このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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英雄の力

 

 俺の名前は佐藤和真。

 珍しく真面目に冒険者活動をする事に決めた俺は現在。

 

「それにしても……本当にカズマはアイリスに甘いですね。惚れた弱みってヤツですか? 仮に結婚したら尻に敷かれそうですね」

 

 仲間からの容赦ない誹謗中傷を受けていた。

 人がせっかくやる気になったのに、何ていう言い草だ。

 いやまぁ、それも仕方がないと思うけれども。

 宿から王城に向かう途中、めぐみんからの口撃がぐさりと胸を穿つ。

 流石はいじめっ子体質を持っているめぐみんだ。容赦がない。ゆんゆんは何時もこんな風に胸を痛めているのだろうか。

 というか、尻に敷かれるって……。

 色々と言いたい事を全部飲み込み、こほんと咳払いをしてから俺は説明する。

 

「それもあるけどな、どの道これしか方法はないんだよ。今日は俺だけが試練とやらをやるけど、明日からはめぐみん、お前も協力してくれよ?」

 

「それは構いませんが。それにしても、その試練とやらはどういった内容なのでしょうか?」

 

「それが予想できたら苦労しない。だからこうして弓を背中に提げて、剣を持って、ウィズから貰ったリストバンドを手に装備し、ポケットにはマナタイトを仕組んでいるんだ」

 

「うわぁ、本当にガチモードですね。というか正直、私いらなくないですか? 今のカズマだったら大半の敵は倒せると思うのですが……」

 

 俺の一分の隙もない装備にめぐみんはやや引きながらそんな事を言ってくる。

 けどな、甘い、甘いぞめぐみん。

 ちっちっと俺は指を振り。

 

「分かってないなめぐみん。こういうのはアレだ、備えあれば憂いなしって言うんだ」

 

「はぁ……もう勝手にしてください。──というかアイリス、あなたは何時までカズマの腕に抱きついているんですか!?」

 

 とめぐみんは嘆息してから、心底幸せそうな表情を浮かべているアイリスに声を上げた。

 そう、こうして道を歩いている間も女の子は俺の腕に抱きついている。

 向けられてくるロリコン扱いの視線にはもう慣れた。慣れちゃいけないと思うけれども。

 彼女は困惑の表情を浮かべ、

 

「……?」

 

「……!? ちょっ、何ですかその、お前何言ってんの的な目は!? 私がおかしいのですか!? アリアお姉さんも羨ましそうな目で見てないで止めてくださいよ! 臣下でしょう!?」

 

「で、でもですねめぐみん様。こう、他人が踏み込んではいけないオーラが出ているんですよ。彼氏いない歴=年齢の私では太刀打ちできません」

 

「そ、それはその……。……。やっぱり私がおかしいのですか、そうなのですか!?」

 

 いや、めぐみんが正常です。

 俺だって正直、とても恥ずかしいのだが。

 恥ずかしいけども……ほにゃりと緩んでいるアイリスの顔を見たら、何かもう……どうでもよくなる。

 本来主を諫める筈の四大貴族の令嬢は虚ろな目になりながら現実逃避していた。

 ……もう少しで何処ぞの貴族と結婚するんだろうなぁ。

 というか、そろそろ敵側の根城に到着するから止めて欲しいのだが。

 頼りになる仲間に助けてと懇願の視線を送ると、流石は天才、的確に意図を汲んでくれる。

 

「ほらアイリス、そろそろ止めましょう? というか、止めなさい!」

 

「嫌です!」

 

「子供みたいに我儘を言わないでください! 王女様なんですから時と場を選んでですね……」

 

 いやごめん。

 ところ構わず危険極まりない爆裂魔法を撃とうとするめぐみんに言われても、説得力皆無なのだが。

 

「めぐみんさんだって子供じゃないですか!」

 

「ふっふっ、私は既に十四歳……つまり法律的には大人ですよ? 」

 

「そ、そんな!? ……じゃあ私、国に帰ったら結婚可能年齢を変えます! 具体的には、十二歳からです!」

 

