このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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この最悪の機動要塞に破滅を!
迷宮探索


 

「明日は迷宮(ダンジョン)に潜ります」

 

「嫌です」

 

「潜ります」

 

「嫌です。……というか、何故潜る必要があるのですか? お金でしたらベルディアの報酬金がありますから、生活には困っていないでしょう?」

 

「あぁそうだな。だがそれ以前に、迷宮には何時か潜りたいと思っていたんだ。だから潜ります」

 

「い・や・で・すッ!」

 

 とある宿の一室に、そんなめぐみんの声が響いた。

 俺がこの世界に再び生を受けてから、もう少しで一週間が経とうとしていた。

 幸運の女神、エリス様によって蘇生された俺なのだが……綺麗さっぱり爆裂され、なくなった身体を再生させるのに一ヶ月もの月日が流れていた。

 そしてその間に季節は本格的に冬になってしまい……冒険者ギルドで貼り出されているクエストと言えば、

 

『ドラゴン退治しませんか? これであなたもドラゴンスレイヤー!』

 

『一撃熊を倒す猛者はいませんか? 今なら報酬に色を付けますよ!』

 

『牧場を襲う白狼の群れを討伐してくれ!』

 

『機動要塞デストロイヤー接近中の為、進路予測の為の偵察募集中!』

 

 そんな、超危険なクエストばかり。

 そう、この異世界では俺達みたいな駆け出し冒険者は冬では稼げない。

 何故ならそれは、地表に出現するモンスター達が皆手強く、雑魚モンスターは冬眠しているからだ。

 俺は半眼でめぐみんを見ながら、昨日の時点で貼り出されていたクエストをもう一度思い出し……。

 

 ドラゴン退治? 誰がそんな自分から死地に行くような事をするか……!

 

 一撃熊? 軽装の俺と、魔法使いのめぐみんが首を優しく撫でられただけで死ぬ未来しか浮かび上がらない。

 

 白狼の群れ? 何で日本で狼が絶滅したと思っている。それだけ強く、狡猾だという事だろう? ならパスで。

 

 機動要塞デストロイヤー? 何それ、初めて聞くんだが……。

 

「なぁ、何とかロイヤーって知ってるか?」

 

「……? ……あぁ、機動要塞デストロイヤーですか。ワシャワシャ動きながら街を破壊する、妙に子供に人気がある奴ですね」

 

 なるほど。分からん。

 俺は猫のように丸くなっているめぐみんを備え付けられている暖炉から引き離しながら、もう一度話をする事にした。

 

「よし、明日はやっぱり迷宮に潜ろう」

 

「い・や・で・すッッ!!!」

 

 そう叫び、嫌々と首を激しく横に振るめぐみんをどう説得したらいいものかと悩んでいると……背後に人の気配がし、そちらを見ると……

 

 ──額に青筋を浮かべているこの宿の主人がいた。

 

 なんでも、この男性は元冒険者だったらしい。

 昔は凄腕冒険者だったようだが、奥さんと出会いそのまま結婚。

 奥さんのご両親が営んでいたこの宿を継いだそうな。

 そして宿の事を誇りに思っている主人はお義父さんお義母さんの宿を荒らされる事が嫌いなそうな。

 そんな、漢として俺が密かに尊敬しているご主人はヒクヒクとこめかみを震わせ、

 

「おい! 一回だったら大目に見てやるつもりだったが、二回目は許さん! そんなに叫ぶ元気があるんなら、昼は出ていけ! そんで夜に帰って来い! あったかい飯を作っているからな!」

 

 俺達は顔を見合わせてから慌てて装備を整えて、

 

「「すみませんでしたぁあああ! それと、ありがとうございます!」」

 

 一目散に冒険者ギルドへと向かうのだった。

 

 

 §

 

 

 何度も言うが、冬になると駆け出しの俺達は稼ぐ事ができない。

 その為ここ最近の冒険者ギルドには朝っぱらからいながら座っている奴らが多く、中には酒を飲んでいる奴もいる。

 冒険者ギルドは朝から大盛況です。

 何処か座れる場所はないかと辺りをきょろきょろと見回すと……

 

「あっ、カズマにめぐみん! キミ達二人も相席しないかい?」

 

 その声を拾ってみれば、そこには立ち上がりながら手を振るクリスと……何故か鎧を着ておらずに顔を赤くしているダクネスが隅っこの方で席を取っていた。

 俺とめぐみんは頷き合い、誘いの言葉に乗る事に。

 クリス達は朝食を食べていなかったのかギルド特製のサンドイッチを食べていた。

 俺達はというと宿の主人の奥さんの愛情こもった朝食を食べていた為に必要ないので、りんごジュースを二人分頼む事にした。

 新人の面が無くなりつつある男性職員からジュースを貰い受け、乾杯をしてからグビっと一杯飲む。

 うん、美味い!

 旬のフルーツだからか、とても美味しく感じた。

 

「プハー、やっぱり美味いなぁ」

 

「それは同意しますがカズマ。その台詞だけ聞くと仕事帰りのオッサンの様に聞こえるのですが」

 

「やめろよ悲しくなるから。……クリス、クエストはどんな感じだ? 何か美味いクエストは出たか?」

 

 僅かばかりに期待を込めて聞くと……クリスは苦笑いしながら首を横に振ってから、肩を竦めて。

 

「いやぁ、それが全然だね。昨日から何も変わってないよ。……どうしよう、このままじゃ今月分の孤児院への仕送りが……」

 

 相変わらず聖人の行いをするクリス。

 これで〈盗賊〉職なのだからおかしいものだ。以前理由を訊ねた時は趣味と言っていたが、実際は違う気がする。

 やはり、俺の脳内女性尊敬ランキング二位は伊達ではない。

 俺がクリスと雑談している傍らでは、めぐみんとダクネスが楽しそうに会話をしていた。

 思えば、二人が話すところはあまり見た事がない。

 どんな事を話しているのかと気になったので耳を傾けると……

 

「あのダクネス? 何でさっきから赤い顔をしているのですか? というか、何故鎧を着ていないのですか? いくらクエストに出ないとはいえ、流石に不用心ですよ?」

 

「……? ……あぁ、鎧なら今は新しいのに新調中だ。この前の幹部討伐戦の際、私は奴によって高い所から落とされただろう? 幸い無傷だったのだが……鎧がガタついてしまってな……。この機会に新調しようと思ったのだ。本来なら既にでき上がっていたのだが……胸のサイズが合わなくてな…………」

 

「へぇ、そうなんですか。それは喧嘩を売っているのですか? そうですよね? …………まぁいいです。私もそろそろ、この杖を変えようかなと思っているのですが…………」

 

 お互いの所持装備について──女子がする話ではないが──話しているめぐみんとダクネスを仲がいいなぁ、とそんな念を抱いていると……クリスが笑い掛けてきた。

 

「二人が仲良くなったのは、ちょうどキミが死んだあたりかな。多分、それぞれが思うところがあったんだろうね」

 

 なるほど。俺の死が彼女達を近づけさせたのか。

 なら不謹慎だが喜ばしい事なのだろう。

 めぐみんは何気に女友達が少ないし、ダクネスはダクネスで妙に恥ずかしがるので、友達がクリスとアクアくらいしかいなかったからなぁ。

 目を細めて彼女達のやり取りを聞いていると、

 

