このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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王女様の願い

 

 俺が王族の屋敷に匿われてから、およそ二週間ばかりの月日が経った。

 今日も今日とて、クレアやレインさんは王都に赴き俺の無実を訴えてくれている。本当、なんてお礼を言ったら良いものか……。

 けれども議会は全然、これっぽっちも話が前に進んでいないらしい。

 マルクス家とシーア家の当主と、その腰巾着(こしぎんちゃく)である中貴族は俺の罪を主張しているそうな。

 反対にダスティネス家とシンフォニア家、そして小貴族は俺の無実を訴えてくれている。

 国王陛下や第一王子は魔王軍との戦いでまだ忙しいそうで、王都には中々戻ってこれないらしいそうな。うん、どこからどうみても時間稼ぎですね、分かります。

 流石に二週間も屋内にいるというのは、ニート気質の俺でも中々に辛いものがある。

 これでパソコンや漫画など、ニート必需品のものがあるのならいくらでも惰性の日々を心置きなく謳歌できるのだが、残念な事にそんなものはこの世界にはない。

 気分転換に外に出たいと訴えのだが、お前は馬鹿かという目で見られただけだった。つまりは、外出は不可能だ。

 ……いや俺だって馬鹿じゃないから分かってはいるのだ。

 いくら四大貴族の一柱であるシンフォニア家が保護しているといっても、暗殺される可能性は十二分にあるのだからここは大人しく過ごさなくてはならない場面だろう。

 俺はこの上なく恵まれているのだ。

 普通なら裁判になっている筈なのだから。俺が拘置所にいる間に、殺すタイミングはいくらでもある。

 そう頭では分かってはいるのだが、身体は否応なく疼くものだ。貧乏ゆすりが止まらない。

 これはそう、例えるならば。

 部活めんどくさい! と普段言っていた人が最後の大会を終え引退したら部活やりたい! と思うことと一緒なのかもしれない。

 いや、そんな経験はないんですけどね。

 ふわぁと欠伸を漏らしながら一階に降りると、リビングには既にアイリスがいて何やら本を読んでいた。

 気難しい表情を浮かべているので、相当に難しい内容が書かれているのだろう。ソファーに深く腰掛け、ぱらぱらと(ページ)を捲る様子はとても絵になっていて、俺は惹き付けられた。

 少々引け目を感じつつも、挨拶をする事に。

 

「おはよー。今日も一段と寒いな」

 

「カズマ様、今はお昼の時間帯ですが……」

 

 おっと、どうやら寝過ごしてしまったらしい。

 俺はごめんごめんと両手を軽く合わせながら、けれどもささやかな抗議をする。

 

「だったらアイリス、起こしてくれてもいいじゃないか」

 

「いえ、私は何度も起こしに伺いましたよ? しかしその……『あと五分、五分だけ』と何度もおっしゃいまして……諦めました」

 

「ごめんなさい」

 

 年下の女の子に論破された俺は、謝る事しかできない。

 俺は視線をふいっと逸らしながら、

 

「まぁなんだ。明日からは普通に起きるよ。……うん、早寝早起きは大事だからな!」

 

「あの、昨日もそれおっしゃっていたのですが」

 

「……ごめんなさい」

 

「あぁいえっ、そういうつもりで言った訳では!」

 

 何を勘違いしたのか、アイリスは読んでいた本をぱたんと閉じて謝ってくる。

 ますますいたたまれなくなった俺は、テーブルに積まれた本の山をなんとなく気になって覗いてみた。

 そこにあったのは、幼い子供には似つかわしくない、堅苦しい参考書の数々。

 特に多いのは、政治や経済といったものだろうか。中には歴史本もある。

 

「これってもしかして……?」

 

「ご想像の通りです。……私は王族ですから、その分勉強しなくてはなりません。あと数年したら私も、責務として外交や議会に参加するでしょう。それかもしくは、魔王軍との戦線に出るかもしれません」

 

「……なぁ、アイリスはそれでいいのか?」

 

 気づけば俺の口は、そのようなことを口走っていた。

 俺だったら絶対に耐えられないだろう。

 いくら王族とはいえ、あまりにもひどすぎるではないか。

 俺がアイリスの年代の時は友達と外で遊んで……遊んで……いや、遊んでないな。大半はゲーム三昧だった。

 流石に小学時代は違ったが、中学時代は部活にも入ってなかったし。

 思えば、あのような「勘違い」があろうとなかろうと、俺はニートの生活を送っていただろう。

 だがそれを抜きにしても、俺みたいな平民からしたら異常だと言わざるを得ない。

 アイリスやダクネス、クレアやレインさんといったいわゆる上級階級の人々はそんな幼い頃から勉強しなくてはならないのか……。

 そんな俺の内心はどうやら、顔に思いっきり出ていたらしい。

 アイリスは困ったように微笑して、

 

