このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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王女様

 

 俺の名前は佐藤和真。

 世界転生をした俺は気付けば、何処かの建物の中に居た。

 ……というか、暗い。

 近くに光源となるものが無いせいで、何も見る事が出来ない。なので俺は辺りを散策してみる事にした。

 取り敢えず手を出して何かないのかと探してみるが、期待に添えず何も触れる事が出来ない。

 ……これは困ったな。

 よし、ここは誰か人を呼んで事情を話して助けて貰うとするか。

 

「すみませーん! 誰かいませんかー!?」

 

 声を張り上げる事数秒後、遠くの方からドタバタと物音が反響してきた。

 きっと救助隊の人達だろう。

 助かった! これで此処から脱出出来る。

 さあ、俺の異世界生活の始まりだ!

 そう思って今か今かと助けを待ち侘び──突然視界が真っ白に染まった!

 

「いやぁ、助けてくれてありがとうござい──」

 

「黙れッ!」

 

 そんな声と同時に首筋に何やら冷たい物が当てられる。これはあれだ、漫画やゲーム、アニメの展開であるヤツだ。

 嫌な予感がする中、意を決して恐る恐る目を開けるとそこには──

 

 ──剣や槍をこちらに向けて敵対心剥き出しの騎士達が俺の八方を塞いでいた。

 

「……え?」

 

「動くな! 貴様何者だ! どうやってこの王城に入った!」

 

 ……どうやら俺がいた場所はとある王城の、とある一室だったらしい。

 

 

 

 

§

 

 

 

「だから、何度も言ってるじゃないですか! 気付いたら俺はあそこにいて、俺だって何がなんだが分からないんですって!」

 

「そんなわけあるか! 貴様が居た場所は王城だぞ!何故貴様がそんな場所に居たのだ!?」

 

 俺は現在、白いスーツを着ている金髪巨乳の女性から取り調べを受けている。

 けれど彼女は俺の話を全然信じてくれやしない。

 そもそもの話、ここにいるのは俺の意思ではなくあの駄女神のせいだと声を大にして言いたい。

 

「貴様が白を切ると言うのならこちらにも考えがある。……誰か魔道具を持ってこい! それと、部屋には私とこの男だけにしてくれ」

 

「クレア様、しかしそれは危険です!」

 

「心配は無用だ。こいつは現在武器を持っていない。こんな弱そうな奴、私だけでも大丈夫だ。それより貴殿達には外の警備をお願いしたい。仲間が居るかもしれないからな」

 

 随分な言い草だな。

 部屋に残されたのは俺とこのクレアと呼ばれた女性だけになったのだが、お互い何も話さない。

 というか、話せない。

 さっき話していた魔道具と呼ばれるものが必要らしい。せっかく現世から夢見ていた異性との交流なのに、これっぽっちもときめかないのはどうしてだろう。

 

 ──数分後。

 

 机の上にはある騎士が持ってきた魔道具が置かれている。

 見た目的には完全に玩具(おもちゃ)なのだが……。

 

「どうした、まさかこれを見た事がないのか?」

 

 白スーツが俺の反応を見て不思議そうに尋ねてくる。ここは素直に答えるのが吉だな。

 

「あっ、はい。そうです」

 

「珍しい事もあるものだ。……なら教えてやろう。これはだな、嘘を見抜く魔道具だ」

 

 ……嘘を見抜く、だって!?

 なにそれ、異世界にはそんな物があるのか。

 これが地球にあったら裁判では重宝され、冤罪が減るに違いない。

 俺がその異世界らしさに感動していると……。

 

「もし貴様が嘘をついているのならベルが鳴る仕組みだ。一つでも嘘があった場合貴様は問答無用で死刑になるのでそのつもりで」

 

「……すみません、今なんて?」

 

「死刑だと言ったんだが」

 

「…………はああああああああ!?」

 

「当たり前だ。ここは王城、むしろ問答無用で殺さないだけありがたいと思え」

 

 ぐぬぬ…………。

 こいつ、言いたい放題言いやがって……!

 いや、待てよ?

 逆に俺が嘘をつかなければいいだけなんじゃ……?

