このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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蘇生

 

 あの戦いから、もう少しで一ヶ月が経とうとしている。

 

 あの時。

 

 私の爆裂魔法は、敵である魔王軍幹部首無し騎士(デュラハン)だけでなく、仲間であるカズマをも巻き込み──その場に残されたのは馬鹿みたいに大きく、そしてこれまた馬鹿みたいに深いクレーターだけだった。

 そのクレーターは過去最大だったのだが……私はその事について何も感慨を得られなかった。

 ……。

 …………いいや、違う。

 確かに私はある感情を得られた。

 そこにあったのは──絶望、そしてそれ以上に自分への怒りだった。

 私が爆裂魔法を取らずに普通の上級魔法を取っていたら……そんな『もし』を、私は考えてしまう。

 初めてだ。

 爆裂魔法を嫌いになったのは。

 初めてだ。

 こんなにも絶望して、自分自身に呆れを──それ以上にマグマすらも焦げるような怒りを抱いたのは。

 佐藤和真、という仲間を私はこの小さな手で殺した。殺めた。

 私がこの上なく大好きな爆裂魔法で。

 分かっているとも。

 あの時の最善は、佐藤和真という人間を犠牲(いけにえ)にし、人類の敵である魔王軍幹部を斃す、という事は分かっているのだ。

 それがあの時の最善。

 だから私は、別に責められる様な事はしていない。

 寧ろ褒められる偉業だ。

 何せ、未だ嘗て魔王軍幹部という大物は一度として倒されていなかったのだから。

 これまで、多くの冒険者達が、騎士達が、魔法使い達が挑んで、勝つ事ができなかった猛者(もさ)共。

 それが魔王軍幹部。

 ……そう、今回もそれに当てはめればいい。

 佐藤和真という一人の人間が恐れ多くも魔王軍幹部との戦いに挑み、そして負けただけだ。

 私はたまたまその場に居合わせて、仲間であるカズマの指示に従っただけ。

 だから誰も、仲間を殺した私を責められはしない。

 

 ──けど、どうして。どうして私はこんなにも惨めだと思うのだろう。

 

 ……本当は、分かっている。

 分かっている!

 私は、首無し騎士討伐の報酬金も、栄誉も、勲章も、賛辞も要らない。

 

 沢山の夢があった。

 

 私の家は貧乏だったから、両親は家にいる機会が少ない。ある意味で天災の父とそれを監視……もとい手伝う母と食事を食べる機会は、私が大きくなるにつれて減っていった。

 姉である私がそうなのだから、妹はもっと少なかった。

 ……いや、私の妹は野生児というか、肝が据わっているというか……色んな意味で大物なので案外気にしていないのかもしれないが。

 貧乏だったから、それに比例して裕福な暮らしを……人並みの毎日を過ごしたかった。

 別に、毎日の夕食に高級ステーキを食べたいとか、そんな贅沢で我儘な事は言わない。

 

 ……ただ、家族と仲良く食事を食べたかった。

 

 次に望む事は、巨乳になる事だった。

 何度も言うが、私の家は貧乏だ。

 毎日のご飯が提供される、そんな奇跡みたいな事は起きないし保証されない訳で。

 必然的に、摂れる栄養はとても少なくなる。

 これを黒髪黒目の人達が言うに、『雀の涙』と言うらしい。最初は意味が分からなかったが、今ならその意味を身をもって知る事ができる。

 兎も角、摂られる栄養が少ないからか、私の胸は……とても小さい。

 ぼっちで友人兼自称ライバルは胸が大きいのに。

 ぼっちで友人兼自称ライバルは胸が大きいのに!

 作家志望で高身長な友人は胸が大きいのに。

 作家志望で高身長な友人は胸が大きいのに!

 母曰く、「私の家の家系は遺伝的に胸が貧しい人が多いのよ」と言っていたが、私はそれを未だに信じていない。

 だって、大魔法使いは巨乳が圧倒的に多いからだ。

 大魔法使いが巨乳だというのはちゃんとした理由がある。

 何でも、魔力の循環が多いとそれに比例して胸がスクスクと育つらしい。

 ……胸を大きくできるマジックアイテムはないだろうか。今度それとなくウィズに聞いてみる事にしよう。

 

 けど、上記以上に私が望む事がある。

 これはぼっちである友達しか知らない事だ。

 だがまぁ、それは置いておこう。

 こうして独りになると、見えてくるものがあった。

 それは、私が密かに願っていた願い。

 

 ──私は、仲間が欲しかった。

 

 友達でもない。

 幼馴染でもない。

 良き理解者でもない。

 ライバルでもない。

 近所のおばさんでもない。

 

 私は、仲間が欲しかったのだ。

 

 仲間と一緒に、冒険に出て、世界中を旅して。

 強敵を共に倒し、酒場でジョッキを天高く掲げて乾杯をして。

 ……そんな仲間が欲しかった。

 

 ──そして、私はとうとうそんな人と仲間になった。

 

 名前は、サトウカズマ。

 かんじで書くと佐藤和真と書くらしい。

 紅魔族的には変な名前だが、価値観は人それぞれだから、それに追及するのはやめておこう。

 最初の出会いは、冒険者ギルドにて併設されている酒場。

 ぼっちである友達と故あって別れた私は、パーティー募集の貼り紙を見てカズマの元へ。

 そして仲間となり……。

 沢山の冒険をした。

 といっても、私の爆裂魔法で一撃爆殺するだけなのだが……。

 爆裂魔法は一日に一発しか撃てない。

 それは強大な威力の代償として自身の大半の魔力を浪費するからだ。

 そして私はネタ魔法扱いの爆裂魔法しか撃てないし、撃つ気もない。

 そんな〈アークウィザード〉を、カズマは口では面倒だと言いながら最大限に活用できるような作戦を立て、それを実行した。

 ……まぁ、作戦と言っても彼が囮になり敵を引き付け、彼が戦線から離脱した瞬間に爆裂魔法を撃ち込むというシンプルな──それでいて非常に危険な作戦だったのだが。

 冒険者ギルドで受注したクエストを何時もギリギリで達成する毎日。

 着ている服を泥まみれ、土まみれにするカズマは何時も疲れていたけれど、爆裂魔法の反動で身動きできない私をこれまた口では面倒だと言いながらもおぶってくれる。

 今日の夕ご飯は何にしようか、そんな事を言い合いながら夕焼けを背に帰る毎日。

 そんな取り留めのない、けれど充実した毎日が幸せだという事に今気づかされた。

 だからなのだろう。

 無意識にその瞬間を、そしてその後の事を思い出してしまうのは。

 

