オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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太陽を司る巨竜

 魔法陣に消えた星を探し周囲を探索していたエミルとレイニールだったが、夜が明けたことでモンスターの襲撃を警戒して一度捜索を断念する。

 エミル達がルシファーを含め数万のモンスターを狩り尽くしたのは間違いないが、それが狼の覆面の男の最終兵力だと断言するには性急過ぎると言わざるを得ない。

 

 何度も通常ではありえない手で先手を打ってきた彼のことだ。まだ戦力を隠していると見るのが正しいだろうが、通常攻撃無効の効果を付与できるルシファーを軽々とエミルのリントヴルムZWEIに撃破させたことを考えると、それ以上の何かであるのは間違いないだろう。それが分からないうちは、少数で敵の居所を嗅ぎ回るのは危険な行為なのは、ベテランプレイヤーであるエミルならば重々分かっていることだ――。

 

 太陽が昇る方向を向いて、エミルは悔しそうに唇を噛むと、小さなドラゴンの姿で星を探していたレイニールを呼び戻した。

 

「レイちゃん、太陽が出てきたわ。一度街に戻って応援を頼みましょう……」

「何故じゃ! ここで主の姿が消えたということは、まだ近くにいる可能性が高いということなのじゃ! なのに何故一度戻らなければならん! 我輩だけでも探すのじゃ!!」

 

 エミルは納得できないと憤り、空中で地団駄を踏むレイニールを困り顔で見た。

 

 この場に残ってすぐにでも捜索したいのはエミルも同じだったが、広大な森の中をエミルとレイニールだけで探し回るのは効率が悪すぎる。しかも、まだ敵の動きが分からない以上、なにか起きる前に仲間達をまとめておいた方が今後の対応も迅速にできる。

 

 相手は星を手に入れてまだ時間が経っていない。

 

 っということは、何を企んでいるのか分からないものの準備の為、ここから数時間くらいは時間が空くということでもある。まあ、星を囮に使うようでエミルもあまり気乗りしないが、今はそれすら利用するしか方法はないだろう……。

 

「レイちゃん聞いて! 私も早く星ちゃんを見つけたい。でも、二人で探し回るにはこの森は広大すぎるし、レイちゃんが巨大化するのは相手を刺激して星ちゃんの身に危険が及ぶかもしれない。ここは街に戻ってエリーやイシェ達と合流した方がいい」

「しかし……」

 

 不安そうに表情を曇らせ森の奥を見ているレイニール。

 

 そんなレイニールにエミルは微笑んで言葉を続ける。

 

「大丈夫。エリー達が先に行って紅蓮さん達に状況を話しているはずよ。戻ればすぐにまた戻ってこれる……しかも、大勢連れてね!」

「うむ。なら早く戻るのじゃ!」

 

 頷いたエミルは、コマンドからアイテム欄を開いて馬の形を模った笛を取り出し、それを鳴らすと目の前に馬が現れる。それに跨がったエミルはレイニールを肩に乗せ、街へと向かって勢い良く走り出した。

 

 森を走っている中、肩に乗っていたレイニールが不思議そうに首を傾げながらエミルに尋ねる。

 

「どうしてドラゴンを召喚しないのだ? こんな馬よりもドラゴンに乗ればひとっ飛びではないか」

「いいえ。さっきも言ったけど、少しでも相手を刺激したくないのよ。街から大勢で捜索に出れば、もう目をあざむくのは難しくなるけど。でも、それまでは少しでも時間を稼ぎたいの……」

「ふむ。そういうことか……」

 

 納得した様子で頷いたレイニールに、エミルは微笑みを浮かべると更に馬を加速させて街へと急いだ――。

 

 街に着いたエミル達はギルドホールへと戻った。日本の古城を模したその建物の中に入ると、中ではすでに大勢の者達でごった返していた。

 それはもう、ありの這い出る隙間もないほどだ――レイニールが逸早く空中からその奥へと入ると、大勢の人集りの中からエリエの叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「エミル姉こっち! こっちだよ~!」

 

 手を振っている様だが、エミルの方からは周りの人の頭と頭の間からかすかに指の先が見える程度で、それがエリエなのかそれとも他の誰かなのか認識することができない。すると、その声を聞いた周りの者達が一斉に入り口に立っていたエミルの方に視線を向ける。

 

 エミルはその威圧感に、ただただたじろいでいると、その人混みを掻き分けて紅蓮がひょっこりと姿を現した。まあ、身長も低く子供くらいで身軽な紅蓮だからこそできるものだろう。

 

「話は聞きました。またあの少女が誘拐されたらしいですね」

「誘拐って……」

 

 彼女の言葉はいささか物騒でそれはそれで物議を醸しそうだが、概ね合っているので良しとしよう。

 

 苦笑いを浮かべているエミルに、彼女は表情一つ変えずに首を傾げながらその顔を見上げている。だが、この状況はエミルにとって願ってもないことだ――もう人員は揃っていて、一声かければすぐにでも星の探索に出掛けられる。

 

