オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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襲来者3

 イシェルはそんな2人の勢いに押され、苦笑いを浮かべている。

 

「なら、こんな所でのんびりしてられない! さっさと城の中を探し回ろう!」

 

 慌てて振り返って、今にも走り出そうとしているカレンをエリエが止めた。

 

「ちょっと! 誰も城の中で迷子になったって言ってないでしょ!? バカなの?」 

「なんだって! 元はといえば、お前が星ちゃんをしっかり見てないからだろ? バカって言うならお前の方だ。このバカ!」

「何言ってるのよ! どうして私が、星の事を24時間監視してなきゃいけないのよ!」

 

 エリエとカレンはお互いにいがみ合っている間に、デイビッドが割って入り2人を強引に引き離す。

 

 離れた2人がまだやり足りない様子を見せていると。

 

「落ち着け! 今は言い争っている場合じゃないだろ? そんな事に体力使うんなら、今は星ちゃんを見つける事に体力を使え!」

「「…………ッ!?」」

 

 少し強い口調でそう言われ、2人の表情は険しいものとなる。

 おそらく。ここに居る全員が、心中穏やかではないだろう。

 

 まだ朝の8時頃、すっかりこっちの生活に慣れた彼女達の起床時間は僅かに――しかし、確実に遅くなっていた。

 それが気の緩みからくるものなのかは分からないが、ゲーム世界に取り残されたという緊張感は徐々に薄らいでいるのは疑いようもない事実だ。

 

 辺りを見渡して、項垂れている2人にデイビッドが尋ねた。

 

「そういえば、エミルはどうしたんだ? 姿が見えないようだが……」

「……エミル姉は誰よりも先に飛び出して行った。窓からリントヴルムが見えたから、多分空から探してるんだと思うけど……」

 

 エリエは今にも泣き出しそうな声でそう告げると、デイビッドは腕を組んで瞳を閉じて考えを巡らせる。

 

「エミルが作戦も立てずに飛び出して行ったとすると、エミルも相当焦ってるな……今はマスターも居ない。更にこの2人の様子を見ていても、作戦なんて悠長な事を言っていられる状況でもないか……」

 

 デイビッドはそんなことを小さく呟きながらゆっくりと瞼を開けると、ため息混じりに告げる。

 

「はぁ~。俺はあまり作戦を立てるのは得意じゃないんだが仕方ない……外に出て行ったっていうなら、闇雲に探しても見つからないだろう。ここは捜索範囲を狭めて探そう!」

「――捜索範囲を狭めるって、そしたら見つけられないかもしれないでしょ! 何言ってるのよ! こうしてる間にも星に何か危険が迫ってるかもしれないんだよ!? 昨日だって色々あったのに、またモンスターに捕まってたらどうするつもりなのよ!!」

 

 エリエは瞳を潤ませながら声を荒げると、デイビッドを睨んだ。

 

 昨日キマイラに襲われたばかりで、今日はこの騒ぎだ――心配しない方が無理だろう。

 しかも、昨日のフィールド探索で生息するモンスターにも、若干のイレギュラーが発生していることが分かった。

 

 城の周りの森も本来ならいないはずの、強力なモンスターが生息してても何ら不思議はない。

 

 その瞳を見つめながら、デイビッドはエリエの肩を両手で掴むと、熱い視線で彼女を見つめる。

 

「エリエ少し落ち着け! エミルは空から探せるが、俺達は陸から探すしかない。また3人で手分けしても、見つけられる保証もない。それに、今はPVPにも警戒しないといけないんだ。できるだけ冷静にならないと――」

「――なら、尚更急いで探さないと、星が危ないじゃない!」

「大丈夫だ! あの子の装備はトレジャーアイテムで作った物だ。見た目は普通の服で、高レベルプレイヤーには見えない。そう考えると、逆に装備をきっちり揃えている俺達の方が危険だ! それにまだ、星ちゃんのHPは減ってない。近くに行けばマップ上にもマーカーが表示されるから大丈夫だ!」

「……私がもっとちゃんと、星の事を気にかけていれば、こんな事にならなかったのに……」

 

 潤んだ瞳で、まるで世界が終わってしまうかのような表情をしてそう呟くエリエに、デイビッドが力強く答えた。

 

 だが、エリエの表情は一向に良くならないどころか、逆に沈んだ様にも見える。

 

「だから大丈夫だ! 俺が必ず見つけるから!」

 

 デイビッドは自信満々にそう言い放ったが、エリエは俯き加減にぼそっと呟く。

 

