問題児たちと箱庭の守護者 リメイク版   作:中田 旬太

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すみません。だいぶ遅くなってしまいました。

今回はタイトル通り春が箱庭に来るまでのことです。


春が箱庭に来るまでのこと

「白様が師匠って、どういうことですか春さん!?」

 

「どういうこともなにも、俺が箱庭に来る前は白さんに鍛えてもらってたんだ」

 

「それでは、白は死んでいなかったということか?」

 

黒ウサギ達と違って冷静な春。白夜叉もすぐに冷静さを取り戻す。さすが“階層支配者”といったところだろう。

 

「いや、確かに死んでるよ。まあ、今から説明するから」

 

 

 

 

 

 

(プロローグの最後の少し前から繋がってます)

 

白の頼みを引き受けた春。白はそこで疑問に思った。

 

「何故私の頼みを受けてくれたんだ? 普通なら断るはずだ」

 

「………そうですね。理由を挙げるとしたら、()()を見つけたいんです」

 

()()?」

 

「はい。………これは俺の話なんですけど────」

 

春は自分の身の上を白に話した。その話を聞いた白は苦い顔をする。春が妙に落ち着いた感じがするのは、過去が原因だと理解した。

 

「とまあ、こういうわけです」

 

「それで、君が探す()()とは何だい?」

 

「─────自分でもよく分かってないんです」

 

「分からない?」

 

「はい。何を欲しているのかは分からない。でも、心の渇きを感じるんです。何かを欲する渇きを」

 

何をしても満たされない感覚。一体何をすれば満たされるのか全く分からなかった。それが薄れるのは自分の趣味であるアニメを見たり、ゲームをしたときである。

 

「それで、白さんの頼みを引き受けたら、何か変わるんじゃないかと」

 

「────なるほどな」

 

これは思ったより深い。そう感じたハクは少し暗い顔をする。

 

「それと、個人的に少し許せないところがありまして」

 

「?」

 

「白さんが必死になって止めようとするってことは、白さんの弟はそれだけのことをした、もしくはしてるということです。それは誰かが傷つくことなんじゃないですか?」

 

先ほどの暗い表情とは違い、今度は驚きの表情を見せる白。ここまで頭が回るとは大したものである。

 

「俺がこんな境遇ですから、個人的にはあまり許せないんですよ。そういうの」

 

真剣な顔をして語る春。これは意外な一面を見たと白は思った。少し冷めた雰囲気を漂わせる春だが、情に厚い一面も持ち合わせているらしい。それを知った白は思わず微笑んでしまった。

 

「────君は優しいみたいだな」

 

「まさか。俺が優しいわけないでしょう」

 

「………ふむ。なるほど………」

 

自分を卑屈に見る部分もあるらしい。なんとも難しい性格をしているものだ、と思いつつ白は少し苦笑を浮かべる。

 

「では、こちらの話をしようか」

 

「はい。お願いします」

 

「………昔の話だ。私が居た世界、“箱庭”に一人の男が居た。その男はギフトを使って箱庭を荒らしていた。コミュニティを襲い、街を壊し、人々を殺していった」

 

「………」

 

語り始める白。春はそれを黙って聞く。

 

「その男は後に、“箱庭の破壊者”と呼ばれるようになった。そしてその破壊者を止めた男が居た。その男は破壊者を打ち倒し、箱庭に平和をもたらした。その男は後に“箱庭の守護者”と呼ばれるようになった」

 

「………その話からすると」

 

「ああ、私が持っているギフトが守護者のギフトである“全ての光”。そして私の弟………(くろ)が持つギフトが破壊者のギフトである“全ての闇”だ」

 

破壊者と守護者。この話がこの二人に関係してくるのだろう。

 

「さて、ここからが私の話だ。私は守護者のギフトを受け継ぎ、四代目の継承者となった。それからかなり経ったある日のことだ。黒は破壊者のギフトを使い、破壊者と同じように箱庭を荒らした。私はそれを止めるためクロと闘った。が、しかし………」

 

「あの結果に………ということですか」

 

「ああ。そして、私はこの空間で魂だけの存在となり、君を呼んだというわけだ」

 

拳を握り締め、奥歯が擦れて軋む。自分では止められなかった(うえ)に春のような子供にこんなことを頼むのだ。悔しく、情けないことだろう。

 

「でも、白さんの弟は一体何でそんなことを」

 

「理由は分からない。だが、黒は必ず止めなければならない」

 

「……そうですね」

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こういう感じで俺は白さんに呼ばれて頼みを引き受けて、ギフトを受け継いでここに来たってわけだ」

 

「何か、話がかなりぶっ飛んでるわね」

 

「だな」

 

