それではどうぞ
三人称side
次の日の夜、先代ブランを連れ、地球へと舞い降りたブラン一行は駒王学園へと足を運んでいた。校庭の周りには、三大勢力から集めた護衛が何人もおり、ブラン達が来た途端に警戒心を強め、ざわついた。
「予定よりも少し早いが、別に問題ないだろう」
ブラン達は駒王学園の校庭にいる護衛達には目を向けず、正門から入り、正面玄関へと足を運ぶと、そこに一人の護衛が近づいてくる。
「破壊神ブラン御一行様……ですね?」
「そうだ」
「失礼しました。どうぞ、中へ」
外の護衛に学園の中を案内され、会談が行われる部屋へと辿り着く。そこで護衛は元の場所へと戻り、いなくなると部屋に入ろうとするブランだが、その前に気がかりなことがあったことを思い出す。
(何か、周りに複数の気を感じるな……それも大量に)
ブランは外にいる三大勢力の護衛の他に、遠くに邪な気を多数感じ取ったのだ。それは、オーフィス、ティアマット、レムギット、そして先代ブランも気づいていた。
「鬱陶しい気じゃな。いますぐ破壊してもええかの?」
「まぁ落ち着けよジジイ、ここは放っておこうぜ。知らないフリだ、知らないフリ。にしても、こんな気がうじゃうじゃいるのに会談を中止にしようとしない辺り、三大勢力のトップ達は気づいてないか……まっ、それはそれで面白そうだな」
『良い交渉材料として使えそう』と付け足してブランは笑みを浮かべる。
(これは……カテレアね。何となく読めてきた。大方、ここを襲撃するつもりでしょう。しっかし、バカよね〜……ここに三大勢力のトップが集まってるなら、手薄になってる冥界でも攻めればいいのに。いくらオーフィスの蛇があろうとも、自殺行為でしょ)
「おっ、お前らも気づいているか」
「うん、だって気でバレバレだもの。それと師匠、多分あれってオーフィスが抜けた禍の団の組織よ。どうするの?」
「今はほっとけ。それよりも、ちびっ子はいいのか?」
「うん、忠告はした。何か直接仕掛けてこない限りは、我からは何もしない」
「はっ、自分の為に集まってくれたお礼としての人情って奴か?随分と律儀な奴になったもんだ」
その後、ブランは『けど……』と付け足して続きをオーフィスに伝える。
「奴らを組織として集めたのはお前だ。恐らくだが、まだ増える可能性もある。俺達の地球でやるべきことに対して、奴らが本当に邪魔となれば、お前はその尻拭いとして奴らを殲滅しなければならない。そこんとこ、分かってるか?」
その言葉にオーフィスは頷く。破壊神候補として、安っぽい情けはこれから破壊神になる物としては邪魔なだけだ。ただ、オーフィス自体、別に禍の団に仲間意識など感じていないのでそこは問題ない。
だが、ブランが気にしているのは別の事だ。これから、オーフィスにとって『親しい者』と呼べる者が現れ、その時、その人物を破壊、または倒す事が出来るのか……それだけがブランにとっては心配だった。
(そん時は……どうすっか……)
一応、候補としてはティアマットもいる。今すぐ結論を出すのは早いと思ったブランは、再び扉に向き直り、レムギットが先頭となって部屋へと入る。
「よっ!」
レムギットが会議室の中に入ると、中でテーブルを囲むように座っている7人の人物に気さくな挨拶をするブラン。その態度に、『どのツラ下げて笑顔を振りまくんだ』と内心毒吐く紅髪の魔王。
部屋の中にいる人物を紹介しよう。
まずは天使勢力の現トップ、ミカエル。聖書の神がいない今、彼がそのトップを担っており、この会談に参加するイッセー達には、聖書の神じゃなく、何故自分が参加するのかという理由をここで伝えるつもりらしい。そして、その後ろには護衛として居る四大熾天使の1人、ウェーブのかかったブロンド髪のガブリエルという女性が立っていた。
次に堕天使勢力。言わずもがな、トップのアザゼルがいた。その後ろには、以前、全くブランに興味を示されなかった歴代最強の白龍皇、ヴァーリが護衛としていた。
