オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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決戦9

 この惨劇の中。今まで気を失っていた星には、今までの出来事の一部始終が把握できてはいない。しかし、この現状を引き起こしたのが自分だという思い込みと自責の念だけは人一倍感じていた。

 

 それは彼女が責任を自分の中に押し殺してしまう性格と、なんでも一人で解決しなければいけないという。今まで生きてきた中で、一番大事だと思っている固定観念が引き金を引いて起こした行動だった。

 

(私があの時。胸の火にこの剣を刺さなければ、こんな事にはならなかったんだ……いつも……いつも、いつも。自分勝手な思い込みで行動して、皆に迷惑をかけて……こんな事じゃ。皆と一緒にいられない――自分でやったことだから、今起きている全てを私が終わらせなきゃいけないんだ!)

 

 星は心の中でそう呟いて剣をがしゃどくろに向けると、決意に満ちた眼差しで睨んだ。そこには一片の迷いもなく、そのアメシストの様な紫色の瞳は隅切り真っ直ぐに

 

『ふふふ……よく言ったぞ主。やっとスキルを発動させてくれて我輩は嬉しいぞ!』

 

 直後、何者かの声が星の心に直接話し掛けてきた。それは前にも金色の光とともに何度も聞いた声だった……。

 

 瞳を閉じて、星は心の中でその声の主に接触を試みる。

 

(あなたは誰なの……?)

 

『そんな事は今はどうでも良い。それより、主はあの化け物を倒したいのだろう?』

 

(……うん)

 

 求めていた答えとは全く違う返答に、困惑していた星は少し遅れて心の中で答える。

 

 すると、声の主が険しい声音で星に告げた。

 

『だがな主よ……我輩がこの姿のままではあやつには勝てぬぞ?』

 

(どうして?)

 

『ここから見ておったが、あやつは物理攻撃が効かぬ』

 

(なら、どうしたら……)

 

 星は困り果てた様子で眉をひそめる。

 

 その直後、声の主は自信満々に言った。

 

『簡単な事だ……按ずるな。ただ物理攻撃をしなければいいだけじゃ……我輩の真の名を教えてやる。それを主が唱えれば良い。そうすれば、我輩は真の力を発揮することができるだろう』

(うん……分かった。あなたの本当の名前を教えて!)

 

 素直に頷く星に、声の主は驚きの声を上げる。

 

 どうやら、声の主は星がこれほどあっさりと、自分に従うとは思っていなかったのだろう。

 まあ、姿も見えない得体の知れない心の声に、素直に「はい」と頷く方がおかしいと考えるのは当然だ。

 

『ほう。我輩を疑わんのか? もしかしたら嘘をついておるかも知れぬぞ?』

 

(……ううん。悪い人なら、わざわざそんなに詳しく教えてくれないから……)

 

『ははっ、分かった! なら一度しか言わないからしっかり聞くのだぞ? 我が名は『レイニール』誇り高き星龍である……』

 

 星のその返答に声の主が満足そうな声を上げて、自分の名前を告げた。

 

 その名前を聞いて、星は深く頷くと大きく息を吸い込んだ。

 

「――お願い! レイニール!!」

 

 星が叫ぶと剣が今までにないほどに強く光りを放った。

 次の瞬間。彼女の目の前に大きな黄金に輝く鱗に包まれた巨大なドラゴンが現れた。

 

 その姿はエミルのリントヴルムよりも大きく。また、神々しいほどに身体の鱗が光り輝いていて、それはまるで黄金の金塊がいくつも張り付いているように思えるほどだ。

 

 その黄金の巨竜が口から白い息を吐いて星を見下ろす。

 

「主。命令してくれれば従うが……どうする?」

「……あっ! えっと……あれを倒して! ……くれませんか?」

 

 ドラゴンの美しさに見とれていた星は、レイニールに促され慌てて命令した。

 いや、これではお願いだろうか……始めは少し強めに命令しようとしたのだが、最終的に疑問形になってしまっている。

 

 まあ、普段から遠慮しがちな星にとって、これはもう癖のようなものになっているのだろう。

 

 どうにも締まらない複雑な顔をしながらも、星を見ていたレイニールががしゃどくろに視線を移す。

 

「――――う~ん。まあ、良いか……ならばゆくぞ! メテオフレア!!」

 

 敵を睨みつけるレイニールの口から大量の炎が噴射され、大気を大きく震わせる。その威力は、まさに『メテオ』流星という名に相応しい……。

 

 その攻撃が、がしゃどくろに直撃して周りを夕焼けの様に真っ赤に染め上げる。だが、それに一番驚いたのは星ではなくサラザだった――。

 

 がしゃどくろの足元近くで戦っていたサラザは、慌てて後方に向かって勢い良く走り出す。

 

「ちょっと~。私がいるって、あの子忘れてるんじゃないの!? きゃ~!!」

 

 突如現れた巨竜のその攻撃に慌てふためきながら、サラザはぴょんぴょんと地面を飛び跳ねて、一目散にがしゃどくろの足元から離脱する。

 

