今回のイッセー達のシーンはシリアスなはずなのに、主人公ではないせいか茶番に見えてしまうのは私だけだろうか。
それではどうぞ
三人称side
翌日、駒王学園オカルト研究部にて、二人の聖剣使いと魔王の妹がお互いに向かい合っていた。魔王の妹であるリアスの後ろには彼女の眷属達が背後に立っており、その一人である木場 裕斗は何やら部屋の隅っこの壁に腰をかけて聖剣使いであるゼノヴィアとイリナを睨みつけていた。それにはゼノヴィアやイリナも気づいてはいたが、無視をして要件について話し始める。
「この度、会談を了承してもらって感謝する。私はゼノヴィア」
「私は紫藤イリナです」
「私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ。それで、教会側の人達が私達悪魔に何の用かしら?」
お互いに挨拶を交わすと、リアスはゼノヴィアとイリナを鋭い視線で見つめると今回の会談の内容についての疑問を投げかけ、それに対してはゼノヴィアが答えた。
「簡潔に言おう。教会側が所有しているエクスカリバーが、堕天使たちによって奪われた」
「何ですって!?」
「我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏しているという情報を掴んだからだ。我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここに来た」
「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの」
リアスが驚くと事の経緯を説明するゼノヴィアとイリナは割と淡々としており、リアスは教会側の不手際に対し不満や苛立ちを覚えるが外面は冷静であった。
「………ならば、その堕天使の名は?」
リアスはそう聞くと、ゼノヴィアは重い口調で答えた。
「『
「コカビエルですって……!?」
その犯人の名前が挙がると、その場にいたイッセー以外は驚愕の表情を浮かべる。コカビエルは先の三大勢力の戦争にも参加していた堕天使で、少なくともリアスや聖剣使いの二人よりかは戦闘経験も豊富な実力者である。
「………それで、貴方達は私達に何を要求するのかしら?」
「簡単だ。私達の依頼……いや、要求は私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに悪魔が介入してこないこと。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ」
「まさか、私達が堕天使と手を組むとでも?」
「可能性がない……と言いきれるか?悪魔にとってエクスカリバーは忌むべきものだ。そうだろう?もし、そちらが堕天使と手を組んでいるなら、私達はあなた達を完全に消滅させる。たとえ、魔王の妹でもね」
リアスはゼノヴィアのその言葉に対し、軽く殺気を飛ばしていた。瞳には怒りが感じられ、まだ新人悪魔として日が浅いイッセーはビクッと身体を震わせているほどだ。が、それでも癇癪は起こさず、彼女は優雅に対処する。
「そう、ならば言わせてもらうわ。私達はそんなことしない。魔王の妹として、次期当主として、魔王の顔に泥を塗るような真似は決してしないわ」
「それを聞けただけでも十分だ。それでは失礼する」
会談がキリのいいところで終わったことでゼノヴィアとイリナはその場から立ち去ろうとするが、その場にいた一人の少女の存在に気がつくと足を止めて怪訝な顔で彼女を見つめた。
「……ん?顔を見た時もしやと思ったが……君はもしかしてアーシア・アルジェントか?」
「は、はい……」
「まさか……こんな地で『魔女』に会えるとはな」
「あ〜!あの堕天使や悪魔を治す力があるから追放されたっていう元聖女さん?」
イリナもアーシアの存在をやっと確認した事でバカにするように彼女をマジマジと見つめ、笑っていた。
「まさか悪魔と一緒にいるとはな。とことん堕ちるのか」
「わ、私は……!」
「今でも信仰を続けているのか?それとも、もう主を信じてはいないのか?」
「す……捨てきれないだけです……。ずっと……信じてきましたから……」
すると、ゼノヴィアは背中に携えている包帯が巻かれた大剣、『
