このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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外交

 

「なぁめぐみん」

 

「……? 何ですかカズマ」

 

「今思ってる事を言ってもいいかな」

 

「おや奇遇ですね。私もちょっと、言いたい事があるのですか……」

 

 おぉ、流石は一年を共に過ごしてきた仲間だ。

 俺達レベルの仲になると、お互いの事なんて下手したら自分より熟知しているかもしれない。

 いや、それは流石にないか。

 俺達は見つめ合い……期せずして同じタイミングで……

 

「「城デカ過ぎ!」」

 

 ……そんな感想を、堪らずに叫ぶのだった。

 

 ──観光を終え、俺達は当初の目的通りに外交をする事になった。

 そうはいっても今晩だけは違い、あちら側……つまりエルロード王国が遠路遥々訪れた俺達を労い晩餐会を開いてくれるとの事。

 遠路遥々と言っても、実際は数日だった訳だが……そこに触れるのは止めておこう。

 夜になり、アリアを先頭にして王城に赴くと、俺とめぐみんの平民勢はただただその大きさと豪華さに圧倒されていた。

 ……王城で少なくない年月を過ごした俺が断言しよう。

 明らかにこちらの方が何もかも優れている。

 流石はカジノ大国、金を使うのにはあまり躊躇しないらしい。

 ほへーと感嘆の息を出していると、めぐみんが。

 

「この城はアレですね、ベルディアが潜んでいた古城を思い出すのですが。思い返せば、あの古城はまだ破壊していませんね。私の見立てでは同じくらいだと思うのですが……。爆裂魔法を撃ったらどうなるのでしょう!」

 

「めぐみん様、その……くれぐれもそのような事はなさらないようにお願いしますね? 貴女様の爆裂魔法の威力は馬鹿にできないので!」

 

「いやですねアリアお姉さん。いくら私でもやって良い事と悪い事の分別はつきますよ」

 

「「……」」

 

「おい、その何か言いたげな目を止めてもらおうか」

 

 早速物騒極まりない事を口走る爆裂娘に、俺とアリアが半眼になって注視する。

 まぁ流石に、そんな度胸はないと思いたい。

 思いたいなぁ……。

 無言の圧力を掛けていると、今まで黙っていたアイリスがくすくす笑いながら……

 

「本当に凄いですね。これだけのお城を作れるとは、かなりお金を無駄遣いしたんですね」

 

 ……そんな事をさらりと……。

 ……!?

 

「あああああ、アイリス? どうした、腹でも壊したか? それとも風邪を引いたのか?」

 

 ど、どうしたんだろう。

 アレか、やっぱりまだ緊張しているのか?

 そうだよな、この子はまだ齢十二歳の女の子。

 更には初めての外交で不安に駆られているのだろう。

 いくら一日中座禅をしていたとはいえ、それをなくすのは無理があるものだ。

 声にこそ出ていないが、めぐみんやアリアも驚愕の表情をまんべんなく浮かべ……そこには恐怖の色も若干混じっている。

 俺も似たようなものだろう。

 そんな俺達の様子に気づかずに、アイリスは続けた。

 

「いえこの前カズマさんが、『いいかアイリス。世の中の金持ちってのはな無駄に金を使う事で自分の力を誇示するものなんだ。それも一種の政治だとは思うが、やり過ぎは国民の反乱を招くからな、気をつけるんだぞ?』と教えてくださったので……あぁこれが無駄遣いなんだなぁという感想を……──あ、あのどうかしましたか? そんなに顔を青くして」

 

「「おい」」

 

「ごめんなさい。今ものすごく、罪悪感で押し潰されそうなのであとにしてください」

 

 送られてくる二人分の視線がとても痛い。

 そしてひそひそと囁き合い、こちらをチラチラと見ては話すのを再開させる。

 そして俺はというと、かなり真面目に後悔していた。

 調子に乗って、ある事ない事教えたのが悪かったのかもしれない。

 どうしよう、これ、王女様に悪知恵を吹き込んだといって国家転覆罪で捕まらないよな?

