TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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大変お待たせ致しました、新章開始です。



第一章 わかれみち
ぷろろーぐ


 王都でやらかした盛大な茶番から十年。

 ぶっちゃけた話、あれから特筆すべきような事はなかった。

 世界は大きく動いていたようだが、俺自身は何をするでもなく漫然と日々を過ごしていた。

 何一つとして出会いがなかった訳ではない。

 一応、ロールプレイがてらほう……と思った者らと接触する事は幾度かあった。

 

 ――――だが足りない。

 

 少なくとも十年前のザインやロッドのように歓喜を与えてくれはしなかった。

 ちょっとの間は気持ちが沸き立っても直ぐに押し流されてしまうようなものばかり。

 シンちゃんやポチのように傍に置くような事もなかった。

 ああそうだ、その二人と言えば俺のオマケとは言えこの十年で結構な有名人になった。

 

 ”魔女の双騎士”――世間ではそう呼ばれているらしい。

 

 十年前の一件、ついで今に至るまでにあった目撃報告の中での二人の態度を見てそう名付けたのだろう。

 面識のない第三者であっても痛い程に伝わって来る忠誠心とその力。

 成る程、確かに騎士と言っても過言ではあるまい。

 中身は騎士道精神とは程遠い黒騎士みたいな子達だが、魔女のお供には相応しいのかな?

 

 だが、名と顔が売れた事で冒険者稼業に支障が出るようになったのは申し訳なく思っている。

 

 ロッドとは一悶着あったものの、二人は冒険者を辞める気はなかった。

 修行のためにも冒険者稼業は継続。

 だがそれには魔女の騎士と言うのが邪魔になって来る。

 なので第三者が二人を正しく認識出来なくなる指輪型のアーティファクトを作って二人に与える事にした。

 

「(まあ、俺と一緒に行動する時は指輪つけてないようだけど)」

 

 っと、話がずれた。

 俺にとってこの十年は実に起伏のないもので、これからも起伏のない日々が続くと……そう思っていた。

 

 ――――だけど俺は出会ってしまった。

 

「(…………マリー・スペーロ)」

 

 本当に、特に何か理由があった訳ではない。

 引き篭もってグダグダやってるのも不健康だなと思い、ポチの背に乗って空の散歩に出かけたのだ。

 雲一つない青空を眺め、柔らかな風を感じながら俺は竜の背で酒を嗜んでい……おや? 結局不健康な気がするぞ?

 まあ良い、そこはとりあえず置いておこう。

 自分の駄目さを再確認したところで虚しくなるだけだし。

 

 兎に角! お空の散歩を楽しんでいた時だ。

 

《何か騒がしいな》

 

 ポチの鱗を執拗に一枚一枚剥がしていたシンちゃんがそう呟いたのだ。

 千里眼やデビルマンもビックリな地獄耳を持つ俺だが日常で十全に扱う事はない。

 拾えてしまう情報が莫大過ぎるからよっぽどの事がない限りは受け流しているのだ。

 ゆえに成長と共に超人的な感覚を有するようになったシンちゃんよりも、気付く事が遅れてしまった。

 

《うっわ、ついてねえなあの連中》

 

 シンちゃんの視線の先を辿ってみれば、十数キロ程離れた場所で隊商がモンスターの襲撃を受けていた。

 俺は冒険者じゃないのでそこらの知識は皆無だが、シンちゃんによると襲っているモンスターの種類がおかしいそうだ。

 分布的にこんな平和な地域で出現するはずもない連中……ようは十年前のダンテが行き会った不運である。

 十年前に比べて一般人の間でも異常発生が周知される程度には増えているらしいが俺にはどうでも良い事だった。

 

《……》

 

 俺の目を引いたのは、中央にある馬車の荷台――その中で震えている一人の少女だった。

 夜空と同じ色をした髪を持つ彼女は恐怖に身を震わせていた、だが恐怖に膝を屈しているようにも見えない。

 

《ルークス様?》

 