「ならば今すぐ私達に斬られるといい。君が罪深くとも主は手を差し伸べてくれるはずだ。せめて私の手で断罪してやる。……むっ?だが、今の君には何か特別な力を感じないな……まさか、力を抜き取られてそれから悪魔に転生させられたと言ったところか」
「わ、分からないです。でも……あの力を取り込んだレイナーレ様を倒したのは、その破壊の神様なのでその方と何か関連があるんじゃないかって、部長さんが……」
あながち間違ってない推理である。何故なら、アーシアに宿っていた神器はレイナーレごと、そして『システム』ごとブランに破壊されたのだから。神器所有者は今代が死ぬことによってランダムで生まれてくる人間に宿る。そのシステムを破壊したことによって最早、誰にも宿ることはなくなった『
「恐らく破壊の神様なのだから、何らかの方法で神器を破壊されたってところじゃないかしら?でも、主からの贈り物を破壊されるなんて、主を崇める私達からしたら怒り心頭よね」
「フッ、だとしてもその破壊神には感謝せねばな。魔女と言われる根源である神器を取っ払ってくれるなど、君にとってはこれ以上のない罰だ。それに主が作り上げた神器を君のような魔女に使われるよりかはよっぽど良い」
「テメェッ!もういっぺん言ってみろ!!」
ゼノヴィアの言葉に激昂したイッセーは彼女に摑みかかろうとしたが、背後の小猫に肩を掴まれ、静止させられていた。それでもなお、怒りの表情を変えないままゼノヴィアを睨み続けるが彼女はそれを見て鼻で笑った。
「魔女は魔女、それは事実だ。彼女は教会側からそのように呼ばれるだけの存在だと思うが?」
「勝手に聖女聖女と祭り上げといてふざけんな!!アーシアはただ傷ついてる人を治しただけだろうが!!この子の優しさが分からないお前らも、助けてくれなかった神も……アイツだって最低な奴らだ!!」
「貴様……主を侮辱するつもりか!!」
イッセーの言う『アイツ』というのは恐らく破壊神である『ブラン』のことだろう。そして自分達だけでなく、信仰している聖書の神までを罵倒したことで今度はゼノヴィアがイッセーに食ってかかる。
「イッセー、やめなさい!」
ここでお互いの怒りが衝突し合い、暴力で解決しそうになったところをリアスは止めようとしたが、ここで一人の男がイッセーとゼノヴィアの間に入ってくる。
「なら、僕も混ぜてもらおう」
「なんだ、君は?」
先程から部屋の壁に腰掛けていた木場がやっと口を開いたと思ったら何やら妙にゼノヴィアやイリナに喧嘩腰で睨みつけており、ゼノヴィアが反応すると彼はこう答えた。
「君達の先輩だよ。……失敗作らしいけど」
一方、ブランの星に滞在しているオーフィスとティアマットは今日も修行に励んでいた。
「501……502……!し、死ぬ……!」
レムギットの不思議な力により、40倍の重力をその身体にかけたティアマットとオーフィスはそのまま腕立て伏せを行なっている。因みにノルマは1000回であり、ブランは実際に腕立て伏せをしているオーフィスの背中に腰掛けながらアドバイスをしていた。
「徹底的に自分を追い込まなきゃ、本当の強さは得られないぞ。それに、まだこれでも序盤なんだ。慣れてきたらどんどん重力を上げていき、それと同時に日課である気のコントロールの修行にも取り組んでもらうぞ」
「ししょー、重い……510……511……」
「そうか、残念……これが終わったらレムが作るハンバーグが食えるというのに。頑張ったらとびっきり美味しいのを作るって言ったんだけどなぁ」
それを聞くと、オーフィスの目がキラリと光り、あからさまにやる気を増幅させ腕立て伏せにもキレが出てきた。どうやらハンバーグは彼女にとっては好物のようで、
「40倍の重力って……ふっざけんじゃないわよ……これ、キツイってもんじゃないわよ……!?600……601……!」
立っているだけでも膝をついてしまいそうだというのに、これで腕立て伏せなど今までのティアマットなら考えたこともなかった。すると、ティアマットは腕立て伏せの最中、気になったことがありブランに問う。
「あのさ、貴方はどれだけの重力に耐えることが出来るの……?」
その問いにブランは彼女を一瞥すると、顎に手を当てて考え込む。そして、軽くため息をつくとティアマットにまた視線を移して口を開く。
