TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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第五話(裏)むずかしいことわかんにゃい

「やあお嬢さん、こんにちは。他所から来たのかい?」

「ええ、そうよ」

 

 ルークス・ステラエ改めルーナ・プレーナちゃんじゅうさんさいが正門を潜ろうとした時、衛兵の一人が親しげに声をかけて来た。

 今の俺は美少女形態だが、下心はなさそうだ――残念。

 一体何時になったら俺は対チン魔法を行使出来るんだよクソが。

 

「はは、だと思った。何となく別の国から来たんだなって空気がしたんだ」

「……」

「どうだい? この国は良い所だろう?」

 

 衛兵の言葉に手を振り、止めていた足を動かす。

 冒険者としての仕事を始めるにあたって、俺が活動の場所に選んだのはアケディア帝国。

 今居る場所はアケディアの首都、ルクトゥだ。

 ちなみに活動場所をどうやって選んだかだが、ジョージ・トコロリスペクト――つまりはダーツだ。

 主要国家の名前を書き込んだルーレットに目隠しでダーツを投げたらアケディアに突き刺さったのである。

 首都を選んだのは単純に、実入りが良さそうな依頼を受けたかったからだが……。

 

「(…………こりゃあ、失敗だったわ)」

 

 道行く人々は皆がその顔に笑顔を浮かべている。

 テキトーに視線を彷徨わせるだけでも、日本で言うとこの交番のようなものがあちこちに設置されてある。

 かと言って監視社会のような堅苦しさは皆無で朗らかな空気が満ち溢れている。

 無愛想な顔をしている生意気そうなガキに見える俺にだって色んな人が親しげに挨拶をしてくれる。

 どんな鈍い人間でも十分もあれば、この国の治安の良さと民度の高さを実感する事だろう。

 これは首都だから、ではない。先ず間違いなく領内にある他所の街もそうだ。

 

「(気持ち悪いな)」

 

 上辺だけを取り繕っている訳ではない事は明白だ。

 これは俺の察しの良さか、或いは魔女として物事を見通してしまう目を持っているがゆえか。

 理由はどちらでも良い、ただ一つ言えるのはアケディアと言う国は酷く歪だ。

 

「(とは言え、破綻が訪れる事はそうそうないだろうが)」

 

 システムと言うよりは統治者のカリスマか。

 これがまだ計算づくの行いならばまだ良いが性質の悪い事にこの国の女帝様はこれが正しいと心の底から信じ抜いてやがる。

 いや、どんな奴かは知らないし見た事もないが……首都の様子を見るに俺の推測は間違いではないと思う。

 

「(ダンテは何だってこんな国を支持したんだ?)」

 

 あの日の茶番を最後にダンテとは顔を合わせるどころか連絡すら取っていない。

 NPCとして求めていた役割を果たしてもらったのだ。

 お役御免、後は好きに生きてもらっても何の問題もない。

 変に繋がりを残したままだとアイツも気にするかと思ってノータッチだった。

 

「(気付いていない? いやまさか)」

 

 ダンテ・マルティーニと言う男が獲得した自我、人間性。

 それがこの国の現状を許容するようにはどうしても思えなかった。

 気付いていないのかとも思ったが、その線もないだろう。何か妙に察しの良い奴だったし。

 力で従わせられているとか、人質って線もあり得ないだろう。

 この国を治める女帝と、それに心酔しているであろう連中が”そのような行い”を許容するとは思えない。

 だから自発的にこの国を支持したのだろうが……独立当初は歪さが分からなかった?

