オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

341 / 422
太陽を司る巨竜2

 星を捜索する為に集まったのは数万人が、一斉に森に向かって大移動を始めると、少し遅れて街から更に数万人規模の漆黒の兵団が現れた。

 その兵団の先頭には漆黒の重鎧を着た男と少女を乗せた馬が走っていて、むすっとした仏頂面の兄の後ろで、少女が満面の笑みを浮かべて手を振っていた。

 

 森に着いたエミル達はすぐに辺りを隈なく捜索するが、何の手掛かりも掴めないうちにすでに数時間が経過した。

 空と陸から数万人を動員して隈なく探しているが、 文字通りに草の根を分けて森の中を駆け回っていてもそれらしい者も建物もない。定期的に湧いてくる森の中に生息するモンスターを狩るだけだ。

 

 街から息巻いて出てきたものの、これでは皆の士気も下がってきてしまう。すぐには見つからないとは思っていたエミルも、空と陸から探して手掛かりがないと探す場所が間違っているか、地下にでも大規模な施設があるのではないかと考えてしまう。しかし、その考えは千代のプレイヤー達をまとめる紅蓮も思っているようだ――。

 

 だが、この世界はゲームであり現実ではない。地面はある程度の深さはあるが、良くても20から30メートル程度で、それより先は土ではく数字の羅列する虚無の空間。

 とはいえ。そうしなければ、世界に広がる地表に広がる広大なフィールドを含め、多くのプレイヤーによって、データ量が膨大になり過ぎてサーバーを維持することができなくなる。

 

 もちろん。それでは地下に入り組んだダンジョンなどは作れない。

 だからこそ、例外を設けている。その条件とは地表に建物があるか、地下に伸びる建物の直上に出入り口を設置することだ。これにより限定的に地下の仕様が追加され、地下にも建物を伸ばすことが可能になるのだ。

 

 だが、ここにはその建物も出入り口もない。つまり、エミルや紅蓮の考えていることは、何も発見できない時点で真っ向から否定されていることになるのである。

 

 だとしても。この森以外に建物を隠すとすると、その難易度は格段に上がる。

 千代に死霊系のモンスターが多いのはその土地にある。街の周囲は殆どが平地か、その他にも荒野が広がっている。

 

 つまり、生命が生息できる環境にはかけ離れている。その為、地面から這い出てくるゾンビやスケルトンと言ったモンスターの巣窟になってしまっていた。そんな場所の地下に何かを造るなど、見つけて下さいと言っているようなものだろう。

 

 エミルの側にきた紅蓮は、難しい表現をしながらエミルに告げた。

 

「こんなに探して手掛かりがないのも変ですが――気が付いていますか? これだけの人員を動員していると言うのに、敵がなんの動きを見せないというのはおかしいとは思いませんか?」

「ええ、そうですよね。やっぱり紅蓮さんもこの場所には敵の拠点がないと感じているんですね」

 

 だが、そのエミルの言葉に紅蓮は首を横に振った。

 

「――違います。敵の拠点は間違いなく、この辺りにあるはずです。私が彼なら、近くに敵が現れれば撃退に全力を尽くす。それができないのは、単純に近くに敵の拠点があるからです。もしも、今撃退に部隊を出せば、こちらにその場所に入り口があると教えるようなものです。だから、私達がいなくなるのを待っているのでしょう」

「確かに……でも、前みたいに魔法陣で召喚すれば……」

 

 そのエミルの疑問に、紅蓮がすぐに答えた。

 

「そうですね。使えれば、使っているでしょう。ですが、私ならあの召喚用の魔法陣を自分の近くに出せるようには設定しません」

「どうして?」

 

 彼女の言葉に不思議そうに首を傾げたエミル。

 

 それを見て、紅蓮はため息混じりに言葉を続ける。

 

「自分の周囲に使用できると言うことはリスクになります。それはおそらく、あの魔法陣はモンスター専用の移動システムではない。だから、貴女の前で彼女も移動できた……つまりです。あの魔法陣はモンスターを生み出しすものではなく、入って出るだけの簡単な転移システムなんですよ。おそらくは、私達でも誰でも使用できる――ただ、それには何らかの段取りが必要になる」

「ちょ、ちょっと待って! それはつまり、あの男にしか使えない特別なシステムじゃないってこと!?」

 

 頷いた紅蓮はエミルの顔を見上げた。

 

