このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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魔剣使いの人

 

 キャベツ戦争が終わってからもう少しで一週間が経とうとしていた。

 殆どの冒険者がそのキャベツで得たお金でだらだらと飲み食いしてる中、俺とめぐみんもそれに漏れず酒場に座りアイリスとよくやっていたボードゲームをして遊んでいた。ちなみに、ダクネスやクリスも俺たちの元に集まっている。

 二人曰く、暇らしい。

 

「なぁめぐみん。今日のお前はとても可愛いな。……よしここは、使えないクルセイダーを盾に」

 

「何ですかカズマ、正直気持ち悪いのですが。……そう来ると思いましたよ、ここは圧倒的攻撃力を持つソードマスターの出番ですね」

 

「お前、人がせっかく褒めたのに、それはないだろ! ……盗賊のスキル『スティール』を使用! ……うわっ、クルセイダーとか、いらねー」

 

「いえ、カズマがそんなキメ顔でそんな台詞言えるわけないじゃないですか。……よし、ここはアーチャーのスキル『狙撃』を使って敵の大将を狙います!」

 

 紅魔族であるめぐみんは知能が高いからかとても強い。

 次の一手をどうするか迷っていると、ダクネスがぽつりと呟いた。

 

「そんなにクルセイダーは使えないのか?」

 

 そんな当たり前な事を言われましても。

 クリスはというと、一人黙々と折り鶴を作っていた。

 何でも、難病の女の子の為に千羽鶴を作っているらしい。何でこんな聖人のような女性が〈盗賊〉職なのだろうか。

 

「はぁー、暇だなあ……」

 

「まぁそれは仕方がない。何せ、クエストが無いのだからな」

 

 ──そう。

 クエスト掲示板には、クエストの紙そのものがなくなっていた。僅かに残っているのは超大型モンスターの討伐クエストだとか、そんな危ないものだけ。

 強いモンスターが闊歩する冬ではまだないので、当然他の理由があるのだが……。

 

「魔王軍幹部、首無し騎士(デュラハン)ねぇ」

 

 現在この近くの古城には魔王軍幹部が住み着いたらしく、雑魚モンスターたちは奴を恐れていなくなったのだ。

 よって、クエストを受注しようにも出来ないこの状況。

 まだ貯金はあるが、もしこのまま続くとしたら金銭的な意味で不安になってくる。

 俺のそんな内心を見透かしてか、めぐみんが安心させるように肩に手を置いて。

 

「まぁ一ヶ月後には王都から騎士団が来て討伐に向かうようですから、もう少しの辛抱ですよ」

 

 そんなことを言ってくれた。

 だが、そんな上手く事が進むのだろうか。

 相手は魔王軍幹部だ。その実力は計り知れない。

 騎士団が強いのは、王城に居た際彼らの訓練を見学させて貰ったので知っている。

 騎士団の人たちは強い、ということは俺でも分かった。

 だが相手は幹部である。

 未だに誰一人として魔王軍幹部は討伐されていない。

 転生したチート持ちの連中がこぞって勇敢に立ち向かっても殺せなかったのだ。

 幹部たちが大半の時期を魔王城で過ごしているのもその理由の一つらしい。

 果たして討伐出来るのか……。

 

 しかし、何故魔王軍幹部なんて大物がこんな田舎に来るのだろうか。

 ここは駆け出し冒険者の街アクセル。

 俺たちみたいなひよっ子冒険者は無事に討伐されるよう祈ることしか出来やしない。

 

 

 

§

 

 

 冬も本格的に近付いて来たのか、夕焼けが早く訪れてきたので冒険者ギルドを出ることにした俺たちは現在。

 

「アクア様、帰ってきました!」

 

「……? どちら様ですか?」

 

「……!?」

 

 帰路についている途中、通行人のことも考えず道のど真ん中で騒ぎを起こしている人の男女を遠巻きに眺めていた。

 というか、アクアと魔剣使いの人だった。

 クリスとダクネスは巻き込まれたくないのか早々に帰って行ったが、生憎俺とめぐみんは知り合いなので帰ることが出来なかったのだ。

 

「カズマどうするのですか? 見るからに、アクアがあのイケメンにナンパされてるのですが……」

 

「……あのイケメンはなめぐみん、アクアの元仲間だよ」

 

「……? ……ああ、あの人がですか。確か置き手紙だけ置いていって宿のお金を置いていかなかった最低な人ですよね」

 

 何それ初耳何だが。

 そりゃあ、アクアも魔剣使いの人を嫌いになるだろう。

 朝目が覚めてみたら一方的な手紙があり、無一文な状態だったのだ。

 俺だったら怒りでその手紙を破り捨て、冒険者仲間にある事ない事を話して適当な噂を作る。

 

「まぁ取り敢えず、もうちょっとだけ見ていようぜ」

 

「楽しんでませんか?」

 

「うんそうだよ」

 

「うわぁー、カズマのそういうところ直した方が良いですよ」

 

 めぐみんが隣でぶつくさ言っているが聞こえないフリをしていると──丁度会話が始まるところだった。

 

「あ、アクア様、僕ですよ! 貴女の仲間の、御剣響夜です!」

 

