TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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19時にもう一話投稿します。


第五話(表)魔女を知るために

「依頼達成確認致しました。それでは此方、報酬になります」

「ありがとうございます」

 

 今日の依頼を終え、ギルドのカウンターで報酬を受け取るマレウス。

 その場で過不足ないかを確かめた彼女は嬉しそうに頷き、カウンターを後にした。

 多かったり少なかったりなんてそうそうある事でもないのだが、確かめてしまうのは生真面目な性分ゆえだろう。

 

「お待たせ」

「うぇーい。今日の稼ぎもバッチリだね」

「ええ、生活費と装備代とかの分を抜いたら銀行に預けに行きましょ」

「はい。しかしあれですね、報酬の額が増えると自分達の成長を実感出来ますね」

 

 しみじみと頷くジャンヌ。

 今日受け取った報酬は、最初の頃に受け取ったものと比べるとかなり多い。

 つまり、それだけ実入りの良い依頼をこなせるようになったと言う訳だ。

 強さ自体は劇的に変わったと言う程でもないが、着実に駆け出しの域を出ようとしている事は確かだろう。

 

「そうね。ま、お金で実感って言うのはちょっとアレだけど」

「自分の成長と言うものは中々に見え難いからね」

 

 苦笑気味のマレウスにしょうがない事だとリーンがフォローを入れる。

 まだまだ基礎を出ない段階では自分の成長は実感し難い。

 三人が力を合わせればギリギリで何とかなりそうな強敵と戦いでもすればよく分かるのだが……それは無謀だろう。

 堅実な道を行く三人にはとても薦める事は出来ない。

 

「リーンくんはどうだったの? 私らみたいに強くなってるのかなぁ……とか悩んだ時期は?」

「勿論あるさ。基礎だけを積み上げ続けていた時分は特にね」

 

 今も基礎は続けているが、それと並行して実戦的な鍛錬をやったりもする。

 しかし、以前――特に十を数えるまでは素振りや走り込み、筋力トレーニングなどの基礎鍛錬ばかりだった。

 これで本当に強くなっているのだろうかと首を傾げ、焦った時期は当然ある。

 

「だけどその度、回り道こそが一番の近道だって言うザインさんの教えを思い出して自分を律して来たんだ」

 

 そしてそれは間違っていなかった。

 あれは十歳の時だ。

 ザインに連れられ、リーンは初めて実戦に出た。

 

「いきなり、あそこにモンスター居るだろ? じゃあ倒せって言われてさ。

基礎ばっかでちゃんとした戦い方も教えてもらってないのにそりゃ無茶だよって思ったね」

 

 更に運の悪い事に、リーンはそのモンスターを知っていたのだ。

 彼は鍛錬以外の時間を主に読書に費やしていた。

 その中でモンスター図鑑などにも目を通していた事があり、自分が対峙するモンスターについての知識にも覚えがあった。

 小慣れて来た冒険者がそこより上に行けるかどうかの物差しにも使われるモンスターで弱点らしい弱点は皆無。

 これまで培って来た力と経験をフルに活用せねば、まず勝ちはあり得ない。

 そんな相手に一人で挑めとは無茶が過ぎると思ったものの、師は大丈夫だと笑うだけ。

 

「で、どうしたの?」

「半ば自棄気味に突っ込んだよ――――そして、普通に勝った」

 

 楽勝とは行かなかった、正直苦しい戦いだった。だが、不思議と自分が死ぬ未来は想像出来なかった。

 戦っているリーン自身、不思議に思ったものだ。どうして自分はここまで戦えているのかと。

 そして直ぐに気付いた。これまで積み上げて来た基礎のお陰だと。

 師の教えを決して疎かにはせず丁寧に丁寧に脇目も振らず、積み上げて来た。

 だからこそ、戦闘経験がなくても眼前のモンスターと渡り合えるだけの力を得られたのだと。

 

「ボロボロになって……それでも、最後に立っていたのは僕だった」

 

 そこでようやく己の強さと言うものを実感出来た。

 何も知らないあの日の自分ならば、成す術もなく殺されていただろう。

 だがそうはならなかった、無様な姿だけれど生と勝利を掴み取る事が出来た。

 これまでの時間は決して無駄ではなかったのだ。

 

