このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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見通す悪魔

 

「ほぉ……。よもやここまで辿り着くとは! バニルさん人形の攻撃を掻い潜るとは中々の冒険者のよう! それではそんな冒険者に敬意を持って自己紹介をしようではないか! ──如何にも吾輩がこの迷宮(ダンジョン)が狂った事の元凶! 魔王より強いと評判の幹部であり数多の悪魔達を率いる地獄の公爵! 全てを見通す大悪魔、バニルである!」

 

 ──暗い迷宮の中、俺は無意識に数歩じりじりと後ずさっていた。

 ダクネスが油断なく両手剣をバニルに向けるが……正直、勝てる気が全然しない。

 なんだって相手は、あの魔王軍幹部だ。

 奴から放たれる圧は、ベルディアと同等……いや、それすらも軽く凌駕している。

 さらに奴は俺の聞き間違いじゃなければ魔王より強いと評判のとか、そんな事を言っていた。

 そしてそれは何も、自惚れとか慢心とかでは断じてないだろう。

 だって同僚(ウィズ)もそう言っていたし。

 くそっ、よくよく考えればおかしいじゃないか。

 いくらクリスがアンデッドモンスター相手に無双していたとはいえ、あれから少なくとも一ヶ月は経っている。

 此処は人が滅多に訪れない初心者迷宮だ。

 一軒家に人が住まなくなったらすぐにぼろぼろになるように、すぐに此処、キールのダンジョンにもアンデッドモンスターが住み着く筈だ。

 だがしかし、此処までの道中俺とダクネスは一度もアンデッドモンスターと遭遇していない。

 おおかた、ふざけた名前のバニルさん人形とやらが駆逐していったのだろう。

 理由は到底分からないが。

 俺は仲間に囁く。

 

「ダクネス。此処は一旦退こう。『敵感知』が反応していないから、今のコイツに敵対の意思はない。アクセルに戻って万全の準備をしてから……」

 

「いや、それでは駄目だ。カズマ、お前に課せられた強制任務(ミッション)を忘れた訳じゃあるまい。上手くいけば一気に二つも達成できるのだ、ここを逃す手はないだろう」

 

「いや確かにそうだけれども。でも相手は魔王より強いと評判の大悪魔様だぞ? いくら主人公補正で覚醒するお前でも、無理なものは無理だと思うし、〈冒険者〉の俺じゃ為す術もなく殺されると思うんだ」

 

「それはそうだが……」

 

 俺達のやり取りを聞いていたバニルが、面白おかしそうに口元を三日月形に歪めた。

 悪魔の哄笑が迷宮に響く。

 

「フハハハハ! なるほどなるほど、そこの小僧、お前は聞いたところ()()強制任務を課せられているようだな。どれ、興味が湧いた。汝らを見通してみるとしよう」

 

「おいちょっと待て。なんだその、見通すって」

 

「言葉の意味だが。吾輩は様々な側面を持つ大悪魔なのだが……対象の過去や未来を漠然とながら見通す事ができるのだ!」

 

「「んな!?」」

 

 期せずして俺とダクネスの声がハモる中、バニルはじっと俺……ではなくダクネスを見つめ……

 

「……ふむふむ、ここ最近疲労のあまり寝不足で疲れているのに父親が見合いしろと煩く、いっその事一発ビンタをかましてやろうと考えている不孝娘よ。そんな時は何かを滅茶苦茶にするのが吉だと聞く。どれ、このバニルさん人形をサンドバッグ代わりに叩くといい!」

 

 ぶちっと、そんな音が聞こえた。

 恐る恐るダクネスの横顔を眺めると、それはもう眉間に皺を寄せ青筋を浮かべていらっしゃる。

 

「ぶっ殺す!」

 

 そんな乙女とは到底いえない掛け声と共に聖騎士は一歩踏み込み両手剣を振り下ろすが……そこは流石に幹部、余裕を持って回避した。

 フルパワーで振られた剣は迷宮の地面に大きく食い込み、喰らったら一溜りもないだろう。

 それでもバニルは優雅にネクタイを結び直しながら、

 

「まぁ待て。別に吾輩は、汝らと戦いたい訳ではない。小僧、汝はどうやら〈冒険者〉のようで『敵感知』を取得しているようだが、反応はあるか? 」

 

「どうなんだカズマ? 」

 

「確かにないよ。攻撃されたら生物は敵意を持つものだけど……こいつは一ミリも持っていない」

 

