このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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駄女神改心計画

 

 爆裂娘の魔法使い、めぐみんと仲間になった駆け出し冒険者の俺は現在。

 

「無理無理無理! 何でこんなにゴブリンがいるんだよ! 助けてくださいめぐみん様ぁあああああ!」

 

 十匹のゴブリンに追いかけられていた。

 ゴブリン。

 それは俺がいた世界はおろかこの異世界でも知らない者はいないと言われているメジャーモンスターだ。

 ゲームに出てくるゴブリン達は序盤の雑魚(ざこ)モンスター扱いだが、どうやらこの世界ではそこそこ危険視されているそうな。

 個体の力はやはり弱いが、群れになるとかなり厄介だ。

 野生の亜人種らしく、動きは速く、小柄ながら凶暴で、人や家畜を襲う。

 森の中に基本的に生息しているそのゴブリンを討伐するクエストを受注した俺とめぐみんなのだが、魔法使いは現在平原で待機中だ。

 爆裂魔法しか使えないめぐみんが『エクスプロージョン』を木が生い茂る森に放ったら馬鹿にならないほどの森林を破壊尽くし生態系が壊れてしまうだろう。

 そうなればクエストの報酬金が天引きされ、近いうちに莫大な借金を背負うことは目に見えている。

 最初そのことをめぐみんに伝えたら「それはフリですか?」と馬鹿なことを言ったのでパーティー解散しようかと告げると泣きながら謝罪し、なんとか説得することに成功した過程があった。

 なので俺が囮になり、ゴブリンから適度な距離を取りながら逃げている訳なのだが……思ったよりも奴らの走力が高くて絶賛命の危機に陥っている。

 というか……十中八九俺のレベルが足りないだけだと思うのだが。

  『逃走』スキルをフルに使って逃げる俺を武器を掲げながら追いかけてくるゴブリン。

 人間と小鬼。

 最初見た時、なぁんだやっぱり小鬼じゃん、余裕余裕ーと思っていた過去の俺をしばきたい。

 逃走劇を披露すること十分後。日の光が差し込み俺を導いた。

 ようやく森を抜けたことに安堵の息を吐きながらも俺は指定ポイントにて待機していためぐみんに向かって。

 

「めぐみん! 撃っていいぞ! あっ、けど威力は落とせよ。また天引きされるの嫌だからな!」

 

 俺の懸命な叫びにめぐみんはふっと不敵な笑みを浮かべて。

 

「何を言ってるんですかカズマ! 私が爆裂魔法で妥協などする筈がないでしょう! 全身全霊の爆裂魔法を見せてあげます!」

 

 あ、あのやろう……!

 帰ったら唐揚げ定食の唐揚げ二個奪ってやる!

 

「それではいきますよ! 『エクスプロージョン』ッ!」

 

 平原に爆裂魔法が炸裂し、ゴブリン達の悲鳴が爆音に紛れて微かに聞こえるなか砂埃が宙を舞う。

 そこに残ったものは──大きいクレーターだった。

 めぐみんはその光景に恍惚の表情を浮かべながらも……膨大な魔力を使う『エクスプロージョン』を放った代償に倒れてしまう。

 俺はそんなめぐみんに近づき。

 

「おいこら、威力を抑えろと言ったよな? ……どうするんだよ、また報酬金が減っちゃうじゃないか」

 

「うっ……それについては謝りますが、仕方ないじゃないですか。だってこれこそが爆裂道なのですから!」

 

 そんな舐めたことを言う爆裂狂。

 

「……ほぉ。めぐみん、お前は今自分の状況が分かっていないようだな。爆裂魔法を撃ち一歩も動けないこの状況、お前は何も分かってない」

 

「……も、もしかして私をここに置いていくんですか!? すみません、本当にすみませんからそれだけは!」

 

「いや流石にそれはしないけど」

 

 俺の言葉に安堵の息を吐くめぐみん。

 コイツは俺を何だと思っているのだろうか。

 俺はそんなめぐみんを見て、輝くような笑顔を浮かべて手をわきわきと唸らせ、彼女の華奢な身体に向かって両手を伸ばした。

 

「あ、あのカズマ? 何をするんですか? ……嫌な予感が凄いするのですが」

 

 不安そうに見るめぐみんに俺は一言。

 

「罰としてこちょこちょの刑を与えてやろう」

 