 そもそも俺は別段犯罪行為は意図的にはやっていないし、十分に情状酌量の余地があると思う。

 俺が勝利を確信し自然と頬が緩む中、白スーツは俺を怪訝そうに一瞥する。

 

「貴様、何故この状況で笑っていられる?」

 

「くっくっ、まあ良いじゃないか。さあ、質問をすればいいさ。嘘はつかないと神に誓おう!」

 

「……? まあいい。──まず最初に貴様の名前、年齢、及び出身地を答えてもらおう」

 

「俺の名前は佐藤和真。歳は十六。出身は日本だ」

 

「ニホン? そんな国聞いた事もないぞ。…しかし、ベルは鳴っていないか。よし次だ。職業は?」

 

「学生──」

 

 チリーン

 

 その瞬間、クレアが俺を外に引っ張り出そうとするので、それに懸命に逆らいながら何故だと脳内で問う。

 ……なんでも、この魔道具は嘘を見抜くのだとか。

 も、もしかして……。

 

「学生兼引きこもり──」

 

 チリーン

 

 ……。

 

「学生兼引きこもり兼ニートです」

 

 引きこもり、ニート、という言葉を聞いた時クレアは一瞬複雑そうな顔をするが魔道具を見る。

 しかし何も鳴らない。完全なる静寂だ。

 当然だ……悲しい事だが事実なのだから。

 再び席に腰を下ろした俺達なわけだが、これは本格的にヤバい。

 

「……ふむ、まあ色々と言いたいが……どうやら本当のようだ。──これが最後の質問だ。貴様、何故あの場に居た?」

 

「だーかーらー! 俺だって分からないって言ってるでしょ! 逆に、俺だって聞きたいですよ!」

 

 叫んでその言葉を言うや否や、クレアは鋭い眼差しで魔道具の方をじっと見つめる。

 しかしながらなにも鳴らない。

 彼女は信じられないとばかりに頭を何度か振り、質問が悪かったのかと呟いた。

 

「……で、では貴様は魔王軍の手の者か?」

 

「いいえ、違います」

 

「…………王族を殺しに来たのか?」

 

「いいえ、違います」

 

「………………」

 

「これで俺が無実だと分かったか?」

 

 クレアは数秒考え込む。魔道具を見て、俺を見て。何回かそれを繰り返し、彼女は現実を受け止めたのか。

 

「すまなかった、貴様は……いいえ、貴方は無実です。……貴方があそこに居た理由は分かりませんが、少なくともあなたの意思ではないでしょう。第三者が関係しているかも分かりませんが、貴方はそれに巻き込まれた被害者です。あらぬ疑いをかけて本当にすみませんでした」

 

 取り敢えず自分の命を守れたので安心する。すると俺の心中で、次第に腹立たしさが湧き起こってきた。

 少しくらいは意趣返ししてもいいはずだ。

 

「いやーもう! 本当にびっくりですわ! ……助けを呼んだだけなのに? 問答無用で犯罪者扱いされて? 全く、もう少し落ち着いた方がいいんじゃないですかねえ!?」

 

「……それに関しては何も言えまい。貴方には謝礼金を渡したいと思う」

 

 謝礼金だと!?

 それはものすごく嬉しい。嬉しいのだが……。

 異世界転生したばかりの俺は、当然この世界の常識や法律は知らない。

 必然的に、通貨の価値も分からない。

 ……これは良い機会だと思う。

 

「謝礼金はいいからこの世界について教えてくれると助かる。どうやら記憶が曖昧でね、知らないうちに犯罪を犯すかもしれないだろ? そうなったら困るのはお互い様だ。だから俺としてはそういった事を代わりにして貰えると嬉しいんだけど…」

 

「……記憶がないなんて、そんな事が。もしや禁断のあのポーションを……? しかし魔道具は何も鳴らないし……。分かった、罪滅ぼしと言ってはなんだがやらせてくれ」

 

「頼むよ」

 

 こうして俺は無事に釈放されてしばらく王城で過ごす事になった。

 

 

 

 

§

 

 

 