「だから大丈夫。パーティを組むようになってまだ一ヶ月と少しだけど、君達は確かに強くなっている」

 

 お世辞でも何でもない、純然たる事実だ。

 討伐系の依頼を受ける度に動きが良くなっている事をリーンは知っていた。

 戦う事に慣れ、妙な力みがなくなったと言うのもあるが、身体の動かし方を本能的に理解し始めたからだ。

 少しずつ最適化されていく立ち回りは傍で見守っているリーンにも良い刺激になっていた。

 

「うーん……」

「どうしたんだい?」

「いや、マリーとジャンヌはそりゃバリバリ身体動かす立ち位置だから成長も見えやすいでしょうよ。でも私は……」

「ああ、マレウスさんは後衛だからね。うん、確かに僕も魔法には詳しいとは言えない」

 

 だが、専門外であるリーンにもマレウスの成長は見て取れていた。

 淀みのない魔法発動であったり、冷静に場を分析する胆力であったりと。

 後衛に位置する者に必要な部分は確かに伸びている。

 

「そう、そっか。ふふ、ありがと」

「素直な感想を述べたまでさ――っと、ところでマリーさん、この後時間あるかな?」

「え? うん。銀行にお金預けに行くぐらいしか用事はないけど」

 

 前日に見繕った依頼を受ける上で、今日は早朝から業務を始めていた。

 そして依頼を終えた今、おやつ時を少し過ぎたあたりでまだまだ日は高い。

 一日に受ける依頼は一つなので、この後は特にする事もない。

 

「それなら、ちょっと付き合ってもらえるかな?」

「あら」

「まあ」

 

 リーンの誘いに反応したのはマレウスとジャンヌであった。

 二人は少し驚いたような顔をしたかと思うとニマニマと笑い始める。

 

「マリー、銀行には私とジャンヌで行くから付き合ってあげなさいな」

「ええ。そっち方面で一番後塵を拝しそうなのはマリーさんですからね。院長先生も心配してましたし」

「は?」

「……」

 

 キョトンとするマリーと頬を引き攣らせるリーン。

 前者はまるで気付いておらず、後者は勘違いされている事に気付いたようだが……。

 

「ほら、良いから良いから!」

 

 と背中を押されてしまったので弁解は出来ず。

 

「(まあ、二人も本気でそう思ってるって訳でもなさそうだし……良いか)」

「何だったんだろあの二人?」

「さあ? 細かい事は気にしない方が良いよ」

 

 マリーに変な誤解をされて空気がギクシャクするのも気まずい。

 彼女の深くは考えない性質を利用し、話題を流そうとするあたりリーンも微妙に狡い。

 

「そうだね。それで、何処行くの?」

「前にこの街に来た理由は別にあるって言ったの覚えてるかい?」

「え? あー……確かそんな事言ってたような……」

 

 シンの襲撃があった翌日に宿を訪ねた時の事だ。

 ぼんやりとだがそれを思い出したマリーはそれがどうしたの? と首を傾げる。

 

「その本命を今日、果たしに行くのさ」

「あれから結構時間経ってない?」

「運悪く会いたいと思っていた人が街を離れていたみたいでね」

「その人が帰って来たから会いに行くって事? でも何で私?」

 

 まさか一人で会いに行くのが寂しいなんて可愛い理由ではないだろう。

 年相応に繊細な面がある事も知っているが、リーンはその物腰に似合わず肝が据わりまくっている。

 マリーには同行を求めた理由がどうにも分からなかったが、

 

「その人は始原の魔女を研究している人なんだよ」

 

 その答えを聞き直ぐに得心がいった。

 

「ご機嫌取り? もしくは餌?」

 

 マリーは歯に衣着せるのが苦手であった。

 単刀直入ドストレートな物言いに顔を引き攣らせながらもリーンは頷きを返す。

 

「ま、まあそうだね。うん……でも、そんな言い方されると……ちょっと、心にクるね」

「アハハ! 気にしなくても良いよ。友達じゃん、私達。友達は助け合うものでしょ?」

 

 出汁に使われると言う自覚はある。

 だが、この程度の事で目くじらを立てる理由はどこにもなかった。

 リーンには色々助けられているし、マリーとしてもそろそろ恩返しがしたいと思っていたのだ。

 

