オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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2人で外出5

 重い足取りのエリエと共にエミルの城に戻ると、サラザが部屋の扉を開く。

 中からは「いつまで遊んでいたの?」と眉間にしわを寄せ、腕を組んでいるエミルが立っていた。

 

 だが、星がいないことに気付いてすぐに険しい表情に変わると、深刻そうな顔をしているサラザに向かって尋ねた。

 

「……サラザさん。何かあったんですか?」

「ええ、非常に言い難いんだけど……星ちゃんが何者かにさらわれたみたいなの……」

「星ちゃんがさらわれた!? ……どういうことなの? エリー」

「……ごめんなさい。エミル姉……私をかばって、星は……」

 

 一度は収まった涙がエミルの顔を見て一気に吹き出したのか、エリエの瞳からは大粒の涙が止めどなく溢れていた。

 

 俯きながらその場に立ち尽くしていたエリエを抱き寄せると、エミルが優しく頭を撫でた。

 

「大丈夫よ。とにかく落ち着いて、状況を教えてエリー」

「……うん」

 

 エミルは泣いているエリエを落ち着かせるように優しい声でそう尋ねると、エリエも少し落ち着いたのかゆっくりと口を開く。

 

「じ、実は……星とサラザのお店に行って……その後。甘味処に入って――」

「――ああ、そこはいいから……要点だけ手短に話してもらえる? エリー」

 

 しっかりと事の事情を説明しようとしたエリエに、エミルは苦笑いを浮かべながら優しい声音でそう言うと、小さく頷いたエリエが再び話し始めた。

 

「甘味処を出た後。変な連中に襲われて……そしたら、逃げ込もうとしたサラザの店の前に魔法陣が現れて……強制ワープさせられて……狼の覆面の奴に檻に閉じ込められた私を助ける為に星が…………私がもっと強ければ。星は……うわあああああん!」

「うん。大体分かったわ。大丈夫だから――ねっ?」

 

 一部始終を聞いたエミルは泣きじゃくるエリエをなだめるように頭を撫でながら、サラザの顔を険しい表情で見つめた。

 

 サラザもエミルのその表情を見て、決意に満ちた表情で頷くと、部屋の中へと進んでいった。

 

 エリエを慰めながらその肩を抱くと、エミルもその後を追いかける。

 

 リビングのテーブルには、デイビッドとディーノを挟むようにカレンが座っていた。

 一応拘束は解いているものの、その様子から見て彼はまだ信用はされていないのだろう。挟み込まれた両脇の2人からは、常時突き刺すような視線を浴びせかけられている。

 

 向かい合うように座ってディーノを見つめるエミルとサラザ。

 

 神妙な面持ちの2人と、あからさまに不機嫌なレイニールを加え、さらに重苦しく居心地の悪い空気が辺りに広がる。

 

 それを察してかそうではないのか、イシェルがカツ丼を乗せたおぼんを持ってやってきた。

 

「皆お腹へったやろ~? カツ丼食べるか~?」

 

 にこにこしながら、やって来るイシェル。

 

 その普段通りのイシェルの声色を聞いて、エミルが大きなため息をついた。

 

「はぁ~。イシェ……今はそれどころじゃないのよ? 星ちゃんが誘拐されたみたいなの!」

「……誘拐!? それはあかん!!」

 

 それを聞いてさすがのイシェルも慌てたのか、おぼんを持ったままあたふたしている。

 どうやら、イシェルのそれは空気を察しての行動ではなかったらしい。

 

 彼女の様子を見ていたサラザが徐ろに口を開いた。

 

「そう! 今は一分一秒がおしい……だから、そのカツ丼。頂きましょうか……」

「「…………」」

 

 そう呟き、にっこりと微笑みながら強靭な右腕をイシェルに突き出しているサラザを見て、イシェルとエミルはぽかんと口を開けながら呆然としている。 

 

