このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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友達

 

 俺の名前は佐藤和真。

『異世界転生あるある』で有名なチートを貰えず異世界にやって来た俺だが、俺は今、王城の勉強室で現在俺が居る国──ベルゼルグというらしい──の第一王女であるアイリスと一緒に勉強を受けようとしていた。

 しかしそれはアイリスの護衛である白スーツのせいで妨害されていて、授業を受ける事が出来ずにいる。

 

「あのなあ白スーツ。別にアイリスと遊ぶくらいいいじゃないか」

 

 俺はため息をこれ見よがしにに零してから主張した。

 そう、白スーツもといクレアが来るまでの休み時間中、俺とアイリスは仲良くなる為にとあるゲームを興じていたのだが、この女が乱入してきたのだ。

 

「アイリスはまだ十二歳の子どもなんだぞ? いくら王族とはいえ、遊びも許されないのか?」

 

 俺の正論にクレアは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに鼻息荒く。

 

「違う! 確かに貴様の言う通りだと私も思う。実際貴様がアイリス様の初めての遊び相手なのだからな、それに関しては礼を言おう。だが貴様は素性も知れない平民なのだ、もっとこう……態度とかあるだろう!」

 

 そんな事を言ってくた。態度? そんな事言われても、それこそ平民の俺じゃ礼儀作法は知らないのだが。

 

「ごめんなアイリス。俺はもっとアイリスと遊びたいんだけどな、この白スーツがダメって言うんだ。文句を言うならこの頭の固い白スーツに言ってくれ」

 

 アイリスは俺の言葉を聞くうちに涙目になっていき、そのまま親の敵を見るような目で事の元凶を睨む。まさかの展開に怯むクレア。

 

「カズマ様は私のお願いで私と遊んで下さっているのです。それに言葉遣いに関しては私が許可を出しました。なのでお願いします。自由時間だけは許して貰えますか?」

 

「……サトウカズマ、貴様、後で覚えておけよ。……分かりましたアイリス様。公の場でない限りそうして下さって構いません」

 

「ありがとうクレア!」

 

 輝くような笑顔を浮かべるアイリス。

 クレアはそれを見てだらしなく顔を歪めるが、アイリスは許して貰った喜びからかそれに気付かなかった。

 俺はそんな白スーツを眺めながら、ある可能性を思い浮かべる。……いや、まさかな。貴族に限ってそんな事ないだろう。

 

「そう言えばなんで白スーツが此処に居るんだ?」

 

「ええい貴様、さっきから私の事を白スーツ白スーツと……! 私の事はクレア様、もしくはシンフォニア卿と呼べ!」

 

「断る」

 

「き、貴様あああああああ!」

 

 白スーツが剣を抜剣して襲い掛かってくる。なんともまあ恐ろしい。沸点低すぎだろ……。

 

「クレア、あまりそのような事をしないで下さい。武器も持たない相手に襲いかかるなど……」

 

「……申し訳ございません、アイリス様」

 

「やーいやーい、歳下の女の子に怒られてやんの! 今どんな気持ちですかあああ!?」

 

「カズマ様もそうクレアを煽らないで下さい」

 

「はい、すみませんでした」

 

 年長者二人が年下の女の子に頭を下げている中、突然誰も居ない空間から声が出される。

 

「あ、あの。そろそろ授業をしたいのですが……」

 

「レインさん、いつから居ました? 」

 

「そうだぞレイン。いつから居た?」

 

「クレア様と一緒に此処に来たではありませんか! そもそも休み時間が終わったので、私達は来たのですよ!?」

 

 影薄いなー、この女性(ひと)

 

「そうでしたか。それじゃあアイリス、ゲームはまた今度にしようぜ。流石に授業は真面目に受けないとな」

 

 アイリスは悲しそうな表情を浮かべるがこればっかりは仕方がない。

 

「……分かりました。で、ですがまた必ず遊んで下さいね!」

 

「もちろんだ。よし、机を元に戻して授業だ!」

 

「はいっ!」

 

「おい、ちょっと待て貴様。何故レインと私とではこんなにも扱いに差があるのだ」

 

「……? 何の事だ?」

 

「本当の事を言え、そしたら許してやろう」

 

「してないよ」

 

「貴様、本当に──」

 

「してないよ。っていうか、さっきからうるさい。全く、今から授業だというのに、クレア様はそれを邪魔するんですかあ? 護衛役としてそれはどうだと思いますけどねえ?」

 

「ぐっ……。レイン、私は他の仕事があるから、この男をちゃんと見張っておくのだぞ!」

 

 そんな捨て台詞とともにお忙しい貴族様はご退場なさる。負け犬の遠吠えだな。

 そしてそんな俺達のやり取りを見て、重いため息を吐くレインさん。

 ……お騒がせして本当にすみません。

 

「……それでは始めましょうか。今からアイリス様とカズマ様に教える事はスキルについてです」

 

 早速意味不明な単語を聞いたので、俺は挙手をする。正直なところ、ある程度は予想がついているが……。

 

「すみません、スキルってなんですか?」

 

