オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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反撃の奇襲

 伐採任務の時に使った地下を通って、街を出ると敵の潜伏場所を割り出すのに、それほど時間は掛からなかった。

 

 彼等は千代の街から少し行ったところにある森の中に潜伏していたのだ――。 

 

 死霊系のモンスターは本来夜に活発に行動する。その為、午前1時である今は最も活発に活動している時間である。

 いくらモンスターを自由に動かせると言っても、全てを想いのままにコントロールすることはシステム上不可能であり、どうしてもアンデット系のモンスターが活発な時間の一体ずつの行動範囲は大きくなってしまう。

 

 森の中で一体のモンスターを見つけるのは困難だが、数十万のモンスターを見つけるのは容易だ。

 

 敵の多くは命令を与えられていないので、周囲をゆっくりと歩き回っている。

 まだ敵にはエミル達の存在はバレていない。これは奇襲を掛けるには絶好のチャンスであるが、慌てて攻撃を仕掛けようとしている者はいない。

 

 そして隠れているメンバーの中には、出発前には居たはずの白雪の姿もなくなっていた。

 おそらく。隠密行動に長けている白雪に偵察を頼んで、その結果から大将である覆面の男を叩く作戦なのだろう。モンスターを操作している大本を叩けば、操られているモンスター達は統率力を失い散っていくはずだ――。

 

 その時、今まで大人しかったモンスター達が一斉に騒ぎ始める。それを見て、エミル達も動揺した様子で周囲を見渡す。

 

「なんだ!? 何があった!」

「白雪さんが敵を見つけたんですか?」

 

 慌てた様子のメルディウスにエミルが尋ねると、彼は首を横に振った。

 

「いや、敵の親玉を見つけたらこちらに連絡が来る手はずになっている。しかも、あいつはこんな先走るようなことは絶対やらねぇー」

「なら、いったい誰が……」

 

 様子を窺っていると、聞き慣れた獣の咆哮が聞こえてきた。その瞬間、エリエは全てを察した様子で大きなため息をつくと顔に手を当てた。

 エミルもそんな彼女の様子を見て大体を把握したのだろう。すぐに剣の柄に手を置いて、メルディウスの方に目を向けた。

 

 それは飛び出すということの意思の表われであるのは、剣の柄に手を置いて自分の方を見る彼女の瞳を見ていれば分かる。

 

 メルディウスは口元にニヤッと不敵な笑みを浮かべると、背中に背負っていた大剣を引き抜く。

 

「作戦変更だ! 俺達が暴れ回れば、それだけ敵も慌ててしっぽを出すからな! 派手にいくぜ!!」

 

 その掛け声の直後、彼の持っていた大剣が金色に光その姿を大剣から大斧の姿へと変えていく。

 

 彼の声に触発され、次々に抜刀する仲間達の中、何故かエリエは剣を抜くのを躊躇っている。それに気が付いたデイビッドが、彼女の方を向いて呟く。

 

「エリエどうした?」

「……別に」   

「怖かったら離れてていいんだぞ? 俺がお前の分も敵を倒せばすむからな!」

 

 毒づくカレンの声が聞こえ、むっとしたエリエが勢い任せに腰に差していたレイピアを抜く。

 

 デイビッドはそれを見て、エリエが剣を抜くのに躊躇していた理由を察した。

 それは彼女が持っていた赤いレイピアだ――これは彼女と付き合いの長いデイビッドですら見たことがない。エリエは普段からお菓子作りの食材と道具がインベントリを圧迫して、装備も最低限しか持っていない。

 

 攻撃速度重視の戦闘スタイルを貫いているエリエにとって、攻撃速度重視にステータスを振られているメインの武器と予備用の武器の二本あれば、装備はそれだけで十分事足りるものであった。

 そのせいかもあってか、エリエは他のプレイヤーよりも武器に対しては知識が少ない。己のプレイスキルが高いのも災いしているのだろうが、属性攻撃武器には毒、麻痺や攻撃速度などのステータスの付随はできない。