 私は宿泊している宿の一室、そのベッドの上に仰向けになりながらあの時の鮮明な記憶を思い出した。

 

 

 §

 

 

 「──『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 

 涙を大量に流しながらその魔法を叫ぶと──視界は真っ白な光で一杯になった。

 次に訪れたのは轟音。

 そして地面を、世界をも壊しかねないほどの地鳴りが響き渡り──目を開けると……そこには何もなかった。

 ベルディアの残骸は言わずもがな、カズマが着ていた緑色の服も、ショートソードも……そして死骸も。

 ただそこにあったのは『何かがあった』という事だけ。

 ドサッと音を立てながら倒れる私を、誰も起こしてくれはしない。

 ……何時もだったらカズマが起こしてくれるのに、その人はもうこの世にいない。

 胸が締め付けられながらぼうっと綺麗な青空を眺めていると……アイリスが私の顔を上から覗き見てきた。

 

「……なんですか、アイリス?」

 

「あなたが……あなたがッ……!」

 

 そう言いながら私を睨んでくるアイリス。

 その綺麗な碧色(みどりいろ)の瞳には怠そうな顔を浮かべなからも涙を流している私の顔が映っていた。

 綺麗な、そして可愛らしい顔をアイリスはぐにゃりと歪める。

 そして小さな拳をあらん限り握りしめ、私の顔を殴ってきた。

 ……痛い。……凄い、痛い。

 口の中が切れて血の味を噛み締める中、赤い鮮血が飛び散りぽたりと地面に付着した。

 

「「アイリス様!?」」

 

 クレアとレインが主を止めようと必死に諌めるが、それは無意味で……寧ろその威力は増えてくる一方。

 何度も何度も殴られ続け……女の子は悲痛な声を喉元から出した。

 

「どうして、どうしてカズマ様がッ! どうしてなんですかッ!?」

 

 大量の雫を垂らしながらそう叫ぶアイリスに何も言う事ができなかった。

 ……。

 ……けど。

 …………私だって、私だって!

 力が出せない私はせめてもの抵抗としてアイリスを強く睨んで……!

 

「私だって言いたいですよ! なんでカズマが死なないといけないんですかッ!」

 

「そんなのあなたが殺したからでしょう!」

 

「……えぇ、分かっていますよ! 私が殺しました! この手で、私がッ! ……でも、仕方がないじゃないですか! あの状況で、魔王軍幹部を取り逃がすという事がどんなに悪いか、王族であるアイリスが知らない筈がないでしょう!?」

 

「……。それは、そうですがッ!」

 

 声をこれ以上なく荒くして、喧嘩を始める私達を止めたのは──アクアだった。

 もうやめなさいとばかりに優しい目をして、私達二人の頭を優しく撫でるアクア。

 精神年齢が何時も幼い彼女は泣いていなかった。

 どうして、どうして彼女はそんな優しい顔を浮かべられるのだろう。

 数多くの死者を戦場で知っているクレアやレインでさえ私達のように泣き叫んでいないとはいえ、瞼には雫が溜まっているのに……。

 

「もうやめて、二人とも。起こった事をとやかく言うのは良くないわ」

 

「ですがアクア様! カズマ様は────」

 

 言葉を続け、引き下がろうとしないアイリスにアクアは。

 

「────やめて! ……それ以上、言わないで! 私だって、辛いわよ! 悲しいわよ! けどその前に、泣く前にやる事があるでしょ!?」

 

 ……そうだ、アクアも悲しいに決まっている。

 皆、必死になって悲しみを堪えているのだ。

 

「アイリス、話は後にしましょう」

 

「……解りました。クレア、レイン行きますよ」

 

「「はっ、はい!」」

 

 先に街に戻るアイリス達を私は目で追う事しかできなかった。

 

「はい、めぐみん。おぶってあげるから頑張って」

 

 そう言いながら屈みこみ背に乗る様催促してくるアクアを見て、私は本当にカズマが死んだという事を改めて実感させられた。

 ……空は青く、太陽は既に西の彼方に進み赤く輝いている。

 そんな風景がどうしようもなく恨めしかった。

 

 

 §

 

 

 気絶しているダクネスを回収し、クレアさんが背負うなか私達は一言も喋らずノロノロとしたペースで街の中心部である冒険者ギルドに向かう。

 街に入る前、ベルディアに斬られた冒険者達の遺体があった。

 顔は恐怖に染まっていて、目は大きく見開かれている。

 私達は黙って手を合わせて彼らの死後を祈る事しかできない……──筈なのだが、アクアが突然かがみ込んだせいで視界が大きく下がる。

 

「アクア、急になんですか? せめて一言言って欲しいのですが……」

 

 私の苦情をアクアは無視しているのか、何やらブツブツと呟き、よし! と大きく頷くと突如手に淡い水色の光が灯った。

 魔法使い職の私とレインさんだから分かる。

 アクアから放出される魔力の量が半端ではない事に。

 この魔力量は少し見覚えがある。

 そう、確かこれは私がアクセルに着いた時に……感じた……。

 

「勇敢な冒険者達よ、汝らがまだ生きたいと思うのならば、私の意思に応えなさい──『リザレクション』」

 

 天にも届かんとする勢いで淡い光の柱が出現し、やがてそれは冒険者達の遺体を優しく包んでいって……ぴくりと死体が反応した。

 

「あれ、俺、生きてるのか?」

 

「生きてる! 俺、生きてるよ! うぉおおおお! これで結婚できる!」

 

「エリス様、感謝致します! ……それにしても、胸がちょっと無駄に大きかった気が……」

 

 むくりと起き上がった冒険者達は自分が生きている事を確認する様に何度もぺたぺたと触り、感動の声を上げながら、アクアに何度もお礼を言ってから街の方へと駆け出していった。

 ……そうだ、カズマにも使えたら…………!