 俺の言葉にダクネスは渋々ながらも両手剣を納刀し、話を聞く姿勢を作る。俺もまた、二代目ショートソードを鞘に収めた。

 バニルは満足そうに頷いてからこう言う。

 

「吾輩が此処にいるのは魔王の奴に頼まれた、ある調査の為だ。そして……アクセルの街にいる真面目に働けば働くほどに赤字を持つ商才皆無のぽんこつ店主に用があって此処に来たのだ」

 

 

 §

 

 

 こういった話の場では俺の方が適任だと言い出し、ダクネスは仁王立ちして辺りを警戒している。

 俺とバニルは胡座をかいて地面に座り、取り敢えず休戦を取る事にした。

 

「まずだが、吾輩は魔王の奴に頼まれてやっている、しがないなんちゃって幹部でな」

 

「あぁうん、ちょっと待て。その言葉流行っているのか?」

 

「ふむ? 確かに吾輩が最初に言い出した事だが……」

 

 衝撃的な事実!

 

「そ、そうなのか。あっ悪い、続けてくれ」

 

「うむ。でだ、吾輩は悪魔の更に上に位置する大悪魔である。頭が回る事に関しては人一倍自信があると内心豪語している小僧よ、質問するが。悪魔族のご飯はなんだと思う?」

 

「うん、言いたい事は色々あるが……そうだなぁ。確か、悪感情だっけ?」

 

 レインさんから教わった事を思い出し口にすると、バニルは関心関心とばかりにぱんぱんと手を叩いた。

 コイツ、妙に人間くさいな。

 

「勤勉で何よりである。世間では悪魔族は醜悪で人間を殺すと見なされているようだが、それは全然違うのだ。吾輩達にとって、汝ら人間は最高のご飯製造機。それを殺したりするのはまったくもってナンセンス。汝ら人間が一人生まれた瞬間に立ち会えたならば、吾輩達は特性のダンスを披露しよう」

 

「そ、そうか……。うん? でもさ悪感情っていうのはつまり嫌だとか憎いとか、そういったものだよな?」

 

「うむ、その解釈で問題ない」

 

「だったらさ、やっぱり危害は加えるんじゃないのか? だって普通に生活していたら、そんな感情は芽生えないだろ」

 

「おぉ、そこに気づくとは流石だな小僧。バニルさん検定三級を進呈しようではないか」

 

「いらんわ! っていうかなにその、バニルさん検定三級って!」

 

「今適当に考えたものだが何か?」

 

 イラッ。

 殴りたい衝動を理性でもって懸命に抑える俺を眺め、バニルは愉快そうに。

 

「フハハハハ! 中々の悪感情、美味である! ふむ小僧、汝は面白いな。どうだ、吾輩専属のご飯製造機にならんか?」

 

「なりません」

 

 真顔になって答える俺を、悪魔は至極残念そうに嘆息して……こねこねと土を弄り始めた。

 うん、やっぱりやりにくいなぁ。

 思えば、ベルディアもこんな感じだった気がする。

 人間っぽい悪魔なんて二次元の中だけだと思っていたが、本当にいるんだなぁ。

 

「話を戻すが、小僧の言った事はあながち間違いではない。吾輩達も生物だからな、当然好き嫌いがある。中にはそういった事をやる悪魔がいるのは認めよう」

 

「やっぱりそうなのか。で、ちなみにお前の好きな悪感情は?」

 

「ふむそうだな。どれ、一度見せてやろう……」

 

 そう呟くとバニルは俺をじろじろと見据え……刹那、身体が変形した。

 ぐにゃぐにゃと奇怪な音を立てながら形が変わっていき……やがて一つの塊に収束されていく。

 

 そして現れたのは、アイリスだった。

 

「……!? んな、ちょっ……!」

 

 呆然とする俺を他所に、アイリスはにっこりと笑って……

 

「大好きですよ、カズマ様!」

 

 ……そんな事を……!

