このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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旅立ち

 

『冒険者佐藤和真(サトウカズマ)殿

 先日はあらぬ疑いを掛けてしまい誠に申し訳ございません。深くお詫びを申し上げます。

 さて、今回このようにして国からの文を送らせていただいたのは、とある依頼をする為であります。

 ベルゼルグ王国第一王女の ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス様が隣国のエルロードへ外交にお出になられます。そこで貴方様のパーティーにその護衛をお願いしたいのです。というのも、ここ最近は様々な場所で魔王軍幹部が活性化し騎士団や勇者候補の皆様が自由に動けず……。この世で最も魔王軍幹部を屠った貴方様ならその大役を任せられると我々四大貴族は愚考いたします。

 どうか無様で憐れな私達に力を貸していただけませんか?』

 

 そんな国からの手紙が届いたのが、俺が無罪を勝ち取った僅か数日後。

 ふむ、いけしゃあしゃあと図々しいにも程があるが……アイリスの為なら仕方あるまい。

 それに、せっかく好きな女性と会える合法的な機会なのだ。これを逃す手はないだろう。

 バニルとの契約を果たす為ウィズ魔道具店に籠り……──

 

 それから数日経ち。

 

 ──俺とめぐみんのパーティーは、恩師の転移魔法『テレポート』により王城にやって来ていた。

 すぐに護衛任務に就くと思っていたのだが、昨夜は晩餐会が開かれた。単に俺に対する罪滅ぼしをしたかっただけらしい。

 うん、明らかにご機嫌取りですね分かります。

 晩餐会ではマルクス家の当主とシーア家の当主が俺を待ち構えていて、俺と会うやいなや土下座をする始末である。その一連の動作に無駄は一切なく、俺とめぐみんは絶句したものだ。

 彼女達は噂に違わぬ美女で、唯一残念なところは胸装甲部分に凸凹がないところか。

  『スティール』の刑を処そうと半分くらい本気で考えていた俺は、突然の事に狼狽え。

 そんな俺にクレアがこう耳打ちしてきた。

 

『貴様の悪評を広めておいたのだ。これで馬鹿な事をしでかす輩は減るだろう』

 

 その時のクレアの顔を、俺は忘れないだろう。

 ……完全に極悪人の顔をしていたからなぁ。

 何時ものアイリスの溺愛ぶりは何処へやら、政敵の失脚を喜ぶシンフォニア卿はそれはもう…。

 政治の世界の闇を知った瞬間だった。

 何でも聞くところ、ダスティネス・シンフォニアVSマルクス・シーアの構図が議会ではしょっちゅう勃発するそうな。

 つまり、巨乳派対貧乳派という事だ。

 まぁ実際には、対立しているのはシーア家のようで、マルクス家はどちらかというと中立寄りだそうだが。

 いやその前に、俺の悪評とやらを悔しく聞きたいのだが。

 ……よくよく考えれば四大貴族にセクハラをするのもどうかと思うので、俺は渋々ながらも許す事に。

 どのみち国王陛下から沙汰が下されるだろうから、彼女達の影響力は確実に下がるだろう。

 ならば真の男女平等主義者の俺は何もしない。

 申し訳程度にお金を貰ったが、それは俺が強制した事ではないし、たとえその額が何千万エリスという大金であっても問題ない筈だ。

 ないったらない。

 晩餐会が開かれるとは露程も知らなかった俺とめぐみんは当然、必要となる特別な服など持っていなかった。

 だが流石は王城。

 俺は無難に燕尾服を、めぐみんは赤色のロングイブニングドレスを借りて参加したのである。

 俺は貴族との社交を、めぐみんは出された高級料理をがつがつと食べていた。

 途中、綺麗なドレスを着飾ったアイリスとダンスを踊ったり、めぐみんが満天の夜空に爆裂魔法を撃ったりして場を多いに賑やかせたりしたが、それも良い思い出だ。

 そうして晩餐会は幕を閉じたのである。

 

 ──翌日。

 