 そうなったら死刑免れないんだけど。

 存分に有り得る将来にぶるりと身体を震わせ、俺達は王子を待っていた。

 昼間入手した、王と妃の両陛下が他国に行っているという情報はガセではないようで、現在の城主である王子自らが出迎えてくれるそうな。

 良い奴なのだろうか。

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 ──数十分後。

 

「まったく……これだからベルゼルグの田舎者は。城の前で騒がしいぞ、もう少し礼儀というものをだな……──おい待て、お前達は何をしている?」

 

 子供特有の、変声期前の高い声が城に響く。

 最初は威圧的だったものも、俺達がしていた行為を不思議に思ったのか訝しげなものになった。

 代表して俺が短く答える事に。

 

「天体観測」

 

「……!? お、お前達は神聖な王城の前で呑気に天体観測をしていたのか!? 声が喧しいわ!」

 

 いやそんな事言われましても、何分経っても来なかったお前が悪いと思うのだが。

 俺は自分用に買っておいたお土産のミニ望遠鏡を折り畳んでロングコートのポケットに入れてから、改めて声の主を見る事にした。

 見た感じだが、年齢はアイリスと同じくらいだろうか。

 身長は甚だ忌々しいが俺とあまり大差がない。

 数年経てば成長期故に俺を軽々と抜かすだろう。

 まるで自分の力を見せ付けるかのように燕尾服やドレスを着飾った──この後行われる晩餐会の為だろう──家臣をぞろぞろと後ろに引き連れ、そばかすが散った赤毛の少年。

 頭に小さな王冠を載せている事や、アイリスに対する口の利き方からまず間違いなく、こいつがアイリス王女の許嫁だろう。

 子供二人はまだ天体観測をしていたかったようだが、そこは別の機会するとして……。

 不安げな様子なアイリスに俺は視線で勇気づけ、意図を汲んだ彼女は小さく微笑してから一歩前に出る。

 あちらも彼女が誰なのか分かったのか、取り敢えずは出方を探る姿勢のようだ。

 

「あなた様がエルロードの第一皇子、レヴィ王子ですか? 私はベルゼルグの第一王女、アイリスと申します。あなた様にお会いするために参りました。本日はあなた様のお顔が見られて嬉しいです」

 

 屈託のない柔和な笑みを浮かべたアイリスは、普通の声量ながらも芯が通る声を出し、王族に相応しい見事な礼をしてみせた。

 俺達護衛役もまたそれに従い、礼をする事に。

 エクストラスキルの『社交』を持っている俺と、四大貴族の令嬢であるマルクス卿は兎も角として、平民のめぐみんが少々浮いてしまった。

 バカ王子と巷で有名なレヴィ王子も、一人だけぎこちない動きをする者がいたら流石に気づくというもの。

 彼はふんと小馬鹿にしたように鼻で笑い……まずはアイリスに対して。

 

「お前が俺の許嫁か? ベルゼルグの女子供は野蛮な武闘派集団だと聞いていたのだが……何だその線の細さといい、間抜けな顔つきといい……お前、ちゃんと飯を食っているのか? それともアレか、ベルゼルグは王族のお前ですらまともな料理が出されないのか? とんだ拍子抜けだな」

 

「……えっ、あ、あの。すいません……。それとその、ご飯は毎日出されます」

 

 謝りながらも、一応は訂正するアイリス。

 しかしながらレヴィは何か琴線に触れたのか声を荒らげて。

 

「馬鹿め、そんな嘘が通用すると思うな! それに何だその護衛の少なさは。アレか、お前の故郷は護衛すら雇えないのか? 強そうとはとても思えんし……もう少し金を稼ぐ頭を鍛えた方が良いと思うがな!」

 

