ハイスクールD×D 第0宇宙の破壊神   作:オラオラドララ

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前に感想欄でブランの旧名である『ヴェルドラ』について感想があったのですが、あれは野菜のイタリア語である
verdura(ヴェルドゥーラ)から取ってます。

英語だと被ってしまうので、こっちはイタリア語で文字ってみました。

それではどうぞ


第21話 破壊神、会談を続行

三人称side

 

「俺が何故、世界中のはぐれ悪魔をぶっ殺したのか……まず、お前らにはこの宇宙について知ってもらわなければならない」

 

ブランの合図により、レムギットは自身の杖を瞬時に自分の手元に出現させると、それを床に突く。すると、そこには広大な宇宙空間の中心の高い位置に屋敷のようなものが佇んでおり、その下にそれを囲むように12個の宇宙が円状になるように並び、そのまた中心に一つの宇宙がポツンとあった。

 

「まず、貴方達から見れば私や先代様、ブラン様は『宇宙人』……と言ってもいいでしょう。それを踏まえて、貴方達に質問したいことがあります。……貴方がたは、宇宙が何個あると思っていらっしゃいますか?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

何個ある……と聞かれて、普通は一個だと答える。だが、映像を見て勘のいい者は答えを理解した。

 

「正解を言いますね。この世界には、宇宙は13個あるのですよ。貴方がたは、宇宙は無限に広がっていると思っているのですがそれは誤りの知識です」

 

「13個!?そんなの、あり得ない……信じられない……」

 

宇宙に『個数』という概念があることすら、普通は信じることは出来ない。地球人は、宇宙は無限に広がるものだと昔から伝えられてきたことだった故に。

 

しかし、レムギットの口からはそんな出任せにも思えるぶっ飛んだ話が続く。

 

「貴方がたにとっては突拍子もない話ですが、本当のことですよ。そして、この宇宙は『第0宇宙』。数ある宇宙はそれぞれ足して13になるように対になる宇宙が必要となり、それによって均衡を保っています。第1宇宙なら第12宇宙と、第7宇宙なら第6宇宙……ここまでは理解できましたか?」

 

首脳陣は何とか理解は出来ているが、リアスやイッセーなどはイマイチ理解出来ていないのか、首を傾げて、信憑性の無い話だと疑う。疑うのは誰しも同じだが、彼らはそれが態度として顕著に現れていた。

 

「しかし、お気づきでしょうか?この宇宙は第0宇宙、第13宇宙などありませんし、何処とも対にならない……しかし、宇宙自体が存在出来ている、均衡が保たれている……これって、矛盾してますよね?」

 

その言葉に全員が頷く。ここから先はオーフィスやティアマットすらも知らないことも話すので、二人も耳を傾けてじっくりと聞くのであった。

 

「そう、だからこの宇宙は『矛盾の宇宙』と呼ばれているのです。そしてここからが本題……この世には元々宇宙は18個あったのですよ」

 

先程よりも驚くことはなかったが、大なり小なり驚いたのは確かだった。

 

「今13個ってことは……5個は失くなったということでよろしいのですか?」

 

「えぇ、半分は合っています」

 

「……半分?」

 

「まぁそのことも話すので、話を進めましょう。私達、第0宇宙を含め、現在ある13個の宇宙、失くなった宇宙5個さえも統べる王……それが『全王様』です」

 

ミカエルの問いに答えるレムギット。すると、今度はイッセーが問う。

 

「ぜ、全王……?そ、それが何だってんだよ!」

 

「口を慎め。お前、本人の前でそんな口聞けば消されるぞ。一瞬でな」

 

「い、一瞬……!?」

 

イッセーの軽はずみな発言にブランが刺すように指摘する。

 

「全王様とは、この世の頂点に立つ偉ーいお方なのです。貴方達が会うことは一生無いくらいに偉い……この世を統べる王そのものなのです。最強……この称号はまさに彼の方に相応しい名です」