 ヤバい、これはヤバい。

 ついさっきアイリスに対する恋心を自覚したからか、たとえ偽者であろうとも直視できない。

 狼狽える俺を見かねて、ダクネスが叱咤してくる。

 

「おいカズマ、何顔を真っ赤に染めてるんだ! アレは紛い物だぞ!?」

 

「だだだだだだだだだ、だって仕方ないじゃん! あんな話さっきしちゃったんだから!」

 

「ほう。中々の美味であるが……今ひとつ足りんな。やはり正体を隠した方が良いのか……」

 

 とバニル姿に元に戻った悪魔がなんか考察しているが、アイリスの声のままなので止めて欲しい。

 いやほんと、違和感しかないのだが。

 

「とまぁ今見せたように、吾輩の求める感情は汝らが危惧しているようなものではない」

 

 それでも俺からしたら迷惑極まりないのだが。

 俺は辟易しながら、話を続ける事に。

 

「それで? その魔王に頼まれた調査ってなんだ? 何、キールのダンジョンの掃除でもやれって言われたの?」

 

「フハハハハ! そんな簡単な事だったら吾輩も休暇ができて満足だったのだが。そうだ、汝ら知らんか? つい数ヶ月前、幹部のベルディアが殺られたのだが……殺した奴を探してこいと言われてなぁ」

 

「「……」」

 

 滅茶苦茶心当たりがあります。

 というか、お宅の仲間を倒したのは一応俺です。

 不自然に黙る俺達に気づいてないのか、バニルの独白は続く。

 

「そもそも吾輩がこのような任務を課せられたのは深い理由があるのだ」

 

「そうなのか? まぁ自称大悪魔のお前だもんな、何かヤバい事をしでかしたんだろ?」

 

 思わず口を挟む俺に、バニルは甚だ理解できないとばかりに肩を竦め……気分転換なのかまた土をこねこね弄り出す。

 

「そんな訳なかろう。魔王の奴の部下をからかい、自慢の娘をからかっていただけだ。いやはや、特に娘の方は反応が良くてなぁ……人間ほどではないにしろ、中々の悪感情を製造してくれた。でだ、そのような生活を送っていたら魔王が『勝手に城に居座って部下と娘をいじめるなら、たまには仕事をしてくれないか……お願いだから』と泣きつかれ、優しい悪魔の吾輩は『うむ! 任されたぞ魔王。それではさらばだ、ここ最近父親がウザいと内心思っている娘と、旧友よ!』と別れの挨拶を告げ……偶然此処を通り掛かってな、どうやらキール()はいないようだし、しばらくの間住み着くこうと思ったのだ。……はて小僧よ、吾輩のどこに落ち度があったと言うのか?」

 

「全部です」

 

「ふむ、しかしそうは言われても吾輩は悪魔なのだからそのような性質なのだ。確か汝ら人類には、基本的人権の尊重とやらがあるのだろう? 吾輩は確かに人間ではないが、基本的悪魔権の尊重があると思うのだが」

 

「いやそんな事言われましても。……ないんじゃないかなぁ」

 

「そうか……今度魔王に直談判してみるとしよう」

 

「っていうか、此処に住み着いていいのか? お前には魔王から頼まれた依頼があるんだろ?」

 

 嘆息しながら訊ねると、バニルはじっと俺を見つめ……不意に。

 

「フハハハハ! フハハハハハハハッ! なんと小僧、汝がベルディアを斃したのか! フハハハハ! 愉快愉快!」

 

 いきなりバレた。

 というか何だ、コイツの見通す力強すぎるだろ。

 ここ最近会う奴らは揃いも揃ってチートを持っていてとても羨ましい。

 ぐぬぬぬと呻いていると、今まで傍観していたダクネスが俺とバニルの間に割り込んで。

 

「確かにカズマが首無し騎士(ベルディア)を斃した。それでバニル、お前はどうする? 私達と戦うつもりか?」

 

「だから待てと言っておろう。自分でも大物と戦う時は覚醒し活躍するクセして、戦果は皆無に等しい事を内心気にしている娘よ、もう少し落ち着きを持った方が吉。見通す悪魔が予言しよう、汝、落ち着きを持ったあかつきには幸福が待っておる」

 

「き、貴様……! おいカズマ、この悪魔をぶった切っていいか!? いいよな!?」

 

「ちょっ、落ち着けよダクネス。まだコイツの話は終わってない」

 

「うむうむ。小僧、そして娘よ。……汝らは気にならなかったか? 何故この迷宮にはバニルさん人形しか生息していないのかと」

 

「お前が片付けたんだろ」

 

「正解だ。そういえば、もう作る必要はないな。汝ら冒険者達に迷惑を掛けたのは謝ろう」

 

 いや、敵に謝られても非常に対応に困るのだが。

 そんな俺を見て、バニルは口元をにやつかせる。

 どうにもコイツは、やりにくい。

 空気のように逃げて煙に巻くのだ。

 侵略者はパチっと指を鳴らし……その瞬間、バニルさん人形は土に還っていった。

 多分、キールのダンジョンの外にいた奴らもそうだろう。

 やはりというか、コイツが諸々と元凶だったらしい。いやもちろん分かってはいたが。

 

「吾輩にはな、破滅願望があるのだ。いや、大望といった方が良かろう」

 

 ぽつりと投げ出された言葉に、俺とダクネスは思わず顔を見合わせてしまう。

 破滅願望? 夢? 大悪魔のコイツが?

