このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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再会

 

 魔王軍幹部がアクセルの街付近にある古城にい座ったせいで他のモンスター達は怯えていなくなってしまい、やる事がなくなった俺達冒険者達は現在。

 

「おらぁあああ! 野郎ども! 今日も飲みまくるぞぉおおおお!」

 

 真昼間から酒を飲んでいた。

 まだキャベツ狩りの報酬が残っているのか、多くの冒険者達が勢い良く酒を飲んでいく。

 しかしそれは余裕がある者だけに許された特権であり、俺とめぐみんのような貧乏パーティーはそろそろ懐が寒くなってきたので節約を心掛けていた。

 

「カズマ、真面目な話本格的に貯金がヤバいです。今月はまだ宿に泊まれるだけのお金がありますが、来月からは……──」

 

 俺は続く言葉を遮って。

 

「もちろん分かってる。だけどなめぐみん。金を稼ごうにも、肝心のクエストが貼り出されていないんだ。あるのは超危険大型モンスターの討伐とか、そんなものばかりだぞ? はっきりいって無理だ」

 

「ですよねー」

 

 俺達は顔を見合わせて、

 

「「はぁー」」

 

 重いため息をついてしまう。

 ため息をつくと幸せが遠ざかるとかなんとか、そんな言い伝えがあるが実際のところどうなのだろうか。今度アクアに聞いておこう。

 俺達がいるスペースだけ異様に空気が重いので皆察してかそっとしておいてくれる。

 受付のお姉さんに愚痴をこぼそうにも、今は酒やら肉やら運んでいる最中だ。流石に業務妨害はよくないだろう。

 あぁ、暇だ……。

 異世界だからかこの世界には一切の娯楽がない。文明大国である日本で家に引き籠りゲームをしていた俺にとって、退屈とはかなりしんどいものだ。

 くそっ、これも全て魔王軍のせいだ……!

 俺は対面にてそわそわと貧乏ゆすりをして椅子に座っているめぐみんに声を掛けて。

 

「よしめぐみん! 今から爆裂散歩をするぞ!」

 

「流石はカズマですね! ちょうど私も今言おうとしたところです!」

 

「さぁ行くぞ! ストレス発散にあの古城を今日こそ木っ端微塵にしようぜ!」

 

「もちろんですとも!」

 

 頷き合い、いざ出陣しようとしたその時。

 ここ最近は冒険者ギルドにあまりいなかったクリスとダクネスが俺達を引き留めた。

 

「やっほー、二人とも! 今からどこに行くんだい?」

 

「なに、ストレス発散の為に爆裂魔法を撃ち込んでこようと思ってな。そういえば、なんでお前らはギルドにここ最近いなかったんだ?」

 

「あぁそれはだな。クリスと一緒に孤児院で勉強を教えていたからだ。クエストが貼られていないからな、クリスを手伝おうと思ったのだ」

 

 なんて有意義な時間を過ごしているのだろうか。

 俺達とは正反対の人間である。

 ダクネスは性癖以外は比較的常識人なので、どうにかしてドMを直して欲しいものだ。……期待しないで待っていよう。

 

「なぁ、なんでクリスはそんな尊い事をしてるくせに〈盗賊〉職なんだ? すごい疑問なんだが……」

 

「あぁ、それかい? なんでって聞かれると……そうだねぇ……趣味だからだね!」

 

 人の物を盗むのが趣味とは、中々にコイツもおかしいのかもしれない。

 

「カズマカズマ、早く行きましょう!敵が私達を待っていますから!」

 

「……おっ、そうだな。それじゃあ二人とも、また今度会おうぜ!」

 

 手を振りながら別れ、俺達は能天気に歩きながら的である古城へと向かった。

 

 

 §

 

 

 翌日。

 めぐみんと会う集合時間まではまだ時間があるので二度寝をしていると、どんどんと扉を激しく叩く音が聞こえた。

 何時もなら煩いと怒られるのだが……悲しきかな、とうとう馬小屋で寝泊まりしているのは俺だけになってしまったので、誰もそれを指摘しない。

 

「カズマ、起きているか!?」

 

 朝からそんな大声で叩き起こされ不機嫌になった俺は、苦情を言うべく扉を勢いよく開け、口を開き掛けた……

 

 ──その時。

 

 目の前にいた人が予想外すぎて何も言えなくなってしまった。

 そこにいたのは。

 

