この素晴らしい錬金術師に祝福を   作:リアム・フォン・スミス

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 早い(確信)
 短い(謝罪)


冬将軍

 今日は一日、パーティーの皆んなとは別行動をとっている。カズマとアクアはウィズ魔道具店へ新たなスキルを覚えに行き、ダクネスは美味いクエストが出ないかギルドで見張りをし、めぐみんは朝からどこかへ行っていた。

 因みに俺は以前パーティーで請けた雪精討伐の依頼を一人で請け、アクセルの街から離れた山と平原の中間らへんに来ていた。

 

 雪精討伐を再度するのは早く春になってほしいからじゃあない。つい一、二週間前に俺を殺した冬将軍へのリベンジだ。

 他のパーティーメンバーには説明せずに来たので、帰ったら怒られるだろうが、冬将軍を倒すことが出来たなら賞金二億エリスは貰えるはず。

 それで一人で向かったことはチャラにしてもらおう。

 アクアというヒーラーがいない中での戦いは危険だ。前の様に死んでしまったら蘇生なんてできる筈もなく、その場では死なずとも出血死や呪いなどで死んでしまうかもしれない。

 アクアを連れて来なかったことは後悔しているが、回復手段が無いわけでもない。自前で錬成したポーションもどきがある。このポーションは傷口にかけるとその体細胞を活性化させ、修復を促す効能がある。

 だが疲れた体力が元に戻るわけではないからスタミナ切れには要注意だ。

 

 以前雪が降る大地に踏み入れてから一時間。

 俺はホコリを払う様に雪精の大群を一掃していた。焔の錬金術師の力は凄まじく、生み出した焔は雪精を溶かし、降り積もった雪を溶かし、地面を焦がす。

 両手につけた手袋は各々違う方面の雪精を撃退し、俺を中心とした爆心地の様な紋様が刻まれていた。

 

 雪精を五十体以上は討伐した頃、ついにやってきた。

 

「冬将軍の到来、か」

 

 白一色の鎧兜。博物館で見かけるようなその姿は、やはり美しく見え、圧倒的な存在感を誇る。

 俺のことを覚えているのかいないのか分からないが、その姿からは憤怒という感情がありありと伝わってくる。

 今までこれほど雪精を減らされることがなかったのだろう。だからか、思わず殺気が首を刺すような幻視をするほどの激情を冬将軍はいだいている。

 俺の首を斬り落とした刀を抜刀すると、その刀からは冷気が溢れ、大気中の温度が少し下がったかのように感じる。

 すかさず、腰につけた剣を抜刀し左眼に移植した『最強の眼』を起動させる。

 魔力をスイッチとして扱い、脳へと信号がいき、一時的に脳内麻薬を分泌させ、一種の覚醒状態へ促す。

 俺の微小な魔力を感じたのか、準備が終わるのを待っていたのか、冬将軍は()()()()()()()()()で斬りかかってくる。

 普段の四分の一倍の速度の世界では、とても遅く、圧倒された時とは明らかに違った。

 眼が良くなろうが、身体がついていくわけではない。俺は奇妙な世界を感じながら、振り下ろされる刀に合わせるように剣を振る。

 刀と剣がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。前に死んだのはこの後剣が耐え切れずにおれてしまったから。

 

 だが今回は折れない。

 この剣は俺の機械鎧(オートメイル)と同じ金属製であり、錬成と鍛造を繰り返して作った逸品だ。地下奥深くまで魔力を伸ばし、探る必要があったため、必要量を集めるのに何日もかけ、後はぶっ通しで錬成と鍛冶屋で教わったなんちゃって鍛造でより硬く、より鋭く仕上げた。

 製造期間は冬将軍に殺された次の日から昨日まで。

 勝つことへの一心によって作られたこの剣は、折れない。

 

 鍔迫り合いが終わり、冬将軍が一歩引く。

 恐らく今までに一撃を本当に耐えた奴はいなかったのだろう。それを不思議か疑問に感じている、ってところか。

 だがそんな考える間もあけず、次は俺から斬りかかる。

 ステータスの筋力では負けているだろうが、予め補助魔法のパワードを掛けておいたから、押し負けることはない。

 

 何度も叩きつけるように刀と剣で斬り合い、超摩擦により火花が散る。

 剣術のスキルを持っている俺と日本人の馬鹿な考えで作られた冬将軍とでは、剣の扱いで巧拙が出るが、冬将軍はその差をフィジカルで埋めている。

 だがこの斬り合いにも終わりはある。

 

 ピシッという音が鳴る。

 冬将軍の刀にヒビが入り、次の斬り合いで刃こぼれし、次の斬り合いでついに、砕けた。

 

 冬将軍は折れた刀を一見し、手放した。すると徐にその場で正座をした。恐らく俺に首を差し出そうとしているのだろう。

 冬将軍は日本人の勝手なイメージで作られた偶像の様な存在だ。そしてその姿は将軍を模している。

 ならここで介錯してやるのが(日本人)としての責務だろう。

 その場に威風堂々の姿で正座するこの将軍は、今何を思っているのだろう。悔やみか怒りか、それとも解放される幸福感か。

 

「冬将軍」

「………」

 

 呼びかけようが、反応はしない。こいつは自分が冬将軍ということすらも知らないだろう。

 

「来世で、もう一度」

「………」

 

 俺は首に向けて剣を振り下ろした。




 次話(早い)(盲信)

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