 俺が取調室から手錠もされずに出てきた事、で警備をしていた騎士達は驚いていたがクレアの一言によって納得し、自分の職務に戻っていく。どうやら彼女は俺の推測通り、かなり高い身分に位置する人間であるようだ。

 彼女に城内を案内されるかたわら、俺は道を少しでも覚えようと辺りを見回し脳に刻んでいく。数日間お世話になるのだから、これは必要な事だ。いつの間にか大きな部屋の前に辿り着く。

 かなりでかい部屋だ。

 少なくとも、前世の俺の私室の三倍はあるだろう。

 

「此処ならどうだろうか。この部屋は見ての通りそこそこ室内が広く、テラスから見る事が出来る景色は絶景だから、貴方も気に入ると思う」

 

「はい、この部屋で大丈夫です」

 

「私は職務があるのでこれで失礼する。もし何かあったら、メイドを残しておくから遠慮なく言って欲しい」

 

 そう言ってクレアは部屋から立ち去った。

 ふかふかのベッドにダイブしてごろごろと寝転がりながら、俺は今後の予定を考える。

 これからどうしよう。

 しばらくはこの王城で過ごす事が出来るが、それも精々一週間くらいだろう。それ以上の長居は宜しくないはずだ。

 となると、一週間後の現在は完全な無一文なのか。今のうちに対策を考えないと……。

 

「ヤバイな、このままだとそこら辺で野垂れ死ぬ未来が簡単に思い浮かぶぞ……」

 

 頭を悩ませる事数分後。

 メイドさんが食事を運んで来てくれた。運んできてくれたのだが──

 

「──何でキャベツが跳ねてんの?」

 

 ……皿の上では、ペチペチと音を鳴らして跳ねている野菜が居た。

 いや待て、これはおかしい。

 俺が驚愕している中、メイドさんが──名前をリーシャンというらしい──怪訝そうな表情を浮かべながら首を傾ける。

 

「何で、と言われましても? キャベツはこのような野菜でしょう?」

 

「……マジか」

 

 これが異世界との文化の差なのか?

 恐る恐るフォークをキャベツの葉に刺し口に運ぶと……あまりの美味しさに涙が出そうになる。

 

「キャベツなのに美味しい!」

 

 こんな美味しいキャベツを食べたのは初めてなのだが、何故かすごく悔しくなってくる。たかがキャベツなのに……!

 

「リーシャンさん。明日からの予定とか聞いてますか?」

 

「聞いております。それとカズマ様、カズマ様は大切なお客様なのですから、タメ口で構いませんよ」

 

 初対面の女性に対してタメ口なんてと思わなくはないが、メイドとは本来そんなものだろうと思う。

 

「それじゃあリーシャン。教えてくれ」

 

「畏まりました。明日の予定ですが、まず朝に食堂で朝食を取って頂きます。……そして、これが一番重要なのですが──」

 

「……? 何かあるのか?」

 

「アイリス様と会食していただきます」

 

 …………誰それ。

 

「誰ですか?」

 

「この国の第一王女様です」

 

「……。……はあああああ!?」

 

「申し訳ございませんが、これは決定事項なのです。カズマ様を一旦取調室に連行する際、王城内はとても騒ぎになりました。賊が来たのかと当然判断しましたので、これまた当然ですが現在最も身分が高いアイリス様に報告しなければなりませんでした。報告の際、アイリス様がカズマ様と話をしたいと仰いまして……」

 

「いやいやいやいや、それはちょっとないだろ」

 

「しかしながら、どちらにしろカズマ様はアイリス様とこの国の事で勉強しなければならないのです。二人いっぺんの方が効率がいいので……」

 

 それを言われると何も言う事が出来ない。

 ……お姫様かあ。

 会って話してみたいという欲求はかなりある。

 けどなあ……。

 何も知らない状況でそんな人と会うだなんて……。

 

「……分かった。クレアさんにもそう言ってくれ」

 

「申し訳ございません。……それではこれで失礼します」

 

 そう言い残し、部屋から立ち去るリーシャンを見送った後、俺は明日に備えて寝る事にした。

 