 

「(だとしても十年の間に見えて来るし、見えて来たなら行動を起こすだろう)」

 

 だがそのような痕跡はまるで見えない。

 かと言って国を捨てていずこかへ去ったのかと言われればそれも違うだろう。

 さっきチラリと小耳に挟んだが、ダンテはアケディアの要職に就いてるっぽいし。

 

「(…………いや、どうでも良いか)」

 

 今の俺はルーナ・プレーナちゃんじゅうさんさいなのだ。

 国の在り方とかダンテがどうとか、そう言うのに考えを巡らせる必要はないだろう。

 ダンテにはダンテの人生がある、好きに生きろと解き放ったのだからそっとしておこう。

 

「(だっておれ、じゅうさんさいだもん)」

 

 むずかしいことわかんにゃい。

 じゅうさんさいなのに厨スペックな冒険者ルーナちゃんは依頼の事だけを考えていれば良いのだ。

 

「(しかし、うーむ……やっぱり違和感あるわ)」

 

 何かとルーナ・プレーナちゃんじゅうさんさいを連呼しているのには理由がある。

 冒険者として活動するにあたり、ルークスの名前は当然使えない。

 正直偽名を名乗るのには抵抗があった。

 エレイシアロールをすると決めて現世に旅立った時も、名前だけはと守り通したぐらいだからな。

 だがまあ今回は仕方ないので短期間だけだからと偽名を名乗る事に決めた。

 まったくかけ離れ過ぎているのもあれだから、天体繋がりで満月を意味する名をつけてみたのだが……。

 

 兎に角違和感が凄い。

 

 だから俺はルーナと何度も自分に言い聞かせているのだ。

 だが、ルークス・ステラエは前世の名である松風健太郎(あだ名はマツケン)よりも長く使った名。

 二千年ルークスで通して来ただけに中々、ルーナと言う名は馴染まない。

 

「(ま、しゃあないか)」

 

 大体、偽名を用意したけど他人に名乗るかどうかは怪しいしな。

 冒険者としてのライセンスなんぞ持ってないが魔法でごり押すつもりだし。

 依頼も誰かと組むとか……ちょっと緊張するし、ソロでこなそう思っている。

 ルーナ・プレーナの名前を使う機会があるかは怪しい。

 

「(っと、此処だな)」

 

 剣と盾が刻印された看板を掲げている建物の前で立ち止まる。

 一国の首都に設置しているからか、このギルドの建物はちょっとした豪邸並にデカイ。

 内心の緊張を押し殺しながらドアを潜ってみると……これまた、凄い熱気だ。

 

「おい姉ちゃん! まだ注文届かねえんだけど!?」

「こっちもグラス空なんですけどー?」

 

 一階部分はまるまる酒場になっているらしくかなりの賑わいを見せている。

 事前に調べた情報によると、大体どこのギルドも掲示板に依頼が貼り付けてあるそうだが……二階っぽいな。

 

「(クラブかビアホールって感じだな、俺も前世では付き合いでこう言うとこ来たが……)」

 

 あんまり得意ではない、根がオタクだからだろうか?

 とは言え妙な懐かしさを感じるのもまた事実。

 依頼が終わったら軽く一杯ひっかけていくのも悪くないかな。

 などと考えつつ二階に上がり依頼が貼り出されている掲示板の前へ。

 規模が規模だけに、めっちゃ多い。

 

「(何か大学の求人情報貼り付けてある掲示板を思い出す)」

 

 ずらーっと並んだものからどれが良いかと頭を悩ませたものだ。

 

「(とりま重視するのは報酬だわな)」

 

 実力的にこなせない依頼は皆無だ。

 そうなるとどれでも良いとなって逆に選び難くなってしまう。

 だから条件を設定してみたのだが……それでも迷うな。

 首都にあるギルドなだけに高額報酬の討伐依頼が十も二十もある。

 

「(お、これとかええやん)」

 

 森の古城を占拠しているアンデッド・ジェネラル討伐。

 難度は最高だが、それに見合うだけの報酬が出るみたいだし。

 それに森の古城って言うのが個人的にグッド。

 殺人事件とか起きそうなスポットだ、観光がてらアンデッドをぶち殺しに行くのも悪くはない。

 モンスターを駆除し終えたら、一人で名探偵ゴッコとかやってみようかな?

