このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
<< 前の話 次の話 >>

2 / 43
王女様

 

 俺の名前は佐藤和真。

 世界転生をした俺は気づけば、何処かの建物の中にいた。

 というか、暗い。

 近くに光源となる物がないせいで、何も見る事ができないので俺は、辺りを散策してみる事にした。

 取り敢えず手を出して何かないのかと探してみるが、期待に添えず何も触れる事が出来なかった。

 ……これは困ったな。

 よし、ここは誰か人を呼んで事情を話して助けてもらおう。

 

「すみませーん! 誰かいませんかー!?」

 

 声を出す事数秒後、何やら遠くの方からドタバタと物音が聞こえてきた。

 きっと救助隊の人達だろう。

 助かった、これでここから脱出できる。

 さぁ、俺の異世界生活の始まりだ!

 そう思って今か今かと助けを待つ事数秒、突然視界が真っ白に染まった!

 

「いやぁ、助けてくれてありがとうござい……──」

 

「──黙れ!!」

 

 そんな声と同時に首筋に何やら冷たいものが当てられた。

 こ、これはもしかして……。

 嫌な予感がするなか意を決して恐る恐る目を開けるとそこには──

 

 ──剣や槍をこちらに向けて警戒している騎士達がいた。

 

「……え?」

 

「動くな! 貴様何者だ!! どうやってこの王城に入った!」

 

 ……どうやら俺がいた場所は王城の一室だったらしい。

 

 

 §

 

 

「だから、何度も言ってるじゃないですか! 気づいたら俺はあそこにいて、俺だって何が何だが分からないんです!!」

 

「そんな訳あるか! 貴様がいた場所はな、王城だぞ!何故貴様がそんな場所にいるのだ!?」

 

 現在、俺は白いスーツを着ている金髪巨乳の女性から取り調べを受けている。

 だが、俺の話を全然信じてくれやしない。

 そもそもの話、ここにいるのは俺の意思ではなくあの駄女神のせいなのだが。

 

「貴様がしらを切ると言うのなら、こちらにも考えがある。……誰か魔道具を持ってこい! それと、部屋には私とこの男だけにしてくれ」

 

「クレア様、しかしそれは危険です!」

 

「心配は無用だ。コイツは現在武器を持っていない。こんな弱そうな奴、私だけでも大丈夫だ。それより貴殿達には外の警備をお願いしたい。仲間がいるかもしれないからな」

 

 部屋に残されたのは俺とこのクレアと呼ばれた女性だけになったのだが、お互い何も話さない。

 というか、話せない。

 さっき話していた魔道具と呼ばれるものが必要のようだ。

 数分後。

 机の上にはある騎士が持ってきた魔道具が置かれている。

 見た目的には完全に玩具(おもちゃ)なのだが……。

 

「どうした、まさかこれを見た事がないのか?」

 

「あっ、はい。そうです」

 

「なら教えてやろう。これはだな、嘘を見抜く魔道具だ」

 

 ……嘘を見抜く、だって!?

 何それ、異世界にはそんな物があるのか。

 これが地球にあったら裁判では重宝され、冤罪が減るに違いない。

 俺がその異世界らしさに感動していると……──

 

「もし貴様が嘘をついているのならベルが鳴る仕組みだ。一つでも嘘があった場合貴様は死刑になるのでそのつもりで」

 

「……。……はっ、死刑だって!?」

 

「当たり前だ。ここは王城、寧ろ問答無用で殺さないだけありがたいと思え」

 

 ぐぬぬ…………。

 コイツ、言いたい放題言いやがって……!

 だが待てよ?

 逆に俺が嘘をつかなければいいだけだ。

 勝利を確信し自然と頬が緩むなか、白スーツは俺を怪訝そうに見る。

 

「貴様、何故この状況で笑っていられる?」

 

「くっくっ、まぁ良いじゃないか。さぁ、質問をすればいいさ」

 

「……? まぁいい。貴様の名前、年齢、及び出身地を答えてもらおう」

 

「俺の名前は佐藤和真。年は十六。出身は、日本だ」

 

「ニホン? そんな国聞いた事もないぞ。…しかし、ベルは鳴っていないか。よし、次だ。職業は?」

 

「学生……──」

 

  チリーン

 

 その瞬間、クレアが俺を外に引っ張り出そうとするので、それに懸命に逆らいながら何故だと脳内で問う。

 ……何でも、この魔道具は嘘を見抜くのだとか。

 も、もしかして……。

 

「学生兼引き籠り……──」

 

 チリーン

 

 ……。

 

「学生兼引き籠り兼ニートです」

 