「うんうん」

 

話を聞いていた飛鳥がそんなことを呟く。それに相槌を打つ十六夜と耀。事情はよく分かっていなかったが、話を聞いただけで普通でないことは理解出来ていた。

 

「しかし、一体どうやって白はおんしを呼んだのだ?」

 

「えっと確か、手紙に細工して自分の空間に繋がるようにしたって言ってたな」

 

「相変わらずトンでもないことをする人なのですよ……」

 

そう言って溜め息を吐く黒ウサギ。この発言から察するに、白は昔からいろいろとやってきたようだ。

 

「なあ。その白って奴は元仲間ってことか?」

 

「はい。その……かなり変わってましたが優しくて、とても強いお方でした」

 

「にしても、魂だけの存在になっておったとは………本当に不思議な奴じゃの」

 

懐かしむように語る黒ウサギと白夜叉。しかし、どこか哀しげである。

 

「はい。質問」

 

「ん。何だ?」

 

耀が右手を挙げる。それに反応して耀の方を向く。

 

「今までの会話からするとその守護者のギフトって、“全ての光”のことだよね? 他のギフトは何なの?」

 

「ナイス質問。それについても今から説明する」

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ始めようか」

 

そう言ってくる白に、春は少し緊張した。何を始めるのかというと、それはギフトの受け渡しだ。春は緊張と自分がしっかりと受け継げるかどうかの不安でいっぱいだった。

 

「渡し方だけど、私と拳を合わせろ。そこから送り込む」

 

「……分かりました」

 

右拳を突き出してくる白。春はゆっくりと右拳を合わせた。

 

「……いくぞ」

 

「はい……!」

 

その瞬間、自分の中に何かが入ってくるのを感じた春。すると、見覚えのある光景が頭の中を流れる。

 

「──────ッがぁぁぁぁぁあ!!!」

 

拳を離して頭を抱える春。白をそれを見ると慌てて春に近づく。

 

「大丈夫か!?」

 

「ッ!! ぐっ! あぁぁぁぁぁあ!! 何────だっ───これ──────っ!!!」

 

(光景……いや、記憶?)

 

『火影を超す!

ンでもって、里の奴ら全員に

オレの存在を認めさせてやるんだ!』

 

『愛してくれて………ありがとう!!!』

 

『こんな…こんなはずじゃ…

畜生ォ 持って行かれた…………!!』

 

『ボク、がんばって、生きた………。

ここで、生きたよ………』

 

『初めから独りきりだったてめーに!

オレの何が分かるってんだ!』

 

『一人が寂しいと気付いた時

人は本当に優しくなれるの』

 

『いつか必ずお前を奪う』

 

『私を母にしてくれてありがとう…

ミナトを父にしてくれてありがとう…

私達の元に生まれてきてくれて………

本当にありがとう!』

 

『目の前で大事な仲間を失ったら………

死んでも死に切れねぇ!』

 

『魔力があろうとなかろうが大事なのは……

生きてるってことだろ

命だろーが!!!』

 

『僕の最弱(さいきょう)を以て、

君の最強を打ち破る』

 

『お前がどこの誰だろうと!!

俺はお前を越えていく!!』

 

『忍者の世界でルールや掟を破る奴は

クズ呼ばわりされる………けどな!

仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ』

 

『ベル坊は人間を滅ぼしたりしねーよ

なんでか解るか? 俺が親だからだ』

 

『立てよド三流

オレ達とおまえとの

格の違いってやつを見せてやる!!!』

 

『たとえお前が死んでも……

オレはお前との約束を果たす!!』

 

自分が憧れを抱いた世界の風景やキャラクター達の記憶が頭の中を流れる。

 

傷つく記憶が頭の中を過ぎれば、そこの部分が痛くなる。大切な人が亡くなれば、悲しさで涙が流れる。独りの辛さに、胸が苦しくなる。大切な人との時間が、胸を暖かくする。

 

色々な感情が一瞬で入り込み春は頭を抱えて蹲っていたが、それが終わると頭を上げて立ち上がる。

 

「………大丈夫なのか?」

 

白に声を掛けられる春。春は流れていた涙を服の袖で拭い、白の方を向く。

 

「はい、心配掛けましたね。もう大丈夫です!」

 

「何か……変わったな」

 

「多分、ほんの少しだけですけど」

 

「……私の時は普通に終わったのだが。何があった?」

 

「キャラクター達の記憶が、頭の中に流れてきました。それと、今体からはいろんな力を感じます」

 

「何? ……光と闇の影響と考えるべきだろうな。それで、感じる力とは何だ? まあ、話の流れで分かるが」

 

「はい。アニメのキャラクター達の力です」

 