「それにしても、ここ最近は寒くなってきましたね。ダクネスはそんな軽装で寒くないのですか? お腹を冷やすと、風邪を引いてしまいますよ?」

 

「んんっ。めぐみん、それが良いのではないかっ! こう、私の身体を冷たい冷気が覆い、ジワジワと、そしてチクチクと攻撃してくるのは最高だと……あぁっ……めぐみんも思わないか?」

 

「思いません」

 

 ただただ単に変な会話なだけだった。

 身体をほんのり赤くし、身体をプルプルと震えさせるダクネスをめぐみんはジト目で、クリスは諦観のため息を吐きながら傍観している。

 俺はというと……真顔を作りダクネスのある一部分をバレない程度に……しかし程々にガン見していた。

 そう、これは別に如何わしい行為では決してない。

 寧ろこれはドMのダクネスにとってご褒美であり、優しい俺は無償で提供しているのだ。

 だからこそ、俺は堂々と男の夢が詰まった大きい山を見る必要があるのだ……!

 

「あのカズマ。この前言いましたよね? カズマはこのままいけばあのアルダープのオジサンと同じになると」

 

 呆れたようにそう言うめぐみん。

 だがしかし、今の俺にはそんな言葉は脳に入らない。

 そもそもこれは男の本能なのだから、従う事が正常なのだ。

 

「ちょっとキミ。そろそろやめたらどうだい? ……というか、そんなに男の人は胸が好きなのかい?」

 

「当たり前だろ? おっぱいは男の夢が詰まっているんだからな! ダクネスを見ろ! この動けばたゆんたゆんと上下左右に、斜めに揺れる胸! これを桃源郷と言わず、何が桃源郷だ!」

 

「カズマが何を言っているのか分かりませんし、分かりたくありませんが……。けど、ダクネスばかりに視線がいくのは気に食わないですね。こう、女として負けている気が……」

 

 ふむ、女として負けている気が……か。

 俺はめぐみんを見る。

 確かに容姿は整っているし、このまま歳を重ねていけば美女になる事は必須だ。

 だがしかし、それは外面上である

 俺はこれまでの行動を思い浮かべ……なんちゃって紅魔族を凝視し……。

 女? このちんちくりんの爆裂娘が?

 俺は彼女の薄く、非常に平らな胸を見て思わず……。

 

「ハァー」

 

「……おい、その憐れみの目をやめてもらおうか!」

 

「ちょっ、めぐみん!? 落ち着いて、落ち着いてっ!」

 

 クリスが慌ててめぐみんの行動を止めようと必死に諌めているが、暴走しているめぐみんが彼女の言葉を聞く筈がない。

 とめぐみんが瞳を少し紅くしながらクリスを見て……

 

「クリス、こればっかりは退けないのです。あなただって充分胸があり……あり……ありませんね」

 

「……!?」

 

 ………。

 確かにクリスの方が貧乳だろう。

 というか、パッと見だと美少年に見えるくらいだからその絶壁が窺い知れるというものだ。

 めぐみんは何度も自分の胸部とクリスの胸部を見比べ……。

 …………。

 

「ふっ」

 

 勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 涙目になりながらめぐみんの首を締めようとする盗賊女を必死に抑えながら俺は、

 

「おい、言っていい事と悪い事があるぞめぐみん。クリスが何気に胸が小さい事を気にしてるのを言っちゃあ可哀想だろうが。ダクネスの胸を時々羨ましそうに見ているんだから、察してやれよ」

 

「なんだろう、庇われているのは分かるんだけど釈然としない! ……めぐみん、その顔やめてくれる!? もういいさっ、あたしにはダクネスが……」

 

 助けを求めるようにガバッと隣に座っている親友に振り向くクリスだったが、そこにいたのは親友ではなかった。

 先程とは違う意味で頬を赤くしたダクネスは気まずそうに目を横に逸らしながらボソボソと……、

 

「すっ、すまないクリス。まさかそんな事を思っていたなんて……。ま、まぁあれだ、大き過ぎるというのも中々困る物だぞ?」

 

「うわーん!」

 

 ……俺達が言うのもなんだが、やり過ぎだろ。

 色んな意味で殺られたクリスはテーブルに突っ伏して泣き叫んでいた。

 貴族のお嬢様は無自覚に親友を傷つけたようです。

 貴族といえば、クリスはダクネスがダスティネス・フォード・ララティーナである事を知っているのだろうか。

 お互いがお互いを親友と豪語するほどの仲の彼女達だが……実際のところそれはどうなのだろう?

 今度さり気なく探ってみるか、とそう思った……

 ──その時。

 

「けっ、美女を侍らすとかいいご身分だなぁ!」

 

 酒場にそんな声が響き渡った。

 建物内がシーンとなり、先程までの賑やかさはそこには欠けらもない。

 ……ふむ、誰だろうそんな羨ましい人は。

 是非とも会ってソイツの腹に正義の(グー)を打ち込みたい。

 もしかしてミツルギが帰ってきたのかと思いながら発生源を見てみると、そこには一人の男が立っていた。

 その男は、街でも有名なチンピラ冒険者だった。

 髪は薄い金髪で、腰には長剣が鞘の中に入って腰に吊るされており、その顔は軽薄そうな笑みを浮かべている。

 そして酒を飲んでいるからか、顔が若干赤い。

 正真正銘のチンピラだ。

 うわぁー、関わりたくねーと思っているとそのチンピラはずんずんと此方のテーブルに近づいてくる。

 めぐみん達に知り合いかと目線で問うと全員が首を横に激しく振った。

 俺が『読唇術』スキルを取っている事を知っているめぐみんが口パクして、

 

『あんな人とは関わりたくもありません!』

 

 ……中々に毒を吐くめぐみん。

 仕方がない、ここは俺は相手をする事にしよう。

 

「なんだ、ええっと……」

 

「俺の名前はダスト! この街は俺様の支配地なんだ、魔王軍幹部を倒したからっていい気になるなよ!」

 

 そう言い、不敵な笑みを浮かべるチンピラ……もといダスト。

 話から察するに、この男は討伐戦に出ていなかったのだろうか……?

 

「なぁ、ダストは……──」

 

「ダスト様と呼べ!」

 

「……ダストは、討伐戦に出ていなかったのか?」

 

「ダスト様だ。……おうよ、俺のパーティーはここ最近王都にいたんだが……戻ってきたらビックリしたぜ! 何せ、何時の間にか魔王軍の幹部と戦っていたんだからな。お前らもそうだったろ?」

 

 そう言ってダストが後ろを振り向くとそこには彼の仲間が……彼の仲間が、…………いなかった。

 いや、チンピラの怪てふためく様子から、ついさっきまでは一緒にいたのだろう。

 となると、この建物内にそのお仲間さん達はいる事になるのだが……。

 じゃあ一体何処に……?