 普通なら『カツ丼など食べてる暇なんてない!』と飛び出していくなり、怒鳴るなりするのが普通だろう。しかし、サラザは普通にカツ丼を受け取り、なんの躊躇もなく箸を進めている。

 

 そんな2人を見て、サラザは首を傾げる。

 

「あ、あの! サラザさんの言う通りです! 今は星ちゃんを助ける作戦を考えないといけませんし。とりあえず話しをしましょう!」

 

 一向に話が進まないことに耐えかねたカレンが声を上げた。

 

 デイビッドも彼女の意見に同意するように頷くと口を開く。

 

「そうだ。まずはその星ちゃんを連れ去った奴等が誰なのか、目星を付けないと……」

「……そ、そうね!」

 

 エミルはデイビッドの声に頷くと、考える素振りを見せる。

 

 エミルの手が離れたその時。今まで泣いていたエリエが勢い良く駆け出し、椅子に座っていたディーノの胸ぐらを掴み上げる。

 

「……目星なんて、こいつが犯人に決まってるじゃない!!」

「はぁ? 何を言ってるんだい。君……」

 

 胸ぐらを掴まれながら、ディーノは不思議そうに首を傾げた。

 

 デイビッドが慌てて止めに入ろうとした直後、完全に頭に血が上っているエリエが言い放つ。

 

「お前が! お前が来てから全部めちゃくちゃになったんだ! お前が仲間達に私達の行動を漏らしたんだろ!! お前が……お前が…………お、お願いだから……星を返してよ……あの子は1人じゃダメなの……ダメなのよ……」

 

 そう言ったエリエの頬から涙が伝う。止めどなく涙が溢れながらも、震えた手はディーノの襟からは離さなかった。

 

 この手を離してしまったら、もう二度と星には会えない様な気がしたからだ。

 

「……エリエ。もういいから、少し休め……星ちゃんを助ける前に、お前が倒れたらどうしようもないだろ?」

 

 デイビッドはエリエの手を自分の手で優しく包むと、エリエの腕は徐々に下がりディーノを放した。

 

 涙を流しているエリエの肩を抱くと、デイビッドは隣の星の使っていた寝室へと向かっていった。そんな彼女の様子を見ていたその場にいた皆も――。

 

「……エリエちゃん。相当堪えてるんやろな~」

「ええ、目の前で星ちゃんが居なくなったんだもの。無理もないわ……」

「でも。どないするん? この世界は思ってるほど狭ないよ~」

「ええ、それも分かってるわ……」

 

 イシェルの言葉を聞いて、エミルは更に険しい表情になる。

 

 そんなエミルの表情を見て、カレンが言い難そうに告げる。

 

「……マスターなら、敵のアジトの場所を知っているかもしれません。どうしますか?」

「「――マスターが?」」

 

 その言葉にエミルとイシェルが同時に聞き返す。

 

 カレンは小さく頷くと、再び話し始めた。

 

「はい。事件以来、マスターは俺と一緒に旅をしていたのは皆さんも知っていると思います。ですが、現実世界にいた時――その時に少し出てくると言って。マスターだけ数日間出掛けていた事があるんです。その時に先程、ディーノさんとの話の中に出たダークブレットという言葉を聞いたことがあります」

「カレンさん! それは本当なの!?」

「はい。間違いありません! それに、マスターなら最強の援軍になってくれるに違いありません!」

 

 カレンは力強くそう告げると、さっそくコマンドを開き、マスターとボイスチャットを始める。

 

 呼び出しのチャイムがなり、しばらくしてマスターの声が聞こえてきた。

 

「師匠。夜分遅くにすみません。緊急の要件で連絡しました」

『むっ、カレンか? どうした。何かあったのか!?』

「はい。実は……今さっき星ちゃんをダークブレットという組織に誘拐されてしまいまして……」

『なっ……何をやっておるか! このバカタレが!!』

「はっ、はい! も、申し訳ありません……」

 

