オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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敵城の主2

 サラザは自分の顔付近に飛んできたその破片を、素早く拳で叩き落とす。

 

 それを見た男は、口元にニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

「そうか! そのスキルはカウンター系のスキルではないな。しかもこれほど経っても仕掛けてこないところを見ると、広範囲攻撃系のスキルでもないようだ」

 

 その核心を突く言葉に、サラザの表情が険しいものへと変わった。

 

 男はその顔を見て「図星のようだな」と呟くと、サラザ目掛けて駆けて来る。

 

「驚かしやがって……お前はじっくり嬲りながら潰してやる!」

「フッ、やれるもんなら……やってみやがれ! オカマなめんじゃねぇーぞッ!!」

 

 普段のオカマ口調を忘れ、サラザは持っていたバーベルを頭上で振り回す。その瞬間、サラザの起こした風で男の姿が霞む。

 

 っとその刹那。目の前に男の手に握られた剣が、素早くサラザの太腿を捉えた。

 一度体制を崩したが、サラザは持っていたバーベルを地面に突き立て踏み止まる。鋭い眼光を放つサラザの瞳が男を捉えた。

 

 男は直ぐ様距離を取ると、切っ先をサラザに向けて剣を構え直す。

 

 どうやら、バーベルで攻撃を仕掛けて来ると思ったらしい。だが、今の攻撃でサラザには大体、彼の固有スキルの能力は把握できた。

 

 おそらく、男のスキルは高速移動ではない。その証拠にサラザの起こした風程度で、まるで蜃気楼が揺らめくように霞んだのだ。

 そこから推測するに男のスキルは多分、そこに居るように見せて姿を消す――そんな能力だろうという大まかな見当がつく。

 

 その証拠に、サラザの太腿の傷は軽く切れた程度で、左程深くはない。

 それはまだサラザのスキルを警戒していた男が、無意識のうちに取った防衛行動みたいなものなのだろう。だからこそ、攻撃時にそれほど深くは踏み込みきれなかったのだ。

 

 サラザは余裕な表情で指だけをクイクイと動かして相手を挑発する。男は怒りに任せ、側で剣を振り抜いて風を切り裂くとそのまま走り出す。

 

 その一瞬にサラザは地面から拾い上げた破片を男に投げつける。

 

 っと、サラザの推測通り。走ってきていた男の体を石が通過した。

 次にサラザはバーベルを自分の周囲で振り回すと、ゴンッ!という鈍い音と共に、何かが地面を転がる音の直後、支柱にぶつかり土煙が立ち昇る。

 

 その直後、自分に向かって来ていた男の影の方に目を向けると、影の男の姿がスッと消える。やはり、男の持っている固有スキルの正体は、実体のない分身を召喚する能力。

 

 まあ、実体のない分身ならば撹乱はできるが、攻撃は不可能なのは大体推測できる。この部屋がガラス張りになっているのは視界を遮らず、敵の注意を分身体に向ける為のものなのだろう。 

 

「くッ……良くもやりやがったな。オカマ野郎!!」

 

 土煙の中から、苦痛に歪みながら怒りを籠もった瞳で睨んだ男は腹部を抑えながら声を荒らげて叫ぶ。

 

 サラザは確実な手応えを感じながら、臆することなく男に向かって攻撃を仕掛ける。

 

「うぉらああああああッ!!」

 

 雄叫びを上げ、突っ込むサラザは男の前で止まると、再びバーベルの端を持って回転させた。

 

 まるで砲丸投げの選手の様に、ぐるんぐるんとバーベルの端を持って回す。

 サラザの振り回すバーベルは、男がぶつかって倒れた支柱を粉々に粉砕した。だが、そこに男の姿はない。

 

 さすがに二度も同じ手は食わないか、サラザの目論見としては、攻撃を仕掛けて行った直後に、直ぐ様別の場所から男が攻撃を仕掛けてくると考えていたのだが……そうならないということは、それほど単純な男でもないということなのだろう。

 

 男が近くに居ないことを確信するやいなや、サラザは頻りに頭を動かして男の姿を探す。

 

 すると、部屋の端まで移動していた男が、憎たらしそうにサラザに睨みつけている。

 

「ほう。どうやら、俺の固有スキルはもうバレているようだな」

「ええ、もうあなたの思い通りにはさせないわよ~」

 

 今までは捉えられなかったが、トリックが分かれば攻略するのもそう難しい話ではない。

 

 サラザは確実に勝てるという確証を持っているのだろう。小さくガッツポーズを作るように手の平をグッと握り締めた。

 

「俺に一撃当てられたことは褒めてやる……」

 

 不気味な笑みを浮かべると、手に持っていた剣が消えて薙刀のような得物へと変わった。

 

 サラザがその武器に目を取られていると、武器の刀身が強い光を放つ。その直後、光を直視したサラザの目の前が真っ白になる。

 

 完全に視界を奪われたサラザの耳に、男の声が飛び込んできた。

 

「どうだ? これがこの『イザナギの剣』だ。武器スキルは七つ。その中の一つが敵の視界を潰すこの技だ」

 

 サラザは声を頼りにバーベルを振り抜いたが、その攻撃は当たらず虚しく空を切る。

 

 そのすぐ後に、激痛がサラザの負傷していない方の足を襲う。

 

「ぐああああああああッ!!」

 

