TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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前話ですが第七話(表)、が抜けてました。
頭が働かない状態だったとは言え申し訳ありません。


第七話(裏)罪か真か

 その日も実に何時も通りだった。

 いや、この間今生初の労働を果たしたお陰で上機嫌だったと言えよう。

 ん? ティナの事やダンテにバレた件についてはどうなんだって?

 それはまあ……都合の悪い事は忘れる、見ない振りをする――それが人間だとは思わないかね?

 

 と言うわけで俺は気分良く酒を呷っていたのだ。自分で稼いだ金で買った酒を! 自分で稼いだ金で買った酒をな!!

 

「!」

 

 弾かれたように飛び起きる。

 その反動でグラスと酒瓶が落ちたが問題ない。

 本能に従い”それ”が聞こえた時点で世界の時間を凍結させたからだ。

 

「今の、叫びは……」

 

 位相の異なるこの場所にすら轟く魂の”叫び”を上げられる人間は少ない。

 そして、それが正の方向ではなく負の方向でと言うのであれば俺は今のところ一人しか知らない――シンちゃんだ。

 初めて出会ったあの時と、いやあの時以上に苛烈な、そして混沌とした感情が滲んでいた。

 だからこそ考えるよりも先に時を停めてしまったのだが、多分正解だったはず。

 

「一体何があったと言うのだ」

 

 シンちゃんは直ぐに見つけられた。

 ソドムとか言う国のとある大都市にあの子は居た。

 場所は――どこか初めての出会いを思い出す、暗い暗い地下牢獄。

 そこでシンちゃんは目も当てられないような痛々しい表情で、壊れた笑みを浮かべる少女に刃を突き立てていた。

 

「……いや違う」

 

 パッと見、刺さっているように見えるが違う。

 血が出ていない。

 どうやら腕と脇の隙間を上手い事、潜り抜けたらしい。

 

「これは……周辺の空間とか悠長な事は言ってられんな」

 

 過去数時間、世界が観測した記憶を読み解く。

 規模が規模だけに莫大な情報が脳髄に叩き込まれるがこの程度、何て事はない。

 宇宙そのものが砂粒以下に思える情報を刹那の間に叩き込まれるのと比べれば痛痒さえ覚えない。

 しかも、アレと違い今回のこれは不必要な情報は受け流せる。

 俺の目的であるシンちゃんに何が起きたかを知る事なぞ容易だった。

 

「…………間が悪いにも程がある」

 

 シンちゃんに喧嘩を売った相手が最悪だ。

 俺関係と言う例外を除くと絶許どころか絶殺リストの頂点に位置するような奴らだもの。

 そして尚、性質が悪いのはあの女の子だ。

 あの少女は自分が辿るかもしれなかった”可能性”そのもの。

 そんな子の口からあんな言葉が出て来たのだ、理性が一瞬にして蒸発してしまうのも無理はない。

 

「このままだと不味いな」

 

 少し逡巡したものの俺は動く事に決め転移する。

 

「(さて、どうしたものかな)」

 

 シンちゃんらが居る牢の外に転移したのだが、正直どうすれば良いか分からなかった。

 とりあえず近くにあった監視の者が使っているであろう椅子に足を組み腰掛け、頭を捻ってみるが妙案は浮かばない。

 かと言って何のアクションも起こさないのであれば来た意味がない。

 このままでは埒が明かない、そう考えた俺はとりあえずシンちゃんだけを時の鎖から解き放つ事にした。

 

「あた、しは……あたしは……!!」

 

 俺に――いや、時間が停まっている事にさえ気付けていない。

 普段ならばまずあり得ない事だ。

 シンちゃんはぶつぶつと呟きながら剣を引き抜き両手で柄を握り締める。

 だが、正眼に構えられたスカー・ハートの切っ先は気の毒なぐらいに震えていた。

 

「あまりに喧しいものだから足を運んでみれば、また何とも」

「!」

 

 びくりと大きく身体を震わせ散漫な動作でシンちゃんは振り向いた。

 

「――――十年経ってもその癇癪は変わらんらしい」

「るーくす、さま……」

 

