黒猫ほんわか攻略日記 作:菜音
〈巡る幸い〉亭で朝食を食べた彼とイザヴェリとルリアゲハは食後の運動がてら朝の町を散歩していた。
「まぁこれも立派な仕事だけどね。」
いつロストメアに出くわすか分からないから捜索も兼ねたパトロールと言った所だな。
「それにしてもあそこのメニューはどれも美味しいな。」
クソっ。魔法使いはあれを食べてたのか!
「はい!とても素晴らしいかったです。」
イザヴェリも大満足のご様子。
てかこの人、魂とか食べてるから普通の食事ができるか心配だったけど普通に食べてたわ。
「イザヴェリさんってホントよく食べてたわね。」
「だ、だって、本当に美味しかったもので‥‥」
あーあ、ルリアゲハさんがイザヴェリをからかったから萎んじゃった。
ここはフォローしよっと。
「まぁ別にいいと思うよ。たくさん注文してあげればリフィルの稼ぎにもなるし、そもそも支払いは全部アフリト翁持ちなんだから。存分に食べなよ。」
「あはは♪それもそうね!たくさん食べてやればアフリト翁があわてふためく顔が見られらかも。」
俺のフォローにルリアゲハさんも乗ってくれる。
「わかりました。では次回からは遠慮なく‥‥もっとおかわりを!」
あれで遠慮してたんだ‥‥
なんて考えていたその時だった。
「何!?」
「地震‥‥いや、これって!」
街のいたるところで爆発が起きていた。
爆炎、雷撃などなどバリエーションこそ違うが。
「おお!君たちか、ちょうどよかった!」
「ラギトさん!」
屋根を跳び渡っているところだったのをこちらを確認すると降りてきた。
「ラギトさん、これは一体?」
「それがだな、〈ロストメア〉、それも人擬態級が複数一気に現れた。」
「人擬態級が!?」
ルリアゲハが驚愕している。
当たり前だ。自分もこれまで直に戦ってきたからわかるが一体だけでも強力な相手だ。確実に倒すために数人がかりで相手しているのにそれが複数体一斉に、それもあれだけの爆発を起こせるだけの怪物が。
「幸いなぜか奴らは門を目指していない。連携の気配もないから他のメアレスが各個撃破のため向かっている。ゼラード達もすでに向かっている。」
「そう、なら私達も行くわ。」
「助かる。俺は東地区の援軍に向かう。君たちはこの先の奴を頼む。」
「わかりました。ラギトさんもお気を付けて。」
「そちらもな。」
ラギトは飛躍すると屋根を跳び渡っていった。
「悪いけどお二人さんは先に行ってて。私はリフィルに声をかけてくるから。」
「いいですけど、早く来ないと私とマスターで終わらせちゃいますよ?」
「あら、言うわね。なら急いでくるから私たちの分の取っといてね。」
ルリアゲハが〈巡る幸い〉亭の方向へと走っていく。
「さてと、私たちも行きましょうかマスター!‥‥ってマスター!?大丈夫ですか!顔が真っ青ですよ。」
「ああ‥‥大丈夫だ。」
「いえ全然大丈夫そうには‥‥」
「いるんだ‥‥」
「いるって一体なにが?」
「あの時、あの時と同じこの感覚、間違いない。今回の〈ロストメア〉にいる。」
「それは本当ですか!」
「ああ間違いない。いくぞイザヴェリ!」
「はい!」
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彼とイザヴェリが駆け付けた時にはその場静かになったいた。
おそらく〈ロストメア〉に打ち負かされたのだろう。
武器を完全に破壊され気絶しているメアレスの男たちが倒れていた。
「みんなやられたのか?」
「マスター、おかしいです。」
「ああ確かに、こんなに早くこれだけの人数が倒されるなんて。」
「いえ、そうでなく。皆さん、武器があれだけ破損しているのに身体のほうはほぼ無傷です。」
〈夢〉を叶えるためならば〈ロストメア〉、たとえ人擬態でも人を殺すことにためらいなんてない。それを宿敵であるメアレスがこうして生きているのはおかしい。イザヴェリはそう言いたいのだ。
「てことは武器だけ狙ってみねうちってことか。相当な実力差がないとできない芸当だな。」
カツ カツ カツ‥‥
「マスター‥‥」
「ああ、来たぞ。」
足音なくてもわかるぞ。
俺の感覚が叫んでいるよ。
それはある距離までくると足を止める。
「お前‥‥。なぜお前がここに、いや!〈ロストメア〉なんてやったんだよ!スモモ!!」
スモモ?「アハハ、久しぶりマイロード―!」
イザヴェリがとっさに俺とスモモの間に入る。
スモモの方は、今すぐ戦うという雰囲気は感じられない。ただこちらの敵意を察知したらいつでも臨戦態勢に入れるように刀に手を置いてこちらをうかがっている。
「マイロード、おかしいな。俺の所にスモモはいないはずなんだけどな~」
「つれないねー。本当はもう気がついてるんでしょう?」
「そうなんですかマスター?」
まぁ‥‥ほとんど直感みたいなもんだけどね?