 引き籠り、ニート、という言葉を聞いた時クレアは一瞬複雑そうな顔をするが魔道具を見る。

 だが何も鳴らない。

 当然だ、悲しい事だが事実なのだから。

 再び席に腰を下ろした俺達な訳だが、これは本格的にヤバいと感じる。

 

「……ふむ、どうやら本当のようだ。では、これが最後の質問だ。貴様、何故あの場にいた?」

 

「だーかーらー! 俺だって分からないって言ってるでしょ! 逆に、俺だって聞きたいですよ!」

 

 叫んでその言葉を言った瞬間、クレアは魔道具の方をじっと見つめる。

 だが何も鳴らない。

 彼女は信じられないとばかりに頭を振り、質問が悪かったのかと呟いている。

 

「……で、では貴様は魔王軍の手の者か?」

 

「いいえ、違います」

 

「王族を殺しに来たのか?」

 

「いいえ、違います」

 

「そんな、馬鹿な事が……」

 

「これで俺が無実だと分かったか?」

 

 クレアは数秒考え込んでいたが、やがて頭を深く下げた。

 

「すまなかった、貴様は──いいえ、貴方は無実です。……貴方があそこにいた理由は分かりませんが、少なくともあなたの意思ではないでしょう。第三者が関係しているかは分かりませんが、貴方はそれに巻き込まれた被害者です。あらぬ疑いをかけて本当にすみませんでした」

 

 取り敢えず自分の命を守れたので安心すると、次第に腹立たしさが湧き起こってきた。

 少しくらいは意趣返ししてもいい筈だ。

 

「いやーもう! 本当にびっくりですわ! ……助けを呼んだだけなのに? 問答無用で犯罪者扱いされて? 全く、もう少し落ち着いた方がいいんじゃないですかねぇ!?」

 

「……それに関しては最早何も言えまい。貴方には謝礼金を渡したいと思う」

 

 謝礼金だと!?

 それは単純に嬉しい。嬉しいのだが。

 当然だが俺はこの世界の常識や法律は知らない。

 必然的に、お金の価値も分からない。

 ……これは、機会(チャンス)だと思う。

 

「いや、謝礼金はいいからこの世界について教えてくれると助かる。どうやら記憶が曖昧でね、知らないうちに犯罪を犯すかもしれないだろ? だから俺としてはそういった事を代わりにしてもらえると嬉しいんだけど…」

 

「……記憶がない何て、そんな事が。けれど、魔道具は何も鳴らないし……。分かった、罪滅ぼしと言っては何だがやらせてくれ」

 

「あぁ、頼むよ」

 

 いや、記憶が無いわけではないのだが。

 けどまぁ、その方が都合が良いだろう。

 こうして俺は無事に釈放されてしばらく王城で過ごす事になった。

 

 

 

 §

 

 

 

 俺が取調室から手錠もされずに出てきたので警備をしていた騎士達は驚いていたがクレアの一言によって納得し、自分の職務に戻っていった。

 クレアに案内される傍ら、俺は道を少しでも覚えようと辺りを見回し脳に刻んでいると、いつの間にか大きな部屋の前にたどり着いた。

 かなりでかい部屋だ。

 少なくとも、前世の俺の私室より三倍はあるだろう。

 

「此処ならどうだろうか。この部屋は見ての通りそこそこ室内が広く、テラスから見る景色は中々に絶景だから、貴方も気に入ると思う」

 

「はい、この部屋で大丈夫です」

 

「そうか、それでは私は任務があるのでこれで失礼する。もし何かあったらメイドを残しておくから遠慮なく言ってほしい」

 

 そう言ってクレアは部屋から立ち去った。

 俺はこれ幸いとふかふかのベッドにダイブしてごろごろと寝転がりながら今後の予定を考えていた。

 これからどうしよう。

 しばらくはこの王城で過ごす事が出来るが、それも精々一週間くらいだけだ。

 その後は完全な無一文なのだから、今のうちに考えないと……。

 

「ヤバイな、このままだとそこら辺で野垂れ死ぬ未来が簡単に思い浮かぶぞ……」

 

 頭を悩ませる事数分後。

 メイドさんが食事を運んで来てくれたのでそれを見てみると……

 

「……何でキャベツが跳ねてんの?」

 

 ……そこには、ペチペチと音を鳴らしながら生きている野菜がいた。

 いや待て、これはおかしすぎるだろ。

 俺が驚愕しているなかメイドさんが──名前をリーシャンというらしい──怪訝そうな表情を浮かべながら首を傾げた。

 

「何で、と言われましても? キャベツはこのような野菜でしょう?」

 

「……マジか」

 

 これが異世界との文化の差なのか?

