TS転生したからロールプレイを愉しむ   作:ドスコイ

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前話に引き続き残酷な描写があります。


第二話(裏)君の名は

「(ハッハッハ! いやいや、我ながら上手く出来たもんだ)」

 

 自動で背中を掻いてくれる孫の手。

 埃を完全に消し去るまで止まらない不屈のルンバ。

 五分経っても目覚めないと流血を伴う実力行使に出る暴力的な目覚まし時計。

 

 修行以外ではそんなアーティファクトぐらいしか作って来なかった俺だ。

 

 真面目なアーティファクトを創造するのは割と久しぶりだったので少しばかり不安だったが……どうやら杞憂らしい。

 ザインの愛剣たるレオン・ハートを参考に創った剣。

 同じく心を燃料としているがレオンハートはあくまで切れ味を変えるだけ。

 

 だがあの女の子に贈った……そうだな、スカー・ハートとでも名付けるか。

 

 スカー・ハートは別だ。あれは切れ味のみならず身体能力までも強化されるようにしている。

 燃料だって違う。レオン・ハートが心の輝き――正の光を源泉とするのならスカー・ハートは負の業火”怒り”を源泉としている。

 別に意地悪をした訳ではない。

 あの女の子にとって一番強い感情が憤怒だったからそれに合わせただけ。

 

「(誰かのために作るなら製作者の独りよがりはいかんでしょ)」

 

 担い手に合わせて最高のパフォーマンスを発揮してくれるものでなければ。

 仮にレオン・ハートと同じように正の感情を燃料にしたとしよう。

 確実にあの子は力を発揮出来ない。だってそんなもの、どこにもありはしないのだから。

 

「(デザインも良いよね、特に刀身に絡み付く茨なんか超OSR)」

 

 俺の中で息をする中学二年生が暴れた結果だ。

 男なんて何時まで経っても心に中学二年生と言う名の獣を飼ってる生き物なのだ。

 だって俺、前世の享年が…28だっけ? 四捨五入して三十路。

 三十路だったけど中二系の作品大好きだった。バリバリ少年ハート燃やしてた。

 

 ――――さあ、そろそろ現実逃避は止めるとしよう。

 

「(やべえ、やべえよあの子)」

 

 真っ赤に染まった小さな身体。

 顔には狂気を滲ませ歓喜の哄笑を吐き出しながら黄昏の王都を往く少女。

 俺が認識阻害魔法をかけていなければ即座にスタァアアアアアップ! と衛兵に止められていただろう。

 そして皆殺しにされていたことだろう。

 

「(ビジュアルもやばいが、それ以上に中身がやばい)」

 

 そもそもの発端について語ろう。

 

 パンケーキを食べたお陰で腹が膨れ、宿でうとうとしていた時のことだ。

 あ、やばい落ちるって瞬間に突然”叫び声”が響き渡ったのである。

 物理的な声ではない、魂より出ずる心の雄叫びだ。

 魂の形や感情に起因する色が視えると言ったが、視えるだけではない聞こえもするのだ。

 

 意識して耳を傾けてみれば何千何万のノイズがあちこちから吐き出されているように聞こえるだろう。

 

 だがそんなことをしていては人が多い現世での日常生活がままならない。

 なので基本的にガンスルーでシャットアウトしているのだが理屈はザインの時と同じで違いは目か耳か。

 あまりに強い叫びであればついつい耳で拾ってしまうのだ。

 無視したいけど無視出来ない。

 何故か耳に残ってしまう。

 

「(だがこれは……)」

 

 予想以上だと言わざるを得ない。

 良かれ悪しかれ俺が無視出来ないレベルの叫びを放つ人間は現世において潜在的に英雄か魔人になるような人間だ。

 開花すればという但し書きはつくが花開いてしまえば善であれ悪であれ甚大な影響を世界に与えることだろう。

 あの子は力が欲しいと言葉にした、だが本質は違う。何故力を求めたのか。

 根底にあるものは? 彼女の真なる心の叫び――それは”憤怒”だ。

 

「(凄まじいな)」

 

 俺があの子に力を与えた理由は二つ。

 

