オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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奇襲当日3

 街の近くにリントヴルムを着陸させ、エミル達が街の外門を通って始まりの街の中へと入る。

 

 門の周りには多くのプレイヤー達が、足場を作ってへばり付いているのが見える。

 街の中は今までの閑散とした街通りとは異なり。明日の戦闘を控え、まるで別の街かとみまがうばかりに人々が忙しなく動き回り弓や矢、槍に剣など様々な武器を乗せた荷車が通りを数多く行き交っていた。

 

 先程通ってきた外壁の門も、防衛に備えて門の補強工事が行われていたのだ。

 それはマスターの今夜決行する作戦を、まだ彼に近い仲間達だけが知っているということを意味する。

 

 だが、もう一つ確実なのは、この街に居る人間の大多数の人間が防衛戦を行おうとしている事実だ。

 

 防衛と決めてしまっている人間が攻勢に転じるには、防衛ではなく攻勢に転じた時に確実に勝てるだけの確証が必要だ――それは重い足取りで歩みを進めるエミルも、その隣を歩くイシェルにも十分に分かっていたのかもしれない。

 

 っと、目の前から見慣れた○に釜と描かれたタンクトップを着た筋骨隆々の逞しい肉体を持った。おと……いや、オカマが現れた。

 

「あら~。皆、随分と早いのね~。本来は1時の予定じゃなかったかしら~?」

「サラザさん。少し計画に変更があって、すみません。ご迷惑をおかけして……」

 

 エミルがサラザに丁寧に頭を下げると、サラザは満面の笑みで返す。

 

「いいのよ~。エミルは私の妹みたいなものなんだから! デイビットちゃん達も、もう私のお店に集まってるわよ。早く行きましょ、行きましょ~♪」

 

 上機嫌にエミルの手を力強く取ると、スキップしながら自分の店へと向かう。

 種族と歩幅が違う為、エミルは走っているのだが、ウキウキ気分のサラザにはそれが見えていないらしい。

 

 マスター達も苦笑いを浮かべながらも、サラザ達の後に続いていく。

 

 サラザの店に着いたエミル達を出迎えたのは、デイビットを始めとした――メルディウス、小虎、バロン、フィリスのもう見慣れたメンバー。ガーベラ、カルビ、孔雀マツザカのオカマイスター陣営だ。相変わらずこの陣営はグラサンと黄色いモヒカンの孔雀マツザカといい、リーゼントにムキムキボディーのガーベラに相撲取り級に巨漢のカルビと奇抜なメンバーが揃っていた。

 

 だがそれ以外は、全てが新顔揃いだ――俯き加減にサングラス越しに睨みを利かせる金色の短髪を黒いバンダナで覆う青い瞳の男は、金で龍を象った煙管を咥えた右目に大きな傷を持っている。その隣には自分の身長ほどの長刀を手にした黒い髪を後ろで束ねた男が落ち着いた様子で控えていた。彼等は武闘派で知られる『LEO』のギルドマスターとサブギルドマスターだ。少数精鋭で規模は60人程度――。

 

 また別のテーブル席には法衣を纏ったムキムキのお坊さんが2人――手には黒い数珠を持ち、首には大きな鉄の数珠が下げられている。彼等はギルド『成仏善寺』のギルドマスターとサブギルドマスター。以外にも規模は200人。もちろん。皆坊主でゴリゴリの体の持ち主だ……。

 

 その隣のテーブルには西洋の鎧に真紅のマント、そして顔はドラゴンの頭を模した兜で隠している男。

 

 だが、兜の隙間から見えている口の付近には髭が見えていることから40代から50代の間と言ったところだろう。

 

 彼の横には補佐役なのだろう。茶色い髪を三つ編みに結んだ青い瞳の少女が、洋風の甲冑を身に纏い真面目な表情で座っている。年齢はエリエと同じ高校生くらいだろうか。

 彼等は大規模ギルド『メルキュール』のギルドマスターとサブギルドマスターだ。大規模と言うだけのことはあり、その規模は千人を超えているという噂だ……。

 

 その後ろの席には赤髪に赤い瞳の皮鎧の少女と、隣には同じ皮鎧を着ている短髪で赤髪の赤い瞳の少年が座っている。だが、少女の方はマスターの方をずっと凝視したまま、まるで固まった様に動かない。

 

 彼女達はギルド『POWER,S』のギルドマスターとサブギルドマスターで、最近勢力を広げてきたギルドでその規模は250人ほど……。

 

 横の席にはローブを羽織った短髪のどこにでも居るような成年が苦笑いを浮かべている。その隣に座る茶髪の彼も緊張を隠しきれない様子で頻繁に辺りを気にする素振りを見せていた。

 

 彼等はギルド『平凡な日常』のギルドマスターとサブギルドマスター。まあ、生産などを主に行っているギルドで、しかも彼等はこの事件発生後に結成したギルドだ。規模は300人。意外と大きいギルドなのだが、非戦闘系ギルドと言うことと、新参ということもあり、あまり知名度は大きくない……。  

 

 そして一番奥の席に陣取っていたいるのは耳の長いエルフの2人――左側に居る白髪に青い瞳の成年と、青い短髪に黄色い瞳の無口な青年。

 

 彼等はギルド『ネオアーク』のギルドマスターとサブギルドマスター。エルフ専用のギルドで規模は400人。元々種族的に弓以外の武器を使うのが難しいと言われているエルフで、400人集めたのは相当の才覚の持ち主なのは間違いない。人柄もいいというのは街の中でも言われ、その名声は轟いていた……。

 