 

 

 

§

 

 

 

 怒涛の異世界転生の初日を終え、現在は朝食の時間。

 俺の斜め前の向かいの席にはお姫様が座っていた。

 金髪のセミロングに、輝いている碧眼。

 気品が感じられながらも、どこか儚げな印象を与える少女がそこには居た。

 両隣にはクレアと、全身を黒ローブで身にまとっている女性の姿が見られる。多分彼女達はお姫様の護衛なのだろう。

 俺はそんな彼女達を遠くから眺めていた。

 そうでもしないと居心地の悪さで吐きそうだ。

 昨日リーシャンからは食堂と言われていたが……やはり王城だからか、俺の予想とは真反対なものだった。

 一個の長方形ロングテーブルが部屋の中央に置かれており、ズラリと椅子が並べられている。

 どうやら、一人一人座る席は決められているらしい。

 その証拠に、現在俺が座っている席は他のに比べると物が悪い。

 そんな事を考えていると……。

 

「誰だあの男は?」

 

「なんでも、気付いたら此処に居たらしい。その証拠に、嘘を見抜く魔道具が何も反応しなかったそうだ」

 

「なるほど。……しかしまあ、平凡な男だな」

 

「本当にな」

 

「平凡過ぎてつまらん」

 

 貴族の方々、そういった話は本人がいない時にして下さい。陰口は陰でこそこそ言うから陰口なんですよ。

 殆ど合ってるんですけどね!

 そもそも、俺が居るのはお姫様の要望であるのだが……見たところ話をするのは無理なようだ。

 鬱憤晴らしのために高そうな肉を口に運んでいると、クレアが席を立ちこちらに近づいてくる。

 

「他の貴族達がすまない、カズマ殿」

 

「いや、いいですけど。……俺としては早く授業を受けたいです」

 

 そして早く、異世界生活を楽しく送りたい。

 

「分かっている。これは一応忠告ですが、授業を受けるに当たってアイリス様と同席しますが、くれぐれも口に気をつけてくださいね。もし、何か粗相をするようであるならば──」

 

「であるならば?」

 

 ごくりと喉を鳴らして恐る恐る尋ねると…クレアはにこやかな笑顔を浮かべてから、首を掻く動作をした。

 なにそれ怖い。

 しかし落ち着け、落ち着くんだ。

 俺の名前は佐藤和真。

 冷静に物事を進める事が出来る男だ。

 

「はい、分かりました。気をつけます」

 

 真顔で何度も頷く俺を見てクレアは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

§

 

 

 

 王城の中の、とある一室の中。

 この部屋の中にいるのは俺と、クレアと、朝食の場で見かけた黒ローブの女性、そしてお姫様だった。

 

「アイリス様、この男性が(くだん)の男です」

 

 クレアが俺を紹介するのだが、話しかけられているお姫様は一ミリたりとも表情を動かさない。

 まるで石像のようだ。

 可愛くないなーと思っていると、黒ローブの女性が。

 

「はじめまして、サトウカズマ様。私の名前はレインと申します。アイリス様の教育係兼護衛を国王様から任されております」

 

「こちらこそ数日の間よろしくお願いします、レインさん」

 

 挨拶を交わした後、ついに授業が始められる。

 しかしまさか、異世界に来て最初にやる事が勉強だとは思わなかった。

 この世界での一般常識をレインさんが懇切丁寧に教えてくれるのでありがたい。

 俺が引きこもり兼ニートだと知っている白スーツが、授業を真面目に受けている俺を見て何やら驚いているようだが、そんなの無視だ。

 別に俺は、勉強が嫌いなわけではない。

 いやもちろん、好きでもないけど。

 俺が学校に行かなくなったのはマナリア海峡より深い理由があるのだが……今は思い出すのを止めておこう。泣きたくなるから。

 

「この世界は現在魔王軍の進行を受けています。特にこの国は魔王軍の根城がすぐ隣にあるせいでその被害は大きいです。数年前までは人類滅亡カウントダウン一歩手前でしたが、勇者候補と呼ばれる方々が何処からか来て下さったおかげで、両軍は均衡を保っています。アイリス様、カズマ様、何か質問はありますか?」