「……友達、友達か」

「どうしたの?」

「いや、嬉しいなって」

 

 照れ臭そうにはにかむリーン――彼にはこれまで友達らしい友達なんて居なかった。

 いや、別に彼の人格に問題があるとかそう言う事ではない。

 単純に同年代の子供と接する機会がなかっただけだ。

 強いて言うなら姉と共に奴隷商人の下に居て、師であるザインと交流のあるギャビーに引き取られたとある少女だが……。

 

「(……何か、友達って感じじゃなかったし)」

 

 少しでも姉を知りたくて色々と話を聞きはしたが気安い関係にはなれなかった。

 

「あー、でもさ。私がルークスさんに会った事、信じてもらえるかな?」

「ん? ああ、そこは大丈夫さ」

 

 真なる魔女ルークス・ステラエの名は絶対の禁忌だ。

 魔女の楔を切っ掛けに広がった絶望は、生きるのに精一杯だったマリーのような人間以外は誰でも知っている。

 

 具体的な例を挙げるとしよう。

 

 ある時、自分は魔女に――ルークス・ステラエに会った事があると吹いた者が居た。

 彼はその夜、謎の発狂を遂げ自らの身体を切り裂きその命を散らしてしまった。

 このような原因不明の死亡事例は一つだけではない、十年の間に両手で数え切れないぐらい起きている。

 そんな事が世界中のありとあらゆる場所で起きたのだ、自然とその名を口にする者も居なくなってしまった。

 

「あ、あの……私、それ大丈夫……?」

 

 リーンの説明を受けたマリーは真っ青な顔で気の毒なぐらい震えていた。

 

「大丈夫さ。謎の死を遂げたのは魔女に関する事で偽りを口にした者のみ。

実際に魔女と関わった人間がその事を誰かに話しても何も起きなかった。僕だってそうさ」

「リーンくんが?」

「ああ、姉さんを介してだけど僕はあの魔女と関わっていると言って良い」

 

 情報収集の際に、そこら辺を口にした事もあるが見ての通り。

 リーン・ジーバスは今日も元気に生きている。

 

「口にする事自体が証明なのさ。ま、他にも物的な証明が出来ない事もないけどね」

「って言うと?」

「これさ」

 

 リーンが懐から取り出したのは手の平に収まるサイズの水晶玉だった。

 

「これはメモリアと言うアーティファクトでね。頭に思い浮かべた記憶をそのまま映す事が出来るんだ。

元は亡夫との記憶が日に日に薄れて行く未亡人を憐れんでとある魔法使いが贈った物らしいけど……これを使う」

 

 リーンは件の研究者に三つの記憶を見せるつもりだ。

 一つは自身の姉であるリュクス――いやさ、シンと初めて出会った時の記憶。

 二つ目は闘技場に乱入し怒りも露わにザインらに敵意を向けていた記憶。

 最後は十年振りの再会を果たしたあの夜の記憶。

 

「僕が会いに行くご老人は副業で魔法使いとして活動していてそっち方面でも名が売れていてね」

 

 メモリアの真贋も見抜けるはずだ。

 見抜けたのならばそこに映しだされた記憶が真実である事も証明される。

 

「じゃあ私もそれにあの日の事を映し出せば良いの?」

「うん、出来たら……でも抵抗があるならそれでも構わないよ。

さっきも言ったけどルークス・ステラエについて言及するだけでも証明としては十分っちゃ十分だしね」

「いや、協力するって言ったしそれぐらいはするよ」

 

 流石に頭の中を丸裸にされるのは困る。

 しかし、思い浮かべた記憶を――と言うのならば別段問題はない。

 

「ところで副業って?」

「ん? ああ、本人としては若い頃から始原の魔女の研究が本職だったんだけど……その、お金がね?」

 

 十年前の事件が起きるまでは始原の魔女の存在はお伽噺のようなものだと認識されていた。

 一応、フィクトス・アーデルハイドと言う始原の魔女、その後継者を名乗る存在は居たが誰もが信じていたかと言えば話は別。

 フィクトスにしたって圧倒的な力にこそ、敵味方問わず信を置いていたのだ。

 大事なのは力でそれが示されたならフィクトスが何者かなんて極論、どうでも良かった。

 