最後に悪魔勢力。勿論、座っているのはトップであるサーゼクス。そしてもう一人、そこには同じく魔王であるセラフォルー・レヴィアタンもいた。その後ろに、護衛として立っているのは、サーゼクスの妻であり、女王のグレイフィアであった。
「ほらっ、連れてきてやったぞ。俺の師匠、先代ブランだ」
ブランは後ろにいる小さな老人、先代ブランを見せつけるように言う。
「同じだ……あの戦争で見た……!」
「本当に……破壊神なのか……」
セラフォルーとサーゼクスは小声で驚きの声を上げる。
「彼が……その弟子なのですか、ミカエル様」
「えぇ、そうらしいです……」
ガブリエルの言葉にミカエルが返す。
「チッ、まだ生きておったか……」
聞こえないように毒吐くのは先代ブランだった。場には緊張感が漂っており、そこでサーゼクスとセラフォルーはある人物に目を移して驚愕の表情を浮かべていた。
「ティアマット!?まさか、君は五大龍王の一頭、ティアマットか!?」
「えぇ、そうだけど?何か問題でも?」
「ティアマットちゃん、何で……?アジュカちゃんのお願いは無視して、どうして破壊神に……?」
サーゼクス、そしてセラフォルーからも悲痛な声が漏れる。以前、アジュカからレーティングゲームの重要ポストに入ることに賛同しなかったというのに、何故、ポッと出の破壊神なんかに下ったのか……それがサーゼクス達だけでなく、アザゼルやミカエルも疑問に思った。
そして、話しかけられたティアマットから返されたのは拒絶の言葉だった。
「ハッ、別にいいわよ。どうせ、心配してるのは悪魔の未来や平和でしょうし、私はその為の装置として役立てられるだけよ。それに、今は破壊神ブランといる方が充実してるし、アンタ達には関係ないことよ」
そう吐き捨てた後、それを傍観していたアザゼルは先代ブランに目を向ける。
(マジで本物じゃねぇか……あの時の戦争で現れた頃よりも更に老けてんな……それと、もう一人は……?)
アザゼルはもう一人の護衛であるオーフィスに目を向ける。無論、他の者も同様。恐らくだが、以前のオーフィスなら、この段階で正体はバレてしまうだろう。しかしアザゼル達は何か力を感じ取ろうと念を込めるものの、彼女からは何も感じられないのだ。護衛というにはあまりにも小さな力しか感じられない。
それはそうだ。今、オーフィスやティアマットは極限まで気を抑えている。そのお陰で彼女はこの場にいる者達に自分がオーフィスだということがバレていないのだ。
……本人からしたら隠す理由など別に無いが。
一方、ヴァーリはメラメラと燃えたがるような目でブラン達を見つめている。いつか、自分は奴らを超えるんだと夢見ているのだろう。それがいつになるかは定かではないが。
「先日はうちのヴァーリがお世話になりましたな」
「は?誰?」
アザゼルの言葉にブランは心底分からないという顔をする。ヴァーリが誰のことか、アザゼルに説明してもらうと、彼はコカビエルを破壊する前に自分が拳圧で殴り飛ばした人物だということをブランは知った。しかし
「あぁ、悪りぃ、雑魚のことなんて一々覚えてないんだわ」
「!」
その興味がカケラも無いその態度にヴァーリは『今すぐ、自分の本当の力を見せてやろうか』とでも言いたげな表情で詰め寄ろうとしたが、アザゼルはそれを止めた。
ブランの挑発的な言葉によって緊張感漂う中、その空気を破ったのはレムギットだった。
「皆さん、ご機嫌よう。硬い挨拶は無しにして、さっさと始めましょう。こちらもこれから用があるので」
「それは待っていただきたい。まだここには、コカビエルの襲撃事件の当事者である私の妹達がいない。到着するまで、会談の開始は待ってもらいたい」
「……ふむ」
「……当事者……ね」
内心ほくそ笑んでいるが、とりあえずサーゼクスの言葉に了承するブラン達。ブランと先代ブランは指定された椅子へと座ると、その背後にはティアマットとオーフィスが立った。
▽
数分後
「失礼します」
新たに会議室に入ってきたのは、イッセー達グレモリー眷属と、ソーナ達シトリー眷属の一部のメンバーだった。リアスの他のグレモリー眷属はイッセーと朱乃とアーシアのみだった。
