それではどうぞ
三人称side
「ふざけんな」
グレードレッドという者を一緒に倒して欲しいというオーフィスの頼みを聞いて露骨に嫌な顔をしているブランに対し、オーフィスは首をコテンと傾げていた。
「どうして?」
まるで自分が何も悪くないような、寧ろこの頼みを断る理由が分からないとでも言いたいような顔をしているのにブランは溜息を吐いた。
「いいかクソガキ。グレートレッドといえば次元の狭間にいるドラゴンのことだろ?・・・だよな、レム?」
レムギットからの情報を頼りに簡潔にまとめたブランだが、いまいち自信がなかったのか彼女に確認する。レムギットは頷くと杖の水晶から映像を出した。
「えぇ、その通りです。これがそのグレートレッド・・・一応、この地球で最強と言われているドラゴンで次元の狭間の主とも言える存在です」
映し出された巨大なドラゴンがぐにゃぐにゃした不可思議な空間を泳いでいるのを見てオーフィスの視線が釘付けになっている。
「これが次元の狭間で、この大きなドラゴンがグレートレッドです」
「グレートレッド・・・」
「でも、そのグレートレッドを倒してしまうと世界のバランスが崩れて世界ごと崩壊してしまいますからね〜・・・戦ってもその余波で地球が破壊される可能性もあります」
「そゆこと。はっきり言って俺がそのグレートレッドを倒してもメリットが無い。クソガキはクソガキらしく砂遊びでもしてろ」
背を向けてこの場から離れようとするブラン達だが、オーフィスはその後ろをテクテクとついてくる。
「お前と我ならグレートレッド倒せる。我、静寂を得たい。だから諦めない」
「こんのクソガキ・・・!」
聞き分けのない子供とは正にこのことかと心の中で毒づくブランはしつこいオーフィスをこのまま破壊してやろうかとも考えた。しかし、その瞬間何かを閃いたのかブランは怪しい笑みを浮かべてオーフィスに向き直る。
「おいクソガキ、なら条件がある」
「?」
「俺と戦って勝ったらお前の頼みを何でも聞いてやる。グレートレッドだろうが静寂だろうが用意してやろうじゃねぇか。んで、俺が勝ったら俺の言うことを聞け。敗者が勝者の言うことを聞くのは当然だろ?」
ここで忘れてはならないのが、ブランは未だ超サイヤ人になっていない。先代と比べればノーマル状態のブランと先代では力に圧倒的な差がある。しかしそれをオーフィスは分かってはいなく、先代ブランと同じ『破壊』の力があることしか理解しておらず今の状態のブランなら自分でも勝てると思っている。そう、つまり
「分かった」
こうあっさりと承諾してしまうわけである。一方、ブランはというと
(ククク、無限の龍神だろうが所詮はクソガキ・・・乗せられやすい奴だな。まっ、ここらへんで地球二番目に強いって言われてるコイツの実力を測るのもまた一興という奴か)
条件付きで提案した策にこうも乗ってくれるとは思わなかったのか、心の中でほくそ笑む。オーフィスのその純粋無垢なその無表情は若干自信があるようにも見えたが、ブランはそれを見てまた更に笑いがこみ上げてくるが何とか抑えた。
「さて、レム・・・彼処に俺達を送れ」
「かしこまりました。ほい!」
レムギットがトンッと地面に杖をつくと、ブランとオーフィスはレムギットが持っている杖の中に吸い込まれるように入って行く。
「ここは・・・」
オーフィスは自分が送られた空間を見て口をポカンと開けて呆然としている。辺りは地面がなく、背景は真っ白、そして無限に空白が広がる場所・・・そう、ここはレムギットの杖の中の空間。すると
「・・・動けない?」
オーフィスは無理に体を強引に動かそうとするが、金縛りにあったようにピクリとも動かない。一方、ブランは平泳ぎで悠然と空間を泳いでいた。動けないオーフィスを見てブランは動けないオーフィスのために念のため説明する。
「ここは『神の気』を自分の中でちゃんとコントロールしなきゃ動けない空間だ。それに重力も地球の10倍ほどあるし酸素も薄い。・・・まっ、お前には酸素は必要ねぇと思うが・・・おいどうした、動けなきゃ始まらねぇぞー」
「・・・むっ」
小馬鹿にされたことを感じ取ったのか、オーフィスは一旦強引に動かそうとするのをやめ、目を閉じた。すると
「・・・我、動けた」
「何!?」
この空間はブランが破壊神見習いだった頃、神の気を得るためにブランはこの場所で修行した場所である。そんな彼はこの場所で神の気をコントロールするのに『1週間』もかかった。いくらオーフィスに神の気があるからといって一瞬でコツを掴み、モノにする姿にブランは驚愕する。
