TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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一章最終話を始めます。
序章は3話で終わりましたが……今回は多分4話ぐらいになると思います。


最終話 Ⅰ

「……」

「どうしたんだいジャンヌさん、調子でも悪いの?」

 

 今日も今日とて冒険者家業、貧乏暇なしとはよく言ったものだ。

 肩を並べてギルドを目指す一行だが、どうにもジャンヌの顔色が優れない。

 

「ジャンヌ、あなたちょっと前から何か変よ? 悩みでもあるの?」

「い、いえ別に」

 

 テメェのオ●ニー見ちまったせいだよ!

 そう叫びたい気持ちをグーパンラッシュで捻じ伏せニコリと微笑む。

 ジャンヌは自分の理性と言うものを褒めてやりたくてしょうがなかった。

 

「そ、それより様子がおかしいと言うのならマリーさんもデートから帰って来た日はどこかお顔が優れませんでしたけど」

 

 さらりと話題転換を図ったジャンヌ。

 目論見は成功したようで、マリーが見事に釣り針に引っ掛かる。

 

「え? デート? 何それ?」

「え? 違ったの? てっきり初デートでやらかして凹んでるんだと思ってたけど」

「デートだって思われてたのも初耳だけど、やらかしてるとか思われてたの私!?」

 

 割と本気でショックを受けるマリーであった。

 あんまりそれらしい素振りを見せないので勘違いされるが、マリーも女の子。

 恋愛にも年頃の乙女特有の淡い幻想を抱いていたりするのだ。

 

「向こうはその気なのにアンタは全然そのつもりなくて」

「挙句、帰り際に楽しかったねとか無邪気に笑って男性を凹ませそうですよね」

「ひ、酷い……酷いよ……」

「って言うかデートじゃなかったんですか?」

「違うよ! この街に居る魔女を研究してるってお爺さんに会いに行っただけ!!」

「ああ、そう言う……マリーさんは餌として連れて行かれたんですね」

「いや、実際その通りなんだけどさ」

 

 こうもドストレートに言われてしまうと心にクるものがあった。

 マリーもそうだが、スペーロの姓を持つ少女は歯に衣を着せると言う言葉を知らないのかもしれない。

 

「そんな人が居たんだ……」

 

 一方のマレウスは別の部分に反応していた。

 真なる魔女の信者としては何か思うところがあるのだろう。

 

「じゃあ何で凹んでたんです? そのお爺さんに何か言われたんですか?」

「ううん。色々話を聞いて分からなくなったって言うか……何かそんな感じ」

 

 上手く言葉に出来ないからそれ以上は聞いてくれるな。

 言外にそう語るマリーの意を酌みジャンヌもそれ以上の追及はしなかった。

 

「……ねえリーン」

「どうしたの?」

「その、迷惑でなければ今度そのご老人を紹介してくれるかしら?」

「何? マレウスってば老け専だったの?」

「違うわよ! 単純に……その、興味があるだけ。知的好奇心よ」

「うーん、でも一人で会ってくれるかな?」

 

 リーンが難しい顔で唸っているが無理もない。

 シンの身内であるリーン、そして色々な意味で興味をそそられるマリーであったからこそルインもそれなりの対応をしたのだ。

 最初の居留守を使うような性根が基本なのでマレウス単体での面会は難しいだろう。

 

「なら、また話を聞きに行く時に同席させてくれない?」

「それなら……まあ。ちょっと気難しいお爺さんだから、気分を害したらごめんね?」

「ワガママ言ってるのはこっちだもの。別に気にする必要はないわ」

 

 そんな話をしていると気付けばギルドに辿り着いていた。

 四人は早速、依頼が貼り出されている掲示板の前に向かったのだが……。

 

「うーん」

「微妙な依頼ばっかですね」

 

 リーンを除く三人の実力では簡単過ぎる依頼か、ちょっと無理そうな依頼しかない。

 中間の丁度良いような依頼は根こそぎ他の冒険者に持って行かれた後だった。

 

「簡単なのこなして、その後はリーンさんに稽古をつけてもらいます?」

「僕はそれでも問題ないよ」

「ちょっと待って。一つ提案があるのだけど」

 

 マレウスが手を挙げ全員の視線を集める。

 

「今までは森だとか山だとか平原だとか、外の依頼ばかり受けて来たじゃない?

