弟と仲を深めていけば問題ない。たぶん。

 

 

 そう決めた上で、私はどう行動するべきか。

 

 ぶっちゃけ「賢者の石」編では、私は何もしなくてもいいと考えていた。だって私が仕掛けを突破してみぞの鏡のところに行かなければ、クィレルは何もできないのだから。

 

 でも、原作をなぞっていく道を選ぶのなら、私はヴォルデモートと対峙しなければならない。

 

 

 そして、今日はハロウィン。

 原作ではハリー、ロン、ハーマイオニーが親友になる超、大事なイベントがおこる日だ。

 クィレルが招き入れたトロールに襲われたハーマイオニーを、ロンとハリーが救うのだ。

 

 

 ちらり、とレイブンクローの方の席を見る。

 ハーマイオニーが居る。パドマ・パチルと話しながら普通に夕食を摂っている。

 

 続いて、上座を見る。

 スネイプ先生の隣に、クィレルが居る。席を立ちたがっているように見えるけど、スネイプ先生が執拗に話しかけてそれを許していないようだ。かなり嫌そうな顔で対応している。

 うん。

 

 

 

 結論!

 ハロウィンは平和です!

 

 いやだがしかし油断大敵! これが最後の平和と思え。

 私はハリー・ポッターになりきるのだ。そう、例え私の精神を殺しても……!

 

 私は壮絶な覚悟を決めたのだった。

 

 

「ハリー、キャラメルアップルは?」

「食べるー!」

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 11月に入って、かなり寒くなった。毎日霜が降りて、学校を囲む山も全部、灰色に凍りついた。

 薬草学の授業へ向かうため城の外にでるときなど拷問のようだったので、「ルーモス・ソレム(太陽の光よ)」の呪文で小さな太陽を作り出し、それに当たりながら行くのが流行った。

 流行ったと言うか、その呪文は私しか使えなかったので、皆で私の太陽に当たりながら行くのが流行った、と言った方が正確だろう。護送態勢がデフォルトになりつつある。

 

 変身術は1年生でやることくらいならできてしまうため、マクゴナガル先生に上級の本を借りて読んでいたり、わからない同級生に教えてあげたりしている。

 変身術はハーマイオニーまで聞きに来ることもあるので、ちょっと鼻が高い。

 逆に魔法史や天文学は教えてもらうことの方が多いんだけど。

 

 魔法薬の時間は少し変化があった。

 スネイプ先生は相変わらずだけど、ドラコと……マルフォイ君と呼んでいたら気持ち悪いからそう呼べと言われた……仲良く、ではないけど、少しはましな関係になった。見かければ挨拶するくらいはする。

 魔法薬を作るとき、いろいろあってドラコと二人ペアになったのがきっかけだった。

 やっぱりロンは面白い顔しないし、ロンの話題を出すとマルフォイも面倒そうな顔をする。この二人はもう、魂レベルで相容れないのかもしれないとも思ったけど、とりあえず関わらなければ問題はない、くらいにはなった。

 

 

 そんな感じで、時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「ハリー、クィディッチ見に行こうぜ!」

「スリザリンとだ!」

 

 朝食の時、ロンとシェーマスとディーンがスクラムを組んでやってきた。

 

「絶対楽しいから!」

「うーん……」

 

 正直、あまり乗り気ではない

 

「ほら、私箒アレだし……」

「乗るのと見るのは違うって!」

「そうかなあ」

「ハリー、ほら、サッカーだって自分ができなくても見るのは面白いでしょ?」

「……一理ある」

 

 そういうことになった。

 

 

 飛行訓練は例の事件の後も何回かあったけど、ネビルも私ももう事故は起こさなかった。けれど最後まで、どう頑張っても、私の箒は地上50センチくらいまでしか浮いてくれなかった。

 ネビルも含めて青空の中を飛び回る下で、私だけリニアのような挙動だった。

 

 こいつぁ……トラウマになってやがる。 

 いいし。自由に飛べるのは確かに羨ましいけど、無理して飛びたいとは思わんし。

 

 

 競技場に行くと、相当混んでいたけど、1年生は小さいので観戦席の前の方に入れて貰えた。

 決して私だけが小さいからではない。

 

 グリフィンドール対スリザリンの試合はグリフィンドール優勢で始まった。

 シーカーは別の上級生が務めているが、その他のメンバーは変わらない。

 ラフプレーが多いスリザリンに対して、アンジェリーナやアリシアが得点を決め、ウッドが見事なセーブを見せる。双子のウィーズリーもブラッジャーをばこばこ打って味方を護り、敵を妨害していた。さすが人間ブラッジャー。

 

 うーん。

 思っていたより、すごい楽しいスポーツだった!

 今まで見てきたマグルのスポーツとは、何よりスピード感が段違いだ。

 目まぐるしく行き交う選手と3つのボール。息をも吐かせぬ攻防。

 

「がんばれー! そこ! いけいけいけー! あーおしい!」

 

 私もいつのまにか無意識に、点が入れば喜び、入れられれば落胆し、グリフィンドールチームに声援を送っていた。

 

「ハリーもすっかり、クィディッチの虜だな」

「ああ、僕は正直、最初からこうなると思ってたよ」

 

 隣で何か言っていたけど、今の私には聞こえーん。

 

「あっ、フレッドかジョージ! どっちかわかんないけど頑張れー!」

「フレッドだよ」

「フレッドか。フレッド頑張れ!」

 