 ダクネスと──アイリスだった。

 

 そう、アイリスである。

 俺の異世界初の友人であり、現在俺が住んでいる国の第一王女。

 これは夢かとごしごしと目を擦るが、見える景色は変わらない。

 久し振りに見るアイリスは別れた時と何も変わらず、それが嬉しく思える。

 女の子は向日葵の輝くような笑顔を浮かべて。

 

「おはようございます、カズマ様!」

 

 そんな朝の挨拶を言ってくれた。

 ようやく我に返った俺は、今の自分の状態が他所様に見せられるものじゃないことにやっと気づき。

 

「……あ、あぁおはようアイリス。ちょっ、ちょっと待っててくれ」

 

  ダクネスに目配せをしてから扉を閉め、急いで準備を始めるのだった。

 

 

 数分後。

 ダクネスは気を気を遣ったのか早々に帰ってしまい、馬小屋に残されているのは俺とアイリスだけになってしまった。

 女の子を地べたに座らせるのは流石の俺でも気が引けるので、藁を掻き集めて簡易的なクッションを作り座らせている。

 アイリスと会うのは数ヶ月振りなのだが、どのように話を切り出せばいいか分からない。

 というか、アイリスはアイリスで体育座りで顔を俯かせているため余計に気まずくなってくる。

 ……まるで俺達の関係がリセットされたようだ。

 だがしかし。落ち着け佐藤和馬。

 こういう時は男からリードするものだとネット住民が言っていたではないか。……まぁ当時の俺は女友達なんて現実にはいなかったので無視していたが。

 これは案外、ネット住民の言う事も馬鹿にできないのかもしれない……

 

「……なぁ」

 

 言葉を投げ掛けた瞬間、びくんと大きく身体を震わせる女の子。

 それがとても悲しいが、今はするべき事をしなくてはならないと頭を無理矢理切り替えて。

 

「……久し振りだな、アイリス。元気だったか?」

 

「……はい」

 

「そうか、なら良かったよ」

 

「……カズマ様は、どうですか? 今の生活は……」

 

「俺か? 俺はまぁ、そこそこ楽しい生活をしているかな」

 

「……。……そうでしたか。……私は、私は本当は…………」

 

 そう言って顔を上げたアイリスの顔には、綺麗な雫が流れていた。

 泣いている。

 何もする事ができず唖然とする俺は、ただ彼女の涙が地面に落ちるのを眺める事しかできなかった。

 

「私は、私は……ぐすっ……本当は寂しかったのです……」

 

 それは告白だった。

 一言(ひとこと)言う度にアイリスは肩を震わせ、口を震わせ、瞳にとどまる涙は増えていき、地面に落ちる。

 

「あなたと……カズマ様と過ごした時間は私にとって夢のようでした。王族なのにそれを無視して私と対等に接してくれて、一人の人間として見てくれました。楽しかったんです。毎日がとても楽しかったんです……! けどっ、けどっ!」

 

 ……こういう時は、どうすればいいのだろうか。

 目の前には泣きじゃくっている女の子がいて、周囲には誰もいらず俺一人だけ。

 ……。

 そっと立ち上がり音を忍ばせてアイリスの元に向かった俺は彼女に手を伸ばして──抱きしめて……

 

「……カズマ様?」

 

 ……俺は困惑の声を上げるアイリスの頭をぎこちなく撫でた。

 普段の俺からは考えられない行動だ。自分でいうのもなんだが。

 だけど、しなくてはならない気がしたのだ。

 俺は何度も何度も小さい頭を撫でて。

 

「そっか、それは寂しかったな。けど今は、俺がいるから寂しくないだろ?」

 

「……はいっ」

 

 首にしがみついて来るアイリスを受け止めながら俺は、彼女が落ち着くまで今の態勢を貫く事に決めた。

 

 

 朝日が昇りきり、めぐみんとの集合時間をとうにすぎてしまっている現在。

 

「……落ち着いたか?」

 

「はい、ありがとうございました。……申し訳ございません、服、ぐちゃぐちゃにしてしまって……」

 

 そう言って目を伏せるアイリスに気にするなと告げ、俺は予備の服を着ることにした。

 幸い濡れたのは上着だけなのでアイリスの目を心配する必要はない。

 ……取り敢えず、めぐみんに会いに行くか。いやその前に、確認する事があったな……。

 