「――プレイヤーには一人一人に個体判別用にシリアルナンバーが設定されています。私なら01貴女なら02の様に、個人を個別に判別できるようになっていて、それが数百万人単位で決まっています。それはモンスターも同じなのです。ただ違うのは種族を問わず、数に応じてその数字がランダムで設定され、撃破されるとそのシリアルナンバーも消失します」

「――ッ!?」

 

 彼女の言葉を聞いて、何かに気が付いた様に目を見開いたエミル。

 

 そんな彼女の様子に紅蓮は満足そうに、口元に微かな笑みを浮かべた。

 

「そうか! プレイヤーの判別は可能だとしても、ランダムでシステムが勝手にシリアルナンバーを設定し、その削除も行うモンスターの方が特定のモンスターだけをテレポートさせるのは不可能って事ね! だから紅蓮さん達は、魔法陣は特定の対象を選択していないと判断したのね」

「そうです。つまり、我々プレイヤーより複雑なナンバリングシステムを使用しているモンスターを転移させた時点で、あの魔法陣は特定の方法さえ分かれば誰でも使用できるものだと判断できます。そして、今までの狼の覆面の彼は、そういう不安要素を片っ端から排除しているいわゆる完璧主義者です。そんな彼が相手に利用されるかもしれないシステムを、自身の周囲に使用できるようにしているはずがありません」

 

 確かに紅蓮の言う通りかもしれない。このゲーム内に運営サイドのプレイヤーは、ライラなどがすでに確認されている。

 しかし、それ以外が動いていないと考えるのは、不用心というものだろう。だが、もちろんそんなことを考えていない彼ではないのは今までの出来事を考えていれば良く分かる。

 

 エミルも彼女の意見には納得しているのか深く頷いていると、そこに漆黒の馬に乗ったバロンとフィリスがやってきた。

 前に乗っているバロンの表情は不機嫌そのものと言った感じで、それを一緒に乗っているフィリスがなだめているという様子だ。

 

 エミル達が理由を聞くよりも早く、不機嫌そうなバロンが苛立ちながら紅蓮に告げる。

 

「早く周りの雑魚どもに、この場所から離れる様に指示を出せ! デュランの野郎が俺様に『死にたくなければ、この場所から早く離れた方がいい』なんてほざきやがった」

「それはどういう……」

 

 エミルが聞き返そうとした直後、紅蓮が周囲のプレイヤーがざわめき出したのを見て素早く白雪を呼び付けて避難の指示を出すと、周囲のプレイヤー達に向けて声を大にして叫んだ。

 

「皆さん! 各自の判断で撤退を開始して下さい!」

 

 彼女の声に周りのプレイヤー達も『撤退』と叫んで異変に気付いていない者に知らせる。

 

 地面がひび割れじわじわと盛り上がり、地面の中から巨大な何かが姿を現す。

 赤い鎧の様な皮膚は、巨大な壁の様にプレイヤー達を寸断するが、まだ大部分が地面に隠れており全長を知るには全く足りない。

 

 突如現れた物体に動揺しながら、影虎の出した飛竜や自身の召喚した馬で、素早く距離を取る。

 ここら辺の対応力の高さは、さすがは高レベルプレイヤーの多い千代のプレイヤー達だ。始まりの街なら、殆どのプレイヤーが対応できずに、大半が撃破されてしまっていたに違いない。

 

 すると、出現したその赤い鎧のような生物の皮膚から突如として炎が吹き上がった。火山の噴火の様に一気に燃え上がる炎のその物凄い勢いに、プレイヤー達は更に距離を取る。エミルや紅蓮はライトアーマードラゴンと雲に乗って、空中からその様子を固唾を呑んで見守っている。

 

 だが、出現した赤い鎧の様な皮膚から炎を噴き出した生物は活動を止めた。まるで山火事の様に激しく燃え上がる炎に、その場にいたプレイヤー達もただその光景を見ているしかない。

 

 しかし、その中で逸早く動いたのは紅蓮だった。雲に乗ってエミルの横に並んでいた紅蓮は、背中に背負っていた鞘から刀を抜き、辺りにいる者達に叫ぶ。

 

「敵が活動を停止している今が好機です。一気に畳み掛けましょう!」

 

 彼女は知っていたのだろう。この姿を現したあの巨体と真っ向から戦って、自分達の出すであろう損害を。だからこそ、出てきた直後で活動が鈍い今が一番のチャンスであると……。




小説家になろうをメインに活動しています。
私の作品を気に入ってなろうの方にもブックマーク頂けると励みになります。

小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6760cm/

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。