 一つは知ってしまった以上、あんな境遇の子を見て見ぬ振りをするのはちと後味が悪い。

 そんな自己保身的な同情心によるもの。

 二つ目は尊敬の念を覚えたから。

 だってそうだろう? 劣悪な環境で虐げられながらも心を折らずに牙を磨ける。

 それは誰にでも出来ることではない。普通は心折れてしまうだろうに彼女は諦めなかった。

 感情の向かう先が善か悪かなんて関係ない、その熱量にこそ俺は敬意を抱いたのだ。

 

 だが一つ、誤算があった。

 

「(……まるで変わっちゃいない)」

 

 正の感情と違って負の感情は消費されていくものだ。

 友情、愛情、勇気、慈悲、それら正の感情は減じることはない。

 そりゃ愛した相手がロクでもなかったりとかで愛情が失せていくなんてのはあるだろう。

 だが基本的には減るような代物ではない。

 汲めども汲めども自然と心の裡から湧き出るものだから。

 

 対して負の感情はどうだろう?

 

 それは明確に減るものだ。

 誰かに苛ついていたとしよう。

 そいつを力いっぱいぶん殴ってやればスッキリして怒りは薄れるだろう。

 自分の大切な人を奪った奴をぶっ殺して復讐を遂げたとしよう。

 スッキリするか、結局大切な人は戻って来ないのだと虚無るか……何にせよ憎悪そのものは薄れるか消える。

 

「(奴隷商人皆殺しにしたってのにまるで怒りが減じてねえ……)」

 

 少女は自分を直接虐げて来た連中を軒並み惨殺してのけた。

 過ぎ去った時間は取り戻せないし、与えられた痛みも消えはしない。

 それでも多少はスッキリするものだろう? 怒りが薄れるものだろう?

 

 少女の嚇怒は1ミリ足りとて減っていなかった。

 

 それを証明するのが俺が与えたスカー・ハートだ。

 怒りを燃料にして強化が施される魔剣は怒りが減じれば当然、強化の度合いも減少する。

 アレは常時最高のパフォーマンスを発揮出来る類のものではない。

 握った時がピークで後は下がり続けるのが普通……だったんだけど……ねえ?

 少女は未だピークを保ち続けている。

 

「(まだ復讐対象が残っているから、か?)」

 

 心を丸裸にしてしまうのが手っ取り早い。

 しかし見届けると言った手前、ことが済むまでは静観しておきたいと言うのが本音だ。

 見れば少女は一件の雑貨屋の前で足を止めた。

 恐らくはそこに彼女の両親が居るのだろう。

 

『な……!?』

 

 少女と同じ黒髪黒目の中年の男女が驚きを露わにしている。

 認識の阻害は血縁者に対しては無効になるよう設定してあったので、やはり彼らが少女の両親らしい。

 

『おいおい、何だよ? お化けでも見たようなツラぁしちゃってさぁ』

『ど、どうして……』

『どうして? 自由になったからに決まってるじゃないか』

『じ、自由に……? そ、そうか。それは、良かった……』

 

 言葉と顔が合っていない。

 そりゃそうだ、娘が――しかも奴隷商人に売り飛ばした我が子が血塗れで帰還したのだから。

 幾ら朗らかな顔で笑っているとしても怖いに決まっている。

 何をしたのか、自分達をどう思っているのか。

 今、彼らはかなり追い詰められている。往来に血塗れの人間が居ても誰も不思議に思わないと言う異常にも気付かぬほど。

 

『にしても、あたしの記憶じゃ店は潰れかけだったんだが……何か前より立派になってねえか?』

『え!? そ、そうね。それよりお腹空いたでしょう? ご飯にしましょう?』

『なあ、何でだ? 借金もあったし、とても立て直せるような状況になかっただろ?』

『……』

 

 ただでさえ青かった両親の顔が更に青褪めていく。

 そりゃそうだ、娘売った金で立て直したなんて言えねえよ。

 

『何黙ってんだ?』

『ひっ……!』

『答えろよ、なあ? 何でだ? 言えねえのか? 言えねえならあたしが言ってやるよ』

 

 あどけない表情が一瞬にして悪鬼のそれに変わる。

 

『あたしを売った金でだろうが!!!!』

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 母親の両手足が切断される――達磨好きだなこの子。

 自由を奪われたと言うトラウマに起因しているのかな?