「はぁ──!? そんなの職権濫用ですし、そんな出鱈目な案が通る筈がないでしょう!」

 

「うぐっ!?」

 

 幼い頃から政治や経済について英才教育を仕組まれているアイリスといえど、真の天才には適わないらしい。

 自分が言った意見の荒唐無稽さに気がついている、というのもあるかもしれないが。

 王城に辿り着くと、そこには既にレヴィ王子と……何故か宰相のラグクラフトが城門で待ち構えていた。

 宰相は意外に暇なのだろうか。

 そんな俺の突っ込みはもちろん届かず、王子が声を掛けてくる。

 

「来たか」

 

「来たよ。それで、第一の試練は?」

 

 肩を竦めながら頷き訊ねると、王子はにやりと勝気に唇を三日月型に歪め。

 

「取り敢えずカズマ殿下、まずは訓練場に移動しましょう」

 

 

 ──案内された訓練場には、大剣やら長剣やら斧ヤラ槍やら、それぞれの得物を携え、殺気を放っている騎士達がいた。

 ここまでくれば、試練の内容も自ずと分かるというもの。

 

「今からカズマ殿下には、この国の精鋭部隊と戦ってもらう。数は十人。全員が全員、数々の戦線を潜り抜けた猛者達だ。その全てに勝ったあかつきには、第一の試練の達成を認めよう」

 

 王子は昨日言った。

 最初は簡単なものにするつもりだ、と。

 しかしどうだろうか。

 ……ハッキリ言って無理ゲーである。

 てっきり俺は、昔のローマ帝国の剣闘士の如くモンスターと戦うものばかりだと思っていたのだが。

 いやそもそもの話、エルロードに強い騎士はいないんじゃなかったのか。だから同盟国として成り立っていたんじゃないの?

 俺は近くにいた一人の騎士に声を掛け、

 

「……ちなみに職業は?」

 

「〈ソードマスター〉だが」

 

 おっと、まさかの上級職じゃないですか。

 えっ、マジで?

 煌びやかな防具に身を包み、得物はかなりの高級品。装飾品がない事から、彼が本物の騎士だと窺える。

 装備面に関しては彼我に差はないが……問題は俺と彼らとの掛け離れた自力の差だろう。

 単純な打ち合いだったら、絶対に勝てない。

 俺が絶句していると、ラグクラフトが人が悪そうな厭らしい笑みを存分に浮かべながら。

 

「まぁこれくらいでしたらあなたもすぐに突破できるでしょう? 何せ、あなたは此処、エルロードにまでその名声が届くほどの英雄だ。違いますか?」

 

 イラッ。

 こいつ、そんな事微塵も思ってないクセに!

 しかし落ち着け佐藤和真。

 まだ肝心のルールを聞いていない。

 対策はそこからでもできるだろう。

 

「……王子、ルールは何でもいいんですか?」

 

「いや、魔法の使用は中級以上は禁止だ。それだったら自由で構わない。スキルの使用も許可する」

 

「分かりました、ありがとうございます。──じゃあ……何時でもどうぞ」

 

「「「……!?」」」

 

 堂々と放った俺の言葉に、レヴィ王子やラグクラフト、戦う準備をしていた騎士達、更には仲間のめぐみん達が驚愕する。

 俺は三代目の相棒を鞘からシャキン! と抜き放ってからベルゼルグ王国騎士団仕込みの構えをした。

 国に戻ったら教えてくれた隊長に感謝しよう。

 そして数秒後、十人の騎士達が憤怒に顔を染め……殺意を持って武器を手に取った。

  『何時でもどうぞ』と俺は言ったのだからそれも仕方がないかもしれない。

 つまり────

 

「一対一ではないのか? いくら英雄の貴方といえど、我々十人を相手に同時に戦うと? 我々を馬鹿にしているのですかな?」

 

 隊長と思わしき男が大剣の鋭利な切っ先を油断なく向けながら、そう確認する。

 なるほど、確かにあちら側したら舐めプだと思うのかもしれない。

 けれど俺からしたら、個対多の方が勝率が格段に上がる。

 というか、これしか方法がない。

 俺は相手を挑発させる為に……敢えて気持ち悪いと評判のキメ顔を作り。

 