 何だろう……悪魔が掲げる夢って、ロクでもないものだと思うのだが。

 

「むっ、何だその顔は。人は誰しも、それこそ悪魔にだって夢はあるものだ」

 

「それは悪かったよ。それで、夢って何だ?」

 

「吾輩は悪魔故にな、無限にも等しい時間を過ごしてきた……。無限の命なんてものはな、ハッキリいってとても退屈でなぁ。そしてある時、吾輩はとびきりの破滅願望を持ったのだ。それは、とびきりの悪感情を食らったその瞬間に死すという夢だ。魔王の娘の下着の色を城にいる兵士達に告げ口しながら、吾輩は考えた。それはもう考えた。そして、ある結論を得たのだ」

 

 何だろう、話を聞く感じ……少なくともまともなものじゃないな。

 やっぱり悪魔は悪魔なんだなぁ。

 演説で気分が高揚しているのか、バニルは立ち上がり顔を天井に向けながら叫んだ。

 

「まず、迷宮を手に入れる。そして迷宮の各部屋には吾輩の配下達が立ち防いでいるのだ。だがそれだけではない。一見何もない部屋や廊下などにも落とし穴や叡智を問う難問読解など、苛烈な罠を用意する! 冒険者達はそれらと必死になって戦い、遂には最奥にて待ち構える吾輩の元に到着するのだ。王の如く玉座に座る吾輩。それぞれの得物を構える冒険者。……お約束として吾輩は『ようこそ冒険者! さぁ、いざ莫大な富を得るがいい!』……と言い……──」

 

「ごめん、何となくその先の展開が分かった」

 

「なぬ? どれどれ、答え合わせを……ほぉ、確かに合っているな。小僧、汝にはバニルさん検定二級を進呈しよう! ちなみに一級に到達したら夜に笑うバニルさん人形Ⅱを授与しよう!」

 

「いやいらんわ!」

 

「フハハハハ! ……そうか、それは残念である。しかし小僧よ。汝の、仲間の頭が固く更には腹筋も固いクルセイダーが気になっているようでな、話を続けさせてもらうとしよう」

 

「……!? あ、頭は兎も角腹筋は固くない! カズマ、くれぐれも勝手な噂を作るなよ!?」

 

「それはフリか?」

 

「お、お前という奴は!」

 

 口論しながらもその言葉に従いダクネスを見れば、なるほど、確かに気になっているのか心做しか身体が前のめりになっている気がする。

 うぅむ……元が箱入り娘だからか、こういった話は心惹かれるらしい。

 クリスやアクアだったら即攻撃だよなぁ。

 こほんとバニルは咳払いを一つして。

 

「『ようこそ冒険者! さぁ、いざ莫大な富を得るがいい!』……その言葉を区切りに始まる戦闘。しかし流石は歴戦の冒険者、吾輩は死闘の末に倒されてしまう! 吾輩が地に倒れたその瞬間、それはもう見事に装飾された宝箱が! 試練を越えた冒険者達は骸を超え、宝箱を開け……──」

 

 あぁやっぱり、俺の推測は殆ど合っているらしい。

 俺が半眼、ダクネスが目を輝かせてごくりと唾を飲み込み静まり返る中、

 

「するとそこには、『スカ』と書かれたペラペラの紙切れ一枚が。冒険者達はどのような反応をするのか……──」

 

 どうってそりゃあ……。

 

「吾輩は呆然と立ち尽くす冒険者を見ながら滅びたい。どうだ、素晴らしい夢であろう?」

 

 ……。

 うわぁとドン引きする俺達を、バニルは愉快そうに嗤う。

 あぁうん。

 コイツはアレだ、確かに悪魔だ!