 

 ウキウキしつつ手を伸ばすと、

 

「「ん?」」

 

 誰かの手が重なる。

 思わず横を見ると、そこには二十代前半ほどの女が立っていた。

 琥珀色の瞳とウェービーな紫色のロングヘアーが特徴的な品を感じさせる彼女は端的に言って美人だった。

 後、これは完全に主観なんだけど”あらあらまあまあ”とか言いそうだな。

 

「あらあらまあまあ」

 

 って本当に言った!?

 困ったように頬に手を当て苦笑する女に軽く感動を覚えてしまう。

 

「(つかコイツ……いや、どうでも良いか)」

 

 今の俺はルーナ・プルーナちゃんじゅうさんさいだ。

 この女が何者かなど考える必要はない。

 

「その、お嬢さん? えーっと、あまり無理をするものではないと思うのだけど」

 

 必死に言葉を選んでいる感がありありだな。

 まあ確かに俺の今の外見は子供のそれだ。

 最高難度の依頼を受けようとするのを見れば止めようとするだろう。

 例えこの女の価値観が”常識”から外れていても。

 

「あなたの目、硝子玉か何かなのかしら。役に立たないなら取り換えた方が良いんじゃない?」

 

 刺々しい言葉と共に左手を突き出す。

 ルーナちゃんは無表情系ツンツン毒舌美少女と言うキャラ付けなのだ。

 

「えっと……」

「頭の巡りが悪そうなあなたに言葉を重ねる気はないわ。分かり易く教えてあげる」

 

 突き出した左手をパーにすると女も言わんとしている事を理解したらしい。

 ゆっくりと右手を突き出し、俺の手と真正面から組み合う――ようは単純な力比べだ。

 

「ッ!?」

 

 秒と経たずに女が膝から崩れ落ちた。

 外見に惑わされて油断していたのだろう、今更必死に力を入れているが……無駄だ。

 信じられないと言う顔をしている女を見下ろし、

 

「お分かり?」

 

 パッと手を放す。

 そしてそのまま依頼の貼り紙を剥ぎ取りカウンターへと歩き出そうとしたところで声がかかった。

 

「ま、待って!」

「……まだ何か?」

「ごめんなさい。決して馬鹿にしたつもりではなかったの」

 

 申し訳なさそうな顔で頭を下げられてもね。

 今のキャラ的にツンツンしてるからアレだけど、アンタの気持ちが分からないでもない。

 この外見で強いとか普通は想像し難いもの。

 

「別に。気にしてないわ、慣れてるもの」

 

 と言いつつも不機嫌顔をするのがポイントだ。

 気にしてないと言いながらも子供だからと侮られる事に対して不機嫌になる。

 可愛いキャラ付けだとは思わないかね?

 

「わたくしはティナ。あなたのお名前を教えてくださる?」

「ルーナよ。話は終わり? 私、暇じゃないんだけど」

「えっと、その……無礼を働いておいて、厚顔だとは分かっているけれど……お願いがあるの」

「何?」

「わたくし、どうしてもその依頼を受けなければいけないの。どうか、同行を許可して頂けなくて?」

「……」

 

 さて、どうしたものか。

 先にも述べたがソロでパパっと依頼をこなすつもりだったからな。

 名探偵ゴッコをするつもりだったからな。

 ただ、ここで断っても勝手に着いて来そうな予感がひしひしと……。

 尾行されても撒けるし、何なら森の中を延々彷徨わせてやっても良い。

 いや、ちょっと頭の中を弄り回してやればもっと早く片付くか。

 

「報酬は要らないわ。同行をさせて貰えるだけで良いの」

 

 うーむ、パーティを組むのも冒険者っぽくて良いとは思うが……コイツは……。

 いや、飽きっぽい俺の事だ。次に冒険者をやる機会なんて巡って来ないかも。

 それならパーティを組む人間がアレでも我慢するべきかも。

 