 俺とめぐみんのパーティーは何時もの冬用戦闘服を一部の隙もなく身に纏い、王城の裏側に案内されていた。

 そしてそこには、質素ながらも頑丈な作りをした馬車が。

 いや正確には馬車ではない。

 本来車輪があるべき所には何もなく、更には馬車を引く馬もいない。

 代わりにいたのは……

 

「リザードランナーです! リザードランナーですよカズマ! しかも二匹!」

 

 ……そう、二匹のモンスターだった。

 子供のめぐみんがやたらとはしゃいでいるが、俺からしたらまじかよと思わざるを得ない。

 リザードランナーと呼ばれるモンスターは、端的に述べるとするなら、二足歩行のトカゲ。

 もちろん、トカゲだから爬虫類(はちゅうるい)

 普段は滅多に暴れない草食系。

 先生から教わった事を頭の中で反芻していると、彼らは俺と目が合うなり……

 

「キュンキュンキュイー!」

 

 ……可愛らしく鳴き声を上げる。

 実は可愛いものが好きなめぐみんがますます瞳をきらきらと輝かせる中、クレアがランナーの頭を撫でながら口を開いた。

 

「今回の顔合わせはお忍びだ。だから本来なら普通の馬車を使うのだが……それでは時間が掛かるし、何より私が耐えられない。何せ普通なら往復に十日は掛かるからな、その間アイリス様と会えないと思うと……!」

 

「おいちょっと待て。何だその私情丸見えの考えは」

 

 アイリス限定でロリコンになる貴族は、俺の突っ込みを華麗にスルーして続ける。

 

「故に、この王家特性の竜車を使うのだ。これを使えば思い切り時間短縮できるからな」

 

 ……。

 あぁ……これは駄目な奴だ。

 コイツのこの性質は、多分未来永劫治らないだろう。

 俺がドン引きしているのにすら気づかず、クレアは何事かをぶつぶつと唱え、ランナーの頭の上に手を置いた。

 何をしてるんだろう?

 そのように思った瞬間、突如として竜車が地上から数センチメートルほど浮かび上がり……ある一点でぴたりと止まる。

 なるほど、車輪がないのはこの為か。

 これならリザードランナーが車を引くのに殆ど抵抗はないだろうし、彼らの自慢の脚力を活かせるだろう。

 俺がへぇーと感心していると、再度ランナーの頭を撫で始めたクレアが虚ろな目になりながらぶつぶつと。

 

「嗚呼、アイリス様。アイリス様……アイリス様! 嗚呼っ!」

 

 ……。

 

「だったらお前も付いてくればいいだろ、そんなに心配なら」

 

 思わず小さく突っ込んだ俺に、クレアはキッと物凄い剣幕でこちらを睨む。

 物凄く怖いんですけど!

 ……どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。

 よくこんなのが貴族やってられるよなぁと国に対して軽く不信感を抱いていると、件の貴族様はその美貌をそれはもう歪めながら。

 

「私だって行きたい! 一緒にアイリス様と旅をしたい! ……だがな、貴様に対する謝礼金で国家の予算は大幅に減り、その対応に追われているのだ。こう見えても私はこの国の重鎮(じゅうちん)。当然仕事も多い。何時もならアイリス様との時間を作る為に仕事を早く終わらせたり、もしくはレインに時々やらせていたが……今回ばかりは真面目にしないといけないのだ。それにここ最近は魔王軍幹部が至る所で活発に動いていてな……」

 

 自分の同僚に仕事をやらせるとか、マジでコイツが四大貴族、更には重鎮で良いのだろうか。

 今度アイリスに進言しよう。

 とそんな事を考えていると、そのアイリスが走ってこちらに近づいてきた。

 

「おはようございます、カズマ様、めぐみんさん!」

 

「「おはよう」」

 

 俺とめぐみんが期せずしてハモる中、アイリスはぴょんぴょんと跳ねながら楽しそうな笑みを浮かべていた。

 それをクレアは世間様に見せられないほどの顔になり……しまいにはグヘヘヘヘと嗤う始末。

 それに気づかずアイリスは。

 

