このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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準備

 

「わ、我が名はゆんゆん! 〈アークウィザード〉にして上級魔法を操る者! やがて紅魔族の長となる者……!」

 

 そんな名乗りと共に……!

 見た目は完全な美少女がバサッとマントを翻した。

 この()の名前はゆんゆん。

 黒髪紅目であるから、彼女はきっと……というかまず間違いなく紅魔族だろう。

 別に、独創的な名前から察した訳ではない。

 ないったらない。

 

「で、結局キミは誰なんだ?」

 

「……!? わ、我が名はゆんゆん……──

 

「ごめん、そういうことじゃなくて。ええっとほら、めぐみんとはどういう関係なんだ? 友達とかか?」

 

 頬を赤くし涙目になりながら再度、自分から公開死刑をやろうとするゆんゆんを俺は慌てて止める。

 彼女は俺の言葉にハッとなりながら、

 

「あっ、はい。めぐみんと私はライバルなんです」

 

「……? そうでしたっけ?」

 

 ……。

 仲間の言葉を一応信じて疑いの目を向けると、ゆんゆんはますます涙目になった。

 どうやら嘘をついている訳ではないらしい。

 彼女はわちゃわちゃと両手をみだりに振りながら、

 

「そうだよ、私達はライバルでしょ!? めぐみんが一番で、私が二番で! 私が上級魔法を使えるようになるまで修行してくるって! 終わったら勝負するって約束じゃない!」

 

「……?」

 

「……!? う、嘘よねめぐみん。覚えているわよね!?」

 

 困惑の表情を浮かべるめぐみんを見て、ゆんゆんは我慢ができなくなったのかとうとう摑み掛かるしまつだ。

 それでも尚、めぐみんの表情は微塵も動かない。

 だがめぐみんよ。

 俺は気づいているぞ。口角が僅かに上がっているのが辛うじて分かる。

 こいつ、絶対楽しんでいるなぁ。

 俺以上に付き合いがあるゆんゆんも何時もなら気づくだろうが、興奮しているのか気づいてない。

 やがてしばらく経ち、めぐみんはポンと手を置いて。

 

「えぇ、覚えていますとも! えっと確かにそのような事が……そのような事が……?」

 

 とここまでくれば流石に感づいたのか、ゆんゆんは両目の瞳を妖しく紅くしながら、

 

「あんたねぇ! 私だって馬鹿じゃないんだから! 何よ、それなら私にも考えがあるわ!」

 

「ほう。ならやってみるがいい!」

 

「ふんっ、今に見てなさいよ!」

 

 そう言ってからゆんゆんは考え始めた。

 なんだろう、本来ならここは熱い展開で興奮するものだが……明らかに負け犬発言だよなぁ。

 優しい俺とめぐみんはちょむすけと戯れ、猫特有の柔らかい体毛を撫でる。

 五分ほど経っても悩んでいるので、めぐみんが苛立ち混じりの声を出した。

 

「あの、まだですか? いくらこのあたたかいローブがあるとはいえ、寒いものは寒いのですが。もう行っていいですか?」

 

「……ちょ、ちょっと待って! えぇと、うぅんと……ハッ、そうだわ。これだったらいける。──……あの、挨拶が遅くなってすみませんが、あなたはめぐみんの仲間ですか?」

 

「うん、確かに俺は仲間の佐藤和真だけど。まぁ兎も角、よろしくなゆんゆん」

 

「は、はいっ! こちらこそよろしくお願いしますね……えっと、なんとお呼びすればいいですか?」

 

「いやなんでもいいけど」

 

 その言葉に、ゆんゆんは雷に撃たれたかのような、そんな衝撃的な顔になった。

 ……。

 ……えっ。

 俺、何かおかしいこと言ったか?

 不安になってめぐみんを見るが、彼女は大丈夫ですよと肩を竦めてみせた。

 そして口パクで、

 

『この娘はこういう子ですから。もう少しだけ待っていてください』

 

 そういうことなら……。

 八百屋のおばちゃんから貰ったイチゴをめぐみんと一緒に食べていると、三個目のところでゆんゆんは我に返った。

 

「ご、ごめんなさい……! その、そんな風に言ってくれるとは思いもしなかったので……。じゃあえっと、カズマ様と!

