オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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護衛ギルド選抜戦3

 カムイの投げた剣のおかげで拘束を免れたリカの視界が次第に戻ってくる。

 

 頻繁に目をぱちくりさせていたが、すぐにカムイの方に向かって親指を立てて見せた。

 それを見て、無善は浄歳の側にカムイはリカの側にそれぞれ付く。投げた武器を回収したいところだが、浄歳がまた鎖を出しかねない。

 

 来ると分かっているなら、その隙を狙わない訳がないだろうし。カムイもそれは重々承知しているようで、すぐに先程持っていた剣と同じ物を装備し直す。

 まあ、それなりのプレイヤーならば武器のストックくらいは容易しているものだ――だがそれは同時に、カムイの武器は希少価値の高い『トレジャーアイテム』ではないということの証しでもある。

 

 だが、カムイにはスピードという絶対的な武器があり。さすがサブギルドマスターを名乗るだけあってLv100というカンスト状態で、同じ固有スキルということもあり。先程の動きを見ても、そのスピードもエリエとほぼ互角だ。

 

 互いに突き刺すように研ぎ澄まされた視線をぶつけ合い見合っていた両者だったが、リカの視覚が戻ったことで勝負は振り出しに戻ったと言える。

 

 正直なところ、ギルド『成仏善寺』の2人は初動で勝負を決めておきたかっただろう。いや、あわよくば2人のうちの片方だけでも仕留めておきたかった……それなら、残り一人を2人で叩けば良かったのだから。ここで数珠の光の効果が切れたのは大きな痛手だろう。

 

 両者とも手の内を見せたわけだが、問題は成仏善寺の無善の固有スキル『憑依』はモンスター相手でしか効果がない。2人のうち1人の固有スキルが発動できないと言うのは、非常に厳しいと言わざるを得ない。

 

「ごめんカムイ。助かった……」

「まあ、いいさ。次で挽回だ!」

「ええ、分かってる!」

 

 リカとカムイは頷き合うと攻撃する体制に入った。

 

 無善と浄歳も手に持っていた錫杖を構え。

 

「……できれば先に武闘家の方を倒しておきたかったですね」

「まあいい。呆気なく終わっては集まってくれた観客に申し訳ないからな……浄歳、次は一対一に持ち込む」

 

 今度は地面を蹴ってリカ、カムイへと襲い掛かる。拘束系の固有スキルと片方は固有スキル使用不能という不利な状況で、完全に向こうから攻めて来ると考えていなかった双子は虚を突かれ多様にするに迎撃態勢に入る。

 

「「はああああああああッ!!」」

 

 声を上げながら、無善の後ろに隠れる形で浄歳も全力で向かってきていた。

 

「リカ。先頭の奴を頼む! 僕は後ろをやる!」

「了解!」

 

 隣り合わせにすぐに迎撃態勢に入ったリカとカムイ。

 

 そこに躊躇することなく勢い良く向かって来る無善と浄歳を見据えた。

 

「阿!」

「吽!」

 

 前を走る無善に応えるように浄歳が声を発すると、地面から鎖が現れ無善を拘束して動きを止める。

 急制動を掛けて止まった無善にリカは驚きを隠しきれない。すると、後ろから浄歳が錫杖を構えてカムイに襲い掛かった。

 

 素早くカムイは錫杖を剣で受け止めると、肉薄しながら彼の体を後ろに追いやる。

 

「カムイ! きゃああああああああッ!!」

 

 っと同時に無善を拘束していた鎖が消え、今度はカムイの方に一瞬視線を奪われたリカの脇腹に錫杖が当たり、そのまま吹き飛ばされた。 

 

 飛ばされたリカを無善が追撃する。だが、素早く体勢を立て直して拳を構えた。即座に振り抜かれた錫杖がリカの体を捉えた……っと思ったのだが、当たった直後にリカの姿が消える。

 

 すぐ下を見ると、リカが無善の懐に飛び込み拳を振り上げる体制に入っていた。『まずい』と感じた無善は、先程使った数珠をリカの顔の前に突き出すが、二度も同じ手が効くような相手ではない。

