異世界転生でゴーレムチートするだけの簡単なお仕事   作:ほひと

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その82、識者たちの会話

 

 

 

 

 某日、Aの街付近に牛頭の怪物ミノタウロスが出現。

 

 街を守る壁をたやすく粉砕して侵入。大勢を殺傷し、街を半壊させる。

 その大きさはおよそ6メートル近く。

 

 後日王宮から派遣された兵団が対処にあたるが、大勢の負傷者と数人の死者を出した結果、どうにか撃退する。

 追撃した冒険者たちによって倒されるが、冒険者にも犠牲者を出した。

 

 

 某日、Bの村を燃える火蜥蜴(とかげ)サラマンダーが襲撃。

 

 大きさは10メートル前後であった。

 事実上B村は壊滅し、現在も復旧はされていない。

 

 サラマンダーは南に移動したようだが、現在消息不明。

 

 

 Cの宿場を、上流の川から出現した巨大な蝦蟇(がま)が襲撃。

 

 大きさは5メートル超え。

 犠牲者を出すが、撃退に成功。後に兵団が追撃して倒す。

 

 蝦蟇の出す毒によって宿場の一部が汚染され、現在派遣された魔法使いが対処中。

 ただし巨大蝦蟇は複数存在すると思われる。

 

 

 D地域の国境を大型のコカトリスの群れが襲撃。

 

 大きさは4メートルほど。数は十数頭近くと推測される。

 警備兵を毒のブレスで殺した後、群れは国境を越えて隣国に移動していった。

 

 詳細は現在調査中である。

 

 

「まいったわね、これは…………」

 

 コルの工房の一室で、報告書に目を通していた黒髪のエルフは嘆息。

 報告書を机に戻しながら、黒い髪をかき上げた。

 

「新しい装備の成果はまずまずのようだけど、使う人間がそれに追いついてないなあ……」

 

 横でお茶を飲んでいた隠居・ウーツ師はやれやれと言いながら、天井を見上げた。

 工房で開発された装備により、一般兵でも怪物と戦えるようにはなった。

 

 しかし――

 

「戦えるイコール勝てるいうわけではないのよねえ……」

 

 黒髪のエルフ・バレンシアは面倒臭そうに言って、椅子に座り直す。

 

「何しろ、怪物との戦いなんて訓練さえしたことないからなあ。急に何とかしろと言われても無理というもんだ」

 

「しかし、どうにかしないといずれ怪物に喰い殺されるだけ」

 

 同情するような隠居の声に、バレンシアはシビアな返答。

 

「ジークさんが、冒険者の意見を参考に、兵士の訓練を計画してるようだがなあ」

 

「計画段階でしょ。ものになるまで何年かかるやら。それまでに国はもつのかしら?」

 

「わからんなあ。できるなら何とかしたいが……」

 

「そもそも国の軍人が、冒険者なんてヤクザ者でよそ者を素直に受け入れる?」

 

「せんだろうなあ……」

 

 バレンシアの指摘に、隠居は肩をすくめた。

 

「非常事態だからある程度柔軟にはなっているけど、事が落ち着いたらまた厄介なことになるんじゃあないの?」

 

「しかし、今はあちこちの怪物どもを何とかせんと、どうにもこうにも……」

 

「焼け石に水、だと思うけどね……。どうせ古代エルフの封印は――」

 

「あと何年ももたないと言うのだろう?」

 

「ええ」

 

「だからと言って、そのまま怪物の餌になりますということもできんでなあ」

 

 隠居は腕を組んで厳しい表情で言った。

 

「少なくとも、事態の把握は十年早ければなあ……」

 

「何とかなった? それはどうかしら? 何だかんだで今と同じ、いえそれ以上に悪いことになっていたかもよ。人間は都合の悪いことは信じないものだから」

 

「いやはや耳が痛い」

 

 隠居は禿頭をなで、小さく苦笑する。

 

「まあ先のことばかり言ってもしょうがないけど……」

 

 言いながら、バレンシアは首にかけたネックレスをぐいと引き上げた。

 その先端には丸井円盤状の、ちょうど懐中時計を小ぶりにしたようなものがある。

 

「彼は向こうでちゃんとやっているかしら」

 

「もう慣れたものだからなあ。おおかた大丈夫だろう」

 

「その『慣れた時』が一番危ない。あなたならおわかりだと思うけど」

 

「確かに」

 

 隠居はうなずき、部屋の小さな窓から外を見つめた。

 

「しかしこの芝居もどの程度続けられるものやら……」

 

「本人が注目されていなかったから、今のところは何とかなっているけど、怪しいものわね。かと言って、じゃあやめますというわけにはいかないし」

 

「あんなものの中に四六時中いては……いくら若いとはいえたまらんだろうなあ」

 

「できるだけ居住性は確保したけれど、まあ慣れてもらうしかないでしょ」

 

 そう言ってバレンシアは円盤状のものを弄り、目を閉じた。

 

 

 

       〇

 

 

 

 Eの街。

 

 トースタ国でも辺境に位置する、言うなれば田舎町。

 その街でもっとも高いとされる宿屋の特別室に、巨漢が一人座っていた。

 

 胡坐(あぐら)をかいた体勢でどっかりと腰を下ろし、瞑目している。

 巷で噂のゴーレム使い・コル。

 

 でっぷりと太った異相の巨漢は、両手を組んでおろしたまま微動だにしない。

 まるで石像にでもなったかのような静けさだった。

 

 だが、巨漢の内部では魔力がうねりを上げて回転し、練られ、消費されている。

 

 

 同じ頃――

 

 街から幾分離れた森の中を、三メートル近い岩石ゴーレムが数体進んでいた。

 その後を武装した兵士と、同じく武装した冒険者たちが続く。

 

 ゴーレムが巨体に物を言わせて道を切り開いていくので、後を追う者たちは楽ではある。

 だが、疲れを知らないゴーレムの歩調に合わせるは、相応の体力を要した。

 

 またそういったことを抜きにしても、その表情には疲労の色が濃い。

 それは体力面ではなく、むしろ精神面での疲労だった。

 

「こんなに堂々とやってて、相手に気づかれないんですかね」

 

「基本怪物どもは人間相手に逃げるってことはせん。よほどの英雄様でもない限りな」

 

 小さくつぶやいた兵士の言葉に、リーダーと思われる兵士が応えた。

 

「こんな仕事、人間のやることですか? 全部ゴーレムに任せりゃ……」

 

「ふざけるな。だったら俺らは何をするんだ? 家で掃除や洗濯でもするのか」

 

 怯えた表情でこぼす兵士をリーダーが叱咤する。

 

「けど相手は火を吐く化け物ですよ。ゴーレムと違って俺たちはちょっと焼かれりゃ……」

 

「そのために特別な装備が支給されてるんだ。泣き言をほざくな!」

 

「……ホントに役に立つんですかね、これ。支給された後も死人が後をたたないし……」

 

「しっ!」

 

 まるで葬式のような雰囲気の兵士たちを、いきなり違うグループの者が制した。

 

「近いぞ」

 

 その言葉が飛んだ直後、ゴーレムが動きを止める。

 

「暑い……」

 

 思わずそんな言葉が出るほど、周辺の空気は暑く、そして濁っていた。

 同時に森の奥から、ゾッとするような唸り声が響いてくる。

 

 

 


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