 独りになっている事に気づいたダストは先程までの勢いはなく……顔には汗を大量に流しながら、首を懸命に伸ばして辺りを見回している。

 そして俺の横では、

 

「『黒より黒く闇より暗き漆黒に──』……痛っ! ちょ、何をするんですかカズマ!? 今ならこのチンピラを爆裂できるのに!」

 

 堂々と殺人予告をしないで欲しい。

 大勢の人がいる中で爆裂魔法を放とうとするめぐみんを羽交い締めにし押さえ付けていると、……三人の男女がテーブルに近づいてきた。

 装備からして魔法使い職の女の子が代表してぺこりとお辞儀し、思わず俺達も釣られてしまう。

 

「はじめまして、私の名前はリーン。職業は〈ウィザード〉で、一応、ダストの仲間。それでこっちが……」

 

「俺の名前はキース。職業は〈アーチャー〉で、一応、ダストの仲間だ。それでこっちが……」

 

「俺の名前はテイラー。職業は〈クルセイダー〉で、一応、ダストの仲間だ。あと、このパーティーのリーダーの役割をしている」

 

 リーン、キース、テイラーの自己紹介を聞いた俺は、一応仲間発言にショックを受けている先輩冒険者に思わず同情してしまった。

 

「おい、俺達は仲間だよな!? だよな!?」

 

「「「あぁ、もちろん!」」」

 

 必死に仲間である事を確認するダストにリーン達は曇りの無いそれはとても明るい笑顔を……目を若干泳がせながら言うのであった。

 他人の俺が気づいているのだから、当事者であるダストが気がつかないはずがなく……。

 ……。

 フラフラとした足取りで俺達の隣のテーブルに不時着陸したのだった。

 憐れに思った優しい俺は、近くを通り掛かった馴染みになりつつある男性職員に声を掛け、シャワシャワを注文してやる。

 この世界にはしゅわしゅわなるものと、シャワシャワなるものが売られているのだが何が違うのだろう。

 職員によってすぐに運ばれたシャワシャワがダストに差し出された時、チンピラ冒険者は俺の事を神のような目で見て……

 

「これ、奢りか?」

 

 そうだと頷いてやればダストは涙を大量にポロポロと流し……──えっ?

 

「ありがとうございます、ありがとうございますっ! 金が無かったから何も買えなかったんです!」

 

 なんだろう、この男といると……凄く悲しくなってくるのだが。

 俺は悲しき男の肩に手を置いて、

 

「まぁ、アレだ。あんまり無駄使いはするなよ」

 

「ありがとうございますっ! ……さっきは悪かったな。改めて、俺の名前はダストだ。こうみえてもこの街ではかなり強いと自負している。なにか困った事があったら、遠慮なく俺の仲間を頼ってくれ。よし、行くぞお前ら! クエストが俺達を待ってるぜ!」

 

「いや、ちょっと待ってよダスト!? この季節は今強敵しかいないんだけど!? ……いやその前に、頼られるのにアンタは入ってないんだよね、その言い方だと! ……あと、そっちは出口だよ!?」

 

 ダストは格好よく──自分ではそう思っているのだろう──俺に笑い掛けてきた後、叫びながらギルドから出て行くのだった。

 そんな仲間を、突っ込みながら追いかけるリーン。

 口では強敵を倒す的な事を言っていたのだが、やはりそんな度胸は無かったらしい。

 流石はチンピラ。

 テイラーとキースも慌てて二人を追いかけようとするが、その前にテイラーが俺にエリス通貨を投げ渡してくる。

 確認すると、シャワシャワの金額だった。

 

「悪かったな……えぇと、名前は?」

 

「佐藤和真だ」

 

「そうか、……兎も角悪かった。ダストは自分より弱い冒険者に絡むのが悪い癖でな……」

 

「けど、そんなアイツも根っからの悪党じゃないんだ、多分。許してやってくれないか?」

 

「あぁうん、それはいいんだけど。じゃあ今度、何かのスキルを教えてくれよ」

 

「あぁ分かった。それじゃあな」

 

 こうして、俺とチンピラ冒険者、ダストとの初の邂逅は幕を閉じるのだった。

 そんな馬鹿な事を思いながらジュースをグビっと飲んでいると……めぐみんが不満そうな目で俺を見ている事に気づく。

 感情が少し昂っているのか、瞳の色が本当に少しだけ何時もより紅く輝いている。

 

「なんでシャワシャワを奢ったのですか?」

 

「なんでって言われても。ただ、ダストが気の毒だと思ったから」

 

「いや、それはおかしいですよカズマ! あなたは喧嘩を中途半端だったとはいえ売られたのですよ! そんな相手に普通奢りますか!?」

 

「いや、そうは言ってもなぁ」

 

「まぁまぁ、落ち着けめぐみん。……あのままいけば、カズマがダストと喧嘩になっていた可能性が高い。そうなったらダストが勝っていたのだぞ? 何せあの男は……非常に認め難いがこの街では上位に位置するほどの腕を持っているからな」

 

 そんな衝撃的な事を告げながらめぐみんを窘めるダクネス。

 めぐみんはダクネスの言葉に目を見開かせて、

 

「ちょっ、それは本当ですか!?」

 

「あぁ、本当だ。非常に、非常に認め難いがな……」

 

 そんな……と呟くめぐみん。

 実はというと、それは俺もそうだった。

 てっきりああいったチンピラは口だけで弱かったりするもんなんだが……。

 ダストとはこれから、仲良くやっていこう。

 落ち着きを取り戻しためぐみんが、それでも納得はしていないのか杖を持ってから席から立ち上がって、

 

「カズマ、今から爆裂魔法を撃ちに行きましょう。カズマが怪我しなかったのは素直に嬉しいですが、それでも我慢なりません! 適当な物を破壊したいのですが」

 

「それはいいけど、その前に話の続きだ。明日は迷宮に行くぞ」

 

「嫌です。……だって、私の存在価値皆無じゃないですか! 迷宮内だったら爆裂魔法は撃てないし、私は優秀な〈アークウィザード〉から一転、只の一般人にランクダウンしてしまいます!」

 

 自称「優秀な〈アークウィザード〉」発言はどう受け取ればいいのだろうか。

 しまいには席を立ち逃走を図ろうとしたのでその首根っこをガシッと捕まえ、……このなんちゃって紅魔族をどう懲らしめてやろうかと頭を捻っていると、俺達の会話を聞いていたクリスがガバッと顔を振り向かせる。

 な、何だ…………?

 

「ならカズマ、あたしと一緒に行かないかい?」

 

 そう提案してくるクリスに俺は、彼女の職業が〈盗賊〉である事を思い出した。

 クリスは聖人の行いを何時もしているから、ついつい彼女の本職を忘れてしまう。

 そうだ、クリスだったら問題ない。

 それに〈盗賊〉だったら、お宝が眠っているであろう迷宮で大活躍する事間違いない!