 シンちゃんが怪訝な顔をしているが、俺はあの少女に夢中でそれどころではなかった。

 何をした訳でもない、だがどうしてか目が離せないのだ。

 そうこうしている内に状況が動いた。

 少女は荷台の中にあった木箱から取り出したポーションを手に外へ飛び出したのだ。

 伊達に魔女はやっていない、見ただけでそのポーションの本質は理解出来た。

 そして、少女が何をしようとしているのかも……。

 

《――――》

 

 察しがついていたはずなのに、駆け出した少女を見て俺は形容し難い感情に囚われた。

 そして気付けば地上へと降り立ちあの子に追い縋る残骸を一つ残らず消し飛ばしていた。

 

《はぁ……はぁ……》

 

 傲岸な物言いをした俺を、息も絶え絶えに見上げる少女。

 あの時彼女は何を考えていたのだろう?

 助かったと言う安堵、一気に牙を剥いた疲労、大上段からの物言いに対する怒り。

 そのどれもがどうでも良いものに成り下がる程、何かを想っていたように見えた。

 逃げるように背を向けた俺だが、あの子はそれを許してくれなかった。

 

《あ! ま、待って……私、マリー! マリー・スペーロ! 貴女の名前を教えてくれますか!?》

 

 何時もなら鼻で嗤い飛ばして名乗り返す事さえしなかっただろう。

 だけどあの時の俺はすんなりと名を預けてしまった。

 

「(……言っちゃ何だが、あの子は別に特別って訳じゃあない)」

 

 ザインのように英傑クラスの力を持ち合わせている訳ではない。

 シンちゃんのように魔女の耳朶を揺らす叫びを上げられる訳ではない。

 善にしろ悪にしろ、俺がこれまで現世で関わった者らを大輪の花とするならマリーはどこにでもある野に咲く花だ。

 

 その献身が勇気ある行いである事は認めよう。

 清廉な心根を持っている事には疑いの余地はない。

 だが、俺は知っている。

 彼女よりも遥かに清い魂を持つ、それこそ聖人としか言いようがない者が居る事を。

 彼女よりも遥かに勇敢な魂を持つ、それこそ勇者としか言いようがない者が居る事を。

 

「(なのに、そんな奴らと出会った時よりも――――)」

 

 ああ、最早目は逸らせまい。

 彼女こそがそうなのだろう、出会いを渇望していた正真正銘の主役。

 上手く理屈を立てられそうにはないが……いや、だからこそか。

 簡単に言葉で括ってしまえない何かを持つ者、それこそが主役と言うものだ。

 

「(だけどああ……参ったな……)」

 

 フィクトス討伐を師匠に報告した時も考えていた。

 いざ出会えたとして、そこからどうしようかと。

 そしてそれは今もそう、未を以ってして明確な答えは出せていない。

 少なくとも試練を与えて舞台を整えてやろうとかそう言う気はないのだが……。

 

「(じゃあ無関心を貫くのかって言われたらそれもねえ)」

 

 関わりを放棄するにはあまりにも”美味しい”キャラクターだ。

 ザインやロッドの時とは違う、あの子が相手ならさぞや愉しく踊れるだろうと言う期待がある。

 だからとて厄介事に巻き込まれて俺が介入するチャンスを与えてくれとも思えない。

 

「(ああ! やめだやめだ! 馬鹿の考え休むに似たりってね!!)」

 

 なるようになるさの精神で行こう。

 俺みたいなのが変に頭回してもドツボに嵌まってぷぎゃーwwwになるだけだし。

 当面はマリーちゃんを覗き見しつつ、機会があったら絡みに行くって感じでええやろ。

 

「(……覗き見っつーと何か変態臭いな。あれだ、見守る! 見守ってるだけだからこれは!)」

 

 ストーカーの常套句みてえな気がしないでもないが……気のせいだろ。

 

「あの、ルークス様?」

「ああ、帰っていたのか」

 

 声をかけられなきゃ気付かなかったな。

 俺はソファーに寝そべったままシンちゃんに答える。

 今日はポチとは別行動で依頼を受けに行くと聞いていたが、シンちゃんのが早かったのね。

 

「……はい」

 

 しかし何だ、十年……十年かぁ。

 そりゃシンちゃんも大きくなるはずだよな。

 

「(うーむ、あの時拾った奴隷の子供も今じゃ成人だもんな。時間の流れってはえーわ)」

 

 男と比較しても長身の部類に入る俺より頭一つ小さいぐらいの背。

 キュッと引き締まったボディライン――その胸は平坦であった。

 髪の毛も今じゃセミロングぐらいには伸びてるし、後ろで纏めるためにリボンもつけている。

 

 あらあらまあまあ、この子ったら本当に女の子らしくなっちゃって!