 全員が期待のこもった目でアクアを見るが、

 

「ゴメンね。蘇生できるのは遺体が有る場合に限るのよ。爆裂魔法でカズマの身体は文字通り爆殺されたから、残念だけど……」

 

 そう言って言葉を切り、目を伏せるアクアに私達は何も言えなかった。

 明るい雰囲気から一転、沈んだ空気のまま私達は正門を潜り抜け、アクセルへと入る。

 住民達は避難しているので、人っ子一人いない街並みは、不気味なほど静かだった。

 八百屋のおじさん夫婦も、服屋のお姉さんも、元気よく走り回る子どももいない。

 けど街は傷一つなく、だからこそ違和感を感じてしまう。

 

 歩く事数分。

 冒険者ギルドには、戦いの最中に逃げた数多くの冒険者達が椅子に座っていた。

 アクアが私を気遣ってカウンター席に下ろす中、私は何となく辺りを見回した。

 皆が皆、きまりが悪い顔を浮かべて私達を眺めてくる。

 ……逃げた事を後悔しているのだろうか。

 だったら、逃げないで欲しかった。そうすれば、もしかしたらカズマは……。

 シンと静まり返る中、受付のお姉さんが代表して前に出て……

 

「……戦いはどうなりました?」

 

「終わりましたよ。魔王軍幹部、首無し騎士(デュラハン)は討伐されました。証拠に、冒険者カードを見てください」

 

 私の言葉におおっ! とざわつき、歓声を上げる冒険者達。

 駆け出しの私達が魔王軍幹部なんて大物に勝てた事が、余っ程嬉しい様だ。

 ある〈アーチャー〉職の知り合い冒険者が、

 

「よっしゃ! 乾杯だ、乾杯! 魔王軍幹部を倒した勇者達を労わろうぜ!」

 

「おぉ、そうだな!」

 

「そうだね! ……それにしても凄いなぁ!」

 

「「「乾杯!」」」

 

 先程までの静まり返った静寂は嘘の様に消え去り、冒険者達はそれぞれが酒やら肉料理やらをギルド職員に頼み、建物内は大いに盛り上がり宴会にすぐさまなった。

 ……カズマの事はどう説明すればいいのだろう。

 ……何て言えば、どんな顔で言えばいいのだろう。

 受付のお姉さんが此方に近づいて来て、何か悟った様な顔を浮かべなから質問をしてきた。

 

「カズマさんは? カズマさんは何処にいらっしゃるのですか?」

 

 その声はとても小さかったけれど、何故か建物内に大きく響いて……。

 全員がピタリと身体を硬直させる中、そのお姉さんの言葉は次々と伝染病の様に伝わっていく。

 ざわざわと音を立てあっという間に全員に広がり、

 

「おい、カズマは何処にいるんだ!?」

 

「本当だ……。おい、カズマは無事なのか!?」

 

「もしかして……」

 

「まさか……アイツが死ぬ玉かよ!」

 

 皆の目が私に集まる。

 嘘だと言ってくれと、生きていると言ってくれと……そんな思いが込められた懇願の目が私の身体を鋭く射抜いた。

 アイリスを見る。 ……落ち着きを取り戻したからか、私の事を申し訳なさそうな顔で見てきた。さっきの事を気にしてるらしい。別に私は気にしていないのだが……。

 アクアを見る。聖母のような笑みを浮かべる彼女の内面を推し量る事はできなかった。

 クレアを見る。真顔で見返して来るさまは、ある意味とても恐ろしい。

 レインを見る。顔を俯かせ、彼女が一体どんな表情をしているのか見る事ができないが、きっと悲しみに満ちているのだろう。何でも、カズマの先生のようだったらしいし。

 受付のお姉さんを見る。その顔にはあったのは──答えは分かっている、けどもしかしたら……そんな淡い希望を持っている彼女に私はなんて言えばいいのだろう。

 私は過呼吸になりそうなくらい息を吐いたり吸ったりしてから……ぽつりと小さく呟いた。

 

 

「カズマは死にました。……私が爆裂魔法でベルディアごと爆殺しました」

 

 

 その言葉を最初に理解したのは、受付のお姉さんだった。

 冒険者という職業と接しているからか、ギルド職員であるお姉さんは沢山の死を聞いてきたのだろう。

 寂しい顔をしているけれどそこに涙はなく、淡々とそうですかと呟いただけだった。

  〈ウィザード〉のある女性がすすり泣いたのを切っ掛けに、多くの冒険者達がある者は豪快に、またある者は静かに、けど一様に涙を流していた。

 顔を傷だらけにした男性冒険者が真剣な表情を顔に浮かべて私の元に近付き……何だろうと思った次の瞬間、目にも止まらぬ速さで頭を地面に擦り付けた……!

 

「すまねぇ! 俺が逃げたばっかりにカズマを……! カズマを死なせちまった! 本当にすまねぇ!」

 

 それは釈明であり、謝罪だった。

 低く野太いその声は大きく建物内を揺るがして……──一人、また一人と土下座を開始する。

 男女関係なく、皆が皆これでもかというほどに地面に頭を擦り付ける。

 私は手を激しく降って。

 

「ちょっ、顔を上げてください!」

 

「いいや! 断る! 俺達は冒険者失格だ! いや、人間失格だ!」

 

「そうだ、俺達は……カズマを見捨てたんだ!」

 

「言い訳はしねぇ! お前がしたいようにしてくれ!」

 

 ……正直、私は彼らを赦していいのか分からない。

 そもそも私が赦していいのだろうか。私はカズマではないのに、勝手に赦してそれでいいのだろうか。

 逃げたのは、仕方がない。

 私だってあの時は恐怖で身体が震えていたし、本能が危険のアラームを鳴りまくって逃げろと警告していた。

 ただ仲間のカズマが逃げなかったから私も逃げなかっただけにすぎない。

 何がエリートの紅魔族だ、さぞかし私は笑い者だろう。

 私が何も言えずに思案する中、考えに没頭していたからか、アイリスが近くに来た事に気がつかなかった。

 

