このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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成長

 

 エルロード王国の金鉱山に住み着いていた黄金竜を斃した俺達は、まず最初に冒険者ギルドに寄っていた。

 恩師のレインさん曰く、この世界では世界中にモンスターが闊歩している為に、殆どの街では冒険者ギルドが設立されているそうな。

 故に、カジノ大国エルロードにももちろんあり……俺達は報告しなければならない。

 何もギルドは、ただモンスターの討伐クエストを冒険者に依頼するだけじゃない。管轄内地域の生態系を管理する義務もあるのだ。

 

「あのすみません。今なんて?」

 

「黄金竜を斃しました」

 

 パーティーリーダーの俺が代表してイケメン男性職員に報告すると、呆然とした顔で見返してくる。

 そのまま数分が流れ、彼はハッと我を取り戻して叫んだ。

 

「ドラゴンが退治された! 金鉱山の黄金竜が討伐されたぞ!」

 

 刹那、建物内がしんと静まり返る。

 俺とめぐみんはこの後の展開が容易く想像できるが、冒険者じゃないアイリスとアリアは不安そうに顔を見合わせていた。

 人々はざわつき──そして一気に爆散する。

 それは、称賛、畏怖、感動の音。

 

「おおおおおおお! 《ドラゴンスレイヤー》だ! 新たな《ドラゴンスレイヤー》の誕生だ!」

 

「凄いっ、凄いよっ!」

 

「相手は黄金竜なんだろ!? それを斃すなんて!」

 

「おい、見ろよ! あんな小さな子供もいるぞ!」

 

 賑やかな声を背に聞きながら、俺は着々と報告する事にした。

 これが普通のモンスターだったら早く終わるのだが、何せ相手がドラゴンの為に色々と面倒な手続きをしなければならないのだ。

 ドラゴンは魔力の塊。

 角、鱗、翼、骨、牙はおろか……その竜血の一滴までもが超が付くほどの高級素材だ。

 まぁそうはいっても、黄金竜の死体はあまり残っていなかったのだが。

 めぐみんの爆裂魔法で身体は半壊していたし、止めのアイリスの一撃で原型を保っていたのはあまりなかった。

 それでも貴重な素材になるのだから、ドラゴンの凄さが分かるものだろう。

 だがしかし、俺達の目当てはそんなちっぽけな金ではない。

  《ドラゴンスレイヤー》だの《英雄》だのと沸き立つ冒険者ギルドをあとにして、俺達は王城にへと向かう。

 城門には既に、多くの騎士達が縦一列に隙間なく綺麗に整列していた。

 噂というのは一瞬で伝播するらしい。

 最初とは明らかに違う態度だが……正直、こういうのは嫌いじゃない。

 中には先日俺と戦った騎士達もいて、目を輝かせている。

 と、騎士団隊長が敬礼しながら声を掛けてきた。

 

「お疲れ様でした、カズマ殿。どのような戦いだったか、今度聞かせていただけますか?」

 

 昨日の敵は今日の友。

 俺は訊ねてきた隊長にもちろんとばかりに頷いた。

 どうやら彼が案内してくれるらしく、俺は謁見の間に入る道中に、繰り広げられた死闘を余す事なく全て語るのだった。

 

 

 

「──そこで俺は考えた訳だ。敵は黄金竜。並大抵の攻撃じゃビクともしない。なら、高火力でゴリ押しするしかないってな」

 

「なるほど! そこでめぐみん殿の爆裂魔法を使ったと、そういう事ですね?」

 

「あぁ。アリアさんの支援魔法、更にはマナタイトを数個使った爆裂魔法の威力は凄まじく……()の竜を爆裂したかに思われた」

 

「ち、違ったのですか!? あの爆裂魔法ですら屠れなかったのですか!?」

 

「そうだ。竜は耐えたんだ。耐えてみせたんだ。だがしかし、第二の刃であるアイリス王女の『セイクリッド・エクスプロード』が炸裂し……なんとか斃す事に成功した」

 

 おぉ! と感嘆のため息を吐く隊長と俺が並行して歩く中、その数歩後ろでは……

 

「アイリス、アレで勝ったとは思わないでくださいね! 黄金竜を斃せたのは、私が前もって『エクスプロージョン』で重傷を負わせていたからなのですから! ですから、その逆も然りという事ですよ!」

 

