リトルケイズリ   作:あおばさん
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N-N-Nさん、誤字報告ありがとうございます。


鋲飛ばし

 

毎時650キロ近くを叩き出す誉エンジンに絞りに絞った胴体…か。

 

偵察ストライカーのクセしてエアラコブラより速いじゃないか!

 

『加東!慣らしは終わった。1500上がれ!』

 

宇野部少佐もご機嫌なようで…アレに撃たれる側にもなってみろ…

 

『了解』

 

無線機のスイッチを押して返答し、スロットルを押し出して、軽快に高度を上げていく。

 

上がりは素直なんだけどなぁ…

 

ミッドシップという珍しいエンジン配置のP-39。

 

バランス自体は良くて、操縦桿の動きにもパッと反応する。

 

『よ〜し、行くぞ、吹き流しが見えた』

 

宇野部少佐がコブラに曳航されている吹き流し標的を視認した。

 

あぁ、あの太い30ミリがこっちに飛んでくるのか…

 

避けちゃダメ?

 

そう思いながら、緩い旋回をかけて、少佐がズームすると同時に射程に入れる。

 

ズガン!ズガン!と景気のイイ30ミリが轟音と共に放たれ、曳光弾が機体の後ろを流れていく。

 

吹き流しに命中すると、着発式だったのか、一気に燃え盛り、吹き流しは塵となる。

 

おっかない。

 

『よし!当たったぞ。帰投だ、おい、加東聞いてるか!』

 

『ジジッジジッ』

 

なんかもう、おっかなびっくりなのと疲れで面倒くさくなり無線機のつけ消し音で返答する。

 

だが、それが良くなかったみたいで、宇野部少佐の心に火をつけ、何だか悪い事態へと物事が進む。

 

『加東、1戦やるぞ…』

 

低くおどろおどろしく感じる声で宇野部少佐は一言だけそう伝えると、真後ろに一気に縋り付いてくる。

 

ガン!と音がなるぐらいに力強くスロットルを押し込み、操縦桿を倒して捻る。

 

ドッグファイトの始まりだ。

 

プロペラのトルクに合わせてラダーを踏み込みつつ、高度を下げながら、緩い錐揉みのように螺旋を描いて旋回。

 

短い旋回についてこられず吹っ飛ぶことを期待したが、体に負荷をかけて飛行機よりも旋回半径を縮められるストライカーには意味はなく。直ぐに追いすがるかのようにエンジン音が聞こえてくる。

 

操縦桿を引いて今度は縦線回。

 

スロットルを頂点で一気に下ろし、宙返りの機体をエルロンロールで水平に、その間にラダーを蹴り上げて、失速ギリギリまで保つ。

 

すると魔法のように照準機のレティクルに人型が写る。宇野部少佐だ!

 

『クソっ!』

 

彼女は、オーバーシュートしながらストライカーをひねって、機関砲を無理やりこちらに向けようとする。

 

が、直ぐに失速してフワッとレティクルから消える。

 

こちらも失速寸前だったので一気にスロットルを開いて、機首を下げ、宇野部少佐の斜め後ろに降下して編隊を組む。

 

『引き分けだな…撃てても相打ちだ』

 

『こっちはヒヤヒヤしましたよ…速度が馬鹿みたいに速いし、復帰力も尋常じゃない』

 

『誉エンジンだからな、2000馬力でゴリ押せるっと…ストライカーの機嫌が少し悪い。先に降りるぞ』

 

『了解』

 

コンバットピッチを組んで、基地の滑走路に侵入。

 

宇野部少佐が降りたのを確認してから、切り返して、アプローチを深めにとって、着陸。

 

エプロンに機体を止めて、彩雲ストライカーの駐機場所に集まっている整備兵たちに声をかけようとする。

 

 

「うっげぇ…斜銃をかけていた所が皺になってんぞ…」

「エンジンも焼けてやがる」

「うわぁ、鋲も飛んじまってんなぁ…こりゃ眠れんぞ」

 

 

が、流石にそんな雰囲気な所に声をかけるわけにも行かず。

 

宇野部少佐に報告をした後、機体のチェックをして…そんなことをしていたら疲労が限界に達し…執務室のソファに寝転がって、眠ってしまった。

 

 

 

………

 

 

 

南洋島に着いて、宇野部中尉との調整飛行は翌日の総合訓練に向けて、より過激になっていった。

 

大川准尉の対向射撃も軽々と避けられるし、飛燕のダイブ戦法も速度がそんなに変わらないせいで照準機にすら写らない。

 

