オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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エキシビションマッチ2

            * * *

 

 

 それは大会前の会場に向かうまでの一幕…………。

 

 ギルドホールのホテルのような造りの廊下を歩いていると、前を行く紅蓮が突然呟くように声を発した。

 

「……メルディウス。これだけは覚えておいて下さい。もし、真っ黒なドラゴンの様な鎧の人と戦うようなら、彼の武器にベルセルクをぶつける事だけは止めて下さい」

 

 珍しく声を発した紅蓮の意味深な言葉に、メルディウスは難しい顔をして眉をひそめた。そう。彼が気になったのは、彼女の発した『武器にベルセルクをぶつける事だけは止めろ』というところだ。

 

 戦う上で、武器をぶつけ合わないという状況は不意打ちしかありえない。ましてや、移動の限られているステージ上では不可能と言ってもいい。

 

「なに? 武器に武器を当てるなって。なら、どうやって戦えって言うんだ。紅蓮」

 

 抱いた疑問をそのまま、紅蓮に聞き返すメルディウス。

 

 すると、返ってきたのは紅蓮の大きなため息と……。

 

「いいですか? このゲームの中には、固有スキルという個々の特殊な能力があります。その中には武器破壊を得意とする物も多々あり。その全てと言っていいほど、発動時に必ず予兆があります。貴方ならそれを見破ることができる。その瞬間だけは決して武器を打ち合ってはいけません。それだけを覚えておいて下さいね!」

「お、おう……」

 

 振り向いて人差し指を立てて念を押す様に告げる紅蓮に、メルディウスは生返事を返しながら頷いてみせた。

 

 紅蓮は大きくため息をもらすと「もう。しっかりしてくださいよ」と呆れながらに告げると、再び前を向いて会場に向けて歩き出した。

 

 

               * * *

 

 そう。紅蓮の言っていたのは、まさに今のことなのだ――それを直感的に判断したメルディウスは咄嗟にベルセルクを頭上に向けて大きく投げると、自分は体を大きく前に倒して顔が地面に触れるほどの距離まで深く沈み込む。

 

 直後。彼の鎧の背中の部分に空を切ったダイロスの炎に包まれた大剣の刃が当たり。その直後、地面へとダイロスの大剣『炎剣 デュランダル』が吸い込まれる様にその不滅の刃を地面に突き刺す。

 

 突き刺さり抜けなくなった漆黒の大剣を抜こうと、柄を両手で握り締めるダイロス。

 その一瞬の隙を見逃さず背後に回ったメルディウスは地面を蹴って跳び上がると、ダイロスの肩を踏み台に落ちてくるベルセルクを掴む。

 

「――終わりだああああああああッ!!」

 

 咆哮を上げながら、大きく振り下ろされたベルセルクが、ダイロスの無防備な背中目掛けて襲い掛かる。

 それを察して、ダイロスは地面に突き刺さったままのデュランダルを諦め、地面に刺さったままの大剣の柄を利用して体を反転させると、即座にその場を離れた。

 

 メルディウスの渾身の力で放った一撃は、無情にも彼の体を掠ることなく地面に直撃する。

 爆風と共に巻き起こった残骸に紛れ、地面に刺さったままになっていたデュランダルが空中に放り出され、凄まじい爆風と細かい残骸の嵐の中でダイロスがそれを見事に掴む。 

 

 ダイロスは掴んだ大剣を自分の前に持ってくると、飛んでくる破片を大剣の腹の部分で弾く。

 飛んできた破片によって微かに減少していたHPが停止する。まあ、減少したHPは取るに足らないレベルだが、この戦いでは少しのHP減少が命取りになり兼ねない。

 

 何故なら、すでに固有スキルを使用している。次の発動までには5分間のクールタイムが必要だからだ。

 多人数戦では然程問題視させる時間ではないが、個人戦となればそうもいかない。HPを回復できない状況での一進一退の攻防の中で勝利を収めるのは、数分のロスでも命取りになり、それが大きく戦況を左右する。

 

 爆風が収まり、視界が戻る直前。ダイロスの視界に大斧を構えたメルディウスの姿が土煙の中から飛び出してきた。

 

「はあああああああああああああッ!!」

 

 大きく振り上げた大斧を、ダイロスが体の前に構えていた大剣の腹に直撃して爆発を起こす。

 衝撃で吹き飛ばされたダイロスの体は地面を転がり、大きく後ろに吹き飛ばされるが。直ぐ様、地面に大剣を突き立てて勢いを弱めて素早く立ち上がる。

 

 ステージ端まで吹き飛ばされたが、すでにステージの中央部分は欠落して跡形もなく飛び散っている。だが、システムがすぐに修復を開始し、破損した部位が徐々にほんわりと緑色に輝き、徐々に修復をしている。だからと言ってメルディウスが手を抜くはずもなく――。

 

「うおらあああああああああああああああッ!!」

 

 頭上に大きく振り上げたベルセルクをダイロスに目掛けて振り落とす。

 