「旅は初めてでして! しかもあなた達と旅ができるなんて、本当に楽しみです!」

 

「そうか。よしここは、沢山の地域を転々と渡り歩いたこの俺が色々と伝授しよう!」

 

「まあっ。それは楽しみです!」

 

 そう自信満々に胸を張ると、横からじっと二人分の視線が送られてきた。

 視線を辿るとそこには、めぐみんとクレアが何か言いたげにこちらを見つめてくる。

 そして彼女達はひそひそ声で。

 

『聞きましたか? あの男、アクセルから一度も外に出た事ないのに……』

 

『まぁまぁ、いいではないですかめぐみん殿。どのみち恥をかくのはあの男。帰ってきた際には、その時の事を教えてくださると幸いです』

 

『もちろんですとも』

 

 何か言っているが、そんなの無視だ。

 もう待ちきれない様子のアイリスが、如何にも王族が身に着けそうな煌びやかな鎧と剣を……おいちょっと待て、今更だけど何でその剣を持っている?

 それは見る人を自然と惹き付ける一本の(つるぎ)

 それは俺とアイリスが宝物庫に忍び込んだ時に発見した、厳重に保管されていた聖剣だった。

 何とかカリバーとかという名前が残念なものだが、その外見は明らかにアレであり、地球で生きていたら人生で一度は必ず聞いた事があるだろう。

 それだけの知名度を誇る聖剣がどうして……?

 俺はこいこいとクレアを手招きして。

 

「おいクレア。何でアイリスがあの剣を持ってるんだ? 確かアレって、王族に代々伝われるものだよな?」

 

「そうなのだが。国王様が王城にお戻りになった際にな、アイリス様が肩たたきしながら『お父様。宝物庫にある聖剣を貰ってもいいですか?』とお願いしたのだ。そしたら国王様は『よし分かった。大事に使うんだぞ?』とそれはもうだらしのない笑みでお譲りになり……」

 

「そんなんでいいのか国王」

 

「しかも欲しがった理由が、鞘が綺麗だからというものでな……貴様の悪影響が確実に伝わっていて、対応に困っているのだが」

 

 駄目だこれ、この国の上層部はもう駄目だ。

 今ならデストロイヤーを作った研究者の気持ちも痛いほどに共感できる。

 そら確かに、こうなるわ。

 特に国王陛下、貴方はもう少し娘に対して厳しくしてください。

 まぁ魔王軍との戦闘で王都を日々留守にしているから、可愛い娘に甘くしたくなるのは分かるのだが。

 よく国を維持できるなぁと一周回って感心していると……駄貴族が何時も胸元に下げているネックレスを取り外し無言で俺に渡してくる。

 そこには家紋が彫られていて……確かこれは貴族の当主が自分の身分を証明する、下手したら家宝以上に大切なものの筈。

 ……どうしてこれを?

 ぎょっと目を剥く俺に対して、クレアは至極真面目な顔になりながら。

 

「いいか、これをお前に預ける。くれぐれもなくすなよ」

 

「ちょっ、どうしたんだよ白スーツ。そんなキャラに似合わない顔をして」

 

 戸惑いの声を上げると、シンフォニア卿は身を屈めながらひそひそと。

 

「貴様、今回の護衛任務をどこまで知っている?」

 

「どこまでって……アイリスがお忍びで外交に行くんだろ? 行く先はエルロードで、何でもあちら側に何やら不穏な動き……具体的には支援金を減らそうとしていて、それを防ぐのが目的なんだろ? 後半については昨日知ったけども」

 

 送られてきた手紙の内容を思い返していると、クレアは軽く舌打ちをした。

 

「やはりな。いいか、よく聞けよ。今回の顔合わせは……アイリス様が結婚する事を示している。すぐにではないが……何時かあの方はあの隣国の我儘王子と結婚する事になるだろう」

 

 ……。

 ……えっ、今なんて?