「先程は申し訳ありませんでした、めぐみん様。何てお詫びを言えばいいか……」

 

「いえ、それはあまり気にしていないのですが……。アイリスは彼らをどう思いますか? 仲間の私としては、正直決められません。私が勝手に彼らを赦していいのか分からないのです。でもアイリス、あなたは? カズマの友人であるあなたはどう思いますか?」

 

「それはつまり……」

 

「今回の一件はあなたに裁量を委ねます」

 

 酷な事は分かっている。

 まだ十二歳のアイリスにこんな事を押し付けるなんて、私はなんて最低なのだろう。

 気絶しているダクネスを私の隣に安置したクレアが私の事を咎める目で見てくるが、考えを変える気はない。

 時々カズマの口から紡がれる少女の名前。

 その時の彼の表情はとても優しく──けどとても悲しそうだった。

 何故カズマが王城にいたのかは知らないが、平民である彼が王族であるアイリスと普通に過ごせる筈がない。

 もう二度と会えないかもしれない友達。

 その亡き仲間の友達が今、目の前にいる少女(アイリス)だ。

 交差する紅の瞳と碧の瞳。

 

「本当に、いいんですか?」

 

「はい。悔しいですが、私よりアイリスの方がカズマとの付き合いが長いですから」

 

「……解りました。クレア、レイン、ベルゼルグの名の元に命じます。今から私がする事を黙って見ていなさい」

 

「「……畏まりました」」

 

 きつく瞼を深く閉じ、ゆっくりと開けた時。

 そこにいたのは大切な人を失い悲嘆に暮れていた女の子ではなく──一人の王だった。

 圧倒的な圧力。

 これでまだ十二歳だと言うのだから恐ろしい。

 

「めぐみん様、……そして亡きカズマ様に代行して僭越ながら私が沙汰を下します。この場にいる皆様は作戦を放棄しました。それで間違いはありませんか?」

 

「「「はい、そうです!」」」

 

「次に確認いたします。皆様は逃げた事を恥じていますか? 共に戦う仲間を見捨てた事を後悔していますか?」

 

「「「はい、しています」」」

 

「正直言いますと、私は今物凄くあなた達が憎いです。もしあなた達が死の恐怖に打ち勝ち、逃げなかったらもしかしたらカズマ様は生きていたのかもしれませんから……。でも、それを言うのなら私もそうです。私がクレアを早く説得し、そしてアンデッドナイト達を早く倒していれば、もしかしたら…………。だから、皆が皆同罪です。私からあれこれこうしろと言う事はできません。でも、生きましょう! だって、明日もあるのですから!」

 

 最後に綺麗なお辞儀をし、アイリスはこれでいいですかと目で問いかけてきた。

 私は敢えてそれに答えず、沈黙したままの冒険者達に目を向ける。

 見れば、彼らの姿勢は土下座から君主に誓うポーズになっていた。

 

「「「はい、アイリス様!」」」

 

 

 §

 

 

 魔王軍幹部(ベルディア)が討伐されたという情報は国中にあっという間に伝わり、人類は一歩前へと前進する事ができた。

 死亡者は一名という犠牲者の少なさに人々は驚き、民達は冒険者達を見直し、感謝したそうな。

 首無し騎士(魔王軍幹部)の討伐報酬金は馬鹿みたいにでかく、全額が全て私に渡された。

 本来なら参加した人全員に山分けなのだが、逃げ出した負い目がある冒険者達、アイリス達騎士団の人達は辞退したからである。

 つまり私は今大変お金持ちだという事だ。

 正直、欲張らなければ余生は充分に生きていけるだろう。

 だがしかし、私はそんなつまらない人生を送る気はない。

 

 

 あの後。

 カズマの死を遅れて知ったダクネスが悲しみ実家に引き籠ったり、アクアが土木工事の正社員になったり、勇者候補のミツラギが王都に移住したり、度々アイリスが王城を抜け出して遊びに来たりと様々な事が起こっているが、私の生活は変わらない。

 爆裂魔法の威力を知ったクレアが私を騎士団に勧誘してきたが──私はそれを丁重に断った。

 騎士団に入団し、人類に貢献する事が良い道である事は分かる。

 だけれど、私はアクセルを離れなかった。

 いや……離れられなかったと言うべきだろう。

 もし王都に行って過ごせば、何時かカズマの事を忘れそうな気がしたから。

 

 ──そして現在。

 パーティー募集の掲示板には、こんな貼り紙が前から張り出されていた。

 二週間前から貼り続けられたその紙の表面はかなりぼろぼろで、酷くくたびれている。

 

 

〔一緒に戦える仲間を募集中。めぐみん〕

 

 私は今新たな仲間を集めようとしているのだが……中々()にならなかった。

 それもその筈。

 いくら私の爆裂魔法がベルディアを滅ぼしたとはいえ、一日一爆裂しかできない私を仲間にするなんて、余程の物好きか、馬鹿だけだ。

 それに私の悪名は街全体に知れ渡っているから、声を掛けられる事はあってもそれは挨拶や雑談目的でしかなく、仲間になりましょうと誘っても苦笑いで断られるのがオチだ。

 ……あの時のカズマもこんな気持ちだったのだろうか。

 私が思うに、出会いは運命だと思う。

 ……そう、今が時ではないだけ。

 だから気に病む事ではないのだ……!