 少女は崩れ落ちた母親の頭を踏み付けにしてゲラゲラと嗤っている。

 

『りゅ、リュクス! 母さんに何を……!?』

『うるせえ屑が! 二度とその名で呼ぶんじゃねえよ!!』

『痛い、痛い痛い痛い痛い……た、助けて……あなた……!た、助けてぇええええええええ!!』

『お、おい誰か! 何で私達を無視するんだ!?』

 

 ここで彼らも気付いたようだ。

 道行く者らが誰一人として自分達を見ていないことに。

 

『ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ喧しいんだよ!!』

 

 母親の肩に剣を突き立てぐりぐりと傷口を穿る。

 失血死やショック死――出来れば楽なのだろう。

 

「(えっぐいな)」

 

 スカー・ハートは担い手である復讐鬼の少女に最大限応えている。

 茨で傷口を塞ぎ、魔力を注ぎ込み心も身体も死なぬようにと母親を無理矢理に生かしている。

 

「(こんな機能をつけた覚えは無いんだが……)」

 

 即席とは言え真の魔女たる俺が創ったアーティファクトだ。

 拡張性があるのは頷ける。

 頷けるが、だとしてもそれを活かせるほどの怒りは並大抵のものではない。

 

『パパ! さっきママの声が聞こえたけど一体……』

『! 駄目だリーン!』

『ママ!? お前、ママに何を……!』

 

 店の中から五歳ぐらいの男の子が姿を現す。

 少女はその姿を見るや否や剣を握っている手とは逆の腕から茨を伸ばし男の子を絡め取った。

 

『あぁああああ!?』

『ヒヒヒヒ、はじめましてぇ……リーンくぅうううん。お姉ちゃんですよぉおおおおおおおおおお!?』

『お、おねえ……?』

『ん? そこの屑どもに教えてもらわなかったのかな? おいオッサン、説明しないとババア殺すぞ』

『ッ!』

『ああそう、殺して良いんだ。分かった。じゃあ……』

『ま、待て! り、リーン……この子は、父さんと母さんの子供で……お前のお姉ちゃんだ』

『嘘だよ! だってお姉ちゃんなら何でこんなことするの!?』

『そ、それは……』

『説明しろよ、早く。はーやーく!』

 

 最早父親の顔色は青を通り越して白になっていた。

 母親も同じで、息子が現れたからだろう。

 自分の痛みを後回しにして息子を案じているようだが、どう考えてもそれは逆鱗だ。

 

「(子供を売り飛ばすような親が何を……)」

 

 いや、売り飛ばしたからか。

 その後悔が元で心を改めたのかもしれない。自分のことよりも我が子を、と。

 だがそれは少女にとっては関係のないことだ。

 改心したところで事実は覆せない、少女は親に捨てられたのだ。

 

『そ、そんな……』

 

 リーン少年は両親の所業を知って顔を真っ青にしている。

 噛み砕いて分かり易く説明していたとは言え、あの年頃で随分聡明だな。

 

『よう塵屑ども、このガキ寸刻みにして良いよな?』

『ま、待って! 悪いのは私達よ!? リーンは関係ないじゃない!!』

『そ、そうだ! 憎しみをぶつけるなら俺達だけで……』

『許しを乞うこともなく反論たぁ嗤わせる』

 

 両親にとって少女は後ろめたい存在ではあっても、過ぎ去ったものなのだろう。

 だからこそ謝罪よりも先にそんな言葉が出て来る。

 少女の指摘に両親らはギョっとする、更に火を注いでしまったことに気付いたのだ。

 

『まあ良いさ。あたしも可愛い弟を好んで殺したい訳じゃない。

だから……そうだな、おいオッサン。この阿婆擦れを徹底的に痛め付けて殺せ。

したらこのガキの命は見逃してやる。切り捨てるのが得意なお前らだし、ぴったりだろ?』

『な……!? そ、そんなこと……』

 

 妻と息子の間で視線を彷徨わせる父。

 

『お姉ちゃん! 止めて!!』

『何で?』

『な、何でって……パパもママも悪いことをしたけれど……で、でもパパとママが居なきゃお姉ちゃんは生まれなかったんだよ!?』

『そうだな』

 

 うんうんと頷き、

 

『――――で、それがどうした?』

『ッッ……!』

『あたしはコイツらのせいであんな目に遭ったんだ。不幸だよな、子供は親を選べねえ』

『で、でも……でも……』

『おいオッサン、早くしろよ』

『う、うぅ……』

『はい時間切れ』

 