 っと、集まったギルドの紹介も終わったところで、物語に戻ろう。

 

 サラザに店の中へと招き入れられたマスターが、店の中で各々飲み食いしている彼等をカウンター席に呼ぶと、向かい合う様にカウンターに入り告げた。

 

「早速で悪いが、昨日の作戦を少々変更させてもらう! また、この事はギルドの者以外には他言無用に願いたい!」    

 

 皆が頷くのを見渡し、マスターが言葉を続けた。

 

「昨日皆に教えた通り。今この街は周囲を多数の敵に囲まれ、最早抜け出す事もできない状況に陥っている。この危機を突破するには、敵の中を突き抜けて他の街に逃げる以外には手はない」

「ちょっと待て……」

 

 話している最中、それを遮って黒いドラゴンの兜をかぶった男が発言する。

 

 そのドラゴンの兜に負けないほどに渋く太い声が辺りに響き、視線が一斉に彼に集まるが、兜の男はそれに動揺する様子もなく淡々と話す。

 

「拳帝は街から抜け出すと言ったが、第一に抜け出しに成功したとしても、俺達を受け入れてくれる街などあるのか? もし、受けて入れてくれる街があったとして、大勢の非戦闘員を連れた俺達では敵の包囲を突破できないと思うのだが?」

 

 拳帝とはマスターが武闘大会で連続優勝した時に付いた通り名のことだ――そして、彼の言う通り。無事街から抜け出せたとして、他の街にもモンスターの軍勢が押し寄せているというのは暗黙の了解と言ってもいい。

 

 何故なら、各街にあるモニターは全てが連動する仕様になっている為、必然的にあの映像は全ての街で一斉に放映された内容ということになるのである。

 まあ、イベントの告知、宣伝、スポーツイベントなどのパブリックビューイングを行う為だけに使うあの巨大モニターに、わざわざ独立性を持たせる必要性はないのだ。

 

 しかし、彼は事あるごとにあの巨大モニターを使用している。本来ならば、全プレイヤーにメッセージを飛ばせば済む話だ――しかも彼は、事前連絡でメッセージ機能を使用している。わざわざ映像を付け加える手間を増やすようなことをするメリットが分からない。それに意味があるのか、それともただ単に便利だから利用しているのか……それを知っているのは彼だけだろう。

 

 彼の的確な指摘に、マスターは一度考える素振りをして口を開く。

 

「その指摘はもっともだ――だが、心配はいらん。ここに居るメルディウスは千代の頂点に立つギルド『THE STRONG』のギルドマスターだ。ある程度の古参プレイヤーなら聞いたことがあるだろうが……彼の手引で街の方の受け入れ許可は取ってある。問題は街を囲むモンスター達だが、内部と外側からの攻めで容易に排除できるだろう。所詮はAIで動かされているモンスターでしかない。その数が膨大なら、AIの変更にも膨大な時間を要する。駆け抜けるには十分だろう」

 

 マスターの発した言葉に、その場に居た全員の視線がメルディウスに集中する。まあ、彼の真っ赤な鎧を目にすれば只者ではないとすぐに分かる。

 それもそうだ。赤という目立つ色を身に着けているということは、腕にそれほどの自信があるということの証明でもあるのだ。

 

 するとメルディウスに向かって、黒いバンダナにサングラスをかけ、右目に大きな傷のある男が不敵な笑みを浮かべた。

 

「ほう、あんたがあのテスターの…………オリジナルの固有スキル持ちは貴重だぜ。なんせ、日本には4人しかいないんだからな……こんな状況じゃなけりゃ、俺も手合わせ願いたいもんだ」

「ふっ、別に俺はいいぞ? この作戦が終わったらいくらでも勝負してやるよ!」

「ほう、それは楽しみだ。なら、尚更生き残る必要がある! なあ、ミゼ!」

「……ふふっ、そうだな」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべた傷のある男の言葉に、隣にいた長刀の男が口元に微かな笑みを浮かべ頷く。

 余裕さえ感じられるその口振りから、どうやら彼等も相当の実力の持ち主なのだろう。そうでなければ、テスターという単語を聞いた時点で震え上がり、それ以上の行動は取れなくなるはずだ。

 

 それだけ、オリジナルの固有スキルの存在感は強烈であるということの現れでもある。

 

「まあ短い間だが、生死を共にするのだ。とりあえず、自己紹介から始めるとしよう。知っている者も多いと思うが、マスターだ。拳帝でも構わん。固有スキルは『明鏡止水』収集したスキルを使用できる――まあ、こんな感じで頼む」

 

 見本を見せたマスターが軽く会釈をした。それを見て次にメルディウスが口を開くと、それに割り込むようにして右目に傷のある男が声を上げた。

 

「俺はギルド『LEO』のギルマスのネオだ。固有スキルは『メタモルフォーゼ レオ』まあ、その名の通り獣人へ変化できる。ミゼ」

 

 ネオが隣にいる長刀の男の方を見て、ニヤリと笑みを漏らす。

 

 そんな彼とは打って変わって、冷静さを崩さない長刀の男が少し呆れ顔で声を発した。

 

「同じ『LEO』のサブギルドマスターでミゼと言う。拙者の固有スキルは『居合い』間合いに入ってきた者を俊足の剣技で尽く斬り伏せる。以後、よろしく頼む」

 

 ミゼが一礼すると、ネオがメルディウスの方を見てニヤッと笑う。

 その顔から、彼はギルドマスターとサブギルドマスターの入り乱れるこの場では、このやり方が正しいやり方だと示しているように感じた。




小説家になろうをメインに活動しています。
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