 ……自分の愛する爆裂魔法で斃し切れず、歳下の女の子に美味しいところを持っていかれためぐみんがやかましかった。

  「美味しいところを持っていく」事を誇りにしている紅魔族からしたら堪ったものじゃないのだろう。

 ちらりと後ろを振り返ると、そこにはげんなりしているアイリスとアリアがいた。

 心做しか、ドラゴン退治より疲れている顔をしている気がするが……気の所為だと思いたい。

 その表情のままアイリスが嘆息して。

 

「分かってます。分かってますから。確かに私が最初に撃っていたら、めぐみんさんの出番があり、黄金竜を爆裂できましたとも。ですからもう許してください」

 

「いいえ許しませんとも! 何ですか、『セイクリッド・エクスプロージョン』って! 爆裂魔法の上位版なのですかそうなのですか!?」

 

 めぐみんからしたら、技名も気に入らないらしい。

 というか……

 

「『セイクリッド・エクスプロード』だろ? 全然関係ないじゃん。いやまぁ、確かに語呂は似ているけども」

 

「そうですよめぐみんさん。『エクスプロード』なので一切合切関係ありません。……確かに語呂は似ていますが」

 

 隊長との話を一旦区切りそう訂正すると、爆裂娘は瞳を紅くしながら違う違うと声を荒らげる。

 

「えぇい! どうして分からないのですか! 紅魔族随一の天才が断言しましょう! あの技は、爆裂魔法程の威力があるから、『セイクリッド』の名が冠せられ、『エクスプロード』になったと思いますがね!」

 

「「「面倒臭いなぁ……」」」

 

 俺とアイリス、アリアの三人が期せずしてハモった貴重な瞬間だった。

 そんな王城に相応しくない賑やかさを伴って歩く事数分後、俺達はとうとう謁見の間にへと通される。

 案内役の隊長と別れそのまま進むと、玉座にはレヴィ王子が姿勢正しく座り、俺達を見下ろしていた。

 王子の近くには宰相ラグクラフトと、多勢の家臣達が控えている。

 冒険者達が跪き(こうべ)を垂れると、レヴィ王子は玉座から立ち上がり、俺達に駆け寄って……

 

「本当に、本当にやったのか!?」

 

 ……そう興奮を隠せない表情で訊ねてくる。

 普通ならパーティーリーダーの俺が代表して答えるべき場面だが、此処は王城で、更にパーティーメンバーにはベルゼルグ王国の第一王女がいらっしゃる。

 故に、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス王女が答えた。

 

「はい。これが証拠の黄金竜の角です。片方しか残っていませんでしたが、そこはお許しください。──サトウカズマ」

 

「畏まりました」

 

 アイリス王女の掛け声に俺はすぐさま懐から角を取り出し、レヴィ皇子に差し上げた。

 刹那、様子を見守っていた家臣達がどよめく。

 彼らからしたら俺達に対する最初の認識は田舎者の筈で、そんな俺達がドラゴンを屠るとは驚き以外のなにものでもないのだ。

 あるいは、それだけ黄金竜に迷惑を被っていたからかもしれない。()の邪竜の存在の是非を問わずしてエルロードは栄えているが、それでもより良い国営を行う為には邪魔だった筈だ。

 あれだけあった嘲笑や見下しも今ではなりを潜め、殆どの人達が好意的な目で俺達を見てくる。

 

「輝く黄金の角! 正しくこれは、黄金竜の角だ! ──頭を上げてくれ。《ドラゴンスレイヤー》の貴殿らにそのような態度を取られると私が困ってしまう」

 

 その言葉に冒険者達が顔を上げ……慣れない姿勢をしていた俺とめぐみんの二人は内心安堵の息を吐いていた。

 言い訳をするのなら、平民なのだから仕方がない。

 小さな波紋はゆっくりと……けれど着実に拡大されていった。

 あの忌々しい宰相も、苦々しげな表情を浮かべているが水を差してくる気配はみられない。

 王子の正式な言伝(ことづて)を邪魔したら万死に値する……というのもあるだろうが、自分であのような約束をしてしまった為に、彼にはもう外交に口出しする権限がないのだ。

 

「まずは黄金竜の討伐、ご苦労であった。この国を代表して御礼を申し上げたい。まずは報酬として、これを。──おい、持ってこい」

 