 必死に身振り手振りを使って説明している様は滑稽としか言いようがないが、果たしてアクアの返答は如何に。

 アクアはじーと魔剣使いの人を下から上まで眺め……最後に腰の魔剣を見てからぽんと手を合わせて。

 

「ああ、カツラギさんじゃないですか! その節はどうもお世話になりましたー」

 

「いえ、御剣ですけど!?」

 

 何だろう、イケメンが全力で突っ込みしているのを上から眺めているのは中々に気分が良くなる。

 はぁはぁと息を荒くした魔剣使いの人は息を整え、真面目な顔になってから姿勢を正すと──何と、跪くではないか。

 

 外野がおぉ! と大きくざわつくなる中、ミツルギはアクアの手を取って。

 

「アクア様、長らくお待たせしました。僕、御剣響夜は仲間たちと共にエンシェント・ドラゴンを倒す程に強くなってきました。レベルは四十を超えています。貴女は僕が必ず守りますので──」

 

 うんたらこんたら(ちかい)の言葉を言っているが、ミツルギにとっては残念なことにアクアは聞いていない。

 それどころかポケットから手帳を出して、

 

『そろそろ酒場に行かないと、皆に怒られる! 今日は新人の子の歓迎会だから、「宴会」、気合い入れないと!』

 

 と小さく呟きミツルギを放置して駆け足で土木現場に向かっていった。

 取り巻き女二人も近くに居たのか、はっと我に返ると慌ててアクアの後を付いていき、野次馬が興味を失ったように散らばるなか、残ったのは俺とめぐみん、そして未だに言葉を紡いでいるイケメンだけだった。

 

「カズマカズマ、どうするのですか? すごくあのイケメンが可哀想なのですが……!」

 

「だったら声掛けて慰めればいいだろ」

 

「やですよ、そんなの」

 

 ひそひそと話し合っていると、突然ミツルギが立ち上がり、お辞儀をしながら大きな声で叫んだ!

 

「──好きです!」

 

 ……。

 …………。

 か、悲しすぎる。

 不覚にも俺は瞳からぶわっと涙が出てしまった。見ると、めぐみんも涙を流している。

 俺たちはごしごしと涙を拭いてからミツルギに近付き、彼の小さな肩に手をぽんと置いた。

 

「ミツルギ、アクアはさっきからずっと居ないよ」

 

「えっ?」

 

 信じられない、そんなニュアンスが存分に込められた声を出しながら憐れな魔剣使いは恐る恐る顔を上げ、彼が見たものは──

 不審者を見るような目で見ている街の住民たち。うっわ、これは精神的にきついですね。

 

「そ、そんな馬鹿な……。和真、いつからアクア様は……?」

 

「えっと、確か『アクア様、長らくお待たせしました。僕、御剣響夜は仲間たちと共にエンシェント・ドラゴンを倒すほどに強くなってきました。レベルは四十を超えています。貴女は僕が必ず守りますので──』……っていう辺りかな」

 

「そ、そんな……僕の言葉を聞いてくれないなんて。……和真、アクア様がどこに行ったか分かるかい?」

 

「ちょっ……、お前どうするつもりだ?」

 

「決まっているだろう? もう一度アクア様に会って僕の誓の言葉を聞いて貰ってから、再びパーティーを組むに決まって──どうしてきみたちはそんな目で僕を見るんだい?」

 

 俺たちがドン引きしてることにすら気付かないとは、この男……中々の自信家というか、何というか……。

 恋は人をおかしくするとネットの住民が討論していたが、まさか本当だったなんて……。

 くいくいとめぐみんが袖を引っ張り早く帰りましょうとばかりに目で催促してきた。

 

「悪いミツルギ。俺たちはこれで失礼するよ」

 

「ああ、分かった」

 

 ミツルギから充分な距離を取った後は、二人仲良く大笑いしながら帰路につき、明日に備える事にした。

 

 

 

§

 

 

「佐藤和真、僕と決闘をしろ!」

 

 翌日。

 今日もクエストが張り出されてなかったので、カウンター席に着き受付のお姉さんと雑談していると入口付近からそんな声が聞こえてきた。

 そしてそちらを見るとそこには魔剣を抜いて臨戦態勢のミツルギが鼻息荒く立っているではないか。

 うわぁー、行きたくねーと思っているとお姉さんがどこから出したのか、大きい毛布を差し出してくれる。

 どうやらこれで身体を隠せと、そういうことらしい。

 女神のようなお姉さんにサムズアップしてから毛布を被る。隠れながら耳を傾けると、ちょうどダクネスと思われる声主がミツルギと討論しているところだった。

 

「貴様何者だ? ここは公共の場だ、もう少し考えてくれ。朝からうるさいぞ」

 

「うぐっ。……それは失礼しました。僕の名前は御剣響夜といいます」

 

「そうか、それではミツルギ。何故お前はカズマに決闘を申し込む?」

 

「アクア様を無理矢理土木工事させてるからだ!」

 

 おいこら、ちょっと待て。

 確かにアクアに土木工事を勧めたのは俺だが、それを受けたのは彼女なのだ、俺が責められる謂れはない。

 