 ダイロスは既の所で攻撃をかわすが、地面にぶつかった刃が爆発を起こし、咄嗟に大剣の爆発で飛散した瓦礫を防ぐが、爆風の勢いに押され、その重い鎧ごと吹き飛ばされ場外に飛ばされてしまう。

 

 飛ばされたダイロスは器用に体を捻って観客席の壁をリングのロープ代わりに足で蹴り飛ばすと、大剣の先を真上に構えたままステージ上のメルディウスに向かって飛んでいく。

 

 メルディウスはそれを見て、ニヤッと口元に笑みを浮かべると大斧を自分の前に構えてガードの体制に入った。

 徐々に迫ってくるダイロスの構える大剣の先端を見据え、避けることなく真っ向から攻撃を防ぐ。金属同士が擦れ合う甲高い音の直後、激しい火花が散って2人の体が一瞬のうちに交差する。

 

 殺しきれなかった勢いを、地面を滑って吸収して滑りながらも体を反転させると、瞳から激しい眼光を飛ばしながら大剣を前に構え直す。

 

 メルディウスもダイロス向かって大斧を構え直すと、ニヤリと笑みをもらした。

 

「そうか。じっくり見させてもらった……分かったぜ! お前の固有スキルは常時発動型でも任意発動型でもないみたいだな」

「――確かにそうだが、油断は禁物だとだけ言っておこう!!」

 

 そう言った直後、今までは防戦一方だったダイロスが、今度は自ら攻撃を仕掛けてきた。

 

 真横に大剣を構えながら突撃して来るダイロスを、メルディウスは表情一つ変えずにベルセルクを肩に担いで待ち構えている。

 

「なんともなめられたものだな! 我が『炎剣デュランダル』の力。その身で受けるといい!」

 

 ダイロスの構えている漆黒の大剣から炎が噴き上がり、自分に向かってくるダイロスにやっとメルディウスが大斧を構えた。

 

「――俺に火力で挑むとはな! 格の違いを見せてやろうぜ。なあ、ベルセルク!」

 

 人ほどもある刃を持つ金色の大斧を構え、不敵な笑みを浮かべているメルディウスにダイロスが斬り掛かる。

 炎をまとった大剣をメルディウスの左脇腹に向かって振り抜く。が、メルディウスも持っていたベルセルクでそれを迎撃する。

 

 数回武器を打ち付けあった後、互いに距離を取ると、しばらくの間武器を構えて睨み合っていたが、再びダイロスから斬り掛かってきた。

 

 メルディウスは大斧を構えたが、炎を上げる大剣が赤く光った僅かな変化を見逃さなかった。

 確実にベルセルクを狙って振り抜いてきたダイロスに、メルディウスは右手に持っていたベルセルクを咄嗟に自分の後方に振り下ろし、爆発で起こした爆風を利用して浮き上がりダイロスの右腕を思い切りキックする。

 

 さながら某バッタをモチーフにした特撮ヒーローの如く、華麗な蹴りを披露したメルディウスは、バランスを崩したダイロスと一緒に度重なる爆発でいびつに変形したステージ上を転がって端まで飛ばされた。

 

 両者共すぐに立ち上がると、再び対峙する相手に向かって得物を前に構えた。

 

「――ほう。また使えるようになるまで5分程度か? 結構優秀な固有スキルじゃねぇーか! 結構レア度も高いのか?」

「……レア度はD。前の試合の時も言ったと思うが、先程の物言いといいギリギリで『豪腕』の攻撃を避けるあたり。まさか、俺の試合を見てないのか?」

 

 その疑問に、メルディウスは鼻で笑うと、持っていた大斧を地面に突き立てて胸を張って言い放つ。

 

「俺は戦いを楽しみたいんだ! 前の試合を見たら、敵の手の内が分かっちまうじゃねぇーか! 俺は常に初見で戦う。それが刃を交える相手に対しての最低限の礼儀だと思ってるからな! それがたとえモンスター相手でもな!」

「――俺には理解できないな。俺も君も一つのギルドの長だろう! ならば、敵の情報を少しでも収集してから戦いに望むべきではないのか! 仲間を危険に晒す様な人物とはがっかりだ――君とは良い友になれると思ったのだがな……」

 

 俯き加減にダイロスはそう告げると大剣の柄を力一杯に握り締め、メルディウスに向かって全速力で突っ込んでくる。

 

 素早くベルセルクを構え直して迎撃の体制に入ったメルディウスの体を押し返しながら、力任せに後方に一気に押し出していく。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 漆黒の大剣の刃が、メルディウスの持つ人ほどもある刃の大斧を押し返しながら、激しく擦れ合い火花を散らす。

 

「――くッ!! タフネスを使用してのアタックかッ!!」

 

 渋い顔で眉をひそめながらも、メルディウスも基本スキルである『タフネス』を使用する。両者の動きが均衡して、先程とは逆のステージの端で止まる。後方には逃げ場はなく、後もう一歩で場外へと押し出されそうなほどだ――。




小説家になろうをメインに活動しています。
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