「しょうがないわね」

「ありがとう! 感謝致しますわ!!」

 

 不安げな表情から一転、花が咲いたような笑顔とはこの事か。

 ツラは良いし、中身がアレじゃなければ俺もキュンキュン出来たんだがな。

 

「じゃあ、さっさと行きましょ」

「ええ」

 

 そんなこんなでパーティを組み、受け付けで依頼を受諾。

 古城がある森は首都から結構離れた場所にあるとの事で馬を貸し出してもらい俺達はルクトゥを発った。

 俺が調べた限りでは遠方であっても足を用意してもらうなんてのは滅多にないらしいが……まあ、お国柄だろう。

 力ある者、戦える者を遇するのがアケディアの国是だ。

 とは言え、それは力無き者を軽んじる訳ではない。適材適所。

 力ある者には力ある者の、力無き者には力無き者の担う役割があると言うだけ。

 単純に力を至上と掲げるだけの国であれば人々はあんな顔で笑えはしないだろう。

 

「(だからこそ性質が悪いとも言えるが)」

 

 何でダーツでこの国当てちゃったかな、ホント。

 

「ルーナさん、乗馬がお上手なのね」

「別に」

「ふふ、そう謙遜なさらずとも」

 

 ちなみに乗馬なんて前世を合わせても今日が初めてだ。

 それでもジョッキーの如く馬を操れているのは、ひとえにパラメーターを弄ったからである。

 反則技を褒められたところでバツが悪いだけだ。

 これが魔法の技量とかなら自分の努力で掴み取ったと(ない)胸を張れるんだけどな。

 

「そう言うあなたも、見苦しくない程度には出来るようね」

 

 馬上で、しかも速度を緩めないまま群がってくれるモンスターを槍で蹴散らすだけの技量があるのは凄いと思う。

 キャラ的にもティナの人格的にも真正面からは褒められないけど。

 

「乗馬は小さい頃から嗜んでいましたもの、少しは自信がありましてよ」

「……へえ、あなた良いところのお嬢様なのかしら?」

「え゛? い、いえ……そ、そんな事はありませんわ。何処にでもあるような家の生まれでしてよ、ええ」

 

 普通の家庭で育ったお嬢さんが”でしてよ”だとか”ありませんわ”なんて言うものかね。

 

「ふぅん? ま、別に良いけど。それより、速度を上げるわよ」

「了解ですわ」

 

 鞭を入れ、速度を上げる。

 ドラゴンの背に乗って風を感じるのも良いが、馬と言うのも中々に良いな。

 今度は純粋に遠乗りにでも出かけてみようかなと思う程度には気に入った。

 

 そうして走り続けてしばし、地図に示された森を見つけそこに突入。

 奥へ奥へと進む度に空気が澱んで行くのを感じる。

 一般人であれば先ず近寄ろうとさえ思えないだろう。

 

「此処からはわたくしが先導致しますわ。ルーナさんは、地元の人間ではないでしょうし」

「好きになさい」

 

 普通に見通せるし、目を飛ばして空から俯瞰する事も出来る。

 別に迷う事はないのだが、ここで否定を返すのもおかしいだろう。

 少しだけ速度を緩め、ティナのケツを追うように位置取りを改める。

 

「(……そういやコイツ、何で同行を願い出たんだろ?)」

 

 強者を求めて――と言うのもあるように思うが、本命ではなさそうだ。

 少なくともこの依頼を受けたい、受けなければいけないと言う使命感を覚えている事だけは確かだと思う。

 

「ルーナさん、馬はこの辺りに繋いでおきましょう。此処からは徒歩ですわ」

「分かった」

 