「昨日僕の仲間がアクア様の元に行ったんだ。そしたらあの方は『え? 私もうあなたたちとはパーティー組まないわよ?』と言ったそうだ。理由を聞いたら、『だって私、もう既に半分冒険者じゃないし。それに今は親方の所でお世話になってるから』と言ったそうだ。さらに深く聞いたら佐藤和真がアクア様を土木現場に放り込んだとか……。僕はそんな彼が許せない!」

 

「……そうか、もう勝手にしてくれ」

 

 ダクネスがそんな諦観の声を出す。

 もうちょっと頑張ってください、ララティーナお嬢様。いやほんとに。

 俺がダクネスが居るだろう方向にジト目を向けていると布越しにお姉さんがひそひそと。

 

「──と言っていますよ、カズマさん。どうしますか?」

 

「無視でお願いします」

 

「えっ、無視で良いんですか?」

 

「無視でお願いします」

 

「……。……ミツルギさん、ここにいますよー」

 

 お姉さんが裏切った!

 慌てて毛布をめくり彼女の顔を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。だか俺は騙されない。地味に笑っている!

 

「ああいう人は、めんどくさいですから、早めに決着をつけた方がいいんです」

 

 そう言われても。

 お姉さんの声を聞いたミツルギがゆっくりと……、しかし修羅の雰囲気を纏ってこっちに来る。

 取り敢えず、簡単な挨拶から入ることに。

 

「やあ、昨日ぶりだね、和真」

 

「……ああ、そうだな」

 

「聞いていたと思うけど、決闘を受けて欲しい」

 

 俺は全身を舐めるようにイケメン様を眺めて。

 

「断る」

 

「…!? 君は逃げるのか!?」

 

 そんな阿呆なことを言うミツルギに、俺は呆れてしまう。

 まずだが、決闘を受ける理由がない。

 俺は悪いことをしたとは思ってないからだ。

 それに、色んな意味で差がありすぎる。

 全身を豪華な金属鎧で包んでいるミツルギに対して、俺はそこら辺の武具屋で買った軽装だ。

 これだけでも負けイベなのに、相手は魔剣を持っているときた。

 ……こっちは安物のショートソードなのに。

 きっとこいつは、手に持っている魔剣で異世界生活を面白おかしく愉快に楽しく過ごしてきたのだろう。

 可愛い女の子を侍らせて、レベルをどんどん上げていったに違いない。

 そもそも、魔剣がどんな効果があるのかも分からないのだ。ゲームだったら何かしらあるのが定番だ。だって、それが『魔剣』というものだから。

 俺がじっと魔剣を見ていることに気付いたのか、ミツルギが親切に教えてくれた。

 

「気になるのかい、和真。……この魔剣の正式名称は魔剣グラム。性質は、『何でも斬る』だよ」

 

 顔が引き攣っているのが自分でも分かる。おいおい、それってもう本当にチートアイテムじゃん。

 

「「キョウヤー、頑張ってー!!」」

 

 そして聞こえる取り巻き二人の応援。

 我慢できず抗議しようとした……

 ──その時。

 

「お姉さーん。カズマがどこに居るか分かる? 爆裂魔法を撃って一歩も動けないめぐみんを配達しに来たんですけどー」

 

 話題の中心であるアクアがぐったりとしているめぐみんを背負って冒険者ギルドに入って来た。

 ギルド内にいた全員が思わずアクアを見てしまう中、彼女は不思議そうな顔をしながらも俺を探しているのか辺りをきょろきょろと見回している。

 そして目が合った。

 駆け足気味に俺達の元に近づくとミツルギが「アクア様!」と呼ぶがアクアはそれをスルーし、めぐみんを渡してくる。

 

「はいカズマ。確かに届けたわよ。……それで今日は何でこんなに静かなの?」

 

 あなたの元仲間が原因です。

 

「あっ、あのアクア様?」

 

 おずおずと話し掛ける勇者候補。

 

「……? あっ、ミツルギじゃない! どうしたの? 私に用かしら?」

 

「僕達ともう一度パーティーを組みましょう! 必ず魔王を斃してみせますから! 土木工事なんてやってないで──」

 

 ミツルギは意気込んだ。

 アクアはそんな元仲間を半眼で見て。

 不意に──

 

「『ゴッドブロー』ッッッ!!!!!」

 

「えっ──ゴフッ!」

 

 拳を打ち込んでから首根っこを摑み、がくがくと揺らし始める。

 軽く泡を吹いているが大丈夫だろう。……多分。

 

「あんたねえ、ふざけるんじゃないわ! 相談もなく急に修行とやらに行って!? 私がどれだけ苦労したか知ってる!? ……原因の殆どは私が悪いんだけど。カズマが親方を紹介してくれなかったら、私飢えてたんだからね!? それで突然帰ってきたらもう一度パーティーを組むううううう!? そんなのやるわけないじゃない!」

 

「「キョウヤー!?」」

 

「だいたいねえ、あんたたちもそうよ! キョウヤキョウヤ、うるさいったらありゃしないわ!」

 

 そう言いながらイケメンの顔を殴ること数秒、やっと気分が晴れたのかアクアは手を離し、こちらを見て聞いてきた。

 

「それで決闘受けるの? 受けるんだったら『ヒール』掛けるけど」

 

「えっ、やだよ。そもそも、決闘をやるにしても、何を賭けるんだ?」

 