 

最強、という言葉を聞いて同じく説明を聞いていたヴァーリは心をたぎらせる。戦闘狂の彼にとって、戦いに対する恐怖はないのだろう。もし、全王と対峙するのなら、戦いにすらならないだろうが。

 

「しかし遥か昔、全王様が機嫌を損ねたことで5つの宇宙が全王様の手によって消滅したのですよ」

 

「し、消滅!?宇宙を消滅だなんてそんな馬鹿な話が––––」

 

セラフォルーはいつものキャピキャピ感さえ忘れて狼狽えるが、レムギットは淡々と返す。

 

「あるのですよ。ですから、『失くなった』というよりも『失くした』の方が正解なので、半分だと言ったのです。太陽も、銀河系も全て消える……宇宙が消えるその先は『虚無』、『無』そのもの……本当に何も無いのですよ。ほいっ!」

 

レムギットは自身の杖の水晶から映像を映し出す。それは大きな天秤だった。

 

「宇宙が13個になってしまったことで、この宇宙はまるで輪から弾かれるように対になる宇宙がなくなってしまった……」

 

レムギットはそう言うと、映像にある第0宇宙以外の12個の宇宙の模型を半分ずつ右と左の天秤にかける。

 

「例えば、第0宇宙を除く全ての宇宙を、この天秤に半分ずつかけましょう。そうすれば、天秤は傾かず、水平になります。では、どこに第0宇宙を乗せればいいのか?右に置けば、勿論右に傾きますし、左に置けば左に傾く……」

 

天秤の中心……支点にちょこんと第0宇宙の模型を置く。だが、不安定。あまりにも不安定だ。微妙ながらもグラつきが見える。

 

ここから先はブランが答える。

 

「この宇宙はとても不安定だ。対になる宇宙がない分な。だから、師匠の先代ブランは人間レベルに関しては特に気をつけてきた」

 

「人間レベル……?」

 

「人間レベルとは、1つの宇宙のあらゆる星のステータスを集め、それを平均化させた数値のことだ。分かりやすく言うと戦闘力や文化、知能、科学、娯楽といった、様々なジャンルが数値化されたもの……それが低すぎると、その宇宙は存在する価値が無いものとして全王様に消滅させられるんだよ」

 

「そして、その調整を担うのが、ブラン様のような破壊神、そして星を創造する界王神なのです。界王神が星を創造し、破壊神が星を破壊する……それを何千、何万、何億年と繰り返して今の今まで宇宙のバランスを保っていたのです」

 

「か、界王神?星を創造って、そんなの破壊神なんか必要ねぇじゃねぇか!界王神って奴がどんどん星を創ればいいだけだろ!」

 

イッセーの言葉に、レムギットは淡々と返す。

 

「それは非常にマズイことです。貴方方も今の話の流れで分かったと思いますが、この星も勿論、界王神が創造したものです。まだ青くなく、赤い頃の地球から、恐竜が生まれ、そして今の時代まで発展していった。これは大きく人間レベルの向上に繋がりました。けど、考えてみてください。もし、この地球がいつまでも白亜紀状態だったら…………生物が生きられないような劣悪な環境が続いていれば、当たり前ですけど、貴方方は今ここに存在すらしていませんよね?」

 

今の時代が白亜紀状態……つまり、恐竜しかいない時代がいつまでも続くということ。生物としての知能は全く進化せず、高い人間レベルの星の足を引っ張ってるのに他ならない。

 