冒険者らしく此処らでダンジョンってものを経験してみるのも良いと思うのだけど」

「でも、私達が入れそうなダンジョンは依頼の中にはないっぽいよ?」

「ええ、だから今日の依頼はお休み。初心者向けのダンジョンに向かいましょう」

 

 依頼として貼り出されている訳ではないがダンジョン自体は少し離れた場所に存在している。

 そしてそこは駆け出し冒険者達の勉強用としてよく利用されていた。

 マレウスも小耳に挟んだ程度だが、以前から気にはなっていたのだ。

 

「お金は入らないけど良い経験にはなると思うのだけど如何かしら?」

「良いんじゃないかな」

「私も良いと思います」

「僕も……ちょっと興味あるかな」

「あら意外。経験豊富なあなたが?」

「いやほら、僕にとって冒険者はあくまで都合の良い身分でしかないからさ」

 

 修行兼路銀稼ぎの手段として冒険者と言う職業を利用しているに過ぎないのだ。

 強さ”だけ”を見れば成る程確かにリーンも一流に食い込みはするだろう。

 だが冒険者に必要なのは強さだけではない。

 

「ぶっちゃけダンジョンとかは潜った事がないんだ」

「へえ、じゃあ一緒に初体験だね!!」

 

 嬉しそうに笑うマリーだが、

 

「「「……」」」

 

 三人の顔は微妙なものだった。

 ついでに周囲に居る他の人間も微妙な顔をしている。

 顔を赤くしている者。

 ニヤニヤと笑っている者。

 ドン引きしている者。

 反応は様々だが、どれも手放しで喜べるようなものではない。

 

「マリー……あなた、あなたは……」

「そんなだから初デートでやらかすって思われるんですよ……」

「え? え? 何? 何なの?! ねえ、リーンくん!!」

「僕に、僕に聞かないでくれ! それよりさあ! ほら、準備を整えに行こうじゃないか! 初ダンジョンアタックのためのね!!」

 

 ちょっとしたトラブルはあったものの、初心者用ダンジョンセットを購入し四人はエデを出てダンジョンへと向かった。

 青い空に雲は流れ、柔らかな風が頬を撫でる。絶好の冒険日和だ。

 まあ、四人が行くのは日の光も届かないダンジョンの中なのだが。

 

「そう言えばマレウス、ちょっとお聞きしたい事があるんですが」

「ん? 何?」

「掲示板に貼ってある依頼書にダンジョンの調査だとか遺跡の掃除だとかってありますけど、この二つって別物なんですか?」

 

 ジャンヌからすれば遺跡もダンジョンもイメージ的には同じようなもの。

 とは言えわざわざ書き分けられている以上、何らかの違いがあるのだろう。

 博識なマレウスなら知っているかもと話題に出してみると彼女はフフンと鼻を鳴らした――解説タイムである。

 

「勿論。ちゃんとした区分は存在しているわ。先ず遺跡、これは大前提としてその来歴がハッキリしている事」

「来歴?」

 

 リーンも興味をそそられたのかその顔には好奇心が滲んでいた。

 

「ええ。まあ、来歴と言っても昔存在していた国の祭儀場だとか陵墓だとか詳しくは分からなくても良いんだけどね。

建物や周辺の地層とかそう言うのを調べて大体どの時代のものか、どうやって作られたかが分かれば十分って感じなの」

「へえ、じゃあダンジョンは?」

「その反対よ。どの時代のものか、どうやって作られたのか。その由来がまるで分からない物を指すわ。

そしてもう一つ。遺跡には居たり居なかったりとまちまちだけどダンジョンには必ずモンスターが存在しているの」

 