 しかも専用スキルの『潜伏』や『敵感知』スキルを取得しているから、かなり探索しやすくなるだろう。

 正直、とても有難い。

 本来ならめぐみんとは入り口で別れ、ある方法を試したいと思っていたのだが……なんという僥倖。

 

「頼むよクリス。明日一緒に行こう!」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい! カズマ達が迷宮に行くのなら、明日の私の付き添いは誰がするのですか!」

 

「ん、なら私がしよう。この時期だったら、雑魚モンスターは徘徊してないからな、何も装備していない私でもその任務は達成できるだろう。それに、爆裂魔法で生まれる爆風は凄まじいからな……その風をこの身に浴びると思うと……ゾクゾクする!」

 

 ドタンとテーブルを叩き、文句を言ってくるめぐみんだが、ダクネスがそう言ってやればそれなら文句がないとばかりに頷いた。

 最後、ドMの女騎士が何か言っていたが気の所為だと思いたい。

 ハァーと重いため息を吐くクリスを見て、俺は彼女が凄い苦労しているのだと色んな意味で察した。

 本当にダクネスを仲間に入れなくて良かったと思う。

 〈盗賊〉職の女の子は気分を変えるかの様に笑みを作って、

 

「それじゃあ、いってみよう!」

 

 意気揚々に、そんな台詞を言うのだった──。

 

 

 §

 

 

 昨日はその後クリスの手伝いという事で、子供達に勉強を教えていた。

 クリスの一日を借りるのだから、それを返す形である。

 気にしないでいいよ、と聖人は言っていたが暇で怠惰な生活を送るよりは何倍もいいってものだ。

 だが意外だったのは、めぐみんがそれに混じっていた事だろうか。

 いや、訂正しよう。

 驚いたのは、めぐみんが参加した事ではない。

 問題は、めぐみんの教え方にある。

 めぐみん曰く、彼女は紅魔族随一の天才らしい。

 何回か自分で名乗っていためぐみんだが、意外や意外、子供達に勉強を物凄く丁寧に、且つ分かりやすく教えていたのだ。

 得意そうにドヤ顔をするめぐみんだったが、今回に限っては尊敬の念が浮かび上がってくる。

 ……まぁ、俺としては爆裂魔法ではなく上級魔法を取って欲しいのだが。

 

 ──そして現在。

 

 俺とクリスの臨時パーティーは街から半日ほどかけて山を登り、その(ふもと)にある獣道を通っていた。

 季節はすっかり冬になり、雪が積もりあらゆる所から木の枝が生えていて、物凄く通りづらい。

 東北地方に住んでいる人達は本当に凄いとそんな感想を抱きながら……いったいどれだけ歩いただろう。

 唐突に出現したのは、かなり頑丈なログハウス。

 そして表札には、『避難所』とかなり適当な字で書かれていた。

 ログハウスから目を離し山の岩肌を見るとそこには、ぽっかりと空いた迷宮の入り口が。

 どうやら、入り口は天然だが内部はそうではないらしく中をそっと窺うとそこには階段があり、俺達冒険者を誘っている。

 この迷宮(ダンジョン)の名は、キールのダンジョン。

 俺とクリスは入り口前に立ち顔を見合わせ、そして記念すべき一歩を踏み入れ……

 ──ようとしたその時。

 クリスが笑みを浮かべて、

 

「いいかい、カズマ。今からあたし達はこのキールのダンジョンに入る訳だけど、私の事はクリス先輩って呼んでくれるかな? 私はキミの事を後輩君と呼ぶから!」

 

 そんな提案をしてくる。

 目をきらきらと輝かせてそんな事を言ってくるのだから、どう反応したらいいか分からない。

 まぁ確かに俺は迷宮探索については素人だから、あながち間違っていないか……。

 

「分かりました先輩」

 

 そうやって頷いてやれば先輩は興奮したように何度もうんうんと頷いて、

 

「後輩君、後輩君! もう一回、もう一回言ってくれるかな!」

 

「先輩」

 

「おぉ、いいねいいね! いやー、なんか凄くやる気が満ち溢れてくるよ! いいかい後輩君。キミは素人だからね、先輩であるあたしの指示に従うんだよ?」

 

 先輩の聞き心地が気に入ったらしい。

 心から楽しそうにそう告げてくるクリスを見ていると、なんだか俺も楽しくなってきた。

 俺はビシッと敬礼して。

 

「分かりました、先輩! 今日はお願いします!」

 

「あい分かった! それじゃあ、いってみよう!」

 

 こうして本当の意味で後輩と先輩の迷宮探索は始まるのだった。

 

 

 §

 

 

「そう言えば後輩君。キミは何でこの迷宮(ダンジョン)が『キールのダンジョン』と呼ばれているのか知っているかな?」

 

 迷宮入り口から続く階段をゆっくりと怪我しないように降りる中。

 二段程前にて階段を降っている先輩が前を向きながらそんな事を聞いてきた。

 

「いいえ、知りませんが……」

 

「ほぅほぅ。なら博識なあたしが教えてあげよう!」

 

 くるっと後ろを振り向き、両手を後頭部に当てながらそんな事を言ってくる先輩。

 ……どうして段を踏み外して落ちないんだろう。

 聞いて聞いてとその瞳は如実に訴えていた。

 俺は鈍感系主人公ではないのでその意図を汲んでやり、

 

「お断りします」

 

「……!?」

 

 クリスがどんな反応をするかとてつもなく気になったのでそう言ってやる。

 

「ほ、本当にいいのかい!?」

 

「はい、大丈夫ですよ。あぁ、だけど先輩がどうしても聞いて欲しいのなら、聞いてやらない事もありませんが……」

 

「キミって奴は! 」

 

「ククク。さぁどうしますか先輩──痛たたたた! ごめんなさい、調子に乗りました! 聞きますから! 聞きますから頬を引っ張らないで! 」

 

 猫のように逆襲してくる先輩に俺が悲鳴を聞き入れ、彼女は暫くした後手を頬から離してくれる。

 暗闇の中だから分からないが、俺の頬は今きっと赤くなっているに違いない。

 

「よし、それじゃあ話すよ。──昔昔のある所にキールと呼ばれる稀代(きだい)の〈アークウィザード〉が一人の貴族の娘さんに恋をしました。偶然街を散歩していたその娘さんに、それまで魔法の鍛錬しかしていなかった〈アークウィザード〉は一目惚れしたのです。………うーん、これ、どう思う? そもそも貴族の娘さんがそんな簡単に散歩できるのかな? 話の感じ、護衛もつけないでだよ?」

 

 早々に話を切り、そう尋ねてくるクリス。

 俺はというと、話脱線するのは早いなぁとある意味で驚いていた。

 けど、そうだなぁ。クリスが言う事は至極まともだと思う。

 ……思うのだが。それはあくまで一般論に過ぎない。

 俺は友人の王女と、ドMで変態の王家の懐刀を思い出し……半眼になりながらこう告げる。

 

「……まぁそこはアレですよ。気にしない方向で」

 

「ちょっと納得できないけど……まぁ分かったよ。──貴族の娘さんに恋をした男でしたが、しかし残念な事にその恋は実りません。何故なら、稀代の〈アークウィザード〉であっても男は平民。貴族と結婚できる筈が無かったのです。聡い男は撒いた種が決して実らない様に一心不乱に魔法の鍛錬をするのでした。……いや、そこは頑張ろうよキール! 男なら、強引にでも奪わないと! 全く、これだから今時の若者は!」

 

 おかしい。

 普通、そう言った感想は聞き手の俺が抱くはずなのだが……話し手が感じてしまっている。

 あと、今時の若者は俺達であって、キールは俺達の人生の先輩です。

 俺は呆れの目を送りながら、

 