「でもそれが、先程も言いましたが私達の責務なのです。私達は国民の方々から頂いている税金によって、生活を送らせていただいております。だからこそ、それに応えなくてはなりません」

 

 ……。

 …………。

 

「アイリス自身は、それでいいのか? やりたいこととかないのか?」

 

「……」

 

 俺の問いにアイリスは黙り込んでしまう。

 頬に手を寄せて思案する様は先程以上にとてもサマになっていてとても美しい。こういった所作も教育に入っているのだろうか。無意識だったら凄いものである。

 しばらく考え、答えが出たのか彼女はゆっくりと顔を上げて。

 

「一つだけ、あります」

 

「……それは?」

 

「その……決して叶えられないとは分かっているんですが……」

 

 瞳を若干濡らす少女に、俺は安心させるように笑い掛けた。

 

「いいから言ってみろよ。言うだけならタダだぞ?」

 

「……ふふっ、なんですかそれは。あなたは私の知らない言葉を沢山知っていて、とても羨ましいです。そうですよね、『言うだけならタダですよね』……」

 

 素直な賞賛がなんだが無性に気恥ずかしくて、俺はぽりぽりと後頭部を掻いた。

 アイリスは俺を見上げて、その「願い」を口にする。

 

「──外に出たいです。一人の人間として、私は外に出たい。……朝日はどんなに綺麗なんでしょう? 夕焼けの色は? お伽噺(とぎばなし)に出てくるようなドラゴンや悪魔は本当にいるのですか? 数え上げたら、キリがありません。私は、あなたが聞かせてくれたような世界のその色彩を、この目で見たいんです!」

 

「……そっか、それがアイリスの夢か」

 

「はい! ……でも、でも……そんなことは許されないんですけど。まだ私は子供だからこうしてあなたと出会えます。けれどそれも、あと少ししたら終わるでしょう……。──……えぇとですね、つまり……私は今が幸せですから、それで構いません」

 

 そう言いながら、アイリスは儚げな笑みを漏らした。

 本人はそんなつもりはないのだろうが、俺にはそれが、無理やり張り付かせた偽りの笑みにしか見えない。

 俺はそんなに今にも存在ごと消えそうな彼女に対して、無力感に激しく苛まれる。

 だって、彼女の「願い」は叶えられないものなのだから。

 ……。

 くそっ、こんなのが許されていいのか!?

 奥歯をギリッと噛み、俺はこの最悪な世界に対して憎しみを持った。

 幼少の女の子は、アニメに出てくるような「お姫様」を夢見るのだそうだ。

 可愛らしい服に、綺麗な美貌。 沢山の他国のイケメン王子から求婚され、そのうちの一人と結婚し、幸せな家庭を築く……────

 そんな夢はやはり、夢でしかなくて。

 

 夢は、叶えられないから夢なのだ。

 

 これは俺のネット友達が言っていたのだが。

  「儚い」という字は「ひと」に「ゆめ」と書く。

 人が夢を持つこと……それ自体がもう「儚い」のだ。

 

 それはそう──桜のように。泡沫(うたかた)のように。

 

 ……俺だって、もちろん叶えたい。

 だがどうやって?

 俺は外界に行けないし、アイリスを何処かに連れていったらそれこそ、国家転覆罪の容疑が掛けられてしまう。

 しかもその場合、俺が助かる道はゼロだ。

 情状酌量の余地などなく、俺の第三の生は幕を閉じるだろう。

 ……。

 シンとした静寂が俺達を覆いこみ、沈黙が場を支配する。

 お互いに目を合わせては逸らす。

 そのような動作を何度もしていると、グゥーと可愛らしい音が何処からか出された。

 俺ではない。

 となると、犯人は……

 思わずにやついてしまうと、アイリスは頬を真っ赤に染めて涙目になった。

 ……あかん、破壊力がヤバい。

 なんだろう、これまで俺はロリコンであることを否定してきた訳だが。

 ……もしかしたら俺は、ロリコンかもしれない。ここ最近、そんな気がしてきたなぁ。

 いやだって、あまりにも少女が可愛すぎるのだ。

 見た目よし、性格よし、世間知らずのところがちょっと玉に瑕だが、それでも完璧な人間などこの世にはいないのだから個性として充分にありだろう。

 口元をにやにやさせていると、

 