小猫はどこにいるのかはブラン達には興味がなかったので特に気にはしない。それどころか、ブランはイッセー達には一瞥もしないで出されたコーヒーを飲んでいることにイッセーやリアス達はキッ!と睨みつける。
だが、予めサーゼクスからは手を出すなと言われているので木場の仇を討つ事は出来ない。何故なら、今日は和平の為の交渉話に集まっているのだから。
「君達や破壊神殿も知っていると思うが、私の妹とその眷属だ」
「コカビエル襲撃のときは大活躍だったのよ☆」
サーゼクスの紹介。そして『どこが?』とセラフォルーの言葉にブランは内心でツッコミを入れる。彼らがやったことと言えば、コカビエルの前に何も出来ず、全てブランに任せたようなものだ。恐らく、サーゼクスは妹が活躍したと冥界で広めたのだろう。所謂、身内贔屓というやつだ。
すると、イッセーは辺りを見回し、ある人物に目が釘付けとなる。
「ぶ、部長、ミカエルさんのお隣にいるあの、おっぱいの大きなお姉さんは何ですか!?もしや、あれが聖書の神ですか!?」
そう、ミカエルの護衛であるガブリエルのことだった。ブランを睨みつけることを忘れ、だらしなく鼻の下を伸ばして見られていることに彼女は困惑している。
それを見てティアマットは軽く引いていた。
(コイツ、キモ……ドライグもよくこんな宿主についていけるわね。それはそうと、アイツ、私がいることに気づいてワザと寝たふりかましやがって……!しかも、私の財宝をいつまで経っても返さないコイツは許さない……!あぁ、何だか無性にコイツを殺したくなってきたわ……)
ティアマットは若干キレ気味である。
「わ、分からないわ。私も実際に見たことがないから……」
ガブリエルの姿と、その豊満な胸を見て鼻血を出して質問をするイッセー。それにリアスは答えれない。何故なら、リアスも聖書の神やガブリエルの実際の姿を見たことがない故に知らないから。
しかし、その代わりに答えたのはサーゼクスだった。
「リーア……リアス、イッセー君、彼女は四大天使のガブリエルだよ。そして、その前に座っているのは同じく
「えぇっ!?」
イッセーに続き、リアスや朱乃、アーシア、ソーナ達も驚く。そして、彼らは疑問に持つ。それを察したのかサーゼクスは続ける。
「あぁ、聖書の神の話については後に–––––––」
そこまで言いかけると
「ん?聖書の神は死んだじゃろ。今更なにを言っておるんじゃお主ら」
「……えっ……?」
そう、声を漏らして呆けているのはアーシアだった。
その言葉に凍りついたのは彼女だけでなく、この場にいるブラン達以外の者達だった。そう、さっきまで鼻の下を伸ばして鼻血まで出していたイッセーもだ。
アーシアは今、先代ブランから放たれた言葉の意味が分かっていないのか、それとも分かりたくないのか、少なくとも、今の言葉は彼女の頭の中を真っ白にさせる程に強烈な真実だった。
そして、アーシアだけでなく、リアスやソーナ達も同様。彼らはこの真実をサーゼクスから聞かれていなかったらしく、衝撃を受ける。しかしブラン達にとっては、別に隠し通すべきことでもないので、アッサリした感じで先代ブランに説明をする。
「あー、そうか、ジジイは知らなかったもんな。いやー、コイツらさ、何やらシステム何やら守る為に信徒達を騙し続けてたんだよ」
「待って下さい……えっ?何で……主が……?」
頭の整理が追いつかないアーシア。そして、狼狽えたものの、リアスはそれを否定する。
「そんな……嘘よ!あり得ないわ!!だって……だってそんなの一度も聞かされて–––––」
「嘘じゃねぇって。三大勢力にとって重要なこの会談に聖書の神じゃなく、ミカエルって奴が代わりにここに来てるのが何よりの証拠だろ。大方、聖書の神は既に死んでるってことをこの会談で言おうとしたのだろうが……あらら、もしかしなくてもタイミング早かったのか?」
先代ブランも含め、悪びれもしない一行に対し、アザゼルはテーブルに拳を叩きつけ、心の中で憤慨していた。
(コイツ!よりによって一番バラしちゃいけねぇことをいきなりバラしやがった!!クソが!そんなの御構い無しかよ!!)
