このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
<< 前の話 次の話 >>

30 / 43
観光

 

 エルロードに到着してから一夜明け。

 今日の夜にベルゼルグ王国第一王女と、エルロード王国第一王子との顔合わせが始まる。

 まずは顔合わせという趣旨の為、そして両者が許嫁の関係の為に、今日は軽い晩餐会が開かれ……本格的な外交は明日から始まるそうな。

 夕方には宿に集まらないといけないが……それでも今日は実質非盆で、自由に観光する事ができる。

 アイリスは割り当てられた部屋に籠もり、座禅をして精神統一をするそうな。

 アリアはなんでも昨日不幸な出来事が立て続きに彼女の身に降り掛かったらしく、主を見守る事に決めたそうな。

 ……どんな事が起こったのかは怖くて、中々本人には聞けないが。

 そして護衛役を一旦免除され、暇を与えられた俺とめぐみんの二人は現在。

 

「おぉ、これがカモネギか! 初めて生で見るけど、中々に可愛いな」

 

「そうでしょうそうでしょう! この穢れのない無垢なる瞳、そして庇護欲を掻き立てられる鳴き声! 本当、可愛いですねぇ……──『黒より黒き闇より深き漆黒に……──』」

 

「止めろ」

 

 街から離れた観光名所である、カモネギの養殖所を訪れていた。

 可愛いと口では言いつつも、めぐみんは倒せば高い経験値を得られる格好のカモも倒す為に爆裂魔法の詠唱を始める。

 ……やっぱりこうなるよなぁ。

 俺は小さくため息を吐き、やれやれとばかりにかぶりを振って。

 

「ほんと頼むぞめぐみん。ただでさえ此処は観光名所だからか沢山の人がいるんだから、危険極まりない爆裂魔法を撃つな。ていうか今更だけど、魔法の使用って中級魔法から駄目じゃなかったか?」

 

「それは街中ですよ。此処は観光名所とはいえそれには該当しません。ですから撃ってもいいと思い……──痛い痛い! 痛いです! ちょっ、頬をひっはらないへくだしゃい!」

 

 舐めた事を真顔で口走る爆裂娘に制裁を加え、俺はどうしたものかと頭を悩ませた。

 どうにも最近、めぐみんは爆裂魔法を撃ちたい言わば『爆裂欲』をぶり返している節がある。

 いやまぁ、別にそれ自体はいいのだ。

 実際彼女の爆裂魔法は強敵とはとても役に立つし、何度救われたか数えるのも馬鹿馬鹿しくなる。

 けどせめて人様には迷惑を掛けないでくださいお願いします。

 そのようなやり取りをしていると、観光客であろう一人の女性が今の様子を見ていたのかくすくすと笑いながら近づいてきて、

 

「仲が大変よろしいんですね? ご兄妹ですか?」

 

「いいえ、そんなんじゃありませんよ」

 

「まあっ。という事は、そういう関係で……?」

 

 痛む頬を擦りながらめぐみんが否定すると、女性は不審者を見るような目で俺を見てきた。

 ……。

 これはアレだ、昨日と全くもって同じ状況だ。

 明らかに俺の事をロリコンだと思っているな。

 堪らずに抗議しようと声を上げ掛けた……

 

 ──その時。

 

「いいえ違います。私達は信頼のおける仲間ですよ。あっ、ちなみに彼には、十四歳の私より幼い恋人がいたりします」

 

「……!?」

 

 めぐみんがとんでもない爆弾を投げた……!

 いやまぁ、あながち間違いじゃないけれども!

 そんな俺の叫びは如実に顔に表れていたのだろう。

 女性は存分に顔を引き攣らせ、無理矢理愛想笑いを浮かべるとズサりと後退り。

 

「そ、そう……。えっと、私この後用事があるんだったわ! 二人とも、良い旅を!」

 

「お姉さんも良い旅を!」

 

 そのまま何事もなかったかのように振る舞い別れを一方的に告げて去っていった。

 めぐみんが呑気に別れの挨拶を朗らかに口にしているが、被害者の俺からしたら堪ったものじゃない。

 一度この仲間とはとことん話し合う必要があるなと思っていると……いや待て?