「えっ、ちょっ、や……やめ……あひゃゃゃゃゃゃゃゃゃ……やめ…あゃひひゃあああ!」

 

 

 §

 

 

「仲間を募集しよう。……いや、今もしてるんだが」

 

「それはいいのですが、急になんですか? あっ、私の唐揚げ返してくださいよ!」

 

 めぐみんの唐揚げを三個奪い口の中に放り込みながら、俺は受付のお姉さんから貰った袋を机の上に置く。

 そう──いつものように天引きされた袋を、だ。

 紅魔族は知性が高い。めぐみんは俺が何を言いたいのか察し、視線を横にふいっと逸らした。

 俺はそんなめぐみんをジト目で見て。

 

「めぐみん、お前の爆裂魔法が凄いのは分かる。けど、これを見てもお前は良心が痛まないのか?」

 

「……だって、仕方がないじゃないですか。頭では分かってるのです。しかし、欲望に逆らえなくて……」

 

 そこは頑張って勝ってほしい。

 

「……パーティー解散ですか……?」

 

「いや、それはまだしないけど。最初は小さな子供に『変な名前だねお姉ちゃん』とか、『違うよ、お姉ちゃんじゃない。だって、お姉ちゃんなら胸がある筈だろ』とか、『あっ、頭がおかしい爆裂娘だ!』とか言われたらすぐに喧嘩していためぐみんもここ最近は抑えてくれてるからまだぎりぎりセーフだ」

 

 そう。

 紅魔族のスタンスは基本的に『売られた喧嘩は買う』というはた迷惑なもの。

 この目の前にいる紅魔族はそれはもう最初は問題行動を起こしたものだ。

 そして名目上はパーティーリーダーである俺が何故かその被害者に謝りに行く。

 子供の親御さんからは逆に可哀想な目で見られ、住民からは同情の目を向けられた時、とうとう俺の堪忍袋の緒が切れた。

 俺達は仲間であって、保護者と子供ではないのだ。

 何とかめぐみんの短気を無くす……とはいかなくてもぎりぎりまで減らす方法はないかと熟考した結果、俺は一つの案を考え実行。

 その素晴らしい案とは。

 

「……流石に丸々一週間も話しかけても無視されたら堪えますよ、精神的に。話しかけてくる時はクエストの受注確認や爆裂魔法を放つ時の合図など、本当に必要最低限度ですからね。……ぶっちゃけ、割とガチで泣きそうになりました」

 

「仕方ないだろ。そうするしかなかったんだ。で、話を元に戻すと、落ち着きをまぁ必要最低限まで身につけたから、まだパーティーは解散しない。なんだかんだ、爆裂魔法は役に立つからな」

 

 そう、爆裂魔法は意外に有効活用ができる。

 個に対してはオーバーキルだが、多に対しては莫大な効果をもたらすのだ。

 そしてその効果は経験値になって表れる。

 今じゃ俺のレベルは七になり、めぐみんは十二だ。

 レベリングに関しては爆裂魔法の右に出る魔法はまず無いだろう。

 ……まぁ一日一回しか撃てないのでタイミングが極めて重要だが。

 爆裂魔法は役に立つと俺の口から出たのがそんなに信じられないのか、めぐみんは目をぎょっと見開かせて。

 

「てっきり、私のことは荷物だと思っていると思っていたんですが」

 

「いや、それは今も九十五パーセント思ってる」

 

「ですよねー」

 

「というか、二人だから毎回毎回俺達はあんなぎりぎりな形になるんだ。だからやっぱり仲間を増やそう」

 

「まぁ、それはいいのですが……カズマはどんな人が欲しいのですか?」

 

「そうだなぁ。できれば前で戦える人が欲しいなぁ。それか援護ができる人」

 

「ふむふむ、つまり遊撃手が欲しいのですね?」

 

「それだ」

 