「……今、このタイミングで言わなくても良かったのでは?」
サーゼクスもアザゼル同様、あまり良い気持ちではないようだ。しばらくは、先代ブランの虚言として話を通し、後でちゃんと説明すればいいものの、いきなり全部隠さずにぶっちゃけたことで周りは混乱している……そんな事態には招きたくなかったからだ。
「そんなの、お前らが噓をついてきたのが悪いだけだろ。どうせ遅かれ早かれ、知られることだろ?それを今教えてやっただけの話じゃねぇか。というか、そんなの秘密にしてるなんて、他の星にいたジジイが知るわけないだろうが……そういうのは事前に言っておけよ」
「なるほどのう。なんじゃお主、今の今まで数ある信徒を騙し続けて来たんか。神の使徒の割に随分と嘘つきじゃのう」
「それは……違います!ちゃんと、和平を結んで落ち着いた所で、アーシアさんにも真実を伝えるつもりでいました!ただ、神の祝福によるシステムは戦争の後から不安定で……」
ミカエルは我慢出来ずに反論をする。彼が言うには、神の奇跡や、信仰による恩恵を信徒に与えるシステムは、完璧に信徒全員に加護を起こすことはできなくなったとのこと。システムに近い教会などに信仰を揺るがす者がいることによって不具合が発生する程にデリケートだった。そして、今は亡き、癒しの力を悪魔にまで使えるアーシアは、それだけでシステムにとって害悪となる……故に、アーシアは教会を追放された。
そして、その事実はイッセーがこの会談で知りたい事の一つだった。直接、質問する機会は無くなったものの、知りたいことを知れたことで彼は納得はするが、一つだけ許せないことがあった。
そう、アーシアのことだった。
「ふむふむ、なるほどなるほど、お前の言い分は分かった。けど知ってるか?嘘ってのは雪玉と同じなんだぜ?転がせば転がす程大きくなって、後になってバラせば、それだけショックも大きくなってくる。見てみろよ、お前らに散々振り回された挙句、悪魔にも転生させられて、やっとの思いで大切な居場所を見つけ、幸せな思いをしていたのに、突然、絶望の淵に叩き落された信者の姿を。お前、最初からこうなることを分かっていて今更真実を伝えようとするとか、もしかしなくてもかなりの愉快犯なんじゃないのか?信者たちの人生をメチャクチャにして、弄ぶ事に悦を感じてるんじゃないのか?」
「違う!それは違う!」
この時、アーシアは泣き崩れていたのだ。大切な友達であるアーシアを、何気なく出た発言で泣かされ、あまつさえその発言に何も悪びれないブラン達に怒りを覚える。以前、木場を殺されたこともあり今のイッセーは今にもブランに殴りかかりそうになったが、そんな彼の状態を察したのか、イッセーに鋭い眼光を放って制止させたのはサーゼクスだった。
「……やめなさいイッセーくん、言いたい事は言わせるつもりだ。この話を進めたその時、君の意見もしっかり聞くつもりだ」
「で、でも……!」
イッセーにも分かる。明らかにサーゼクスからは怒りのオーラを感じることを。妹の眷属を傷つけられたのだ。前には一人殺されている。怒るのも無理はない。我慢をしているサーゼクスの思いを汲み取り、イッセーは何とか堪えるものの……。
「そうそう、会談があるんだから。そこでじっくり話し合えばいいじゃねぇか。なぁ?」
「くっ……!」
挑発するように言うブランにイッセーは唇を噛み締めて我慢するしかなかった。そしてアーシアはもう、聖書の神がいない事に耐えきれなかったのか、そこで気絶し、会談の部屋から保健室へと運び込まれ、ベッドに寝かされた。