「ところでアイリスはなんで此処に? 王族のアイリスが護衛もつけずに外にいるなんて、許されない事だと思うんだけど……」

 

「護衛ならララティーナに任命しました。何時もならクレアとレインが傍にいるのですが……今回は王城に残して来ましたので」

 

 なるほど。

 確かにダクネス……いや、ダスティネス家だったら王族であるアイリスの護衛をできるだろう。

 だが肝心の事がまだ聞けていない。

 目で問うとアイリスは立ち上がってから一言。

 

「長くなるので、移動しながらお話します」

 

 ──アイリス曰く。

 なんでも彼女は魔王軍幹部を討伐する為に編成された騎士団に付いてきたとの事。

 王族である自分も行かなくては民に示しがつかない……というのは建前で本当は俺に会いに来たようだ。

 

「カズマ様はまだアクセルの街にいらっしゃると思っていましたので、会えると思ったんです。……迷惑、でしたか?」

 

「いや、そんな事はないけど……」

 

 上目遣いでそう訊ねてくる女の子の顔が見れず、俺は視線を逸らす。

 その、まぁアレだ。

 さっきからアイリスがストレートに物事を言ってきて凄い恥ずかしいんですけど……!

 幹部が何時街を襲うか見当もつかないため、急ピッチで討伐隊の準備を急がせ、終わったのが一昨日(おととい)の夜。

 そして太陽が出始めた今日の朝早くに、多くの市民やクレア、レインさんに見送られアクセルの街に転移魔法『テレポート』を用いてやってきたそうな。

 討伐隊が来るのはまだ先だと伝えられていたギルド職員はそれはもう大慌てらしい。

 受付のお姉さんの半分死にかけの顔が容易く脳裏に浮かぶ。

 

「それじゃあもう、明日には幹部を倒しに行くのか?」

 

「いえまだです。まだ討伐隊の半分の方達は王都に残っていますし、武器や防具も然りです。『テレポート』は確かに便利なのですが、何分許容量がありますから。それに使えるのは優秀な魔法使いですし、多くの魔力を使います。なので……そうですね。どんなに早くても一週間でしょうか」

 

「へぇー、そうなのか」

 

「はい! そうなのです!」

 

「うん、それは分かったんだけどさ。……そろそろこれ、止めないか?」

 

 そう言って俺はアイリスの手と繋がっている自分の手を持ち上げる。

 そう。

 馬小屋から出た俺は、アイリスの要望で手を繋いでいた。

 街に入れば入るほど向けられる、不審者を見る目。

 中には馴染みの冒険者もいたのだが、彼らは俺を犯罪者のような目で見た後走って冒険者ギルドがある方向に向かっていった。

 絶対あらぬ噂がつくられてるに違いない。

 恥ずかしい。

 死ぬほど恥ずかしいんですけど!

 リア充の奴らは、俗に言う恋人繋ぎをいとも簡単にやるものだと場違いにも感心する。普通に手を繋いでいるだけで俺はこんなにもドギマギしているのに……。

 なので俺としてはそろそろ止めたいのだが……。

 

「駄目、ですか……?」

 

 俺の方が身長が高い為、話す時は必然的にアイリスが顔を上げる事になる。

 そうなれば上目遣いになるわけで。さらにそれに『涙目』が追加されたらそれはもう。

 

「いや、別にいいよ……」

 

 結局なすがままにする事にした。

 俺が内心諦めムードになっているのに反面して、アイリスはそれはもう楽しそうに笑う。

 本当に楽しそうだ。

 そうして街を歩いている事数分。

 

「アイリス様! アイリス様は何処にいらっしゃるのだ!?」

 

「ダスティネス卿がアイリス様をお連れになったのですが……お独りでお帰りになりまして……。アイリス様の所在を聞いたところ、『アイリス様は仲が良い友人と会っているのだ。今日くらいは自由にして差し上げろ』との事で……」

 

「えぇい、ならダスティネス卿は何処にいるのだ!?」

 

「ご自宅にいらっしゃるとの事です。……それより何故クレア様がアクセルの街にいらっしゃるのですか? 確か貴女様は王都に残る筈だったのでは……」

 