「か、カズマ様、その顔止めてください! それと、今すぐに忘れてください!」

 

「おっ? なんだ恥ずかしいのか? いい事じゃないか、それだけ勉強したってことだろ? うんうん、今日はアイリスが好きなものを作ってやろう」

 

「本当ですか!? ……ハッ! そ、そういう意味ではありません! ……うぅ……」

 

「いやだって、なぁ……?」

 

 年下の友達を容赦なく煽っていると、

 

「……もう知りませんっ!」

 

「へっ? ……──グハッ!」

 

「……えっ?」

 

 流石に堪忍袋の緒が切れたらしく、アイリスは恥じらいの表情のまま俺の腹に聖なるグーを打ち出した。

 そうはいっても、彼女からしたら威力は充分に抑えていたのだろう。

 間抜けた声からそれは分かる。

 ……分かるのだが。

 しかしゆめゆめ忘れてはならない。

 王族はとても強いと……!

 ただでさえ貧弱な俺の身体は、ゴンッ!と来た衝撃で軽くくの字になり、バタンと倒れた。

 ……あ、危なかった。

 もしこれで朝食を取っていたら、胃の中にあるものを全部吐くところだった。

 それだけは勘弁被りたい。

 ごろごろと絨毯の上を転がり悲鳴を上げる俺を、アイリスはあわわわと狼狽するばかりだ。

 とその時、俺の視界上にぬっと人影が出現する。

 一瞬だったが、間違いなく目が合った。

 ……。

 ……あっ、ヤバい。

 慌てて止めようとするが、突然の静止は間に合わずそのままその影に突入した。

 次の瞬間、サッカーボールを止めるかのように自然に、そいつは俺を止めてみせた。身体の上に足が情け容赦なく置かれる。

 ……よし、ここは死んだフリだ。

 幸いにも現在の姿勢は横向きだ。バレることは早々ないだろう。というか、バレたら最悪死ぬ。

 瞼をキツく閉じ、けれど力を抜き俺は時の流れに身を投じた。そうそれは、上流から下流にへと流れる波のよう。

 体感で三分が過ぎようとした……

 

 ──その時。

 

 俺の身体を突如、身を切るような鋭い痛みが襲った。

 上からのしかかっていた足がぐりぐりと踏みつけ攻撃してきたのだ。靴の踵が肉を削っていく。

 ……耐えろ、耐えるんだ。

 ここで呻き声を上げようものなら、絶対にお叱りを受ける。

 そう、俺は死体だ。

 ぐでっと横たわる身体を見てだろうか、ハァと小馬鹿にしたようなため息が漏れ。

 

「『黒より黒き闇より黒き漆黒に』……──」

 

『『水の精霊よ、我に力を』……──』

 

「ごめんなさい! 起きてます! だから止めてください!」

 

 超危険な呪文を唱える爆裂娘と水の女神に俺は、悲鳴を上げることしかできなかった。

 

 

 §

 

 

 俺を踏みつけていたのは仲間のめぐみんだった。悪友のアクアもいる。クレアとレインさんがアクセルに戻り、連れて来てくれたのだ。

 アニメや漫画の世界の展開だったら感動の再開となり熱い抱擁を交わすところなのだが、あのような出来事のせいでそんなイベントは起きなかった。

 どうやら俺は、そういったラブコメの神様には嫌われているらしい。

 代わりに水の女神と幸運の女神と、その上司と親交があるのだから仕方がないのかもしれない。

 六人分の昼食を作ることになった俺は、リーシャん仕込みの技術と『料理』スキルをフルに使いご馳走を振舞った。

 その際、アイリスが手伝いを申し出てくれたのはとても有難かった。まぁもっとも、過保護の白スーツの所為で妨害されたのだが。

 その代わりにアクアが手伝ってくれることになったのだが……うん、彼女の体質の所為でお湯になり散々な結果になってしまった。

 水の女神というのも、中々に大変な存在かもしれない。

 結局イチから作り直すことになり、今度はめぐみんが手伝ってくれた。

 流石は紅魔族随一の天才だと名乗るだけはある。普通に料理スキルは高かった。いや、それは以前から何気に分かっていた事なのだが。

 巨大冷蔵庫に貯蔵されていた高級食材を目のあたりにした彼女の顔はとても面白かったと述べておこう。

 そんな経緯がありつつも賑やかな昼食を食べ終え、俺達は現在テーブルを囲むようにして会議を開いている。

 満腹感により睡魔が度々襲ってくるが、ここはなんとしてでも起きなくてはなるまい。

 漏れそうになる欠伸を必死に堪えていると、めぐみんがやれやれといったように嘆息して。

 