 父もまた手足を失い地面を這う芋虫へと変わった。

 仮に父親が要求を呑んでいたとしても少女に約束を履行する気はさらさらなかっただろう。

 

『じゃ、このガキ寸刻みにするわ。足から頭の天辺までゆっくりゆっくり削り取って殺してやるよぅ』

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 許してください許してください!!』

『嫌だね。お前らはあたしの大切なものを全部踏み躙った。だからあたしも同じことをする……と言いたいがやっぱ止めた』

『『!』』

 

 地獄に仏を見たかのような顔をしているが、それは虚構だ。

 俺の目で見る限り少女に情なんてものは一切無い。

 

『殺すのはお前らだけで、コイツは孤児にしよう。

この王都じゃ身よりのないガキの未来は真っ暗だからな――――まあ、ただの孤児になれるかどうかは分からないが』

 

 ここでようやく理解したようだ、少女が何を考えているのか。

 

『女だからってのもあるが、歯向かい続けて来たあたしですら六年も飼われてたんだ。

よくは知らんがよっぽど貴重なんだろうなぁ、あたしらみたいな人間は。

だからたんまり金も貰えたと。このガキは男だが、中々どうして変態爺や変態婆に受けそうな顔してやがる。

希少性と容姿、良い玩具になるだろうな。売る側も当然、高く飼ってくれそうなド変態向けに調教を施すだろう』

 

 あぁ……やっぱその手のテンプレ悪徳貴族とかも居るんだな。

 

『お、弟を自分と同じ目に遭わせるつもりなの!?』

『いやいや、大人しくしてりゃあたしよりはマシだろうぜ? 従順にやってりゃ調教も早く終わるだろうし。

まあ、変態の性玩具になる訳だから売られた後についちゃ知らんがな。五年か、十年か。

男だからどこまで可愛がってもらえるかは知らんけど、そこそこ幸せな暮らしが出来るんじゃねえかな?』

 

 ゲラゲラと嗤いながら少女はリーン少年の腹に拳を突き刺した。

 手加減していたので穴は開いていないが、数日は目を覚まさないだろう。

 

『じゃ、お前らの処刑を始めるか。ガキの代わりに寸刻みにしてやるよ』

 

 そうして少女は宣言通りの処刑を始めた。

 動けぬ両親をゆっくりゆっくり……日が沈み月が真上に昇るまで。

 

「……」

 

 ふと気付いたのだが俺はこんな光景を目にしてもビビらないような人間だったかな?

 前世では映画のスプラッタなシーンですら反射的に目を瞑っていた記憶があるのだが。

 そしてこの事態を招いた罪悪感ぐらいは覚えても良いんじゃないか?

 卑しい小市民的に俺も悪いけどそもそもアイツらが悪いとか気まずい思いをしながら責任転換していそうなものだが。

 

「(……俺自身は変わっていないつもりだけど二千年も普通の人間と接してなかったからおかしくなったのかな?)」

 

 魔女になり力を得たことも関係しているのかも。

 ……いや、自分自身のことなんて分からないし気にするだけ無駄か。

 

「(それより、問題はリーンくんだな)」

 

 とりあえずリーン少年についてはこのままにしておくのは忍びない。

 まだ幼いせいか目につき難かったが姉とは真逆の正の輝きを放つ魂を備えている。

 まず間違いなく今日の悲劇を乗り越えて正道を歩いていくだろう。

 この齢で俺なぞよりもよっぽど強い、敬意に値する。

 

「(ん? よくよく考えれば姉と同じ理由で手を出そうとしてるのか)」

 

 悲劇を招いた俺なぞの手を借りたくはないだろうが俺は魔女だ。

 魔女らしく好き勝手に振舞おう。

 とりあえずリーンくんは姉がこの場を離れた後に意識が戻るようにしておこう。

 その後は成り行きに任せつつ問題が起きそうなら適時フォローを入れれば良いな。

 あ、フォローと言えば奴隷の人らも……自助努力で何とかなりそうなのはともかく子供の方はフォローしておくべきか。

 

 そう結論付け視線を姉に戻す。

 

「(……ここまでやっても怒りは減らないのか)」

 