 目の前では沢山の騎士、そして何故か白スーツもといクレアが揉めていた。

 朝から何事だと住民達が足を止めているのだが、彼らはそれに気づいていないらしく、最早近所迷惑の域にまで発展しようとしている。

 そんな光景を集団の山の中にいて思う事はただ一つ。

 うわぁ、行きたくねー。

 俺がげんなりしていると、右手にあったあたたかさが突如消えた。残っているのはその微かな残滓だけ。

 

「カズマ様、此処でお別れです。私は今から討伐隊の方達と行動を共にし、私の自由は限りなく減らされると思います。……けど、最後にカズマ様と会えてよかったです」

 

 そう言ってアイリス一度微笑み──俺の傍から離れていき、クレア達の元に向かっていった。

 俺に迷惑を掛けないよう配慮してか、少し遠回りしているようだ。

 ……。

 ……何時もなら俺は何もせず傍観していただろう。

 自分が関わりたくない、責任を取りたくない、そんな事を考えて逃げる。

 別に過去の俺を否定しはしない。

 今でも俺の理性は面倒事には関わりたくないと、脳内で警報を鳴らし何もしない。

 けど、なんでだろう。

 今日の俺は少し……いや、かなりおかしい。

 アイリスと久し振りに会ってテンションが上がっているのかもしれない、そんな呆けた事を考えながら俺は──近道をして追いついた、数少ない友達の手を取る。

 

「えっ……?」

 

 俺は手でアイリスを押しとどめてから。

 

「少し待ってろ。俺が話をしてくる」

 

 そう言い残し、沢山の人を捌き切るとようやく、クレア達の元にたどり着こうとした。

 だがその前に近くにいた若い騎士の男が俺に気づき声を荒らげる。。

 

「貴様、何者だ! 俺達は今、貴様のようなへっぽこ冒険者に構っている時間はない! さっさと失せろ!」

 

 そんな失礼極まりない事を大声で叫んだ。

 周囲の目が俺へと向けられる中、クレアも俺へと目を向ける。

 目が合った。

 

「久し振りだな白スーツ。ちょっと話があるんだが。……アイリスについて」

 

「サトウカズマ! ……貴様がアイリス様といる事は解っている。この街にアイリス様の友人は貴様しかいないからな」

 

「そうか、なら良かった。じゃあ二人で話したい事があるんだけど」

 

「……何? 貴様、今の状況が解っているのか? アイリス様のご意志とは言え、貴様は彼女と一緒にいたのだぞ? 貴様がアイリス様をこの場にお連れになったら私も文句は言わないが、その態度から察するに渡すつもりはないようだな」

 

「あぁ、そうだ。……取り敢えず話をしようぜ」

 

「だから、今の状況を解っているのかと言っている! 下手したら貴様は死刑ものだぞ!」

 

 何それ怖い。

 まぁ実際、王族のアイリスを引き渡す気はないと言ってるのだ。いくら俺がアイリスと仲がいいといっても、そうなるのが妥当なのだろう。

 死ぬのは怖い。

 怖いが、今はそれどころではないのだ。

 俺の纏っている雰囲気が何時もとは大分違うことにようやく気づいたのか……クレアは渋々ながらも了承の頷きをした。

 

「お前達はここでしばらく待機していろ! 私はこの男と話がある!」

 

 そう言ってから、先に歩くクレア。

 人がいない裏通りに出た俺達は睨み合う。

 剣にこそ手をかけていないが、何時そうなってもおかしくない。

 

「話ってのはな、今日一日はアイリスに自由を与えて欲しいんだよ」

 

 そう切り出した俺に対してクレアは怒りの形相で俺を見て。

 

「貴様は何をほざいている! もしアイリス様の身に何かあったらどうするつもりだ! 」

 

「だったらアイリスの正体がバレないようにローブか何かで身体を覆えばいいじゃないか。それにだな、この街は何故か知らんが他の街よりダントツに犯罪が少ないんだってさ。なら大丈夫だと思うんだよ」

 

「それは、そうだが……しかし……」

 

「それに聞いたところ、まだ討伐隊全員が来たわけではないんだろ? なら今日くらいは王女じゃなくて、普通の子供にしてやうぜ」

 

「だがしかし……」

 

 尚も答えを渋る白スーツを見た俺は仕方なく──そう、仕方なくだ──手札を切る事にした。

 嘆息しながら、俺は言う。

 

「お前、アイリスの事好きだろ? こう、ロリコン的な意味でだが」

 

「んなっ!? おおおおおお、お前は何を言っている!?」

 

 正直そこまでの確信はなかったのだが……この反応をみるに当たりらしい。

 勝利を確信した俺とは対称的に、クレアは絶望した表情で一歩じわりと後ずさった。

 今がチャンスだ!