「ゴホッゴホッ……。なら、僕は君の願いを出来る範囲で一つだけ叶えてあげよう」

 

 ほう。その自信は魔剣があるからか。

 ぐったりと机に倒れているめぐみんが服の袖を弱く握り手でこっちに来いとサインしてきた。軽く断りを入れて作戦会議が始まる。

 

「カズマカズマ、もう受けちゃいましょうよ。というか、受けてください」

 

「いや、無理無理。絶対負けるって! そもそも、あの魔剣があるじてんで負け確だろ。何だよ、『何でも斬る』とか。舐めてんのか」

 

「なら、あたしに良い考えがあるよ!」

 

 クリスが話に混じりひそひそと耳打ちしてくる。

 その素晴らしい案を聞いた俺はにやりと不敵な笑みをつくり、クリスもまたそれを返す。

 だんだん面白くなって気持ち悪い笑みを浮かべる俺たち二人をさっきから一言も喋っていないダクネスや、仲間であるめぐみんがドン引きしている中、俺はミツルギの元に向かった。

 

「分かった、決闘を受けてやる。……アクア、悪いが回復魔法を掛けてやってくれ」

 

「はーい、『ヒール』」

 

 あたたかな光がミツルギの身体を包み込み、怪我が回復した魔剣使いの人は爽やかな笑みを浮かべて。

 

「僕が勝ったら……僕とパーティーを組んでもらう。何でも、和真の指示によって今年のキャベツの収穫量が桁違いに上がったそうじゃないか。だから僕とパーティーを組んで指示をしてもらう役職になってもらう」

 

 そんな情報、どこから仕入れてきたのだろうか。というか、そんな回りくどく言わなくても、司令塔で良くないか。

 

「じゃあ俺が勝ったら……俺たちに二度と関わるな。お前の相手は疲れるからな、それが良いだろ。……それにイケメンだし」

 

「僕はイケメンじゃないんだけど……」

 

 そういうところが他の男達の腹を立たせるのだが。

 こいつ、絶対泣かせてやる。

 周りの野次馬達が賑やかになり……。

 俺たちが自分の剣を鞘から抜き出し構える中、それを見た受付のお姉さんが。

 

「あっ、すみません。ギルド内では喧嘩はしないでくださいね。やっても良いですけど、壊した物品は負担して頂くので」

 

「……取り敢えず、外に出ようか」

 

「……そうだな」

 

 

 

§

 

 

 お姉さんの指示通りにして、外に出た俺たちはそこそこ大きい広場に居た。

 彼我の距離は約二十メートル。

 多くの冒険者が冒険者ギルドからそのまま移動したようだ。暇だからかギルド職員も見守っている。

 

「それじゃあ和真。今からこのエリス通貨を宙に投げる。そして落ちたら決闘の開始だ。ルールは、僕はこの魔剣オンリー。和真は、魔法を使うもよし、スキルを使うもよし、取り敢えず自由だ。決着方法は相手が気絶……もしくは戦闘ができない状態になったとき。一応、降参もすることが出来る。……これで良いかい?」

 

「なあ……、本当にお前はその魔剣何とかだけでいいのか?」

 

「これはレベル差を考えた、いわばハンデだよ和真。流石に駆け出し冒険者のきみに負けるとは思えないからね」

 

 その自信がどこから出てくるのかもの凄く気になっているんだが。

 というか、さっきから随分と言いたい放題だな。

 前々から思ってたが、このイケメンはどうもこう、自分に自信を持ちすぎて、無自覚に人を傷つけるなあ……。実に恐ろしい。

 アクアがどのような経緯でミツルギの仲間になったのかは知らないが、すぐに後悔したに違いない。

 

「それじゃあ準備はいいかい?」

 

「ああ、いつでもいいぞ」

 

 ミツルギがエリス通貨を高く宙に飛ばし、俺たちはお互いを睨み合いながら剣の柄に手を伸ばす。

 そして通貨が地面に落ちた音が鳴り渡り──ミツルギがもの凄い速度で接近してくきた。

 思ったよりも、断然早い!

 だが落ち着け、落ち着くんだ佐藤和真。

 俺は出来る子だ。思い出せ、クリスの言葉を!

 全身に力を入れた俺は腰を曲げて──向かってくる的に剣を投げる!

 

「おらああああああ!」

 

「……!?」

 

 先手必勝。

 ……だが相手はチート持ちだ。

 ミツルギは一瞬驚愕の表情を浮かべるがすぐに冷静になり……魔剣を鋭く一閃させ俺が投合した剣を粉砕する。

 ……あの剣、初めての相棒だったのに!

 俺に残されているものは何も無い。

 勝利を確信し笑顔を浮かべるミツルギ。

 周りの野次馬も魔剣使いが勝つと予想し、思わず目を背ける中──

 

「諦めないで下さい、カズマ!」

 

「そうよそうよ! カツラギなんて、ぼこぼこにしてあげなさい!」

 

「カズマ……」

 

「作戦通りに動くんだよー!」

 

 めぐみんが、アクアが、ダクネスが、そしてクリスが俺を応援してくれる。

 俺はそれに応えるべく、手を翳して叫んだ!