 そうレヴィ王子が合図を送ると、先程別れた隊長と、一人の兵士が大きい革袋をそれぞれ抱えて持ってくる。

 彼が報酬と言っていた事から、中身がエリス通貨である事はほぼほぼ間違いない。

 正確な額は推し量れないが……おおかた、数十億エリスだろう。

  《ドラゴンスレイヤー》にもなると、こんなにも多くの報酬金を貰えるのか。

 戦った身からすると、確かにそれだけの価値がある。いやまぁ、相場が分からないからなんとも言えないのが実情だが。

 しかしその報酬金を、アイリス王女はふるふると首を横に振って。

 

「いえ、私は……私達は当然の事をしただけです。ですのでこれは大変身に余る光栄ではありますが、お返しさせていただきます」

 

 そう言って革袋を返した。

 あちら側がまさかの展開にざわつくが、これは事前に決めていた事だ。

 いやもちろん、これが正式なクエストだったら貰えるものは貰いたいと思うが……今回の場合は必要だったから受注しただけにすぎず、更には俺とめぐみん、アリアの三人は護衛役。

 主であるアイリス王女の意向に逆らえる訳がない。

 そして今の出来事で、ラグクラフトを除く人間全てが俺達の味方になった。

 彼女の謙虚さと誠実さに惹かれてたのだろう。

 レヴィ王子はしばらく呆然としていたが……不意に。

 

「あははははっ! そうか、なるほど! 貴殿達は確かに、《ドラゴンスレイヤー》を名乗れる英雄だ! ──アイリス王女。私が貴女達に課した試練を覚えておいでですか?」

 

「レヴィ王子を楽しませる事です」

 

「そうだ。故に今から講評をしたいと思う」

 

 レヴィ王子はこの時少年の顔つきになり、ゆっくりと口を開いた。

 彼は初めて俺達に心の底からの笑みを浮かべて見せて、語り始める。

 どうやら一人一人に講評とやらをするようで、最初はマルクス・アベンジ・アリアが選ばれた。

 

「まず、マルクス卿。常に仲間の事を考え、諫め、そして〈アークプリースト〉の特性を活かした支援魔法には脱帽しかない。先日は怪我を負った騎士達にも回復魔法を掛けていただき、誠に感謝する」

 

「いえそんな……没落した我が身にそのようなお褒めの言葉をいただけるとは、光栄です」

 

 本当にそう思っているのだろう、マルクス卿は慇懃に頭を下げた。

 次に選ばれたのはめぐみん。

 

「次にめぐみん殿。まずは邂逅した際の私の非礼を改めて謝らせて欲しい。──本当に申し訳なかった」

 

「いいいいいい、いえ! そそそ、そんな大丈夫ですよ! 私は気にしていませんから!」

 

「そう言っていただけると助かる。それと何時ものように話してくれて構わない。……彼の黄金竜相手に痛手を負わせた爆裂魔法! あぁ、俺──失礼──私もこの目で見たいものだ!」

 

「なんなら撃ちましょうか? ……それと、王子も元の口調に戻していいですよ」

 

「はははっ、そうしてもらいたいが……民が怯えてしまうからな、また今度の機会に頼めるか?」

 

「はい、もちろんです。──我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……! 《ドラゴンスレイヤー》の称号を手に入れた者!

 

 紅魔族特有の名乗りに少年は顔を輝かせ、尊敬の眼差しでめぐみんを見つめる。

 あかん、これ絶対に黒歴史が生まれるヤツだ。

 ……今のは見なかった事にしよう。

 それがお互いの為なのだ。

 

「その次にサトウカズマ殿。貴殿には本当に驚かされた。先日の試練もそうだが、何より! ドラゴン相手に囮役を担うその勇気と実力! なんでも、初代勇者の名前はサトウという姓だとか。もしかしたら貴殿は、勇者の生まれ変わりなのかもしれないな」

 

 ごめんなさい。

 その佐藤という姓は俺がいた日本では最も多く使われています。

 だから絶対に、佐藤さん違いだと思います。

 それと俺は囮役を確かにやったけれども、ずっと逃げていました。めぐみんや、アイリスの攻撃の準備が整うまでみっともなく逃げていたので、そんな、勇気なんてものはありません。

 本当にごめんなさい。

 そんな俺の謝罪に気づかぬまま、レヴィ王子は最後にアイリス王女に視線を送った。

 お互い無言で見つめ合い……やがて……

 

「アイリス王女、これまでの非礼の数々をどうかお許しください」

 