 呆然とする俺を他所に、クレアは苛立ち混じりに言葉を続けた。

 

「元々アイリス様とエルロードの第一王子は許嫁の訳なのだが……。支援金を確保するには、国同士の結び付きを強くするしかない。ここまでは分かるな?」

 

「あ、あぁうん。それは分かるけど……」

 

「となれば、手段はそう多くない。賄賂を送ろうにも、私達の国はその逆、送られる側なのだからな。なら残りの手は……──」

 

 そこまで言えば流石にピンと来る。

 

「そうか、政略結婚か……。アイリスはそれを知っているのか?」

 

「流石に面と向かっては伝えてないが……聡いアイリス様の事だ、確実に気づいている筈だ。外面では何時も通りだが、その内面は……。──だからサトウカズマ、貴様には私から依頼をしたい。その依頼は、言わなくてももう分かるだろう?」

 

「もちろんだ。絶対にそんな事は認めない」

 

 そうだ、そんなの認めない。

 俺がアイリスの事が好きだとか関係なく、それ以前に一人の幼い少女をそのように使う事が許せない。

 それがたとえ、国を運営するにあたっては仕方がない事でも。

 俺が強く断じた事に安心したのか、クレアは満足そうに頷きながら。

 

「なら良かった。先程渡したネックレスを使えば、当家の権力をある程度使用できる。頼むぞ、サトウカズマ。貴様だけが頼りなんだ」

 

 俺は出された手をガシッと摑み、上下に大きく振る。

 沢山の使用人や貴族がいる中、俺達は人目もはばからずに薄く笑い合った。

 

「俺はお前の事を勘違いしていたようだ。お前はロリコンじゃない、アイリスに仕える真の臣下だよ」

 

「ふっ、何、私もそうだ。貴様には本当、驚かされる。魔王軍幹部戦然り、機動要塞戦然り、そして先の強制任務然り」

 

「安心してくれ。数多の大物賞金首を屠ったこの俺がいるからには絶対にそんな事はさせないからな。もし何なら、相手の王子を脅迫してやるさ」

 

「おぉ! それは頼りになるな」

 

 不敵な笑みを浮かべていると、何時の間にか乗り込んだのか、アイリスとめぐみんが早く来いとばかりにこいこいと手招きしてくる。

 俺はクレアに別れを告げ、彼女達の元に向かった。

 竜車に乗り込むと、そこには既に二人の女の子が座っていた。

 御者台の後ろにはめぐみんが、その対面にはアイリスが。

 めぐみんの隣には彼女の相棒であるちょむすけが早くも寝息を立てているし、ここはアイリスの隣に座るしかあるまい。

 多分、というか絶対にめぐみんが気を遣ってくれたのだろう。

 現にこうして……

 

『私は大人ですから、恋の邪魔はしないのです。それに見通しが良い場所をゲットしましたね』

 

 ドヤ顔でそんな事を口パクで言ってきた。

 一瞬イラッとしたが、俺は恩を仇で返すような男ではないのでここは素直には引き下がろう。

 アイリスの隣に腰掛けると、彼女は呑気にはにかみながら鼻歌を歌い始めた。

 この子もこの子で、中々に大物である。

 こうして乗組員全員が乗った訳なのだが……何時まで経っても竜車は動かなかった。

 どういう事だと眉を寄せた所で、その原因が判明する。

 というのも、御者がいなかったのだ。

 ……。

 これはアレか、護衛任務に就いている俺がやればいいのかと思ったところで、一人の女性が現れ革紐をぎゅっと握る。

 見間違える筈もない。

 その女性は、マルクス家の当主アリアだった。

 そう、昨日の晩餐会で俺に土下座で謝ってきた貴族令嬢である。

 えっ、何で?

 俺とめぐみん、アイリスが目を丸くする中マルクス卿はこちらに振り向き、貴族に相応しく優雅に一礼して。

 

「改めまして、私の名前はアルクス家の当主を務めております、マルクス・アベンジ・アリアです。……今回はその、私が御者を勤めます。何卒、よろしくお願い致します」

 

 アリアはそんな事を……!