「そんなものを研究のテーマにしたところで、お金を出してくれる人居ると思う?」

「居ないと思う」

 

 魔女の研究は一応、考古学に分類される。

 だが、魔女にのみ焦点を当ててもスポンサーになってくれる者は居なかった。

 それ調べて何の得になんの? 大体そんな感じだったのだ。

 

「だからご老人は自分で研究費を捻出するために冒険者になったんだよ。

幸いにして、そちらの才には秀でていたからお金を稼ぐのには困らなかったそうだね」

「今も昔も、どんな事柄でもお金お金――世知辛いね」

「それは……うん、僕もそう思う」

 

 重々しく頷くリーンの説得力は尋常ではなかった。

 両親が金のために売り払った姉が巡り巡ってああなったのだから、ちょっともう笑えないレベルだ。

 

「まあでも十年前のあの事件以降はお金にも困らなくなったみたいだけどね」

「事件って言うと、えーっと、魔女の楔ぃ……だっけ?」

「そう。あれ以降、頼んでもないのに噂を聞き付けた各国のお偉いさんが情報と引き換えにって資金を提供してくれてるみたいだ」

「ふーん、って言うかさ。魔女の楔って具体的に何なの? マレウスは知ってるみたいだけど……」

 

 名前と簡単な概要ぐらいは説明してもらった。

 だが、そもそもどうしてそうなったのかがマリーには分からなかったのだ。

 

「ん、そうだね。じゃあ、道すがら軽く説明しようかな」

「よろしくお願いします」

「詳細を語る前に、先ずは当時の世界情勢を知ってもらおうか。その方が分かり易いからね」

 

 世界情勢、その単語が出た瞬間の変化は劇的だった。

 そう言う難しいのはマジ勘弁してくれよ……と言いたげなマリーに苦笑を禁じ得ない。

 

「大丈夫、簡単な事さ。スペルビアって国が世界で一番強くて世界で一番嫌われていた国だって認識してくれれば十分だ」

「それだけで良いの?」

「ああ、どの国も自分のところだけではとてもスペルビアには敵わなかった。

連合を組むにしても、大国が手を組みその上で他の中小国家も徒党を組まなきゃとてもじゃないが太刀打ち出来ない国だった」

 

 それだけを覚えていれば十分だと言われマリーはコクコクと首を振った。

 

「そんな最強スペルビアはとある魔法資源を目的にシンケールスと言う小国への侵略を開始した。

誰もがシンケールスが蹂躙されると思っていた、誰もがスペルビアの勝利を疑わなかった。

だけど、国境沿いの戦いでスペルビアは大敗を喫する事になったんだ」

「何で?」

「――――ルークス・ステラエさ」

 

 ルークスがシンケールスに加担した事で攻め入って来ていた軍隊は壊滅。

 スペルビアは局所的ではない――初めての戦争による敗北を知ってしまった。

 

「下手人であるルークスを捕らえたものの、スペルビア上層部としては看過出来る事態ではなかった」

「ん? ちょっと待って。捕らえられた?」

「勿論、わざとさ。と言っても彼女の正体を誰も知らなかったので、当日になるまでは誰一人として気付く事はなかったけどね」

「わざと捕らえられたって何で?」

「そこはこれからの話で説明するよ。兎に角、スペルビア上層部は件の敗戦をとても重く捉えたんだ」

 

 局所的な戦場での敗北はこれまでもあった。

 だが、一度始めた戦争を敗北で終えた事はなかった。

 この事実が世界へ齎す影響はとても大きい。

 

「スペルビアはこれまで力に物を言わせて好き勝手に振舞っていた。

当然、他国からすればムカつくなんてものじゃない。

さあ、そんなムカつく国が十数万もの兵を消耗し負けたとなればどう思う?」

「チャンスかなって思う」

 

 マリーの相槌に満足げに頷き、リーンは続きを語り始める。

 

「スペルビアからすれば堪ったものじゃない。そこで彼らは一計を案じた。

始原の魔女の後継者、現代の真なる魔女を名乗るフィクトス・アーデルハイドの力を大々的に示そうとしたんだ」

「え、真なる魔女って……ルークスさん以外にも……」

「今確認されているのはルークス・ステラエだけで、結論から言うならフィクトス・アーデルハイドは偽物だよ」

 

