このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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エルロード

 

 日本で引き籠もり兼ニートだった俺は、この異世界でもやや封鎖的な生活を送っている。

 何せ、訪れた事がある街はベルゼルグ王国の首都である王都と、活動拠点の街であるアクセルだけ。

 そして現在。

 俺は初めて旅をした訳だが……

 

「人多過ぎだろ」

 

「ですね。正直見ているだけで人酔いしそうなのですが」

 

 ……訪れた国の賑わいと……そして何より、その人の多さに圧倒されていた。

 その国は他国からこう言われている。

 

 ──カジノ大国エルロード。

 

 数日間に渡った旅も終わり、俺達は目的地であるエルロードにへと到着した。

 

 

「わぁっ! カズマさん、王都よりも段違いに人がいらっしゃって……凄いですね! どうしてこんなにも人が集まるのでしょうか!?」

 

 アイリスが興奮したように次々と言葉を捲し立て、俺のロングコートの袖をくいくいと引っ張る。

 しかしそんな彼女とは反対に、俺とめぐみんは見渡す限りの人に、少しばかり恐怖を抱いていた。

 ……まぁ、アイリスの気持ちも分からなくはないのだ。

 十二年間王都の王城に幽閉され、外に出る事すら叶えられなかったのだから、その気持ちは分かる。

 なんだっけ……えぇと……そうこれは、渋谷のスクランブル交差点レベルの混雑さだ。

 引き籠もりというのはどうやら、人の視線を気にするようだ。身に染みて実感する。

 めぐみんはアレだな、紅魔の里がかなり田舎に位置して更に人口が少ないから、単純に見慣れていないだけだろう。

 満員電車に乗る人の気持ちが分かった気がする。

 俺達が通っているのが大通りとだけあり……それに比例して過密は増すので、竜車はノロノロと進んでいた。

 箱入り娘で貴族令嬢のアリアがアイリスと同じようにきょろきょろと辺りを見回す中、同調するように。

 

「アイリス様の仰る通りですね。いくら首都とはいえ、こんなにも人がいるものでしょうか」

 

 そう疑問の声を上げた。

 ──突然だが。

 この世界の人口は地球よりもかなり少ない。

 確か現在の地球の総人口がおよそ七十四億人だから、それより少ないとなると……むむむ、分からん。

 しかしながら、その理由は何となくだが見当がつく。

 まず第一に、モンスターの存在が大きいだろう。人類と敵対する魔王軍もこれに当てはまる。明確な敵の存在による脅威によって、人類は殺されてしまう。

 第二に、文明力の差。この世界では科学はあまり発展しておらず、逆に魔法が発展している。地球では逆だ。もちろん魔法も侮れないが……「誰でも使える力」というのはそれだけで生存できる鍵になるのだ。例えばそれは、医療。この世界では回復魔法があり肉体的な損害はある程度は回復できるが……精神的なもの、つまり風邪といったものは該当しないのだ。

 それらを考慮すると……考えられるのは一つだけ。

 俺は目を輝かせているアイリスに。

 

「いいかアイリス。これはエルロードの広報戦略だ。少しでも国が栄えていますよというアピールをしているんだよ。ほら、あそこの角を曲がった人がいるだろ?」

 

「はい確かにそうですが……それがどう繋がっているんですか?」

 

「多分あの人は数分後にもう一度此処を通るんだ。つまり彼は雇われ人で……──」

 

「分かりました! つまりさくらですね?」

 

 流石はアイリス。

 俺が教えた事を覚えているというのは、嘘ではなかったらしい。

 合ってますかと訊ねてくる彼女の優しく頭を撫でてやれば、嬉しそうに目を細める。

 そのようなやり取りをしていると……何時の間にか御者台に移動したのか、めぐみんとアリアがひそひそとこちらを盗み見ながら。

 

「あの、お宅のお姫様ヤバくないですか? 確実にあの男の悪影響を受けていますよ」

 

「うぐっ。それを言われると弱いですが……。しかし私は普段アイリス様と関わりがない為……」

 

「なるほど。……私の仲間が、ご迷惑をお掛けします」

 

「いえいえっ、大丈夫……ではありませんが大丈夫ですからっ!」

 