「ハァ、あなたは何をしているんですか? 自分の置かれてる状況が分かっているのですか?」

 

「いやいや、さっきのはたまたまだって。めぐみんが来る前はかなりシリアスな雰囲気になってたんだぞ? なぁアイリス」

 

「とのことですが、どうなんです?」

 

「え、えぇとですね……ま、まぁ……その、なんといいますか……」

 

 語尾がどんどん弱くなっていくアイリスを見て、めぐみんはどういうことだと俺に疑いの目を向けた。

 くそっ、ここでまさかの裏切りか。

 アイリスが俺を裏切るとは想像すらつかなかったが、仕方がない。

 意趣返しに今日のゲームでふるぼっこにしよう。

 そんな覚悟を密かに抱いていると、

 

「まぁまぁ落ち着きなさいな三人とも。クレアやレインが蚊帳の外になっていて可哀想でしょ?」

 

「「……!?」」

 

 ずずっと呑気にお湯を飲みながら、水の女神様がそう制止してくる。せっかくのシズオカ茶がもったいないなぁ。

 アクアが無邪気に投げた言葉に、当の本人達はそれはもう慌てた。

 うん、あながち言ったことは的を得ているな。

 クレアは兎も角、確かにレインさんは影が薄いんだもの。

 というか今更だが、なんでめぐみんとアクアが此処にいるんだろう?

 どういう事だと蚊帳の外にいるシンフォニア卿に目を向けると、彼女は咳払いをしながら、

 

「無論、理由がある。つまりだな、議会がある判決を下したのだ」

 

 おぉ! と俺が反応するよりも前に、アイリスが素早く立ち上がりものすごい形相でクレアに肉薄した。

 あれっ、おかしいぞ。

 全然動きが見えなかったのだが。

 ここ最近思うんだが、王族だけで魔王軍倒せるじゃないかな。……流石は公式チートである。

 

「それ本当ですかクレア!? カズマ様の無実は証明されたのですか!?」

 

「お、落ち着いてくださいアイリス様! そんなにお近づきになられますと困ると言いますか……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「だ、大丈夫です。以後お気をつけていただければ……」

 

「はい。本当に申し訳ございません……」

 

 アイリスはしゅんと落ち込みながらソファーに座り直した。

 まるで母娘のような微笑ましいやり取りである。

 けどなクレア。

 口ではそう言い目も優しく細められているが、そのだらしのない顔をなんとかした方がいいと思います。

 見れば、めぐみんとレインさんも俺と似たような呆れた表情を浮かべている。アクアは気づいてないのか不思議そうに首を傾げているが。

 そんな俺達の内心など露知らず、ロリコン(アイリス限定)は所持していたバッグからあるものを取り出した。

 この屋敷にいる全員がそれに注視する。

 

 出されたのは、巻物。

 

 見ただけで分かる、あれはこの世界で最高級の紙質だ。

 クレアはそれをテーブルの上に置き、ゆっくりと広げてみせた。

 皆が集まり我が先にと乗り出すその先に書かれていたのは。

 

『冒険者サトウカズマ。

 貴殿には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている。

 本来なら情状酌量の余地なく死刑となるが、曲がりなりにもベルゼルグ王国に多大なる貢献をしてきた貴殿を問答無用で殺すのはしのびない。

 そこで議会は話し合いの結果、貴殿に強制任務(ミッション)を課すことにした。

 全ての任務を果たした折には我々の非を認め、容疑を取り消すとする』

 

 強制任務。

 それは冒険者ギルド、もしくは国が冒険者に受注させる、拒否権なしのクエストだ。

 冒険者はそれを必ず受注せねばならず……任務を遂行させなくてはならない。

 というのも、強制任務そのものが異例の措置だからだ。

 余程成果を出さなければその話は出されない。

 だがそれ以上に。

 俺が感じたことは、舐めてんのかという怒りだった。

 クレアとレインさんはその場にいたからまだ落ち着きはあるが、アイリスとアクアはその美貌を歪め、めぐみんにいたっては……

 