 

 お姫様が無言で首を横に振る中、俺は思いっ切り手を伸ばして自己アピールをする。

 

「質問なんですが、どうして王都は無事なんですか? 聞いた限りだと、王都はかなり危ない位置にあるって事ですよね?」

 

「それでしたら簡単です。此処、王都は最前線でもあるのですよ。ですから魔王軍が来たとしても勇者候補の方達や、統制の取れた軍がすぐに撃退します」

 

 そんな風にレインさんの説明を受けながらも、俺は次の疑問が浮かんだ。

 

「魔王軍が攻めてくるって事はその逆は出来ないんですか?」

 

「いい質問ですね。敵大将……魔王が居るのは当然魔王城なわけですが、魔王城には結界が張られており侵入する事すら出来ないのです。結界を解くためには魔王軍幹部を倒さなくてはならないと伝えられています」

 

「……ちなみに、その魔王軍幹部ってどれくらい強いんですか?」

 

 それに答えたのは、今まで沈黙していたせいで影が薄くなっていた白スーツだった。

 

「一般的にだが……魔王軍幹部の実力は未知数だ。というのも、多くの冒険者や軍が奴らと戦ったのだが、全員あっさりと死んだからな。中には当然、勇者候補も居たのだが……」

 

 なにそれ怖い。

 俺の異世界生活はまだ始まってすらいないのだが、敵の情報を無駄に知りすぎたせいか俺のやる気はどんどん落ちていく。

 俺が目に見えて意気消沈しているせいで部屋がシーンと静まるが、どこからか鐘の音が聞こえた。

 

「この鐘の音は?」

 

「この音は休憩時間を告げる音だ。修練をしている騎士や仕事をしている貴族、メイドや執事達が決められた時間までは自由に過ごす事ができる。カズマ殿も常識の範囲内なら好きに王城を探索して構わない。……それでは、アイリス様。私とレインは失礼します」

 

 そう言い残し、二人は勉強室から出ていった。

 いや、ちょっと待とうか。

 王女様を守る責務とか、そういった仕事はないのか。

 そんな俺の脳内突っ込みはスルーされ。

 部屋に残されたのは、俺とお姫様だけになってしまう。

 声をかけようにもクレアに怒られる気がするし、そもそも可愛げのない女の子と話すくらいだったら借りている部屋で寛いだ方がマシだ。

 ……昼寝でもするか。

 俺が無言で立ち上がり、部屋から出ようとした時、服の袖を掴まれた。

 掴んでいるのは、未だに表情を崩す事なく無表情なお姫様。

 ──突然だが。

 レインさんからの授業によると、王族は強い人が多いらしい。

 その理由は王族が先祖代々強い人と結婚し、遺伝子がそうさせるのだそうな。

 最初は自然を装って無視をしようかなー、と思っていたのだが、ジャージを摑む手は年頃の女の子とは考えられない程に強い。

 こ、こいつ……!

 俺が歯噛みする中、事の元凶であるお姫様は小さな声で一言。

 

「……話をしてくれませんか?」

 

 ……上目遣いでそんな事を言われたら断る事なん出来ないじゃないか。

 

 

 

 

§

 

 

 

「それでは、その……名前を聞かせてください」

 

 よし、ここは一旦落ち着くこう。

 さっきはあの怖い白スーツに脅迫されたからな、慎重に、丁寧に挨拶しようと思う。

 

「はじめまして、私の名前は佐藤かずゅみゃ……」

 

「……」

 

 慣れない敬語を使ったので、舌を噛んでしまった。

 は、恥ずかしい……! やっぱり慣れない事はやっちゃダメだな。

 お姫様は羞恥心で顔を赤くしている俺に対してくすくすと小さく笑ってから。

 

「さっきから思っていたのですが、二人きりの時は友人と話すように言葉を話してもいいですよ。クレアやレインには私から言っときますから。それと私の事もアイリスと呼んで構いません」

 

 そんな提案をしてきてくれる。

 あれっ、なんかさっきとは態度が大きく違うな。

 