「たった十人、すぐに倒してやるから早く掛かってこい」

 

 刹那、先程〈ソードマスター〉と名乗った男が剣を上段に構えながら一歩前に出てくる。

 他の騎士達は動かないから様子見だろう。

 この試練のルールは、中級以上の魔法の禁止。

 たったそれだけだ。

 スキルの使用も許可されている。

 俺は何も、彼らが呑気に戸惑っている間に何もしなかった訳では断じてない。

 何時でもどうぞと言ったのは俺で、つまり俺からしたら──その瞬間から勝負は始まっているのだ。

 剣が振られ俺の身体を切り裂こうとする……

 

 ──その直前。

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

 先手必勝──『クリエイト・アース』によって用意していた土を、俺は風を生成する『ウインドブレス』で飛ばす事によって相手の目を潰した。

 これで数秒は稼げる。

 そしてそれだけの時間があれば、雌雄は決するというもの。

 

「ぐはっ!?」

 

 苦悶の呻き声を上げている間に俺はソードマスターの後ろに回り込み、剣の柄で首元を殴って彼を気絶させる。

 これで一人退場──あと九人。

 

「な、なんだアイツ!?」

 

「おい、アレってルール違反じゃないのか!?」

 

「いや違う! アレは初級魔法だろ!?」

 

「……これが本物の英雄なのか!?」

 

 よし上手くいった。

 騎士達が動揺している間に俺は、リストバンドを使って魔力を回復させる。

 ここ最近分かったのだが、初級魔法二発分で中級魔法一発分といった計算だ。もっともこれには個人があるので一概にはいえないが。

 とここで『敵感知』スキルが発動する。

 このスキルは敵意や殺意といったものに敏感で、手中すればその発生源を教えてくれる優れもの。

 ここ最近大活躍しているなぁ。

 位置は……真後ろと、右斜め後方。

 流石は国に仕える騎士団、更には選りすぐりの猛者達。

 対応するのがとても早いな。

 俺はすぐさま相棒を背中に構え、振られた長剣に無理矢理間に合わせた。

 ガンッ! と金属同士がぶつかり合い音が大きく反響する。

 やっぱり単純なステータスじゃ負けるか。

 ジリジリと、しかし確実にこちらが押され始める。

 

「貴様、後ろに目でもあるのか!?」

 

 騎士がそう声を上げるが……俺もある意味驚いていた。

 男性とは違った高い声からしてまず間違いなく、こいつは女性だろう。

 ……騎士団には女性も入団できるんだな。

 しかし彼女に構っている時間はない。

 現に、右斜め後方から仕掛けている槍使いが、溜を作っている。

 こいつら、俺を殺す気満々じゃん!

 俺は鍔迫り合いをしている為に動けず、このままでは確実に腹が刺され……当たり所が悪ければ最悪死んでしまう。

 いやそこは〈アークプリースト〉のアリアを信じたいが……そうなったら俺の負けとなり試練が失敗となってしまう。

 つまり受ける訳にはいかない。

 絶体絶命の窮地……けれど、まだ手はある。

 俺は空いている左手に魔力を込め、そして瞼を閉じてから叫んだ。

 

「『フラッシュ』ッ!」

 

「「……ッ!?」」

 

 刹那、眩い光が訓練場を覆い──対策をしていなかった騎士達が驚愕の声を上げる。

 当然それは、俺から近い位置にいた二人が最も被害を受け……鍔迫り合いをしていた女騎士は剣を握っている力を弱め、槍使いは槍を堪らずに落とす。

 これを逃すほど俺は馬鹿ではない。

 女騎士には『ドレインタッチ』をして体力と魔力を根こそぎ奪い気絶させ、槍使いには懐に隠していた短剣を『狙撃』の要領で投擲し彼の意識を掠め取る。

 残り──七人。

 ヤバいな、今日の俺凄い冴えている!

 今だったら何でもできそうだ!