「宇宙の大きさは無限ではなく、有限なのです。当然、創造できる星にも限りがあります。例えば、物を作り過ぎれば、部屋のいたるところに物を置けば、自分の部屋に置く場所がなくなってしまうのと同じ。星が多すぎると、近くの有人惑星同士で争いが起こり、荒れ果てた星が多くなってしまいます。科学もなければ、娯楽もない。知性もまったく向上せず、そんな地球……地球と似た星がいつまでも存在してるだけでは、この宇宙の人間レベルの向上に支障をきたす……星の住民に戦闘力が無い限りは只の荒れた星として、破壊神がその星を破壊しなければならないのですよ。この宇宙に不必要な存在として……ね。そして、破壊神が破壊した星の分、また界王神が新たに星を創造する……これを何万、何億、何兆と繰り返して、この宇宙の均衡と人間レベルの向上、そして維持を保っているのです」

 

「訳わかんねぇ……じゃあなんだ、それがあんたらが星を破壊する理由が、それだってのか!?馬鹿げてる!」

 

アザゼルも言葉では理解してるつもりだが、あまりにもスケールの大き過ぎる話に心では納得がいかないようだ。

 

「あら、そうでしょうか?創造は破壊からしか生まれない……よく言われることでしょう。界王神が創造をしすぎると、レベルの低い星がレベルの高い星の足を引っ張る可能性が大きいですから……それが、破壊神が必要な理由なのです。そして、この地球はとても文化が凄いものでしてね……ブラン様は、わざわざその素晴らしい文化を築いた人間たちを襲うはぐれ悪魔を退治してあげたのですよ」

 

「では、この地球は人間レベルの向上に役立ってる……ってことでよろしいのでしょうか?」

 

「えぇ、その通りです。この星の文明はとても貴重なので、それを脅かす者を排除するためにわざわざ遠い星からかけつけたんですよ。まぁ勿論、破壊神なので人間レベルの低い星の破壊もしますがね」

 

レベルの低い星を破壊する理由。それは理解した。だが、イッセーにはどうしても気になることがあり、思わず聞いてしまう。

 

「そ、それって悪党だけを破壊してるんだよな!?幸せに暮らしている子供や何の罪もない優しい人、おっぱいの大きな綺麗なお姉さんは殺さねぇよな!?」

 

「何を甘いこと言ってんだ?そういうのも含めて破壊神やってんだよこっちは」

 

その言葉の意味は、イッセーが求める答えとは真逆。つまり、幼い子供も犠牲になる時があるということだ。その事実にイッセーは声を荒げる。

 

「な!?そんなの許せることじゃねぇだろ!いくら何でも、無闇に誰かの命を奪うなんて、どんな理由があろうとダメだろうが!!」

 

「あぁ、お前の言う事は正しい。まさにヒーロー、正義の味方が言いそうなセリフだ。だがな、これはそういう仕事なんだよ。これは俺が決めたことじゃなくて、世界が、宇宙がそうすることを望んでいるからやってるだけだ。元々世界がそうする事で回るように出来てしまってるんだよ。自然現象と同じでな…………。というか別にお前らの許可なんか必要ねぇから」

 

「えぇ、それに貴方方、堕天使による神器所有者を狩ることも同じことでしょう。いつか自分たちの脅威になる可能性のあるものが芽吹く前に殺す……実際、そこにいる兵藤 一誠さんもあなた方の被害者ではありませんか?」

 

そう言い、アザゼルに視線を向けるレムギット。アザゼルは事実を言われ、苦い顔をして答える。

 

「ぐっ……確かに、レイナーレが赤龍帝を殺したのも含めて、組織としては当然のことをした……」

 

「でも、アンタを想っていたレイナーレのせいでアーシアまでも死んだんだぞ!」

 

「あぁ、そうだな。だが、お前達は今、悪魔になって生きてる。少なくとも、お前達が悪魔になって喜んでる奴は少なからずいるぞ?とても充実してそうでいいじゃねぇか。それをひっくるめて、俺達は和平を結ばなきゃいけないんだよ。今、俺達がやるべきことはそれなんだ」

 

アザゼルの言葉にイッセーは納得してしまう。だって、今の自分は人間だった時の頃よりも生活が充実しているのだから。更には、リアス達のような美女と戯れる……人間だった頃には到底かなわないと願いであり、自身の夢であるハーレム王の道をやっと歩めているのだから。