 フレッドが近くに来ていたので、声を張った。

 フレッドはちらりとこっちを見て、ひょいと棍棒を掲げて見せた。

 声援やら口笛やらが飛ぶ。

 そうしている間に、またしてもアンジェリーナが得点を決めた。

 

 

「ね、ねえ、ブラッジャーがこっちに来てない?」

 

 不意に、隣でネビルが不安そうな声を出した。

 

「ネビル、ブラッジャーは魔法で選手だけ追うようになってるんだ。フレッドを狙ってるんだよ」

「でも、こっちに来てる……! ここを狙ってるよ!」

 

 ロンの答えに、ネビルが悲鳴のような声を上げる。

 確かに、競技場の右端で飛び回っていたブラッジャーが、急に獲物を見つけたかのように飛んできている。選手の傍も通り過ぎているのに、一直線に向かってくる。……念のために杖を取り出しておこう。

 

「ま、まさか……フレッド!」

 

 ロンが叫ぶ前にフレッドは気づいていて、ブラッジャーを見事に打ち飛ばした。

 

「ナイスだ!」

 

 打たれたブラッジャーは、大きく弧を描き……またしてもこっちへ向かってきた。

 

「ひええ!」

 

 一旦安堵したネビルが再度震えだす。

 フレッドがまた打ち返す、戻ってくる、打ち返す、戻ってくる、打ち返す……。

 一人でラリーをしている。

 逆に安定感が出てきた。ネビルも落ち着いてきた。

 うん、そのうちマダム・フーチが気づいて止めるでしょう。

 それにしても、うーん、狂ったブラッジャーは1年ばかり早いような気がするんですが。

 

「このっ! しつこいな!」

 

 フレッドが苛立たし気に叫んで一際大きく吹っ飛ばす。

 それでもまだ、諦め悪く向かってくるようだ。

 

「ロン、あれって……」

「ハリー! 危ないッ!!!」

 

 フレッドの叫び声が()から聞こえた。

 

 思考に空白。フレッドは私たちの右側に今も見えている。

 

 すぐに答えは出た。

 これはジョージの声。振り向いた目前に、()()()()()()()()()()()()が迫っていた。

 

 反射的に杖を振った。

 使えたのは最も得意な魔法――変身術。

 薄いヴェールが現れ、それを通り抜けたブラッジャーは水の球へと姿を変える。

 ブラッジャーの勢いを保ったままに。

 

 

 盛大な水しぶきが上がり、会場は静まり返った。

 

 

 ぽた、ぽた、と雫が落ちる。

 私周辺のグリフィンドール生たちは皆濡れネズミのようになっていた。

 

 私はほっと息をついて杖を仕舞い、ぶんぶん頭を振って雫を飛ばした。

 

「わっ、ハリー! やめろよ!」

「いやでも、ハリーが止めてくれたのか?」

「え、今のってハリーの魔法だったの?」

「杖抜いてるのハリーだけだし……」

「恐ろしく速い魔法、オレでなきゃ見逃しちゃうね」

 

 ざわざわしだす観客席。

 先生方もこんなことは初めてのようで戸惑っているようだ。

 

 ん、スネイプ先生が杖を抜いている。杖の先を見れば、フレッドが相手していたブラッジャーが粉になっていた。

 また目があった。頭を下げておこう。

 

 そして私は、世にも珍しいものを見た。

 私に目を向けたスネイプ先生が……噴き出した。

 それは見事に噴き出して、自分のローブに顔を埋めて震え出した。

 

 へ?

 

「うわ、ハリー何だよこれ……髪!?」

「あー、これか」

 

 説明しよう!

 私ハリエット・ポッターの髪の毛は、水を含むと異常に膨張するのだ!

 その大きさ、実に当()比3倍!

 

「え、ちょっと、その髪……ぶはっ」

「うわあ、ハリー、鳥の巣みたい」

「や、止めろよネビル、ぶっふふふふ……」

 

 ふん、笑いたきゃ笑うがいいさ。

 しかし鳥の巣とは……若干傷ついたぞネビルよ。

 

「ちょっと男子! 女の子の髪を笑うなんてサイテー! ほらおいで、ハリー」

「ラベンダー!」

 

 救世主だ。ラベンダーの後ろに走って隠れる。

 

「ハリーに助けて貰ったんでしょう? まったくこれだから男子は」

「いや、ごめん、ありがとうハリっぶはははは!」

「わかってるんだけどっ、面白くてっ、すまんハリー……!」

「こらー!」

 

 段々と笑いが伝播していく。

 静かだった競技場に賑やかさが戻って来た。

 まあ、少しでも役に立ったならこの髪も本望だろうさ。

 ラベンダーとパーバティに杖から温風を出してもらって髪を乾かした。

 試合も仕切り直しになるようだ。

 

 

 ブラッジャーを変えて再開した試合は、スニッチをスリザリンに獲られ、80対160という結果に終わってしまった。

 ブラッジャーの異変は原因不明とのことだった。まあ多分、クィレルのせいだと思うけどね。

 

 負けちゃったし、アクシデントもあったけど、初めてのクィディッチ観戦はかなり面白かった。

 そういう意味では、ロンたちに感謝だ。

 

 笑った恨みはいずれ返す。

 

 

 

----------------

 

 

 

 シャワーを浴びて温かいパジャマを着て、布団に潜り込んだ。ぬくもりに包まれながら、ぼんやりとここ最近を思い返して、気づいた。

 

 

 ……あれ?

 なんかものすごい普通に過ごしてない?

 

 

 壮絶な覚悟、とは一体。

 

 

 

 

 




ふーちとかぽんふりーって字面だとかなり可愛い名前ですよね。

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