 小さい時はもう、男の子も顔負けのやんちゃさんだったのにねえ(近所のおばさん並の感想)。

 

「(ただまあ、服装はちょっと……ねえ?)」

 

 下はあちこちが破れている黒のダメージパンツにロングブーツ。

 上は素肌に白シャツ一枚でブラもつけてないしボタンもテキトーだからヘソとか胸元見えてるじゃん。

 そりゃ様になってはいるけどさぁ。

 年頃の娘さんとして、ちょっとはしたないんじゃないかしら?

 

「(そりゃあ俺だって痴女みてえなドレス着てるよ? ノーパンノーブラだよ?)」

 

 でもこれはエレイシアの設定をなぞっただけで俺の趣味ではない。

 俺の趣味趣向を反映するならジャージだよジャージ。

 ……いや、それはそれで女子力皆無だな。

 で、でも良いもん! 外見美女でも中身はオッサンやし!!

 

「あの、あたしの顔に何かついてますか?」

 

 頬を赤らめながらおずおずとそんな事を口にした。

 どうやら何も言わずにじーっと見つめられて勘違いしたようだ。

 

「いや」

 

 ちなみに相方のポチだが、あっちは十年前と変わらず。

 人型を取っているとは言っても中身は竜だからな。ショタっ子のままだ。

 本人にその気があれば外見年齢も弄れるんだろうが……いや待て。

 そもそも何でアイツ、ショタの姿取ってんだ?

 

「(……俺に喧嘩売って来た時点で既にショタ形態だったよな、確か)」

 

 本気出すとか言ってショタの姿見せられてテンション上がったけどさ。

 よくよく考えるとおかしくねえか?

 いや、人型を取る理屈は分かるぞ? だが何故、ショタになったのかが分からない。

 

「(十年目にしてこんな疑問が出て来るとはな……)」

 

 うん、でもまあ別に良っか。

 レディになったシンちゃんと絡むポチを見てるとおねショタみを感じてほっこりするし。

 

「じゃ、じゃあ何で……」

「それはともかく、だ。スカー・ハートを出せ」

「え? スカー・ハートを、ですか? わ、分かりました」

 

 キョトンとした顔で首を傾げつつも素直に従ってくれるんだからホント忠犬だよな。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

 右腕に刻まれた茨の刺青が光を放つと、シンちゃんの手にはスカー・ハートが握られていた。

 こんな機能をつけた覚えはないので、剣の側が勝手に追加したのだろう。

 

「ああ」

「えっと、一体何をなさるんでしょうか?」

「調整だ。私が手を加えずとも剣が勝手に最適化しているだろうが一度も見ておかぬと言うのは、な」

 

 十年と言う節目を越えたのだ。

 その記念がてら、Ver2にアップデートしてあげようではないか。

 過剰戦力にも程があるが、俺の予想だとこのままじゃいずれ問題が出そうだし。

 

「ルークス様ぁ……!」

 

 じーんと瞳を潤ませますます顔を赤くする……うーん、百合の香りがしますねえ。

 いや、昔から忠誠心とか以外にも俺に母性を覚えているような雰囲気はしてた。

 だが成長するにつれ更に感情が追加されたような気がしてならない。

 

「勘違いするな、別に貴様のためではない。魔女としての矜持ゆえだ」

 

 これも間違いと言う訳ではない。

 アホアーティファクトならともかく、スカー・ハートは真面目な作品だからな。

 こう言うのまでテキトーに扱うのは魔女としての沽券に関わる。

 

