このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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覚悟

 

 俺が手に下げたランタンの淡い光が薄暗いキールのダンジョンの内部を照らす。

  『敵感知』スキルをフルにして発動させ、アンデッドモンスターや仮面人形の奇襲に備える俺に、ダクネスが両手剣を構えながらぽつりと呟いた。

 

「思えば、カズマとこうして二人きりでクエストをやるのは初めてだな」

 

「あぁ確かにそうだな。……そう考えると、人の縁っていうのは面白いよなぁ。王都でお前と会った時は、こんなにも長い付き合いになるとは思わなかったよ」

 

「それは私も同感だ。そっか……あれからもう少しで一年になるのか……」

 

「だなぁ。……ダクネス、一旦ストップだ。『敵感知』に反応がある」

 

「分かった」

 

 十字路から現れたのは、アンデッドモンスター……ではなく仮面人形だった。

 こうして何度も奴らとは遭遇しているが、アイツらはどうも敵対したら襲い掛かってくる習性のようで、何もしなかったら無視を決め込むらしい。

 このまま通り過ぎるのを待とうと思ったところで……

 

 ──ダクネスが無言で近づき、ゲシッとこれまた無言で殴りつけた。

 

 ちょっ、お前っ!

 そんな俺の内心の叫び虚しく、迷宮(ダンジョン)内に爆発音が大きく響く。

 巻き起こった煙が暴れ周り俺は咳き込んでしまう。

 しばらくすると煙が晴れそこには……

 

「ふむ。やはり……イイな!」

 

「イイな、じゃねーよ! なぁダクネス、お願いだから止めてくれないか? お前は無傷だろうけど見てるこっちが心配するし、何より爆発音を聞いた他のアンデッドが来るかもしれないんだからさ」

 

 そう命令すると、ダクネスは心外とばかりに目を見開かせて、

 

「んんっ。確かに私の性癖も関係あるが……何も理由がない訳じゃない」

 

「ほう。ならその理由とやらを聞かせてもらおうか」

 

 どうせ大したものじゃないだろうという俺の予想は、呆気なく破られることになった。

 ダクネスはキリッと聖騎士に相応しい表情を浮かべ、迷宮の奥の方へと視線を向ける。

 

「カズマ、お前ともあろう頭の回る者が気が付かないのか? 私達がこのキールのダンジョンに入ってから、一度もアンデッドモンスターと遭遇してないことに」

 

「あぁ。俺もそれ思ってたんだけどさ。この前クリスと俺が探索した時に、住んでいたアンデッド達を虐殺しちゃったんだよ。だからじゃないかな」

 

「……そ、そうか」

 

 俺の言葉にダクネスはぼっと顔を赤くし……出てきた人形に八つ当たり気味に両手剣を振るう。

 刹那、またもや爆発音が響いた。

 これだけ迷宮内で爆発しようものなら崩落するものだろうに、流石は嘗てこの国で最強の〈アークウィザード〉が造った迷宮。

 全然びくともしない。

 首無し騎士(ベルディア)戦で新調した鎧もところどころ傷と罅が入っていて、全身煤だらけだ。そんな状態でさえ、彼女の美しい金髪は輝きを失っていない。

 さらには身体は傷一つすら負っていないのだから末恐ろしい。

 俺は念の為アクアから教えてもらった『ヒール』を彼女に掛けながら、苦言を呈す。

 

「だから止めろって。その鎧も高いんだろ?」

 

「それを言われると弱いのだが……それでもここ最近はストレスが溜まっていてな、このように発散しなければやっていける自信がないのだ」

 

 ごめんなさい、その原因は明らかに俺ですね。

 決まりが悪くなって目を逸らす俺に、ダクネスはゴンッと拳を頭にぶつけてきた。

 

「ぎゃああああああ! 痛い痛い痛い! 『ヒール』! 『ヒール』ッ!」

 

「そ、そんなに痛いのか? そこまで力を込めたつもりはなかったのだが……」

 

 やった張本人が心配そうな声を出すが、こちらとしたらそれどころじゃない。

 流石はベルゼルグ王国きっての脳筋戦士、とても痛い!

 クレアといいダクネスといい、この国の貴族はやっぱり脳筋しかいないのか!