 過去、とある国に大層考古学に熱心な王が居た。

 当時はまだ遺跡とダンジョンの区別も曖昧で、彼は共に大事な過去の遺産だと手厚く保護した。

 兵を動員し、内部からモンスターを駆逐。

 人にも人ならざる物にも遺跡を荒らさせないようにと警備の人員まで配置した程だ。

 

「遺跡をねぐらにしようと侵入するモンスターは居たけど、それらは総て撃退された。

遺跡は静寂を取り戻した――――でも、ダンジョンはそうはならなかったの。

警備を突破された? いいえ違うわ。完全に閉鎖されているはずのダンジョン内部から勝手にモンスターが湧き出したの。

それは何度駆逐しても同じ。一定時間が経過すれば再度モンスターが蔓延る危険な領域に戻ってしまった」

「何でモンスターが勝手に湧き出るの?」

「それが分かれば一生遊んで暮らせるだけの財産が手に入るわね」

 

 つまりは不明と言う事だ。

 何もかもが分からない、それがダンジョンと言う領域なのだ。

 

「ああ、ちなみにモンスターってそもそも何なのかとかは聞かないでよ?」

 

 外見上、雌雄があるようなモンスターも居る。

 だが生殖を行っているのかと言えばそんな事はない。

 だと言うのに倒しても倒しても勝手に増えて来る。

 人類を一度滅亡の淵まで追いやった存在だ、当然研究も進められているが今以って詳細は分かっていない。

 

「ダンジョンの事も含めてそう言うのを知ってそうなのは、それこそ真なる魔女ぐらいじゃないかしら」

 

 もっとも、聞いたところで素直に教えてくれるかは怪しいが。

 いやそもそも、会える可能性自体限りなく低いだろう。

 

「っと、着いたわね。此処よ」

 

 岩肌を繰り抜くように穿たれた洞の中に入る一行。

 中は薄暗く、リーンはそれでも十分目視が可能だが三人には灯りがなければキツイだろう。

 マレウスは早速ダンジョン攻略セットの中に入ってあった魔力を籠めて点火するタイプの手提げランプに光を点す。

 

「ねえマレウス、これ隊列はどうすれば良いの?」

 

 天井は結構高いが通路の幅は横に並んで三人半程、戦闘を想定するなら二人が限界だろう。

 マレウスは少し考えてから位置取りを提案した。

 

「私を挟むようにして前方はマリーとジャンヌ」

「私は長物なので気を付けないといけませんね。マリーさんまで殴り飛ばしてしまうとか洒落になりませんし」

「怖いんだけど!?」

「いざ本番でそうならないように温いダンジョンで練習するんでしょうが。そして後方の警戒はリーンに任せても良い?」

「ああ、任されたよ」

「ありがと。ああ、それと今回は私も普段と違ってバンバン戦線に加わるからね? 魔法が当たらないよう気をつけてちょうだい」

 

 段取りを確認し一行は再び歩き出す。

 

「これ、目的とかそう言うのは設定してあるんですか?」

「一応、地下四階にある石碑をゴール地点に設定しているわ。

練習に使う人達も大抵はそこまで行ってボス的なゴーレムを倒して一服、そして帰還って感じみたいだし」

 

 会話をしている間も足は止まっていないし、気も緩めていない。

 更に言えばマレウスなどは手も止めていない。

 手提げランプをマリーに任せマッピングをし続けている。

 本来、この程度のダンジョンでマッピングをする必要は皆無なのだがこれもまた練習。

 それなりに安全が担保された環境でダンジョン攻略に必要なノウハウを身に着けようとしているのだ。

 

「おっと、二十メートル程先の曲がり角にモンスターが居るみたいだね。リーダーどうする?」

 

 リーンがそう言うと三人がピタリと足を止める。

 