 それを見てエミルも右腕を大きく振り上げ、リントヴルムに命令する。

 

「こっちもいくわよー。リントヴルム! ノヴァフレア!!」

 

 エミルはそう叫ぶと、その腕を前へと突き出した。

 それと同時に、リントヴルムの口から白い炎が噴射され、レイニールの炎を受けて悶え苦しんでいたがしゃどくろに直撃する。

 

 がしゃどくろが苦し紛れに振り抜いた腕を受け止め、2体のドラゴンが尚も炎を噴射し続ける。

 その攻撃で、がしゃどくろのHPゲージが今までにないほどのスピードで減少を始めた。

 

「「いっけえええええええええ――――ッ!!」」

 

 エミルと星の声が響き、2体のドラゴンの炎の勢いが更に激しさを増す。

 

 がしゃどくろのHP減少の勢いは、衰えることなく『0』になり。巨大な体はキラキラと光りになって空に向かって消え、地面にはその大きな頭蓋だけが口を大きく開けた状態で残っていた。

 

 目の前から敵が消え、勝ったのだと理解できるまでには結構な時間が掛かった。

 

「やった……」

 

 星は気が抜けたのか、その場にぺたんと座り込んだ。

 

 まだ半信半疑の星は、その場でぼーっと一点を見つめている。

 その視界の中に突然【Congratulation】と表示され、そこに取得したアイテム名が表示された。

 

「――なにこれ『炎霊刀 正宗』……?」

 

 星がその表示を見て、不思議そうに首を傾げていた次の瞬間。体が強い衝撃とともに仰向けに地面に倒された。

 

 それに驚き目をパチクリさせている星の眼前に、にっこりと微笑んでいるエリエの顔が飛び込んできた。

 

「やった! やったよ! 星。お手柄だよ~。ほら、いい子いい子~♪」

 

 星に抱きつきながら、エリエが嬉しそうに星の頭を撫で回す。

 顔を真っ赤に染めて照れていると、星の周りに皆が集まってきた。

 

 それを見た星は、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

(……私が剣を刺したせいでこんな事になっちゃった。ちゃんと謝らないと……)

 

 そう思った星は起き上がると、勇気を出して言葉を発した。

 

「……あの! ごめんなさい。私のせいでこんな事に……」

 

 星は勢い良く頭を下げると口をつぐんだ。

 

 まあ、自分の攻撃が原因でがしゃどくろを、もうワンランクパワーアップさせてしまったのだと思い込んでいる星にとって、絶体絶命のピンチを招いたのを仲間達に謝罪するのは当然のことだった。

 その時、下を向く星にエリエの申し訳なさそうな声が聞こえた。

 

「ううん。もとはといえば、私が星の装備をゲットしに行こうと言ったのが悪いんだし……ごめんなさい」

「……えっ? いえ、私が謝ったのは、その……剣を胸の火に刺しちゃった事で……」

 

 エリエが誤ったことに驚き、星は手をぶんぶんと首を左右に振りながら、あたふたしてそう言った。

 

 それを聞いた全員が無言のまま、きょとんとした顔をしている。

 

「……ふっ。はっはははははははははッ!!」

 

 その直後、マスターの大きな笑い声が部屋中に響いた。その声をかわきりにそこにいた全員が笑い出す。

 

 星はその状況に困惑しながらも恥ずかしくなり、しょんぼりと俯いしまう。

 

 すると、そこにエミルの優しい声が聞こえてきた。

 

「星ちゃんは何か勘違いしているみたいだけどね。あなたのおかげでボスが最終形態までいったのよ?」

「……最終形態?」

 

 星はその言葉を聞いて不思議そうに首を傾げると、エミルの顔を見上げた。

 

「そう。もし星ちゃんが剣でウィークポイントの胸の炎を攻撃してなかったら、疲労し切って全滅してたわ。だから謝る事なんて少しもないのよ?」

「……エミルさん!?」

 

 エミルはそう言うと、星の頬にそっと手を当てた。星はそれに驚き、目を丸くさせる。

 

 困惑する星にエミルは優しく微笑みかけると、困惑している星に優しい眼差しで見つめると。

 

「あなたがいてくれて本当に良かった。私達だけだったら間違いなく全滅していた……良くやったわね星ちゃん。本当に偉いわ……ありがとう星ちゃん」

「……は、はい」

 

 星は心の底から熱い何かが込み上げてきて、気が付いた時には瞳の中が涙でいっぱいになっていた。

 

 エミルが慌てていると、星がエミルの胸に飛び込んでいった。

 

「うぅ……うわああああああん。エミルさん……」

「……うん。良く頑張ったわね」

 

 星はエミルの胸に顔を埋めると、泣きじゃくっている。エミルはそんな星の頭を優しく撫でた。

 それはエミルに言われた『あなたがいてくれて本当に良かった』という言葉が一番大きかった。

 