 と調子に乗りそうな心を必死に抑え、俺は冷静に次の一手を打つのであった。

 

 

 ──訓練場に十人の騎士達が倒れ込んでいた。

 全員意識はない。

 そして立っているのは最弱職の冒険者一人だけ。

 結論を告げるのなら、俺の勝利だった。

 しかも圧倒的な。

 

「す、凄い! これが英雄の力……!」

 

 レヴィ王子が歳相応の顔つきになり、ヒーローを見るかのように俺を畏怖の目で見てくる。

 何だろう、凄くくすぐったいな。

 実際は正面からの戦いではなかったのだが。

 ラグクラフトの顔が面白くなっているが、まぁそこはスルーで良いだろう。

 俺の名前は佐藤和真。

 やればできる子の俺が本気を出したら、たとえ何人であろうと太刀打ちはできないものだ。

 と内心華麗に格好つけていると、離れて俺の戦いを見守っていためぐみん、アリアのニ人が駆け寄って来る。

 

「凄い、凄いですよカズマ! 何かこう、上手く言えませんが、とても凄かったです!」

 

 余程興奮しているのか、瞳を紅くしながらそう告げるめぐみんに俺は余裕綽々の態度を作り。

 

「どうだ、俺も本気を出せば凄いだろ? これからは無敵のカズマさんと……──」

 

「それは大丈夫です」

 

 えぇ、そこは乗ろうよ。

 首をガクッと落として項垂れていると、アリアさんが『ヒール』の上位回復魔法『セイクリッド・ヒール』を掛けてくれる。

 女神アクアには及ばないが、流石は数少ない〈アークプリースト〉、その腕は本物だ。

 怪我は一つもしていなかったが、それでもありがたい。思いやりの心は大事だよなぁ。

 

「ありがとうございます、アリアさん。騎士達にもお願いできますか?」

 

「……よろしいのですか? その、いくらサトウ様が勝ったとはいえ……敵だったのですよ?」

 

「いやいや、それはそれ、これはこれですよ。ほらっ、昨日の敵は今日の友って言うでしょう?」

 

 そう笑い掛けるとアリアは力強く頷き、未だに倒れ伏している騎士達に治療を始めた。

 急所は一応避けていたが、それでも念には念を越した事にないだろう。

 これで負けた恨みをなくしてほしいものだ。

 めぐみんと俺の戦い方について批評していると、アイリスがゆっくりと近づいて来た。

 てっきり最初に来てくれるとばかりに思っていたのだが。

 どうやらそれは自惚れと願望だったらしい。

 ……。

 彼女は興奮しているのか頬を赤らめ、ぼうっと瞳を揺らしている。

 俺はそんな彼女に。

 

「どうだアイリス。これで試練を一つ達成だ。明日からはめぐみんやアリアさんも参加できるし……すぐに王子を楽しませて……──」

 

 楽しませてやる、そう言葉を続けようとした時だ。

 アイリスが俺に真正面から抱き着きついてきた。

 危うく後ろに倒れそうになったが、男の意地として何とか耐える。

 

「ちよっ、アイリス!? アリアお姉さん、ちょっとこれヤバくないですか!?」

 

「良いなぁ……」

 

「アリアお姉さん!?」

 

 めぐみんとアリアが何か言っているが、それに注意を払えない。

 そんな余裕はない。

 元許嫁の前で何をやっているんだとか、これって何気にヤバいんじゃないんだとか、そんな思考がたちまち浮かぶ。

 けれどもこの時だけは、他者の視線など至極どうでもよかった。

 お互い顔は真っ赤だろう、俺達はしばらくその姿勢のまま抱きしめ合い。

 ──アイリスが笑顔になって、俺の耳元で囁いた。

 

「ますますあなたの事が好きなりました!」

 

 

  §

 

 

 最初の試練を無事に達成させた俺達は現在……

 

「先程の事は見なかった事にしようと思う。お前達もそれで良いな?」

 

「「「はっ!」」」

 

「しかし王子! いくら何でも、先程のアレは……──」

 

「ラグクラフト、二度は言わないぞ」

 

「……畏まりました」

 