「数は分かる?」

「一匹だね。種類は……この気配からしてミノタウルスとかそこらだと思う。三人でやるならそこまで脅威でもないだろう」

「ふむ、こっちには気付いてない?」

「うん。気付いてないようだ」

「そう」

 

 となると選択肢は二つ。

 位置的に先へ進むのならば戦いは避けられない。

 だが、どう戦うかだ。

 此方から出向いて行くべきか、此方に誘き寄せて始末するかだ。

 

「マリー、よろしく」

「…………釣って来れば良いんだね?」

「ええ、こちらの準備が整ったら行ってちょうだい」

 

 ダンジョン内での初戦闘だ。

 安心安全策を選ぶのが一番だと判断したマレウスは迎え撃つ事を決める。

 

「こちらはOKです。いやまあ、武器構えるだけですからね」

「私もOK。何時でも魔法を撃てるわ」

「分かった。じゃあ行って来ます!」

 

 ランプを持ったまま奥へと消えて行くマリー。

 臨戦態勢に入っている二人が息を呑んでいると、モンスターの雄叫びが上がる。

 

「行きます!!」

 

 マリーの姿が見えると同時にジャンヌが駆け出した。

 そして二人が交差するタイミングを見計らいジャンヌは飛び上がりマリーはその場にしゃがみ込んだ。

 そして開けた進路上を紫電の爪が駆け抜けて行った。

 

「グァ!?」

 

 何時かのように魔方陣を用いてはいないので速度も威力も貫通力も劣っている。

 だが、ミノタウルスの腹部に飲み込まれた劣化ライトニング・ネイルは見事ミノタウルスの進撃を止めてのけた。

 

「ドラァ!!」

 

 飛び上がっていたジャンヌが軽く仰け反ったミノタウルスの頭部目掛けて全体重を籠めバトルメイスを叩き付けた。

 良い具合に頭頂部にヒットしたそれはミノタウルスの頭を身体にめり込ませる事に成功。

 だがまだ絶命はしていない。

 

「やぁ!!」

 

 しゃがみ込んでいたマリーが身体を捻り低空から突き上げるようにしてその心臓に刃を食い込ませる。

 そこでようやくミノタウルスの命の灯火が掻き消え、ゆっくりと崩れ落ちていく。

 

「お見事。流石の連携だよ」

 

 背後で控えていたリーンがパチパチと小さく拍手を送る。

 これは世辞でも何でもない、純粋な賞賛だ。

 三人は特に示し合わせた訳でもないのに見事な連携を以ってミノタウルスを討ち取ってみせた。

 これを見事と言わずして何と言うのか。

 

「たまたま上手く噛み合っただけよ。相手が良かったわ、鈍重なミノタウルスじゃなきゃこうもスムーズには行かなかったでしょうし」

「それでも日頃の積み重ねがなかったらこうはいかなかったさ。」

「……欲しい言葉をさらっと言うわよね、あなたって。これで天然なのだから性質が悪いわ」

 

 郷里――いや、エデに辿り着くまでに訪れた先々でも泣かせた子が随分居るのでは?

 そう思わせるだけの言動行動をしているリーンに思わず白い目を向けてしまうマレウスであった。

 

「「?」」

「鈍い御二人には分からないでしょうね」

「そうね。それよりさあ、先に進みましょ」

 

 金になりそうな素材の剥ぎ取りは終えた。

 これ以上この場に留まっている理由はないとの言葉に三人も頷き一行は探索を再開した。

 

「む、マレウスマレウス。あれ、宝箱じゃないですか?」

 

 十字路の右、行き止まりの先には宝箱が鎮座していた。

 思わずニヤけるジャンヌだが事前にこのダンジョンについて調べていたマレウスとしては苦笑を返すしか出来なかった。

 

「……じゃあまあ、とりあえずこの鍵開けを使って開けてみたら?」

 

 ダンジョンで必要になりそうな道具が一式揃った攻略セットの中から簡易の鍵開けを手渡す。

 受け取ったジャンヌと物欲に釣られたマリーがいそいそと宝箱の前に駆け出して行った。

 