 何か外野が謂れのない誹謗中傷を俺にしているが無視だ。

 まぁサクラは冗談だとして……事実、この国はかなり栄えているらしい。

 というのも、大通りには露店がそこかしこに開かれているし、並べられている食べ物は聞いた事も見た事もないものばかりだ。

 あとで買いに行こう。

 そんな決意を胸に秘めながらも竜車はゆっくりとながら進み、数分後、一際目を引く建物の前でぴたりと停る。

 宿は事前に予約していたそうな。

 アクセルで何時も泊まっていた宿とは大違いだ。いや別に、主人の誇っている宿を馬鹿にしている訳ではないのだが。

 ……いやちょっと待て。

 

「なぁ、確か今回のアイリスの外交ってお忍びじゃなかったの? こんな最高級の宿に泊まっていいのか?」

 

「私もそれは思ったのですが……シンフォニア卿が事前に宿をお取りになっていたようで……」

 

 俺の素朴な疑問に、アリアがこの旅何度目かの謝罪を口にした。

 ……不憫だなぁ。

 竜車を業者に預けた俺達は取り敢えず自分の荷物を置きに行く事にした。

 すぐにでも相棒に包まりたいが、ここは我慢だ。

 必要最低限の装備を整え宿のロビーに行くと、そこには……

 

「なぁおい。どうして完全に私服に着替えてんの? 特にめぐみん。俺達は護衛役だろうが」

 

 ……持ってきていた私服に身を包んだ一人の美女と二人の美少女がいた。

 こんなのでいいのだろうか。

 完全に遊ぶ気満々じゃん。

 思わず半眼になっていると、アリアがおずおずと……けれど喜色の笑みを隠しきれずに。

 

「アイリス様と王子の顔合わせ……という名の外交は明日の夜頃からになりますから。せっかく一日あるのですし、今日は観光でもしませんか?」

 

 なんと、まさか常識人のマルクス卿がそんな事をおっしゃるとは……。

 いや、別にいいんだけどね。

 俺も観光したいなぁとは思っていたし。

 なんとなくめぐみんとアイリスに視線を送ると……二人とも、それはもうきらきらとした眼差しをこちらに向けてくるではないか。

 ……仕方がないか。

 

「分かったよ。じゃあ今から明日の夜の謁見まで自由行動な。一応安全確認を兼ねて、明日の朝食時には此処に集まる事。これでいいか?」

 

「「「はい!」」」

 

 俺の確認に三人の女性陣は大きく頷いた。

 具体的には、物凄くそわそわしている。

 苦笑いしながら解散の合図を出そうとして……刹那、忘れていた事を思い出した。

 危ない危ない。

 危うく忘れるところだった。

 俺の名前は佐藤和真。

 常如何なる時も自分の使命を果たす者。

 

「……あと、俺とめぐみん、アリアさんの三人は今からジャンケンをするぞ。流石に王族のアイリスを一人でいさせるのは良くないからな、負けた人が護衛って事で」

 

 まぁそうは言っても、俺の勝ちは確定だが。

 おおかた運が悪いアリアが負けるだろう。

 これを機に家臣と主の仲を深めて欲しいものだ。

 ジャンケンの構えをして敵を見ると……見ると……?

 既に二人はいなかった。

 行動するのはやっ!

 なんて奴らだと愕然していると、アイリスが困ったように笑いながら。

 

「その……どうやらめぐみんさんにお気を遣われたようです。困惑するアリア様を強引に連れ出し、それはもう早く宿から出ていきましたから……」

 

「そ、そうか……。えっとじゃあ、俺が護衛につくよ」

 

 後頭部をぽりぽりと掻きながらそう告げると、アイリスはすぐさま俺の右腕に抱きついて。

 

「はいっ! よろしくお願いしますね!」

 

 俺はそんな少女を見て、頭脳明晰で頼りになる仲間に心の中で一言。

 ありがとうございますめぐみん様。

 今度何か、高級料理をご馳走させていただきます!

 

「よし、いってみよう!」

 

 

 §

 

 

 早速夜の街に繰り出した俺達なのだが……観光は思うように進まなかった。

 というのも、アイリスの並外れた容姿に往来する人達が目を留めてジロジロとこちらを見てくるからだ。老若男女問わずしてなのだから、本当に凄いものだ。

 彼女の煌びやかな黄金色(こがねいろ)の髪の毛が月の光を反射し、自然と他人の視線を集めてしまう。

 現にこうして……

 

『うわっ、凄く可愛いなあの子』

 

『ほんとそうね。何処かの貴族のお嬢様がお忍びで来てるのかしら?』

 

『ありゃあ将来、確実に別嬪さんになるぜ』

 

『……もしかしてあなた、ロリコン?』

 

『ちちちちちちち、違うぞ!? ロリコンっていうのはな……あの子が抱きついている奴の事だろ』

 

『うわぁ。外見も中の……精々が中くらいかしら? 何ていうか、不釣り合いね』

 

『それな。おおかた荷物持ちか何かだろ』

 

『お勤めご苦労様ー』

 

『ご苦労様です!』

 

 失礼な事を言っている奴らをしばき倒したい。

 いやまぁ、全部本当ですけどね!