「すみません、ちょっと私用事ができました。レインさん、王都の王城まで案内してくれますか? あぁ、できれば人が沢山いる場所にお願いします」

 

「……あ、あのめぐみん様? まさかしませんよね? いや、本当にしませんよね?」

 

 レインさんが顔を青白く染め何度も聞き返すとめぐみんは清々しい笑顔を浮かべてこくりと頷き、

 

ちょっと一発、爆裂魔法を撃ってきます。えぇ、今ならこのふざけたことを書いた人達もいるでしょうし、木っ端微塵に爆裂しましょう!」

 

 けれど瞳を爛々と紅く輝けさせながら、そんな犯罪予告を口にするのだった。

 慌てて止めさせようとして、アクアとアイリスがゆらりと立ち上がる。

 おぉ、俺の代わりに止めてくれるのか! と思った次の瞬間。

 二人はにっこりと顔を綻ばせながら、

 

「私も行くわ、めぐみん。アクシズ教徒が力を貸しましょう。なんだったらエリス教徒の力を借りることもいとわないわ」

 

「私も付いていきます、めぐみん様、アクア様! 私、こんなに怒るのは初めてです。もう、我慢ができません。私が許しますから、敵を倒しに行きましょう」

 

「ふっ、流石はアイリス。話が通じますね」

 

「洪水を起こして奇襲しましょう! えぇ、それがいいわ!」

 

 物騒極まりない事を笑顔で話し合うめぐみん達に内心恐怖を覚えながらも俺は声を上げて、

 

「おいやめろ、いやほんと、待って! 三人とも落ち着けって!」

 

「「「でも!」」」

 

 食い下がってくる三人をなんとか宥めながらも、俺は内心喜んでいた。

 一つは感謝の気持ちだ。

 まさかこんなになってまで俺のことを想ってくれようとは、まったく、最高の仲間と友達を持ったものである。

 ぶっちゃけ泣きそうだ。

 これだけでも異世界転生して良かったといえよう。

 もう一つは、活路が見い出せたことによる歓喜。

 その強制任務とやらがどれだけ難しく危険なものかは知らないが、曲がりなりにも俺はこれでも数多の強敵と戦ってきたのだ。

 それ以上のものが、そうそう出される訳でもあるまい。

 内容はかなりイラつくものだが。

 まぁよく良く考えれば、貴族なんて人種は傲慢な人種ばかりなのが世の常なのだ。

 

「それで? その強制任務とやらの内容は?」

 

「……これです」

 

 今度はレインさんが、羊皮紙をテーブルの上に置いてくれる。

 それは何も、一枚ではない。

 合計三枚。

 つまり……三つの強制任務が俺に課されるのだ。

 ぴくりとこめかみが引くのが自分でも感じられるが、待て、冷静になるんだ。

 ここでキレたらさっきの俺の発言と矛盾してしまうではないか。

 俺の名前は佐藤和真。

 自分の発言には責任を持つ、そんな賢い男だ。

 キリッと覚悟を決めた表情をつくる。

 すると陰では、

 

「うわぁ、ねぇねぇ皆。あの顔どう思う?」

 

「えぇっとその、私はかっこいいと思いますよ!」

 

「アイリス、世の中には言っていいことと悪いことがあるのですよ? ……せっかくこの前注意してあげたのにこの男は……」

 

「えぇっ!? ま、まぁ確かに………こ、個性的なものだとは思いますが……クレアとレインはどう思いますか?」

 

「「……」」

 

 なんか誹謗中傷を受けているが、そんなの無視だ。

 きゃいきゃいと騒ぐ女性陣から意識を逸らし、俺は改めて確認する。

 そこに書かれていたものは……

 

『一人以上の魔王軍幹部の討伐』

 

『洞窟に住み着くドラゴンの討伐』

 

『キールのダンジョンの異変調査』

 

 ……無理難題にもほどがある、そんな理不尽なものが達筆な字で書かれていた。

 血の気が引いた俺の表情を見て、皆はどんな内容かある程度は察したらしい。

 マシで? と貴族様達に目で確認すると、二人は確かに頷いた。

 俺はこの羊皮紙をぐしゃぐしゃにして破きたい衝動をなんとか理性で抑えながら、

 

「……。…………舐めてんのか!」

 

 それでもやっぱり、思いっきり破くのだった。

 

 








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