 ──謁見の間に通されていた。

 背後には大勢の家臣が、横には宰相が控えている。

 先程の出来事に箝口令を敷いてくれるのはとても助かるのだが、急にどうしたんだろう。

 煩い宰相が蛮勇にも王子の命令に口を挟んだが、そこは王族の圧力を掛けて黙らせていた。

 レヴィ王子は昨日とは違い、王族としての覇気をその身に宿しながら告げる。

 

「英雄サトウカズマ。貴殿の戦い方はあっぱれというしかなかった。あれだけのスキルを使いこなし我々が誇る騎士団を無力化したその武勇、やはり英雄として相応しい。まぁ、やり方はかなりエグかったが……それでもルール違反ではない。しかも職業は最弱職と呼ばれている〈冒険者〉なのだろう? 本当に凄かった!」

 

 そう褒め称えてくれるが、俺からしたら嬉しさよりも戸惑いの方が大きい。

 この王子様、俺が数多の大物賞金首を屠った実力者だと分かった瞬間から俺に対してだけ態度が違う。

 まぁ十二歳なんて歳の子供は英雄や勇者に憧れるものだし、共感もできるのだけれども。

 そう思うと、この少年がなんだか微笑ましく思えてくるなぁ。

 きっと数年経ったら自分の黒歴史に悶々とするのだろう。是非ともその光景を見たいものだ。

 そんな性悪な事を俺が考えているとは露知らず、レヴィ王子は言葉を続けた。

 

「俺……いや私としては充分に楽しませてもらった。それはもう楽しませてもらったとも」

 

「じゃあ、防衛費の断ち切りを止めて貰えるのですか!?」

 

「私個人としてはそれでも良いのだが……──」

 

 アイリスの食い付きにやや引きつつもレヴィ王子は難しそうな顔を作って横にいる宰相を見る。

 

「なりません、それはなりませんよ王子! ついこの前、魔王軍との条約を結んだばかりではないですか!」

 

 ちっ、この宰相め!

 せっかくバカ王子が立派な王子になるところだったのに邪魔しやがって。

 というか前々から思っていたのだが、条約って何だ?

 それはめぐみんも同じように感じたらしく、

 

「条約って何ですか? 私からしたら、魔王軍と条約を結ぶとか馬鹿だと思うのですが」

 

「……和平交渉ですよ。魔王軍がベルゼルグ王国を倒したとしても、本国には干渉しない。その代わり、我々は貴国に対し一切防衛費を送らない、そういったものですよ。というか先日も言いましたが、何処でその情報を得ました? 箝口令を敷いていたのですが……」

 

 宰相が形だけは申し訳なさそうにしながら謝る。

 なるほど、昨日レヴィ王子が言っていた中立の意味がよく分かった。

 確かに現在、人類と魔王軍の戦は勇者候補の登場と……俺とめぐみんのパーティーが幹部を二人倒した事によって膠着状態になっている。

 なんちゃって幹部の不死王(ウィズ)を除いたとしてもあと半分は生きているのだ。

 どちらが勝ってもおかしくないこの戦況で、ラグクラフトのような穏便派が頭角を現すのは当然の帰結と言えるだろう。

 なるほど確かに、政治家としては宰相の政は何一つとして間違っていない。

 流石は国の運命をその背中に背負っている男だ、尊敬もしよう。

 だがそれは、客観的に見た場合だ。

 俺が言葉を出すその前に、普段は温厚で優しいアリアが下衆の目でラグクラフトを凝視しながら、ふっと嘲笑を浮かべて。

 

「あのラグクラフトさん? 相手は魔王ですよ? そんな約束を守ってくれると本当に思っているんですか? 馬鹿なのですか、アホなのですか? 」

 

 何処かの女神が言いそうな事を放った。

 アレか、この世界のプリーストはこういった人種しかいないのか。

 いやまぁ、その気持ちは分からなくはないけれども……。

 

「……!?貴様、四大貴族だからといって失礼だぞ! ……交渉は私がしたのですが、魔王様は大変気さくで素晴らしい方だったのです。それに信用もできます! この道何十年という私が断言します!」

 