 

「はああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 観客席から見ていても視界を奪われるほどの光量に会場内が包まれる中、リカの気合いの籠もった声だけが響く。

 

 次の瞬間には2人の距離は大きく開き、何故か無善は左脇腹を押さえて歯を噛み締め、そして頬には切り傷が刻まれている。  

 あの一瞬の間にあったことを説明すると、リカが無善の懐に飛び込んだ直後、無善の光る数珠をかわす為、彼女は目を瞑りそのまま拳を無善の顎目掛けて振り抜いた。

 

 だが、無善も急所を回避するべくできる限り体を捻ってギリギリでかわしたのだ。その時に左頬にガントレットが当たり、頬が微かに切れた。しかし、かわされたことは手応えが薄かったリカも重々分かっていて、素早く右足で彼の左脇腹を蹴った。視界が戻っていなかった無善はそれに気付かず吹き飛ばされ、今のこの状態となったということなのだ――。

 

 その遥か後ろで未だ肉薄しながら、カムイと浄歳も激しい攻防を繰り広げていた。

 カムイの剣と浄歳の錫杖が激しくぶつかり合いガンガンと音を立て合う。激しく体を入れ替えて打ち合う様子から、武器を使った戦闘の力量はほぼ互角なのだろう。

 

 互いに武器での競り合いに一歩も引かない様子で、このままではそう簡単に決着はつきそうにない。

 リカと無善も距離を取って睨み合いながら全く動こうとしない。リカとしてはあの光を放つ数珠を警戒しているのだろう。少しでも目を瞑るタイミングを誤れば一瞬で情勢は不利になる。

 

 無善の方はリカの固有スキル『フェイント』を警戒しているのだ。単純にフェイントを掛けるだけだと思っていたこの固有スキルだが、実際は残像を残した移動も可能にしたもの。視覚に頼れない分、感覚的に戦うしかないが、それでも完全に動きを見切ることなど不可能。

 

 しかも、彼女の攻撃は予想以上に重い。急所と呼ばれる場所に打ち込まれればHPは大幅に減少してしまう。まともに打ち合えば、固有スキルの差でHPが先に尽きるのは無善の方だ――。

 

 観客達もカムイと浄歳の激しい攻防を見守っている中、全く動く気配のないリカと無善の方を気にしだす。

 

 すると、観客席の所々で戦わない2人に向かって野次が飛んでくる。

 

「何止まってるんだ!」「ビビったのか!」「戦わないならステージから降りろ!」

 

 など、様々な野次が浴びせ掛けられる中で相当集中しているのか、野次が聞こえていないと言わんばかりにリカと無善は微動だにしない。

 それを察したのか、カムイと浄歳が2人のサポートに入る。寄り添うように側にくると、それぞれパートナーに耳打ちする。

 

 何を話しているのかは分からないが、リカと無善が深く頷いたことから何かをしようとしているのは間違いない。

 リカとカムイが真剣な表情で彼等を睨むと、カムイが指でコマンドを操作し、何かオレンジ色の球体を取り出した。

 

 大きく振りかぶると、無善と浄歳が身構える。すると、何故かそのまま自分の足元にその球体を投げ付け。同時に白煙が上がりリカとカムイの姿を覆い隠す。

 

「煙幕か!? 小癪な真似を……」

「だが、無善。この距離で煙幕を使う理由はなんだろうな。本来ならば近距離で使うものだろう?」

 

 確かに浄歳の疑問も最もだろう。今から戦闘に移るにしても、自分達の姿を煙の中に隠しただけで、実際に煙から出た瞬間を狙われるのは、2人も分かっているはずだ。 

 

 正直。姿を隠す以外のメリットがなく、状況をひっくり返せる様なものでもないと言わざるを得ない。

 

 現に無善と浄歳も攻撃を仕掛けることなく、状況を見極めている。

 不用意に突っ込んでも返り討ちに遭うと、煙幕を張った彼等の思惑に乗せられることにもなりかねない。素直に返り討ちに遭うより、現状で特に変化をもたらさないであろう策を見守っていた方が懸命と判断した様だ――。




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