ココロマジカル ──ココロを救う、奇跡の魔法──   作:個人情報の流出

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ヒナタアオイの取材タイム!

「うう……疲れた……」

 

 放課後。オニガシマ先生にこってりと絞られた私は手帳を片手に高等部校舎に向かっていた。

 みなさん、理由はもうおわかりでしょう。ズバリ、取材のため、です! と言うのも、一昨日のこと。高等部1年B組に、時季外れの転校生が来たのです。それが物凄い美人なものだから、すごく大きな話題になったのです。なんでも、高等部でも一二を争う美少女だとか。そんなすごくて素敵な人、取材しないわけにはいかないよね?

 とはいえ、今の私は疲労困憊。普段の運動不足とオニガシマ先生からの叱られ疲れが響いていて、階段を降りるのすら億劫なほど。だからふらふらゆっくりと階段を降りています。ああ、こんな時に魔法少女になれたらもっと楽なんだろうなぁ、なんて思うけど、それは無い物ねだり。あれはたった1日の夢みたいなものだったんだから、忘れるのが吉でしょう。

 もう時間もそこそこで、部活動以外の生徒はまったく見かけない。これはもう、話題の美少女も帰ってるかもなぁ、という考えが一層私の足を鈍くします。

 ダラダラ歩いてようやく1階にたどり着くと……なんと。後ろからお尻をむんずと掴まれた感触がしました。私だって、普通の女子中学生。いくら普段は元気でも、この時ばかりは恐怖で悲鳴を上げることすらできません。喉が閉まって、ひゅっ、ひゅって息しか口から出ていかなくて、体ががちがちに固まる中、思考だけがぐるぐると回ります。

 

 え? 何? 痴漢? なんでこんなに白昼堂々と!? いや、今は夕方だから白昼堂々ではないけど学校でとか正気じゃ無い! あ、もしかしてこの前カナが言ってた私狙いの変質者? ほんとに居たの、私狙いの変質者! って事は集団? どこかに連れ込まれて官能小説展開に!?

 

 そうこうしているうちに、私のお尻を掴んでいた手が離れ、変質者が私をぎゅうっと抱きしめました。この異常事態に、私の思考はさらに回ります。

 

 ひゃわぁ!? そんないきなり大胆なぁ!? 何々、ほんとにどうなっちゃうの私! 今日の私なんか災難続きだよ!? 

 

 そして、不意にあることに気づきました。

 

 ……男の子の体ってこんなに柔らかいの? それになんか良い匂いも……ってあれ? なんか、おっぱいみたいな感触がする……? ……私を抱きしめてる右手、ギプスがハマってるんですけど。

 

 この頃には思考もだいぶ落ち着いてきて、振り向いて誰かを確かめようという考えが頭の中に浮かんできました。相手も抱きしめてから何もしてこないし、そーっと、そーっと 相手の顔を見るべくゆっくり振り返ると、そこには。

 

 満面の笑みで私を抱きしめるカナが居た。

 

「……」

 

「いやぁ、待ってましたぞアオイ殿! お疲れさま、どうだった? オニガシマ先生の指導。疲れたでしょ? ハグにはストレス解消の効果があるから、私の愛情込めたハグでアオイの疲れを癒やして進ぜ……ヨヴッ!?」

 

 ZUTUKI。カナの暴走を止めるときに一番効果的な暴力。とりあえず、私は今取っても怖い目に遭ってストレス解消どころかストレスマシマシだったから、このくらいは許されると思う。

 

「……カナ」

 

「ど、どうしたの、アオイ? すごく目が据わってるけど?」

 

「カナ」

 

「アオイー? 目が怖い、目が怖いよ? いつものニッコリ笑顔は?」

 

「カナ」

 

「アオイの顔が近いのは嬉しいんだけど肩をがっしり掴まれてるし目が怖いよ? ねえ目が怖い」

 

「カナ」

 

「あっちょっ、ま、頭振りかぶらないデッ!?」

 

 うん。2発目も許されると思う。私はゴロゴロと転がったカナに詰め寄って、なるべく、なーるーべーく、ドスの効いた声を作って、カナに文句を言う。

 

「カナ?」

 

「……はぃ」

 

「もう二度と後ろからセクハラしないで」

 

「わかりました」

 

「絶対だからね?」

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

 一通り反撃もして、謝罪も貰って、まあ、許してあげなくも無いかな? って感情になったから、これ以上の追撃はしないでおこうか。ふぅ、とため息をついて、頭からつま先まで綺麗な土下座をしているカナに、しゃがんで目線を合わせる。

 

「カナ」

 

「……はい」

 

「私、今から高等部の噂の転校生に取材に行くんだけど」

 

「はい」

 

「一緒に行く?」

 

「行く!」

 

 うわ、物凄い即答。……でも。

 

「そう言うと思った! 行こ、カナ!」

 

 カナの言う、いつものニッコリ笑顔で元気に、カナに手を伸ばす。友達の手を取って立ち上がらせるって、なんか憧れてた。格好いいじゃない? あれ。

 

「うん、りょーかい!」

 

 流石カナ。私の意図を一瞬で読み取ってくれて、きっちり私の手を取ってくれた。それじゃあ、後は私がカナを立ち上がらせるだけ! 