 恐る恐るフォークをキャベツの葉に刺し口に運ぶと……──。

 あまりの美味しさに涙が出そうになった。

 

「キャベツなのに、美味しい!」

 

 こんな美味しいキャベツを食べたのは初めてなのだが、何故かすごく悔しくなってくる。

 

「なぁ、リーシャンさん。明日からの予定とか聞いてますか?」

 

「はい、聞いていますよ。それとカズマ様、カズマ様は大切なお客様なのですから、タメ口で構いません」

 

「分かった。それじゃあ、リーシャン。教えてくれ」

 

「はい、分かりました。明日の予定ですが、まず朝ですが食堂で朝食を取っていただきます。……そして、これが一番重要なのですが──」

 

「……? 何かあるのか?」

 

「──アイリス様と会食していただきます」

 

 …………誰?

 

「誰ですか?」

 

「この国の第一王女様です」

 

「……。……はぁああああ!?」

 

「申し訳ございませんが、これは決定事項なのです。カズマ様を一旦取調室に連行する際、王城内はとても騒ぎにました。賊が来たのかと当然判断しましたので、これまた当然ですが現在最も身分が高いアイリス様に報告しなければなりません。そしたら、アイリス様がカズマ様と話をしたいと言い出しまして……」

 

「いやいやいやいや、それはちょっとないんじゃないですか?」

 

「しかしながら、どちらにしろカズマ様はアイリス様とこの国で勉強しなければならないのです。二人いっぺんの方が効率がいいので……」

 

 それを言われると何も言う事が出来ない。

 ……お姫様かぁ。

 会って話してみたいという欲求はかなりある。

 けどなぁ。

 今、何も知らない状況でそんな人と会うだ何て……。

 俺はため息をつきながら。

 

「分かった。クレアさんにもそう言ってくれ」

 

「申し訳ございません。……それではこれで失礼します」

 

 そう言い残し、部屋から立ち去るリーシャンを見送った後俺は明日に備えて寝る事にした。

 

 

 

 §

 

 

 

 そして現在。

 俺の斜め前の向かいの席にはお姫様が座っていた。

 金髪のセミロングに、輝いている碧眼。

 気品が感じられながらも、どこか儚げな印象を与える少女がそこにはいた。

 両隣にはクレアと全身を黒ローブで身にまとっている女性がいる。

 俺はそんな彼女達を遠くから眺めながら朝食を取っていた。

 というか、そうでもしないとい心地の悪さで吐きそうだ。

 昨日リーシャンからは食堂と言われていたが……やはり王城だからか、俺の予想とは真反対なものだった。

 一個の長方形ロングテーブルが部屋の中央に置かれており、ズラリと椅子が並べられている。

 どうやら、一人一人座る席は決められているらしい。

 その証拠に、現在俺が座っている席は他のに比べると物が悪い。

 そんな事を考えていると。

 

「誰だあの男は?」

 

「何でも、気づいたらここにいたらしい。その証拠に、嘘を見抜く魔道具が何も反応しなかったそうだ」

 

「なるほど。……しかしまぁ、平凡な男だな」

 

「本当にそうだな」

 

「というか、平凡過ぎてつまらんな」

 

 貴族の方々、そういった話は本人がいない時にしてください。

 まぁ、殆ど合ってるんですけどね!

 そもそも、俺がいるのはお姫様の要望であるのだが……見たところ話をするのは無理なようだ。

 鬱憤晴らしの為に高そうな肉を口に運んでいると、クレアが席を立ちこちらに近づいてきた。

 

「他の貴族達がすまない、カズマ殿」

 

「いや、いいですけど。……俺としては早く授業を受けたいです」

 

 そして早く、異世界生活を楽しくおくりたい。

 

「分かっている。それと一応忠告ですが、授業を受けるに当たってはアイリス様と同席しますが、くれぐれも口に気をつけてくださいね。もし、何か粗相をするようであるならば……──」

 

「──であるならば?」

 

 ごくりと喉を鳴らして恐る恐る尋ねると…クレアは首を掻く動作をした。

 何それ怖い。

 だが落ち着け、落ち着くんだ。

 俺の名前は佐藤和真。

 冷静に物事を進める事が出来る男だ。

 

「はい、分かりました。気をつけます」

 

 真顔で何度も頷く俺を見てクレアは満足そうに頷いた。

 

 

 

 §

 

 

 

 王城の中の、とある一室の中。

 この部屋の中にいるのは俺と、クレアと、朝食の場で見かけた黒ローブの女性、そしてお姫様だった。

 

「アイリス様、この男性が(くだん)の男です」

 