よって、彼女は会談には参加出来ずに離脱し、険悪な雰囲気のまま会談は行われることとなった。
▽
「以上が、私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔が関与した事件の報告です」
まず最初に、リアスが関与したコカビエル襲撃事件を彼女の口から経緯や結果を報告される。それを真面目に聞かない者や、聞く者もいればという纏まりがないまま、報告は終わりとなる。
「御苦労、戻ってくれて構わないよ」
「ありがとうね、リアスちゃん☆」
リアスは緊張から解き放れたように、息を吐くと部屋の壁辺りのイッセーの隣に戻る。
「さてアザゼル。堕天使総督としての、この報告に対する意見を聞きたい」
「報告の通りさ。コカビエルの行動は俺や他の幹部に黙って起こした単独犯。そこに、破壊神様がやってきて見事に殺してくれた……そんだけさ」
「予想通り、説明としては最低の部類ですね。それと、貴方個人が我々と大きくことを起こしたくないという話を聞いています。それは本当なのでしょう?」
先程の狼狽えから落ち着きを取り戻したのか、アザゼルの言葉に呆れるミカエルはそう聞くと、アザゼルは大きく頷いて答える。
「まっ、幹部一人さえ言う事聞かせられないもんな。それに加えてガキの神器目的でここに観光なんてするくらいだし、こんな能天気なカラスが普通、戦争なんて考えないよな〜……考える頭が無いからな」
「ぐっ……」
ブランから皮肉気味に、脳みそ空っぽのトリ頭と言われた事に、ヘラヘラしていた顔から、悔しそうな顔に変わったアザゼル。しかし、アザゼルからしたら、ブランは自身の組織の尻拭いをしてくれたわけだから何も言い返せない。
「アザゼル、一ついいか?」
アザゼルの了承を聞いてから、サーゼクスは鋭い視線を彼に向けて静かに質問をした。
「ここ数十年間、神器所有者をかき集めている理由はなんだい?最初は戦争再開のための戦力増強かと思ったが……」
「それに関しては私も驚き、警戒を強めてました。白龍皇を勢力に引き入れたのを知った時はね……」
「研究のためさ。俺の送った資料見ただろ?コカビエルも俺のやり方が気に食わなくてあんな事しでかしたんだ。俺自身は戦争を起こすつもりなんてこれっぽっちもねぇよ」
ミカエルもサーゼクスも、アザゼルの性格は理解している。故に、その言葉は信用できるものだった。
「話を戻そうか。と言っても俺はこれ以上めんどくさい話し合いをするつもりはない。とっとと和平を結ぼうぜ。おまえらもその腹積もりだったんだろう?」
その言葉にサーゼクスとミカエルも一瞬、固まるが彼らが答える答えは一緒のようだった。
「確かに私も和平の話を持ちかけようと思っていたところだ」
「私も今回の会談で三勢力の和平を申し出るつもりでした。戦争の大元である神と魔王はもういないのですから争う必要はありません」
「そう、神はなくとも世界は回る。俺たちは、戦争起こさず平和にやっていくことができるってわけだ。さて、今度は赤龍帝と白龍皇に話を聞こうじゃねぇか。世界に影響を及ぼすお前達にな」
三人は和平を結ぶのに賛成だ。しかし、その前にアザゼル達は、世界を滅ぼせる程の力……ドラゴンの神器を宿すイッセーとヴァーリに話を振った。
「ヴァーリ、お前はこの世界をどうしたい?」
「俺は強い奴と戦えればそれでいい」
「はっ、そうかよ」
予想通りだったのか、ヴァーリの答えを聞くアザゼル。そして今度はイッセー。
「よし、赤龍帝、お前さんはどうしたい?」
「お、俺はまだよく分かってないです……和平とか、戦争とかよく分かってなくて……」