 今まで星は、自分に自信がなかった。これまで他人にそんな言葉を言われたことがなかった。このダンジョンに来る前も、本当は行きたくないと思っていた。レベルの低い星が行ったところで邪魔にしかならないし、途中から険悪なムードになるのが嫌だったからだ。 

 

 現に険悪なムードにはならないまでも、周りに多大な迷惑を掛けていたのは自覚していた。だが、エミルの言葉が『こんな非力な自分でも必要なのだ』ということが分かって、何よりも嬉しかった。

 

 それと同時に、今までの恐怖や努力といった感情が涙となって、一気に吹き出してきたのだ。

 エミルの胸で泣き続けていた星だったがしばらく経って、だいぶ少し気持ちが落ち着いてきた。

 

 そこにエリエとデイビッドが話す声が聞こえてくる。

 

「……エリエ。お前足の方は大丈夫なのか?」

「――えっ? ああ、ボスがいなくなったらなんともなくなっちゃった」

 

 そう言って笑っているエリエを、デイビッドは心配そうに見つめている。

 まあ、それも無理はないだろう。元はと言えば、エリエはデイビッドを助ける為に、あのがしゃどくろの炎を受けたのだ。彼が責任を感じるのは当たり前のことだ――。

 

 そんなデイビッドの表情を見て、逆にエリエが指を差して言った。

 

「そんな事より。デビッド先輩こそ大丈夫なの? 武器――壊れちゃったでしょ?」

 

 それを聞いたデイビッドは、折れた刀をアイテムの中から取り出してエリエに見せた。

 

「大丈夫さ。確かに壊れたが、どうやら全損扱いではないらしいしな。これなら鍛冶屋に行って治せるからな。まあ、熟練度は少し惜しいが、また稼げばいいさ!」

「……そう。でもそれ、結構前から大事にしてたでしょ?」

 

 デイビッドは表情を曇らせているエリエの頭をぽんっと叩くと「大丈夫だ」と親指を立てて微笑んだ。

 

 武器は破壊されると、一部破損、全損扱いで大きく結果が異なる。一部破損ならば、鍛冶屋に行けば再び修復も可能だが、全損となるとまるでガラスが割れて飛び散る様な消滅エフェクトが発生して武器そのものを消失してしまう。

 

 だが、一部破損でも安心はできない。それがデイビッドが言っていた『熟練度』だ――フリーダムには武器強化システムが存在せず。ドロップや作られた時点でその武器の能力が決まってしまう。だが、強化が全くできないわけではない。武器強化システムの代わりにあるのが熟練度システムだ。

 

 熟練度とは武器を使い込めば使い込むほど増えていく数値のことで――フリーダムの武器には、全て熟練度という機能が付いている。熟練度には、武器の攻撃力に最大50%までステータスを上昇させる能力があるのだ。

 

 表情を曇らせ、名残惜しそうに手の中の刀を見下ろしているデイビッドの方に、涙を拭いた星が一本の刀を持ってデイビッドの側まで行くと、そっと彼の方に差し出した。

 

 デイビッドはその刀を受け取るどころか、不思議そうな複雑そうな顔をして星の顔を見つめる。

 

「――星ちゃん。これはどういう事かな?」

「あ、あの……良かったら使って下さい」

「ははっ、使って下さい。って言われてもなぁ……」

 

 デイビッドはそれだけ言って、困った顔でその刀を見て頭を掻いている。

 すぐに受け取ってもらえるものだと思っていた星にとって、彼が受け取らないこの状況は予想していなかった。もう、どうしていいのか分からず。刀を持った両腕を前に突き出したまま、銅像の様に固まってしまっている。

 

 そこにエリエがやってきてその刀を見ると、驚きの声を上げた。

 

「なにこれ! 見たことない武器じゃん! 星、この武器どうしたの!?」

「え、えっと……さっきの敵から出た……のかな?」

 

 星はエリエにそう聞かれ、歯切れの悪い回答をすると小首を傾る。

 

 エリエはそれを聞いて「どっちなの?」と聞き返すと、星は「ごめんなさい」とぺこっと頭を下げた。その直後、エリエの視線は星からデイビッドへと移る。

 

「――それでデビッド先輩はどうしてこれを受け取らないの?」

「いや。受け取れないだろう……これをリアルのショップで売れば、おそらく数十万の代物だぞ?」

「……だから?」

「だからってお前……」

 

 デイビッドは不思議そうな表情で見上げているエリエを見て、大きくため息をついた。

 本来ならば、現金で数十万と言われて物怖じするのが普通なのだが、どうやらエリエは育ちがいいのか、数十万単位では驚きもしないらしい……。

 

 そのやり取りを見ていたエミルが、デイビッドに提案する。

 

「デイビッド。貰うのが心苦しいなら借りるって事にしたらどうかしら?」

「エミルまで……よし。分かったならこの世界から脱出できたらこの刀は君に返す。それでいいかい?」

「はい!」

 

 星は嬉しそうに刀を受け取ったデイビッドに向かって、にっこりと微笑み返した。




小説家になろうをメインに活動しています。
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