 広大な湖の中心に佇む古城を視界に捉えてはいるものの、まだ距離はある。

 なのに馬を置いて行ったのはその安全を考慮しての事だろう。

 古城を占拠するアンデッド・ジェネラルの影響か、森に他のモンスターは居ない。

 周辺に眷属であるアンデッド・ナイトやアンデッド・ウィザードをウロつかせているが城に近付かなければ無害だ。

 逆に近付けば馬だろうが人だろうが容赦なく襲って来るだろう。

 

「なるべく戦闘を避けて内部に侵入出来るルートがありますが……」

 

 将軍ぶち殺せばそれで終わり、無益な戦闘は避けるのが定石だろう。

 ああ、ティナの言わんとしている事は勿論理解している。

 

「結構よ。正面からブチ抜けば良いだけだもの」

 

 まあ、理解したからとてそれを酌むかどうかはまた別の話だが。

 そもそも無理を言って着いて来たのはティナだ、俺がそちらに合わせる義理はない。

 

「あなたは好きになさい」

 

 城へと続く跳ね橋に足をつけた途端、周辺のアンデッドどもが一斉に視線を向けて来た。

 髑髏の眼窩にくゆる赤い光は殺意の証か――是非もなし、かかって来いよ残骸ども。

 

「見苦しい連中ね」

 

 長さ百メートル、幅数十メートルの跳ね橋を埋め尽くすアンデッドの群れ。

 それが一斉に殺到して来る光景は中々に壮観だ。

 無双系のお遊びに興じるのには打ってつけである。

 

「もう、空はとっくに別の色だと言うのに」

 

 拳を振るいその風圧で敵を吹き飛ばす。

 回し蹴りを放って近くに居た連中諸共、カマイタチで切り刻む。

 空から魔法を放って来る敵には手近な敵を引っ掴んでそれを投擲し撃墜。

 

「(たーのしー!!)」

 

 本当の無双(あい)はここにあったんだね、かばんちゃん!

 

「(やっばい、これやっばい……あー……脳筋スタイルが癖になりそうだわ……)」

 

 これまでにもスペルビア軍相手に無双かましたりはしてた。

 だけどあれって、単なる広範囲攻撃じゃん?

 直ぐに終わるから楽しさも達成感もないって言うの?

 こう、無双って言うのは物理で数を蹴散らすのが一番なんだな! って僕は思いました、まる!

 

「(っと、もう終わりか……良い前菜だったぜ。ありがとよ)」

 

 跳ね橋の終点、閉ざされた城門の前に立ち感謝を捧げる。

 そういやティナはどうしてんだろ? とふと疑問に思い背後を振り返ると跳ね橋の入り口でポカーンと大口を開けていた。

 

「(まあアレはどうでも良いや。問題は、どう門を開けるかだ)」

 

 どうすればカッコ良く門を開けられるのか。

 ゲーム中にポーズボタンを押すかのように時間を止め、しばし熟考。

 DIO様でもやらねえよってレベルの贅沢な時停めをしているような気がしないでもないが便利なんだからしょうがないよね。

 

「(――――シンプルイズベスト)」

 

 奇を衒う必要はないとの結論に達した俺は時間停止を解除すると同時に城門にヤクザキックを叩き込んだ。

 

「(扉は蹴破るものだってばっちゃが言ってた)」

 

 バラバラと降り注ぐ破片の中、悠然と歩を進め城内に侵入。

 進路上を阻もうと襲撃を仕掛けて来るアンデッド達だが、俺の進撃は止められない。

 両手にアンデッドを引っ掴んでそれを武器のように振り回して敵を蹴散らす。

 壊れても次の武器は直ぐにやって来てくれるので補充も容易だ。

 

「(さて、次の角を左……かな?)」

 

 一見すればあてもなく彷徨っているように見えるだろうが、どっこい違います。

 脳内マッピングで一番絵になる場所へと向かっている真っ最中なのです。

 何か気付けばティナがどっかに行ってしまっているが奴は奴で何某かの目的を果たしているのだろう。

 わざわざ調べようとも思えない。

 