 王子の言葉に同調するように、背後に控えていた家臣達もこれみよがしに嘲笑を浮かべてみせる。

 イラッ。

 思わず適当な魔法で王子に攻撃しかけ……慌てて冷静さを取り戻した。

 我慢だ。

 我慢するのだ。

 俺は何処ぞの、売られた喧嘩は買うというスタンスを持った民族ではない。

 これは外交なのだ。

 多分、これは駆け引きなのだろう。

 ならば敵の挑発に乗っては駄目だ。

 現に、あの喧嘩っパヤイめぐみんや温和で優しいアリアだって眉間に青筋を浮かべながらも堪えている。

 パーティーリーダーの俺が耐えずして、何がリーダーか。

 賢明に自制していると、王子はアイリスからこちらに目を送ってくる。

 そしてますます、見下したように嗤って。

 

「その護衛にしてもパッとしないな。そこの女は所作は完璧だが貧乳だし、男は礼は尽くせるようだが頼りないし、ちくちくりんの女は論外だ。ベルゼルグは子供にすら貧しい思いをさせているようだぞ!」

 

 その言葉に王子は高らかに嗤う。

 家臣達も続こうとして……ハッと何かに気がついたように目を見開いた。

 だがしかし遅い。

 大人のアリアは我慢できるようだが、俺とめぐみんは子供。

 なんでもベルゼルグとエルロードは、同盟国らしい。同盟国、それは一緒に戦う仲間の事。

 それなのに、魔王軍という共通の敵がいるのに、あちらはどうやら仲良くしたくはないようだ。

 お忍びの顔合わせ? 外交?

 なんかもう、そんなのどうでもよくなった。

 家臣達の異変に遅まきながら気づいたバカ王子が困惑しながら振り返る……その前に。

 俺とめぐみんは前に出て。

 

「「その喧嘩、買おうじゃないか!」」

 

 

 §

 

 

 俺の予想通り、それは外交の駆け引きのつもりだったのだろう。

 王子が俺達を挑発し怒らせる事で、悪印象を抱かせようという企み。

 俺達は彼の挑発にまんまと乗り……外交は失敗する。

 だがそれは、普通ならだ。

 唯一、唯一彼らにとって誤算だったのは──

 

「違うのです! 我が王子は何分この歳ですからまだまだ勉学が足りず! 紅魔族の存在をまだお知りになっていなかったのです!」

 

「おい何だ、紅魔族って?」

 

「圧倒的な魔力を誇り、そして頭がおかしいと言われている危険な民族ですよ!」

 

「そうですよ! 王子、喧嘩を売るのは構いませんがもう少し落ち着きを持ってください! それと相手を選んでください!」

 

「はぁ!? お、お前達がそうするよう、俺に助言したんだろうが!」

 

「それはそうですがっ! 取り敢えず謝って! 早く謝ってください! しかもアレは爆裂魔法じゃないですか! 死にますよ!? 肉片一つ残さずに死にますよっ!?」

 

「わ、分かったよ。悪かった、悪かったから! その爆裂魔法とやらの詠唱を止めろ!」

 

「王子、もっと誠意をみせて!」

 

「止めてください!」

 

 家臣達が常識知らずのバカ王子を必死に諫め、バカ王子は涙目になりながら謝った。

 めぐみんがどうしましょうとばかりに目で問い掛けてきたので、俺は。

 

「だそうだから止めてやれよ、めぐみん」

 

「……カズマが言うのなら……。しかし今回だけですから次は見逃しませんよ? 我が名はめぐみん。我が爆裂魔法はこのようなちっちゃけな城など爆裂できるのです。分かりましたね?」

 

 数々の戦いによってレベルアップを果てしているこの爆裂魔だったら本当にやれかねない。

 俺が顔を引き攣らせていると……

 

「……めぐみん? 何だそれは。もしかして名前……──」

 

「おや? 私の名前がどうかしましたか?」

 

「──うわぁ、とても素敵な名前だな!」

 