「続きお願いします」

 

「ごめんなさい。──兎も角、長年に渡り魔法の鍛錬を一心不乱にし続けた男は何時しか、この国で最高の〈アークウィザード〉になっていました。彼は国に多大な貢献し、その活躍は民からとうとう王様にも知れ渡ります。王様は玉座で考えました。『そうだ、お礼に彼の願いを叶えよう!』と。……いやー、いい王様だねぇ。……後輩君、キミもそう思う……──ごめんなさい。続けるから私から離れないで! ──そして王都では、宴が催されたのです。王城に招かれた男は、王様のそんなありがたい言葉を聞き、熟考します。それは一秒か、十秒か、それとも一時間か……。長い、とても長い時間でした。暫く経った後、俯いていたキールは突如、静かにゆっくりと頭を上げてこう言うのでした。『王よ、私には願いがあります。それは、私の叶わなかった願い。しかし王。貴方様なら叶えてくださるでしょう! ……私が願うものは……──』……はい、お終い」

 

「いやちょっと待て! その後の展開は!?」

 

 あまりにも急展開すぎる昔話に俺が全力で突っ込み、その声が迷宮内に大きく響く中。

 

「ちょっ、静かに!」

 

 焦ったようなクリスの声に此処が迷宮だという事を思い出す。

 慌てて口を閉じ、『敵感知』スキルを使い敵が来ないか探るが……幸いにも、どうやら大丈夫らしい。

 フゥーと安堵の息を吐いた後、先輩盗賊が。

 

「後輩君、迷宮では大声禁止だよ?」

 

 そう注意してくる。

 腑に落ちない!

 

「いやいやいやいや、それは悪かったけれども。その後の話はないのか?」

 

「うーん、そうだねぇ。簡単に纏めると、男は願いに『貴族の娘さんをください』って言ったらしいよ。けど残念な事に、その娘さんは王様の妾でねぇ、当然叶えてくれる訳がない。でねでね、ここからが面白いところなんだけど……──その話は後にしようか。階段も降り終えちゃったからね」

 

 屈託なくそう笑みを送ってくるクリスは次の瞬間──表情を引き締めて得物が何時でも抜き出せるようにする。

 そうだ、ここからは本格的に迷宮だ。気を引き締めなければ。

 

「いいかい後輩君。この迷宮はあたし達からしたら簡単に踏破できるほどの格下迷宮。当然、アンデッドモンスター達は私達より弱いから充分に戦えるけど、それでも〈盗賊〉と〈冒険者〉だからね、基本は戦闘行為はなしで行くよ。ここまでで質問は……どうかした? 気分が悪い? それとも暗闇が怖い?」

 

 俺が先程から黙っている事に違和感を感じたのか先輩がそう心配してくれる。

 だがそうではない。

 俺は感動しているのだ。

 

 この冒険者っぽいやり取りに。

 

 俺はこの世界に転生してから、相棒になりつつあるめぐみんと共に、そこそこの数のクエストを達成してきた。

 だがそれは、何時もギリギリで正直何時死んでもおかしくなかったと思う。

 なので、新しい仲間がそろそろ切実に欲しい。

 ……めぐみんの知り合い紅魔族については、あの後どうなったんだろう。

 そんな事をふと思い出したが、今は至極どうでもいい。

 俺は今、過去最大級に感動しているのだ。

 しかも、限定的な相方は美少女であるクリス先輩である。

 これに胸が踊らない男はいないと思う。

 

「いや、大丈夫だ。それじゃあ指導お願いします!」

 

「うん分かった。……それじゃあ話を戻すけど、このキールのダンジョンは何度も言う通り私達からしたらそれはもう格下。あたし達がそうなんだがら、他の冒険者達もそう。当然、この迷宮は難易度の低さから沢山の冒険者達が此処を踏破しているから、宝箱は期待しないでね」

 

「了解!」

 

「うん、いい返事! ……そうい言えば、後輩君はどうやって迷宮を探索しようとしていたんだい? 聡いキミの事だから、めぐみんが言っていた危険性は分かっていたでしょ?」

 

「あぁ、その事ですか先輩。当然分かっていましたよ。めぐみんは行きと帰りの護衛みたいなものです。手強いモンスターと万が一遭遇したら、爆殺魔法を撃ってもらうつもりだったんですよ」

 

「なるほどねぇ。……となると、元々は一人で潜るつもりだったんだ?」

 

「えぇ、その通りです。俺には先輩から教わった沢山の『盗賊』スキルがありますから、それを駆使して潜ろうと思っていました」

 

「例えばどんな感じに?」

 

 興味深そうに俺の作戦を聞いてくる先輩。

 ところで、『暗視』スキルのお陰で俺は、暗闇の中でもクリスの顔が見る事ができる。

 それ故に、俺は俺の言葉を聞いて本職の〈盗賊〉がどういった反応をするのか見る事ができるのだが……正直、あまり言いたくない。

 いや、自分ではかなり良い案だと思っている。

 だけどなぁ…………。

 ジーッとこちらを凝視してくるクリスの顔に根負けして、俺は横にふいっと目を逸らしながら、

 

「実はこの前、ある〈アーチャー〉職の冒険者から、『千里眼』スキルを教えて貰ったんです。ほら、この前の魔王軍幹部討伐戦で逃げたからその謝罪をしたいと言ってきまして、教えて貰ったんですよね。『千里眼』スキルを取ったら、その派生スキルとして『暗視』が使えるようになります」

 

「ふむふむ。これは〈冒険者〉ならではのメリットだね。スキルポイントと要求ステータスがあればどんなスキルも取得する事ができる。それで暗い迷宮内だったら真価を発揮する『暗視』かぁ……」

 

 先輩盗賊は、へーと感嘆の息を吐いた。

 そう、それだけが〈冒険者〉の取り柄だ。

 

「はい。それで先輩から教わった『敵感知』と『潜伏』スキルの出番です。『敵感知』によってモンスターを早くから察知し、迂回する。もしできなくても俺には『潜伏』がありますから、壁にでも貼り付けばやり過ごす事ができると思ったんですよ」

 

 俺の案を最初は興奮した様に聞いていたクリスだったが……話を聞いていく事に微妙な顔になっていき、何とも形容しがたい顔で俺を見てくる。

 ……観念した俺は後頭部をぽりぽりと掻きながら横を向き、戦略的撤退をする事にした。

 

「後輩君。それは、その……やり方がこそ泥だと思うんだけど……」

 

「分かっているからそれ以上言わないでください」

 

 本職からしたら邪道にもほどがあるだろうに、キツく俺を糾弾しないのは、クリスの性質だと思う。

 正直、もし他の本職に言ったら思いっ切り殴られる気がする。

 と先輩盗賊が教え子を諭すように、

 

「あと『潜伏』は使っても意味ないよ? 何せ、迷宮にはアンデッドモンスターがうようよと潜んでいるからね。彼らは生者の生命力を目印にしてやって来るから……」

 

 それはいい事を聞いた。

 本当に先輩が来てくれて助かったなぁ。

 というか今更だが、何故彼女は俺の事を見る事ができるのだろう。

 

「質問いいですか? 俺はスキルがあるからこの暗闇でも先輩の顔が見えますが、スキルが無い先輩はどうして俺の事を見えるんですか?」

 

「あぁこれはね、魔道具の一つさ! これを使えば決められた時間内だったら、擬似的な『暗視』スキルを取得できるんだよ!」

 

「えっ、なんですかそれ。……いや、だったら、〈冒険者〉の価値って本当にない気が……」

 

 やはりというか、本当の意味で〈冒険者〉は最弱職だと認識させられた。

 ガーンと落ち込み絶望しているとそれを見兼ねたクリスが慌ててフォローしてくれる。

 

「とても高いからそんな僻まなくていいよ!」

 

「そんなに高いんですか?」

 

「そりゃあもちろんさ! こういった魔道具はそれこそ紅魔族じゃないと作れないから希少価値がとてもあるんだよ。確かこれは……四十万エリスだっけ」

 

 四十万エリス……!