 

「『スティール』ッ!」

 

 そして俺の掌には──一本の魔剣があった。

 

「そんな! 僕の魔剣が……!?」

 

 そう、これがクリスの考えた作戦。

 まず最初に俺の武器を投げ先手を取る。

 当然、これまで数々の修羅場を潜り抜けたミツルギにとってそれはあまり意味がない。

 こいつはどうやら俺の事をかなり下に見ているので、武器がなくなった俺など、勝ちは確定だと思い込む。

 その慢心をつき、盗賊スキルである『スティール』を全力で使い、魔剣を奪うという作戦だ。

 そしてミツルギの職は〈ソードマスター〉だ。

 当然、ソードと名がつくので剣がないと大半のスキルは使えないないだろう。

 つまり今のミツルギは丸裸なのだ。

 対する俺は武器はミツルギから奪った魔剣があるし、決闘のルール上魔法も使える。

 俺は黒い笑みを勇者候補様に向けて。

 

「くっくっく。さぁどうするミツルギ? 形勢逆転だな。まだ続けるか? ええ、勇者様よおおおお!? ……ねぇねぇ、今どんな気持ち? 俺みたいな駆け出し冒険者に負けるなんて、さぞかし悔しいんでしょうねぇええええ!?」

 

「……クッ!」

 

 魔剣使い、……いやソードマスターの剣士はただ悔しそうに俺を睨みつける事しかできない。

 俺が魔剣を振り回しながら奴を煽っていると……妙に周りが静かな事に気づいた。

 するとそこでは。

 殆どの人達がドン引きしながら俺を見ていた。

 というか、そこにめぐみんやアクアたちが含まれているのは何故だろう。彼女たちは俺の事を応援していたのではなかったのか。

 

「……ねえ、めぐみん。カズマさんが鬼畜に見えるんですけど! スキルで魔剣を奪うだけならまだしもその上で煽るなんて、鬼畜の所業だと思うんですけど!」

 

「……まあ、はい。あんなのでも頼りになりますから」

 

「んくっ……流石はカズマだ! 大勢の人達がいる中での……はぁはぁ……あの仕打ち、何という事だろう!」

 

「ダクネス、きみはもう少し黙ろうか!?」

 

「というか皆。私にはカズマさんが魔王軍に見えるんですけどー。これってあれよね。逆境に立ち向かう勇者と、それを上から目線で余裕かましている敵よねー」

 

「「「それはある」」」

 

 誰も俺を理解してくれないのでとても悲しい。

 というか、アクアが言っているシチュエーション的には、俺の方が勇者だと思うんだが。

 奪った魔剣を肩に当ててミツルギを見ていると──急に襲い掛かってきた!

 

「ちょっ、待って!?」

 

「剣を取られたのなら、素手で戦えば良い!」

 

「それは世間体的にどうなのでしょうか!?」

 

「今更そんな事を気にしていられるか!」

 

 剣を所持していないとはいえ、ミツルギはまがりなりにも高レベルプレイヤーだ。当然、レベル上昇に伴ってステータスも伸びているだろう。

 対する俺は、少し前に冒険者稼業を始めたひよっ子。

 もし一撃でも当たったら……。

 

「ひぃっ! ちょっ、待って、待って下さい!……危なっ……お前、人を殺す気か!」

 

「はあ、はあ……! 大丈夫だよ、和真。……きみ、が死んでも……はあ……アクア様が蘇生して、くれるは、ずだ……」

 

「やだよ、俺は死にたくないよ!」

 

『逃走』スキルをフルに使い必死になって鬼から逃げていると、もう面倒臭くなったので、真後ろにるミツルギに魔剣をブーメランの要領で投合する。

 

「ちょっ、待っ──グハッ」

 

 そして見事に回転しながらも運良く柄の部分がイケメンの顔面に直撃し、魔剣使いであるイケメンは呆気なく気絶し、この瞬間俺の勝利が決まったのであった。

 呼吸を整えていると、俺たちを追っていたと思われるめぐみん達が来て気絶しているミツルギを見てから言った。

 

「「「「うわあー」」」」

 

 

 

§

 

 

「だからさ、俺は別に変な事はしてないんだよ。そもそもこれは決闘だろ? だったら別に何をしても良いと思うんだ」

 

「カズマ、それでもあれはちょっと……」

 

 冒険者ギルドに戻ると、俺が勝った噂は風のように早く伝わっていたのか、殆どの男性冒険者達がジョッキを天高く掲げていた。

 

「「「「イケメンざまあ!」」」」

 

 美味そうに酒を飲んでいる。

 やっぱり俺は悪くないのだ。

 かなりの運動をしたからか猛烈に腹が空いているので、近くを通り掛かった新人の男性職員に声を掛けると。

 

「サトウ様の勝利を聞きました! おめでとうございます! これからも頑張って下さい!」

 

 そんな言葉を言ってくれた。あの人とは良い付き合いが出来そうな気がする。

 俺は未だに白い目を向けているめぐみんを見て。

 

「ほら俺は何も悪くない。というか、お前は動けるのか? さっき爆裂魔法を撃ってきたんだろ? というか、どこで撃ってきたんだ?」

 

「まだ少し怠いですが歩く程度なら出来ますよ。逆に激しい運動は出来ませんが。爆裂魔法についてはまた後日言います。……それよりアクアやダクネスたちはどこに行ったのですか?」