「ちょっとマレウス! 灯り灯り! 灯りないとジャンヌが宝箱開けられないよ!!」

「はいはい、今行くわよ」

 

 マレウスが駆け寄るとジャンヌは喜び勇んで鍵穴を弄り始めた。

 そうして数分の格闘の末、ついに中身が開かれるが……。

 

「「え、何これ?」」

 

 中に入っていたのはちょっと大きな皮袋。

 紐を緩めて中身を検めてみれば、そこには干し肉を始めとした数種類の乾物がギッシリと詰め込まれていた。

 

「あら、当たりを引いたみたいね」

 

 言いつつ魚の調味干しを手に取り口の中に放り込む。

 噛めば噛む程味が滲んで行く――これを漬けた人間は中々にやるらしいと内心で舌を巻くマレウス。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 何なの!? 全然お宝じゃないんだけど!」

「金目の物はどこですか!?」

「ま、まあまあ二人共、落ち着きなよ。忘れたのかい? ここは初心者用のダンジョンなんだよ?」

 

 発見当初はともかく、今ではもうすっかり探索し尽くされていると考えるのが自然だろう。

 目ぼしいものが見つかるなんてまずあり得ない。

 

「そう言う事……んぐ! あー……美味しかった」

「美味しかった! じゃないんだけど!?」

「私達がどんな目的でこのダンジョンに来たのか、もう忘れちゃったの? 勉強のためでしょ? この宝箱は教材の一つなの」

 

 何時からそうなったかを知る者は少ない。

 だが、ある時この宝箱を開いた冒険者は中身が空で大層な脱力を覚えたと言う。

 後続の人間が同じ思いをしないため撤去するか? とも考えたが、彼はある事を思いついたのだ。

 宝箱を開けるのも良い経験、だが中身が無いのはもの悲しい。

 それならば自分が中身を入れてしまえば良いじゃないか。

 大した物は入れられないが空よりはマシ、次にこれを開ける冒険者のガッカリ感も多少は減じるだろう。

 そんな善意と共に彼は幾許かの金貨を入れ、再度宝箱を施錠したと言う。

 

「で、気付けば次の人もそのまた次の人もそれを真似するようになっていったらしいわ」

 

 宝箱の中身を手に入れる代わり自分も何かを箱に入れ再度施錠。

 明文化されている訳ではないがこのダンジョンに潜る冒険者の中では自然とそのような慣習が生まれていた。

 

「はぁ……そう言う事ですか。何か良いですね、小さな優しさのバトンを繋げているような感じが」

「だね! 私達は何を入れようか?」

 

 マレウスの説明を聞いた二人は落ち着きを取り戻す……どころか軽く上機嫌になっていた。

 些細な事だが、人の善意が垣間見えて心が温かくなったようだ。

 

「下着でも入れます? 年頃の女の子の下着って男の子にとってはある意味お宝になり得るかもですし」

「僕に聞かれても困るよ!? と言うか宝箱を開けるのは同性かもしれないじゃないか!」

 

 したらジャンヌらの下着なぞ小汚い布切れでしかない。

 

「ちょっとした冗談です。流石に色気もへったくれもない下着を入れる度胸はありませんよ」

「……いやいや」

 

 ちょっと可愛い下着を穿いていたら宝箱の中に入れていたのか?