 内心血涙を流していると、周りの人間に気配りができるアイリスがすぐに俺の変化に気づいて。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや何でもないよ。あっいや、一つだけあった。アイリス悪いけど……近くの店に行ってローブか何か買おう」

 

 ここまで言えば俺の意図が分かったのか、アイリスはしゅんと落ち込みながら。

 

「申し訳ございません。私が目立つばかりに……」

 

「大丈夫。大丈夫だから! だからその顔を止めてください!」

 

 周りの視線が痛いから。

 おいやめろ、俺を不審者を見るような目で見るな。

 警察を呼ばないでくださいお願いします!

 

 ──数分後。

 

 薄い青色のローブを私服の上に着込んだアイリスを連れて、俺達は今度こそ観光を楽しんでいた。

 しかし時間帯が夜だからか、あまり店は開いていない。

 購入したローブだって、閉店時間をあと三分ほどで過ぎそうなところだったからなぁ。

 今日は外食だけで済ませるとしよう。

 それに寒いし。

 これでもう少しで春なのだから、恐ろしものだ。

 ロシアもこれくらい寒いのだろうか。

 

「アイリス、今日は時間も遅いから適当な店で夕ご飯にしようぜ」

 

「分かりました。でも残念ですね、カズマさんのお料理が食べられないのは……」

 

 ……何て嬉しい事を言ってくれるんだろう。

 ヤバい。

 これはヤバい。

 昨夜のアレがあったから、この短い間だけで俺のアイリスに対する好感度がとてつもなく上がっているんですけど。

 いや、好感度は元々マックスだけれども。

 思えばこれはデートなのでは?

 ど、どうしよう、一気に緊張してきた……!

 更にはこんな、純粋無垢の容姿良し性格良しのお姫様が相手とか……幸せ過ぎる。

 取り敢えず何処か適当なレストランにでも入るかと俺が思案している中、アイリスが小さくあっと声を上げた。

 何事かと彼女の視線の先を追うと……人通りが少ない裏道に不自然な光が発光していた。

 好奇心旺盛な子供がそわそわしているので、

 

「行ってみるか?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん。寧ろ、俺も気になるしな」

 

「それでは行きましょう!」

 

 俺の右腕を摑んだままアイリスはたたたっ! と小走りでそちらに向かい、俺もまた引っ張られるようにして向かう。

 果たしてそこにあったのは、小さな屋台だった。

 三人ほどの人数が座れる折り畳み式の小さなベンチに、大きめのリヤカーを改造しているのか調理場はかなり広い。

 鍋から立ち上る湯気、そして置かれている材料から推測するにこれは……!

 

「ラーメンじゃん!」

 

「らーめん、ですか?」

 

 俺の魂からの叫びが響き、アイリスは未知の単語に困惑し、おやっさんはぴくりと反応を示す。

 店主は作業していた手を止めて、初めて俺を見た。

 白色の手拭いを頭に巻いているから気がつかなかったが……よくよく見れば手拭いの隙間から覗く髪の毛は黒色だし、瞳の色も黒色。

 まず間違いないだろう。

 俺と同じ日本人……言い換えれば転生者だ。

 そういえば、俺が転生者と会うのはミツルギ以来だ。まぁ最も、大半の連中は貰ったチートですぐに駆け出しの街から出るだろうから仕方がない事かもしれないが。

 彼も察したのだろう、短く問い掛けてくる。

 

「あんた、転生者だな?」

 

「えぇそうです。あなたもですか?」

 

「そうだ。……どうだい兄ちゃん、そしてお嬢ちゃん。一杯食ってかないかい?」

 

 店主はそうニヒルに笑い掛け、ベンチに座るよう促してきた。

 突然の状況の変化に驚いているアイリスに俺は朗らかに笑い掛けて。

 

「アイリス、夕ご飯は此処で食べないか?」

 

「はいっ、私はそれで構いませんっ。カズマさん、早速座りましょう!」

 