 だが、気掛かりなのは……この中でどれだけの者が星を捜索に協力してくれるかということだろう。

 以前の始まりの街では、殆どのプレイヤー達が自分の身の安全を優先してマスターの奇襲作戦に協力してくれたのは、事前に打ち合わせしていた始まりの街の各ギルドメンバーと少数のプレイヤーしかいなかった。

 

 まあ、こんな状況下であれば協力しなかった彼等を責められはしないが、その記憶がエミルの脳裏に焼き付いてしまった。それが疑心暗鬼となり目の前にいる千代のプレイヤー達を信じられなくさせていた。しかし、そんな彼女の不安はすぐに払拭されることになる。

 

 集まったプレイヤーの一人が、エミルに向かって尋ねた。

 

「剣聖はどこで消えたのか教えてくれ!」

 

 その声を皮切りに、その場に集まったプレイヤー達から次々に声が上がる。

 

「俺達も助けられてるだけじゃない! 今度は俺達が剣聖を救うんだ!」「今なら戦える! 剣聖を助け出して今度こそ一緒に戦うんだ!」「早く教えてくれ! もう待てねぇーよ!」

 

 その皆の反応に驚いた様子で、エミルは目を丸く見開いて呆然としている。

 

 隣に来た紅蓮がエミルに告げた。

 

「最後に彼女が居た場所だけ教えて下さい。後の事は我々に任せて下さい」

「そうだ。我々もこんな時くらいしか役に立ってん」

 

 紅蓮のその言葉に賛同したのは漆黒の大剣を背中に付けたドラゴンの兜の男だった。

 

 その横にいる三つ編みの少女もにっこりと笑ってエミルに向かって言った。

 

「私達は一緒に戦った仲間です。まあ、千代の戦いでは役には立ちませんでしたが、必ずあの女の子を見つけます!」

 

 始まりの街を代表するギルドの一つメルキュールのダイロスとリアンが声を上げると、その後ろに居た者達も声を上げる。

 

「私達も忘れてもらっては困るわ! この頃出番がなくて退屈だったのよね!」

「もうリカは……僕達も協力しますよ。皆もそうだよね! 今までの借りを返そう!」

 

 始まりの街のギルド、POWER,Sのリカとカムイのその言葉にギルドメンバー達も声を上げて応えた。こうなると、他の始まりの街のギルドも負けてられないと名乗りを上げる。

 

 メンバー全員がスキンヘッドの坊主集団。始まりの街のギルド成仏善寺のギルドマスター、サブギルドマスターの無善、浄歳が手を胸の前で合わせ合掌したポーズのまま前に出る。

 

「我々も仏の導きに従い。善を成しましょうぞ!」

「何度も救われた恩を、ここで返しましょうぞ!」

 

 そんな2人の言葉に後ろの者達も合掌して「恩を返し、善をなしましょうぞ」と声を揃えて一礼する。

 

 その直後、ギルドマスター、サブギルドマスターを始まりの街の奇襲作戦でなくした始まりの街の武闘派ギルドLEOの代表2人も後ろに並ぶメンバー達に言った。

 

「野郎共! リーダーが生きてたらこう言うはずだ! 借りは死んでも返せ! それが男の生き様だと!」

「お前等! ギルドの名において、なんとしても儂等が誰よりも先に見つけるぞ!!」

 

 ゲインとウォーニスが叫ぶと、後ろにいたギルドメンバー達も負けじと雄叫びを上げた。

 

 彼等と同じくギルドマスターのトールを失い。デュラン達と街の生き残りと共に後から合流したギルドであり、始まりの街を最後まで防衛していたギルドでもあるエルフ専門ギルドのネオアーク。

 

「……我々も借りを返す」

「はい! ギルドマスターが命がけで守ったあの子を救出しましょう!」

 

 そんな彼等もトールの補佐役で無口な革鎧に青い短髪で黄色い瞳のエルフ。ハイルの短い言葉に賛同して声を上げ、拳を突き上げるエルフ達。

 

 そして言わずもがな、星に『剣聖』の二つ名を付けた千代の者達も、星の奪還に向けて熱意を燃やしていた。紅蓮もそれ以上は何も言うことなく、ただただエミルの返事を待っている。

 

「ありがとう。みんな……」

 

 涙ぐむエミルは、その涙を振り切る様に腕を横に振り抜き力強く叫ぶ。

 

「私があの子の最後の場所に案内します! 相手は人の命をなんとも思っていない狂人です。皆さん覚悟はいいですね!」

 

 それに応えて力強く声を上げるのを見て嬉しそうに頷くと、エミルは「行きましょう!」と身を翻して外に出た。

 

 外では影虎が多くの大型の飛竜を待機させていた。

 

「タクシーはいるか? こいつの方が馬より速いぞ」

 

 得意げにそう言った彼はニヤリと笑う。それを見たエミルもにっこりと微笑んで「当然タダよね?」と尋ねると、彼も「もちろん」と短く告げて手で飛竜の背へと導く。

 

 その場にいた者達を出来る限り乗せて森に向けて飛び立った飛竜を追って、残りの者達も馬で森に向かって走り出す。




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