 だが、爆裂娘のめぐみんがいる以上盾役はいらない。盾役とは読んでの通り、敵を引きつける役職だ。

 だがしかし、何度も言うがめぐみんがいる以上それは意味がなくなる。

 何故ならその盾役の人を殺しかねないからだ。……いや、ほぼ確実に殺す。

 めぐみんの爆裂魔法は威力は高いがそれ故に周囲にいるモンスターも纏めて吹き飛ばせる。

 だが盾役がいたらその人も巻き込んでしまうのは目に見えている。

 俺がまだその初の餌食になっていないのは『逃走』スキルがあるからこそできる芸当であり、普通の冒険者はそんなスキルを取っていない。

 しかし俺だけ前衛というのも頼りない。

 俺一人で全てのモンスターを引き付けられるなんてそんなことは到底思えないし、自衛ができないめぐみんはあっさり死ぬだろう。

 つまりこのパーティーはめぐみんか俺。

 どちらか一方が死んだらその片方も死ぬのだ。

 まさに一蓮托生。

 俺は死にたくないので、絶対に仲間を増やしたい。

 うーん。誰か前衛もできて、後衛もできて、且つすぐに爆裂魔法の射程から脱出できる人はいないだろうか。

 ……。

 …………あっ、いた。

 俺はめぐみんを見る。

 いや、正確にはめぐみんの種族を思い出した。

 

「よし、紅魔族をもう一人仲間にしよう」

 

「嫌です」

 

「しよう」

 

「い・や・で・すッ!!!!!!!!」

 

 冒険者ギルドに馬鹿でかい否定の声が響き渡り、周りの冒険者がなんだなんだと俺達を見てきた。

 俺は立ち上がって一礼し、再び座り、事の元凶を見て。

 

「煩い!」

 

「痛っ! カズマ、可愛い女の子の頭を叩くなんて良くないですよ!」

 

「ふっ。……俺の前にいるのは爆裂狂であって、可愛い女の子ではな──オイッ、爆裂魔法の詠唱をするのはやめろ! ……いやめてくださいめぐみん様!」

 

「だったらそんなことは言わないでくださいよ」

 

 そう言われても困るのだが。

 

「だけどなめぐみん。俺はこれ結構いいと思うんだよ」

 

「『紅魔族を仲間にする』ですか? ……うぅーん、確かにそれはいいかもしれません。紅魔族はエリートですから。……いやでも、それ以前に紅魔族は私以上に変人が多いので、苦労しますよ? それに私の役割が……」

 

「紅魔族が変人なのは知ってるさ。友達に散々注意しろと言われたからな……。どうしためぐみん、その顔は?」

 

「いえ、カズマに友達がいたことに驚いてまして」

 

「おい、それはどういう意味だ」

 

「いえ別になんでも……。いや、やっぱり今のうちに言っておきましょう。カズマ。あなたは社交性があります。仲間になったので、それは分かるのですが……友達なのでしょうか、アレは。それにカズマは人間性がかなり悪いので友達とは言えないと思うのです」

 

「ほぉ。受付のお姉さんと仲が良く、このアクセルの冒険者の殆どと仲が良い俺が人間性が悪いと? ……だったら聞かせてもらおうじゃないか」

 

「はい、まずはですね……。すぐに女性の胸に目が行くのを無くしましょう。カズマは女性と話す時、九割がそうなので」

 

「……」

 

「あとは、ナンパもあまりしないでください。女性に謝っているのは私なんですからね? まぁその人達曰く『あっ、あれナンパだったんだ。下手すぎて気が付かなかった』と言っているのですが」

 

「…………」

 

「あとは、私をおんぶする時の手ですかね。自然な形を装って私のお尻を触っているようですが、わざとらしさが丸見えですから」

 

「………………」

 

「ですので殆どは、カズマが真性のクズじゃないから仲良くしているのであって友達ではないかと…………」

 

 ………………………。

 何だろう、そう言われたら何も言い返せない。

 そうか、アイツらは友達ではなかったのか。

 もしかして、アイリスも……!

 ……そういえば、手紙書いてなかったな。今日あたり書くとしよう。友達確認も込めて。

 俺は涙目になりながらめぐみんを見て。

 

「今までありがとうございました、めぐみん様! これからもよろしくお願いします!」

 

 頭を思いっきり下げる。

 そしてそんな俺の頭をよしよしと優しく撫でるめぐみん。

 咽び泣いているとめぐみんが。

 

「それでは、紅魔族の件は無かったこと……──」

 

「それはしない」

 

「なんでですか!」

 

 俺は伝う涙を手で拭いて怒り狂うめぐみんを宥めながら、このパーティーのことを思って説明することにした。

 

「いいかめぐみん。どのみち遊撃手は必要なんだ。だったら多少変でも優秀な紅魔族が必要なんだよ。それに、めぐみんも知り合いが仲間の方がやりやすいじゃないか」

 