 

 俺達は食べていたイチゴをぶっと吹き出した。

 ごほごほと咳き込む俺達を、ゆんゆんはとても不思議そうに見つめる。

 なるほど、めぐみんが教えてくれた意味がよく分かった。

 確かにこれはちょっとばかり対応がめんどくさい。

 

「いや、普通に呼び捨てでいいから」

 

「……? そ、そうですか? でもでも、『チッ! 呼び捨てとかこいつ何様だアァん!?』とか、『こいつめんどくせぇー』とか思ったりしませんか!?」

 

 後者は兎も角、前者は思いません。

 話が全然進まないなぁと思っていると、めぐみんが呆れたようにため息を吐きながら、

 

「ハァ────。そんなに言うんでしたら『さん』付けでいいでしょう」

 

「そ、それもそうね! じゃあその、カズマさんでいいですか?」

 

「うん、それでいいよ。改めてよろしくなゆんゆん 」

 

「はい! ……め、めぐみん気の所為かな? さっきからカズマさん、私の名前を聞いても何も動じないんだけど……。その、どうしてですか?」

 

 おずおずとそう訊ねてくるゆんゆん。

 ふむ、なんでと言われてましても。

 ぶっちゃけめぐみんの名前で慣れているし、価値観は人それぞれだからなぁ。

 というかそれ以上に……

 

「いいかゆんゆん。世の中ってのは沢山の人がいるんだ。例えば此処にいる爆裂娘は言わずもがなだし、俺の知り合いにはドMでド変態、かと思いきや土壇場で覚醒するクルセイダーとか、趣味で盗みをしている、かと思いきや孤児院に仕送りを送る女盗賊、頑張っているのに影が薄い貴族とか……本当に、ほんっとうに沢山の人がいるんだ。今更それくらいで俺は動じたりしないのさ」

 

 一言一言噛み締めるようにそう告げると、ゆんゆんは瞳を輝かせながら畏怖の目で俺のことを見てきた。

 なんだろう、全然嬉しくない。

 美少女から尊敬されているのに、全然嬉しくない。

 心が全然これっぽっちもときめかない。

 

「あの、やっぱりカズマ様と呼んで……──」

 

「それは止めてくださいお願いします」

 

 

 

 ──そのままゆんゆんは去っていった。

 いや、めぐみんを見返す発言は何処にいったんだという突っ込みはあったが、本人が気づいていないのならそれでいいだろう。

 別に、ちょっとめんどくさいなぁとか思った訳では断じてない。

 ないったらない。

 そして俺は現在、一人裏道を通っていた。

 あのような態度を取っていためぐみんだが、やはり大事な友達らしい。言い訳をずらずらと流す彼女を見て、俺はにやにや笑いながら「追いかけてやれよ」と送り出した。

 積もる話もあるだろうし。

 気づけばちょむすけも行方をくらましている。おおかた、飼い主を追いかけたのだろう。猫とは到底思えない忠猫さだ。

 そして辿り着いたウィズ魔道具店。

 此処はアクセルの町外れにあるからか、当たりにあるのは住民達が住む一軒家が比較的多い。

 普通こういった店は名店であるものがRPGの鉄板なのだが、残念なことにそんなことはない。

 精々が巨乳店主のウィズを遠目から眺めに、時々冒険者が来るだけだ。

 だったら買っていってやれよと思わなくもないが……まぁアレだしなぁ。

 抱えていた食材を一度地面に置いてから、俺は勢いよくドアを開けた。括り付けられていた鈴がカランコロンと心地好く鳴り、来客が来たことを知らせた。

 ドアが閉められる前に食材を抱え直し急いで建物に入る。すると奥からは女性店主の声が。

 

「いらっしゃいませー……──ってカズマさん!?」

 

「よぉウィズ、久し振りー」

 

 俺が来店したことに驚愕するウィズに軽く手を挙げながら応え、俺は彼女に近づいた。

 

「ちょっ、ちょっと待っていてください。今、お茶を持ってきますから!」

 

「あぁいや、別にそういう訳じゃ……」

 

「いえいえっ、話がありますので!」

 

 話とはなんだろうか?