「お前、そしてあの時俺を襲ったイザヴェリの〈ロストメア〉の正体、お前達、前のデータの奴らだな。」
「そうだよ。私やイザヴェリ、ううん、今日暴れてるみんなはかつてマスターの精霊だった子達だよ。」
スモモ・プルーム
GW2016ガチャで手に入れた精霊でその火力から当時の雷属性デッキのエースを張っていた精霊だ。
そして、イザヴェリ‥‥
あれは今持っているノーマルではなく、限定ガチャのイザヴェリか‥‥
「最初の質問に答えて貰おうか,どうして‥」
「どうして〈ロストメア〉になっているかって?よく言うよ、私達はねえ!捨てさせられたんだよ!マスター!君によってね!」
「なっ!?それ一体どういう意味だ」
「別に知らなくてもいいよ、ここでマスターには倒されてもらうからさ!」
スモモは刀を抜いた!
「す、スモモ‥‥」
「悪いけど、邪魔されたくないんだ。できればこんな事したくない、でも仮にここでマスターをやっても私達の誰か一人が門をくくれば私達の願いは叶うんだ。」
スモモは一気に加速、距離を詰めてくる。
「マスター!」
イザヴェリが促す。
「ああ!やるしかないか!ラウズメア、オルタメア!」
俺はカードに魔力を込めて〈ロストメア〉を二人召還する。
イザヴェリ、ラウズメア、オルタメアがスモモを迎え撃つ、ところが‥‥
「きゃああああ!?」
「イザヴェリ!?ラウズメア、オルタメアも!」
三人がスモモの刀の間合いに入ったとたん、目にも見えない早い剣捌きで三人の急所を狙い切る!
ラウズメア、オルタメアは体力の限界でカードに戻る。こうなっては回復するまでこのカードは使えない。
「クッ!やはり敵に回すと厄介すぎるぞ!」
彼は改めたかつての戦友の恐ろしさを噛みしめた。
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そのころ‥‥
『んんー!防戦一方だね!』
「くっ‥‥」
アネモネ達はオメガシュガウィーの猛攻の前に手が出せない状況だった。
アネモネやリヴェータなどが前衛として敵の攻撃を捌き、フロリアやスワンは後ろで支援、サーシャやエリス達はスワン達を守りつつ隙を見て反撃をしているが‥‥
「ダメだわ硬すぎる!」
「諦めたらだめです!次の攻撃が来ます!前衛の援護を!」
サーシャは珍しく弱気になりかけたエリスを鼓舞した。
しかし、彼女自身この圧倒的過ぎる敵の前に屈しそうになっていた。
(このままじゃいつか‥‥)
「わかりました!」
前衛で攻撃を防ぎつつ分析を行っていたアサギがみんなに聞こえるように伝える。
「何がわかったのアサギさん!」
「あの怪物の正体です。あれはC資源、つまりソルニウム技術を応用したものです。」
「どういうことなの?」
「私達の世界ではソルニウムを使いガーディアンアバターは作られます。人の心にソルニウムが反応し具現化したものと言っても良いです。」
「つまりどういうことなの?」
リヴェータが首をかしげる
「私の分析が正しければあれは囚われた6人の心(ソウル)を媒体にソルニウムによって作られたガーディアンアバターです。」
「6人分のアバター‥‥まるでキメラねぇ‥‥」
『んははっ♪流石アサギ先生!もうそこまで解っちゃいますか。』
ウシュガ、いやオメガシュガウィーが肯定した。
『そして!6人のソウルを使ったこの体はこんなこともできるのさ!』
するとこれまでウシュガが映っていた画面が変わる。
WARNING
アルドベリクの顔
謎の警告音とともに映るそれは何か仕掛けてくる合図だと皆が気づく。
「何か仕掛けくるわ!皆!気を付けて!」
アネモネが剣を構えて備える。
現れたのは無数の剣、それもアルドベリクの剣だ。
無数の剣が円を描くように向かってくる!