(飲み込みが早いなんてもんじゃねぇ・・・コイツ、一瞬でコントロールする方法を独自に編み出したのか?単なる偶然とは考えられない・・・いや、俺が遅すぎたのか?師匠は『まぁまぁ早い』とは言っていたが・・・しかしまぁ)
「お前、やっぱり単なるクソガキじゃねぇな・・・おし、かかってこい」
「えい」
「ぐっ!?」
ブランの言葉に対し間髪入れずに距離を詰めたオーフィスは開始早々拳を放ってくるが、それはブランの掌に受け止められた。
(まだ本気じゃねぇな・・・けどノーマル状態の1割の力でも十分ビリビリきやがる・・・ククク)
「少し見極めてやるか。ハッ!」
「ん」
見た目に反し、その細身と軽く放たれた声からは考えられない程の強烈な拳と蹴りはブランも驚き、お互いに素早い攻防を繰り返していく。素早いと言っても恐らく、目で追える者は数えるほどしかいないだろう。
「ほっ」
「ほう、段々ギア上げていってるな」
拳と拳が衝突する度に凄まじい音爆が聞こえる。
「もっと攻撃してこい。まだまだ本気じゃねぇだろ?」
「・・・」
今度はブランが防御に徹し、オーフィスが間髪入れずに拳を放っていく。オーフィスの表情は未だ変わらず無表情。一方、ブランは少しだけニヤッと口角を上げながらオーフィスの拳の殴打を拳を使わずに何度も脚で受け止めている。すると
「ほらよ!」
「ぐっ・・・」
拳を掻い潜り、ブランはカウンターとしてオーフィスの鳩尾に軽く蹴りを入れるとオーフィスはほんの少しだけ痛みに顔を歪ませた。その様子を見てブランは腕を組みながら余裕の表情を浮かべている。
「ほう、感情が無いカラクリ人形と同じかと思ったがそんな顔もするのか」
「むぅ・・・我の攻撃、全部受け止められてる」
「戦いにおいて大切なのは相手の気の流れを察知して動きを読むことだ。お前は目で追いながら俺に攻撃しているだけだから簡単に動きを読まれる。お互いに気の流れを読むことで初めて本当の戦いが始まるってもんだ。気が無い奴には意味が無いがな」
「気の流れ・・・こんな感じ?」
するとオーフィスは一瞬でブランに近づき、蹴りと拳を放っていく。先程とは全くの別物でスピードもパワーも桁違いに上がっているが、ブランはそれよりも驚愕することがあった。
(今度は攻撃の精度が一気に上昇しただと!?なんなんだコイツ・・・たった一言アドバイスをしただけでそれをモノにしやがるなんてよ・・・ふざけやがって・・・これほどの才能があって『静寂を得たい』だと!?宝の持ち腐れとは正にこれだな!!)
流石に『1割』の力では分が悪いと思ったブランは『4割』の力でオーフィスを迎え撃つ。と、いってもまた脚だけで対処しているが。
(もう少しだな。俺の力の一端を見せるのはまだ早い・・・コイツの全力の全力を俺は見てみたい・・・!)
「えい」
「ガハッ!」
ブランの神の気の流れを察知し動きを読み取るオーフィスは遂にブランの鳩尾に拳を叩き込んだ。が、しかし
ガシッ!
ブランは鳩尾に叩き込まれた拳をガッチリと掴んでオーフィスの動きを止めた。
「やるなぁ・・・この状態での4割の俺にダメージを与えるなんて思わなかったぜ・・・そろそろ本気だせ!」
ブランは幼女体系のオーフィスの身体に拳を連続で叩き込む。ブランにとってはまだ序の口であるが、オーフィスにとっては凄まじい猛攻であり防御をせざるを得なかった。
「我、全力出す」
ドォォォォォォォン!!
オーフィスは全身に力を込めると、荒々しい気のオーラが溢れ出す。ブランもそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。
「8割・・・いくかな」
「んっ」
オーフィスは掌から黒い蛇をイメージさせる特大のエネルギー波をブランに向けて放つ。それは今にもブランを呑み込むと思わせるほど巨大で、並みの常人ではそれを見ただけで気絶するのではないかとブランは感じ取った。
「確かにすげぇパワーだ。・・・だがな」
それを迎え撃つために、ブランは前方に掌をかざし小さな気のエネルギー球体を形成する。それは空気を吹き込まれた風船のようにドンドン大きくなっていき、ブランの体が隠れるほど大きくなるとそれを勢い良く放つ。
「ハァッ!」
オーフィスのエネルギー波に対し、ブランはエネルギー玉をぶつけ鍔迫り合いの状態となる。拮抗状態となるかと思われたが、すぐにブランのエネルギー玉がオーフィスのエネルギー波を押す形となる。
「・・・トドメだ。ハァッ!」
「!」
ドォォォォォォォン!!