 この店に来るのはかなり久し振りだが、やはりというか俺の他に客は一人もいない。

 奥側に引っ込んでしまったウィズをただ待つのもなんなので、俺は近くにあった棚を見て……

 

「えっ!? なにこれ凄い!」

 

 ……そこにあったものは、地球のペットボトルを思わせるような、そんな容器。

 中に入っている液体は透明で、汚れ一つすらない。値段は一本三百エリスと予備知識がある俺からしたらややお高いと判断せざるを得ないが、それでもこれだったらそうなるのも頷ける。

 

 その商品名は、女神の聖水Ⅱ。

 

 そう、それは水の女神アクアの体質を活かした飲み物だった。

 大変失礼だが、ウィズ魔道具店にて売っている商品は基本ロクでもないものが多い。メリット以上にデメリットの方が多いのだ。

 例を挙げるならば、『スティール』を使えるようになるポーションだけれど、〈盗賊職〉しか効果を発揮しないものとか。

 あるいはまともなものもたまにはあるが、それ故に請求される額が増えてしまう。

 友人としてウィズの将来がひたすら心配だ。野垂れ死なないことを切に願います。

 ……それにしても、アクアも本当に変わったなぁ。

 アクシズ教団はこの世界から忌避されているが、親が変われば子も変わるかもしれない。

 実際、アクセルでは彼女の名前はかなり出回っている。下手したら俺以上の知名度となっているだろう。

 なんだって、怪我した人に無償で回復魔法を掛けているし、宴の際には自慢の『宴会』スキルで盛り上げてくれる。

 更には集団墓地で迷える死者の魂を天界に送ったりと社会貢献をしている。

 おまけに彼女はコミュニケーションスキルがかなり高いから、大半の人とはすぐに仲良くなることができる。

 ……。

 ……女神だな。

 うん、間違いなく女神だ。

 ぶっちゃけこの街ではエリス様よりアクア様の方が人気あるしなぁ。

 まぁ宗派を変える人は流石にいないようだが。

 やはり労働は人を変えるらしい。

 と格言じみたことを脳内で言っていると、ウィズがお盆にお茶を載せて戻ってきた。

 先程まで着ていたエプロンを外しているのはなんでだろう?

 そんな俺の疑問に答えるように、彼女はテーブルにそれらを置き、店外に出たかと思ったら立て札を「開店中」から「閉店中」にへと裏返した。

 どうやら、人に聞かれたくない話らしい。

 だがその前に俺はやるべきことがある。

 

「ウィズ、おばちゃんおやっさんお姉さんからお裾分けしてもらったんだ。こんなにはいらないから分けるよ」

 

「まぁっ、ありがとうございます! ここ最近はアクアさんの聖水を吐きながら飲んでいまして。成仏する寸前で止めているんですけど……」

 

「……。……よしウィズ! 今はちょうどお昼時だからな、俺が何か作るよ! 幸い食材は沢山あるしな!」

 

 感激のあまり号泣するウィズを残して、いたたまれなくなった俺はすぐさま料理を作ることにしたのであった。

 ここ最近、料理を作る頻度が高い気がするのだが気の所為だろうか。

 俺の名前は佐藤和真。

 ここ最近、戦闘スキルを全然使っていない冒険者だ。

 本場のメイド、リーシャンから仕込まれた俺の調理技術はそんじょそこらのシェフには負けやしない。

 

 

 §

 

 

強制任務(ミッション)、ですか……」

 

「あぁそうなんだよ。ウィズも昔は高名な魔法使いだったんだろ? やっぱりやったことあるのか?」

 

「そうですねぇ……何回かありましたよ。確かその時はエンシェントドラゴンの討伐とか、フェンリルの討伐とか……」

 

