オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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一難去ってまた一難2

 そこにはハンバーガーの画像で様々な種類の物の横に値。そしてその下に、個数を選択する仕様になっていた。

 

 星は目の前に表示されたメニューを見て、思わず固まった。

 

 何故なら、その選択肢の中に飾られている置物と同じ物がなかったのだ。

 

(――ない……あれと同じ物がどこにもない!? ど、どうしよう……)

 

 星は少し考え込んだ末に、小さいハンバーガーを重ねていけば目の前の置物の様になると思い付き、個数の横の【+】を押して個数を追加した。

 

 しかし、その手も3回押したところで止まる。

 

(1個850ユールを3つで――いくらだろう……3桁の掛け算を暗算なんて……)

 

 星は混乱した頭を抱えると、困り果て助けを求めるようにエミルの方に目をやった。だが、その頼りのエミルはデイビッドに説教するのに集中していて、星には全く気付いてくれそうにない。

 

 デイビッドもエミルに的確に痛いところをつかれているのか、なんの反論も出来ずに小さくなっている。その状況では、とても星には割り込める状態じゃなく。

 

(まあ。3つくらいなら大丈夫かな……)

 

 星は仕方なく3個だけ注文した。

 注文を受けた直後、目の前に注文してしばらくして星の前にハンバーガーの乗った皿が3つ現れる。

 

 星はそれを頭の部分だけを外し、次々に重ねていく。

 その作業を終えると、小さく「よし」と呟きレイニールを見上げ。

 

「はい、レイニール。ちょっと小さいけど、同じのだよ?」

 

 星はレイニールを頭から下ろすと、テーブルの上にそっと置いた。

 

 レイニールはゆっくりとハンバーガの方に近寄って行くと、そのハンバーガーと置物のハンバーガーを見比べて不機嫌そうに星の顔を見た。

 

「――主……こっちの方があきらかに小さいぞ……ケチったな?」

「うぅっ……ごめんなさい」

 

 星は謝ると深く俯く。

 

 レイニールはそんな星の様子を見て「まあ、よい」と言いながら、目の前のハンバーガーを崩れないように両手で持って口に運ぶ。

 

 その直後、レイニールの動きが止まる。星はレイニールが喉に詰まらせたのかと思い。目の前に置かれた水の入ったコップを手に持った。すると、レイニールが星の方を向く。

 

「おぉ~。うまい! これは美味じゃな。主よ!」

「……そう。それは良かった」

 

 嬉しそうに微笑んでハンバーガーを食べ進めているレイニールを見て、星は少しほっとした表情で残った上の部分のパンを口に運ぶ。

 

 レイニールが美味しそうにハンバーガーを食べているその横では、エミルとデイビッドの話も佳境を迎えていた。

 

「だから、エリーはああ見えて意地っ張りなんだからデイビッドから謝らないとダメ! 分かった?」

「……はい。善処します」

「よろしい! そんなデイビッドに策を授けてあげるわ。ちょっと耳貸して……」

 

 不敵な笑みを浮かべているエミルは、デイビッドの耳元で何やらささやいている。デイビッドはふむふむと頷くと「なるほど」と腕を組んだ。

 

 星は不思議そうに首を傾げると、エミルがくるっと向き返って星の顔を見た。それを見た星はビクッと身構えると、エミルがにっこりと微笑んでいる。

 

 そんな彼女の表情を見て嫌な予感しかしない星は、ぎこちなく笑みを浮かべてみる。

 

「さて、星ちゃん。行きましょうか!」

「……えっ?」

 

 何も分からぬまま、エミルはそう言って星の手を握ると、立ち上がった。

 

 星は何が起きたのか、状況が全く読み込めずにあたふたしている。

 

「それじゃ、デイビッド。また後でメッセージ入れるわね!」

「ああ、よろしく頼む」

 

 強引にエミルに手を引かれ、星はハンバーガーショップを後にした。

 

「あっ! 主、我輩を置いてどこへ行くのだ!!」

 

 レイニールは残りのハンバーガーを慌てて口の中に頬張ると、頬をリスのようにパンパンに膨らまして2人を追って急いで店を飛び出していった。

 

 わけも分からずエミルに手を引かれながら、星は前を歩く彼女の背中を見つめ。

 

「あ、あの……エミルさん? どこへ行くんですか……?」

 

 星は不安そうにエミルの顔を見上げて尋ねる。

 

「ああ、今からエリーのところに行くのよ」

「……なんでですか?」

 

 エミルの話を聞いて首を傾げる。

 

 その時、突然頭の上にどしりと衝撃が走った。驚いた星が頭の上を見上げると、半泣き状態のレイニールが見えた。

 

「主のバカ! 我輩を置いて行くなんて~!!」

 

 レイニールは震えた声で、ぽかぽかと頭を何度も叩いている。

 

 星はそんなレイニールに謝ったが完全にご機嫌斜めになり、プイッとそっぽを向いたまま。

 

「主のケチ。バカ。薄情者!」

 

 っと、散々頭の上で理不尽な言葉を投げつけられた。

 

(はぁ……別に私が悪いわけじゃないのに……)

 

 星は心の中で呟きながら、がっくりと肩を落とす。

 

 憂鬱な気分のまま、どこに行こうとしているのか分からない状態で、星がエミルに手を引かれていくと、街の東側のにあるレンガ作りの外壁の上の物見台の塀の上に、俯き加減で座っているエリエの姿を見つけた。