 こいつはさっき、何て言った?

 俺はカモネギ鑑賞に移っている知能が高い紅魔族の少女におずおずと。

 

「なぁめぐみん?」

 

「……? 何ですか?…… 私今、爆裂魔法を撃ちたくて疼く身体を無理矢理抑えるのに苦労しているのですが」

 

「そ、そうかそれはごめん……っていや違う! おおおおお、お前! さっき俺に恋人がいるって……!?」

 

 冷や汗をダラダラと流し、狼狽しながらもそう訊ねると、めぐみんはさも不思議そうにこちらを見て……

 

「あれっ、もしかして違いました?」

 

「いや合ってるよ! 合ってるけれども!」

 

 俺の肯定にめぐみんはホッと胸を撫で下ろした。

 だが聞きたいのはそこじゃない。

 

「何時気づいたんだ?」

 

「何時って……昨日の朝ですが。アイリスは何時もあなたの事を『様』付けですが、『さん』付けに変わっていましたからね、まぁつまり、そういう事かと思ったのです」

 

 ドヤ顔で自分の推理を堂々と語り、紅魔族随一の天才はどうですかとばかりにこちらを見返してきた。

 こいつもこいつで、かなりチートだよなぁ。

 たったそれだけで普通気づくか?

 俺が絶句していると、めぐみんは尚も言葉を続けて。

 

「というかですね、それがなくてもすぐに分かりますよ。竜車の中でお互いを意識しているのがバレバレでしたし」

 

「……そんなにか?」

 

「はい。内心、爆裂魔法を撃ち込んでやろうかと思ったくらいには」

 

 さらりと仲間を殺す発言とはとても恐ろしい。

 心做しか瞳も紅く輝いている気がする。

 戦々恐々と俺が怯えていると、めぐみんは肩を竦め、けれど楽しそうに。

 

「それより今は観光を楽しみましょうか。一旦街に戻りましょう」

 

「そうだな。時間は有限だしな」

 

 俺はめぐみんの言葉に素直に頷いた。

 そうだ、此処は俺にとっての人生初の外国なのだ、アイリスの話はまた今度すればいい。

 今は思い切り楽しまなくては損だろう。

 それに時間帯も昼だからか腹が減り、気づけば俺達の他に観光客は誰もいない。

 考える事は皆同じなのだ。

 カモネギ養殖所を立ち去り、エルロード王国の首都に戻ろうと背を向けた……

 

 ──その時。

 

 「 ────『エクスプロージョン』ッ!」

 

 爆裂欲を抑えきれなかった馬鹿が、声高らかに破壊の呪文を唱えた!

 

 

 §

 

 

 思わぬ出資で財布の中身がかなり減った俺とめぐみんは、国が運営するカジノにやって来ていた。

 というか、有り金全部なくなったんですけど。

 ジト目を送ると爆裂娘は居心地悪そうに視線をふいっと逸らし、下手な口笛を吹くしまつだ。

 イラッとするが、我慢、我慢するのだ。

 ここ最近はめぐみんと別行動が多かったのだ、仲間のよしみで許してやるとしよう。

 それに運が良い俺だったら、すぐに赤字を黒字にするのは造作もない事だ。

 ただでさえ宿に残っているアイリスとアリア、アクセルにいる友人達にお土産を買わなくてはならないのだ、絶対に勝たなくてはならない。

 俺はなけなしの一万エリスを手に、ルーレットの席に座る。めぐみんも流石に悪いと思っているのか、何も言わずに隣に座った。

 というか、悪いと思うならやるなよ。

 そんな悪態をなんとか脳内だけで毒づいた俺は、ゲームの基本事項であるルールをディーラーから確認する。ふむ、日本のそれと同じようだな。

 真のゲーマーである俺は、見ただけである程度の仕組みは分かるものだが、それでも念には念をこした事にはない。

 

「めぐみん、お前も手伝えよ」

 

「それはもちろん大丈夫ですが。カズマほどの豪運の持ち主なら何もしなくても稼げるのでは?」

 