 

「いえ、正直めぐみんさんはもう少し焦った方がいいと思います」

 

 その事を対面に座ってお忍びで来た王女様に告げると、ジト目でそんな事を言われた。

 だがこの王女様はこれっぽっちも分かっていない。

 

「ふっ、いいですか? よくよく考えたら私に仲間ができる可能性はそれはもう低いと思うのですよ」

 

「それを自信満々で言うのはどうかと思います。……あの、ない胸を強調しようと思うのは解るのですが、ハッキリ言って虚しくなるのでやめてもらって……──あっ、私の唐揚げ返してくださいよ!」

 

「むきゅむきゅ。相変わらず酒場の料理は美味しいですね!」

 

「ちょっ、話を聞いてください!」

 

「だったら喧嘩を売るのをやめてもらおうか」

 

 瞳を意図的に紅くするとアイリスはビクッと震えて渋々ながら謝ってきた。

 というか、このお姫様はこんな辺鄙な所にいていいのだろうか。

 仮にも一国の姫が変装もせず、護衛も付けないで街を彷徨いていていいのだろうか。

 その事を聞くとアイリスは、

 

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。最初こそ渋るレインを脅してこの街に遊びに来ていましたが、今ではもう家臣達が見送ってくれますから。それにこの街は犯罪がありませんからね」

 

 いや、従者を脅迫するのはちょっと……。

 

「それでもよく、アイリスを溺愛しているクレアが許しましたね。国王様にも当然言ったのですよね?」

 

「カズマ様から教えてもらった『上目遣い』をすれば二人ともイチコロでした! ……でも何故鼻血を出して倒れたのでしょう?」

 

 ……カズマの罪は重い。

 まさか王族にそんな技を教えていたとは……。

 もしかして他にも教えていたりするのだろうか。

 ……怖いから聞くのはやめておこう。

 私としてはこうして会えるからいいのだけれど。

 それにしても、この子も色々な意味で強くなったものだ。

 フォークでレタスを深く刺しているアイリスを見て、私は強くそう思う。

 

「めぐみんさん、真面目な話騎士団に入団しませんか? 私がこうして遠路遥々アクセルに来ている名目上の理由はそれなのですが……」

 

 遠路遥々も何も、レインさんの『テレポート』で一瞬だろうに。

 王族が直々に勧誘しに来るとはそれだけ私は期待されているのだろうか。

 しかし、またこの話か……。

 アイリスは私と会う度に──と言ってもまだ二回目だが──この話をしてくるのだから、そろそろうんざりしてくる。

 私は何度も断っているというのに。

 

「そんなに私を引き入れたいのですか? 確かに私の爆裂魔法は強力ですが、使い勝手が非常に悪い事はアイリスだって知っているでしょう? ……だからカズマを殺してしまったのですから…………」

 

 カズマの名前が出た瞬間、シーンと場が一気に重くなったがそれを帳消しするかの様にアイリスは明るい声を出して。

 

「で、ですが! 正直、私は心配なのです。カズマ様が亡くなってもう少しで一ヶ月経ちます。なのに新しい仲間を作らずダラダラと過ごしているめぐみん様を見ると……こう、未来が心配なのです」

 

 ……イラッときた。

 確かにここ最近の私は爆裂日課をするか、宿でゴロゴロ過ごすかの二択だったけれども、そこまで言われる事だろうか。

 私が爆裂魔法の詠唱を始めようとした……──その時。

 背後に人の気配を感じた。

 誰だろう、生憎私は今忙しいのだ。

 たとえ知り合いだとしても構ってる暇はない。

 というか、さっきから周りの冒険者達が煩いのだが。

 

「えっ、もしかしてあれって……!?」

 

「な!? 何でお前が……!?」

 

「私、生きててよかった…………」

 

 まぁ、無視でいいだろう。

 そう思い爆裂対象のアイリスを見た時、私は思わず驚きの声を上げていた。

 泣いている。

 ……えっ。

 私がおろおろしていると……アイリスは勢いよく席を立ち……!

 

「どうして、どうしてあなたがッ!」

 

 そう言いながら私の後方にいるであろう人の元へ駆け出し、それにつられるように首を振り向けるとそこには──────。

 

 

 §

 

 

「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先程、不幸にも亡くなりました。短い第二の人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです……──と言いたいのですが、ジャンヌ様と以前約束をしていましたね? なのですぐに下界に戻ってもらいます」

 

 そんな柔らかい声音をBGMに聞きながら重たい瞼を開けると、気づけば俺はローマ神殿の中みたいな所にいた。

 自分に何が起きたのか分からないまま、そんな事を目の前にいる少女に告げられる。

 ゆったりとした羽衣(はごろも)にその身を包み、光り輝く長い銀髪に真っ白な肌。

 実際の年は分からないが、見た目から判断するに俺より年下だろうか。

 名の知れぬ少女に俺はしばしば目を奪われ、思わず見惚れてしまう。

 俺の茶色い瞳と、少女の穢れの知らぬ蒼い瞳が交差する中、俺は彼女の瞳の中に少しばかり心配の色がある事に気がついた。

 

「あの、此処はいったい……?」

 

「此処は死後の世界です。あっ、そういえば、名乗っていませんでしたね。私の名前はエリス。幸運の女神を司っています」

 

 そう名乗った少女……いや女神エリスの言葉を聞き入れ、俺は死んだのだと自覚した。

 アクアと最初会った時もこんな感じだった気がするから、多分間違いないだろう。

 普通なら自分の死に嘆くところだが、それよりも気になる事があったので聞いてみる事に。

 

「えっと、俺は死んだんですよね? けど生き返るって、なんでですか?」

 

「以前カズマさんは私の上司、ジャンヌ様から『一回だけ生き返れる』権利を貰いましたよね? 通常の天界規定なら、死んだ人間が生き返られるのは一度だけなのですが、今回は特例としてカズマさんはもう一度生を謳歌(おうか)できます」

 

 あっ、そう言えばそんな約束していたっけなぁ……。

 そもそもジャンヌ様と話した事も遠い過去の様に感じられるのだから、それだけ俺は異世界生活を楽しんでいたのだろう。

 俺がうんうんと一人頷いていると、女神エリスが、

 

「思い出して頂けて何よりです。それでは少々説明をします。まずですが、カズマさんが亡くなってからもう少しで一ヶ月が経とうとしています」

 

 ……。

 …………えっ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください! それって、何ででですか?」

 

 一ヶ月、だって……!?