 一瞬そう考えるリーンであったが、直ぐにそれを頭から叩き出した。

 このまま思考を展開するとドツボに嵌ってしまいそうな気がしたからだ。

 

「それよりどうしよっか。私達も何か食べ物入れる?」

「保存の利く食べ物は今手に入れたこれぐらいでしょ」

「中に入れるならこれなんてどうかな?」

 

 ポーチから取り出したのは青色のゼリーが入った瓶詰めだった。

 

「ああ、ヒールゼリーね。うん、これなら貰っても腐る事はないし良いと思うわ」

 

 ヒールゼリーと言うのは治癒用のポーションを半固体化したものだ。

 通常の治癒ポーションとは違い、飲むのではなく患部に直接塗り込める事で効果を発揮する。

 ピンポイントに傷口を癒す事へ特化させたそれはそこそこ値が張るものの前衛の間では必須アイテムの一つとなっている。

 

「あ、鍵かけるなら次は私にやらせてよ」

「分かりました、ではどうぞ」

 

 鍵開けを受け取ったマリーは傍でジャンヌのやり方を見ていたからだろう。

 割とスムーズに施錠を済ませる事が出来た。

 

「それじゃ探索再開って事で」

 

 地下のゴールを目指す一行。

 下へ降りるにつれてモンスターの強さや数も増えていくが、それ以上に手古摺ったのがトラップや先へ進むための仕掛けだった。

 知力担当がマレウスしか居ない上、その彼女も初見で簡単に解除出来る程の器用さはない。

 それでもどうにかこうにか皆で力を合わせて何とか突破。

 三時間程で石碑のある広いフロアへと辿り着いたのだが、

 

「ゴーレムと戦いに来たのか? 悪いがまだ調整が終わっとらん。ちょっとそこらで待っていてくれ」

「「サイファーさん(先生)!?」」

 

 何故かルインがゴーレムを弄繰り回していた。

 

「んお? おお、よう見ればお主らは……そういやお嬢ちゃんの方は駆け出し冒険者とか言っておったのう」

「あの、マリーさん達のお知り合いですか?」

「う、うん。ほら、道中で話した始原の魔女を研究してるお爺さんってこの人の事……なんだけど……」

 

 その研究者が何故、ダンジョンの地下でゴーレムを調整しているのか。

 それについてはマリーにも分からず困惑しきりであった。

 

「サイファー先生、あなたはこんなところで何をやってるんですか?」

「見りゃあ分かるじゃろ。ゴーレムの調整じゃ。ここしばらくは手を入れてなかったからか、随分傷んでおるわ」

「…………ええっと、サイファーさんでしたか? ひょっとして、このダンジョンってギルド公認の練習場だったりするのかしら?」

 

 勘の良い者ならばルインがゴーレムを調整している姿を見て察しがつくだろう。

 ダンジョンの最深部で待ち構えるゴーレム。

 それが人の手によって造られたものだとしたら……設定された”ボスキャラ”と言う事に他ならない。

 となれば関与しているのはギルドだと推測したマレウスだが、

 

「いんや? ギルドからの依頼なら立ち入り禁止にしとるじゃろ」

 

 ゴーレムの背景を知ってしまえば気が緩むはずだ。

 そう、これは練習用に造られたものだから命までは奪われまい……と。

 そんな心持ちで挑む馬鹿が良い経験を積めるとでも?

 もしもギルドの要請でやっているのであれば徹底的に背景を隠蔽するはずだとルインは指摘する。

 

「じゃあお爺さんは何で……?」

「金のため――つまりは依頼じゃな。もうかれこれ三十年になるかのう」

 

 ルインもまた若かりし日、このダンジョンには世話になっていた。

 とは言え当時はボスキャラも何もなく、ただ石碑の前まで行って帰るだけだ。

 しかし、それじゃあ緊張感が足らないのでは?

 とルインと共にかつてパーティを組んでいたが今は引退し大商人となった元冒険者が疑問に思った。

 

「曰く、後進へのお節介だそうじゃ。わしゃ正直どうでも良いんじゃが……」

 

 件の元冒険者には借りがあった。

 国からの支援を得られない時期、兎に角金が欲しくて欲しくてしょうがなかった頃。

 今やっている依頼も含め実入りの良い依頼を幾つも斡旋してもらったのだ。

 無論、本人の実力あってこそだがルインとしては珍しく素直に感謝をしていた。

 だから金に困らなくなった今でもこの依頼だけは定期的にこなしているのだ。

 