「そうだな……まぁ、重力トレーニングはしばらくやってないから俺自身、どこまでが限界かは忘れた。……が、その気になれば600倍の重力くらいは耐えられる筈だ」
「……600倍……?あは、ははは……狂ってるわ……」
嘘とは思えないブランのその言葉の重みと自身が見た圧倒的な強さはそれほど、ブランはこの星で過酷な修行を受けてきたということを物語っていた。それを改めて理解したティアマットは乾いた笑いを浮かべる。
「だが、それはお前達でもその内耐えることが出来る筈だ」
「……貴方にも勝てる日が来るのかしら?実はその自信が全く無くて……」
ティアマットとブランの差はまだ天と地……いや、それどころか地球と太陽の距離ほどある。それ故にティアマットは少し自信を無くしていたが、ブランはそんなティアマット対し、自分なりに鼓舞する。
「それはお前達次第だ。それに、たとえ相手よりも弱くても努力すれば、エリートを超えることがあるかもしれねぇぞ。そう、エリートを超える……ことがな」
すると、思わず何か口を滑らしてしまったのか、突然下を向いて黙ってしまったブランに対しティアマットは頭に疑問符を浮かべ浮かべる。ティアマットは下からブランの顔をのぞいてみると、彼は普段は見せないどこか暗い顔をしていた。だからこそ、心配になったティアマットは彼に声をかける。
「どうしたの?下向いちゃって……」
「ん?あっ、いや、何でもねぇ。あー、修行の邪魔しちまってわりぃ、続けてくれ」
声をかけられ、また元の無表情になったブランはティアマットに修行を再開させ、オーフィスの背中から降りると歩き始め、二人からどんどん離れていく。
ブランside
俺はこれ以上いると二人の修行の邪魔になると思い、あとは自主練とさせて宮殿よりも少し離れたところにあると丘の上へと座り込む。
「……フン、凡才がエリートに勝つ……か」
そう言うと、破壊神の正装の一つのポケットからある物を取り出す。それはいつも俺が肌身離さず持ち歩いているものだ。俺はそれを見つめるとギュッと握りしめ、星の風景を眺めていた。
「情けねぇ。やっぱり、過去を今でも引きずってる俺は全宇宙の破壊神と比べて未熟だ。こんなんじゃ、俺の心はいつまでも冷えてるままなんだよ……」
たとえ表向きは笑っていても、俺の中身は既に『あの時』から時が止まったように固まったままだ。仕事をこなし、美味い飯を食い、修行をして、寝る……その毎日の繰り返しにある日、変化が起こった。それがオーフィス、ティアマットという二人の弟子だ。いつか、あの二人は俺に追いついてくる。その可能性だってある。だが、追い抜かれることへの不安はないし、寧ろ俺にとっての好敵手、遊び相手になるのなら万々歳だ。しかし
「でもやっぱり……俺はお前と闘ってみてぇんだ……もう一度……」
しかし、その気持ちの反面、俺の胸を締め付けるような感覚が走る。ズキズキとした、形容し難いこの胸の痛みは泥沼に沈みかかっている俺の心を更に奥底へと引きずり込もうとする程、苦しいものだった。
会いにいこうと思えば、会えるのかもしれない。だけど俺にはその資格がないんだ。
「メザーナ……すまねぇ……」
ある人の名前を呟き、持っている『物』をまた強く握りしめると、俺は仰向けに寝そべって夕焼けになりかけた空をジッと見つめたまま、ゆっくりと瞼を閉じていく。そして……やがて自然と寝息を立てながら眠ってしまった……。
夜
「……あぁ……寝ちまってたのか……」
俺はいつのまにか寝てしまっていたらしく、目を覚ますと身体を伸ばして起き上がろうとした。空は暗く、夜になってしまったことはすぐに理解し、それと同時に空腹を感じたことで急いで宮殿へと帰ろうと思った。しかし
「すぅ〜……すぅ〜……」
「……はぁ……」
何故かオーフィスが俺のすぐ横で気持ち良さそうに寝ていた。
何でコイツがここにいんだ。まぁ、とりあえず起こすか。
「おいクソガキ、起きろ。……おい!」
「んみゅ……」
身体を揺さぶってみると、ゆっくりと目を覚ましたオーフィスは俺のことをジッと見つめる。そして……笑った。その表情が癇に障った俺は無表情で聞いてみた。
「何で笑ってやがる?」
「ししょー、泣いてたから」
「は、はぁ?」
何言ってる?俺が……泣いてた……?