 

「王都にいた時からおかしいと思ってたんだよ。お前はアイリスの護衛だが、あまりにも彼女の傍にいすぎる。……朝の朝食しかり、昼食しかり、夕食しかり、昼寝の時間しかり……そしてアイリスの部屋で俺達がゲームをしている時しかり。ぶっちゃけお前の一日の時間の半分はアイリスと一緒にいる。……いやさ、最初はアイリスに対する忠誠心なのかなぁ、立派だなぁ、って思ってたんだよ。だがそれにしても度が過ぎているからな。そして今回のお前の行動。お前は此処にいる予定ではなかった。だけどお前はこうしてアクセルにいる。レインさんがいない事から一人で来たことは確定だな。……そして俺の頭脳明晰な脳はその答えにたどり着いたんだよ!」

 

 段々と楽しくなって台詞が長くなってしまったが、まぁ殆ど当たっている筈だ。

 その証拠にクレアの目に光はなく、ふらふらと揺れている事から何時倒れてもおかしくない。

 俺は浅くため息をついて。

 

「この事は誰にも言わないと約束する。だから頼む。今日だけはアイリスを自由にさせてやってくれ」

 

 頭を深く下げた。

 ……。

 

「……解った。今日だけはアイリス様を自由にしてさしあげよう。元々私も、認めたくはないが貴様と同意見だからな……ふっ、私はどうやら貴様の事を──っておい、何処に行く!? 人の話を聞け!」

 

「サンキュー、クレア様! それじゃあ明日の朝にまた会いに行くから、そういう事で!」

 

 言質をとった俺はすぐに行動をする事にして、何やら後ろで喚いている白スーツを置いていった。

 大通りに戻ると、そこにはまだ沢山の人達がいた。

 騎士団の人達はおろおろしており、何をしたらいいか分かっておらず立ち尽くすばかり。

 住民達はそんな滑稽な彼らを冷たい目で見ている。

 ……それにしても、さっきより人が多いな。

 人の山を捌き切る事数分後、ようやくアイリスの後ろ姿が見えた。

 

「アイリス」

 

「……!? か、カズマ様……。クレアと何やら話をしていたようですが、一体何を?」

 

「うんその事なんだけど……。今日一日は自由でいいってさ。だから今日は一緒に……──」

 

 ──街でも観光しよう、と言おうとしたその時。

 俺の身体は走り出したアイリスに引っ張られていた。

 顔だけを振り向かせたアイリスはそれはもう輝くような笑顔を浮かべて。

 

「早く行きましょう!」

 

 そんな風に急かしてくる。

 

「よし、ならまずは冒険者ギルドに行くか!」

 

「はい!」

 

 

 §

 

 

 冒険者ギルドに着いた俺達は、……いや俺は周りの目がとても白い事に否が応でも気付かされた。

 その目はこう語っていたのだ。

  『けっ、このロリコンが!』 と。

 アイリスが突然黙った俺を不思議そうな目で見てくる。

 そして増える白い目。

 違う、断じて違うと大声で否定したいが……そんな事をすればますます彼らの思う壷なのでここはグッと我慢する。

 せめてもの抵抗として奴らを睨んでいると……。

 

「カズマ何処にいたんですか! 全く、約束の時間になっても来ないからびっくりしましたよ!」

 

 そこには青筋を若干浮かべている俺の仲間がいた。

 ヤバい、めぐみんの事、すっかり忘れていた。

 ここまで俺に怒る姿を見るのは初めてかもしれない。

 ……ここは素直に謝ろう。

 俺の名前は佐藤和真。

 自分に非がある場合はすぐに認める、そんな賢い男だ。

 

「すみませんでした、めぐみん様!」

 

 腰を直角に曲げ、頭を深く垂らす事数秒。

 あれっ、今日は俺頭下げるの多くねと考えていると──ゴンッと音が鳴りそれと同時に頭がさらに下がる。

 痛っ!?