「それはそうですが……」

 

「めぐみんが気にしてることはよく分かっている。安心しろ、爆裂魔法は使える。俺達がピンチになった時、お前だけが助けなんだ!」

 

「私だけが……頼り…………。分かりました、紅魔族を仲間にしましょう!」

 

 めぐみんはちょろい。

 そのことをこの数週間で理解していた俺はそれを理由にすることで何とかめぐみんを説得することに成功した。

 ……まぁレインさんによれば本物の紅魔族は存在自体がチートのようなものなのでそんなピンチに陥る時はそんなにないと思うが。

 めぐみんは俺の言葉が余程嬉しかったのか鼻歌を歌って上機嫌だ。

 ……なんだろう、すごい罪悪感があるんだが。

 俺はそれを振り払うように咳払いして。

 

「よ、よしそれじゃあ紅魔族を仲間にするとしてだ。誰か当てはいないか?」

 

「いませんよそんな人」

 

 えっ。

 

「先程から言ってるように紅魔族は……まぁ自画自賛しますが優秀です。そんな人がフリーでいることなんてまずないですよ。それこそ、独りをとち狂って誇りに思っているか、それかニートくらいしかいません。私の友人に一人ニートがいますが……まぁ、まず来ませんね。だってニートですから」

 

 ……どうしよう、詰んだ。

 今後の人生プランに絶望して机を眺めていると、

 

「……あっ、けど一人だけいました」

 

 めぐみんがそんなことを思い出す。

 俺はがばっと顔を上げて、

 

「めぐみん、それは本当か!?」

 

「まぁ、はい。しかしカズマ、その子は私以上に変人ですよ? それでもいいんですか?」

 

「めぐみん以上に変人な人なんている筈がないから大丈夫」

 

「……色々と言いたいことはありますが、まぁいいです。……それでは紅魔の里に行きますか」

 

「えっ、アクセルにいないのか?」

 

「はい、いませんよ? その子は今学校にいますからね」

 

「……マジか」

 

「年は同じですけど」

 

「……? なら何でめぐみんはここにいるんだ? もしかしてめぐみん、お前退学に……」

 

 俺は確信する。

 そうだ、コイツは些細なことで小さい子供と喧嘩をするような奴だ。きっと在学中は先生や同学年の子にも迷惑をかけたのだろう。

 

「おい、その哀れみの目を止めてもらおうか。……退学ではありません、私が卒業したのですよ。紅魔族では成績が良い者は早く学校を卒業できるのです」

 

 なるほど、地球で言う飛び級なようなものか。

 ……ん?

 …………今コイツ何て言った?

 ………………学校を卒業? コイツが?

 爆裂道とか常日頃ほざいているこのちんちくりんが?

 

「何やら疑っているようですが、本当ですよ。……兎も角、その子をゲットするには紅魔の里に行く必要があります」

 

「うん、それは分かったけどさ。手紙じゃ駄目なのか?」

 

「……その手がありました」

 

 コイツは本当に学校を卒業したのかと疑いたくなるが、俺自身が学校に行かず引き篭もっていたのでこれ以上疑うとブーメランになって返ってくるのでやめよう。

 

「それじゃあ今日は解散だな」

 

「はい、そうですね。それではまた明日!」

 

 これ以上用がないので俺達は別れることにした。

 長い時間いたがいつものことなので何も言われない。

 俺達はお姉さんに別れを告げてから冒険者ギルドを後にした。

 

 

 §

 

 

 借りている馬小屋に帰ると俺は道中買ったペンと紙と、これまた買った組立式机を出して顎を手に乗せながらアイリス宛に手紙を書くことにした。

 生活が落ち着けば書くと約束していたが、もう少し早くから書くことができたかもしれない。

 

 〔拝啓

 ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス様

 久し振り、元気にしているか?

 冒険者生活もそろそろ落ち着いてきたので、手紙を書くことにするよ。

 俺は、今駆け出しの街アクセルで一人の女の子と一緒に冒険をしている。

 まぁ女の子って言っても爆裂狂だから、女の子とは言えない奴だけど……。

 そしてそれ以上に変なのが名前なんだ。『めぐみん』って名前なんだぜ、笑っちゃうだろ?