俺は自分の目元に手を触れてみると、若干の生暖かい感触を感じ取れた。認めたくはないが、恐らくは涙の跡だろう。俺はそれが分かると、急いで手で擦って拭ぐう。
「今日の修行終わった。それと、本に書いてあった。泣くときは、悲しい時だって。だから、我、ししょーのこと元気にしたかった。一緒に寝てあげようって、思った」
「泣いてなんかねぇ、あれはただ目にゴミが入っただけだ。お前が気にすることじゃねぇよ」
俺はまさかそんなところを見られていたとは思わなかったので心の中では少し動揺をしたが、弱みは見せたくないため、敢えて平常を装う。そのままその場から立ち去ろうとしたが、オーフィスはそれを阻止するかのように、俺にとって衝撃的な質問をしてきた。
「メザーナって……誰?」
「ッ!お前、どこでそれを……!」
「ひゃぅ……!」
その瞬間、俺はオーフィスに軽く殺気を飛ばして睨みつける。普段からは発しない威圧感に奴はそれに耐えきれないのか、膝を地面について声を震わせながら呟いた。
「寝言……あぅ……」
「ッ……悪い」
そうだ、考えれば分かることだった。寝る前に呟いた言葉を寝ている最中にも呟いても可笑しくはないし、なにせコイツは俺の横に来ていたんだ……可能性としては十分に考えられる理由だった。俺が今コイツにしたことは只の八つ当たりに変わりない。それだってのに、俺はこれだけのことで頭に血がのぼるなんてよ……。
「我、ししょーのこと、元気付けたくて……」
「クソガキ、すまん!!俺の早とちりでお前に八つ当たりしちまって、今回は完全に俺が悪かった!」
「?」
俺が突然大声で謝罪をし、反省の意を示そうとした。オーフィスは首を傾げて分からないという表情をするが、俺が何のために謝っているのか理解すると和やかに笑って返答をした。
「でも、ししょーがいつも通りに戻って良かった。だから、我、気にしてない……あれ?」
オーフィスは立ち上がろうとしたが、修行の疲れが身体にきていたせいもあって上手く立てないようだ。俺は先程立ち去ろうとしたが、すぐにオーフィスの脇の下に両手を入れて身体を持ち上げる。
「流石に疲れもあって殺気も受ければ立てないか。今回は俺に非があるからよ、このまま連れて行ってやる……っておい、抱きつくな!ひっつくな!」
「暖かい……ししょーの身体……」
両脚を俺の腰辺りまで回し離れなくなったので何故か抱っこのような体勢になってしまったが、仕方ないので俺もオーフィスの背中に片腕を回してこのまま宮殿へと歩みを進めた。
(ししょーといると、我、とても楽しい。でも、ししょーが悲しくなると、我も悲しくなる……どうして?それに、ししょーの身体と触れると、胸が熱くなる……何、この感情……?)
(全く、一丁前に誰かの為に何かするなんてよ……変わったじゃねぇか……弟子が頑張ってんのに、しょぼくれてる師匠なんてみっともねぇよな)
「よし、カカオは飯食っただろうし、二人で一緒にハンバーグ食って明日も頑張るか」
「おー」
今日の事は俺にとってはもしかしたら特別な日だったのかもしれない。少しだけだが、コイツも人との関わりを深めていっている。そしてオーフィスは勿論、ティアマットの成長を確認できたことに心が躍った俺は、明日コイツらの為に何か地球でお土産を買っていこうと決めた。
しかし、この時の俺は知らなかった。今、地球の駒王町ではとある事件が起こっていたということ……そして、それに対する戦力があまりにも非力すぎることに呆れてしまうことを。
アーシアの悪魔を治療したってところも、よく読者内での議論が行われているんですよね。皆さんはアーシアの行動は正しいと思うでしょうか?確かに、私もアーシアの立場だったら目の前で死にそうな命があれば助けてしまうと思います。
……が、しかしそれでも、教会側からは裏切ったと思われても可笑しくない行動には変わりないんですよね。寧ろ、追放だけで殺されなかっただけでもマシ。あ、でも殺されなかったのはレイナーレの手引きがあったからなのか?よく分からないが……まぁ、何もかもアーシアが正しいとも限らないからゼノヴィアの言うことも間違ってはいないんですよね。だからといって手を出すなとか言っておいていきなり悪魔側に喧嘩売るゼノヴィアはバカとしか言いようがないけども。