イスルギやアネモネなどの剣士は受け止めようとするが、
「くっ!重い!」
「きゃあ!?」
その一振り一振りがアルドベリクの太刀筋と同じ威力を持っていた。この場にいる剣使い達も未熟ではない。どうにか一撃は防げてもすぐに別の剣が襲いかかる!
「みなさん!無理に防がずに避けてください!」
「アサギ!これは一体!?」
「おそらく‥‥ウシュガは囚われた6人の力を使える‥‥そう考えた方が‥‥」
「嘘でしょう?」
全員なんとか剣の攻撃を避けきった。
気づけば剣は消えており画面もウシュガになっていた。
『あれれ?もうへばったの?まだ僕の力はこんなもんじゃないよ!』
オメガシュガウィーは次の警告画面になる。
「後5人もいるのですか‥‥」
「いいわ!やってやろうじゃないの!」
しかし、まだこちらの戦意は健在だ。
「ウシュガ!何も奥の手があるのはそちらだけではないですよ!」
何もただ耐えていただけではない。
「アサギさん!スキル溜まりました!」
ルカが声を上げる。
ルカだけでなくほぼ全員のスペシャルスキルがチャージが完了している。
「いくらキメラアバターの化物でも、この数の精霊のSSを喰らえばただでは済みませんよね。」
『ま、まさか‥‥』
「皆さん!一斉射です!」
攻撃系スキルを使う全精霊によるSS連携攻撃!
これには高い防御力を誇るオメガシュガウィーもたまったものではなかった。
『うぎゃああああ!?』
オメガシュガウィーは苦しみ画面にヒビが入る。
『まさかそんな!こんなことが!この僕が!この僕!』
ウシュガのこの反応に皆が勝利を確信した。
ところが
ファイル1 ロード完了
『なんちゃって♪』
次の瞬間、オメガシュガウィーのダメージが消えていた。
「ど、どうして!?」
「ま、まさか回復スキル!」
「いえそのような気配は‥‥」
ファイル2 セーブ
『お返しだよ。』
突然のことに狼狽える精霊達、しかし、そのすきにウシュガは攻撃を仕掛けてきた!
「きゃああああ!!」
精霊達は力尽きてしまう!
「く、くそ‥‥ここまでか‥‥」
「ま、マスター‥‥」
ファイル2 ロード完了
「あれ?」
気がつくと精霊達は何事もなかったかのように立っていた。
「私達‥‥今ウシュガの一撃で‥‥」
「夢?幻覚?」
困惑が隠せない彼女達の質問に答えたのは意外にもウシュガだった。
『いや、今のは現実にあったことだよ。ただその前に戻ったのさ!』
「なに!?」
『このウシュガフィールド内であれば僕はセーブを行いそのセーブした時間に戻ることができるのさ!』
「じゃ、じゃあ!先程ダメージが回復したのも!」
『ただ戦闘の前に僕が戻っただけさ。』
「そ、そんなの反則じゃない!ならアンタはこの世界にいる限りは不死身ってことじゃない!」
リヴェータが叫ぶ
『んんー!その通り!皆さんに僕を倒す事は不可能さ!でもでも、安心して下さい。皆さんも死んでも何度でもやり直しさせてあげますから。』
「なっ!」
『皆さんには僕の目的が果たされるまでの間‥‥ここで何度も何度でも死んで貰いますから!』
再びオメガシュガウィーの攻撃が始まる。
歴戦の精霊達ですら感じる圧倒的なモノに押し潰されそうな恐怖、しかし、マスターを救う、その確かな決意を抱き苦しい戦いに望む!
「私達をなめないで下さい!」
それぞれの世界で圧倒的な敵と戦うマスターと精霊達、果たして彼等はこの戦いに勝機を見いだせるのか?
そして、ここまで狂気化してまで果たしたいウシュガの目的は?
次回、いよいよ秋の特別編完結!(予定)