「敵わないって事ぐらいは分かっているだろうに、それでも向かって来るのね」

 

 アンデッドを放り投げ扉を破壊し中に踏み入る。

 そこは広大なダンスホール――往時はここも随分と賑わっていたのだろう。

 この場所こそが、俺の目的地だ。

 

「そんなに憎い? いや、憎しみさえ自覚出来ていないのかしら」

 

 薄暗いダンスホール、これはこれで悪くないがもう一花添えさせてもらおう。

 そう心の中で呟き、ダンスホールに無数の鬼火を出現させる。

 無数の青白い鬼火が啼くように揺れ照らす室内。

 現世と幽世の狭間に迷い込んだかのような心を不安にさせてくれるこの光景は実に良い。

 アンデッドとの戦いなんだ、こう言う雰囲気がなきゃ片手落ちだろう。

 

 ……本来は向こうが自主的にしてくれる方が嬉しいんだけどな。

 

 とは言え、たかだか残骸風情に風流を介せとは無茶が過ぎるか。

 そんな事を考えながらステップを刻むようにアンデッドの群れをすり抜け中央へと躍り出る。

 

「憐れね。でも良いわ」

 

 異空間からこの日のために用意した得物を引き抜く。

 

 それは、剣というにはあまりにも大きすぎた。

 大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた――いや、大雑把ではないな。

 思わずベルセルクっちまったけどこの大剣に仕込んだギミックは決して雑じゃないぞ。

 丸い切っ先、刀身を覆うようにぐるりと敷き詰められた一つ一つが拳程の大きさを誇る乱杭歯のような鋭い突起。

 勘の良い方であれば、コイツがどんなものかを即座に理解出来るだろう。

 とは言え、まだコイツの本領を発揮させるつもりはないけどな

 

「――――さあ、踊りましょう?」

 

 付き合ってあげる、踊り疲れて眠ってしまうその時まで。

 

 俺の誘いに応じるかのように耳触りな鳴き声を上げアンデッドらが殺到する。

 最早統制も何もない。狂える想念がままに吶喊しているだけ。

 魔法を使える奴らに至っては味方ごと俺を攻撃している。

 だが、無謀な吶喊も味方を省みない非情の攻撃も――俺には届かない。

 

 先程までの力押しとは一転、俺は流麗さに重点を置いた立ち回りをしていた。

 

 ステップを刻むような足捌きで合間を縫い一時足りとて一所には留まらず。

 その流れに逆らわず身を任せ淀みなく大剣を振るう。

 第三者が居れば踊っているかのようだ、と形容した事だろう。

 

「(っと、ようやくか)」

 

 数百体は屠っただろうか、ようやく待ち人がやって来た。

 これまで我武者羅に攻め続けていたアンデッドらが手を止め俺から離れて行く。

 そうして広がった視界の向こう――重厚な金属音を立てながらそれは現れた。

 三メートル近い巨躯をすっぽり覆い隠す豪奢な黒い甲冑。

 血で赤黒く染まった大剣を引き摺るようにして近付いて来るそいつは、成る程確かに将軍(ジェネラル)だ。

 

「……」

 

 髑髏の眼窩に宿る赤い光が不気味に揺らめいた。

 瞳が無いのでそうとは分からないが、多分俺を睨みつけているのだと思う。

 

「ッ!」

「下僕がやられて怒ったの? ああ、そんな事を考える頭はないか。空っぽだものね」

 

 振り下ろされた大剣が床を砕き瓦礫を巻き上げた。

 肉体の制約がない将軍様は返す刀で剣を振り上げ怒涛の連撃を繰り出す。

 目的は語るまでもなく、俺の命だ。

 風圧だけで身体が切り裂かれてしまいそうな斬撃の嵐はしかし、決して俺には届かない。

 紙一枚分の距離で躱し続けているからだ。

 

「(骸骨っつーと……思い出すな)」

 

 ロッドが決死の攻勢を仕掛けようとしていた巨大な髑髏。対軍クラスだったか?