「ちっちっ、分かってないなぁめぐみん。こういうのは案外、頭が良くないと稼げないもんさ」

 

「なるほど! ちなみに、私はどういった事をやればよいのですか?」

 

「確率の計算」

 

 とそのような作戦を立てていると、ディーラーがにこにこと営業スマイルを浮かべて、俺達の事を待っていた。

 おおかた、俺の事をカモだとタカを括っているのだろう。

 よし決めた。

 

「めぐみん、今の所持エリスは?」

 

「五千エリスですが」

 

 意外に少ないな。

 おかしい、こいつには機動要塞デストロイヤー戦のお金が残っていた筈だが。

 どういう事かと目で問うと、めぐみんは……

 

「その、実家が貧乏ですとね……お金を財布に入れる事に抵抗があるといいますか……」

 

 尻込みして言葉を弱くしながらそう告げた。

 ……非常に反応に困るのだが。

 ディーラーも敵なのに同情の視線を送ってきているんですが。

 カジノなのに重たい空気が流れるという、奇妙な光景が俺達の台に見られていた。

 俺はわざとらしくこほんと咳払いをして。

 

「ならめぐみん。俺を信じてその金を貸してくれないか?」

 

「……!」

 

 ここまで言えば分かったのか。

 めぐみんは何時もの勝気な笑みを浮かべて、財布ごと俺に渡してきた。

 財布がぱんぱんに膨らんでいるのは彼女が嘘をついている訳ではなく、ポイントカードによるものが多い。なんかもう、本当に反応に困るのだが。

 

「あ、あのお客様……? その、差し出がましいのですが、流石にそれはお辞めになった方が……」

 

 ディーラーが困ったようにそう忠告してきた。

 てっきりこういった店に勤めている人は極悪非道で金にがめつい人種が多いと思っていたのだが、それは偏見だったらしい。

 まぁ国が運営するんだから当たり前かもしれない。

 俺は割と年が近い青年に親近感を覚えながら、けれど問題ないと首を横に振る。

 そして、俺とめぐみんの有り金全部が合わさった一万五千エリスをチップに換えて……その全てを掬ってみせた。

 それを見ていた周囲の人々とディーラーがぎょっと目を剥く中、次第に野次馬根性丸出しの会話が何処からか出される。

 試しに『聴覚』スキルを使ってみると。

 

『おいおいおい、あの兄ちゃん大丈夫か!?』

 

『やけくそ混じりなのか?』

 

『初心者あるあるだよなぁ。まぁ最悪、警察署に行けば一晩は泊めてくれるだろ』

 

『ははっ、違いないね。というか兄ちゃんも兄ちゃんだが……あのお嬢ちゃんもお嬢ちゃんだよなぁ』

 

『それな。どんだけ信頼しているんだが……』

 

『まぁそこは、兄妹の絆じゃないか?』

 

『えっ? あのお嬢ちゃん、確か噂に聞く紅魔族だろ? ほらっ、黒髪紅目で頭がイカれている。けど兄ちゃんの方は黒髪黒目だから、それはないんじゃないか?』

 

『確かに。という事は……?』

 

『マジかよ。彼氏彼女の関係なのか?』

 

『いやいや、それは流石に……』

 

『ないだろ』

 

『でもあんだけの信頼関係があって何もないって、おかしくないか?』

 

『『『なんだ、ロリコンか』』』

 

 今すぐ立ち上がって失礼極まりない事を囁いている奴らをしばき倒したい。

 なんだかなぁ、ここ最近、俺の風評被害が酷い気がするのだが。

 もしかして何かの呪いにでも掛かっているのではないだろうか。

 ……今度アクアに看てもらうとしよう。

 

「あの、お客様。本当に、本っ当にいいんですね? あとになって泣き叫んでも知りませんよ?」

 

 律儀に最終確認をしてくるディーラーに俺は、最早何も言わずに無言で持っていたチップを赤に賭けた。

 そしてめぐみんと顔を見合わせてから、先輩盗賊の口癖を声高に叫ぶ。

 

「「いってみよう!」」

 

 