オーフィスは見た。自分がエネルギーの波に飲まれる瞬間、ブランの髪の色が『金色』に変化したのを。それを見た瞬間、なぜか心の中で『勝てない』と思ってしまった。
そう、オーフィスは先代ブランに続き、今代のブランにさえ敗れ去った。それはつまり
「静寂を・・・得られない・・・」
そう呟くとオーフィスの意識は闇の中へと消えていった。
「ここは・・・」
眼が覚めると、どこかの公園のベンチに横になっていたことに気づき、その公園の砂場を見てみると先程自分を倒した相手が小さな子供達と『10メートルを超えるほどの巨大な砂の城』を作ってるのを見かけた。
小さな子供と戯れているブランをオーフィスはじっと見つめている。
「すごーい!こんな大きな城作れるなんて!手伝ってくれてありがとうお兄ちゃん!!」
「ハハハハ!気にするな!それに俺も楽しかったぞ小僧ども!!クソガキが遊ぶものだと侮っていたけどやってみるとなかなか楽しいじゃねぇか!!」
分からなかった。ブランという男が。なぜあそこまで笑えるのか、何が楽しいのか。今まで静寂を得たいことだけを考えてきたオーフィスはそれ以外に興味を示したことがなく、生きる意味さえも不明であった。
どうやって自分が生まれたのかすら分からない。生まれた時から既に周りを圧倒する程の力を秘めていたオーフィスはただ、『孤独』だった。ずっと一人で世界を彷徨っていた。寂しい、とは思わなかった・・・何も興味を抱いていないのだから。孤独な自分はどう生きていいのか分からなかったからこそ、次元の狭間という故郷で静寂を得て静かに眠りたかったのかもしれない。
だからこそ、グレートレッドさえも凌ぐ強さを誇っており、尚且つ何かを楽しんでいるブランに少しだけ『興味』を持った。ブランはオーフィスが目覚めたことに気づくと、子供達と別れオーフィスの前まで近づいてきた。
「起きたかクソガキ。さーて、俺の言うことを聞いてもらおうか」
「その前に、聞かせて」
「あ?」
ジッと目を逸らさずに真っ直ぐ見つめながら口を開くオーフィス。ブランは何が何だか分からないがとりあえず大人しく聞くことにした。
「どうしたら、楽しめる?」
「楽しめるだと?」
オーフィスはコクリと頷く。初めて他人に興味を持ったオーフィスが初めて興味本位で聞いた質問だ。ブランは『何言ってんだコイツ』とでも言いたいような顔をしてから淡々と答えた。
「これは師匠の言葉なんだけどよ。『楽しみ方ってのは自由自在』なんだよ」
「自由・・・自在?」
「そうだ。他人が面白いと思ってることが自分が面白いと思うとは限らねぇ。だから見つけるんだよ、自分自身がな。もしかしたら何気なくやってみたことがハマるかもしれねぇ、何気なく見たことがすっげぇ面白いって思うかもしれねぇ。宇宙は広いし、この地球だってお前にとっては相当広い、その気になりゃ楽しみの一つ二つ見つけられんだよ。お前はその気がないだけ、楽しみを見つけようとしなかった・・・だから未だに一つも興味を抱けていない。そうだろ?」
「・・・」
オーフィスはそれ以上、何も言えなかった。見つけようにもどうすればいいのかも分からないのだから。ブランはそんなオーフィスの意は介さず、先ほどの話に戻す。
「もういいよな。んで、敗者は勝者の言う事を聞くって約束だったから・・・俺からお前に一つ命令しよう」
オーフィスはこのまま『帰れ』と言われる事を分かったのか、公園のベンチから立ち上がってブランに背中を向けようとする。しかし、その瞬間オーフィスにとって予想外の命令がブランの口から放たれる。
「お前、俺の後継者になれ」
「・・・?」
原作見てもオーフィスって本当に強いのか?と思うのですが、もう二次創作になれば自由で良いなと思った私。
順応しやすい、飲み込みが早すぎるという、そして修行もなんもしないでここまでの強さを得られることに興味を持ったといったところでしょうか。
とりあえず、ブランのノーマル状態の6割ほどが現在のオーフィスの力と設定します。イメージ的には『オーフィス=ゴテンクス』。注意としてこれはあくまでこの作品のみでのイメージの強さなので悪しからず。
それと今回のブランの強さはビルスの1割の力にも満たないくらいの加減でやったので本当に次元が違いすぎるということをお忘れなく。