 ベンチに腰掛けた俺達は店主からメニュー表を受け取りどれを頼むか吟味した。

 醤油ラーメンや味噌ラーメン、豚骨ラーメンといったメジャーなものは当然として、白米ご飯や炒飯(チャーハン)餃子(ギョウザ)といったサイドメニューもかなり豊富。

 

「悩むなぁ」

 

「そうですね……。ところで店主様、このらーめんというのは何ですか? ぎょうざやちゃーはんは以前口にしたので分かるのですが……」

 

「ほう、お嬢ちゃんがかい?」

 

「はい!」

 

 本来なら普及していない料理を食べたと口にするアイリスに、おやっさんが興味深そうな表情を作る。

 俺に視線を送って、そうかとばかりに頷いた。

 はいそうです、俺が作りました。

 大衆料理を美味しそうに食べる王族や貴族というのは、かなりレアな光景だったと思う。

 

「それでらーめんとは?」

 

「ラーメンはな……中華麺とスープを主として様々な具材を組み合わせた麺料理の事だ」

 

 おぉ、流石はプロ。

 澱みのない説明に俺とアイリスが戦慄していると、不意に隣に座っている少女のお腹がグゥーと鳴った。

 この前もこんな事があった気がする。

 それは何も、俺だけが思い出した訳ではないらしい。

 彼女は自分のお腹に手を添え、顔を真っ赤に染めて恥じらいの表情を浮かべ……

 

「聞きました……?」

 

 俺の名前は佐藤和真。

 常如何なる時も自分に素直な正直者。

 俺は不安に駆られるアイリスを安心させる為に片手をぽんと彼女の頭の上に置いて。

 

「何も聞いていない。アイリスのお腹から出た可愛らしい音なんて聞いていない。そうだろおやっさん」

 

「もちろんだ。このお嬢ちゃん、余程お腹すかせているんだなぁなんてこれっぽっちも思っていないとも」

 

 おぉ、このおやっさんノリがいいな。

 地球で会っていたら友達になれていた気がする。

 大の大人が共謀してからかっていると、子供は拗ねたのかふいっと顔を逸らして唇を尖らせた。

 自分の身体がチートスペックである事を忘れていないのか、優しく俺の腹を抓る。

 地味に痛い。

 そんな俺達をおやっさんはにまにまとタチの悪い笑みを浮かべて……

 

「仲良いねぇ。オレは独り身だから、ちょっとばかり兄ちゃん達が羨ましいよ」

 

「ふふふっ、ありがとうございます。店主様はその、どうしてご結婚されていないのですか? かなりお顔は整っていますし……鍋から盛れる匂いも非常に良いですから、かなりのお腕を持っていらっしゃるのは想像に難くありません。実際、引く手あまたでしょう?」

 

「確かにオレは自慢じゃないがモテる。具体的には、昨日二人ほど求婚されたり……──おい兄ちゃん止めろ。その殺意を止めろ! ……なに簡単な事さ。オレはこの道を歩くと決めたからよ。女神様からいただいたこの力でオレは、この世界にラーメンを普及したいのさ」

 

「わあっ、それは素晴らしい夢ですね! ちなみに聞きますが、女神様とは……?」

 

「それは企業秘密って事で」

 

 なるほど。

 このおやっさんはラーメン道を独りでも歩き続ける漢なのだろう。

 たとえ天涯孤独でもこの男性は、長く険しい山道を歩き続け、頂上を目指しているのだ。

 転生特典に戦闘とは一切関係ないものを選ぶくらいには、覚悟を決めているのだ……!

 何という事だ。

 俺の脳内男性尊敬ランキングの一位にランクインしてしまった。ちなみに元一位はアクセルで借りていた宿屋の主人である。

 

「それで結局、何を頼むんだ? 当店のおすすめの一品は、醤油ラーメンだが……──」

 

「「それでお願いします!」」

 

 ──おやっさんのラーメン屋で腹を満腹にし、更には暖を取る事が出来た俺達は明日に備えすぐに帰る事にした。

 時間も時間だし、夜とはいえ明日は王子との顔合わせだ。

 遅くまで遊んで体調を崩そうものならせっかくここまで来た意味がないし、相手に優位に立たれてしまう。

 外交なんてものは平民の俺には良く分からないが、勝負というのは始まるその前から始まっているのだ。

 そんな事を誰かが言っていた気がする。

 

「何だか、とても緊張します。明日の今頃には王子と謁見しているのですね。上手くいくかどうか……それにアレも……」

 

 帰路に着く中、俺と手を繋いでいたアイリスがぽつりと小さく呟いた。

 ローブを被っている所為で彼女の顔を見る事ができないが、ある程度は察しがつくというもの。

 しかしながら、俺ができる事は何一つとしてない。

 本当にそれが悔しい。

 励ませたり慰めたりと、口で言うのは簡単だが……そんなの気休めでしかならないだろう。

 

「カズマさん、明日ですが護衛任務は大丈夫です。私は宿に籠もり、ZAZENを組んで精神統一をしますから」

 

 座禅の発音がちょっとおかしい気がしたが……気の所為だと思いたい。

 ……ここはどうしたものか。

 護衛役である俺が悩む主人を放ったらかして遊びに行っていいのか?