 ──カジノで大儲けをした俺達は、ぱんぱんに膨らんだ財布を片手に持ち綺麗に整備された道路を歩いていた。

 いきなり増えた所持金にまだ頭が追いついていないのか、やや挙動不審気味のめぐみんが畏怖の目で俺を見ながら。

 

「それにしても、あんなに上手くいくとは思いませんでした。もしかしたらカズマ、あなたの運はこの世界で一番なのではないですか?」

 

「そうだといいんだけど、残念な事にそれはない。この前クリスとジャンケンをしたんだけどさ、先に二勝したら勝ちってルールでやったら接戦の末負けちゃったんだよなぁ」

 

「マジですか?」

 

「マジです。けどまぁ、クリスを除けば多分いないだろうな。なんでか知らないけど、先輩凄い慌てていたし」

 

「はい? まぁそれは良いとして……取り敢えず何処かのレストランにでも入りましょうか」

 

 夜は晩餐会が開かれるとあって、昼食は軽いものが良いと判断し、俺達は洒落たレストランにへと入店した。

 最初はパスタ料理の店にしようとめぐみんが誘ったのだが、生憎麺類は昨日の夜にアイリスと食べてしまっている。

 おっさんのラーメンを忘れない為にも、俺はめぐみんに謝りつつも別の店にしようと言った。

 特製のサンドイッチを注文し、アクセルの店とはまた一味違った内装に俺達がきょろきょろしていると、近くのテーブル席にいたセレブな女性達の会話が聞こえてきた──

 

「ほんと、ここ最近は景気が良くて最高ね。エルロードに乾杯! ──ねぇ、その美味しそうなデザート一口くださらない?

 

「ほんとそうね。国王陛下が超期間他国にお出になると聞いた時はたいそう焦ったものだけれど、中々あのバカ王子もやるじゃないの。──ふふふっ、お断りです

 

「バカ王子と言われて十四年。彼もいい加減、王族として目覚めたのかしら? ──早くちょうだいよ

 

 ……?

 俺とめぐみんが顔を見合わせると、浮かべている表情は互いに同じだった。

 それは、困惑。

 アイリスが今回エルロード王国にわざわざやって来たのは、許嫁との顔合わせ……ではなく、支援金を減らそうと画策しているこの国の内情を知り……なんとか防ぐ事だ。

 てっきり俺達は支援金を援助できない理由……つまり、財政難だとあたりをつけていたのだが……。

 いやでも確かに、言われてみればおかしいな。

 これだけの人だかりができるほどの賑やかな国が、財政難である筈もない。

 いやその前に、バカ王子ってのは何だ?

 ……となると、何か別の理由があったりするのだろうか。

 それは天才も同じように考えたらしく、

 

『もう少し聞き耳を立てましょう』

 

 俺は仲間の提案に頷いて、『聴覚』スキルを限界まで発動させた。

 他の感覚が著しく低下するが、モンスターと戦っている訳でもないのでさした問題ではないだろう。

 

「でもね聞いてちょうだいよ。何でも景気が良いのは、宰相様の手腕の力だそうよ? やっぱりバカ王子はバカ王子なのねぇ。せっかく政治の決定権あるのに宝の持ち腐れじゃない。──それとしつこいわ

 

「あらそうなの。なぁんだ、やっぱりかー。それじゃあ、宰相様に……乾杯! ──ちっ、しょうがないわね

 

「「乾杯!」」

 

 ますます分かんないなぁ。

  『聴覚』スキルを解除して俺とめぐみんが揃って首を傾げていると、頼んでいた料理が運ばれた。

 俺達はいただきますと挨拶をしてから、サンドイッチを口に頬張り咀嚼する。

 俺は食べながら頭を回転させていた。

 今分かっているのは、以下の通り。

 一つ、国王陛下がいない事。

 二つ、国王陛下がいないのに景気が良い事。

 三つ、それはなんでも、宰相の見事な手腕のお陰。

 それらを考慮するのなら、つまり裏でこの国を操っているのは宰相という人でまず間違いないだろう。

 確かアレだ、宰相というのは国の政治の舵を切る人の事だった気がする。

 となると、支援金を絶とうと考えを巡らしているのはエルロードの王国……ではなく宰相なのだろうか。

 いやでも、流石に全権を与えたりはしていないだろうから、バカ王子とやらにも決定権はあるのだろう。流石は異世界、日本だったら小学六年生なのに政治にも関われるのか。

 いや、それを言ったらお酒だって法律的には飲む事ができるのだけれども。

 俺がアイリスやめぐみんの歳くらいだと確かゲームをしていて親に叱られた気が……

 