 ふむ、バカ王子もどうやら学習したらしい。

 良きかな良きかな。

 そのようなやり取りをしていると、アリアが良くできたとばかりにめぐみんの頭を優しく撫でている事に気づく。

 この旅で仲良くなった成果が、そこに表れていた。

 何ていうか、母性があるなぁ。

 将来は良いお母さんになりそうだ。

 王子は心あたたまる風景に一瞬羨望の眼差しを向けてから、今度はひそひそと家臣と囁き合い。

 

『おい、それではあの慈愛の笑みを浮かべている女はどうだ?』

 

『あちらは確か、マルクス卿でございます。なんでもある出来事の所為で貴族としての発言力は落ちたようですが……それでも敵に回すのは得策ではありません』

 

『なるほど。……いいなぁ……』

 

『……王子?』

 

『いや、なんでもないぞ』

 

 家臣の訝しげな声に、主はなんでもないと答えるが……寂しそうな顔は隠せていない。

 自分の親が他国に出掛けているのだ、外面でいくら強がろうとも内面は少年でしかない。

 そりゃあ寂しいってものだ。

 敵ながら軽く同情していると、最後に王子はこちらを見て。

 

『じゃあ、あの正真正銘パッとしない男も本当は凄い奴なのか? 曲がりなりにも護衛をしているんだ、強いのか? どうなんだ?』

 

『いえ、アレは見た事も聴いた事もございません。黒髪黒目の方達は勇者候補と呼ばれているのですが……纏う覇気も大したものではないですし、おおかた荷物持ちか何かでしょう』

 

 ぶっ飛ばすぞ。

 と今度こそ魔法で攻撃しようとした……

 

 ──その時だった。

 

「いったい何を騒いでいるのですか? 晩餐会の準備は既にできています、せっかく作られた料理も冷めるというもの」

 

 目鼻立ちは普通極まりないが、一目見ただけでお偉いさんだと分かる細やかな意匠が彫られた燕尾服を着た一人の男。

 ハッキリ言って、王子より貫禄がある。

 彼は悠然とこちらに歩み寄りながら苦言を言い、それに一人の家臣が慌てて。

 

「さ、宰相殿! いやこれはですね、その……」

 

「その?」

 

「い、いえなんでもございません……」

 

 家臣の言葉によってようやく、俺は、いや俺とめぐみんは彼がどういった身分かが判別できた。

 俺達は視線を交わし、一つ頷く。

 この男が、俺達が昼に入ったレストランで話題に出てた宰相のようだ。

 なんでも、政治を牛耳っているとの事。

 つまりはこの男性が、俺達の敵なのだ。

 家臣達が畏まり媚びた笑みを浮かべ頭を垂らす中、あっという間に騒ぎを収めて見せた宰相はここで初めて俺達に目を向ける。

 やりにくそうだなぁ。

 それが、俺が抱いた感想。

 逃げ腰になり掛けたその時、今まで黙り込み傍観の立場を取っていたアイリス王女がにこやかに挨拶をした。

 

「はじめまして、私はベルゼルグ第一王女のアイリスと申します。お目にかかれて光栄です」

 

「これはこれは! 武闘派集団だと言われているベルゼルグの姫が、よもやこんなにも可憐でお美しい方だとは! はじめまして、私の名はラグクラフトと申します。……ようこそアイリス王女、カジノ大国エルロードへ。どうぞ城内に、晩餐会の準備は既に準備できておりますゆえ」

 

 感情の読めない表情で挨拶を交わした凄腕宰相殿は慇懃に一礼してから、城内に戻っていく。

 それに家臣達はぞろぞろと従い……これでは誰が王か分かったものではない。

 なるほど、これなら確かにバカ王子と言われる訳だ。

 多分だが。

 これはあくまでも俺の予想だが。

 ……レヴィ第一王子に味方は一人もいないのではないだろうか。

 部外者の俺が感じるのだ、当事者の彼がそれを感じない訳がない。

 少年は悔しそうに奥歯をギリッと歯噛みした後、一目こちらを見てから慌てて宰相達を追いかけていった。

 俺達はその様子をぽかんと眺める事しかできなかった。

 