 嗚呼、酷い顔だ。

 果てない荒野に一人、放り出されてしまった幼子のようだ。

 

「あた、あたし……」

「そこな小娘、少し似ているな。貴様が辿るかもしれなかった成れの果て、その一つと言えなくもない」

 

 最早その道は途絶えた。

 だが確かに存在していた可能性だ。

 俺と関わらねばシンちゃんの心も何時かは折れていたかもしれない。

 

「ッ」

 

 シンちゃんも自覚はしている。

 自覚したからこそあの発言を聞き正気では居られなくなったのだ。

 

「違うところと言えば、その小娘はすっかり泣き疲れてしまったと見える」

 

 泣き続けて、叫び続けて、それでも何も変わらなかった。

 だからもう、疲れてしまったのだろう。

 泣く事にも、叫ぶ事にも――――生きる事にも。

 

「さて、振り上げたその切っ先はどうするのだろうな」

 

 問いを投げる。

 シンちゃんは構えを解く事も、刃を振り下ろす事も出来ずただ震えていた。

 

「昔日のあり得たかもしれぬ”己”を斬るか」

 

 だが、そうしてしまえば最早後戻りは出来なくなる。

 それはこの世界が”生きるに足らぬ”ものであると認める事に他ならないから。

 生きるに足らぬ世界にしてしまった人間を、非道が罷り通る世界を認めてしまった人間を許容出来なくなってしまう。

 人間総てがそうではない事ぐらいは理解していても……止まれない。

 善良な人間からすれば堪ったものではないだろうが理屈ではないのだ。

 

「(それだけ、シンと言う人間の怒りは大きい)」

 

 俺が止めたところで聞く耳を持たないだろう。

 自らの怒り、その正しい形を自覚し荒れ狂う感情のままにこの子は突き進むはずだ。

 

 さて、そうしたら”私”はどうするのかな?

 

 シンが少女を切り捨て、世界を滅ぼす事を選択した時。

 私はそれを止めるのだろうか? それとも人が総て死に絶えるまで黙って見届けるのだろうか?

 期せずして、私自身にも選択肢が突きつけられたらしい。

 

「所詮は潰えた可能性。そこな小娘と己には最早何の関係もないと刃を引くか」

 

 頬杖を突きながらシンを見る。

 その心の内では過去最大級の葛藤が起きている事は容易に見て取れた。

 

「どちらを選ぶも自由。私は何も強制はしない。戯れに拾った小娘の行く末、見届けてやろうではないか」

 

 罪か真か――その名に託した問いの答えが今、出ようとしている。

 運命と呼ぶにはあまりにも唐突で、しかしこんなものなのだろう。人生と言うやつは。

 

「ッ……!」

 

 沈黙の帳が下りる。

 シンは俯き何かを堪えるように拳を握り締めていた。

 その心の内で繰り広げられている葛藤は何時終わりを迎えるのか。

 

「あたしは……あたしは……!」

 

 数時間程経った頃、シンがようやく顔を上げた。

 

「こ、こんな弱虫がどうなろうと知ったこっちゃねえ……! あ、あたしが何かをしてやる義理なんざどこにもありゃしない!」

 

 とめどなく溢れ出て来る涙が冷たい石畳を温める。

 これもまた、見れた顔ではないが……最初よりはマシだろう。

 

「死ぬも生きるも勝手にしやがれ!!」

 

 スカー・ハートが光の粒子となり右腕に吸い込まれていく。

 浮かび上がった茨の刻印を見れば主たるシンの意は明白だ。

 

「~~ッ……う、うぅ……あぁぁ嗚呼嗚呼あああああああああああああああ!!」

 

 シン”ちゃん”が俺の胸に飛び込んだ。

 胸に顔を埋め嗚咽を漏らす姿は酷く幼い。

 抱き締める事も、頭を撫でる事もせず俺は黙ってその涙を受け止め続けた。

 そうしてどれ程、時間が流れたか。

 いや、時の停まった世界でそれを語るのもおかしな話か。

 