 そしてこれは個人的な見解だが、リーンはルークス以外に真なる魔女はもう存在しないと考えている。

 同じ力、同じ視点を持つ同胞が居るのならば、あの絶望を分かち合えるはずだ。

 だが十年前に見たルークスからは絶対の孤独を感じた。

 

「話を戻すと、スペルビアはフィクトスの力を示す事で他国を牽制しようと考えたんだ。

その手段こそが、シンケールス侵攻軍を壊滅させたルークス・ステラエの公開処刑。

万軍を屠る敵を軽々と殺してのける存在が居るうちに手を出せばどうなるか分かるよな? ってね。

そのために世界各国のお偉いさんを集めて、王都にある大闘技場で公開処刑を催したんだけど……」

「だけど?」

「――――それこそがルークス・ステラエの狙いだった」

「あの、リーンくん……? 大丈夫?」

 

 顔面は蒼白で、心なしか身体が震えているようにも見える。

 ただならぬ様子に心配するマリーだが当人にとっては慣れた事で大丈夫と微かに笑ってみせた。

 

「そ、そう? なら良いんだけど……でも、目論み通りって?」

「最初から公開処刑の場を作り出す事が彼女の狙いだったんだ」

 

 誰も彼もが欺かれ、気付いた時には逃れ得ぬ大渦に囚われてしまっていた。

 

「戦いは当初、フィクトスが優勢に進めていた。

だが、彼女が自身の最強魔法を繰り出したところで状況は一変する。

ルークス・ステラエが遂に自らの力――その一端を明かしてのけたんだ。

総てを圧殺する闇を砕き、別次元への道を出現させ、時間と言う絶対の法にすら干渉してのけた」

 

 微塵も色褪せぬ記憶をそのままマリーに語り聞かせていく。

 最初はそうでもなかったが、話が進むにつれドンドンと彼女の顔色が悪くなっていった。

 

「公開処刑の場は”魔女の掟”を遵守するために仕組まれた舞台だった。

あの場に居た誰もが生涯拭えぬ絶望を刻み付けられた。僕だって例外じゃない」

 

 何をしていても影が拭えない。

 表面上は真っ当に日常を送れてはいるが、頭の片隅には何時だってあの日の悪夢が。

 例え死ぬ間際であろうとも、忘れる事は出来ないだろう。

 だがリーンはそれで良いと思っている。

 

「…………その掟って、何のためにあるんだろう」

 

 ポツリとマリーが呟く。

 彼女はルークスが行った”裁き”を聞いて恐怖と同時に違和感を覚えた。

 たった一度しか顔を合わせていない。

 それでも、あの日出会ったルークス・ステラエが好んで誰かに絶望を刻み付けるような人間だとは思えなかった。

 原因は魔女の掟とやらだろう。

 

「何で真なる魔女は絶対の禁忌でなきゃいけないの?」

 

 何か理由があったはずだ。

 そうせざるを得なかった、そうしなければいけないと思った理由が。

 ”あんな顔をする人”が凶行に及ばなければならない程の掟。それが定められた理由を知りたい、マリーは強くそう思った。

 

「そうだね、僕もそれを知りたい。そうすれば彼女が抱える絶望の理由が分かるかもしれないからね」

 

 もしもそれを理解し、取り除く事が出来たのなら。

 ルークスに従う姉の危険度も格段に下がるのではないだろうか?

 主たるルークスが穏やかな生活を望めばシンも……リーンはそう考えていた。

 

「(出来るのならば僕の手で姉さんを直接救いたいけど、結果的に姉さんが救われるのなら僕はそれでも構わない)」

 

 絶望を超えたルークスならば必ずシンの心も救うはずだ。

 どうしようもない虚無を抱える現状ですら、シンに対する愛情を持っているのだから。

 とは言え現状ではあくまで選択肢の一つ。

 基本的には自分の力で姉をどうにかしたいと言うのが本音だ。

 

「(どうするにせよ情報が必要だ)」

 

 立ち止まったリーンの視線の先には来る者を拒む雰囲気を漂わせる一件の屋敷が佇んでいた。


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