「やはりか」

 

キャラクター達の力。もともと謎の多いギフトだったが、こればかりは原理が分からない。

 

「とりあえず、これからはその力も鍛えていかなければな」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

「へえー」

 

「大丈夫だったの?」

 

「何が?」

 

「何がって……記憶のことよ。頭の中に沢山の人の記憶が流れてきたのでしょう? その後に自我を失ったりしなかったの?」

 

「確か、そういうのは無かったな。今思うとよく平気だったなーと思う」

 

飛鳥の問いに答える春。飛鳥の言われたように自我を失う可能性が高かっただろう。そう考えただけで少し怖くなってきた。

 

「にしても、だいぶハードな人生を送ってきてたんだな」

 

「まあな、でもハクさんに出会ったから両親と仲直り出来たんだけどな」

 

「は? 待て、どういうことだ?」

 

「実は白さんと会って修行を始めて少ししてから、両親のところに一回会いに行ったんだ」

 

「何で会いにいったの?」

 

耀がそう尋ねると、春は少し微笑んで口を開いた。

 

「俺は……キャラクター達の記憶が頭の中に入ってきて思ったんだ。このままじゃダメだって。両親とは、しっかりと話してから箱庭に行かなきゃって。親の気持ちが分かっちゃったから」

 

そう、春は知ってしまった。子を思う父と母の気持ちを。だからこそこのままではダメだと思い、春は両親に会いにいったのだ。

 

「どんな顔して会えばいいのか分からなかったけど、俺は両親に会いに行ったんだ。するとさ、二人共俺の顔を見た瞬間泣き出して抱きしめてきたんだ。『無事で良かった』……て」

 

今でも思い出す二人の顔。それを見た瞬間、罪悪感のようななにかが湧いてきたのを思い出す。

 

「そこから俺は家に入って、二人に全部話したんだ。俺が何をしてて、何がしたいのか。二人のことをどう思ってるのか。今までのことを全部話した」

 

泣いてる二人を落ち着かせて家に入り、全てを話した春。その時の二人は、自分の話を黙って聞いていたのをよく覚えていた。

 

「殴られたり縁を切られるくらいの覚悟をして話した。でも……全然違った。二人は俺をまた抱き締めて、謝ってきたんだ。その時は俺も思わず泣いたよ。そこから色々と話して、俺のやりたいことをやってこいって送り出してくれたんだ。この時、俺の中にある渇きも少しなくなった気がするな」

 

「うぅ……いい話ですねぇ~」

 

全てを話した春。黒ウサギはハンカチを手に持って涙を拭っていた。それを見た春は苦笑する。さすがに泣かれるとは思っていなかった。

 

「……まあ、これが俺が箱庭に来るまでの出来事だ」

 

「ふむ………のう春よ。私とゲームをしないか?」

 

少し不敵な笑みを浮かべながら、春にゲームを持ちかける白夜叉。

 

「いいよ。ゲームの内容は?」

 

「私とおんしで純粋な力比べをするのだ。つまりは決闘じゃよ」

 

「え!? 白夜叉様!? 本気ですか!?」

 

「本気だとも。白の弟子である春の実力を知りたいのだ」

 

「……!! 春さんはいいのですか!?」

 

「ああ。俺も太陽の星霊にどこまで通用するのか知りたいし」

 

黒ウサギは春を心配し、止めようとするが、二人共乗り気なため止められない。

 

「いいじゃねえか黒ウサギ」

 

「し、しかしですね」

 

「黒ウサギの心配する気持ちも分かるが、二人がやるって言ってるんだ。ここは素直に見届けようぜ」

 

「……分かりました」

 

十六夜に説得されて引き下がる黒ウサギ。十六夜はああ言ったが、春の実力が気になるというのが本当のところである。そのため、内心ワクワクしていた。

 

ゲームのため十六夜達から離れる春と白夜叉。ある程度離れると白夜叉は“契約書類(ギアスロール)”を春に渡す。

 

 

 

 

 

 

ギフトゲーム名“白き夜に挑む者”

 

 

プレイヤー一覧

田中 春

 

 

クリア条件

白夜叉を降参か、行動不能にする、

もしくは殺害。

 

 

敗北条件

降参か、プレイヤーが行動不能になる、

もしくは死亡した場合。

 

 

宣誓

上記を尊重し、

誇りと御旗とホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

 

“サウザンドアイズ”印

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。これでオーケーだ」

 

「なら、始めるとするかの」

 

互いに向き合い、しっかりと相手を見つめる。これより、春と白夜叉の戦いが始まろうとしていた。




今回はとくに何も使ってないのでないです。

次回から戦闘回が続くので頑張ります!

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