「……デイビッドの言う事は信じられない」

 

 エリエはそう吐き捨てるように言ってそっぽを向く。

 

 そんな彼女にデイビッドが尋ねた。

 

「それよりエリエ。星ちゃんにメッセージは送ったのか?」

「えっ? そ、そういえばまだしてなかった! ちょっと待っててすぐ送る!」

 

 その言葉を聞いて、ハッとしたエリエは慌ててコマンドを操作し始めると、メッセージを送信する。

 

 デイビッドは呆れ顔で大きくため息をつくと声を上げた。

 

「それじゃー、これから星ちゃんの捜索に出るぞ! あの子の足と行動パターンから考えると、おそらく、まだ近くの森にいると思う。以前エミルから頼まれて時も森に居たから間違いない。もし違かったとしても、先に出たエミルが空から探しているなら、遮蔽物の多い森の中には目が届き難いからな、俺達で森をくまなく探そう!」

 

 デイビッドが叫ぶと、突如として今まで口を閉ざして聞いていたカレンが徐に口を開く。

 

「――探すって言ったってそんな簡単じゃないぞ? マーカーが表示されると言っても、ダンジョンなどではマップは周囲だけしか表示されないし。森のマップは小さくても10kmはある。その中で星ちゃんを見つけ出すのは大変だぞ?」

 

 カレンの言う通り。フィールドの探索で最も大変なのが、生い茂る木々に遮られた森の探索だ。

 視界を遮ることのない平地ならば、すぐに見つけられるが、森はマップとしても大きく視界を遮る遮蔽物が多い為、探索は困難になる。

 

 空を飛べるならまだしも、地上からとなると更に難易度は高くなるだろう。

 

 それを聞いたデイビッドが言葉を続ける。

 

「これは俺の勘だが、星ちゃんは意外と賢い子だ。1人で森の奥に進んで行くということは考えにくい。それに、モンスターに出会ったら、あの子なら出口に向かって走るはず、だから俺達も森の入口付近を捜索しよう!」

「なら、早く行くよ! 急いで星を見つけないといけないんだから!」

 

 今にも飛び出そうとしているエリエに、言い難そうにデイビッドが口を開いた。

 

「――悪いが、エリエはここで待機しててくれ」

 

 それを聞いたエリエが激昂しながら、彼の顔を睨みながら叫ぶ。

 

「どうして!? どうして私がここで待機なのよ! 私が行かないとだめでしょ!!」

 

 エリエがそう言って、デイビッドの顔を見上げる。

 

「……今のお前は冷静さを欠いている。そんなお前を連れて行くのは正直心配だ。だから今回はイシェルさん、カレンさん、俺で行く。それに星ちゃんが戻ってきた時に連絡役がいないとダメだろ? だからエリエはここで待機だ!」

「やだ! 私が星を探しに行く!!」

 

 そう必死に訴えるエリエを見て、ゆっくりとデイビッドの横に来たイシェルが口を開く。

 

「デイビッドくん。そない意地悪せんでもええやろ? エリエちゃん。うちは行かへんから行ってきたらええよ」

「……イシェルさん。ありがと~」

 

 エリエは抑えられない気持ちを露わにして、イシェルに抱きついた。

 

「エリエちゃん。皆が見てる前であかんよ~」

 

 だが、その言葉とは裏腹にイシェルは満更でもないのか、エリエをしっかりと抱きしめている。

 

 その様子を見ていたカレンが、デイビッドの耳元でそっとささやいた。

 

「――デイビッドさん。俺、前から思ってたんだけど、今もあいつに抱きつかれて喜んでるように見えるし。イシェルさんって毎日エミルさんと寝てるからさ、てっきり――」

「――てっきり……なに? カレンちゃん」

「わっ! な、なんでもありません!」  

 

 今までエリエと抱き合っていたはずのイシェルが、突然カレンの顔を覗き込んでにっこりと微笑む。その姿に驚き、カレンは身を仰け反らせた。

 

 それを見たデイビッドは苦笑いを浮かべながら「そろそろ行くか」と呟く。

 それからデイビッド、カレン、エリエの3人は、にっこりと微笑みながら手を振るイシェルを部屋に残し、城を出て近くの森へと向かっていった。

 

 森の前に着いたエリエは手を握り締めている。 

 

(星、待っててね。今、私が行くからね!)

 

 エリエは心の中でそう呟くと、決意を新たに深い森を見据えていた。

 

 

              * * *




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