 いや、普通に考えたらアウトだろう。

 そこまで俺は落ちぶれていない。

 

「なら俺も宿にいるよ」

 

「いえ、カズマさんは観光を楽しんでください。そうですね……めぐみんさんやアリア様と行動を共にしたらどうでしょうか?」

 

「いやでも……」

 

 渋る俺を、アイリスは宥めてくる。

 

「私は大丈夫ですから。……ね?」

 

「……分かったよ。じゃあ明日はめぐみんやアリアさんと一緒に観光してくるから。お土産は何がいい?」

 

 渋々ながら納得した俺は、頑張るアイリスにせめてお土産を買おうと思い何が良いのかを訊ね……

 

「あなたが選んでくれたものなら、なんでも!」

 

 ……すぐに、そんな返答をしてきた。

 ……。

 …………。

 駄目だ、恥ずかしさのあまり直視できない!

 というかこの子は、何時の間にこのように男を喜ばせる技を身につけたのだろう。

 しかも自分の発言の破壊力を分かっていないのだから末恐ろしい。

 これが本物の天然なのか……!?

 気恥しさのあまり視線を逸らしていると、不意に『敵感知』が発動する。

 アイリスを暗殺にでも来た敵か!? と戦闘態勢するよりも早く、俺の頭に痛みが伴った。

 それは、一本の杖。

 涙目になりながら犯人を見ると、そこにはめぐみんとアリアが呆れた様子で俺達のことを見ていた。

 

「まったくあなた達は。アレですか、バカップルなんですか? 人目もはばからずにイチャイチャするなんて、もうちょっと公共の福祉の心を持ってください。現にほら、独身貴族のアリアお姉さんが動揺しているではないですか」

 

 刹那、空気が凍った。

 流石はめぐみん、地味にいじめっ子特性がある俺の仲間は伊達ではない。

 しかも今のは完全に無意識だな。

 恐ろしや恐ろしや。

 独身貴族、の単語にすぐさま反応したアリアはしくしくと泣きながら。

 

「そそそそそそ、そんな動揺なんてしていません! べべべべべ、別に羨ましいなぁ、とかもう少しで私も婿(むこ)を取らないといけないのか嫌だなぁ、なんてこれっぽっちも思っていませんとも!」

 

 ……。

 気まずくなった俺、めぐみん、アイリスは無言で視線を交わし……

 

「よし、それじゃあ早く宿に戻るか。めぐみん、久しぶりに一緒に行動しようぜ」

 

「おっ、それはいいですね。ですがその……アイリス、良いのですか?」

 

「はい。ここ最近はめぐみんさんに大変お気を遣わせてしまいましたから……明日は楽しんできてください」

 

「なるほど。それなら遠慮なく! ……カズマカズマ、明日はカモネギの養殖所に行きたいのですが」

 

「それはいいけどさ、お前、間違っても爆裂魔法撃つなよ? 言っておくけどフリじゃないからな」

 

「おい、私に対する印象についてじっくり話し合おうじゃないか。そんなの、失礼にもほどがあります!」

 

「確かカモネギさんを倒せば高い経験値を得られるんだよな? 俺はてっきり、『ふはははははっ! 我が爆裂魔法で滅ぼしてくれよう! あはははははっ!』と高らかに笑うものだとばかり」

 

「……!?」

 

「カズマさん、もう少しめぐみんさんを信じてあげてください。そんな悪逆非道な行為を、めぐみんさんがする訳ないでしょう?」

 

「そうだよな。ごめんなめぐみん、疑ったりして」

 

「もももももも、もちろん私はそんな事はしませんとも、ええ!」

 

「「……」」

 

 ……悲嘆にくれるアリアを残して、明日の予定について話し合うのだった。

 うん、だって仕方ないよね。

 今度アクアに、憐れな独身貴族に幸運が上がる支援魔法を掛けてもらうようお願いしてみよう。

 








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