 血の海に立ち尽くし月を眺める少女の顔は無表情だった。

 だがその心の奥底では変わらず憤怒の炎が燃え滾っている。

 最早奴隷商人や奴隷商人に自分を売り渡した両親なんて括りで収まるものではなかったのだろう。

 怒っているのは、憎んでいるのは、一個人ではなく非道が罷り通る世界そのものか。

 

「(おっかねえなぁ……この怒ロリ)」

 

 今更力を取り上げるのもな、キャラ的にどうなのよって。

 かと言ってこのまま放置すれば、それはそれでヤバイ気がする。

 復讐を果たせたと今は勘違いしているが、時間が経つにつれ無意識下にある憤怒が顔を出すだろう。

 そうなればさて、どんな行動を取るか。 社会的には抹殺されるべき対象となるのは予想に難くない。

 

「(どんな理由であれ一度手を差し伸べた子供がそうなるのはちょっと……)」

「! 女神様!!」

 

 俺が姿を現すと少女はパァっと顔を輝かせた。

 信仰と憤怒、この二つか。今の彼女を構成しているのは。

 

 どうやら少女は言葉通りに俺を神格化しているらしい。

 

 絶望の暗闇の中で手を差し伸べ力をくれた。

 その時点で救いの神と認識することに否はなく。

 尚且つ表層(エレイシアとしての演技)に無意識ながらシンパシーを感じたのだろう。

 彼女からはちょっと引くぐらい俺への熱い憧憬と感謝、信仰を感じる。

 

「(しかしこれなら……)」

 

 手元に置けそうだ。

 俺が何を言わずとも勝手に着いて来そうな凄味を感じるもの。

 エレイシア的にもそんな子供を振り切り放置するとかはしないし、OKOK。

 

「あの……あたし……じゃねえ。私、女神様のお陰で復讐を果たせたでございますです!」

「何だそれは? 私を馬鹿にしているのか?」

「ッ……ご、ごめんなさい。でもあたし、本当に……」

「上澄みを吐き出し少しは落ち着いたか」

「???」

 

 ふわりと髪を靡かせ少女に背を向ける。

 この靡かせ方にこだわりがある。

 綺麗に見えるように、絵になるように、入念なシミュレートを重ねて魔法の補助も使い髪を靡かせているのだ。

 

「あ、あの! これ、この剣……」

「くれてやると言ったはずだが?」

「で、でも……」

 

 意外と殊勝だな。

 すんげえ柄悪いけど俺の前じゃ借りて来た猫みてえ。

 

「道化の三文芝居とは言え無聊の慰めにはなった。その褒美だと思えばよかろう」

「ご褒美、ですか? それなら別のお願いが……」

 

 殊勝かと思ったら存外厚かましい。

 いや、お願いの予想は出来るし俺自身にも都合は良いんだけどさ。

 だがそうなるとポジション的にこの子は魔女の双騎士、その片割れになるのか?

 

「何だ?」

「……お、恩返しを」

「?」

「恩返しをさせてください! あたし、何でもやります! だから女神様の傍に置いてください!!」

「は?」

「め、女神様にとっては気紛れだったのかもしれません……でも、あたしにとっては……!」

 

 屈辱の日々、そしてそこからの解放。

 溢れ出る雑多な想いは津波のようで、上手く言葉に出来ないのだろう。

 

「……好きにするが良い」

「!」

「だが、女神様は止めろ」

「なら、何とお呼びすれば……」

「ルークス」

「え?」

「ルークス・ステラエ、私の名だ。貴様の好きに呼ぶが良い」

「で、ではルークス様と!!」

 

 さっきまでの怒ロリっぷりが嘘のような忠犬ぶりである。

 だが何にせよこれで、確保は完了だ。

 俺の傍に居る限りは怒りを自覚しても俺を優先するだろう。

 

「貴様の名は?」

「……あたしに名前はありません。ルークス様の好きなように呼んでください」

 

 エレイシア的には貴様と小娘でこと足りる。

 しかし、それでは万が一彼女が何かがありツンデレロールをする際に不便だ。

 

「シン」

「し、ん……?」

「罪か真か――――貴様はどちらなのであろうな?」

 

 皮肉げに笑ってみせる。

 とりあえずシンちゃんの更生は将来出会うであろう(期待)未来ちゃんポジに放り投げよう。

 

「(俺みたいな自分の都合で生きてるガキにティーンを更生させるとか無理ゲーだし)」


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