「いえ、そんな! マルクス卿やめぐみんが先程述べましたが、気にしていませんから大丈夫です。王子のおっしゃった通り、私達は田舎育ちですからね」

 

「しかしその田舎育ちの王族がドラゴンを退治したのだ。本当に、本当に凄い事だ。《ドラゴンスレイヤー》として、貴女はこれからますます活躍する事でしょう。許嫁ではなくなったが……一人の友として、応援させて欲しい」

 

「ありがとうございます。私も、歳が近いあなたのようなお友達ができてとても嬉しいです!」

 

 自然と、二人は固く握手をした。

 つい数日前……会った時はあれだけ仲が悪かった──一方的なものだったが──二人の君主の仲直りの合図に、場が一気に盛り上がる。

 つまり、これを意味する事は……

 

「エルロード王国第一王子レヴィが宣言しよう! これからも引き続きベルゼルグ王国との同盟は続き、共に魔王軍と戦う事を! よって、魔王軍との不可侵条約はすぐさま破棄する! 異議がある者は、今ここで異議を申し立てよ!」

 

「「「ございませんっ!」」」

 

 ──こうして、ベルゼルグ王国とエルロード王国との同盟関係は続く事になり、防衛費の維持と、攻勢に出る為の追加の支援金が送られる事になるのだった。

 アイリス王女の初めての外交は、大成功という名の形で幕を閉じるのであった。

 

 

 §

 

 

 明日にはエルロードを発つ。

 外交を終えたのだから此処にいるはもう理由はないし、国に残っている皆……特に白スーツがかなり心配なのでそれは当然の判断といえるだろう。

 ……王城で暴れてないかかなり不安だ。

 そして現在。

 エルロード王城では盛大な晩餐会が開かれていた。

 先日のこじんまりとした小さなものではなく、レヴィ王子の指示の元、豪華で華やかな宮中晩餐会だ。

 多くの人が黄金竜との決戦の話を聞きたくてしょうがないのか、ひっきりなしに質問をしてくる。

 流石はカジノ大国。

 娯楽が多いこの国では、こういった英雄譚も娯楽として楽しまれるのだろう。商業国家、というのもそれに拍車をかけるのかもしれない。

 特にアイリスやめぐみんの周りに人が集まり、そちらはとても賑やかだ。

 アリアは貴族令嬢として他国の貴族と交流を持っている。ベルゼルグでのそういった交流は正しく腹の探り合いといった汚れたものだったが、此処ではどうも違うようだ。

 何度も述べるが此処はカジノ大国。

 王族や貴族達が生粋のゲーマーだからこそ、政治に関してはそこまで必死にならないのかもしれない。

 そして俺は……

 

「カズマ殿、もっと話を聞かせてくれ! 特に、機動要塞(デストロイヤー)の話が聞きたい!」

 

 ……レヴィ王子と一緒に、俺が過去戦った大物賞金首について話をしていた。特に機動要塞デストロイヤーの食い付きが凄まじい。やっぱり人気があるんだなぁ。

 どうにもこの王子、俺に懐いたらしい。

 目はきらきらと輝いているし……まず間違いない。まぁ俺としても子供は好きなので問題ないのだが。

 ……問題ないのだが、時折アイリスが嫉妬の眼差しでこちらをちらりと見てくるから少々気まずいのが本音だったりする。

 でも明日にはレヴィとは別れるし、今日はこの新しい友人と楽しく歓談しよう。

 

 

「──その日は突然だった。宿に引き籠もっていた俺は、街中に届く緊急放送で渋々冒険者ギルドに駆け付けてな……」

 

「すまないカズマ殿。俺から言わせてもらえば、何故引き籠もっていたのだとか、渋々なのに駆け付けるのは矛盾ではないのだとか、色々と突っ込みたいところなのだが」

 

 俺とレヴィに気を遣っているのか、俺達が座っている辺りには誰もいない。

 というか、宰相が何処にも見当たらないのだが。友人の突っ込みを華麗にスルーしつつ、俺は訊ねる。

 

「なぁ、ラグクラフトは何処にいるんだ?」

 

「……自分の悪策に嵌らなかったカズマ殿から逃げている。彼は俺が物心つく頃にはエルロードに忠誠を誓っていてな、これまで政治に失敗はなかったんだ。魔王軍との条約も彼が言い出した事でな……あぁもちろん、それに乗ったのは俺だから同罪なのだが」

 