 何それ怖い。

 もう名前からしてボスっぽいのだが。

 えっとレイン先生曰く、エンシェントドラゴンはドラゴンの上位種で、フェンリルは白狼の上位種だったか。

 どちらもベテラン冒険者パーティーを全滅させるほどの脅威であり、王都では度々強制任務が課せられるそうな。

 

「『一人以上の魔王軍幹部の討伐』『洞窟に住み着くドラゴンの討伐』『キールのダンジョンの異変調査』……どれもが等しく危険を伴っていますね……。その、大変失礼ですけど……これは絶対、カズマさんを殺したい意図が見え見えなんですが……」

 

「だろ? 国外にでも逃げようかなぁ……」

 

 ズズっとお茶を飲みながらそう呟くと、ウィズは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

「すみませんカズマさん。私が『ドレインタッチ』を教えたばかりに……」

 

「いやいやいやいや、それは違うぞウィズ。どの道俺は奴らから難癖をつけられてそのうち捕まっていただろうから気にしなくていいよ。それに頼んだのは俺だし」

 

「そう言っていただけると嬉しいですが……その、この二週間はずっと心配でしたので」

 

 とウィズは大きな胸の前で両手を重ねながらそんな嬉しいことを言ってくれる。

 ……。

 ……あれっ、なんだろう。

 めぐみんといいウィズといい、なんだか皆俺に優しくないか?

 どうやら俺の努力は確実に報われているらしい。

 このまま上手くいきたいものだ。

 

「そうだ。カズマさん、せめてもの贖罪として当店で好きなものをお一つ持っていってください!」

 

「えっ、マジ?」

 

「えぇ!……強制任務は大変危険ですし……何より幹部の皆さんは人外な人が多いですので……」

 

 なんと。

 魔王城の結界を一瞬とはいえ強引に破ってみせたウィズがそう表現するとは……。

 思えば、ベルディアとウィズ以外の幹部を俺は知らない。

 まぁ関わる機会なんてそうそうないと思っていたから仕方がないのだが。

 

「なぁ、ちなみに他の幹部はどんな奴らなんだ?」

 

「うぅーん……そうですねぇ。例えば……魔王さんより強いと評判の方や、デッドリーポイズンスライムの変異種の方や、モンスターと融合した方や……これは私も詳しくは知りませんが、どこかの国で宰相をしている方もいるそうですよ」

 

 何それ、個性強すぎだろ。

 うぅむ、仮に挑むなら誰が望ましいのかさっぱり分からん。

 一番戦いたくないのは、魔王より強いと評判の奴だが……。

 作った炒飯(チャーハン)をスプーンで掬いながら思案しどうしたものかと首を捻る。

 そんな俺を見かねてか、ウィズが。

 

「あっ、でしたら私も手伝いましょうか! 幹部の方々との戦いは魔王さんとの約束でできませんが、他のでしたら手伝えますよ!」

 

 そう申し出てくれるが……

 

「いやごめん、それが無理なんだよ」

 

「……? といいますと?」

 

「それがさ、俺の強制任務に付いてこれるのはめぐみんとアクア、あとダクネスといった元からの親交がある人だけなんだ」

 

「……なんとまぁ……」

 

 ……そう、強制任務の難しさは何も単純な危険度だけでは断じてない。

 問題は、パーティー制限にある。

 アクセルで俺と長い付き合いである彼女達三人しか同行が許されなかったのだ。

 これはクレアから聞かされたのだが、あちら側は俺一人だけで強制任務を課そうとしたらしい。

 なんとかそれを防げたのは、ひとえにシンフォニア家とダスティネス家の力添えのお陰だ。

 あとは、アルダープの裏切りらしい。

 最初は敵側につき俺を殺そうと躍起になっていたそうだが、彼の息子が諭したのか知らないが──息子のバルターはかなりの人格者として有名である──土壇場になりこちら側についたそうな。