 

「はっ、それであわよくば俺と同盟を結ぼうってか?おいおい、なんか勘違いしてるが、俺はお前らと同盟を結ぶ気は更々ない。寧ろ、お前らには今すぐ死んでもらいたいって思ってるんだぜ」

 

「「「「「……は?」」」」」

 

イッセー達は分からなかった。何故、自分達が死ななきゃいけないのかと。それを代表するかのようにミカエルが聞く。

 

「何故、私達が死ななければならないのです?私達が貴方に何かしたとでもいうのですか?」

 

「わからないか?なら分かりやすく言ってやる。お前達はこの地球の人間を滅ぼす害悪……邪魔な存在だってことだよ。だから、俺達はお前を破壊する……三大勢力の全てをな。俺はそのためにこの地球に来たってわけだ」

 

「……どういうことだよ」

 

アザゼルも問い、ブランは長々となるが答える。

 

「堕天使の神器狩り……これは言ったな。その神器ってのは、人間にとって必要なのか?必要ないよな?だって、日常生活でどう使えってんだ?殺人や証拠隠滅にでも使えってのか?馬鹿らしい。そんなものがなくたって人間は生きていけるんだよ。神の加護?必要ない必要ない。だって、人間の営みは人間自身が築き上げてきたものなんだからよ。お前ら天使も必要ねぇ。それと、神器システムって、取り除かれたら即死するわ、死んでもまた新たな人間に宿るって代物だろ?そして、それをまた堕天使が狩る……なぁ、これって無限ループじゃねぇか?」

 

「そ、それは……」

 

「まだある。はぐれ悪魔に関してだ。あーいうゴミどもが地球を脅かすんだよ。なんだ悪魔の駒って。そんなクソゴミアイテムを作って、搾取してる癖に、何でもおまけ付きって感じで不良品どもに人間が襲われなければならないんだ?そーゆーのってダメだと思うんだよ俺って。デメリットがあるなら、何かしらリカバリーするってのが定石だろ?」

 

「ですから、我々がはぐれ悪魔の討伐を––––」

 

「そこの赤髪と眷属、前にはぐれ悪魔を討伐しにきた時、俺がその際に討伐してやったの覚えてるだろ?あの時、実はコイツらが来る前に人が襲われてたんだよ。俺が来なかったら、そいつは間違いなく死んでいた」

 

「ぐっ……そ、それは仕方の無いことです……平和の為には、多少の犠牲はやむを得ません……」

 

サーゼクスの立て続けに放たれる言い訳にブランは返す。

 

「だからリカバリーしろって言ってんだよ。何かしら駒に改良とか加えろよバカか。無能集団なら集団らしく全員で頭捻らせて考えろゴミが!そんな奴らが人間を守る?平和?笑わせるな。お前らは気づいてないんだ。いいか?この地球で現在進行形で脅威になってるのはお前らなんだよ!現実を否定して、そうやって自分達を平和の象徴みたいに言うのを見るとな、反吐がでるんだよ!偽善者が!!」

 

初めてブランはこの場で大声を上げた。その勢いに場にいるもの全員か何も言い返せなかった。

 

(やべぇな、俺とした事がつい感情的になっちまった……まぁ、言いたい事は言えた。これで十分クールダウン出来たな……)

 

今まで溜めていた怒りをぶつけて、感情的になってしまったが、ブランは冷静に気持ちを落ち着かせる。その様子に、今の今まで一言も喋らなかったオーフィスがブランの背中をさすって気遣った。

 

「ししょー、大丈夫?」

 

「あぁ、気にすんなちびっ子。というか、前みたいに寝ないでよく話聞いてる分、コイツらよりも偉いぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