 思わず椅子から立ち上がり──失礼にも程があるが──女神エリスに問い質すと、彼女は申し訳なさそうな顔をしてから言った。

 

「……その、カズマさんはご自分の死因が何か分かっていますか?」

 

「何って……めぐみんの爆裂魔法でしたよね?」

 

 そう、俺はベルディアを巻き込んで自爆したのだ。

 ……正直、めぐみんにはかなり申し訳ない事をしたと思っている。

 仲間思いのめぐみんが仲間を撃つなど、かなり堪えるだろう……。

 

「そう、爆裂魔法です。カズマさんの仲間が放った渾身の爆裂魔法は首無し騎士(デュラハン)とあなたを爆殺しました。それでですね、カズマさんの身体が無くなってしまったのです。それはもう、綺麗に全部無くなりました。……死者の蘇生ですが、まず第一に身体が存在しないとできません。何故なら身体は『器』の役割をしているからです。そして『器』に宿るのが魂です。これだけ言えば、分かるでしょう?」

 

 なるほど、つまり身体の再生に時間がかかったと、そういう事らしい……。

 それにしても、この空間は自由にカスタマイズできるのだろうか。

 アクアの時は事務机と椅子があった。

 ジャンヌ様の時は椅子しかなかった気がする。

 そういう意味ではエリス様もそうかもしれないないが、景色は先程も述べた様にローマ神殿だ。

 

「あの、この空間って自由にカスタマイズできるんですか?」

 

「……? あぁ、その事ですか。はい、そうですね、自由に装飾する事が可能ですよ。私はこの景色が好きなので愛用しています」

 

 そう言ってニコッと笑みを浮かべるエリス様を見て俺は……非常にドキマギしていた。

 あれっ、何だろうこの気持ち。

 心臓の高鳴りが止まらない。

 

 ──そうか、ここにヒロインはいたのかッ!

 

 ……おかしいとは思っていたのだ。

 俺はあの異世界で数多くの美人、そして美少女と会った。

 友達だったらアイリスと。

 仲間だったらめぐみんと。

 お姉さん系だったらウィズと。

 エロ系だったらダクネスと。

 悪友だったらアクアと。

 そんな女性達と知り合った俺だが……残念な事にヒロインとは未だに会っていなかった。

 元いた世界には幼馴染だっていたのに、だ。

 そして満を持してのメインヒロインの登場か……!

 挙動不審気味になっていると、クスクスと手を当てて笑うエリス様。

 ……凄い恥ずかしい。

 視線を逸らしていると、ひとしきり笑った女神は突如パチンと指を鳴らした。

 その瞬間、真っ暗だった天井に光が灯り、扉が出現する。

 恐らく下界に通じる扉だろう。

 

「それではカズマさん、そろそろ時間です。……次はないので、気をつけてくださいね?」

 

「はい、分かりました! ……あっ、それと質問なんですけどいいですか?」

 

「……? 何でしょうか?」

 

 そう、俺には一つだけエリス様にする質問がある。

 あれは何時の事だったか。

 アクアと共に酒場で夕食を口にしていた際、酒を飲みすぎて酔っていた彼女がこう口に零していたのだ。

 

『いいカズマ? この国で国教になっているエリスは私の後輩なんだけどね、実はあの子の胸はパッドが入っているのよ。だから気をつけなさい』

 

 当時は適当に聞き流していたが、こう対峙してみると気になって仕方がない。

 俺がジーとエリス様の胸をガン見するなか、俺の無遠慮過ぎる目に気がついたのか彼女は胸を庇うように手を当てて、

 

「あの、さっきから……その、困るのですが……」

 

「パッド入っていますか?」

 

「……!?」

 

 俺の質問が予想外過ぎたのかあたふたとする女神。

 さて、真実は一体……!?

 答えを期待して待っている中、エリス様は突然立ち上がってからキッとこちらを睨み付けてくる。

 正直何も怖くない。

 寧ろ可愛いとすら思えてしまう俺はおかしいのだろうか。

 

「こほん。……それではカズマさん、第三の人生、後悔がないよう生きてください! 願わくば、あなたが魔王を倒すその日を待っています!」

 

 早口にその言葉を告げると、俺の身体がフワリと浮き上がり開かれたままの扉に向かい始めた。

 抗おうとしても強制的に身体が動いてしまう。

 ニコリと笑い、手を振ってくれる女神様に俺は感謝を込めて……!

 

「エリス様! 俺はパッド入りでも気にしませんよおおおおおおお!」

 

 

 §

 

 

 瞼越しに太陽の光を感じ、ゆっくりと視界を開けるとそこは──建物の中だった。

 というか、俺が普段寝泊まりしている馬小屋の中だった。

 扉から射す太陽の光がとても眩しい。

 どうやら親切にも此処に移動させてくれたらしい。

 ……それにしても、本当に生き返ったんだなぁ。

 人生で二回も死ぬなど、地球だったらギネス記録に載る偉業だが生憎此処は異世界だ。

 取り敢えず冒険者ギルドにでも行こうかと思い、歩く事数分。

 

 俺は現在入り口前でウロウロとしていた。

 

 どうしよう、どんな風に入ればいいんだろう。

 入ると同時に、「野郎共、帰ってきたぞ!」とでも言うか? けど失敗しそうな気がするし、それ以上にとてつもなく恥ずかしい。

 ……うん、やっぱりここは黙ってひっそりと中に入ろう。

 幸い俺には『潜伏』スキルがあるから、建物内に大勢の人間がいるからといって見つかる事はまずない。

 意を決してギルド内に入ると、そこにはあったのは……

 

 ──何時もの光景だった。

 

 酒を勢いよく飲んでいる奴もいれば、脂がのっている大きな肉を口に運び頬張っている奴もいる。

 クエストに向かおうとしているパーティーもいれば、ただ単に仲間達と雑談している奴らもいる。

 

 そんな、何時もの光景。

 

 頬に熱いものが流れ出るのを感じて、慌ててそれを服の袖で拭う。

 どうやら俺は、思っていた以上にこの世界の事を気に入っていたらしい。

 感動した俺は思わず『潜伏』スキルを解いてしまう。

 そして堂々と建物内を歩き回る。

 探すのは、俺の仲間。

 爆裂魔法の事が三食の飯より大好きで、爆裂道などと意味が分からない事を言う仲間。

 けど、仲間の事をとても大切に思っている──そんな女の子。

 目印はトンガリ帽子で……そして背が小さい事。

 辺りをきょろきょろと見回して突っ立っていると……一人の男とぶつかってしまった。

 というか、ぶつかって来た。

 