「どうしたのですかカズマ? 難しい顔をしていたと思ったら急に目頭をおさえて……」

 

「いや何、ちょっと過去を悔い改めていただけだよ。そうだよな、親孝行は大事だもんな。たとえガラクタ魔道具を作る親がいたとしても、めぐみん、親御さんを捨てちゃ駄目だぞ?」

 

「ちょっと何言ってるのか分かりませんが……それよりカズマは親孝行しなかったのですか? その、もしかしてお亡くなりになったり……」

 

 おずおずと訊ねてくるめぐみんに、俺は違う違うとばかりに手をぱたぱた振って。

 

「普通に生きてるよ」

 

「なら会いに行けばいいじゃないですか。会いたいのでしょう?」

 

「それができたら苦労しない」

 

 俺の返答に、めぐみんはますます分からないとばかりに首を傾げた。

 うむむ、なんて説明すればいいんだろう。

 今更だけど俺の前世について話したのはアイリスだけだなぁ。

 いやそれだってサンタクロスとかネトゲハイ神とか、悪ふざけしたものが多いけれども。

 今度時間があったら話すとしようか。

 

 ──店を後にした俺達は別行動をする事にした。

 というのも、友人知人に贈るお土産を購入する為だ。

 俺からしたら別行動する必要はないと思うのだが、めぐみん曰く被らない為の処置らしい。

 まぁ確かにそれも一理あるか。

 流石はカジノ大国なだけはあり、この国ではひっきりなしに勝負が行われている。

 そういった娯楽施設もあり、生粋の廃人ゲーマーからしたら惹かれるものばかりだ。

 特にあの、カードゲームショップが俺の琴線に触れるのだが……時間もないから諦めよう。

 めぐみん、レインさん、アクア、ダクネス、クリス、ウィズ、クレア、チンピラ仲間のダストといった面々に彼ら彼女達が好きそうな商品を買い、アクセルの冒険者ギルドに届けるよう手配する中、俺は宿に残っているアイリスとアリアの事を思い出した。

 危ない危ない。

 危うく忘れるところだった。

 四大貴族のマルクス卿にプレゼントに渡していいのか迷うところだが……そういえばダスティネス卿とシンフォニア卿に渡すんだからさして変わらないと思い直す。

 アリアに渡すのは何がいいか思案したところで、俺の優秀な目があるものを拾った。

 それは扇子だった。

 ハッキリ言ってこの街には似合わないが……殆どの商品が売れていてショーケースに残っているのは一つだけ。

 俺は背が高く巨乳な美人お姉さんに声を掛けて。

 

「すいません、何でこれが売られているんですか?」

 

「あぁそれはね、私の主人が扇子職人なの。なんでも女神様から──私はあんまり信じてないんだけど──それはもう見事な扇子を作る、その作り方を教えてもらったらしくてね。ほら、此処は人が沢山いるでしょう? 今は景気が良いからこうして空き家も安く借りれるから、こうして故郷のアベレージという街から出稼ぎに来たの」

 

「アベレージって、ベルゼルグ王国の?」

 

「ええ! もしかして、あなたも?」

 

「はい。まぁ俺はアクセル出身ですが……」

 

「そうなのね。……あっ、いけないいけない。お客様、残り一つの当店自慢の扇子、いかがですか?」

 

「買います! ちなみにお幾らですか?」

 

「なんと驚く事に……三千エリス!」

 

 そうにこやかに言ってくるのだが、相場が幾らか知らない俺からしたらハッキリ言って分からない。

 個人的には少し高いのだが……。

 まぁでも、これも縁かもしれないから買ってみよう。

 それにアレだ、俺の祖父がお土産に妥協をしてはいけないだとか、そんな事を言っていた気がするし。

 こんな時は行動で家族孝行をするとしよう。

 