 

「アクアは職場。何でも緊急会議を開くことになったらしい。ダクネスとクリスは孤児院に行って子どもたちの面倒を見るってさ」

 

 取り留めのない雑談をしていると、人の気配がした。

 

「やあ、和真」

 

 そこには爽やかな笑みを浮かべるミツルギが居た。

 顔には剣の柄が当たったと思われる痕があるので、かなり台無しだが。

 そして後ろの取り巻き二人がもの凄く怖い。

 俺は別に武芸の達人ではないので詳しくは分からないが、これが殺意なのだろうか。

 がたがたと震えていると、

 

「どうしたんだい、和真? 震えているけど……」

 

「お前の仲間が俺を殺そうとしているんだよ!」

 

 指を指して指摘してやるとミツルギは、

 

「和真。彼女たちがそんなことをする筈がないだろう? 僕の大切な仲間を悪く言うのなら許さない」

 

 その大切な仲間を見向きもせずそんな否定の言葉を言ってくる。

 アレか、こいつの頭の中はお花畑なのか。

 どうにもこのイケメンは自分が信じるものは疑わない性質らしい。

 ここで口論をしても仕方がないか。

 

「それで何だよ。決闘について何か文句でもあるのか?」

 

「いや、そうじゃないよ。むしろきみには感謝している。どうやら僕は自惚れていたようだ。実際、駆け出しの君に負けるのだから」

 

 ほほう。中々に殊勝な態度じゃないか。

 

「よし、それじゃあ約束通り、俺たちに二度と関わるなよ。あっ、この場合の関わるのはプライベートな事だから」

 

「分かった。それじゃあ最後に──すまなかった」

 

「「キョウヤ!?」」

 

 突然頭を下げるミツルギ。

 取り巻き二人の声を聞き、周りの冒険者たちが何だ何だとざわつくが、それは俺も、めぐみんもそうだろう。

 だが俺たちの心中などお構いなく、ミツルギは続ける。

 

「きみたちには多大な迷惑を掛けたからね。……特に、アクア様に僕はなんて酷い事をしたんだろう。相談もせず勝手に修行に行くなんて……。そうすれば、全員で修行出来たのに」

 

 仮に相談してもアクアは付いて行かずに生活費だけ貰ってアクセルに残るだろうが、それは言わないであげよう。そう、これは武士の情なのだ。

 

「アクア様には君の口から悪かったと伝えといてくれないか? 多分、僕の言葉を彼女は聞こうとしないはずだから」

 

 そんな、弱々しい言葉が出された……。

 すると突如、めぐみんが緩慢とした動きながらも立ち上がり杖を持って──ミツルギの頭に容赦なく当てた!

 

「グハッ! ……な、何だい? ええっと、君の名前は確か……」

 

「めぐみんです」

 

「……。その、本当に……?」

 

「おい、私の両親が付けてくれた名前に文句があるのならかおうじゃないか! ……と普段は言いますが、一言だけ言わせて貰いますよ」

 

 あっ、これはヤバいやつだとすぐに直感した。

 何故なら……めぐみんの瞳の色が激しく紅くなっていたのだから。

 めぐみんの瞳の色がこうなる事は今までに何回か見たことがあるけれど……今回の色具合は凄い。

 

「私の仲間であるカズマや、友達であるアクアの事をそれ以上馬鹿にしないでください」

 

「なっ……、僕は別に馬鹿になんかしていない!」

 

「いいえ、してますとも! まずカズマについてですが、自分より下に見過ぎです。……確かに彼は駆け出し冒険者ですし、レベルも十を超えていません。ジャイアントトードや、ゴブリンの群れに泣き叫びながら逃げ回るのは無様としか言いようがありませんし、セクハラをほぼ毎日私にしてきますから、人間的にはあなたより悪いかもしれません」

 

「…………」

 

 反論しようにも出来ないのが悲しいところだが事実である。

 これが本物の口撃か、中々に俺の心を痛みつけてくるな。

 ……もう少し、真っ当な生き方をしよう。

 俺がそんな事を決意してる中、めぐみんの言葉は続いた。

 ですけど、と前置きをして。

 

「──ですけど、カズマは私を仲間にしてくれました。……質問します。あなたは爆裂魔法を知っていますか?」

 

「……? あ、あぁ知ってる。何でも、ネタ魔法なんだろう? 攻撃力は他の魔法の追随を許さない、けど撃てるのは一日に一発だけ。さらに個体に対してはほぼオーバーキル。確かそんな風に聞いたけど」

 

「私は〈アークウィザード〉ですが、爆裂魔法しか使えません」

 

「えっ──?」

 

「そんな私をこの人は嫌々ですが、仲間にしてくれました。あなただったらどうしますか? 仲間にしますか? ……いえ、聞くまでもありませんね。その顔を見れば分かります。もちろん、あなたが普通なのは分かります。私のようなネタ魔法しか使えない者がそうなるのは必然です。……でも、カズマは違いましたよ? 私を最大限使えるよう、作戦を立てるのは見事としか言いようがありません。ですから、カズマの事を馬鹿にしないでください! ……そして次に、アクアですが。あなた、本当は彼女の事をどう思っているのですか? 仲間と思っていたのですか?」