それでも、何とか准尉とのコンビネーションでツーバイワンながらも、中尉と渡り合う。

 

苛烈に苛烈、一度飛び上がれば燃料が切れるまでドッグファイトをさせられ、気力も何もかも奪われる。

 

日が落ち始めて、訓練がようやく終わり、准尉とふらふらになりつつ、何とか編隊着陸をして、チョークが車輪を挟まれた瞬間、体がずり落ちそうになる。

 

「鋲飛ばしの加東に大川を、ツーバイワンでヘロヘロにさせるなんて、海軍のウィッチは何者なんだ?」

 

整備兵長がボヤくのを片耳にフラっフラっの体に手を叩きながら、乳酸が溜まり、痺れて歩きづらい足を前に動かす。

 

「鋲飛ばしの加東に大川」ってのは、不本意ながらの70戦隊の時のあだ名だ。

 

所以は、准尉の対向射撃のために、こちらも無理な機動を続けるため、揃って乗機の鋲を飛ばしてしまうことから。

 

ワザとじゃないんだ…

 

少佐にもお前の操縦にキューナナが追いついてないだけって言われたし。

 

他にも准尉は「大物喰いの大川」という二つ名をもっている。

 

まぁ…大物(しか)喰(わな)いからなんだけどね。

 

いや、別に准尉は射撃が下手なわけじゃない。格闘戦も超一流の腕だ。だけど、いかんせん性格がなぁ…大物喰いに拘るのも…性格がねじ曲がってる所為だよなぁ…

 

ホントに、見た目は同期一なのに、所々吹っ飛んでるから。

 

「なぁに考えてんのよ!!」

 

「イタッ…」

 

准尉もフラフラになりながらこっちに歩いてくる。いつにもまして頭のモサモサがモサモサしているように見えるのは疲れからくる幻覚か。

 

今朝のごとく准尉に脇腹をチョップされる。

 

「キツイ…何であの中尉、あそこでひねれるの…」

 

「アレは正直わかんなかったすね…ダイブブレーキか何かだとは思います…」

 

消えるように後ろに吹っ飛んで仲良く後ろを取られた時を思い出す。

 

「よく見た。加東少尉だったな」

 

目の前には何ともないように腕組みをして仁王立ちしている宇野部中尉…なんつー体力だ…

 

「私が乗っているのは彗星一二型の夜戦タイプ。貴官らの後ろをとった時に使ったのは急降下爆撃用のダイブブレーキだ」

 

「おい、宇野部、喋りすぎだ。というか、絞りすぎだ。加東少尉、大川准尉、もう今日は休め…」

 

司令テントから出てきた源田さんが、宇野部中尉の頭に軽くゲンコツして、こちらを労ってくる。

 

「源田さん…すみません」

 

「良いんだ…宇野部は普段からこういう風にやらかすからな…私の口からも何度注意したことか、取り敢えず休め」

 

「ありがとうございます…」

「了解」

 

殆ど倒れかけた状態で准尉と共に敬礼をして、与えられた宿舎に向かう。足がガクガクだ…

 

 

 

………

 

「…ちょう!隊長、起きてください!」

 

「クレムスキ中尉…?」

 

一体どうしたんだそんなに慌てて、と声をあげる前に咎められる。

 

「こんな所で寝られてはお体に障ります!」

 

あぁ、ちゃんとベッドで寝ろと…

 

今一度自分の姿を見る。

 

簡単に軍服を着崩して、楽な姿勢でソファの上でグースカ寝ていたようだ。少しお腹が痛い。

 

かいた汗が冷えて体に悪いな…

 

「ゴメン、中尉。しっかりと寝る。心配かけてすまなかったな」

 




<皺がよる>
これは実機の記録、というより逸話ですね。彩雲という絞りきった機体が30ミリの反動で皺が出来てしまったという。事実かどうかは明確なソースがないため不明ですが、モデルの彩雲の最も有名なエピソードです。

<大川准尉は大物喰い>
こちらも史実から。
モデルの小川氏は総撃墜数9機の内7機がB-29という方です。残りの2機はマスタングやらの戦闘機。
操縦の腕もさることながら、射撃の腕は超一流で、2機のB-29を1撃で仕留めるという前代未聞の記録を残しています。(撃ったホ301の弾が1機のコクピット付近に命中、密集していたもう1機とぶつかり合い、1撃で2機撃墜と記録)

次→未定







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