「あっ、そう言えばカズマ様は記憶が無かったんでしたっけ。……少々お待ちを。──アイリス様、大変申し訳ございませんが、カズマ様に簡単でいいので説明をお願いできますか?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「大変恐縮です」

 

 そう言い残し、レインさんは大慌てで勉強室から出ていった。

 俺は彼女の揺れる双丘を脳内にしっかりと刻んでから。

 

「それじゃあアイリス。説明頼むよ」

 

「はい、分かりました。まずですが、レインが取りに行ったのは白紙のカードです。これは通称冒険者カードと呼ばれます。カズマ様はなんでも冒険者になりたいのだとクレアから聞きました。……冒険者になる為にはこの冒険者カードが必要です。詳しい事はギルドの方に聞いて下さい。またこの冒険者カードは身分証の役割も担っているので、冒険者じゃなくても持ってる方は多いのです」

 

 博士なアイリスに感心していると、レインさんが勢いよく扉を開けながら戻ってきた。

 余程急いでたのか、この短い間でかなりの汗をかいている。 ハアハアと息をつくに従い、その大きな胸も上下に動く。それは先程の比ではない。

 音が付きそうなほど、それはもう動く。ボインボインと。たゆんたゆんと。

 男の本能に従ってそれを凝視していると。

 

「……あの、アイリス様に悪影響を与えかねないので止めてくれませんか?」

 

「あっ、はい」

 

 あっさりとバレてしまった。

 女性は視線に敏感だと知り合いのネット住民が言っていたが、どうやら本当のようた。

 直そうとは思わないのだが。

 こればかりは仕方がない、なんせ俺は男なのだ。

 少しばかりはそういうエロシーンを見てもいい筈だ。……いいよな? 取り敢えずありがとうございます。

 脳内で自分を正当化していると、レインさんは俺と精一杯距離を置きながらも薄っぺらい紙を差し出してくる。

 

「……これは?」

 

「登録カードです。本来なら登録料として千エリス徴収するのですが、事情が事情の為お金の請求は無しにしました。そしてこの書類に必要な要項を書いて下さい。冒険者ギルドに後程郵送しますから」

 

「何からなにまですみません……」

 

 問われたのは、名前、身長、体重、年齢、身体的特徴の計五つだった。

 俺は筆を止める事なくすらすらと空欄に書いていく。

 名前は佐藤和真、身長百六十五センチメートル、体五十五キログラム。歳は十六で、茶髪に茶色目……。

 書き忘れや誤字が無いのかを確認してから、俺はレインさんに渡す。

 

「はい、しかと頂きました。それではカズマ様、こちらのカードに触れてください。触れた瞬間、このカードはカズマ様だけの物になります。くれぐれもなくさないよう気を付けて下さいね。それでは──どうぞ!」

 

 小さな長方形のカードを貰い、手に取った瞬間何も書かれてなかったカードに次々と文字が浮かんでいく。

 アイリスが凄く見たそうにしているので机に置き、皆が見えるようにすると……二人とも微妙な顔を作った。

 

 …………え?

 

 この展開は俺の秘められし力が覚醒し、二人が驚くんじゃないのか。それが王道の筈。

 けれど彼女達の様子からはとてもそんな風には……。

 俺は意を決して、レインさんに恐る恐る尋ねる。

 

「……えっと、どんな感じなんですか?」

 

「……その、大変言い難いのですが……ええと。筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性……カズマ様は全て平均です。あっ、待って下さい。知力はそこそこ高いですね。あとは……あっ、幸運が非常に高いです。こんなに幸運が高い人は初めて見ました。……冒険者に幸運はあんまり必要ないんですが……どうしましょう。カズマ様のこのステータスだと就ける職業は基本職である〈冒険者〉しかありません。だったら私はカズマ様は商人になった方がいい気がしますが……どうしますか?」

 

「……〈冒険者〉でお願いします」

 

 ……なんだろう、いきなり最弱職になってしまった感が凄いのだが。

 アイリス、その優しい顔を止めてください。

 そしてレインさん、その同情と憐れみの二つが合わさった目で俺を見ないで下さいお願いします。

 くそっ、なんなんだよ!

 俺が何をしたって言うんだ!

 そんな俺を見かねてアイリスが。

 

「あ、あのカズマ様。〈冒険者〉は全てのスキルを一応習得する事が出来ると以前クレアから聞いたので、そう落ち込まなくても良いですよ!」

 

「しかしその反面、本職には到底適わないがな!」

 

「く、クレア! そんな言い方はあんまりでは……。いえその前に、仕事は終わったのですか?」

 

「仕事は終えてきました。それと、私は事実を言っただけです。……レインもそうだろう?」

 

「……ええっと、その…………はい」

 

 優しいお姫様は俺をフォローしてくれるが、仕事を終えたらしい白スーツがチクチクと俺の心を抉ってくる。なんて奴だ、人の心がこいつには無いのか。

 泣きたくなっていると、さらに追い打ちを掛けるかのようにしてクレアが。

 

「ふっ、まあ、私は初めて貴様を見た時から大体察していたがな! 刃物を向けられただけであの怯えよう、やはり小者だな!」

 

 何も言い返す事ができない。

 出来る事といえば、せめてもの抵抗として睨みつける事くらいだ。忌々しい……!