 ようやっと落ち着いたシンちゃんがゆっくりと俺から離れた。

 

 名残惜しそうな顔をしていたが、無礼だと言う気持ちが勝ったのだろう。

 目は赤く、頬も赤いが、それでも見れる顔に戻っていた。

 

「あ、あの……あたし、その……も、申し訳ありません……いきなり……」

「黙って見届ける、そう言ったはずだ。私が己の言を違えるとでも?」

「い、いえ! 決してそのような事は……って、ルークス様? 一体何を……」

 

 檻の中に居る少女の眼前に立ち、そっと額を撫でる。

 

「貴様は選んだ。ならばもう、必要はあるまい」

「……?」

 

 疑問には答えず、俺はその場から転移し帰宅した。

 とは言え、不安だからもうしばらくは見守り続けるつもりだが。

 

『う、うぅん……』

 

 時間停止を解除し、時が流れ始める。

 

『おねえちゃん、だれ……?』

『!?』

『あたし、なんでこんなところに……? あれ? なんでないてるんだろ……』

 

 これもまた、あの時とは違う選択なのだろう。

 シンちゃんには力を与えた、名も知らぬ少女からは悲しみを奪い去った。

 

『そうか……ルークス様は……』

『おねえちゃん?』

『何でもねえさ。ああ、何でもない』

 

 険の取れた、どこか穏やかな表情。

 その心から怒りが消えた訳でも減じたと言う訳でもない。

 未だ危うい均衡の上に在る事は確かで、だがシンちゃんは少しだけ前に進んだ。

 今日この日の選択が未来においてどんな影響を齎すのかは分からない。

 無駄になる可能性だって十二分にある。だが今は、せめて今だけはその前進を寿ごうではないか。

 

『あたしは通りすがりで、お前が誰かなんて知らねえよ』

『そっかぁ』

『だがまあ、疲れてる事は分かる。少し、眠ると良い』

 

 優しく少女の意識を断ったシンちゃんはそっと彼女を抱きかかえ殺人現場を後にした。

 そしてそのまま真っ直ぐポチの居る酒場へ戻ると、

 

『おいバーテン』

『? 何でしょうか』

『このガキを施設にでも預けてやれ』

『え? い、いや急に何を……』

『あ゛?』

『わ、分かりました! 万事お任せください!!』

 

 あの女の子がこれからどんな道を辿るのかは分からない。

 シンちゃん自身も、これから先、その様子を見に行ったりする事はないだろう。

 だがこの出会いはきっと、無意味なものではなかったと……そう、信じたいものだ。

 

『おう、ところであたしのツレはどうした?』

 

 そういうやポチ居ないな。

 室内にはむっつりっぽいバーテンと全裸でさめざめと涙を流しているゴリラが三匹。

 バーテンは”アリ”だけどゴリラはちょっと……いや、筋肉キャラも好きだがね?

 

『別室でお待ちです』

『っつーと……ああ、ようやっと来たのか。ありがとよ』

 

 軽く礼を告げシンちゃんはバーテンダーが指差した部屋の中へと向かう。

 中ではポチと中々に洒落っ気のある爺さんがグラスを傾けていた。

 

『ああ、やっと戻って来たんだ。遅いよ』

『連絡入れろつっただろ』

『忘れてたよ』

『テメェ……いや、まあ良い。それより爺さん、アンタが依頼人か?』

『ああ、そうだとも。私はアルフレッド。君達にはとあるダンジョンの探索を依頼したい』

 

 ダンジョン……ダンジョンかぁ……。

 依頼はこなしたけど、冒険者っぽいダンジョンの探索とかはやってねえんだよな。

 機会があればまた今度、ルーナちゃんとして活動してみようか。

 

『それは知ってる。依頼の貼り紙にも書いてあったしな。だが、普通のダンジョンじゃねえんだろ?』

『察しが良いようで何より。君達はザイン・ジーバスを知っているかな?』

『知らない人の方が少ないと思うよ。で、ザインがどうしたの?』

『彼は駆け出しの頃、とんでもない不運に見舞われてね。まあ、それが躍進の切っ掛けになったのだが……』

『前置きがなげえよ。要点を話せ要点を』

 