 脳筋貴族はこほんと咳払いをして、

 

「お前が自分を心配するのはお門違いだ。確かに『ドレインタッチ』をあの場で使ったのは早計だったが……カズマ、お前は英雄だろう?」

 

「英雄かぁ。……ここ最近思うんだけどさ、皆俺に優しくないか? この前なんて、街の人達に大量のお裾分けをもらったんだけど」

 

「それだけ皆感謝しているということだ。無論私も感謝しているし……何より友人を守るのは当然のことだろう?」

 

 そう言いながらダクネスは笑みを浮かべて……

 

「お前、本当にダクネス?」

 

「……!? お、お前という奴は……!」

 

「いやだって、普段の行いからは到底考えられないし。もしかしてお前……俺に惚れてんの?」

 

「それはない」

 

 おっと、どうやら違うらしい。

 しかしアレだな、そこまで真顔で即答されると悲しいものだ。

 いやもちろん、そんな事は分かっていたのだが。

 ズーンと落ち込む俺を見て、ダクネスは長いため息を吐いた。余計に悲しくなるので止めてくださいお願いします。

 やれやれといった顔のままダクネスは……

 

「まったく……アイリス様も奇特な奴を好きになったものだ……」

 

 ……そんなことをさらりと……!

 ……。

 …………。

 だらだらと冷や汗を流す俺を見て、ダクネスはますます長いため息を吐いて……こいつは馬鹿なのかという目で俺の事を見てきた。

 

「お前、私が気づいてないと思っていたのか?」

 

「……いやいやいや、もしかしたらダクネスの勘違いかもしれないぞ。そうだ、うん、勘違いだよ」

 

「アレを見て勘違いという方が無理な話だと思うのだが……」

 

「なぁ、やっぱりそういう事だと思う?」

 

「そういう事とは?」

 

 こいつ、分かってるクセして……!

 唇を尖らせ子供のように拗ねる俺を、ダクネスは楽しそうに眺め……真顔になってから語る。

 

「まず間違いなく、アイリス様はお前のことを好いている。それは何も、友達としてではないだろうな……」

 

「つまりその……いいいいい、異性としてってことか?」

 

「何故男のお前がそんな風に顔を赤くしている!?」

 

「だだだだだだ、だって仕方がないじゃん!? こちとら童貞だぞ! あんな純粋無垢な可愛い女の子にそんな風に思われたら……!」

 

「ハァ……まったく、お前という奴は……。でも実際、本当は気づいていたのだろう?」

 

「……」

 

 確信を持ったその問いに俺は、ふいっと視線を頭ごと逸らした。

 だが当然、そんな事が許される訳がない。

 ダクネスは自慢の怪力で俺の頭を摑み、強引に軌道修正させてくる。

 めきめきと鳴っちゃいけない音がしているのは気の所為だと思いたい。

 俺は肩を竦めながら。

 

「……そりゃ、本当はなんとなく気づいていたさ。最初に感じたのは王都で別れる時で、次は俺が蘇生してもらってたまたまその日に再開して別れる時で……それに屋敷で過ごした二週間の日々で……」

 

「だろうな。王都の際は私もよく知らないが、なんでもアイリス様はお前の頬に……ききききき、キスをしたそうじゃないか」

 

「なぁ、なんでキスのところで言葉がおかしくなったんだ? お前のその羞恥心の基準が俺、未だに分かんないんだけど」

 

「うぐっ……ま、まぁ話はそこじゃないだろ」

 

「いや確かにそうだけれども。……どうしたらいいのかなぁ」

 

 剣をぶらぶらと振り回しながら呟くと、かなり刃こぼれがあることに今更ながら気がついた。

 全然気づかなかった。

 この剣を購入したのはミツルギの決闘のすぐあとだから……そろそろガタがついたのかもしれない。

 三代目のショートソードを買うのも考えないとなぁ。

 工房のおやっさんに日本刀を打ってもらうのも一つの手だろう。

 と不意にダクネスが……

 

「……私は応援するぞ」

 

「……。……えっ?」

 

 ……戸惑いの声を上げる俺を他所に、友人は続けた。

 

「王族のアイリス様と平民のカズマが結ばれるのは身分の差もあるから大変難しいだろうさ。だがそれを考慮して尚お前がアイリス様を愛するというのなら……表立っては支援できないが裏で手を引こうと思う」

 

「お前それ本気で言ってるのか? もしバレたらそれこそダクネスが国家転覆罪で捕まるんだぞ? ダスティネス家は王家の懐刀と呼ばれるくらいに有名なんだから止めた方が……」

 

「なんだ、心配してくれるのか?」

 

「当たり前だろ! えっ、やだよ? ……俺さ、両親に他人に迷惑は掛けるなと躾けられているんだけど」

 

「今更何を言っている。既に掛けているじゃないか。しかも一国を相手にだぞ?」

 

 正論すぎて何も言えない。

 くそっ、やっぱりコイツは苦手だ。

 普段はドMでド変態なのに、いざとなったら頼りになって……そして頭が固い。

 そしてそれは、アイリスもそうだ。

 彼女達はかなり昔から交流があり、アイリスは姉のようにダクネスのことを慕っていたそうだから、それが良い意味でも悪い意味でも受け継がれているのだろう。

 