 

「あ、あの……どうして四大貴族の貴女が? 議会で四大貴族の人達は忙しいんじゃ?」

 

 そう訊ねるとアリアは居心地悪そうにふいっと視線を逸らしながら。

 

「……罰です……」

 

「はい?」

 

「およそ一年間、私の一家とシーア家は議会に参加できなくなりました」

 

「な、なるほど……。それじゃあシーア家の人は来ないんですか?」

 

「彼女は今頃、水と温泉の都、アルカンレティアに向かっています。何でも、ここ最近温泉に異常が見られるそうで……。原因を突き止めるまで王都には戻ってこれないそうです」

 

 つ、つまりそれって……!

 いや、言うのは止めておこう。

 俺の名前は佐藤和真。

 優しい俺は、傷口を抉るような事はしない。

 しかし知能が高い筈の紅魔族は空気を読まずに……

 

「つまり左遷ですね?」

 

「……!? はい、そうです……」

 

 とめぐみんが思った事を放ち、アリアはガクッと項垂れた。

 何ともいえない気まずさが竜車の中に漂う。

 よ、容赦ないな……。

 アイリスは左遷の意味が分からないのか小首を小さく傾げ、

 

「あのカズマ様。させんって何ですか?」

 

 純粋無垢な瞳でそんな事を聞いてきた。

 英才教育を受けている王族だが、そこまではまだ習っていないらしい。

 いやもしかしたら、彼女の護衛兼教育係のレインさんが敢えて教えてないかもしれないが。

 どう答えようかと思案していると、またもやめぐみんが遠慮なしに淡々と。

 

「前より低い地位や官職にうつす事ですよ。まぁ一年なので一時的なものですが……それだけの期間があれば彼女達の発言力は大きく減少するでしょうね」

 

「そうなのですか! ……めぐみんさんは凄いですね、政治家でもないのにそんな事をお知りになってるなんて! 私もまだまだ勉強が足りませんね……」

 

「ふふふっ、そうでしょう! これからは私の事を先生とでも……──」

 

「あっ、それは大丈夫です。私にはレインがいますので」

 

「……!」

 

 アイリスもアイリスで容赦がない。

 言葉を遮られ断られた事にめぐみんが絶句する中、俺は少しばかりアリアに同情した。

 ……いやまぁ、自業自得といえばそこまでだけれども。

 まさか四大貴族の一柱に竜車の御者をやらせるとはなぁ……。

 アリアは力なく笑ってから、

 

「……ですがこれも当然の措置なのです。私達は英雄の貴方様を疑った罪人。普通なら貴族の地位を剥奪されていますから、寧ろ国王陛下には感謝しなくてはなりません」

 

「……だそうだが、そうなのかアイリス?」

 

 そうやって王族に話を振ると、彼女は目を伏せながら……けれど確実に頷いた。

 

「そうですね……これが中、もしくは小貴族でしたら間違いなくそのような処罰になるでしょう。ですがマルクス家はこの国にとって重要な立ち位置にいますから……。それと、アリア様はまだかなり緩い方ですよ? カズマ様を国家転覆罪として捕らえようとしたマルクス家とシーア家ですが、前者は穏便派……後者は強硬派でした。マルクス家が取り敢えず先に話を聞こうという姿勢を取る中、シーア家は問答無用で死刑を主張。ですからシーア家の方が処罰が重いのです」

 

 ふむ、なるほどなぁ……。

 だからアリアはこうして使い走りさせられるだけですんだと、そういう事か。

 ……。

 というか思うのだが、この女性かなりまともな人なのでは?

 レインさん曰く、俺を捕まえようとした動機は活躍し過ぎた俺に対する嫉妬のようだが……話を聞く限りではそれはシーア家が主に持っていたのでは?