 

「はぁ……サラザに言われなくても、私が悪い事くらい分かってる。でも、気になるんだから仕方ないじゃない……」

 

 エリエは小さく呟くと、大きなため息をついている。

 

 そんなエリエの肩をエミルがつんつんと突いた。

 すると、エリエは不機嫌そうに「サラザ。さっき一人にしてって言ったのに!」と振り返ると、突然目の前に現れたエミルに驚き塀から落ちそうになる。

 

 エミルが慌てて落ちそうになるエリエの手を引いて自分の方に引き寄せると「そんな所に座ってると危ないわよ」と微笑んだ。

 まさか彼女がくるとは思ってなかったのか、驚きでエリエが目を丸くさせていたが、次の瞬間には不機嫌そうに目を細めてエミルの顔を見た。

 

「なに? エミル姉もどうせサラザに頼まれたんでしょ? 1人にしてよ。今私は忙しいの……」

「そっか~。デイビッドから伝言を頼まれてたんだけどなぁ~」

 

 その含みを持たせる言い回しに、顔を背けているエリエの耳がぴくりと動いた。

 

 それを聞いて、エリエは体をエミルの方に向き直ると口を開いた。

 

「どうせデビッドがまた何か私の悪口を言ってたんでしょ?」

「なら、聞かない?」

「――ううん。気になるから……聞く」

 

 頬を赤く染めながら、エリエは恥ずかしそうに小さな声でぼそっと呟いた。

 

 そんな彼女の様子を見て、エミルは「ふふっ。無理しちゃって」と小さな声で言うと微笑んでいる。

 

「それで……デビッドはなんて?」

 

 彼女は相当デイビッドのことが気になるのだろう。表情には出さないように努力しているが、エミルの口元を時よりチラッと見て、明らかに気にしているのは間違いなさそうだ。

 

 エミルはエリエの隣に腰を下ろすと、星もその隣に座った。

 

「デイビッドがね。エリーに何かケーキをたくさん買って持って行きたいんだって、それでエリーにこっそり何が好きか聞いてきてくれって頼まれたのよ」

「ふ~ん。それで私の好きなケーキを聞きにきたの?」

「そう。エリーってケーキは何が好きだっけ?」

 

 天を見上げ考える素振りを見せるエリエ。

 

 そして、しばらく考えた末にエリエは「う~ん。嫌いなケーキは特にないかな」と呟く。その後、エミルは「ふ~ん」と言うと再び質問をぶつけてみた。

 

「エリーはどうしてデイビッドと仲良くできないの?」

 

 それを聞いたエリエの表情が一気に曇った。

 

「……だって。男性と仲良くするって、どうしたらいいか分からないんだもん。エミル姉はどうやってデイビッドと仲良くなったの?」

「えっ? どうやって? ……どうしてかしら。でも、普通に友達として接してれば仲良くなれるわよ」

「……普通に接してるつもりなんだけどなぁ~」

 

 エミルの言葉に、エリエは複雑そうな表情で俯き加減に小さく呟く。どうやらエリエは、デイビッドに対しても普通と同じように接していると思っているらしい。

 

 首を傾げている彼女に、エミルが優しい声音で尋ねる。

 

「エリーはさ……デイビッドの事が好きなの?」

「えっ!? なっ、え、エミル姉が何を言ってるかわからないんだけどっ!!」

 

 エリエは驚いたように目を丸くさせ、手を激しく左右に振っている。

 

 その反応を見ていると、エミルは確信にも似たものを感じ取っていた。まあ、こんな反応されれば、他の誰が見てもバレバレである。

 

(なるほどねぇ~。これは間違いなさそうね。好きな子に意地悪したくなる。みたいな感じなのかしら……)

 

 エミルは心の中で呟くと、徐ろに口を開いた。

 

「――そうだ。ならケンカにならないように、お互いの直して欲しい事を言い合えばいいんじゃない? そうすれば、今よりは仲良くなれるでしょ?」

(まあ、今のままでも凄く仲がいいような気がするけど……)

 

 エミルは心の中でそう呟きながらも、気取られないように、落ち込んだような表情のままのエリエに提案する。

 

「そっか! あっ、でも……またケンカになりそう……」

 

 だが、エリエはそれを聞いて少し表情を明るくしたが、また落ち込んでしまう。

 

 エリエは意識してやっているわけではなく、普段から無意識に出る態度であり。正直、彼女ではコントロールできないのだろう。

 

 そんな彼女にエミルが優しい声で語り掛ける。

 

「大丈夫よ。私も一緒にその場に居てあげるから……」

「……ほんとに?」

「ええ、もちろんよ。それじゃー、デイビッドにメッセージを入れておくわね。時間は何時がいいかしら?」

「う~ん。そうだなぁ~」

 

 エミルにそう聞かれ、エリエは唸るとそのまま考え込んだ。

 

 星はその様子を横目で見ていると、ふとある事に気が付く。

 

(この話って私が居なくてもいいんじゃないのかな? どうして私はここにいるんだろう……)

 

 今までの会話の中で、自分がこの場にいる必要性を感じなかった星はそう思いながら不思議そうにエミルの横顔を見つめていた。




小説家になろうをメインに活動しています。
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