 

「ふぅ……まぁ今日はこれくらいで終わらせます。ですが次はこれ以上にするので。……それで、その子は誰ですか? カズマが遅れたのはその子が原因なのでしょう?」

 

 そう言いながらめぐみんは奥にある隅の席へと向かい、腰掛けた。

 しかしこれは困ったな。

 何が困ったのかと言うと、アイリスの事だ。

 王族のアイリスをどう紹介したらいいものか……。

 後頭部をぽりぽり掻きながら思案していると。

 

「私の事なら大丈夫です、カズマ様。あの方はお仲間なのでしょう?」

 

「アイリスがいいなら、俺はいいけど……」

 

「早く座ったらどうですか? カズマも、そこの女の子も」

 

「あっ、はい」

 

「…………」

 

 低い声を出すめぐみんに恐怖の念を抱きながら彼女の対面に座り恐る恐る窺うと……そこには優しい顔を浮かべているめぐみんがいた。

 ふふっ、と笑いながら演技を終わらせためぐみんは朝飯の唐揚げ定食を頼み──俺を待っていたらしい。俺とアイリスも注文した──口を開く。

 

「ぶっちゃけ、そこまで私は怒っていませんよ。まぁ、事前になにか言って欲しかったものですが……」

 

「いや、本当にすみません」

 

「ですが、それができなかった状況なのでしょう? 何らかのアクシデントがあった……。違いますか?」

 

 すごい、凄すぎる。

 紅魔族は知能が高い。

 めぐみんと一緒にいると、何度もそう思わせてくれるから不思議だなぁ。

 

「あぁそうだ。めぐみん、聞いてくれ。 この女の子の名前はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス。聞いたことはあるだろ?」

 

「いえありませんが」

 

 ……えっ。

 絶句する俺に対してめぐみんは本当に分からないとばかりに一言。

 

「もしかして、この子はすごい身分が高い人なのですか?」

 

 

 この国で一番偉い人の一人です。

 ……最早何も言えなくなる。

 ガクッと首を垂らす俺を見てか、アイリスが口を開くことになった。

 

「はじめまして。私の名前はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスと申します。ええっとですね……一応、王族です」

 

 パチリと瞬きをするめぐみん。

 

「すみません、もう一度お願いします」

 

「あっ、はい。こほん。……はじめまして私の名前は……──」

 

「すみません、名前はもういいですからその後お願いします」

 

「一応、王族です」

 

 徐々に顔を青くするめぐみん。

 ギギギと音を立てながらこちらを見ためぐみんは震えた声を出して。

 

「かかかカズマ、ほほほほ本当なのですか!?」

 

 俺は長く、かつ重いため息を吐いて。

 

「そうだよ」

 

 そんな事実を告げてやればめぐみんは……

 

「すみませんでしたぁあああああ!!!」

 

 机にガンッと頭を当てて全力の謝罪をするのであった。

 

「大丈夫ですから、大丈夫ですから頭を上げてください!」

 

 

 数分後。

 ようやく落ち着いた俺達は運ばれた唐揚げ定食を食べる事に。

 よくよく考えてみれば、王族のアイリスに唐揚げなどという品を出してもいいのかと疑問に思うが、まぁ大丈夫だろう。そうだと思いたい。

 

「カズマ様、このからあげというものはとても美味しいですね! これだったら私、何個でも食べれちゃいます!」

 

 本人が美味しそうに食べているので、多分問題ないだろう。

 パクパクとあっという間に唐揚げを食べ終えたアイリスはまだ食べたいのかジーと音が出る程に俺の肉をガン見してくる。

 意外に食いしん坊なんだなぁと思いながらも二つほど唐揚げを渡そうとしたその時。

 

「これ食べていいですよ王女様。私はもうお腹一杯なので、ご自由に……」

 

「ありがとうございます、めぐみん様! あっ、それと私の事は普通に呼び捨てでいいですよ。敬語もなくて構いません」

 

 アイリス以上に食いしん坊な筈のめぐみんが、そんな事を言いながら皿を渡すではないか……!

 おかしい、明らかにおかしい!