「痛ってぇなぁ! オイ、気をつけ……お、お前なんで!?」

 

 その男は酔っているのか顔が非常に赤くなっているが、俺の顔を見た瞬間その赤みが消え去り驚愕の表情を浮かべている。

 とても見物だ。

 だがそれに構う暇はないので再び探す作業をする事にして……

 ──見つけた。

 仲間の元に一歩向かう度、周りにいた冒険者達は俺の事を認識したのか驚きの声、驚きの表情をしていく。

 そしてあと五メートルというところで俺は……意外な人物がいる事に気がついた。

 金髪碧眼の可愛らしい女の子。

 この国の王族で──そして俺の友達。

 目が合った。

 

「どうして、どうしてあなたがッ!」

 

 その少女は涙を流しながら勢いよく立ち上がり、俺の元に駆け出してくる。

 俺もそれに応えようと待ち構え手を伸ばし抱きしめようと……──思ったのだが予想以上に威力が強かった。

 流石は王族、たったこれだけの距離でこの威力とは……。

 意識が暗転しそうになるが、それを意地で耐えて俺はぶつかって来た女の子──アイリスを強く抱き締めた。

 嗚咽を漏らすアイリスを、俺の仲間が心配しない筈がない。

 

「アイリス、何で急に泣いて……────えっ、何で? カズ、マ……?」

 

 ありえないとばかりに俺を見てくるめぐみんに俺は笑いかけてから片手を上げて。

 

「ただいま、めぐみん」

 

 そんな再会の言葉を告げるのだった。

 俺としては最高の言葉、そして最高の行動だったのだが、めぐみんにとってはどうやら違ったらしい。

 瞳を紅く輝かし何故か杖を俺に向けて、

 

「アイリス、その男から離れなさい! カズマの姿をしていますが、ソイツは別者です! 私が爆裂魔法で倒して……ちょっ、杖を取ろうとしないでください!」

 

「駄目です、めぐみんさん! この男性(ひと)は正真正銘カズマ様ですよ!?」

 

「そんな筈がないでしょう! カズマは私が殺したのですよ!? それに何故、一目見ただけで分かるのですか!?」

 

「そんなの簡単です。私が見間違える筈がないですから!」

 

「その自信は何処から来るのですか! ……えぇい、偽者のあなたも何か言ったらどうですか!」

 

「そうです! カズマ様が一言言えば納得してくれる筈です!」

 

 そう言われましても。

 実際に俺は死んだからなぁ。

 あっ、そうだ。

 俺はある考えを思い付き、それを提案する為に口を開けるのだった。

 

 

 §

 

 

「それでは始めます! もしベルが鳴ったら警察に渡しますからね!」

 

 俺達は現在、警察署の中にいた。

 理由は至極簡単で、嘘を見抜く魔道具を使う為だ。

 この魔道具はありとあらゆる存在の嘘を見抜く優れもの。

 使うのは異世界転生した初日ぶりだが……まさかもう一度これを使うとは思いもしなかった。

 取調室にいるのは警察官が一人と、めぐみんとアイリス、そして俺の計四人。

 一回でもベルが鳴れば即逮捕される。

 この案を提示した時は、正気かという目で俺を見てきためぐみんだが……今は不安の色が濃くなっている。

 どうやら、俺が逃げると思っていたらしい。

 だが俺が逃げなかったので、もしかしてという思いが強くなっているようだ。

 

「それでは最初の質問です。と言っても、するのはこれだけですが……。『あなたは私、めぐみんの仲間であり、アイリスの友人のサトウカズマですか?』」

 

「はい、そうです」

 

 ベルが鳴らなかったので室内はシーンと静まり返り、俺とアイリスがジト目でめぐみんを見る中、彼女は警察官を慌てて見て、

 

「あの。この魔道具故障していませんよね?」

 

「していません」

 

「………」

 

 ズズっと顔を近づけてめぐみんの目を見てやれば彼女は視線を逸らしたが、その先にはアイリスが待ち構えていた。

 俺達のコンビネーションが効いたのかめぐみんの頬に一滴の汗が流れ……

 

「あの、本当にカズマだったりします?」

 

「だからそうだと言っているだろうが!」

 

「……。……すみませんでしたあああああ!」

 

 取調室にめぐみんの声が大きく反響し、こうして俺は仲間と本当の意味で再会する事ができたのだった。

 

 

 §

 

 

 メインストリートを歩く中、俺はめぐみんとアイリスに何故俺が生きているのかを説明する事に。

 流石に全部を告げたところで信じてはもらえない気がするので、エリス様が俺を生き返らせてくれたと説明すると……何故か二人とも胡散臭い目で俺を見てくる。

 

「なんだよ? 嘘は言っていないぞ」

 

「いえ、まぁカズマが生きているのであなたがエリス様に会ったのは本当なのでしょう。そして生き返らせてくれたというのも本当なのでしょう。……ですが、何故生き返らせてくれたのですか?」

 

「そうですよね、私もそれが気になって仕方がありません。いえもちろんエリス様には感謝してもしたりないのですが……それでもおかしいと思います」

 

 あっ、確かに言われてみればおかしいな。

 エリス様曰く、死人が蘇生できるのは天界規定とやらによれば一回だけらしいし……。

 ……よし、ここは適当に言っておこう。

 

「アレだよ、俺は魔王の幹部を倒した勇者だからな、身を挺して死んだ俺に感動したんじゃないか? もしくは俺に惚れたりして……」

 

「いえ、エリス様が初対面のカズマに惚れる訳がないでしょう」

 

 正論過ぎて何も言い返す事ができない。

 

「まぁ、アレだ! 理由はともあれこうして生き返らせてくれたんだ、あれこれ考えても仕方がない!」

 

「……それはそうなのですが…………」

 

「いいじゃないですか、めぐみんさん!」

 