「そうか、それは正直助かるよ。よろしくなアイリス」

 

「はい。ところで、早速話があるのですが」

 

「……? ああ、そう言えばそんな事をリーシャンが言ってたな」

 

「はい、そうなのです。申し訳ございませんでした。私の方から会食をしたいと申し出たのに何も出来ず……」

 

 頭を下げて謝罪してくるアイリスを見ていると、なんだろう、凄く罪悪感が湧き上がってくる。

 しかも相手は歳下だから尚更だ。

 

「それで話って?」

 

「……外の世界は、どうなっているのですか?」

 

 アイリスが尋ねてきたのは俺にとって想定外の事だった。

 外の世界か……。

 きっと彼女が指しているのは王城の外の様子だろう。

 だが生憎俺はつい昨日異世界に来たばかりなので、当然何も知らない。誇張するのは止めるのが吉か。

 

「あー、悪いな。俺、ちょっと記憶があやふやでさ、覚えてる事が何も無いんだよ」

 

「そうなのですか!? 申し訳ございません、そのような事も知らずに聞いてしまって……」

 

 そう言って落ち込み始めるアイリス。別に俺は怒っていないのだが……。

 俺は慌てて何か話のネタになる事はないかと考え、一つのアイデアを思い浮かべる。

 

「ま、まあ俺もしばらくしたら此処から出ていくから、もし次会うような事があったら話すよ。…それよりさ、何か遊ばないか?」

 

 前半の話は恐らく無理だろうが、俺はわざとらしく明るい声でアイリスを誘う。他者と距離を詰めるためには遊ぶのが最も楽な手段だしな。

 彼女は笑顔を浮かべてから。

 

「本当ですか!?」

 

「……? 本当だけど、それがどうかしたか?」

 

「実はですね、城にいる方達は私に気を遣ってか誰も相手をしてくれなかったのです。なのでとても嬉しいです!」

 

「なら良かったよ。何かいい遊びは思い付かないか?」

 

「流行りのボードゲーム……はダメですね。カズマさんは記憶を失っていますし、そんな相手に勝っても嬉しくはないですし……」

 

 その言葉にかちんときたのは仕方がないだろう。

 なにせ、こちとら昨日の朝までは学生兼引きこもり兼ニートのゲーマーだったのだ。

 相手が一国の王女様といえど容赦はしない。

 

「ま、まあ言ってろよ。言っとくけどな、俺は接待プレイなんてしないからな? 本気でこいよ?」

 

「臨むところです!」

 

 そう言ってアイリスが勉強部屋から飛び出し、戻ってくるまでに五分とかからなかった。彼女の私室は此処から近いのだろうか。

 机の上にボードを置き、彼女の指示通りに駒を置く。

 配置的にチェスのそれは、一見普通のボードゲームのように見受けられた。

 その考えが間違いだったと俺が気付くのは、僅か数分後である。

 

 

 

 

§

 

 

 

「だぁー、クソッ! また負けたぁ!!」

 

「その、カズマ様? カズマ様はこのゲームを知ってからまだ一日も経っていないのですし、それは当たり前かと……」

 

「違う、違うんだよアイリス! 俺が怒ってるのはそこじゃないんだ! 何で『エクスプロージョン』とかそんなチートがあるんだよ! おかしいだろ! どんなに追い詰めてもそれを使えばいいだけじゃないか!」

 

「しかし、そんな事を言われましてもルールですから……」

 

「というか、アイリス容赦なさすぎ! あれか、初心者いじめか!?」

 

「え、えええええええ!? 本気で来いって言ったのはカズマ様じゃないですか!」

 

 そりゃあ確かに言ったけども!

 俺がみっともなく叫んでアイリスを非難していると──後ろから何やら冷たいものが首筋に当てられた。沸騰していた頭が急速に冷えていく。

 あっ、これはヤバイですね、分かります。

 

「何やら楽しそうじゃないですか、カズマ殿?」

 

 恐る恐るその声を主を見るとそこには、こめかみに青筋を浮かべたクレアが居た。

 俺がその後被害を被ったのは言うまでもない。








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