オーフィスはにへらと笑ってお礼を言う。ブランも褒める時は褒める。今のオーフィスは、ただ純粋過ぎた彼女とは変わった……ブランはそう確信しており、いつかは破壊神の座を譲ってもいいのではないかと認めてはいる。

 

その後、静かになった空気の中、ある人物がブランに視線をぶつける。

 

「……ふざけんな」

 

「ん?」

 

そう怒気を含んだ声で言い放つのはアザゼルだった。お気楽に話す彼が、ここまで怒りを表すのは珍しいとサーゼクスやミカエルは思った。

 

「人間レベル?宇宙の均衡?そんな訳の分からない話をされて、いきなり殺すだと!?んなもん納得出来るわけねぇだろうが!」

 

他の者もアザゼルと同意見のようだ。それを証拠に、皆がブラン達を睨みつけるような硬い表情になっている。だが、ブランはさほど変わらず、冷静に返す。

 

「何言ってんだお前ら」

 

本当にアザゼルが何言ってるのか理解出来ていないブラン。それに反論するようにティアマットが追い打ちをかける。

 

「そうね。アンタ達だって、今までやってきたことでしょうが。はぐれ悪魔という害悪を殺してきて、堕天使なら神器所有者という芽を摘んできた。そんなことすら何も知らない一般人を殺してきて、いざ自分が殺されるとなると逆ギレするの?多分ね、今までアンタら三大勢力に殺されてきた奴らはみんな同じ事を思ってるわよ。あれよ、因果応報ってやつじゃない?」

 

「だからといって納得出来るかってんだ!こちとら、神がいない間にどれだけ平和に向かって準備してきたと思ってる!?」

 

「……ここまで言っても認めないか。おい、いい加減気づけ。お前らがこの地球の平和を乱してるってことをな。それすらも気づかないのか?まぁ、自分達の罪すらも知らないフリをかましてきたんだからな……無理もないか」

 

可哀想に。そう付け加えてやれやれと首を横に振るブラン。

 

「サーゼクス様や、部長だってみんな平和の為に頑張ってる!それを邪魔してるのはお前達じゃねぇか!」

 

「そうだ!兵藤の言う通りだ!お前が破壊神だからって、そんな横暴な理由で殺されるなんて納得出来るわけねぇだろ!!」

 

イッセーが叫び、そしてソーナの眷属である『匙 元士郎』もイッセーに便乗するようにブランに言う。

 

(頑張ってる頑張ってるって……それだけしか言えねぇのか?指摘された事に対して、否定してただ庇うだけじゃあ、この先進化しないし、未来は無いな……メリットだけ受け入れ、デメリットには目を向けない。バカな奴らだ)

 

「お前ら、さっき説明してやったってのに、いつまで俺にタメ口きいてんだ。……破壊するぞ」

 

「「「「「!!」」」」」

 

今までとは違い、信じられない程強い威圧がイッセー達に襲いかかる。何かを考える前に、彼らはブランに対して頭を垂らしてお辞儀をする体勢になっていた。

 

「下手に出て我慢してやればつけあがりやがって。さて、ここまで俺に無礼を働いたんだ。ただ頭を下げるだけじゃ物足りないな……跪け」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ブランが『跪け』と言った途端、オーフィス、ティアマット、先代ブラン、レムギット以外の者達がまるで言霊にでも取り憑かれたかのように今度はブランに向かって膝をつき、頭を垂れる。

 

(な、なんだこれは……!?言葉すら発する事が出来ない……!?)