 

「貴様に害がないのは分かった。いや、その場面に立ち会った冒険者は気の毒だろうが……しかしそれも、悪魔の娯楽といえばそこまでだからな、私も口出しはしない。だが私達は冒険者で、貴様は悪魔。更には魔王軍幹部だ。……であるならば、やるべき事は決まっているだろう?」

 

 そう言い放ちながら、ダクネスは騎士に相応しい態度を取り、今度こそ両手剣を構え……濃厚な殺気を醸し出した。

 何時ものなんちゃってクルセイダーでは断じてない。

 これはもしかして、やっぱり覚醒しているのか。

 ほんとこの聖騎士の特質はよく分からない。

 しかしそんな覚醒騎士を前にしても、バニルは余裕の態度を崩さなかった。

 

「まぁ待て。これで何度になるか分からんが、吾輩に交戦意思はない。汝ら……特に小僧は吾輩の友人と知己のようだし……汝をもし殺したら、あのぽんこつ店主の不況を買ってしまう。此処に住み着いて分かったのだが、どうやら此処は吾輩の城に相応しくないようでな、あやつの元で働き金を稼ごうと思っていたのだ」

 

「なぁ確認なんだけど。そのぽんこつ店主っていうのはウィズの事か?」

 

「如何にも。吾輩と商才皆無の店主はそこそこの付き合いである。あぁ、歳は言わんぞ。あの恐ろしい魔女が暴れる為に閉口するしかあるまい。いくらチート級の強さを誇るバニルさんでも、爆裂魔法でも撃たれたら死ぬ故になぁ」

 

 ふむ。

 これはもう、見逃して良いのではないか?

 俺は改めて強制任務を思い浮かべる。

 

『一人以上の魔王軍幹部の討伐』

『洞窟に住み着くドラゴンの討伐』

『キールのダンジョンの異変調査』

 

 これで残りはあと二つに減少する訳だ。

 目の前に暇だからか欠伸を呑気にしている魔王軍幹部がいるが、コイツはどうも戦いにくい。

 いくら主人公補正で強くなったダクネスがいても、十中八九負けるだろう。

 ならここは惜しいが、バニルを見逃して他の弱そうな幹部を教えてもらえば……。

 いや待てよ?

 ……『キールのダンジョンの異変調査』は確かにこうして果たされた訳だが、どう説明すればいいのだろうか。

 魔王軍幹部の大悪魔バニルが原因ですと答えるのは簡単だが……その場合俺はかえって益々国家転覆罪の容疑が掛けられるのでは?

 だって、俺が魔王軍の手の者だとマルクス家やシーア家の貴族達は主張している訳で、ここでバニルを放置したらそれこそ奴らの思う壷じゃ……。

 ……。

 これ、戦うしか道がないのでは?

 

「カズマ、私が前に出てこのふざけた悪魔と戦うから、お前は自由に動いてくれ。その方がお互いに戦いやすいだろう」

 

「……分かった」

 

 くそっ、やるしかない。

 俺は怯える心を奮い立たせ、剣を勢いよく抜刀しその鋭利な切っ先を向けた。

 けれども俺の心意を反応させてか、がたがたと震えて定まらない。

 見ればダクネスもそうだ。

 

「汝らの……特に小僧の事情はある程度見通した。それ故に宣言しよう! 汝、吾輩を殺さぬが吉」

 

「はぁ!? だったら分かるだろ、俺がお前を殺そうとする理由が!」

 

「カズマ、もうコイツの話を聞くな! 私達を動揺させる気だ!聞く耳持つな!」

 

「あ、あぁ!」

 

「ふむ、仕方があるまい。……許せ、娘よ」

 

「……!? かはっ……な、何を……」

 

 その言葉と共に……刹那、声を残してバニルの身体が消えた。

 辛うじて動く物体が視認でき……気づけばダクネスの懐に踏み込み、彼女を気絶させていた。

 でもどうやって!?

 鎧は無事だ。外傷は見たところ何処にもない。

 つまりは精神に害を及ぼすスキルか何かを使ったのか……?

 でもスキル名なんて一言も……

 

「ダクネス!」

 

「心配は無用。吾輩の技ゆえ。ただし、目覚めるには少しばかりの時間を必要とするがな」

 

「……!」

 

 ヤバい!

 ヤバいヤバいヤバい!

 これは過去最大級にヤバい。

 冗談抜きで、本当にピンチだ。

 これが魔王より強いといわれる大悪魔の力なのか!

 脂汗を大量に流す俺を、バニルは面白そうに見つめ……

 

「さて、これでようやく話ができるというもの」

 

「話? 今更何の話をするんだ?」

 

「何、お互いの利害を考えた話だ」

 

 お互いの利害……?

 

「汝、破滅と幸福をその身に宿す冒険者よ。──見通す悪魔と契約する勇気はおありか?」

 

 見通す大悪魔はそう言いながらにやりと口角を上げ……俺を(いざな)うのであった。

 






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