 そういや、結構待たされてたんだったか。

 アルフレッドもそこらは承知しているのか苦笑気味に頷いている。

 

『彼はね、初心者向けダンジョンだと思われていた場所で偶然、未踏の領域へと続く道へと迷い込んでしまった。

そこは一流の冒険者でも厳しいようなダンジョンで、その癖さしたる旨味もないような場所でね。

鍛錬と言う意味では良いのかもしれないが、物的な旨味は皆無に近い』

 

 確か、ザインがレオン・ハートと出会った場所だったか。

 アレは良いアーティファクトだが他には目ぼしいものがなかったのね。

 

『だから潜る者もあまり居ないのだが、私はその領域に興味があってね。

初心者用だと思われていたダンジョンに更なる先があった――――ならばその先にもまだ道が続いているではないのか? とね』

『その調査に向かえって事かな?』

『いいや、先へ続く道は見つけたんだ。ただ、どうにもレベルが段違いらしい。私では無理だった』

 

 そう言ってアルフレッドはシャツのボタンを外して見せた。

 胸には深く大きな傷が刻まれているが……あれはただの傷ではない。

 あの傷は生きている。生きて未だに彼を蝕み続けている。

 治癒能力を活性化させるアーティファクトで均衡を保っているようだが、全快まではかなりかかるだろう。

 

『ふぅん……そこを調べて来いって訳か。良いな、あたしの嗅覚はやっぱり正しかった』

『でもさ、何でわざわざギルドに依頼を貼り出したのさ? それもあんな不親切な内容で』

 

 それは俺も疑問だった。

 アルフレッドは優秀な冒険者なのだろう、だがそれは本職ではない。

 恐らく彼の本業は貴族とかそう言うのだと思う。

 冒険者家業はあくまで道楽って感じだ。いや、道楽でやるには実力に恵まれ過ぎのようだが。

 話がずれた、大事なのは彼が金持ちと言う事実だ。

 やろうと思えば大金を積んで冒険者を大量に雇って調査に送り込めるだろう。

 だと言うのに何故、こんな形で望みを叶えようとしているのか。

 

『それだよ』

『あ?』

『この依頼が厄介だと嗅ぎ取れるようなセンスを備えているのが最低条件。

その上で直に顔を合わせ実力の程を確かめて任せられそうならば依頼を受けてもらうって寸法さ』

『じゃあ、僕たちはお眼鏡に適ったって事かい?』

『うむ。本来なら軽く手合わせでもと考えていたが、困った事にどう足掻いても君らを殺せそうにない』

 

 笑いながら言う事じゃないな。

 いや、アルフレッドからすれば希望通りの冒険者とマッチング出来て嬉しいんだろうけどさ。

 

『Pくんとシンラくん、だったかな? 君ら程の人間ならもっと名が売れていてもおかしくはないと思うのだが……』

『あたしらは道楽で冒険者やってるようなもんだ。名が売れてなくても当然さ』

『それより、僕らは具体的にどうすれば良いのかな? お爺さんを護衛してそこに潜れば良いの?』

『いや、私が着いて行っても足手まといになるだけだ。それは私の本意ではない。ゆえにこれを』

 

 懐から取り出した二つの小箱をテーブルに置くアルフレッド。

 中に入っていたのはモノクル――片眼鏡だった。

 

『これを装備すると見たものをそのまま記録する事が出来る。

君らはこれを着けて可能な限り未踏領域を歩き回って欲しい。

ああ、決して無理はしないでくれよ? 君らが死ぬと貴重な情報がパーになってしまうからね』

『正直な爺だ』

 

 多分、本質的には学者タイプなのだろう。

 好奇心が最優先される類の。だが、明け透けにものを言う姿勢は嫌いじゃない。

 それはシンちゃんとポチも同じようで悪感情らしきものは窺えない。

 

『それで、受けてくれるかな?』

 

 二人は小箱を手に取り、

 

『『その依頼、確かに受諾した』』

 

 不敵に笑ってみせた。


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