 崩れるその場に両膝を突いたサラザを、なおも男の武器が執拗に斬りつけていく。

 

 全身を襲う物凄い激痛に、屈強なサラザの苦痛に歪む声が辺りに響き渡る。

 

 同じ部屋にいる女性達は身を寄せ合って、部屋中にこだまするその声を怯えながら聞いている。

 

「くぅぅ~。こんなところで、サラザがやられるのを黙って見てるしかないとは……」

「わたーしとした事が……」

 

 ガーベラと孔雀マツザカは地面に伏せながら手も足も出せず、傷付けられるサラザの姿を唇を噛み締めながら見守っていることしかできない。

 

 男はまるで小動物をいたぶる肉食獣の様に、不気味な微笑みを浮かべながら、武器を振り下ろしている。

 サラザの苦痛による叫び声が部屋中に轟いていたその時、エリエの声がサラザの耳に飛び込んできた。

 

「サラザ! 今助けに――」

「――来たらダメよぉー。エリー!!」

 

 レイピアを手にして、自分に向かって扉の前から走り出しそうになるエリエにサラザが叫ぶ。

 

 エリエがその声に躊躇していると、男がエリエの方に武器の矛先を向ける。

 

「エリー目を瞑って!!」

「――ッ!?」

 

 サラザは咄嗟に跳び上がると、エリエと男の間に割って入って光を遮る。

 

 この武器スキルの致命的な欠点に、サラザは気が付いていた。

 そう。男の武器スキルは目視しなければ発動しない。彼の武器スキルは目視さえしなければ、視力を奪われることはありえない。それは武器の刀身が光るというところから容易に想像できた。

 

 既に武器スキルを受けているサラザは、もう一度矛先からの光りを受けても効果は発動しない。

 

 男は渋い顔をしながら地面に転がっているサラザを睨みつけた。

 

「この……目を潰したのにこれ程の事を……」

「……あんたの考えている事なんて、手に取るように分かるわよ~」

「くッ! この死に損ないがッ!!」

 

 男は不敵な笑みを浮かべるサラザの顔面を蹴り飛ばす。

 

 その光景を目にしたエリエが鬼の様な形相で叫んだ。

 

「サラザに何するのよ!!」

 

 エリエの体が青く輝き、凄まじい速さで男との距離を一気に詰める。

 

 そのスピードに男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静さを取り戻した。

 

「このおおおおおおおッ!!」

 

 エリエが男に向かって飛び込むと、レイピアを突き出す。だがその直後、エリエの体はそこにいたはずの男の体をすり抜けた。

 先程までのやり取りをエリエは見ていなかったのだろう。実体のない分身体の方へとまんまと攻撃させられた訳だ――。

 

 首を傾げながら辺りを見渡していると、次の瞬間に辺りを激しい光が包む。

 

「なっ! なにこれッ!?」

 

 エリエは咄嗟に目を抑えたが、次の瞬間には完全に視界が真っ白になり、目の機能を完全に奪われてしまう。

 

 視覚を奪われたエリエは、動揺した様子で頭を動かしながら数歩後退った。

 

(……見えない!? 目が、目が使えない……)

 

 驚きながら地面に両手を付いているエリエに、男がゆっくりと向かってくる。

 

 男はエリエの前で止まると、不気味な笑みを浮かべた。

 

「ほう。これはなかなかの美少女だな。俺のコレクションに加えたいくらいだ……」

「……なっ、なに言ってるのよ!」

 

 その声を頼りに持っていたレイピアを突き出す。しかし、やはり男の固有スキルによってその体にかすりもしない。

 ゆっくりとその場に立ち上がると、エリエは辺りを見渡した。だが、エリエの目に映るのは真っ白な世界で男はおろか、自分がどこに立っているのかさえも分からない状態だ。

 

 エリエは視覚に頼るのを諦め、聴覚に頼る為に耳を澄ました。いざ、視覚を見限ってみると不思議なくらい自分の心臓の音や、辺りに吹く風などが強く感じられる。

 

 もちろん。エリエの気のせいではなく、それはフリーダムのシステムが影響していた。

 人は本来、五感の中で主に視覚から9割近くの情報を得ている。それに継いで聴覚、触覚、嗅覚、味覚と続いていく。

 

 だが、フリーダムではその感覚の割合が100を振り分けていて、それが自動で切り替わる仕組みになっている。簡単に説明すると、現実では食事をする時に鼻を摘むと、味が感じなくなるがこの世界では違う。

 

 鼻を摘むという行動は嗅覚を一つ潰すことになり、味覚に振り分けられる分が増えて、よりその味を感じやすくなるのだ。

 もちろん。フリーダム内でも多く振り分けられるのは視覚だがいざそれを切ってみれば、その感覚の割合が他の感覚に移行され他の感覚が増加する。

 

 今のエリエは視覚を完全にシャットアウトしたことで、多くの感覚が次に敏感な聴覚に移っているのだ。

 

(――感じる。まるで自分の目で見る以上に、敵の息遣いや歩く音なんかが、鮮明に入ってくる……)

 

 エリエはその感覚を頼りに、握り締めていたレイピアを突き出した。

 その直後、男の声が響いたが、周りからはエリエのレイピアが何もない場所に突き刺さっているようにしか見えない。だが、すぐに空間が歪み。レイピアの刺さった右肩を抑えている男の姿が現れる。




小説家になろうをメインに活動しています。
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