 

「って、あれ?」

 

 ……動かない。全部の力を込めてカナを引っ張ってるのに、カナが一向に持ち上がらない。

 

「え、ええっと、ふんっ! ……うー、ふん、ふん、ふんっ! ……うー!」

 

 何度引っ張ってもうんともすんともびくともしない。これは……流石に、ちょっと悲しいかもしれない。

 

「カナ……私、力が欲しいよ」

 

「アオイ……あなたはそのままで良いのよ」

 

 そう言ったカナの顔が物凄い笑顔だったから、なんだかちょっぴりむかっときた。……よし。おまけに1発頭突きしよう!

 

「あれ、どうしたのアオイ? また私の肩をつか……待って! 私! 何も悪い子としてなぁぁアアッ!?」

 

 ふー、3回も頭突きしたらやっと気分がすっきりした。これでもし取材できなくても、気分良く帰れそう! ……とはいえ、流石にやり過ぎたかな。うん、明日はカナにあーんしてあげよう。

 

「じゃあ、張り切って取材に行きましょー! おー!」

 

「待ってぇ、まだ頭ガンガンするー……」

 

 フラフラと歩くカナをちょっとだけいたわりながら、私は高等部校舎まで向かうのです。

 

 

 

 桜塚学園高等部校舎は、中等部と同じ敷地内にあります。門を通って真ん中に大きなグラウンドがあって、左側に中等部校舎、右側に高等部校舎って感じです。

 

「こんばんわー」

 

 高等部校舎にたどり着いた私は、笑顔で警備員さんに挨拶します。そうすると、警備員さんは私の顔を見て、ニコリと笑って校舎内に通してくれました。

 中等部生が高等部校舎に入るには、本来は学生証と理由が必要なのだけど、もう何度もこの校舎に足を運んでいる私は、警備員さんに顔を見せるだけで通れるようになったのです。所謂顔パス。有名人になったみたいで、なんだかちょっぴり嬉しい。ちなみに、よく私について校舎に入るカナも顔パスです。私の保護者扱いって言うのがなんとも悔しいけれど。

 

「アオイちゃんと、カナ?」

 

 こうして中に入ったところで、私は綺麗な女性の声に呼び止められました。後ろを振り返ってみると、そこに居たのは。

 

「あ、ヒトミ先輩!」

 

 ヒトミ先輩。桜塚学園高等部での美少女トップ争いに食い込む、クール美人。長い黒髪に赤いカチューシャがよく映えている。先輩には、先輩が中等部だったときに取材をして、仲良くなっている。カナとも剣道部の先輩後輩同士だったから仲が良い。

 

「ヒトミ先輩、お久しぶりです」

 

「久しぶり。残念だったね、夏の大会出られなくなって。カナが出てたら中等部は優勝だったのに」

 

「そんなこと、ないですよ」

 

「……あんまり落ち込むなよ? 来年もある。高等部もある。今は力の溜め時なんだよ、きっと。エネルギーを溜め込んで、優勝してやりな」

 

「……はい」

 

 ヒトミ先輩はカナを優しく抱きしめる。カナのほうが身長が高くて頭を撫でてやれないから、仕方なくね、って、前にヒトミ先輩が言っていた。

 

「で、アオイちゃん。残念だけど……あの子なら、もう帰ったよ」

 

「まだ私なんの用事で来たか言ってないですヒトミ先輩!」

 

「アオイちゃんがここに来る理由なんて取材以外無いでしょ。……今話題のあいつへの取材以外、さ」

 

「ぐ、ぐぬぬ……私の行動ってそんなにわかりやすいですか……?」

 

「わかりやすいに決まってるだろー? カナからどれだけアオイちゃんの事聞いてると思ってんの」

 

「ち、ちょっと先輩!」

 

 珍しくカナが顔を赤くして先輩に抗議する。先輩はごめんごめんと言いながら笑った。

 

「ていうか、アオイちゃん今日はここに来るの随分遅いね。いつもだったら放課後真っ直ぐ走ってくるでしょ。何かあったの?」

 

「あー、その……トランプ持ち込んで、オニガシマ先生に怒られてました」

 

「まぁたそんな物持ち込んだのぉ? あんまりオニガシマ先生に苦労かけちゃ駄目だぞー」

 

「はぁい……気をつけます」

 

 まあ、これからもトランプを持ってくるのをやめる気は無いんだけれど、そこは黙っておこう。

 

「それにしても……もう帰っちゃったんですかー、噂の転校生……」

 

「ま、残念だけどまた明日出直しな」

 

「むー……わかりました、そうします。また今度、一緒にお食事行きましょ、先輩!」

 

「うん、わかったよ。また今度ね」

 

「やったぁ! じゃあ行こ、カナ」

 

「あ、うん。……ありがとうございました、先輩。それじゃあ、また」

 

「うん、今度会ったときは練習試合でもしようか」

 

「はい、お手柔らかに」

 

「じゃあね、2人とも」

 

 そんな話をして、私たちは高等部校舎を後にする。明日、また取材に来ようと心に決めて。

 

 

 まだ、私は気づかない。あの時出会った非日常が、再び、私の許へ歩み寄ってきていることに。




魔法少女ファイル No.7

井上静香 イノウエ シズカ

3月4日生まれ、12歳。桜塚学園中学1年

趣味:特になし

将来の夢:特になし


備考
東階段屋上前の踊り場に現れた、1年生の少女。アオイの質問攻めに遭うが、そのほとんどをはぐらかしていて、本人のことはほとんどわからない。ただ、内気な少女であるということだけが、今わかっている彼女の全てだろう。

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