 クレアが俺を紹介するのだが、話しかけられているお姫様は一ミリたりとも動きはしない。

 まるで石像のようだ。

 可愛くないなーと思っていると、黒ローブの女性が、

 

「はじめまして、サトウカズマ様。私の名前はレインです。アイリス様の教育係兼護衛を国王様から任されております」

 

「こちらこそ数日の間よろしくお願いします、レインさん」

 

 と、自己紹介をしているととうとう授業を受ける事になった。

 しかしまさか、異世界に来て最初にやる事が勉強だとは思わなかった。

 この世界での一般常識をレインさんが懇切丁寧に教えてくれるのでありがたい。

 俺が引き籠り兼ニートだと知っている白スーツが授業を真面目に受けている俺を見て何やら驚いているようだが、そんなの無視だ。

 別に俺は、勉強が嫌いな訳ではない。

 いやもちろん、好きでもないのだが……。

 俺が学校に行かなくなったのはマナリア海峡より深い理由があるのだが今は思い出すのを止めておこう。

 

「この世界は現在、魔王軍の進行を受けています。特にこの国は魔王軍の根城がすぐ隣にあるせいでその被害は大きいです。数年前までは人類滅亡カウントダウン一歩手前でしたが、勇者候補と呼ばれる方々がどこからか来て、何とか両軍は均衡を保っています。アイリス様、カズマ様、何か質問はありますか?」

 

 お姫様が無言で首を横に振るなか、俺は思いっ切り手を伸ばして、

 

「質問何ですが、何で王都は無事何ですか? 聞いた限りだと、王都はかなり危ない位置にあるって事ですよね?」

 

「あぁ、それでしたら簡単です。ここ王都は最前線でもあるのですよ。なので、魔王軍が来たとしても勇者候補の方達や、統制のとれた軍がすぐに撃退します」

 

 そんな風にレインさんの説明を受けながらも、俺は次の疑問が浮かんだ。

 

「魔王軍が攻めてくるって事はその逆は出来ないんですか?」

 

「いい質問ですね、カズマ様。敵大将……魔王がいるのは当然魔王城な訳ですが、魔王城には結界が貼られており侵入する事すら出来ないのです。結界を解くためには魔王軍幹部を倒さなくてはならないと伝えられています」

 

「ちなみに、その魔王軍幹部ってどれくらい強いんですか?」

 

 それに答えたのは、今まで沈黙していたせいで影が薄くなっていた白スーツだった。

 

「一般的に、魔王軍幹部の実力は未知数だ。というのも、多くの冒険者や軍が奴らと戦ったのだが、全員あっさりと死んだからだ。中には当然、勇者候補もいたのだが……」

 

「マジかよ……」

 

 何それ怖い。

 俺の異世界生活はまだ始まってすらいないのだが、敵の情報を無駄に知りすぎたせいか俺のやる気はどんどん落ちていった。

 俺が目に見えて意気消沈しているせいで部屋がシーンと静まるが、どこからか鐘の音が聞こえる。

 

「すみません、この鐘の音は?」

 

「この音は休憩時間を告げる音だ。修練をしている騎士や仕事をしている貴族、メイドや執事達が決められた時間までは自由に過ごす事ができる。カズマ殿も常識の範囲内なら好きに王城を探索しても構わない。……それでは、アイリス様。私とレインは失礼します」

 

 そう言い残し、二人は勉強室から出ていった。

 いや、ちょっと待とうか。

 王女様を守る責務とか、そういった仕事はないのか。

 そんな俺の脳内突っ込みはスルーされ。

 部屋に残されたのは、俺とお姫様だけになってしまった。

 声をかけようにもクレアに怒られる気がするし、そもそも可愛げのない女の子と話すくらいだったら借りている部屋で寛いだ方がマシだ。

 俺が無言で立ち上がり、部屋から出ようとした時、服の袖を掴まれた。

 掴んでいるのは、未だに表情を崩す事なく無表情なお姫様。

 突然だが。

 レインさんからの授業によると、王族は強い人が多いらしい。

 その理由は王族が先祖代々強い人と結婚し、遺伝子がそうさせるのだそうな。

 最初は自然を装って無視をしようかなー、と思っていたのだがらジャージを掴む手は年頃の女の子とは考えられないほど強い。

 こ、コイツ……!