 そう。

 俺は紅魔族とパーティーを組んでいる。

 最初はアイリスの言う通り変な奴だったけど、俺の素晴らしい策によって今はかなり言うことを聞いてくれる。

 ……まぁ爆裂道は直さないようだけど。

 けど、この爆裂魔法は本当に凄いんだ。

 このままだとパーティーが壊滅しかねないので、もう一人紅魔族を仲間にすることにしたから、その返事が来るまでは死なないよういつも通り頑張って生活していく予定だ。

 俺の話はこれくらいにして、アイリスの生活はどうだ?

 ちゃんと自分が言いたいことは言えるようになったか?

 アイリスはまだ子供だから、好きなように過ごして欲しい。

 王族の前に、アイリスは一人の人間だから。

 学校に行かず引き籠っていた俺が言えることじゃないけど、沢山勉強してアイリスには見聞を広げて欲しいと俺は思う。

 白スーツや恩師であるレインさん、リーシャンによろしく。

 

 サトウ カズマより〕

 

 こんなもので言いだろう。

 俺は文面を確認し、ふと気がつく。

 そう、手紙を出す場所だ。

 王族であるアイリスに出してこの手紙が届くのだろうか……。きっと門前払いされる気がする。

 よし、レインさんに名前を変えておこう。

 俺は丁寧に紙を折ってから封筒の中に入れた。

 ……あっ、そうだ。

 これも書いておこう。

 めぐみんの言葉を聞いたからか、ちょっと……いやかなり心配だったから。

 俺は入れた紙を出して以下の文面を書きなぐった。

 

 〔追伸 俺達は友達だよな?〕

 

 俺はこれで良いと頷いて再び封筒の中に入れる。

 娯楽がない異世界生活では夜更かしをする必要がないのですぐに寝ることにした。

 

 

 §

 

 

 翌朝。

 日課になった準備運動を一緒に泊まっている冒険者として、その後は巨乳お姉さんが店主の魔道具店の前で何時ものようにしてめぐみんを待つ。

 寒くなってきたなぁと手を擦り合わせていると……カランと扉につけられたベルが心地よく鳴った。

 そして出てきたのは推定年齢二十歳の茶色い髪の毛の美女。そして巨乳である。

 

「あっ、カズマさん。今日も冒険ですか?」

 

 このお姉さんの名前はウィズ。

 俺がこの女性と知り合ったのは俺が短期アルバイトの土木工ことをしていた時だ。

 ウィズの店はそれはもうお客さんが来ないらしく、ろくに生活費を稼げない彼女は数多くの職場を転々としているとのこと。

 一箇所に留まらないのかと以前聞いたのだが、

 

「私も最初はお店を手伝っていたのですが、何故か一日で解雇されてしまうんです。良かれと思ってお花屋さんの新しい花を注文したり、飲食店で新しい料理を作ったりしたのですが、何故か店長さんが泣きながら『もういい! もういいから止めてくれ!』と言うんでよね。ですので残ったのが、この土木工ことのアルバイトだったんですよ。幸い私は元冒険者でしたので力仕事はできますから」

 

 そんな理由があり、俺と共に土木工事をしていたのだ。

 しかし何故か働く時間は夜だったので、女性が働くにしては危ないと思っていたが。

 ちなみに、彼女が売っている物はかなり酷い。

 例えばそれは『使えば無敵になるけど効果が切れたら死ぬポーション』とか、『綺麗な肌を三ヶ月手に入れるけど、三ヶ月経ったら寿命が五十年縮む薬』とかだ。

 そりゃあお客さんも来ないだろう。

 つまり、このウィズという女性はだ。

 

 ──商才が一切ないのである。

 

 だったら冒険者稼業に戻れよと何度も突っ込みたくなったが、こんな辺鄙な場所で店を開いているのだから何かしらの事情があるのかもしれない。

 朝は準備運動をしてその後は巨乳美女と話す。

 嗚呼、俺の一日の始まりは最高だ……!