 

 つまり、エリエは今まで属性攻撃系の武器を使ったことがないということだ。しかも、それをこんな大事な場面で使うとは彼女自身が一番予想していなかったに違いない。

 

 鞘から引き抜いた赤いレイピアを持つエリエの手は震えていた……。

 

 次々に敵の中に飛び込んでいく仲間達の背中を見つめ、彼女はどうすべきか考えているようにも見えた。

 すると、デイビッドが持っていた刀の刀身を彼女のレイピアの刃に当てると、キーンと鉄の打ち合う乾いた音が響く。その行動に驚いて目を丸くしている彼女に告げる。

 

「――落ちつけ、どんな武器でも普段使っているのと同じだ。お前なら、どんな武器だって使える! 何も気にすることなんかないだろ?」

「デイビッド…………も、もちろんでしょ! ちょっとよそ見してただけよ! エミル姉達ばかりに戦わせるわけにはいかないし。行くわよデイビッド!」

「ああ!」

 

 勢い良く駆け出す彼女の後ろ姿を見て笑みを浮かべると、デイビッドもそれに遅れまいと勢い良く飛び出して敵を撃破しながら、炎帝レオネルの背中に乗ったミレイニの方に向かっていく。

 

 ミレイニはエリエ達を見つけると、嬉しそうに手をブンブンと振っている。それを見たエリエはイライラしながら敵を薙ぎ倒すと、ミレイニの前まで強引に進んでいく。

 

 彼女の前までいったエリエは、炎帝レオネルの背から駆け寄ってきたミレイニを見てブチッと完全にキレる。

 

「ミレイニ! なんでここに来たのよ!」

「ふふーん、あたしがスケットに来てやったし。感謝してほしいし!」

 

 胸を張っているミレイニの頬を両手で引っ張る。

 

 目を細めながら頬を引っ張るエリエは、低い声でボソボソっと呟く。

 

「……あんたは、始まりの街の時も星を置いて付いてきたわよね……なんであんたはいつもいつも私との約束を守れないのかな~?」

「いはい! いはいひ~!!」

 

 つきたてのお餅のように伸びるミレイニの頬を引っ張っていると、ミレイニの指にはめられている赤い宝石の付いた指輪が光る。すると、指輪の中からサーベルタイガーが飛び出してきた。

 

 出てきたサーベルタイガーはエリエの首筋に噛み付こうと、鋭く尖った牙を突き付けるエリエは咄嗟にレイピアで防ぐとバランスを崩して地面に倒れる。

 

 サーベルタイガーの前足が彼女の体を地面に押し付け、殺意剥き出しの瞳をエリエに向けていた。

 

 ミレイニは慌てて勝手に飛び出してきたサーベルタイガーの方に走る。

 

「シャルル。それはエサじゃないしバカだし!」

「バカでもない! てか、早く助けなさいよー!!」

 

 即座にバカという言葉を否定したエリエから、サーベルタイガーのしっぽを引っ張って必死に遠ざけようとしているが、逆にシャルルは苛立っている様子でエリエに迫る。

 

 それを察してか、エリエは悲鳴を上げて更に声を大にして叫んだ。

 

「バカバカ! しっぽを引っ張ったら怒るでしょうが! 別の場所を引っ張りなさいよー。てか、なんでこんな状況で仲間の獣に襲われなきゃいけないのよ!!」

 

 敵のモンスターに囲まれる中、コントのようなことをしている彼女達を見て、メルディウスは大きなため息を漏らす。

 

「はぁ~。たく、何やってんだか……おい侍、そっちはそっちでなんとかしろ。俺は俺で好きに暴れてるぞ! お前等もいつまでも遊んでないで敵の数を減らせよ!」

 

 大斧を担いで地面を蹴って大きく跳び上がると、メルディウスは多くのモンスターがうごめく中へと消えていった。




小説家になろうをメインに活動しています。
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