「メリークリスマス、プロデューサー。」
「メリークリスマス、凛。これからもよろしくね。」
女性2人、お洒落なカフェでワイングラスをカチリとならしケーキを一口食べる。いちごのショートケーキが甘ったるいすぎたのか、すぐさまいちごを口にはこび、酸味で口をごまかす。
「で、それで...私に相談って?」
「うん...あのね、プロデューサー。私...アイドル辞めたいって思うんだ。」
「...続けて?」
「うん。最初に思ったのは、嫌だな、とかやだな、とかじゃなくて、単純に惰性でアイドルやってるなって思ったんだ。」
「惰性?」
「うん。昔...というよりは最初とか、はじめての事が多くてさ、忙しいってのもあったんだけど、それ以上に楽しいがあったんだ。で、色んなことを経験して、とうとう第3回でシンデレラガールになって...それ以降も楽しかったんだ。
で、高校卒業して、更に忙しくなって...今になって考えるとそこからだね。私、こう思ったんだ。『あれ、私、今楽しい?』って。」
「...」
「忙しくて疲れはたまるけど、その分楽しかった。楽しみや発見が糧になってた筈なのに、いつの間にか、それが悩みになっていた。苦痛になってたんだ...」
「...そっか。」
「ねぇ、プロデューサー...私、どうすればいいと思う?」
それはきっと、辞めるか辞めないかと言うことなのだろう。彼女はまだ20。これからもまだまだ売れるし、実力もある。路線変更も可能だろう。
「いいんじゃない?辞めれば。」
「え?」
意外にも、彼女はあっさりと提案した。
一口ワインを飲み、こう続ける。
「私さ、凛に酷いことさせてたね。高校卒業して、大学に行かないってわかるやいなや多くのお仕事やらせてさ。全部凛の為にって思ってたのに。凛が、毎日楽しく過ごせるように...
けど、そのお仕事の量が凛を苦しませてたんだね。悩ませてたんだね。」
「それは」
「ううん、違くないよ。凛に言うべきだったんだよ。これでいいかって、辛くないかって...凛は正直に言う事を知ってたから、否定が怖かったから。私が逃げてたんだ。
確かに凛にやめてほしくはないんだよ。話を聞いて担当を変えてもらうのもどうかなって思ったんだ。けど、そうなったら、その人が今度プレッシャーで潰れちゃう。」
「だから、すごく勝手だけど、辞めたいって思うんなら、辞めてほしい、違う道を歩んでほしい。」
「プロデューサー...」
「けど、1つだけ...1つだけいいからお願いできる。」
「?」
「引退するためのラストライブ。ツアーでやらしてほしいの。凛1人の、全国ツアー。」
「ツアー...!」
「うん。最後は絶対大舞台作り上げたいんだ。凛と私で。勝手なんだけど、これだけはお願い。やらせて!」
「...いいよ。やろう。プロデューサー。最後のライブ、楽しみにしてるよ。」
その後、約一年かけた大舞台は北海道、福島、新潟、東京、大阪、徳島、熊本の計8カ所で行われ、最後のライブに幕を閉じるとともに、凛のアイドル生活も幕を閉じた。凛は歌手の道に進み、凛を育てたプロデューサーはそのままプロデュースを続けている。
凛は歌手の道でいずれかは大物になるだろう。アイドルの時から歌唱力は高く、その点を強みにしていた部分はあった。
凛を育てたプロデューサーは名プロデューサーと呼ばれる。しかし、その言葉を耳にするなり彼女はこう言う。
「私は渋谷凛というアイドルを殺しました。」と。