 

「そんなの当たり前だ! 僕は今でもアクア様を仲間だと思ってる!」

 

「じゃあ何故その仲間に何も言わずに勝手にアクセルを出たのですか? 一言言えばいいでしょうに。……まあ、これについては反省してるようなのでこれ以上はとやかく言いませんが。私が怒ってるのは、あなたがアクアに謝らないことですよ! 何故カズマに伝言を頼むのですか? 話を聞いてくれない? そんなの行ってみなければ分かりませんよ? それに、仮にアクアがあなたを無視すると分かっていても、謝りに行くのが誠意でしょうが!」

 

 ヤバい。

 めぐみんが凄く格好良いのだが。

 いや、大変不謹慎なのは分かってはいる。分かってはいるのだが……。

 思わず呆然としていると、しばらく経ってミツルギは席を立って言った。

 

「ありがとう、めぐみんさん。僕はどうやら、間違っていたようだ。和真、さっきの言葉は無しにしてもらっていいかな?」

 

「あ、あぁそれはいいけど……」

 

「今からアクア様に謝罪してくる。……いや、その前に和真。本当に済まなかった」

 

 先程より深く頭を下げてくるミツルギにもういいと伝えてやると、彼は申し訳なさそうな顔をしながらも冒険者ギルドから立ち去った。

 その後に慌てて取り巻き二人が彼を追って行った。

 嵐の後の静けさが建物内を支配する中──一人の冒険者がぽつりと呟く。

 

「──格好良い」

 

 その言葉はすぐに広まり、皆がめぐみんの元に集まって口々に言った。

 

「格好良いぜ、めぐみん!」

 

「めぐみん!」

 

「めぐみん!」

 

「「めぐみん!」」

 

「「「めぐみん!」」」

 

 めぐみんコールが何度もリピートされ、大いに盛り上がる中、当の本人である彼女は……恥ずかしそうに俯くのみ。

 そして送られてくる視線。

 助けを所望しているその目を見て俺は一言。

 

「めぐみん! めぐみん! めぐみんバンザイ!!」

 

 耳まで赤くし襲いかかってくるめぐみんとじゃれつきながら俺は、改めてこんな生活も悪くないと思うのだった。

 

 

 

§

 

 

 翌日。

 毎度お馴染みのウィズ魔道具店の前でめぐみんと待ち合わせし、冒険者ギルドに行こうとすると。

 

「カズマカズマ、今日から爆裂散歩をしたいのですが!」

 

 そんな阿呆な事ことを言ってきた。

 俺はジト目で爆裂娘を見て一言。

 

「断る」

 

「んな!?」

 

 俺が断ったことが凄くショックだったのか、めぐみんは文字通り固まってしまう。

 昨日の感動を返して欲しい。

 俺はため息を吐いて。

 

「あのなあ……、もし仮に爆裂魔法を撃ったとしよう。けどな、それで金を取られたらどうするつもりだ? 幸いまだ貯金はあるけどな、もう少しで冬になるし、毎度毎度そんな事に散財してたらそれこそ餓死するぞ」

 

 現実を指摘するとめぐみんは何故かドヤ顔をして。

 

「安心して下さいカズマ。ちゃんと許可は取ってきました。何でも、指定していない場所なら撃っても良いそうです。まあ、当然街の近くだったら駄目なので少し遠出しますが」

 

 どうですか? と上目遣いで聞いてくるめぐみん。

 これがロリっ子の力なのか……!

 

「幸い、モンスター達はデュラハンのお陰で出ませんし、爆裂魔法を撃ってもモンスターが現れることはないでしょう。それにお互い暇でしょう?」

 

 そう言われたらもう、断る理由はないか。

 

「分かったよ。けどその前に朝飯食いに行くぞ。お腹空いた」

 

「あっ、それなら大丈夫です。朝ご飯、作ってきましたから!」

 

 ……えっ。

 衝撃のあまり立ち尽くす俺を放置してめぐみんはやや駆け足気味に先に行ってしまう。

 そして振り向いて言った。

 

「ほらカズマ、急がないと帰りが遅くなりますよ!」

 

 はっと我に返ると俺は慌ててめぐみんの後をついて行くのであった。

 

 

 

§

 

 

 昨日見付けた良い場所があります、と言うめぐみんに付いて行く事二時間弱。

 俺たちの目の前には、大きな建物があった。

 というか、古城があった。

 俺は数日前の会話を思い出して。

 

「なぁめぐみん。……あれってもしかしてだけど、魔王軍の幹部が居座ってる城じゃないか?」

 

「……? 何を言っているのですかカズマ? こんな街から近い所に幹部が居るわけないでしょう。それにこの近くには古城がもう一つあるのですが、私だったらあっちを選びますね。何故ならそっちの方が大きく、王様気分になれますし、新しいですから。安全性を考えると新しい方を選ぶでしょう。それに昨日……アクアの付き添いのもと爆裂魔法を撃ったのですが、何も反応がなかったので大丈夫でしょう」

 