「つまり部屋に閉じ籠って不貞寝していると?」

 

「多分だが。……許してくれるとこちらとしては助かる」

 

 そう言って、レヴィは申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げた。

 俺としてもラグクラフトがいない方が気が楽なので正直助かる。

 この国で流行っているカードゲームを彼と対戦していると、不意にぽつりと。

 

「……俺はなんでも世間ではバカ王子と言われているらしい。その理由を知っているか?」

 

「政治に関心を持たず、毎日ギャンブルばかりしているからだろ?」

 

 迷いがない即答に、レヴィ王子は苦笑いする。

 どうやら、自覚はあったらしい。

 俺はその隙にカードをフィールド上に展開していく。これは中々面白い。

 運だけでは勝負が付かないように綿密なルールが敷かれているのだ。

 相手のターンになると、対戦者は魔法カードを使ってこちらを牽制しながら続けた。

 

「……先程も言ったが、(まつりごと)に関してはラグクラフトがやってくれていた。彼の手腕はそれはとても見事なものでな、失敗なんてなかったし……皆が尊敬した。父や母もそれに漏れず凄腕宰相に絶大な信頼を寄せていてな、彼が一度意見を……議案を提案すればその案は必ず通る。俺はそれを見ていて思ったのだ。『あぁ、どうやら俺は、遊んでいてもいいらしい』……そう思ったが最後、バカ王子の誕生だ。滑稽なものだろう。事実、俺はここ最近までその考えを曲げる気はさらさらなかった。しかし……──」

 

「しかし?」

 

「自分とさして歳が変わらぬ少女が外交に来ると聞いた時は驚いた。何処から情報が漏れたのかは知らないが、兎も角貴殿達はこの地に来た。本当、驚かされたよ。俺が呑気に自堕落な生活を送っているのに、他国のお姫様は外交にわざわざ出向くんだ。あの時の俺は、さぞかし間抜けな顔になっていただろうな。──攻撃

 

「それを聞いた時は俺も驚いたよ。子供なのに政治に参加するとかマジで? ……って思ったなぁ。──防御

 

「これからはもっと政治に感心を持とうと思っている。俺も……いや、私も何れは王となるのだから、その時にバカ王などと呼ばれては堪らないからな。──喰らえ、俺の全力!

 

「それは良い事だ。まぁ平民の俺はそんな事しか言えないけども。──完全防御

 

「それでもありがとう! ……アイリス王女の件に関しては、陰ながら応援している。もしもの時は、友人として力を貸そう。──……ターンエンドだ

 

 そんな風に話しながらも、バトルは進んでいく。

 レヴィが放った猛攻をなんとか耐えてみせた俺は、切り札のカードを持ち前の豪運で引いてみせた。

 そのカードの名は、邪竜(ファフニール)

 俺は良き好敵手との胸踊る戦いを楽しみながら、邪竜を顕現させ……!

 

 

 ──今日は是非泊まっていって欲しい、そうレヴィに勧められた俺達は、最後の夜をこの王城で過ごす事にした。

 ふかふかベッドの上にだらしなく横になりながら、俺は思う。

 人生初の旅……というのも当然あるが、この数日で色々な事が起こりすぎた。

 強制任務(ミッション)をなんとか達成し無罪放免かと思ったら護衛任務を依頼され。

 旅の道中は数時間に一回はモンスターに襲われ。

 アイリスとは夜の散歩をして。

 エルロードに着いたと思ったらバカ王子と宰相による洗礼を受け。

 王国騎士団と俺が戦って。

 ドラゴン退治に向かって…………

 疲れが知らずに溜まっていたのか、睡魔が襲い掛かってくる。

 明日からはまた旅が始まるのだ、きっと行きのようにモンスターに襲われるだろう。

 そう思い瞼を閉じようとした……

 

 ──その時。

 

『あの、カズマさん? 今お時間よろしいですか?』

 

 こんこんと控えめにドアが叩かれ、アイリスの声が掛けられる。

 ……いくら彼女のお願いとはいえ、今晩は冗談抜きで勘弁被りたい。

 その意を伝えるべく俺は重たい瞼を強引に開け、ノロノロと緩慢な動きでドアを開け放つ。

 そこにいたのはやはり、アイリスだった。

 欠伸を小さく漏らす俺を見て、彼女は不安そうな表情を浮かべる。

 

「どうしたこんな時間に? 子供は早く寝ないと育たないぞ」

 