「じゃあ恐ろしいほどに噛み砕いて言うぞ。戦争が起きると二天龍は間違いなく表舞台に出る羽目になる。そうなるとリアス・グレモリーを抱けないぞ?」
「和平でお願いします!俺、部長とエッチがしたいです!平和が一番ですよね!!」
あまりにも必死すぎる。そして単純過ぎる。目の前にはリアスの兄がいるというのに、その兄本人は何故か喜んでいる感じで、リアス達は呆れるように苦笑いしてるものの、ブラン達からしたら『阿呆らしい』の一言しかなかった。
「なんかジジイと似てね、アイツ」
「……おい、それ以上言えばお主でも殺すぞい」
「……へいへい」
小声で冗談交じりで言ったつもりだが、それでも先代ブランにとっては不快極まりないものであるようだ。流石にブランは失言だったのか、その鋭い眼光にビビってしまった。
「何か、他にイッセーくんから何か聞きたいことはあるかい?例えば、破壊神殿に……」
「そ、そうだ!」
イッセーは思い出す……木場が殺された時のことを。そのことについて知りたいのはサーゼクスやセラフォルー、アザゼルやミカエルも同じ。勿論、怒りを募らせているのはリアス達も同じことだった。
やっと、あの時のことについて糾弾出来ると思い、ブランに指を指した。
「お前のことだ破壊神!!」
「……」
ブランは彼に一瞥もしない。する気がなかった。しかし、イッセーは構わず彼に怒りをぶつける。
「何で木場を殺したんだ!!俺はそれが許せない!それについてちゃんと説明してもらわなきゃ納得できねぇ!納得しても、お前に一発殴らなきゃ気が済まない!!」
相変わらず敬語は使わない。ブランはコーヒーを飲みながら、先代ブランは出された和菓子をポリポリと食べながらイッセーを鬱陶しく思っていた。
「こやつ、やたらと怒っとるのう。煩いったらありゃしない」
「ホントそれだよ。敬意を弁えない奴に話すことなんてないっての」
「てめっ……!!」
「って、思ってるけど、このまま煩いのもどうかと思うからな……とりあえず聞いてやる。ええっと、この前消した奴……あぁ、あの金髪のことか。……フッ」
「何がおかしいんだ!?」
薄く笑ったことでイッセーの神経を逆撫でる。しかし、ブランは平常心を崩さないまま淡々と言う。
「アイツはさ、俺の忠告を聞かないで勝手に突っ込んできて消滅したんだ。まぁ、確かに俺が殺したようなもんだが、アイツは自殺しに来ただけで俺が全般に悪いわけじゃないだろ?」
「ふざけんな!木場は、イケメンで、女の子にもモテて嫉妬するけど、部長の眷属で優しくていい奴なんだ!仲間なんだ!!なんでいい奴が殺されなきゃならねぇんだ!ただ、殺された仲間の仇を討つ為に戦ってただけなのに、アイツが殺される理由なんかねぇだろ!!それを血も涙もないお前は平気で殺しやがった!許せることじゃねぇ!」
仲間思いの彼の必死の叫びだった。いつもは覗きなどで学園からの評判が悪い彼でも、その優しさはグレモリー眷属やシトリー眷属の心に響いた。
しかし、ブランから返ってきた言葉は非情なるものだった。
「で?」
「……は?」
まるで興味を示さないその態度に、激怒するどころか驚愕のしすぎで呆けてしまうほどだった。
「言いたい事はそれだけか?悪いがお前らの気持ちなんか俺にとっては知ったこっちゃないし、わざわざ情けをかけ、謝罪をする程の義理なんか持ち合わせちゃいねぇんだ。あぁそれと、『殺される理由なんかない』……だっけ?」
「ッ!あぁ、そうだよ!!」