 

サーゼクスは何をされたのか全く理解出来てない。無論、他の者もだ。

 

だが、これは言霊のように言ったことが現実になったわけじゃなく、彼から放たれる気のプレッシャーによるものである。

 

天と地どころか、天国と地獄という更にかけ離れた実力差があるブラン一行とその他。ブランにとって、魔王や堕天使総督、天使長ですらも塵に等しく、この程度のことは造作もなかった。

 

「さっきまで我慢してやったし、まぁ、それはチャラにしてやる。それで、確かそこの茶髪がなんか部長が平和の為に頑張ってるって言ってたよな。それ、これを見ても同じ事言えるのか?」

 

『レム、あれを』と言うと、レムギットは了承し、杖を床にトンッと突く。すると、今度はやけにリアルな映像が映る。

 

なんとか目を動かして全員その映像を見る。そこには衝撃の映像が映っていた。場面は駒王町の公園の噴水前。そう、イッセーが堕天使レイナーレに殺された場面だった。

 

(こ、これは!俺が殺された時の!)

 

「これ、録画しておいたんだぜ。おお、改めて見るとなかなか無様な殺され方だな……うわぁ、最悪なドッキリ番組って感じじゃねぇか。流石にこれは同情するな……」

 

(コイツ、俺が殺されるって時に何にもしてくれなかったのか!やっぱりクズじゃねぇか!俺達に散々説教垂れといて自分は傍観するなんて!アーシアのことも含めてコイツは許すべき存在じゃねぇ!バカな俺でもそれだけは理解できる!)

 

イッセーは憤慨する。すると、そこにリアスがイッセーの前に現れる。この時、リアスが来た事はイッセーも分かっているが、何を言っていたのかは覚えていない。

 

そして今この瞬間、リアスが衝撃の言葉を口にしたことを彼は知る。

 

『死にそうね。傷は……へぇ…面白い事になってるじゃないの。そう、貴方がねぇ……本当に面白いわ』

 

イッセー達は驚愕する。この声は、いつも聞いているリアスの声だ。しかし、映像のリアスはまるで、イッセーの死をまるでゲーム感覚のように眺めて品定めでもしているような様子だった。

 

『どうせ死ぬのなら、私が拾ってあげるわ。貴方の命、私の為に生きなさい』

 

立て続けに映像を流す。イッセーは戸惑う。まさか、自分が死ぬ直前にこんなことを言っていたなんて思わなかったから。この時、彼の心にリアスの主人としての在り方に疑念を抱く。

 

「いやー、酷いと思わねぇか?自分の管理している人間が死にそうだってのに、『面白い』だってさ。俺よりもよっぽど破壊神向いてるよコイツ。こんな野蛮な奴が情愛やらなんやら言われてさ、そんな危険な奴が貴族だなんて……平和の為に頑張ってるとか言われて、俺がそれに納得して同盟を結ぶと思ってるのか?なぁ、魔王の妹なんだろー?世界の平和を担うんだろー?何が面白かったんだー?おい、何とか言ってみたらどうだー?」

 

ブランは椅子から立つと、リアスに近づいて彼女の頭をグリグリと踏みつける。これまで我慢してきた彼女の無礼に対する怒りの表れだろう。リアスはリアスで、こんな屈辱は今まで受けた事がなかったのか歯軋りしながら怒りの炎を燃やし続ける。

 

イッセー達もリアスが踏みつけられていることで更に怒りを募らせる。しかし、ブランのせいで喋ることすら出来ないのでリアスを助けることも出来ない。

 

この時、ブランはリアスに向けて気のプレッシャーを当てるのをやめたことで、リアスは口だけは開くことが出来、喋ることが可能となった。

 

「……ッ!」

 

ブランはリアスの頭から足を退けると、また椅子に座り足を組んでリアス見下しながら問う。

 

「なぁ、おい。もう一度聞くぞ?何が面白かったんだ?自分の領地で、管理している町で、住民が死んで、何が面白かったんだ?」

 

リアスが顔を青ざめる中、ブランは笑顔で、それも優しくない笑顔で丁寧に聞くのであった。

 

そして彼女は焦る。なんて答えればいいのか、頭の中で回路を迸らせる。そして、彼女は至った。この場を乗り切る答えを。

 

「……め……よ……」

 

「……?」

 