 

 §

 

 

「そこをお願いします!」

 

「無理ですね」

 

 そんな一人の少女の甲高い悲鳴が謁見の間に大きく響き、エルロードの宰相、ラグクラフトは気分を些か害したのか顔を小さく歪めた。

 カジノ大国にしては質素な晩餐会が昨夜開かれて一夜明け。

 王城で寝泊まりした俺達は現在、本来の目的である外交にへと話を進めていた。

 進めていたのだが……──

 

「お願いします!」

 

「しつこいですよ。我が国も財政が厳しいのです。一見そうは見えないかもしれませんが……それでも確かに厳しい。昨日の晩餐会だって、同盟国の姫を饗すものなのに寂しいものでしたでしょう? つまりはそういう事です。それより私は、どのようにして私達が支援費……言い換えれば防衛費を減らそうとしているのかを前もって知ったのか聞きたいのですが」

 

 あからさまな話題転換に、けれど幼き姫は乗らず再度深く頭を下げでお願いをする。

 俺もそれは気になっていたのだが……貴重な情報源を漏らす筈もないか。

 用意された椅子に座りつつ、こんな時にめぐみんがいればと強く思う。

 昨夜の一件の所為で、危険極まりない紅魔族は来るなと門前払いされてしまったのだ。アリアは彼女の監視である。

 まぁ、観光をしてくれればいいか。

 あちらは俺の事を荷物持ちだと思い込んでいるので、一番弱いと判断した俺を護衛としてこの場にいさせている。

 こちらが二人なのに対して、あちらは宰相、王子、その取り巻きと人数がとても多い。

 舐めてんのかと苦情を言いたいが、集団の力を使いたいのだろう。

 というか外交をしているのは宰相だけで、他の奴らは無駄話をしているのだが。

 どれだけ見下せばこいつらは気が晴れるのだろうか。

 しゅんと見るからに落ち込むアイリスを傍から見て、俺が何もしない訳にもいくまい。

 

「失礼。ちょっとだけいいですか?」

 

 そう断りを入れて間に入ると、ラグクラフトはちっと小さく舌打ちをした。

 こいつ、体裁を考えなくなったな。

 嫌そうな表情をめいいっぱい浮かべて、

 

「何ですか? ……貴方は確か護衛でしたよね? これは我がエルロードとベルゼルグの正式な歓談です。身分を弁えなさい」

 

 なるほど一理ある。

 しかし……

 

「ほう。身分ですか? つまり相応の身分があれば良いと」

 

「……えぇ、そうですが」

 

 戸惑いながらも……宰相は確かに一度頷いた。

 俺はにやりとそれに笑い、胸ポケットに大事に入れておいたネックレスを取り出す。

 それは、王都を旅立つ間際にシンフォニア卿からいただいたネックレス。

 家紋が入ったこのネックレスを所持しているということは、それだけで力となる。まさかこんなにも早く使うとは思いもしなかった。

 ラグクラフトにそれを見せ付けると、

 

「……分かりました。貴方の参加を認めましょう。それで、何用ですか?」

 

「まず確認したい事が一つ。宰相殿、あなたはつい先程財政難だと言いましたよね?」

 

「えぇはい。確かに言いましたが……それが何か?」

 

「ふむ。それにしてはおかしい。街の住民達は好景気だと言いながら酒を飲み、それはなんでも宰相殿、あなたの力が大きいのだとか。ちょっとおかしくないですか?」

 

「それは彼らが有頂天になっているだけですよ。何れ彼らも気づくでしょう、この国の実態を」

 