「お前面白い事言うなぁ……いいか?アイツは戦ってたんだろ?あの戦場に立ってたんだろ?なら、殺される理由はそれだけで十分なんだよ」
「何!?」
「戦場に立っている以上、そこはもう殺し合いの場なんだよ。生きるか死ぬか。どんな理由があろうと、どんな立場であろうと、そいつがどんなに善人であろうとそれは変わらん。あの小僧は無謀にも俺に戦いを挑み、そして負けた。そう、負け犬になって無残に死んでいったに過ぎないんだよ。お前がギャーギャー喚いたところで、それがかえって際立っているがな」
あまりにも見下した物言い。その言葉にイッセーではなく、リアスも憤慨した。
「貴方……私の下僕を殺した挙句、侮辱したわね……!!万死に値するわ!!ルシファー様!何故、このような者と同盟を結ぼうとするのですか!?こんな非人道的な行いをする破壊神と!!」
我慢出来なくなったのだろう。今まで溜め込んできた怒りが爆発したのだろう。しかし、リアスの反論に驚いたのはサーゼクスではなく、ブランやレムギット達だった。
(コイツら、俺らと同盟を結ぶ気だったのか?おめでたい奴らだな……)
「リアス、落ち着きたまえ。君達の気持ちも分かるが、私からも気になることがある」
サーゼクスはリアスを何とか制止させると、今度は彼がブランに質問をした。
「私から質問したい。何故、世界中のはぐれ悪魔を殺したのですか?それと……ディオドラ・アスタロト……この名前に聞き覚えは?」
これに関して気になるのはリアスも同じことだった。知り合い程の仲だが、それでも彼は冥界を将来支える若手悪魔の一人……そのような者がいなくなれば心配するのは当然だ。
「ディオドラ・アスタロト……あぁ、そういえば記憶を覗き込んだな。俺が破壊したが?」
その言葉にリアス達だけでなく、サーゼクスやセラフォルーまでもが狼狽え、それまで静かだったセラフォルーが立ち上がってブランに物申す。
「な、何でディオドラちゃんを!?彼は冥界でも優秀で優しいと評判の悪魔なのに!どうしてそんなことを!!」
「えっ?あんな奴が……?(記憶を覗いたが、どう見てもあれはクズだよなぁ……まぁ、それはコイツらが奴の本性を知らないだけか)」
これまた可笑しいと心の中で笑うブラン。
「ディオドラ・アスタロトって?」
イッセーは分からない。貴族の悪魔のことについては知識が空っぽなので、隣にいた朱乃がそれを説明した。
「ディオドラ・アスタロト……アスタロト家の次期当主ですわ。以前から行方不明となっていて捜索隊も出されていたのですけど、まさか破壊神に殺されていたとは……どうやら彼等は命に対する価値観、感覚が狂ってるようですわね。善良な悪魔さえ平気で殺すなんて……」
「そうなんですか!?あのクズ野郎……やっぱ許せねぇ……!!」
小声で聞こえないように話す彼等だが、ぶっちゃけ普通にブラン達に聞こえていた。しかし、彼等はそれを咎めることはなく、寧ろ楽しんでいた。
『何も知らない愚か者の遠吠え』として。
「俺がはぐれ悪魔と、そのディオドラ・アスタロトって奴を殺したのには共通の目的がある。だが、その為にはお前らにこの宇宙の事を知ってもらわなければならない……俺達、破壊神のことも……全王様のこともな」
聞き覚えのない言葉、名も知らない人物の名前が口から放たれ、破壊神ブランや付き人のレムギットによって会談はまだまだ続くのであった。
原作ではイリナがミカエルの護衛でしたけど、ここではまだ神の不在を知らないので、代わりにガブリエルを。まぁ、デュリオでも良かったのですが、ここは別に誰でも良かったので問題なしです。
次回も会談の続きです。お楽しみに。