「ふむ」

 

 手元に引き寄せたスカー・ハートを検める。

 かつてはショートソード程のサイズしかなかったが今は違う。

 主の成長に合わせて柄と刀身が伸び、太刀程のサイズになっていた。

 変わったのはサイズだけではない、デザインもだ。

 洋剣風だったのが日本刀のそれに近付いている。外見に関しての自己調整は完璧だ。

 主の望み、好みに合わせて見事に最適化してある。

 

「(だがやはり、中身は別か)」

 

 スカー・ハートを魔剣足らしめているのは怒りを力に変換する機能だ。

 主であるシンの怒りを受け取り、それを燃料に様々な形で力を発揮出来る事が強みである。

 

「(怒りを受け止める器も拡張してあるが、流石に俺の手を入れなきゃ十全にとはいかないらしい)」

 

 シンちゃんの怒りはあの日から一ミリ足りとて減っていない。

 いいや、それどころかむしろ増大している。

 スカー・ハートの様子を見るにここ最近もまた怒りの火が大きくなったようだ。

 仮にも魔女たる俺が作ったアーティファクトだ怒りが許容量を超えて砕け散るような事はないだろう。

 だが、あくまでそれだけ。受け止めた怒りを十全に活用出来なくなる可能性が高い。

 単に器を広げれば良いと言うものではないのだ、もっと繊細な改修が必要になる。

 

「(流石にそれをコイツ自身にやれってのは酷だろう)」

 

 魔力を流し込み原子単位でスカー・ハートを作り変えていく。

 作業自体は数秒で終わったので、後は仕上げだ。

 スカー・ハートの切っ先を俺の手の平に向け――ひと息で貫く。

 

「る、ルークス様!?」

「問題ない」

 

 突然の凶行に驚いたようだが、本当に問題はない。

 血を与え、血を馴染ませているだけなのだから。

 鍔のあたりまで刀身を喰い込ませたところでそのまま真横に手を引き抜く。

 手がぺローンと分かれてしまったが無問題、何をするまでもなく勝手に修復される。

 

「(んじゃ、試運転と洒落込もうか)」

 

 今のシンちゃんの怒りと同程度の魔力を燃料にし、スカー・ハートを振るう。

 

「えぇ!?」

 

 短剣、長剣、斧、槍、大鎌、弓、メイス、鞭。

 振るう度に姿を変えるスカー・ハートを見てシンちゃんが驚きを露わにする。

 変幻自在の武器、我ながら中々に浪漫武器ではなかろうか?

 漫画やゲームとかでも偶にこう言う武器あったけど、良いよね。浪漫感じるよね。

 だがコイツは形だけじゃない、魔法――と言ってもモドキレベルだが、それを放てるようにもなった。

 

「……」

 

 シンちゃんのためだけに誂えられた怒りを力に変える魔剣スカー・ハート。

 コイツを見ていて、ふと思った。

 

「……マリー・スペーロ」

「ッ!」

 

 もしもあの子に、同じような剣を託すとしたら俺はどんな物を作るのだろうか。

 レオン・ハートのように正の感情を燃料とするのか、スカー・ハートのように負の感情を燃料とするか。

 前者の方がマリーに似合っているような気がしないでもないが、どうにもしっくり来ない。

 正負どちらかに割り切れる二元論よりも……そうだな、いっそその時の心をありのまま映すようなのが良いかもしれない。

 銘はどうしようか?

 

「冠は心剣、後に続くのは……フッ、私は何を考えているのやら」

 

 軽く頭を振って妄想を外へと追いやる。

 それよりさあ、調整が終わったのだからシンちゃんに返さなきゃな。

 

「終わったぞ」

「え、あ……はい」

 

 乱雑に放り投げたスカー・ハートを受け取るとそのまま待機状態の刺青へと戻してしまった。

 この子の性格上、早速試し殺しでもして来ます! とか言いそうなものだが……。

 

「(ひょっとしてゲテモノ武器渡されたとかショック受けてたりするのか?)」

 

 だとしたら――ど、どうしよう……?


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