「いやいや、それはないですよ。だって魔王ですよ? めぐみん様もそう思いますよね?」

 

「同じく。何ですかその、実は敵が良い奴だった! 的なアピールの仕方は。病院に行く事をおすすめしますよ」

 

 うんうんと、俺とアイリスもそれに頷く。

 気さくで素晴らしいとか、そんな魔王がいたら人類と敵対してないと思うんだが。

 それとあんたのその自信は凄いと思うけど、そうやって慢心していると何処ぞのカツルギみたいに駆け出し冒険者に負けるぞと助言しよう。

 さて、どうしたものかなぁ。

 やっぱりこの口煩い宰相が邪魔をするのか。

 いっその事爆裂魔法でも撃ち込もうか。

 そんな風に頭を悩ませていると、ラグクラフトが突如として哄笑しながら。

 

「でしたら、あなた方が魔王様を倒せるという証拠を出してください。元々我が国が条約を結んだのには、どっちに戦況が傾くか分からないからです。人類の方が強いと、証明してください」

 

「いや証明って、そんなのどうやって」

 

 こいつやっぱり馬鹿なんじゃないかなとジト目で見ると、敏感に感じ取った宰相は一瞬眉を顰めるも冷静に言葉を続ける。

 その先は俺──ではなくアイリス王女だった。

 

「アイリス王女、貴国が昔成り立ったばかりの頃にやっていた事があるでしょう? 我が国も是非やってもらいたいものです」

 

「それは、その……」

 

 えっ、何それ聞いてない。

 というかそんな方法があるのなら最初からそれをやれば良かったのでは?

 そんな俺の浅はかな考えは、次の瞬間すぐに打ち砕かれた。

 

「我が国で最も脅威のモンスター。その退治をお願いしたい。そのあかつきには魔王軍との条約を撤廃し、防衛費……更にはそれに加え、攻勢に出る支援金も出しましょう! どうですか? そちらにとってメリットしかありませんよ?」

 

 それはとても助かるけど、この国財政難じゃなかったの?

 そんな俺の突っ込みはやはりスルーされ。

 レヴィ王子が目を見開きラグクラフトに詰問する。

 

「ラグクラフト、お前それ本気か!? いくら英雄のカズマ殿下やアイリス王女がいるとはいえ、流石にそれは無理だろう! 何せ相手は……──」

 

 えっ、何、そんなにおっかない相手なの?

 

「か、カズマカズマ。何かヤバそうな相手の予感がするのですが!」

 

「奇遇だなめぐみん。俺もそんな気がする。具体的には、無理難題を押し付けられる気がするんだが」

 

「あのサトウ様、めぐみん様、私もそんな予感がします」

 

「運が悪いアリアさんが言うとか、どう見てもフラグじゃん!」

 

 俺達護衛役が冷や汗をダラダラと流していると──

 

 アイリス王女が立ち上がって聖剣を抜き、床に深く突き刺す。

 

 それは決意の表れか。

 謁見の間にいた全ての人々がその光景に惹き付けられる中、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス殿下は微笑みながら告げた。

 

「我が国は昔、他国を襲っていたモンスターを打ち倒す事で、支援金をいただいていました。私もご先祖さまに倣って、退治しましょう。──相手は誰ですか?」

 

 レヴィ王子はそれにこう答える。

 まるでその単語を言ったら自分が殺されるかのように、呪われるように。

 たった一言、それが敵の正体だった。

 

「──ドラゴンだ」

 

 奇しくもそれは、その相手は──謂れのない国家転覆罪で俺に課せられた強制任務(ミッション)と同じものだった。

 俺は数週間前に課せられたふざけた内容の強制任務を改めて思い出す。

 

『一人以上の魔王軍幹部の討伐』

『洞窟に住み着くドラゴンの討伐』

『キールのダンジョンの異変調査』

 

 あぁなるほど、確かにそれなら宰相の苛立つその哄笑も頷けるというもの。

 彼は確信しているのだ。

 俺達が其奴を倒せないと。

 何せ相手は、最強、最高、最凶の存在であり。

 

 モンスターの王なのだから。

 








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