「その……今日は一緒に寝てもいいですか?」

 

 ……。

 

「今なんて?」

 

「その……今日は一緒に寝てもいいですか?」

 

 アイリスは今にも掻き消えそうな声で、そんな事を再度言ってきた。

 余程恥ずかしいのか、熟れた林檎のように顔を真っ赤に染めている。

 ……ふむ。

 …………ふむふむ。

 ………………どうやら俺は夢を見ているらしい。

 これまで俺と彼女は何度か一緒に寝ているが……それは何も自発的でなく、ゲームの途中で寝落ちした偶発的なもの。

 つまり──

 

「なんだ、夢か……」

 

「違います! 違いますからっ!」

 

「アイリス、そんな、女の子から寝るとか言っちゃ駄目だぞ? 男の子は狼だからな、兎は食べられちゃうぞ?」

 

 まぁ兎といってもその本性は大変危険だが。

 アイリスのような外見にそぐわぬ力を持っている女の子だったら、まず間違いなく反撃できるだろう。

 確かに俺はアイリスの事が好きだが、かといってそんな襲うような真似はしない。

 例えばこれがダクネスやウィズ、アリアといった大人の女性からの誘いだったらクラりと堕ちるかもしれないが……相手は子供。

 更には十二歳。

 日本だったら小学六年生だ。

 これで十年経ったら珍しくもなんともないカップルだろうが、現在は何度も言うが……片や高校男子。片や小学六年生の女の子。

 どう考えても犯罪だ。

 お巡りさんのご厄介にはなりたくない。

 俺の名前は佐藤和真。

 常如何なる時も紳士の俺は、たとえ好きな相手からの誘いであっても乗らないのだ。

 いや、だったら寝落ちはどうなんだよ! という突っ込みが出されるだろうが……そこはノーカンだ。

 あの時は友達だったから、ノーカンだ。

 ……取り敢えず断ろうとした時だった。

 俺の沈黙を敏感に感じ取ったアイリスが先回りしてこう言う。

 

「でしたら! 本当に少しの間だけお喋りしませんか? すぐに部屋に帰りますから」

 

 そうやってアイリスは上目遣いになり……

 

「分かった」

 

 ……気づけば俺は頷いていた。

 自然と口が動いていたのだから恐ろしい。

 どうしよう、これで将来思春期に入って暴言や暴力を振るわれたら、自殺するかもしれない。

 そんな、起こり得るかもしれない未来に怯えつつ、アイリスを部屋に招き入れようとドアを完全に開け放った……

 

 ──その時。

 

 俺は半睡半醒だった頭を即座に起こして、彼女と距離を取った。

 そんな俺を彼女は困惑の表情で眺め、首を傾げる。

 

「……カズマさん?」

 

「お前、誰だ……?」

 

 油断なく片手を相手に向け、何時でも魔法が放てるように構える俺に、アイリスの外見をしたナニカは心底分からないとばかりにますます首を可愛らしく傾げた。

 逆に俺の頭は時間が経つにつれて冴えていく。

 俺は敵対するナニカに向けて、精一杯低い声を出して、

 

「『敵感知』スキルが発動している。これは悪意や殺意に敏感なんだけど……アイリスがこれまで俺にそんな感情を抱いた事は一度もない。もう一度聞くけど──お前、誰だ?」

 

「そんな……私はアイリスです……」

 

 食い下がる人の皮を被った怪物に俺は、決定的な言葉を投げ掛けた。

 

「俺はとある悪魔と契約しているんだけど……その悪魔は凄いことにな、姿形を変えれるんだ。その変身は本人と寸分たがわない。お前、魔王軍の手の者か……もしくは悪魔だろ」

 

 確証を持った俺の推測に、そいつはクスクスクスと嗤い……刹那、グニャリと身体を歪ませた。

 代わりに現れたのは、目も口も鼻もないのっぺりとした黒い顔を持つ漆黒の人影。

 

「俺の名はラグクラフト。魔王軍諜報部隊長、ドッペルゲンガーのラグクラフトだ。いやいや、お前達には苦労させられた……──」

 

「『フリーズ』……からの、擬似的な『狙撃』ッッ!」

 

「ちょっ────ッ!?」

 

 俺は魔王軍諜報部隊長ラグクラフトが名乗っている間に、氷の結晶を擬似的な『狙撃』の要領で投擲した!

 








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