 

「なんですかカズマ、その信じられないような顔は」

 

「……。……なんでもない」

 

「……まぁ、いいです。それで今日はどうするのですか? アイリスは今日しか自由行動が認められていないのですよね?」

 

「はい、そうですね。……あの、質問なのですが……めぐみん様は爆裂魔法を撃てるのですか?」

 

「……? はい、そうですが……」

 

「ならご迷惑ではなかったら、是非見させてください! カズマ様からのお手紙で爆裂魔法の事が書かれていまして、とても気になってたんです!」

 

 あぁ、そう言えばそんな事も書いた気がする。

 キラキラとした目でめぐみんの事を見るアイリス。

 これに爆裂狂が乗らない筈がない。

 

「ふっ、いいでしょう! 我が爆裂魔法の真髄、見せてあげます! 今日こそはあの憎たらしい古城を木っ端微塵に粉砕してみせますよ!」

 

「……えっ?」

 

「…………えっ?」

 

 えっ?

 

「あのめぐみん様? その古城とはもしかして……魔王軍幹部がいる古城ではないですか?」

 

「「…………」」

 

 めぐみんだけでなく、俺も無言になる中。

 

「あっ、でも古城はもう一個あるんでしたよね? ならきっと大丈夫でしょう」

 

 そんなフラグになる事をアイリスは言ってしまった。

 俺とめぐみんは瞬時に目を合わせ。

 

「そうだよな、大丈夫だよな!」

 

「そうですよ、大丈夫な筈ですよ!」

 

 現実から目を背けようと躍起になってアイリスの言葉に賛同した。

 

「よし、それじゃあ行くか! いざ、古城へ!」

 

 

 §

 

 

「「ばっくれつ、ばっくれつ、ランランラーン♪ ばっくれつ、ばっくれつ、ランランラーン♪♪」」

 

 晴れた太陽の下で、そんな俺達の声が響く。

 と後ろからアイリスが躊躇いがちに。

 

「あ、あの……その歌は一体なんですか?」

 

「ばっくれ……──うん? あぁこれか。これはだなアイリス。爆裂魔法の歌だ」

 

「はい?」

 

 頭上にクエスチョンマークが浮かぶのが容易に想像できるほどの疑問の声だが、それに若干痛い人を見る目が入っているのは気のせいだろう。

 俺はアイリスの両肩をガシッと掴んでから。

 

「いいかアイリス。爆裂魔法はとても強い。それはもう、そんじょそこらの魔法じゃ太刀打ちできないほどの威力、そして範囲だ。ここまではいいか?」

 

「あっ、はい」

 

「よし……ここからは先生、説明お願いします!」

 

「いいでしょう! 我が爆裂魔法は普通に撃つだけでも素晴らしいです。ですが、しかし! この爆裂魔法の歌を歌うことによって、気分が上昇し、威力が何割か上がるのです!」

 

「はぁ、そうなのですか……?」

 

「ふっ、まだアイリスには早いでしょう。この爆裂道が如何に茨の道なのかが……!」

 

「という訳だ。分かったかアイリス?」

 

 そう尋ねてみれば、アイリスは素直に大きく頷いて。

 

「はい、解りました! カズマ様とめぐみん様は俗にいうきちがいなのですね!」

 

「「……!?」」

 

 必死に否定しながら歩く事数分後。

 俺達の目の前には、とうとう忌むべき敵が待っていた。

 めぐみんの爆裂魔法をもってしても傷一つつけられないその頑丈さはもう、尊敬に値する。

 

「行くぞ、めぐみん。詠唱の準備を」

 

「はい。『黒より黒き闇より深き漆黒に……──』」

 

 何時ものように周りの空気が振動し、ビリビリとなるなか。

 ふと服の袖に違和感を感じた。

 犯人は一人しかいないのだが……どうしたのだろう。

 もしかして怖くなったのか?

 アイリスをゆっくりと見ると──驚愕の表情を浮かべていた。

 そして顔を勢いよく上げて俺の顔を見るとやや早口気味に……。

 

「カズマ様、あれは幹部が居座っている古城です!」

 

「えっ」

 

「すぐにめぐみん様の詠唱を止めさせてください!」

 

「あ、あぁ分かった。……めぐみん、魔法は中止だ!」

 

「嫌です! 魔王軍幹部? 上等じゃないですか! 私の爆裂魔法で退治してくれよう! ……行きますよ、『エクスプロージョン』ッ!」

 

 放たれた魔法は真っ直ぐに古城へと向かい……。

 

 ──激突。

 

 猛烈な爆風が俺達が立っている所まで来る中……しかし古城は顕在。

 ドサッと音を立て倒れためぐみんは、

 

「カズマカズマ、今のは何点ですか!? 私的には八十点は超えると思うのですが……!」

 