 ちっ、この男いけしゃあしゃあと。

 やっぱり手強いな。

 もとよりこっちは平民の俺と、外交なんてした事がないアイリスだ。

 ……流石に分が悪いか。

 

「分かりました。それならアイリス、レヴィ王子に頼もうか。こういった頑固親父はな、中々自分の意見を変えないからな」

 

「なるほど! 流石はカズマさんですね!」

 

「なっ!? 私がこの国の政治を管理しているんですよ!? それに私はまだそんは歳じゃありません! 王子に言ったところで……いやそれより、カズマ? どこかで聞いた事があるような……」

 

 ぶつぶつと独り言を漏らすラグクラフトを放置して、俺達は席から立ち上がり……家臣と呑気にゲームをしていた王子に歩み寄る。

 街の人曰く、政治の決定権は王子にもあるそうな。

 ……そんなの当たり前の事だろうに。

 何せ彼は、たとえ馬鹿でも王族なのだから。

 

「どうですかレヴィ王子。ご機嫌いかがですか?」

 

「お前が来た所為で悪くなった。俺は今ゲームで忙しいんだ、どっか行ってろ」

 

 アイリスが見惚れるような笑みを浮かべるが、反対に王子は不機嫌そうな表情を浮かべる。

 おおかた、ゲームを邪魔されたのが気に食わないのだろう。

 その気持ちは同じゲーマーとして痛いほどに共感できるが、曲がりなりにも今は外交をしているのだから止めろと声を大にして言いたい。

 というかこのガキ、一度絞めてやろうか。

 

「おい小僧。お前昨日から随分な言い草だな。礼儀がどうとか昨日偉そうに言っていたが、他国の文化に興味を持たず、すぐに人を見下す。そっちの方が礼儀がなってないんじゃないですかねぇ? というか、これで本当に許嫁なの? 馬鹿なの、アホなの? 喧嘩売ってんの?」

 

「カズマさん!? 一旦落ち着いてください。私を気遣うそのお気持ちは大変嬉しいのですが……」

 

「カズマ? 何処かで聞いた事があるような……。貴様、名前は?」

 

「佐藤和真だけど何か?」

 

 苛立ち混じりにそう名乗ると、王子は何かを思い出したようにハッと目を見開いた。

 それはラグクラフトや、他の家臣もそう。

 

「少しお時間を」

 

 俺達が答えるよりも前にエルロード勢は一箇所に固まり、何やらひそひそと囁き合う。

 試しに『聴覚』スキルを使ってみれば……

 

『おいラグクラフト。サトウカズマって、あのサトウカズマじゃないか? ほら、魔王軍幹部とか殺戮の機動要塞を倒したという……』

 

『見たところ嘘はついていませんから……そうかもしれません』

 

『んな!?だったらあの男も充分危険じゃないか! というか、だったらせめて支援金の断ち切りは止めた方が……。ここは貸しを作った方がいいんじゃないか?』

 

『王子。誰が来ても、それこそ英雄が相手でも態度は変えてはなりません。これはこの国の事を思っての事。分かりましたね?』

 

『……分かった』

 

 くそ、あの宰相め!

 今流れが良かったのに!

 話し合いを終えた王子達は席に戻り、ハッキリと拒絶を口にする。

 

「駄目だ。たとえサトウカズマ、貴殿のような英雄であろうと態度を変える気は一切ない。これは国の為なのだ」

 

 それ、ラグクラフトのパクリじゃん。

 王族の顔になっているから一瞬騙され掛けたが、冷静に思い返せばパクリだった。

 駄目だな……この国完全に、ラグクラフトの操り国家になってる。

 ……そもそも何で、支援金を断とうとするのだろうか。

 それはアイリスも思ったらしく。

 

「あの、どうしてですか? 元々ベルゼルグとエルロードは我が国が武力支援を、そちらは防衛費をお互いに送る事で同盟国となっています。……仮に防衛費をいただけずに我が国が敗けて魔王領となったあかつきには……この国が狙われるんですよ?」

 

「それについては問題ない。我が国は魔王軍に敵対する気はないのだ。それ故に、支援金を負担する事はできない。数日前、ちょうど魔王軍との条約が結ばれたところだ」

 

 ……。

 えっ、何、つまりどういう事だ?