 つまり俺は四十万エリスをクリスに使わせてしまったのだ。

 しかもこんな格下の迷宮で。

 赤字だ。

 大赤字だ……!

 

「本当にごめんなさい!」

 

「あぁっ、大丈夫だから頭を上げて!」

 

 そんなやり取りをしていると俺と先輩の『敵感知』に反応があった。

 先程までの賑やかな雰囲気は消え、緊迫とした雰囲気が俺達の周りに浮かび上がる。

 

「……そろそろ真面目にやろうか、後輩君。『敵感知』に反応している数は二つ。……どうする? 戦う?」

 

「いえ、止めときましょう」

 

「あれっ? あたしはてっきり戦うものだと思ってたんだけど……。ほ、本当にいいのかい?」

 

「はい、止めましょう。だって戦うの面倒臭いですし」

 

 欲望に忠実な俺は自らは決して戦わない。

 今回この迷宮に来た理由は、俺の先程の実験をする為が主な理由だ。

 しかしそれは、クリスとの会話で実現不可能だと既に判明してしまっている。

 本音を言うと、今すぐにでも帰りたい。

 帰りたいが、せっかくクリスが高価な魔道具を使ってくれたのだ。すぐに帰るのは余りにも申し訳ない。

 なので俺としては手短に最奥まで行き、帰ろうかと思っていたのだが……何やらクリスの琴線に触れてしまったらしい。

 先輩は鼻息を荒くしながら俺の元にズカズカと近づいて、

 

「いいかい、後輩君! キミは何をしに此処に来たんだい!?」

 

「迷宮探索をする為です」

 

「だろう!? なら、敵は排除しないと! それに、アンデッドだったら、浄化しなきゃ!」

 

「いや、浄化も何も浄化魔法使えるんですか? 先輩〈盗賊〉職でしょ? 〈プリースト〉とは真反対の職業なんですから無理だと思うんですが」

 

 そうだ、いくらクリスが聖人とはいえ〈盗賊〉である事に変わりはない。

 俺の正論に盗賊は居心地悪そうに目を逸らして、

 

「うぐっ、それはそうだけど。なら、『クリエイト・ウォーター』で弱らせようよ。それで殺ろう?」

 

「えー、そんなに戦いたいんですか?」

 

「もちろん。いいかい後輩君。アンデッドは人類の敵だよ? なら倒す事に越した事はないと思うんだ!」

 

 何がそんなに彼女を急き立てるのだろうか。

 ない胸を揺らし、ガシッと肩を掴み戦おうと催促してくる狂戦士に俺が仕方なく頷いてやれば──目を爛々と輝かせて自身の獲物である小振りなダガーを取り出した。

 そんな事を言ったら、モンスターも人類の敵という解釈になるのだが。

 俺が『クリエイト・ウォーター』の構えをし、敵を待つ中……そのモンスターは現れた。

 それは、二匹のアンデッドモンスターだった。

 武器を所持していない事から一番階級の低い身分である事が分かる。

  『潜伏』スキルで相手に気づかれないうちに奇襲をかけたいがアンデッドには効かないとの事なので俺は敵が魔法の射程圏内に入るまで待ち……

 ──次の瞬間。

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

「「……!?」」

 

 水を生成する初級魔法を使い、正面から突撃してくる敵に放ち、時間を稼ぐ事に成功する。

 剣を抜刀し、いざ戦おうと足を向けたら横から猛烈な勢いで加速する銀髪の少女が襲い掛かった。

 

「『バインド』ッ!」

 

 クリスがそのスキルの名を叫ぶと何処からかロープが出現し──多分、懐に忍ばせておいたのだろう──憐れなアンデッド達は絡み付かれ身動きが取れない。

 

「よし、後輩君! あたしのダガーに『クリエイト・ウォーター』を頂戴!」

 

 先輩の指示通りにしてダガーを水で濡らせば擬似的な『付与(エンチャント)』状態になり、アンデッド達に致命傷を与える事が可能になる。

 そしてクリスは嬉々としてダガーを振りかぶりアンデッドの身体を切り刻んでいく。

 切り刻んで、切り刻んで、切り刻んでいく。

 …………。

 俺がドン引きしている事にも気がつかないくらい熱中しているのか、最後に心臓を抉り、二人のアンデッド達は地面に伏したのだった。

 彼らに同情してしまう俺は間違っているのだろうか。

 なんだろう、凄い罪悪感が湧いてくる。

 

「いやー、ありがとね後輩君。キミのお陰で手っ取り早く倒す事ができ……──どうしたんだい? あたしから離れて……」

 

 ジワジワと恐怖で後ずさる俺をクリスはジリジリと歩み寄ってくる。

 俺が思う事はただ一つ。

 ……これからは、クリスとは迷宮に行かないようにしよう。

 

 

 ──戦闘を無事に終えた俺達は探索を開始する事に。

 これまで何度か敵モンスターと戦ったが二人とも無傷だ。

 しかし、戦った相手はアンデッドだけ。

 何故だろう。

 何か理由でもあるのだろうか。

 敵を斬殺する事に快感を得て、隣を歩くクリスが上機嫌なのかスキップしながら……それはもう楽しそうに朗らかに笑いながら、

 

「いやー、後輩君との冒険はとても楽しいね! 普段はあたし、ダクネスとパーティーを組んでるから、他の人と組むのは新鮮だなぁ。お世辞でもなんでもないけど、〈冒険者〉はかなり使えるね。というか、本職より上手くスキルを使っているんじゃないかな?」

 

 そんな嬉しい事を言ってくれる。

 ニマニマと頬が緩みかけ口がだらしなく開きそうになるが、流石に気持ち悪いと思い唇をキュッと結んでから、俺はずっと気になっていた質問をする事にした。

 

「いや、それは買い被りですよ先輩。というか、ダクネスとは一体どんな風に冒険してるんですか?」

 

 俺としてはそれが気になってしょうがない。

 ダクネスは以前の戦闘で覚醒し、物語の主人公補正を発揮させた訳だが……なんでも何時もは真逆との事。

 まず、『両手剣』スキルを取っているのにも関わらず攻撃が当たらない。

 いやそれ以前に、モンスターからの攻撃をその身に浴びたいので当てる気がない。

 そんななんちゃって〈クルセイダー〉とこれまで一体、どんな風に冒険してきたのか、非常に興味がある。

 クリスは先程までの明るい表情から一転、なんとも言えない微妙な顔を作って。

 

