異世界転生でゴーレムチートするだけの簡単なお仕事 作:ほひと
某日、Aの街付近に牛頭の怪物ミノタウロスが出現。
街を守る壁をたやすく粉砕して侵入。大勢を殺傷し、街を半壊させる。
その大きさはおよそ6メートル近く。
後日王宮から派遣された兵団が対処にあたるが、大勢の負傷者と数人の死者を出した結果、どうにか撃退する。
追撃した冒険者たちによって倒されるが、冒険者にも犠牲者を出した。
某日、Bの村を燃える
大きさは10メートル前後であった。
事実上B村は壊滅し、現在も復旧はされていない。
サラマンダーは南に移動したようだが、現在消息不明。
Cの宿場を、上流の川から出現した巨大な
大きさは5メートル超え。
犠牲者を出すが、撃退に成功。後に兵団が追撃して倒す。
蝦蟇の出す毒によって宿場の一部が汚染され、現在派遣された魔法使いが対処中。
ただし巨大蝦蟇は複数存在すると思われる。
D地域の国境を大型のコカトリスの群れが襲撃。
大きさは4メートルほど。数は十数頭近くと推測される。
警備兵を毒のブレスで殺した後、群れは国境を越えて隣国に移動していった。
詳細は現在調査中である。
「まいったわね、これは…………」
コルの工房の一室で、報告書に目を通していた黒髪のエルフは嘆息。
報告書を机に戻しながら、黒い髪をかき上げた。
「新しい装備の成果はまずまずのようだけど、使う人間がそれに追いついてないなあ……」
横でお茶を飲んでいた隠居・ウーツ師はやれやれと言いながら、天井を見上げた。
工房で開発された装備により、一般兵でも怪物と戦えるようにはなった。
しかし――
「戦えるイコール勝てるいうわけではないのよねえ……」
黒髪のエルフ・バレンシアは面倒臭そうに言って、椅子に座り直す。
「何しろ、怪物との戦いなんて訓練さえしたことないからなあ。急に何とかしろと言われても無理というもんだ」
「しかし、どうにかしないといずれ怪物に喰い殺されるだけ」
同情するような隠居の声に、バレンシアはシビアな返答。
「ジークさんが、冒険者の意見を参考に、兵士の訓練を計画してるようだがなあ」
「計画段階でしょ。ものになるまで何年かかるやら。それまでに国はもつのかしら?」
「わからんなあ。できるなら何とかしたいが……」
「そもそも国の軍人が、冒険者なんてヤクザ者でよそ者を素直に受け入れる?」
「せんだろうなあ……」
バレンシアの指摘に、隠居は肩をすくめた。
「非常事態だからある程度柔軟にはなっているけど、事が落ち着いたらまた厄介なことになるんじゃあないの?」
「しかし、今はあちこちの怪物どもを何とかせんと、どうにもこうにも……」
「焼け石に水、だと思うけどね……。どうせ古代エルフの封印は――」
「あと何年ももたないと言うのだろう?」
「ええ」
「だからと言って、そのまま怪物の餌になりますということもできんでなあ」
隠居は腕を組んで厳しい表情で言った。
「少なくとも、事態の把握は十年早ければなあ……」
「何とかなった? それはどうかしら? 何だかんだで今と同じ、いえそれ以上に悪いことになっていたかもよ。人間は都合の悪いことは信じないものだから」
「いやはや耳が痛い」
隠居は禿頭をなで、小さく苦笑する。
「まあ先のことばかり言ってもしょうがないけど……」
言いながら、バレンシアは首にかけたネックレスをぐいと引き上げた。
その先端には丸井円盤状の、ちょうど懐中時計を小ぶりにしたようなものがある。
「彼は向こうでちゃんとやっているかしら」
「もう慣れたものだからなあ。おおかた大丈夫だろう」
「その『慣れた時』が一番危ない。あなたならおわかりだと思うけど」
「確かに」
隠居はうなずき、部屋の小さな窓から外を見つめた。
「しかしこの芝居もどの程度続けられるものやら……」
「本人が注目されていなかったから、今のところは何とかなっているけど、怪しいものわね。かと言って、じゃあやめますというわけにはいかないし」
「あんなものの中に四六時中いては……いくら若いとはいえたまらんだろうなあ」
「できるだけ居住性は確保したけれど、まあ慣れてもらうしかないでしょ」
そう言ってバレンシアは円盤状のものを弄り、目を閉じた。
〇
Eの街。
トースタ国でも辺境に位置する、言うなれば田舎町。
その街でもっとも高いとされる宿屋の特別室に、巨漢が一人座っていた。
巷で噂のゴーレム使い・コル。
でっぷりと太った異相の巨漢は、両手を組んでおろしたまま微動だにしない。
まるで石像にでもなったかのような静けさだった。
だが、巨漢の内部では魔力がうねりを上げて回転し、練られ、消費されている。
同じ頃――
街から幾分離れた森の中を、三メートル近い岩石ゴーレムが数体進んでいた。
その後を武装した兵士と、同じく武装した冒険者たちが続く。
ゴーレムが巨体に物を言わせて道を切り開いていくので、後を追う者たちは楽ではある。
だが、疲れを知らないゴーレムの歩調に合わせるは、相応の体力を要した。
またそういったことを抜きにしても、その表情には疲労の色が濃い。
それは体力面ではなく、むしろ精神面での疲労だった。
「こんなに堂々とやってて、相手に気づかれないんですかね」
「基本怪物どもは人間相手に逃げるってことはせん。よほどの英雄様でもない限りな」
小さくつぶやいた兵士の言葉に、リーダーと思われる兵士が応えた。
「こんな仕事、人間のやることですか? 全部ゴーレムに任せりゃ……」
「ふざけるな。だったら俺らは何をするんだ? 家で掃除や洗濯でもするのか」
怯えた表情でこぼす兵士をリーダーが叱咤する。
「けど相手は火を吐く化け物ですよ。ゴーレムと違って俺たちはちょっと焼かれりゃ……」
「そのために特別な装備が支給されてるんだ。泣き言をほざくな!」
「……ホントに役に立つんですかね、これ。支給された後も死人が後をたたないし……」
「しっ!」
まるで葬式のような雰囲気の兵士たちを、いきなり違うグループの者が制した。
「近いぞ」
その言葉が飛んだ直後、ゴーレムが動きを止める。
「暑い……」
思わずそんな言葉が出るほど、周辺の空気は暑く、そして濁っていた。
同時に森の奥から、ゾッとするような唸り声が響いてくる。