 いや、王様気分を味わえる辺りは違うと思うのだが。

 しかしなるほど、人間とは新しい物に目がいくものだ。

 案外、めぐみんの考えは間違っていないかもしれない。

 それに、運が強い俺がいるのだ。

 そんな二分の一の確率、そう当たるものでもないだろう。

 ゲームでの五十パーセント、ほぼ百パーセントに近いし。

 そんな謎理論で納得した俺はそわそわしているめぐみんに向かって。

 

「よしめぐみん。撃っていいぞ!」

 

「はい、分かりました! 『黒より黒き闇より深き漆黒に──』」

 

 ──そうして、俺とめぐみんの爆裂散歩は始まった。

 

 ──それは、寒い氷雨が降る夕方。

 

 ──それは、穏やかな食後の昼下がり。

 

 ──それは、早朝の爽やかな風が吹きあたたかな光を出す太陽の下で。

 

 俺とめぐみんの爆裂日課は古城を的にし、その日々は続いていった。

 何故かは分からないが、あの脆そうな古城はめぐみんの爆裂魔法を受けてもぴくりともダメージを受けていないようで、それがめぐみんの琴線に触れてしまったらしい。

 爆裂娘曰く、「私はあの古城を破壊する為に生まれてきたのかもしれません!」だそうだ。

 そんなわけなかろう。

 毎日毎日目の前で爆裂魔法を見せつけられたお陰で俺はあるスキルを身につけた。

 そう、それとは……!

 

「ふむ、今日の爆裂魔法は失敗だな。途中で俺の腹が鳴った所為で集中力が欠けたんだろう。だが詠唱を続け爆裂魔法を出すその根性は評価に値する。よって、今日の爆裂は……六十五点! だが敢えて言おう! ナイス爆裂!」

 

「ナイス爆裂! ……くっ、やっぱりそれくらいの点数になってしまいますか。それにしてもカズマも中々爆裂道を歩んでいますね! スキルポイントが溜まったら爆裂魔法を取ってみる気はありませんか?」

 

「そうだなあ……。意外にそんな生活も良いかもしれないな。頭の隅にでも置いておくよ」

 

「はい! それでは、今日は朝に爆裂魔法を撃ちましたからね。朝ご飯です、どうぞ!」

 

「おぉっ! これは美味そうなサンドイッチだな」

 

 俺は新たなエクストラスキル『爆裂ソムリエ』を身につけた。エクストラスキルとは俺が考えた独自のスキルだが……まぁぶっちゃけただの遊びである。

 サンドイッチを口に運びながら今日の爆裂魔法について談義をして過ごすそんな日々。

 

 ──そんな楽しい時間がなくなったのは一週間後だった。

 

 

 

§

 

 

「急げ急げ! 武器の準備を早くしろ!」

 

「隊長、今回の戦い、私も連れていってください!」

 

「敵は殺す、慈悲はない!」

 

「聞いてくれよ!……この戦いが終わったら俺、結婚するんだ……」

 

「ふっ、とうとう俺にも活躍の場が来たか……」

 

「行きたくない行きたくない! 俺はまだ死にたくない!」

 

 沢山の人たちが、綺麗に整備され装飾されている廊下を往来しています。

 ある人は、武器庫に赴き武器を全員が装備出来るよう手配をしています。

 ある人……新人騎士の方は部隊の隊長に頭を下げて、自分も連れて行って下さいと頭を懸命に下げています。

 ある人は、強大な敵相手に勝つ気満々で戦意を上げています。

 ある人は、しぼうふらぐというものを作っています。

 ある人は、自分が活躍するであろう光景を妄想しているからか、通行人の邪魔をしていることに気付いていません。後で注意しましょう。

 ある人は、自分が死ぬ事を確信しているからか泣き叫んでいます。

 ……皆が皆、戦う準備をしています。

 もちろん、私も……。

 私はこの場にいる人達全員が聞こえるよう、大きな声を出して。

 

「皆様、急いでください! 魔王軍幹部がいつ動くか分かりません! ……混乱するのは分かります。不安な気持ちも──分かるつもりです。それでも、私たちは、国を、民を守らなくてはなりません! ですから皆様、急いでください!」

 

「「「畏まりましたッ! アイリス王女!!」」」

 

 そう言って沢山の騎士の方々が敬礼をしてくれます。

 ですが今は、その時間すら惜しいのです。

 私室に向かう傍ら、後ろに控えていたクレアが必死な形相で私を宥めようと。

 

「アイリス様、本当に行かれるのですか!?」

 

「はい、もちろんです! こういう時に王族が導かなくては、そんなの……ただのがらくたですから」

 

「私は反対です! もしアイリス様にもしもの事があったら……。それにあの男も言っていたでしょう? 貴女は王族の前に一人の女の子だと」

 

 そう言って涙声になりながら私を心配してくれるのはとても嬉しい。

 けど、クレア。

 その男性の事を言われたら益々私は行かなくてはならないのです。

 

 [追伸 俺達は友達だよな?]

 

 王族として駄目なら、私はそれこそ一人の女の子になって行きます。

 だって、あの人は私の初めての友達なのだから。

 押しとどめて来るクレアを払い除けながら王城を歩き回りながら決意を強く固めました。

 少しでも、一秒でも早く行かないと……!

 私は誰にも聞かれないよう、小さな声で。

 

「待っていてください、カズマ様……!」

 

 



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