 俺が歯噛みするなか、事の元凶であるお姫様は小さな声で一言。

 

「……話をしてくれませんか?」

 

 上目遣いにそんな事を言われたら断る事なんできないじゃないか。

 

 

 

 §

 

 

 

「それでは、その……名前を聞かせてください」

 

 よし、ここは落ち着くんだ。

 さっきはあの怖い白スーツに脅迫されたからな、慎重に、丁寧に挨拶しよう。

 

「はじめまして、私の名前は佐藤かずゅみゃ……──」

 

「……」

 

 慣れない言葉を使ったので、舌を噛んでしまった。

 耳を赤くして恥ずかしくなっていると。

 お姫様はそんな俺を見るとくすくす小さく笑って、

 

「さっきから思っていたのですが、二人きりの時は友人と話すように言葉を話してもいいです、クレアやレインには私から言っときますから。それと私の事もアイリスと呼んで構いません」

 

 そんな提案をしてきてくれる。

 

「そうか、それは正直助かるよ。よろしくなアイリス」

 

「はい、カズマ様。ところで、早速話があるのですが」

 

「……? あぁ、そう言えばそんな事をリーシャンが言ってたな」

 

「はいそうなのです。申し訳ございませんでした。私の方から会食をしたいと申し出たのに何もできず…」

 

 頭を下げて謝ってくるアイリスを見ていると、何だろう、すごい罪悪感が湧き上がってくる。

 

「いや大丈夫だよ。それで、話って?」

 

「……外の世界は、どうなっているのですか?」

 

 ふむ、外の世界か。

 きっとアイリスが指しているのは王城の外の様子だろう。

 だが生憎俺はつい昨日異世界に来たばかりなので当然何も知らない。

 

「あー、悪いな。俺、ちょっと記憶があやふやでさ、覚えてる事が何も無いんだよ」

 

「そうなのですか!? すみません、そのような事も知らずに聞いてしまって……」

 

 そう言って落ち込み始めるアイリス。

 俺は慌てて何か話のネタになる事はないかと考え、一つのアイデアを思い浮かべた。

 

「ま、まぁ俺もしばらくしたらここから出ていくから、もし次会うような事があったら話すよ。…それよりさ、何か遊ばないか?」

 

 前半の話は恐らく無理だろうが、俺はわざとらしく明るい声でアイリスを誘った。

 その言葉にアイリスは笑顔を浮かべ、

 

「本当ですか!? 」

 

「……? 本当だけど、それがどうかしたか?」

 

「実はですね、城にいる方達は私に気を遣ってか誰も相手をしてくれなかったのです。なのでとても嬉しいです!」

 

「そうか、なら良かったよ。あっ、けどその前に一回だけルールを教えてくれないか?」

 

「ルール付きの遊びですか……。そうですね、記憶を失っている人に勝っても嬉しくないですし……勝つなら公平じゃないといけませんから!」

 

 その言葉にかちんときたのは仕方がないだろう。

 何せ、こちとら昨日の朝までは学生兼引き籠り兼ニートのゲーマーだったのだ。

 相手が一国の王女様とはいえ、容赦はしない。

 

「まぁ言ってろよ。言っとくが、俺は接待プレイ何てしないからな? 本気でこいよ?」

 

「臨むところです!」

 

 そう言ってアイリスが勉強部屋から飛び出し、戻ってくるまでに五分とかからなかった。

 

「これ何てどうでしょう? このボードゲームは世界的に有名なのですが……」

 

「それでいいよ。じゃあ机を合わせてその上でやろうか」

 

 そう言って机の上にボードを置き、その上にアイリスの指示通りに駒を置く。

 配置的にチェスのそれは、一見普通のボードゲームだと思った。

 俺がその考えが見当はずれだと気づくのは、数分後である。

 

 

 

 §

 

 

 

「だぁー、クソっ! また負けたぁ!!」

 

「その、カズマ様? カズマ様はこのゲームを知ってからまだ一日も経っていないのですし、それは当たり前かと……」

 

「違う、違うんだよアイリス! 俺が怒ってるのはそこじゃないんだ! 何で『エクスプロージョン』とかそんなチートがあるんだよ! おかしいだろ! どんなに追い詰めてもそれを使えばいいだけじゃないか!」

 

「しかし、そんな事を言われましてもルールですから……」

 

「というか、アイリス容赦なさすぎ! あれか、初心者いじめか!?」

 

「え、えぇえええええ!? 本気でこいって言ったのはカズマ様じゃないですか!」

 

 言ったけども!

 だがそれは冗談だと気づかないだろうか。

 俺がみっともなく叫んでアイリスを非難していると──後ろから何やら冷たいものが首筋に当てられる。

 あっ、これはヤバイですね、分かります。

 

「ほぉ、何やら楽しそうじゃないですか、カズマ殿?」

 

 恐る恐るその声を主を見るとそこには、こめかみに青筋を浮かべたクレアがいた。

 俺がその後被害を被ったのは言うまでもない。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。