何か呟く声が聞こえるが、ブランにはよく聞こえなかった。すると、彼女は次の瞬間、破壊神でさえも驚くべき言葉を発した。

 

「そんなのはデタラメよ!私は、眷属を家族だと思っているもの!大切なイッセーに向かって、あまつあえ死にかけのあの子にそんな言葉をかける筈がない!虚言もいい加減にしなさい!私やこの場にいる私の優秀な眷属達全員はそんな言葉に惑わされないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ?」

 

これにはレムギットも珍しく驚く事態だった。まさか、この局面で事実を捻じ曲げて自分の行いを偽る者が目の前にいるとは思わなかったのだろう。

 

その言葉に、跪いているイッセー達は歓喜の言葉を心の中で叫んだ。『リアスはやはり、最高の主人なんだ』と。

 

恐らくだが、リアスは怖かったのだろう。もし、この真実を認めてしまえば、自分が最も好きであるイッセーに嫌われてしまうのではないか?または、眷属達からも失望の眼差しを向けられるのではないか?そう、予想してしまったことで、逃げる道を選んだ。自分が『情愛のグレモリー』であり続けるため、これまで育んだ関係を壊したくない為、自身を偽った。

 

(とんだ道化だな……これは想像以上に面白い。逆に面白いな)

 

これはオーフィスさえも思った。以前の自分は素直すぎたと思っていたが、このように嘘を吐きすぎるのもどうかと思う……と。

 

よくよく考えれば、こうやって映像を見せたものの、サーゼクスやイッセー達にはブラン達の言葉よりもリアスの言葉の方が信頼性が高いので、彼女の言葉を信じるのは当たり前だ。合成じゃないかという疑惑も出てくるのだから。

 

「なんだか、一瞬で殺すのが惜しくなってきたな……」

 

ブランは最早、リアス達に哀れみの目を向けることしか出来なかった。いや、そうせざるを得ない。他にどうしろと。保身の為に自身と他者を偽って、それに流される場の空気……ここで馬鹿らしいと一瞬で破壊してもいいのだが、なんだかそれでは腹の虫が治まらない……そんな感覚を覚えた。

 

「あー……はいはい……そうだな、凄い絆だな、感動的だな……はぁ……」

 

寧ろ、こんな者達ばかりが三大勢力の主力に集まっているのかと考えてみると、先代はよく破壊しなかったものだと逆に感心してしまうほどだった。

 

ブランはこうやって跪かせることすらも無駄な労力だと思ったのか、気のプレッシャーを放つのをやめた。なんとか立ち上がる者達の一人、サーゼクスはこの結果に対して大いに喜んでいた。

 

「どうやら、その子達の仲を引き裂こうとでも考えたのですが、無意味だったようですね。彼らの固い絆はこれからも砕けず、今後の冥界の平和を守ってくれるでしょう……貴方の目論見は外れたのです」

 

『別に引き裂こうとかは考えてないが』とブランは全くの的外れなサーゼクスの言葉を無視して心の中で呟く。すると

 

「……あ?」

 

瞬間、世界の時が停まった。それを瞬時に理解した時、レムギットと先代ブラン、ブランは重大な事を思い出したのであった。

 

この世は、『時間のコントロール』は重罪であるということを。




これ読んでる読者の君達、リアス達に一瞬で消えてもらうよりも絶望やらなんやらしてから死んでもらいたいって思ってるでしょ。分かってる。

たとえそうじゃないとしても、そうだとしてもご期待に添えるように何とか頑張っていきたいと思います……まだ先は長いなぁ。


説明のことなんですけど、まぁ、つまり第0宇宙というのは、対にならない宇宙がない分、均衡には特に拘っており、他の宇宙よりも人間レベルに気を遣っている……だから、ブランも先代も仕事を殆どサボらないんです。ビルスやシャンパとは違ってね。

ビルスやシャンパとは違ってね(強調)

次回もお楽しみに。

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