「ほら、ダクネスはあんな感じだからね。攻撃役は何時もあたしだよ。まずダクネスが専用スキル『デコイ』──簡単に説明すると、囮のスキルだね──を使って敵の注意を引きつけるんだ。その後はあたしの『潜伏』スキルを使っての奇襲かな。……ねぇ後輩君。どう思う? あたし〈盗賊〉だよ? 役割的には遊撃手だよ? なのに何でアタッカーの役割を担っているのかなぁ……。普通ここは、聖騎士であるダクネスがそうだと思うんだけどっ」

 

 中々に苦労しているようです。

 余程ストレスが溜まっているのか、息をつく暇もなく愚痴を零すクリスに俺は……彼女も人間なんだなぁと場違いな事を考えていた。

 聖人でもストレスはあるらしい。

 

「まぁそれ自体はいいんだよ。いや、よくはないけどっ。問題は、ダクネスが『バインド』で縛ってくれと言うんだよねぇ」

 

「ちょっ、そんな事したらモンスターの下敷きになるんじゃ」

 

「うん、普通だったら死ぬよ? けどさぁ、ダクネスはスキルポイントを殆ど防御系のスキルに割り当ててさぁ。この前止めてと頼んだよ? そしたらさ『クリス、これは仕方がない事なんだ。モンスターに踏み潰され、整備もされていない地面との間に挟まるのは中々に気持ちよくてなっ。……あぁっ、思い出しただけでも……んん!』って言われて。初めて人を殴りたいと思ったよ。……多分、めぐみんの爆裂魔法でも死なないんじゃないかな」

 

 何それ怖い。

 弱っていたとはいえ、魔王軍幹部の首無し騎士(デュラハン)を滅ぼすほどの威力がある爆裂魔法に耐えるとか、それはもう凄いを通り越してホラーなのだが。

 というか、そんなに不満があるのならパーティーを解散すればいいのに。

 そう提案したらクリスは一瞬考えるような素振りをしたが……首をゆっくり横に振って…………。

 

「けど、そんなダクネスでも根は優しくていい子だから。放っておけないよ」

 

 そう微笑を浮かべるのだった。

 あぁ、やっぱり聖人……いや、これはもう聖女ではないだろうか。

 日頃は孤児院の為に働き、仲間であるダクネスを信じるその姿勢。

 なのに何で〈盗賊〉なのか。

 この疑問は、多分未来永劫解けない気がする。

 そんな風に楽しく──しかし小声で──雑談しながら迷宮を潜っている事数時間後。

 俺達はとうとう、迷宮の奥深くまで到着する事ができた。

 ──正直、俺は迷宮を舐めていた。

 クリスと話しながら歩いていたから精神的な疲労はないが、それでも肉体的な疲労はかなりある。

 男の俺がそうなのだから、俺より身長が低く歩幅が小さいクリスはもっと疲れているだろう。

 

「よし、後輩君。ここがゴールだよ! 」

 

 俺は声を掛けてくれる先輩盗賊に。

 

「今回はありがとうございました、先輩」

 

 そう言いながら俺は頭を深く下げる。王城で身に付けた完璧な礼をすると、クリスはあわあわと慌てて手を振りながら……

 

「き、気にしないでいいよ! 丁度あたしも久し振りに潜ろうかなと思っていたから!」

 

 そう言ってもらえるととても助かる。

 そんな事を心の中で思っていると、突如クリスが手を高く上げた。

 …………?

 何をしてるんだと目で問いかけると、クリスは『暗視』を使わなくても分かるくらいに顔を赤くしながらさらに手を高く掲げて、

 

「ハイタッチだよ、ハイタッチ!」

 

「あぁなるほど」

 

「ダクネスと何時もやってるんだ。だからやろうよ!」

 

 ヤバい。

 この冒険者っぽいやり取りにどうしても胸が踊ってしまう俺は、おかしいのだろうか。

 自然と頬が緩んでしまう。

 俺の方が身長が高い為、少し屈む事になってしまったので少々不格好になったが、それでも興奮は止まらない。

 

 ──パチンと手を手とぶつかった音が迷宮にやけに大きく響いた気がした。

 

 こうして、俺とクリスの迷宮探索は大成功という形で幕を閉じるのだった。

 

 

 §

 

 

 出口に通じる長い階段を噛み締める様に登っていると、隣にいたクリスが朗らかに声を立てながら俺を見てきて、

 

「いやー! 本っ当に楽しかったよ!」

 

 そんな嬉しい事を言ってくれる。

 

「それは俺もですよ先輩。本当に、今日はありがとうございました」

 

「何度も言うけど、気にしないで。それより帰りは苦労をかけたね。あたしが擬似的な『暗視』を使えなくて、迷惑をかけちゃって……」

 

 そう。

 帰りの道程の半ば程で、クリスが使用していた魔道具の効果が切れてしまったのだ。

 だったらもう一度使えばいいじゃんと思うが、何でもその魔道具は一日に一回しか使えないそうな。

 そうなると、前を視る事ができるのは俺だけになってしまう。

 敵と戦う事になったら下手したら全滅していたかもしれないが、幸いにも遭遇する事はなかった。

 ……自分の幸運値に感謝したい。

 多分だが、行きの道中で立ちはだかった全てのアンデッドを俺達が倒したので、その影響でモンスターの数が減ってしまったからだと思う。

 詳細は分からないが、それでも幸運だったと思う。

 

「今度迷宮(ダンジョン)に行くんだったら声をかけてね? あたしも行くから! あっ、けどセクハラはなるべくしないで欲しいかなぁ」

 

「な、ななな何の事でしょうか先輩!?」

 

「めぐみんに言いつけるよ」

 

「すみませんでした」

 

 前が視えないクリスが何処か変なところに行かない様に手を繋いでいた俺達だが……どうやら俺のセクハラは看破されていたらしい。

 これからはもっと気をつけるとしよう。

 

 今回の探索は、かなり楽だった。

 

 というのも、クリスが殆どの敵を惨殺し、俺の出る幕がなかったからだ。

 普通なら片方だけに戦わせているので気が引けるのだが、戦闘狂はそれはもう楽しそうにアンデッドを倒していたのだから、俺にそんな念は湧いてこない。

 寧ろ、俺は彼女の豹変ぶりにドン引きしていた。

 だがしかし、実際クリスがいなかったら、これ以上に苦労したであろう事は一目瞭然。

 俺は心の底から楽しそうに笑う女の子の顔を直視する事ができず……

 

「あ、あぁ。次も、その、なんだ……よろしく頼む」

 

「うん! ……あっ、ところで話の続きを言ってなかったね」

 

「あっ、そうですよ。教えてください」

 

「分かったから、さり気なくを装ってお尻を触らないでもらえるかな!? キミ、反省してる!?」

 

「してますしてます」

 

「……まぁいいか。いや、よくはないけどっ。……それじゃあ言うね。……こほん。──キールの望み、それは『王の妾である貴族の娘さんを貰う事』。けどそれは叶えられません。アークウィザードは家に引き籠もりました。そして、迷いに迷った末、ある計画を考えついたのです。それは、『娘さんを攫う事』でした。当然、そんな事をすれば魔法使いは英雄から一転、反逆者に成り下がります。ですがキールはそれほどまでに娘さんを愛していたのです。……作戦は決行されました。幸い、国一番の〈アークウィザード〉でしたので、誘拐する事は簡単でした。キールは娘さんにこう言います。『あなたが好きだ』と。娘さんはその告白を受け入れ、二人は国相手に戦う事になったのです。沢山の追っ手から逃げた二人は──此処に迷宮を作ったそうです。数多くの騎士や勇者が乗り込みましたが、生きて帰ってくる者はおらず、『キールのダンジョン』という名前が国中に伝わり、その後二人がどうなったかは誰にも分かりません…………──はい、めでたしめでたし」

 

 昔話を聞いた俺が思う事はただ一つ。

 

 ──キールが凄くカッコイイんですけど!