 目の前の将軍は単体ではあの時の髑髏には及ばないものの、冒険者達からすれば脅威の一言だろう。

 無数のアンデッドを使役する能力に加えて単体の戦闘能力も頭抜けている。

 やりようは幾らでもあるんだろうが真正面から戦う事を選ぶ奴はそうそう居ないだろう。

 

「おっと」

 

 下段への薙ぎ払いを真上に跳躍して回避する。

 だがこれは奴の誘導だ。思考能力はないようだが空中では身動きが取れない事を本能的に察知しているのだろう。

 

「だけど残念」

 

 俺は空中でも自由自在に動ける……が、まあ今回に限っては動くまでもない。

 大上段に振り上げた剣を落下の勢いと共に将軍へ叩き付ける。

 一刀両断――とはならず、剣で受け止められてしまったものの問題はない。

 柄から魔力を流し込む。

 

「詰んでるのはそっちだもの」

 

 瞬間、ギャリギャリと甲高い音をダンスホールに響き渡る。

 発生源は俺の大剣と奴の大剣。

 原因は刀身に敷き詰められていた乱杭歯が駆動し始めたからだ。

 火花を散らしながら徐々に徐々に喰い込んでいく剣、奴もマズイと気付いたようだがもう遅い。

 

「(チェーンソーは男のロマン……!!)」

 

 女の子にデッカイ武器はお約束。

 だが、そのデッカイ武器がチェーンソーとしての機能も備えていたら?

 完璧だ、非の打ち所がない、最早無敵と言えよう。

 

「おやすみシンデレラ、舞踏会はもう終わりよ」

 

 将軍の大剣が切り砕かれ、俺の刃が脳天から股間までを一直線に駆け抜けた。

 

「――――……」

 

 両断された肉体が煙となって消滅した。

 同時に、俺達の戦いを見守っていたアンデッドらも後を追うように消えた。

 他の場所に居たアンデッドらも同様の末路を辿った事だろう。

 役目を終えた鬼火が消え、ダンスホールには再び闇と静寂が満ちる。

 

「……今、モンスターが何か喋りませんでしたか?」

 

 困惑したような声が耳に届く。

 二階に目をやればティナが大き目の袋を片手にこちらを見下ろしていた。

 

「気のせいじゃない? それより、あなたの用事は終わったのかしら?」

「え? え、ええ。お陰さまで、滞りなく」

 

 沈痛な面持ちでティナが頷いた。

 この古城に向かったものの帰って来なかった者達の遺品でも回収に来たのだろう。

 袋の中身を見るに、俺の推測は多分当たっている。

 

「そう。なら、とっとと帰るわよ。何時までも辛気臭い場所に居たくないもの」

「ま、待ってくださいまし!」

 

 そんな声を背中に受けながら俺は古城を後にした。

 少し――いやさ、かなり残念だが名探偵ゴッコと観光はまた別の機会にしよう。

 流石にギャラリーが居る中で探偵ゴッコはやれねえもの。

 

「どうしたのよ?」

 

 依頼も達成、後はもうルクトゥに帰るだけ。

 馬を繋いである場所まで戻りその背に飛び乗ったのだが一緒に来たはずのティナが居ない。

 見れば彼女は少し離れた場所でしゃがみ込んだまま微動だにしていない。

 

「(あれは、小鳥か?)」

 

 彼女はじっと自分の手の平に居る傷付いた小鳥を見つめている。

 よくよく観察してみれば、その小鳥は命の灯火がつきかけていた。

 生きていられても後十分か二十分程、絶命は免れない。

 

「……」

 

 ティナはそっと瞳を閉じ、

 

「――――弱い子は空を飛んではいけないのよ」

 

 優しく小鳥を絞殺した。


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