 それに俺の『敵感知』が何も反応していないから、少なくとも恨みや憎しみは抱いてないようし。

 ここ最近このスキルの有用さに気づき始めた。

 ……何だろう、逆にこの人が気の毒に思えて仕方がないのだが。そもそもマルクス家は基本的には中立に近い立場を取っているそうだし……。

 可哀想な人を見る目でアリアを見ていると、彼女は幸薄そうな微笑を浮かべよろしくお願いしますと慇懃に一礼してから前を見据えた。

 出発の時間が来たらしい。

 そして御者が鞭を振る直前。

 クレアが竜車に乗り込み、アイリスの元に駆け寄った。切羽詰まったような表情を浮かべているが、何か問題が……?

 

「アイリス様、忘れ物はございませんか? ハンカチは? ティッシュは? もし万が一の事が起こったら、私が渡した魔道具を遠慮なくお使いになってくださいね? 約束ですよ?」

 

 何だろう、物凄く既視感を覚えるのだが。

 昨日の事を思い出していると、アイリスは困ったように頬をぽりぽりと掻きながら。

 

「クレアが心配するような子供ではもうないですから大丈夫ですよ。それより、私がいない間の国営をお願いしますね?」

 

「ははっ、必ずや!」

 

 そう言いながらもアイリスを抱き締め、離さないクレアを……レインさんがため息を吐きながら羽交い締めにして竜車から引き剥がす。

 

「ぐっ!? 離せ、離すんだレイン!」

 

「はいはい。そろそろアイリス様達が旅立つので一旦落ち着きましょう」

 

 ……本当に苦労しているなぁ。何時もは敬語を絶やさないのに、ぞんざいな口調になっている。

 ……あっ、そうだ。すっかり忘れていた。

 俺は一旦竜車から飛び降りて、恩師に近づきある物を渡す。

 それは、質素な外見の耳飾りだった。

 

「先生これを。不出来な生徒からの、些細な贈り物です」

 

「まぁっ、ありがとうございますカズマ様。……今回の護衛任務、頑張ってくださいね? アリア様はその……数少ない常識人ですから何かあったら頼るといいと思います。ララティーナ様はアレですし、クレア様はコレですし、シーア家の方はその……アレなので……」

 

 シーア家については分からないが、やっぱり俺の認識は間違っていなかったらしい。

 アリアとは仲良くしよう。

 

「はい! あっ、それとその耳飾りは着けている人の魔力を増加させる効果と、自分の存在を他者に感知されやすくする効果がありますから!」

 

「ありがとうございます。ありがとうございます!」

 

 ぺこぺこと何度も頭を下げて、レインさんは感動のあまり咽び泣いた。

 渡した耳飾りは昨日の朝、アクセルを離れる前にウィズ魔道具店で買ったもの。

 もちろんウィズが仕入れているので欠陥品。

 というのも、『 自分の存在を他者に感知されやすくする』効果が強過ぎて、逆に目立ってしまうからだ。モンスター相手だったら意味がないし、魔法使いのレインさんが着けたら危険だ。詠唱中だったらその危険度は述べなくても分かるだろう。

 しかしそれは……影が薄い貴族令嬢にとってはマイナスではなくプラスになる。

 寧ろ、耳飾りを着けてようやく人並みに認知されるくらいのレベルだ。

 ちなみにお会計六百万エリスである。そこそこの大金だったが、機動要塞デストロイヤーの報酬金と、国からの謝礼金で莫大な金を手に入れた俺には些細な出費にしかならない。

 ウィズは廃棄処分にするつもりだったからと無料で渡そうとしてくれたが、遠慮しておいた。

 早速レインさんは耳飾りを着けてくれる。

 良かった、どうやら気に入ってくれたらしい。

 年上の女性にプレゼントを贈ったのは初めてだったから、かなり心配していたのだ。

 

「サトウ様、そろそろ出発します!」

 

「分かりました! 今行きます!」

 

 俺はクレアとレインさんに短く別れを告げてから竜車に乗り、そして……──

 

「それじゃあ皆様、行ってきますね!」

 

 ──アイリスが軽く手を振ると同時にアリアが今後こそ鞭を振り、リザードランナー達を走らせた。

 








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