 そんな馬鹿な事を言ってきた。

 

「おいこら、止めろって言ったよな?」

 

「うぐっ。し、しかしですねカズマ。あそこまでいって撃たないなんて、そんなの……──」

 

「止めろって言ったよな?」

 

「……すみませんでした。ですけど、あのまま撃たなかったら最悪、私の身体がボンッとなっていましたよ? それでも良かったのですか?」

 

「それはよくないけど。……まぁ、仕方ないか。明日からは別の的にしよう」

 

「……はい」

 

 僅か数百メートル先には世にも恐ろしい、魔王軍幹部がいるのだ。そんな所に長居する理由なんて一切ない。

 めぐみんをおんぶし、アイリスに声を掛けようとした時。

 

「カズマ様、私、いい案を思いつきました!」

 

 そんな衝撃的な事を言ってきた。

 

 

 ──やや駆け足気味に帰路についている中、アイリスの作戦を聞いていると……。

 

「いや、それはちょっと無理じゃないか? そんな事で奴が釣れるとは思わないんだけど……」

 

「そうですか? 私はアイリスの案、いいと思いますよ」

 

 その作戦を渋る俺とは違い、めぐみんはうんうんと頷いていた。

 

「お前なぁ、そんな無責任な事を言うなよ。いいかアイリス、めぐみん。相手は大物だぞ? そんな事にのってくるか?」

 

「そう、ですよね……。申し訳ございません、今のは聞かなかった事にしてください」

 

 シュンと落ち込むアイリス。

 罪悪感がふつふつと湧き上がるが、こればっかりはどうしようもない。

 

「カズマカズマ。どうするのですか? 真面目な話、私は釣れると思いますよ」

 

「その根拠を俺は聞きたいんだが」

 

「それはですね────────だからです」

 

 小声で討論をした俺は、数歩先にて歩いているアイリスを呼び止めた。

 まだ落ち込んでいるのか、顔色が少々暗いがこっちへ来いと手招きすると近づいてくる。

 俺は片手をアイリスの頭に乗せて、頭を撫でながら言った。

 

「よし、アイリスの案をやってみるとしよう! ……まずはクレアに相談だけどな」

 

 

 §

 

 

 一週間後の朝。

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門前に集合してください! 指揮官はサトウカズマ様に一任します! 皆様の健闘を職員全員が陰ながらお祈りしております!』

 

 街中に、お馴染みのお姉さんの緊急アナウンスが響き渡った。

 そのアナウンスを聞いた俺達冒険者は装備を整え、現地へと向かう。

 だが、その前に一人の冒険者が俺に声を掛けてきた。

 見れば、この場にいた全員が俺を見ていた。

 めぐみんも、アクアも、ダクネスも、クリスも含めたアクセルに冒険者に、アイリスや、クレアも含めた騎士団が俺を見ていた。

 ……なんだろう、俺は今凄い感動している。

 これだよ、これ。これが異世界というものだ!

 

「行くぞ、皆! 敵は魔王軍幹部だ! 」

 

「「「おぉおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 街の前に多くの冒険者が集まる中、そこに着いた俺達は、凄まじい威圧感を放つそのモンスターの前に呆然と立ち尽くした。

 

 ──首無し騎士(デュラハン)

 

 それはアイルランドに伝わる、首が無い男の総称だ。

 一般的には男性と見なされているが、女性という説もあるらしい。

 伝説によれば、彼は『死を予言する者』であり、近いうちに死人が出る家に現れる。

 自分の姿を見られる事を嫌っており、彼の姿を見た者は問答無用で死の宣告をされるのだ。

 数多のRPGゲームでも登場されており、アンデッドモンスターとして扱われる事が多い。

 アンデッドとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。

 それが首無し騎士だ。

 

 

 ──彼の背後には部下と思われるアンデッドモンスター達が大量に控えており、剣呑な雰囲気が俺達の間に流れた。

 漆黒の鎧を着た騎士は、左脇に己の首を抱えて、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。

 首から、くぐもった低い声が放たれる……

 ──その前に。

 

「行くぞ! デュラハン討伐作戦、開始────!」

 

「「「おぉおおおおおおおおお!」」」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

 ──こうして、駆け出し冒険者の街アクセル全冒険者と王都騎士団で編成された討伐隊VS魔王軍幹部デュラハンとの猛烈な戦いが始まったのであった。








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