 中小貴族のまさかの裏切り行為に議会には動揺が走り、その間に折衷案として彼女達の同行が許されたのだ。

 アルダープが何故そのような行動をしたのかは到底分からないとクレアとレインさん達は困惑していたが、絶対ダクネス目当てだろう。

 というのも、アルダープがダクネスのことを欲しているのは親父さん曰く昔からだそうな。

 ただ両者は年齢がかなり離れているし、何よりこの街の領主は悪徳貴族で有名だ。証拠が摑めないから捕まっていないが、それも時間の問題だろう。

 兎も角、娘思いの親父さんはその醜い求婚を拒否してきた訳だが……なんとアルダープは思いもよらぬ手を打ってきた。

 それが、バルターとダクネスの見合いである。

 アレクセイ・バーネス・バルター。上記にも述べた通り、親父とは似ても似つかぬほどにできた男として有名だ。

 爽やかな笑みが似合う好青年。そういう意味ではミツルギもそうだといえるが、彼は慢心もしないし無意識で人を見下さないという……まさに「理想の貴族(王子)」といっても差し支えない。

 部下の人間が失敗したら一緒に解決策を模索したり、父親の悪性を軌道修正させるべく口添えしたりと人柄は非常に良く、更には最年少での騎士団所属を果たした。

 その縁談には流石に、ダスティネス家は応えざるを得なかった。断ったら非難されるのはダスティネス家になってしまうからだ。

 いやはや、本当にアニメや漫画で出てくるような悪徳貴族である。

 いやほんと、迷惑を掛けてごめんなさい。

 そう頭をぺこぺこと下げる俺に対してダクネスは。

 

『安心しろ。見合いをするだけだからな、実際に結婚をする訳じゃない。というか、バルターの性格が私には合わないのだがどうしたものか……』

 

 そう困ったように告げるララティーナお嬢様に、俺は確信した。

 あっ、これは親父さん割と乗り気だな。

 いやだって絶対そうだろう。

 娘の性癖を親は当然知っているだろうし。

 父は父で苦労するんだなぁ……。

 

「そうですか……それは残念です。あっ、それで欲しいものはありましたか?」

 

 商品を見て回る俺に声を掛け、ウィズは確認してきた。

 玩具(おもちゃ)売り場にやってきた子供のように目を輝かせ俺は色々物色するが、これといってピンとくるものがない。

 あれでもないこれでもないと難航していると、あるものが目に留まった。

 ……。

 俺はそれを見つけた瞬間店主の元に持って行き……

 

「これでお願いできるか?」

 

 ……ウィズは一瞬顔を引き攣らせた。

 無理もない、これはそれだけ高価なものなのだ。流石に図々しいか、やっぱり他のにしようと諦めたところで、彼女は……

 

「分かりました、これをお譲りします。その、何分貴重な物なので大事に使ってくださいね?」

 

「もちろんだ。有効に使わせてもらうよ」

 

「カズマさんの強制任務が成功することを願っていますね!」

 

 ……そう微笑みながら、俺に手渡してくれたのだった。

 

 

 §

 

 

 一週間後。

 一番簡単だと判断した『キールのダンジョンの異変調査』を達成させることにした俺とめぐみんのパーティー、そこにゲストとしてアクアとダクネスが追加された豪華な一行は現在、迷宮(ダンジョン)の出入り口の前に立っていた。

 だが前回とは違う点が一つだけある。

 

 それは、一言で表すと仮面人形。

 

 気味の悪い仮面を被った、膝の高さほどのサイズの人形が一定の法則で奥から這いずり出ている。

 俺達はそんな彼らを遠巻きに眺め、辺りを警戒していた。

 

「なんでしょうね、これは。見た事も聞いた事もないモンスターなのですが。いえそもそも……これはモンスターなのですか?」

 

「私も知らないんですけど。女神の私が知らないって、これなんなのかしら? というか、こう、生理的に受け付けないんですけど」

 

 めぐみんとアクアがそう訝しげな声を上げると、両手剣を持ったダクネスが彼女達を守るように無言で前に塞がり……接近してきた人形に剣を振り下ろす。

 