「でもさぁ、実際問題不可能だろ。だって相手は本物の王女様だぞ? それにさ、アイリスはまだ十二歳の子供だし何時か気が変わるかもしれないだろ。たまたま仲良くなった男が俺だった訳で、俺じゃなくて他の男だったら絶対そっちに……──」

 

 どんどん語尾が弱くなっていく俺。

 

 刹那、俺の視界が上下に大きく揺れた。

 

 ダクネスが俺の首根っこを摑み、身体ごと宙に浮かせているからだ。

 彼女の美しい顔が接近し、青とも翠ともとれる瞳が極限にまで細められ俺を鋭く射抜く。

 何時もの仏頂面ずらではなく、怒りで顔を真っ赤に染めている。

 唇が触れ合うくらいの超至近距離で、俺達は長い間見つめあった。

 やがて友人は毅然とした口調で告げる。

 

「カズマ、お前の心配は分かるつもりだ。確かにお前の言う通りだろうさ。だがな、アイリス様のお気持ちをそのような『勘違い』で済ませるのは我慢できない!」

 

 その糾弾に俺は、嘗てないほどに頭に血が上った。

 この世界で初めて、本気の怒鳴り声を上げる。

 

「だってそうだろうが! 明らかにおかしいだろ! あれだけ容姿良し、性格良しの女の子が俺のことを好きになるなんて絶対におかしい! ……あぁ確かに? 確かに俺はベルディアやデストロイヤーを斃したよ? でもそれは、俺が凄かったんじゃない。めぐみんやアクア、ダクネス……お前らが凄かっただけじゃないか! 自分でいうのもなんだけど、俺はめっぽう弱い。それはもう弱い! 例えばミツルギと正々堂々と戦えなんて言われたら、百パーセント負ける自信が俺にはある! おまけに美人にはセクハラを──ここ最近はあんまりしてないけどやっているし、なんだったらおっぱいだってガン見している! そんな俺を好きになるなんておかしいだろうが!」

 

 そんな俺の心の悲鳴に、ダクネスはわずかながらたじろいだ。

 その隙に俺は首を摑んでいた彼女の手を払い除け、三歩ほど距離を取る。

 ……。

 あれっ、なんで俺こんなに熱くなっているんだろう?

 らしくないなぁ……。

 ダクネスにはちょっと……いやかなり八つ当たりをしてしまった。

 早く謝ろう。

 その方がお互いの為だろうし。

 気まずい雰囲気を打破するべく俺がごめんなさいと言うべく息を吸った……

 

 ──その時。

 

「……お前はさっきから、あーだこーだと理由を言って、自分の気持ちを明かさないな」

 

「……それはその、えっと……」

 

 言葉を濁す俺を、ダクネスは悲しそうな顔で見つめる。震える声で、彼女は続けた。

 

「私はなカズマ、恋なんてしたことないし……知っての通りこんな性癖だからな、乙女心なんてものは分からない」

 

「だろうなぁ。というか、乙女心って……お前ってやっぱり内面はピュアだったんだな」

 

「茶化すな! ……なぁカズマ、身分の差とか相応しくないとか、それが恋をすることに何か弊害があるのか? お前はアイリス様のことが好きなのか? それを聞かせてくれないか? ……それとも私は、相談ができないほどに頼りないか?」

 

 そんな訳ないじゃないか!

 自然と動悸は激しく脈打ち息は荒いでいた。

 全身から汗が流れ、身体は震えてしまう。

 ……。

 ……実際のところ、どうなんだろう?

 俺はアイリスのことが好きなのか?

 生まれてこのかた十六年、本気で恋をしたことなどなかった。

 精々が幼馴染との女性との約束くらいで、それだって彼女が不良娘になってからは勝手に幻滅して家に引き籠った。

 俺がこの異世界に転生してから、もう少しで一年になる。厳密には春の終わり頃だったがそんなの些細なことだろう。

 冬も明け、もうじき春となり……桜も満開に花咲く。

 

 ──何時しか俺はこの一年のことを思い返していた。

 