 マスターの怒鳴る声が響き、驚いたカレンは思わず顔をしかめた。しかし、そんなマスターにすぐに言葉を返す。

 

「師匠! 師匠はダークブレットのアジトの場所を知っていますか?」

『……うむ。奴等のアジトは【ウォーレスト山脈】に城がある。そこが奴等のアジトだ……だが、あの組織の規模は大きい。儂が戻るまで大人しく待っておれ! 儂等もすぐにこちらを終わらせて、そっちへ向かう!』

「……はい。分かりました」

 

 カレンはその言葉を聞いて表情を曇らせると、マスターとの通信を切った。

 

 エミル達の方を振り返ったカレンは息を吸い込んで、落ち着きを取り戻すと、徐ろに口を開く。

 

「師匠からダークブレットのアジトの場所を聞きました! ウォーレスト山脈に城が建っていて、そこが奴等のアジトのようです!」

「ウォーレスト山脈……また厄介な場所に拠点を置いたものね……」

 

 エミルはそう呟き、急にその表情を険しくさせる。

 

 話に出た【ウォーレスト山脈】とは、始まりの街から馬で3日ほどの距離にあり。そこには凶暴な飛竜が多く生息していて、空からは絶対に近付けない。だからと言って、陸から容易に近付けるかと言うとそうでもない。

 

 その山脈群の岩肌はどこも傾斜が急で足元も安定しない。また、レベルの高いモンスターも生息している為に出現場所を熟知していなければ、敵アジトに着く前に力尽きてしまうだろう。

 

「ウォーレスト山脈は、空は飛竜が、地上は天然の要害が守る。まさに難攻不落――更に敵のアジトの中では、おそらくは戦闘はおろか、武器の使用もできないはず……地の利でも数の上でも彼等に利が有るわ。正直に言って、こちらに勝機はない……」

 

 険しい表情のままエミルがそう告げると、辺りは重苦しい雰囲気に包まれた。だが、どんなに否定しても彼女の言っていることは正しい。

 

 敵地に乗り込むのなら、本来は相手よりも多い人数が必要不可欠。少なくとも数百~千の敵を相手にするには、ここにいるメンバーでは数が少なすぎる。

 向こうも星を誘拐したからには、その場はやり過ごしても必ずこちらが何らかの手立てを出すと見越しているはずだ。

 

 数の問題がある以上は、真正面からの衝突を避けつつ、少数で迅速に動いて星を奪還する他ない。

 その時、カツ丼を食べ終わったサラザが胸を力強く叩いた。

 

「皆、何か忘れてな~い? 私はこのゲームでも少数派にして、最強のボディービルダー……そして男と女の両面を持ち生まれた神聖な存在!!」

「そうよ~。いい事言ったわ! サラザ!」

「そのとおーり!」

「サラザの言う通りザマス」

「――だ、誰なの!?」

 

 エミルがその声の方に目を向けると、入口のドアの前にサラザと見慣れない3人のオカマが、腕組しながら立っていた。

 

 2人はサラザの店で見たムキムキのリーゼントと関取の様なオカマなのだが、それよりも圧倒的な存在感を放っているオカマが1人――。

 

 その人物は鍛え抜かれた強靭な肉体に、黄色いモヒカンヘアー。そして先の尖ったサングラスに背中には孔雀の羽を身に着けている。

 

 そしてその3人全員が、胸に◯の中に釜と書かれたタンクトップを着用している。

 

「……あのー、どちら様でしょうか……?」

 

 エミルは呆然としながら、その急な来訪者を見つめていた。

 

 その時、サラザが歓喜の声を上げて叫んだ。

 

「――来てくれたのね! ガーベラ! カルビ! 孔雀マツザカ!」

 

 サラザは3人のもとに駆け寄ると、がっしりと胸板を押し付け合いながら熱く抱擁を交わす。




小説家になろうをメインに活動しています。
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