 

 この世界の身分の差というものは非常に大きい。

 第一王女であるアイリスと俺は友達だが、それはハッキリ言って有り得ない事なのだ。

 何故なら俺は平民。

 普通なら、言葉すら交わしてはならないし、その姿を目視する事も許されない。

 実際、俺は数ヶ月前に王城を出る際、本気で別れだと思った。

 もう二度と会う事はないと思った。

 まぁ、そんな事は無かった訳だが……。

 アクセルに戻ったら、久し振りに友達に手紙を書くとしよう。

 俺の雰囲気が変わった事に気がついたのか、クリスはそれ以降話しかけてくる事はなかった。

 とてもありがたい。

 無言のまま階段を登っていると、何時の間にか夜になっていたのか、夜空が視界の端に映る。

 自然と登るスピードが速くなり──駆け足気味に登ると、とうとう俺達は外に出た。

 太陽はなく、空に浮かんでいるのは綺麗に真ん丸な満月。

 迷宮に来たのが昼を少し超えた辺りだったから、少なくとも五時間は潜って探索していたらしい。

 これは今日中に帰るのは不可能だなと考え、クリスに声をかけようと……

 ──した、その時。

 

「カズマ、クリスも無事ですか!?」

 

 そんな聞き慣れた声が聞こえた。

 そちらに目を向けると……そこにはめぐみんとダクネスがこちらに駆け寄ってくるではないか。

 いや、ちょっと待てよ…………?

 

「めぐみん、ダクネスも。どうして此処に?」

 

 そう聞くと、何故かめぐみんは顔を赤くして、目を上下左右に泳がした。

 ダクネスが代表して一歩前に出て、

 

「本当なら、めぐみんの爆裂日課に付き合う予定だったのだがな、いざ街を出ようとしたら急に迷宮に行きたいと言い出してな。カズマ、めぐみんは相当お前を心配していたのだぞ?」

 

「ちょっ、ダクネス!? それは言わない約束じゃ……!」

 

 あたふたと手を激しく振って抗議するめぐみんをダクネスは宥める。

 

「いやだって、カズマはついこの前死んだばかりではないですか……。それで、その、気になってしまって…………」

 

 顔全体を真っ赤っかにし、目が合うとめぐみんは顔を俯かせてしまった。

 そんな反応をされると何だか俺も恥ずかしくなってくる。

 そんな俺達の様子をニヤニヤとクリスが見て……

 

「いい仲間だね、カズマ」

 

 そう笑いかけてくる。

 それにからかいの色が混じっているから非難しようと思ったが、それはダクネスが口を開けた為にできなかった。

 

「何を他人事のように言っているんだクリス。めぐみんだけでなく、私も心配していたのだぞ? カズマ、アンデッド相手にクリスは暴れなかったか?」

 

「あぁ、それはもう暴れていたな」

 

「だろうな。クリスは普段は聖人に相応しい人物なのだがな、敵になると容赦が一切ないんだ。だから無理をしていないかとても心配でな…………」

 

「お前もいい仲間を持ってるじゃないか、クリス」

 

 そう言ってやればクリスは両手で顔を隠しながら、避難所であるログハウスの中に駆け込んで行った。

 それを追うようにして、苦笑しながらダクネスもログハウスの中に入る中、残されたのは俺とめぐみんだけ。

 

「よしっ、行くぞめぐみん。今日は避難所で野宿だ」

 

「……」

 

 めぐみんを呼んでも、彼女は返事しなかった。

 まだ恥ずかしがっているのだろうか。

 いや、俺としてはとても嬉しかったし、仲間として絆が深まったと思うから良かったのだが。

 というか、そろそろ寒い。

 軽装の俺とめぐみんでは、この冬空の下で何もしないで立っていたら風邪をひいてしまう。

 なので、そろそろあったかい室内に入りたいのだが……。

 俺の気持ちが通じたのか、やっとめぐみんはゆっくりと顔を上げて……

 

「あの、怒らないんですか?」

 

「怒るって、何を?」

 

「……私は自分が何もできないからって、荷物持ちもせずに迷宮探索を拒否した挙句、爆裂散歩を優先したのですよ?」

 

 えっ、何このシリアスな雰囲気。

 正直な話、めぐみんが断るのは想像できた。

 だからこそ俺は、一人でも迷宮に潜れるような作戦を考えたのだが……。

 その事を告げるとめぐみんは、

 

「いいえ、そうだとしても私はついて行くべきでしたっ。護衛の役割をしなければならなかったんですよっ」

 

「…………」

 

「カズマ、探索は成功しましたか?」

 

 いきなりの話題展開に面食らってしまうが、めぐみんの顔つきから察するにかなり重要な事らしい。

 俺があぁ、と声を出せば何故かめぐみんは悲しそうな顔になって。

 

「……そうですか。……。……クリスとの冒険は楽しかったですか?」

 

 ますます質問の意図が分からない。

 

「なぁ、さっきから一体……──」

 

「答えてくださいッ!」

 

「……まぁ、それなりには楽しかったよ」

 

「戦闘は? 楽にモンスターを倒せましたか?」

 

「……そうだな。と言っても、クリスが無双していただけだが」

 

 これで質問は終わりかと聞いてみれば、めぐみんは何も答えない。

 このままではいけない、そんな直感が俺にはあった。

 めぐみんに近づこうとしたその時、遅い俺達を心配したであろうダクネスがログハウスから出てきて、

 

「二人とも、こんな寒天化の下にいたら風邪を引いてしまうぞ? ……? どうした二人とも?」

 

 ダクネスが異変に目敏く気がつき戸惑いの声を上げ、俺が取り敢えず何か言おうとした……

 ──その時。

 

「あっ、すみませんダクネス! ……カズマも行きましょうか」

 

 先程とは一転し、そこには何時も通りのめぐみんがいた。

 その言葉を残してめぐみんは先にログハウスに入ってしまう。

 ダクネスが怪訝な表情を俺に見せ、

 

「何かあったのか?」

 

 そう聞いてくるが、俺はその問いに答えられなかった。

 いやそれ以前に、答えては駄目な気がする。

 これはきっと、俺達のパーティーだけの問題だ。

 だからこそ俺は、

 

「いや、なんでもないよ」

 

 そう言うしかなかった。

 








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