 魔王軍に敵対する気がない? つまりそれは、人類を裏切るという事か?

 

「あの、それはつまり……魔王軍側につくという事ですか?」

 

「そんな訳なかろう。こちらにも事情があるのだ。つまりは中立的な立場という事だな。……あぁそうだ、せっかくの機会だ、婚約も破棄して構わない。元々親が勝手に決めた事だしな、お互いその方が良いだろう?」

 

 一瞬。

 俺とアイリスは顔を見合わせて笑みを浮かべてしまう。

 本来の作戦ではさり気なく破棄してもらうようお願いするつもりだったのだが、まさかあちら側から言ってくれるとは、なんという僥倖。

 しかしこいつも馬鹿だな。

 こんなにも可愛い許嫁を自分から手放すとは。

 あとになって前言撤回してもこれだけは譲れない。

 喜色の色を浮かべる俺達を見て王子は不思議そうな表情を作ったが、さして興味はないのか何やら思案し始める。

 おおかた、早く俺達を追い出したいのだろう。

 だがそれに乗る訳にはいかない。

 せめて、せめて何かしらのチャンスがあれば……!

 そんな俺達を嘲笑うかのようにラグクラフトが。

 

「それでは今日はお帰りなってください。こちらとしては外交は終わりましたが、まぁ来たければ何時でもどうぞ。考えを変える気はありませんが……──」

 

「いや待て、ラグクラフト」

 

 宰相の言葉を遮ったのは、他ならない王子だった。

 王子は少年の顔つきになり、俺に畏怖の視線を送りながらこう言う。

 

「俺はな、面白いものが好きだ」

 

 知ってるよ。

 

「俺が明日から、お前達に試練を出したいと思う。それを達成できたら……防衛費の削減について前向きに検討しよう。どうだ、やるか?」

 

「やります!」

 

 即答するアイリスに、レヴィ王子はまぁ待てと手を振りながら。

 

「しかし条件がある。カズマ殿下、あなたがその試練に挑戦する事。仲間の紅魔族や貴族と一緒でも無論構わない。ただしパーティー制限として、アイリス王女は駄目だ。なんでも王族はチートなのだろう? それと、最初の試練だけはカズマ殿下、あなた一人だけだ。英雄としての力を、この目で見てみたい」

 

 いやごめんなさい、俺は英雄とはとても言えません。個人的にはミツルギとかおすすめしますよ。

 

「王子!?」

 

「良いじゃないかラグクラフト。どの道試練は最初は簡単なものにするつもりだが、最後は難しいものにするつもりだ。何れ疲弊するだろう。……それに俺は、試練の数について明言していない。──つまりだ、俺を心の底から楽しませてみろ」

 

「……それなら、私も文句はありませんが……」

 

 渋々ながら納得する宰相を尻目に、俺は内心レヴィ王子に舌を巻いていた。

 なるほど、流石は勝負好きな子供だ。

 確かにそのルールなら違反ではない。

 ポーカーフェイスを必死に取り繕いながら頭を悩ませていると、アイリスが上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。

 王族の立場としては是非ともやってもらいたいが、私情としてはその限りでもない、そんな複雑な顔。

 ……。

 ……思えば、俺が真面目に戦った事はあんまりないな。

 大丈夫だ、こう見えても俺は魔王より強いと噂のバニルに勝利を収めているのだ。

 ここは俺も覚悟を決めよう。

 俺は好きな女の子の頭を軽く撫でてから、返答を待ち侘びている王子に振り向き。

 彼の瞳を真正面から見据え、告げるのだった。

 

「その試練、受けよう!」

 








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