 ──アリアのお土産を買った俺は現在、今度はアイリスのお土産を探していた。

 だが先程とは一転し、これが中々思うように進まない。

 相手が王族だからかと考え……いや違うよなぁと感想を抱く。

 何せ好きな女の子に渡すものなのだ。

 アイリスだったら──自惚れでなければ──昨夜の言ったように何を買ってあげても喜んでくれそうだが……そうではなくて心から喜んでくれそうなものを贈りたい。

 そう思うあたり、俺は本当にアイリスの事が好きなんだなぁと実感させられて……自分でもおかしくなる。

 俺ってこんなに純情だったっけ?

 一年前の……家に引き籠もり自堕落な毎日を送っていた自分が聞いたら、それはもう驚くだろうな。

 そのような事を考えながら歩いていると、俺と同年代くらいの綺麗な女の子達がある店から出てきた。

 豪華な服装と纏う高貴な気配からして、恐らく貴族のお嬢様あたりだろう。

 だって後ろに護衛いるし。

 そうなると、昨日の観光はかなり異例というか異常だったんだなぁ。

 何となく彼女達が寄っていた店の前に立ち看板を見ると、此処はどうやら宝石店のようだ。

 平民の俺が入っても捕まらないよな、そんな恐怖を抱きながら扉を開けると、チリンチリンと付けられたベルが鳴り、来客が来た事を知らせる。

 その瞬間、店員と思わしき一人の眼鏡を掛けた男性が近づき、

 

「いらっしゃいませ。当店はご存知の通り宝石店でございます。全ての宝石を取り扱っている事が自慢でして、また安さにも定評があります。何をお探しでしょうか?」

 

 す、凄いな。

 これがビジネスマンの力なのか……!

 一歩試しにズサりと後ずさると、店員は眼鏡をクイッと掛け直しながらズズいと開いた距離を詰めてくる。

 そしてとうとう、俺は後ろの扉とぶつかってしまい、逃げ場がない事を察知した。

 ……にこやかに笑い掛けてくる彼が怖くてしょうがない。

 本当はもう少し見て周りたかったのだが仕方がない。幸いにも金はさっきカジノで大稼ぎしたから充分にある。

 まぁその代わりに要注意人物一覧に載せられたと思うけれども……多分この街に来る事は二度とないと思うのでさしたものではなかろう。

 眼鏡店員の案内のもと店内を歩き続けると、あるコーナーに目が留まった。

 それは、誕生石のコーナーだった。

 余程人気があるのか残すはあと一つだけ。

 立ち止まり遠目から眺める俺を、チャンスと判断した店員がここぞとばかりに。

 

「これはですねお客様。ご覧の通り誕生石というものでして……」

 

「それって何ですか?」

 

「 一月から十二月までの各月に因む宝石でございます。自分の生まれた月の宝石を身につけるとなんらかの加護があるといわれていまして…… 」

 

「つまり俗習か」

 

「お客様?」

 

 思わず漏らした言葉に、眼鏡店員はそのフレームの奥できらりと瞳を光らせた。

 どうやら、踏んではいけない所を踏んでしまったらしい。

 それはさながら、ドラゴンの逆鱗のよう。

 怯えていると、彼はこほんと咳払いを一つして。

 

「しかしですねお客様。当店の誕生石は全て天然物でして、大変価値があるのです。もちろんその分お高くなりますが……どうでしょうか? 彼女様もきっとお喜びになられるかと……」

 

「どうして俺に、彼女がいると?」

 

 訊ねると男性は神妙そうな顔を作り、ぽんと気さくに俺の肩に手を置きながら。

 

「どうしてって……そんなの雰囲気で分かりますよ。何せこの道二十年のプロですから」

 

「へ、へぇー」

 

「それでどうですかお客様? 宝石には宝石言葉というものがございまして……こちらの商品の意味は……──」

 

 俺は、それを買う事に決めた。

 






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。