 頭を悩ませるめぐみんとは違い、アイリスは納得してくれたらしい。

 このまま冒険者ギルドに戻ろうした時、アイリスが俺の顔を上目遣いで覗き込んできた。

 ……これは、意図的にではないな。

 

「カズマ様、めぐみんさん、私は此処でお別れです。そろそろクレアが仕事を放り出して来てしまいますので……」

 

「マジか……。というか、なんでアイリスはアクセルにいるんだ? 見た感じ護衛も付けていないようだし……大丈夫なのか?」

 

「はい、めぐみんさんにも言いましたがこの街は犯罪が比較的……それこそ、この国でダントツに少ないので。それに、友達に会いに来るのにそれを阻まれる理由はないでしょう?」

 

 なんて嬉しい事を言ってくれるんだ。

 

「じゃあまたな、アイリス」

 

「また会いましょう」

 

「はい! あっ、めぐみんさん。入団の件は無かった事にしていただいて構いませんから!」

 

 入団とは一体……?

 別れの挨拶をし、ペコりと律儀に礼をしてからアイリスは転移屋がある場所に走って向かって行き……──突如ユーターンして来る。

 何だろう、伝え忘れた事でも会ったのか?

 そう思った、その瞬間。

 

「大好きですよ、カズマ様!」

 

 満面の笑みを浮かべながらそう言ってくるアイリスに動揺する中、彼女は身長差をなくす為か背伸びをして……─

 

 ──頬にキスをしてきた。

 

「「……!?」」

 

 俺とめぐみんが驚きの声を上げる中、アイリスは羞恥からか顔を真っ赤にして、微笑んで来る。

 

「本当にあなた達と会えて良かったです! カズマ様、めぐみんさんに祝福を!」

 

 そう言い残し、今度こそアイリスは立ち去って行った。

 ……これをやられるのは二回目か。

 まだあたたかい頬に手を当てて感傷に浸っていると、めぐみんが犯罪者を見るような目で。

 

「良かったですねカズマ! これで晴れてロリコンの仲間入りですよ!」

 

「いやいやいや、それはないだろう!」

 

「ふっ、そう思うのなら周りを見てみるといい」

 

 勝ち誇ったようにそう言うめぐみんに渋々従い三百六十度周りを見ると……先程の場面を見ていただろう人達が俺の事を犯罪者の目で見ている事に気づく。

 

「うわっ、アレって本物のロリコンよね……」

 

「カズマが生き返ってくれたのは嬉しいが……そうか、アイツはロリコンだったのか……」

 

「最低ー」

 

「というか、さっきの女の子って時々この街にいらっしゃるアイリス様じゃないか?」

 

「あぁ、そうだよな。……という事はカズマは王族に手を出したのか……憐れなり」

 

 勝手にそう解釈してくる街の住民、そして知り合いの冒険者達。

 

「まぁ、アレですよ。私はロリコンでもカズマの事を仲間だと思いますから、安心してください!」

 

 ニコッと曇りのない笑みを俺によこしてくるめぐみん。

 俺は肩を落としながら冒険者ギルドに向かうのだった……。

 

 

 §

 

 

 再び冒険者ギルドに戻ると、さっき訪れた時以上に、建物内はざわついていた。

 

「おい、さっきの話本当か?」

 

「あぁ、俺は見たんだよ! カズマが生きているところを!」

 

「偽物じゃないか?」

 

「もしかして……カズマの幽霊かも!」

 

 話の中心は俺についての事が多かった。

 仕方がない、ここは派手に登場するか!

 俺は空気を思いっきり吸って、声を出そうと……

 

 ──したその時。

 

 背中にバン! と衝撃が走った……!

 凄いヒリヒリするんですけど! 鳴っちゃいけない音がしたんですけど!

 涙目になりながらガバッと後ろを振り返るとそこにはアクアとダクネスが立っていた。

 

「カズマじゃない! えっ、どうして!?」

 

「騙されるなアクア! もしかしたらカズマに化けているモンスターかもしれない!」

 

 そう言って、ダクネスは背中に吊るしてある両手剣を抜き去った。

 その瞳には殺気が込められていて、ハッキリ言ってかなり怖い。

 そんなダクネスを宥めようとめぐみんが半歩前に出て、

 

「お、落ち着いてくださいダクネス! これは正真正銘、本物のカズマですよ! さっき、警察署の中で嘘を見抜く魔道具を使ったので間違いありません!」

 

「……本当に、カズマなのか?」

 

「あぁそうだよ。なんだったら、俺とお前が初めて会った時の事を話してもいい。もちろん大声でな。お前が貴族である事も、そしてド変態ドMな事が晴れて全員知る事になるんだ!」

 

 そう言ってやったらダクネスは顔を赤くして、コイツは本物だと呟いていた。

 何を基準にしてその言葉を言ったのだろう。

 これは問い詰めるしかないと思ったその時、アクアが俺の身体をペちペちと触ってきた。

 何かを確かめるように男の急所以外の所を何度もペちペちと触り、

 

「本当にカズマじゃない! ……けどどうやって生き返ったの?」

 

「お前の後輩のエリス様が生き返らしてくれたんだよ」

 

「へぇー、あの真面目のエリスがねぇー。嘘ついてない?」

 

「ついてない」

 

 真顔でそう答えてやれば、アクアは半信半疑ながらも俺から離れて何やら詠唱を……。

 

「汝の行先が幸運でありますように……!『ブレッシング』ッ!」

 

 支援魔法を掛けてくれたのか、淡い光が俺の身体を包む。

 

「おかえりなさい、カズマ!」

 

 アクアの瞼に涙が溜まっているのは気のせいではない。

 見れば、ダクネスもそうだ。

 そして先程からのやり取りを建物内にいた全員が聞いていたのだろう。

 受付のお姉さんも、顔に傷を付けた冒険者も、魔法使いの女の子も、涙を流しながら……けど笑顔を浮かべて。

 

「「「おかえりなさい、カズマ!」」」

 

「ただいま!」

 

 俺の名前は佐藤和真。

 異世界生活を何だかんだと楽しんでいる冒険者だ。








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