「せやぁっ!」

 

 そんな雄叫びと共に振られた剣はしかし、見事に掠った。

 それはもう、綺麗に空気を両断した。

 ダクネスが戦う姿を見るのは対魔王軍幹部戦以来だが……平生はやはり使えないぽんこつ〈クルセイダー〉らしい。

 だって人形避けていないし……。

 なんともいえない気まずい雰囲気が見守っている俺達三人に流れるが、聖騎士は気づかずに夢中になって何度も空気を切りまくった。

 それが、何回目かになった時。

 人形は意識を持ったかのようにダクネスに自分から近づき、そして……

 

 ──爆発した。

 

 いや、本当に爆発したのだ。

 

「「「ダクネス!」」」

 

「大丈夫だ、問題ない! ……やはり話に聞いた通りだな……これは非常に厄介だぞ……あぁっ、イイなこれは……!」

 

「「「言うと思った」」」

 

 熱っぽい声を上げるダクネスは兎も角として。

 防御力が高いダクネスでなければ甚大な被害を被っていただろう。

 特に俺やめぐみんみたいな軽装でレベルが低い冒険者は一溜りもない。いや、先日買った装備のお陰である程度は和らげてくれるだろうが、それでも危険なことに変わりはないだろう。

 アクアも半分冒険者稼業を引退して土木工事に従事ている為にレベルは低い方だが、彼女は女神補正としてステータスがカンストしている。あぁそういえば奇妙なことに知能だけは別らしい。

 きっと頑張りをみせるアクアの行動に、天界にいるジャンヌ様あたりが力を貸したのだろう。

 まぁ俺の勝手な推測だが。

 常闇に葬られた真実は誰にも分からないのだ。

 女神が聖騎士の念の為『ヒール』を掛ける中、俺はどうしたものかと考える。

 というのも、あの仮面人形は動いている者に接近しそのまま自爆するという習性があるそうなのだ。

 それに沢山の冒険者が巻き込まれたらしい。

 珍しく真面目に働いていたダストが大怪我を負っていたのは驚きで、それは何故かというと彼は普段の行いは兎も角として、そこそこ名が売れた冒険者だからだ。勇んで剣を片手に攻撃したら、やられたらしい。

 でもなんで不良冒険者はこの前のデストロイヤー戦で使っていた槍を使わなかったのだろう?

 これはアイリスが言っていたのだが、「あの方には武術の嗜みがあると思います」とのこと。

 人を見る目のある事が自慢な友達の言うことなのだ、俺も信じたいが……。

 ダストの謎は深まるばかりである。

 まぁその怪我もアクアの『セイクリッド・ハイネスヒール』の効果で一瞬で治ったそうだが。

 なんでもこの魔法は、アクア曰く最強の癒し魔法とのこと。デストロイヤー戦で使っていた『セイクリッド・ヒール』の更の上に位置するこの魔法は、水の女神である彼女が使ったらそこに効果がブーストされる。

 いやもう、公式チートにもほどがあるなぁ。

 いっそのこと、アイリスやアクアが魔王を倒しに行けばいいんじゃないだろうか。

 だがそんな〈アークプリースト〉でも、動く者に入ってしまい自爆攻撃を受けたら分が悪い。

 よし決めた。

 俺は三人にこいこいと手招きし、

 

「それじゃあ今からパーティー編成するぞ。俺とダクネスが迷宮に突入し、あとの二人は待機を頼む。めぐみんは万が一に備え爆裂魔法を何時でも撃てるよう精神統一を、アクアはそんな彼女を守ってやってくれ」

 

 そう指示を出すと、頼りになる仲間達は了解とばかりに深く頷いた。

 ダクネスをお供に決めた理由は簡単で、彼女だったら自爆攻撃を受けても問題ないと判断したからだ。攻撃は俺がやればいい。

 彼女とは二人きりで話す時間が欲しかったから、というのもある。

 

「よし、行くか!」

 

 こうして、俺の強制任務が始まるのであった。

 






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