 馬鹿みたいな死因で死んで、天界でアクアと出会いこの世界にやってきて。

 かと思いきや最初のスタートラインは王都で……クレアによって取調べを受けたったけな。

 それでその後はアイリスと出会って……友達になって。

 三ヶ月と少し王城で悠々自適に過ごして……『テレポート』でアクセルに転移して。

 冒険者活動を始められるかと思いきや仲間集めから始まって……けれど中々上手くいかず。

 親方の元で土木工事をして、仲間のめぐみんと出会って……爆裂魔法を間近で見て凄いと思った。……まぁその後にネタ魔法だと判明したけれども。

 アクアが自業自得で下界に左遷されて、精根を直す為に親方の元に預けて。気づいたら本物の女神になっていたっけなぁ。

 沢山のクエストを仲間と一緒に達成させて……首無し騎士が廃城に居座り。

 なんやかんやありつつも戦うこととなって自爆攻撃で奴を巻き込んで斃し……ジャンヌ様との約束のお陰で死んでから一ヶ月後に蘇生させてもらった。

 クリスとの迷宮探索は楽しかったし、アクアから聞かされたキールのダンジョンの真相は聞いていて面白かった。

 そして機動要塞デストロイヤーが襲撃してきて……沢山の冒険者と協力してなんとか斃した。

 ……。

 ……そんな冒険をしつつも、常に心の奥底には彼女の笑顔があったのを俺は否定できない。

 毎回会う度に彼女は嬉しそうに笑ってくれて、本当に短い間だったけれど……確実に俺はそんな彼女に惹かれていったのだろう。

 あぁそっか……。

 

 ──どうやら俺は、アイリスのことが好きらしい。

 

 俺の変化に気づいたのか、ダクネスは満足そうに頷いた。

 どちらともなく笑いが込み上げ、迷宮内に男女の笑声(しょうせい)が届き渡る。

 

「ありがとうダクネス。お陰で吹っ切れたよ」

 

「そうか……なら私も良かった。まぁまずは強制任務を達成させよう。話はそこからだ」

 

 そう急かすダクネスに俺は、先輩女盗賊の言葉を借りることにした。

 

「そうだな。それじゃあ──いってみよう!」

 

 

 §

 

 

 その後は順調すぎるほどに攻略は進み、俺達は再奥地にまで到着した。

 そして廊下の奥からは、仮面人形が一定時間の感覚でそちらから登場する。

 やはりというか、人形達は作り出されたもののようで、奥には事の元凶がいるようだ。

 

「カズマ、事前に渡した札は持っているな?」

 

「もちろん。にしても、流石は異世界……こんなお約束な展開があるなんてなぁ……」

 

「……? お約束? お前は時々、変なことを言うな……」

 

 その言葉を華麗にスルーしつつ、俺はロングコートの胸ポケットから一枚の札を取り出す。

 これは強力な魔法が込められたもので、たとえどんなに強力な魔法陣であっても、これを貼りつければ効果は消えるという優れもの。

 こういった正体不明のモンスターが突如出現した場合は、何者かが召喚したという線が最も濃い。

 これはシンフォニア卿から渡されたもので、決してなくすなと忠告を受けていたのだ。

 

「カズマ、お前は私の後ろにいろ。防御力が高い私なら、まず即死はないだろうからな」

 

「了解。それじゃあ頼むぞ、信頼しているぜ聖騎士!」

 

 意を決して俺達はそのまま奥に向かい、そいつと対面した。

 俺達の気配に感ずいているだろうに、そいつはのんきに胡座をかいて地面に座り、こねこねと人形を作っていた。

 迷宮に場違いな黒いタキシードに身を包み、白い手袋を着けたそいつは、人形と同じデザインの仮面を着けていた。

 仮面の所為で分からないが、体格からして男だろうか。そして──禍々しい、という言葉はこのような事をいうのだろうか……。

 まだ何もしてないのに、そいつが放つオーラは今までのどんな敵よりも濃厚で恐ろしい。

 足が竦んでいないのはこれまでの強敵との戦闘があり、身体が適応してしまっているからだろう。

 あとは、頼りになるクルセイダーが俺を庇い守っているからか。

 そのクルセイダーが大剣の切っ先を鋭く向けながら、そいつに問う。

 

「貴様、この迷惑極まりない人形を作っている張本人だな?」

 

「……?」

 

 その言葉にそいつは作業を止めて……まるで今気づいたかのようにはてと首を傾げる。

 武器らしい武器はないが……侮れない。

  『敵感知』スキルが発動してないから敵意はないようだが……それも恐らく今だけだろう。

 冷や汗が一滴流れ……男は仮面の目の部分を赤く、そして妖しく光らせて口元をにやつかせた。

 

「ほぉ……。よもやここまで辿り着くとは! バニルさん人形の攻撃を掻い潜るとは中々の冒険者のよう! それではそんな冒険者に敬意を持って自己紹介をしようではないか! ──如何にも吾輩がこの迷宮が狂った事の元凶! 魔王より強いと評判の幹部であり数多の悪魔達を率いる地獄の公爵! 全てを見通す大悪魔、バニルである!」

 

 ──魔王軍幹部、バニルとの戦闘が始まった!

 








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