「へ、へえ……でも、あの、それって私達に話しても良いの?」

 

 説明を聞き終えたマリーが疑問を呈する。

 割かし鈍いところもあるが、背景を知る事で生まれる懸念を察する事ぐらいは出来るのだ。

 

「構わんぞ。油断しとったら死ぬだけじゃし」

 

 後進へのお節介と言っても甘いだけではない。

 慢心に足を掬われるような輩が冒険者を続けたって誰のためにもなりはしない。

 ゆえにゴーレムには本気で侵入者を殺しにかかるようしっかり設定がなされてあった。

 

「し、死ぬだけ……ですか……」

「じゃが、さっきも言うたが今は調整中じゃ。そうさのう……二十分ぐらい待て。もしくは出直せ」

「「「「……」」」」

 

 四人は顔を見合わせ困ったように頷き合う。

 

「……待とっか」

「そうね、此処まで来て帰るのもアレだし」

「それじゃあ周囲を警戒しつつ小休止って事で良いのかな?」

「それでよろしいかと」

 

 宝箱で得た乾物セットを噛みながら作業を見守る四人。

 魔女であるマレウスは興味深そうにしているが、他の三人にとっては実につまらない光景だった。

 気付けばジャンヌは得物の手入れ、リーンは素振り、マリーは石碑の見物と各々好きな行動を取るようになっていた。

 

「(……何て書いてあるんだろこれ?)」

 

 自分の背より少し高い石碑にはビッシリと文字が刻まれている。

 だがそれはマリーの知る文字ではなく内容はまったく分からない。

 

「ねえサイファーさん、サイファーさんならこの石碑に書いてある事、分かりますか?」

「ああ、それか……いや、分からん。研究の一環で古代文字なんぞも幾らか修めちゃあおるが……その石碑の言語はどれにも当て嵌まらん」

 

 作業をしつつもマリーに対応するのはご機嫌取りの一環だろう。

 この老人にうら若い娘の問いを無視したところで痛む良心なぞありはしないのだから。

 

「一応、言語を専門とする連中に解読を頼んだ事もあるがさっぱりよ」

「へえ」

「そもそも石碑と呼んどるが石かどうかも分からん」

 

 マリーの手が自然と石碑に向かって伸びる。

 徐々に距離が詰まり、ぺたりとその手が冷たい石碑に触れたその瞬間だ。

 

「うぎ……!?」

 

 リーンを庇って貫かれた左肩が――”竜の血”を受けた左肩が疼く。

 焼き鏝を当てられたかのような熱と痛みにマリーはたまらず肩を抑えて蹲った。

 

「ちょ、ちょっとマリーどうしたの!?」

「しっかりしてください!!」

 

 仲間達が駆け寄るもマリーはそれどころではなかった。

 熱、痛み、明滅する視界、そしてどこからともなく聞こえて来る鼓動にも似た何かの音。

 頭がどうにかなってしまいそうだ。

 だが、異常が起きていたのはマリーだけではない。

 

「! 何だ、石碑が光って……!?」

 

 石碑から溢れ出した光が爆ぜるように最下層を満たす。

 全員の視界が真っ白に染まり、音も消えた。

 数秒か、数十秒か、数分か、或いはもっとか。

 最初に戻った五感は視覚だった。

 

 純白のベールが晴れた先に広がっていたのは大空洞と花畑。

 

 陽光差さぬ大空洞はしかし、地に敷き詰められた白い花がぼんやり光を放っているお陰で薄っすらと明るい。

 ここはどこなのか、先ず間違いなくマリーらが探索していたダンジョンの地下ではないだろう。

 考えるべき事は幾らもある、だが今の彼らにそんな余裕を与えてくれる程、状況は優しくはなかった。

 

「チィ……! 何なんだテメェは!?」

 

 剣戟の音が鳴り響く。

 

「……姉さん?」

 

 ずたぼろになりながら戦うシンの姿がそこにはあった。


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