 その後の授業は気づいたら終わっていた。

 クレアからの嘲笑、アイリスやレインさんからの心配そうな表情だけが鮮明に思い出せた。

 

 

 

 

§

 

 

 

 部屋に戻った俺は、

 

「クソっ、クソクソクソっ! 悔しい、悔しい! あんの白スーツ、絶対見返してやる! だあああああああああああ!」

 

 ベッドの上でごろごろと寝転がりながら叫んでいた。……近所迷惑で怒られないよな?

 ちょっと冷静になって枕を鬱憤晴らしに殴っていると「失礼致します」と一言告げてからリーシャンが部屋に入ってきた。

 どうやら夕食を持ってきてくれたらしい。

 流石は本場のメイドさん、なんて気が利く人だろう。

 リーシャンは哀れな俺を見ながら。

 

「……カズマ様、その…………〈冒険者〉でも冒険が出来ないわけではありません」

 

 そんな慰みをしてくれた。

 けれどちっとも心に届かない。

 

「リーシャン。確かにそれは一理あるよ? けどさ、最弱職の〈冒険者〉が胸踊るような冒険を出来ると思うか?」

 

「それは、その……」

 

 口ごもるリーシャンに、俺はさらに言葉を続ける。

 

「出来ないよ!……仲間を集めるという手も考えたけどさ、そんな〈冒険者〉に構う暇があるのなら他の奴らと組んだ方が圧倒的に効率がいいしな!」

 

 自分で自分の未来の道を閉ざしていると、扉が控えめにノックされた音がやけに大きく反響した。

 クレアが再び俺を煽ってくるのだろうか。

 なら出る必要はない。

 食べ終えた夕食の皿を俺はリーシャンに返しながら。

 

「リーシャン、悪いけど誰が来ても俺は寝てると答えてくれ。今はいい気分じゃない」

 

 その事を告げると俺はベッドの中に潜り込み寝ているフリをした。

 そして数秒後に扉を開ける音が聞こえ、何やら話す声が聞こえる。

 

「あ、あなた様は……!」

 

 話の長さからやはり、憎き白スーツが来たようだ。

 上手くやれよリーシャン。全てはお前に掛かっている。

 そして数分後。

 再び扉を閉める音がしたので俺は功績者であるリーシャンを褒めようとベッドからのそのそと出た。

 だがそこに居たのはリーシャンではなく。

 

「……あの、遊びに来ました。迷惑でしょうか?」

 

 休み時間に使ったボードゲームを胸に抱えた王女様がそこには居た。

 

「えっと……アイリス? リーシャンは何処に行ったんだ?」

 

「なにやら涙を流しながら他の仕事に行かれましたが……」

 

 引っ込み思案なアイリスが頼み事をしたのが嬉しかったに違いない。

 なんだったら俺も泣くかもしれない。

 

「……悪いけどアイリス。俺は今ゲームをやる気分じゃないんだ。悪いけど、また明日とかに──」

 

 ──してくれと言いかけた時、俺はアイリスを見て驚いてしまう。

 だってそこには……

 

 ──頭を深く下げた王女様が居たのだから。

 

「私の護衛が本当に申し訳ございませんでした。クレアには私がちゃんと言っときましたので、どうかお許し下さい」

 

「い、いや大丈夫だよ! 俺だってクレアにはちょっと言い過ぎたからな! だからアイリス、ここは両成敗という形で……」

 

「そう言って下さると嬉しいです。しかしそれでは、私の気が済みません。何かして欲しい事はありますか? 出来る範囲でしたら、私からそうするよう言いますので……」

 

 アイリスはそう言って、俺を見つめてきた。

 ……きっとこの子は、こういう子なのだろう。

 正しい事を述べる勇気。

 悪いと思った時には頭を下げる誠実さ。

 俺には持っていないものを、彼女は持っているのだ。

 これならクレアやレインさん、多くの騎士が頭を低くし、彼女に従う理由が分かる。

 きっとそれは、平民の俺には分からないけれど──王の素質なのだろう。

 しかしそうであるが故にこの子は独りの人間だ。

 王族の前に、一人の可愛い女の子なのだ。

 ……なら少なくとも俺はそうしよう。そう接しよう。

 決めた。

 

「出来る範囲なら、何でもいいんだよな?」

 

「……はっ、はい!」

 

「ならさ、俺と友達になってくれ」

 

「はい、分かりました! すぐに手筈を整えますので──えっ?」

 

「だからさ。友達になってくれよ。今の俺は記憶があやふやでさ、友達もいないんだ。……それとも、嫌か?」

 

 恐る恐るそう尋ねるとアイリスは、

 

「……。……ありがとうございます、カズマ様! 是非とも、友達になりましょう!」

 

 そう言って笑顔を浮かべた。

 ……よかった、もし断られたらみっともなくも泣くところだった。

 

「よし、それじゃあアイリス! 今からゲームしようぜ!昼は負けたからな、今度は負けないぞ!」

 

「はい、私も負けません!」

 

 俺の名前は佐藤和真。

 俺の異世界での初の友達は一国の王女様だった。








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