 数分後。

 めぐみんと合流したので朝飯を兼ねて冒険者ギルドに行くことにして、その道中。

 

「なんでカズマがいつも集合場所にあの店を選ぶのかやっと分かりました。……あの女性(ひと)ですね?」

 

 地味にめぐみんがウィズと話すのは今日が初めてだったりする。

 

「そうだ。朝から綺麗なお姉さんと話す。めぐみん、これは男にとって必要なことなんだ」

 

「……一応聞きますが、どう必要なのですか」

 

「主に俺のモチベーションが上がる」

 

「そんなことだろうと思ってましたよ!」

 

 めぐみんがジト目で俺を見てくるが別に悪いことではないだろう。

 別に犯罪じゃないし。

 

「そういえばめぐみん。手紙出したか?」

 

「いいえまだです」

 

「よし、それじゃあギルドに行く前に郵便屋に行くか」

 

 この世界の郵便屋は地球のよりもかなり進歩している。

 何故なら『テレポート』という転移魔法があるからだ。

 この魔法は術者が登録してある場所に自分や仲間、あるいは物まで送ることができる優れものである。

 しかし転移魔法はそこそこの魔力を必要とするらしいので時間が決められており、転移屋を使う際にはそのことを考慮しなければならない。

 中世時代の異世界で唯一現代地球に勝っているところだ。

 ……まぁ、手紙だったらインターネットがあるので一概にはいえないかもしれない。

 

「そういえばカズマも手紙を書いたのですね。誰に書いたのですか?」

 

 そう尋ねるめぐみんに俺は一言。

 

「友達」

 

「……カズマ。昨日の友達の件については謝りますからやめましょう?」

 

「おい、何を勘違いしている」

 

「何って、カズマがその友達の手紙当てに『俺達って友達だよな?』って書いたのではないですか?」

 

「……。……違うぞ。冒険者の生活が落ち着いたら書くよう約束していたんだ」

 

「あっ、そうでしたか。驚かせないでくださいよ」

 

 勝手に勘違いしたのはめぐみんだろうに。

 

 

 §

 

 

 手紙を預けた俺達は現在。

 冒険者ギルドに辿り着いた俺達は、空いている席に座り、朝飯を頼もうとしていた。

 

「カズマは何にしますか? 私はこのキャベツサラダとスープのセットにしようかと思うのですが」

 

「うーん、そうだなぁ。じゃあ俺は唐揚げ定食で」

 

「カズマ、朝からそんな重たいものをよく食べれますね。それとよく飽きませんね」

 

「いや、そうしないと囮の役ができないんだよ。いくら『逃走』スキルがあるとはいえ、腹が減っていたら死ぬからな」

 

 近くを通りかかったギルド職員に声をかけ注文した後、今日は何のクエストを受けるか話し合っていると──誰かが来る気配を感じた。

 そちらを見ると、そこにはどこかで見たかもしれない女の子。

 

「カズマさん、助けてください!」

 

 そう言って頭を下げたのは……えぇと。

 

「どちら様ですか?」

 

「私です、私!」

 

 オレオレ詐欺ならぬ私私詐欺を堂々とするような人に俺は心当たりが全くないので無視でいいだろう。

 目の前にいるめぐみんが突然の展開に驚き。

 

「カズマ、そちらの女性はこの前の人ですよね? 話さなくて良いのですか?」

 

 そう言って指を指すめぐみん。

 俺は言われた通りにそちらを見るが、そこにはどこかで見たかもしれない女の子がいるだけだ。

 

「……? めぐみん、何を言ってるんだ?」

 

「ちょっと、いい加減にしなさいよ! 水の女神アクア様よ!」

 

「だそうですよ、カズマ。自分で女神と言っている可哀想な女性(ひと)ですが、話してあげたらどうですか?」

 

 中々に毒を吐くめぐみん。

 仕方がない、今回は話そうか。

 

「それでなんだよアクア」

 

「やっと会話が成立したわ! 全く、これだから童貞ヒキニートは……」

 

「めぐみん、料理まだ来ないな」

 

「うわぁああああああ! 分かった、真面目に話すから!」

 

 初っ端からイラつくことを言ってきたので無視をしたが、今回はどうやら引き下がってくれないらしい。

 

「次馬鹿なことを言ったら分かるな? というか、あのイケメンはどこに行った?」

 

「そう、そこなのよ。……ハツラギは今修行に行ってるわ!」

 

「うんそれは分かった。じゃあなんでお前がここにいる? 仲間だろ?」

 

「カツラギ曰く、『僕はアクア様に頼ってばかりです。このままじゃ駄目だ! ……アクア様、僕は修行に行ってきます! 強くなってあなたを必ず迎えに来ますので……!』っていう置き手紙があったのよ」

 

 なるほど。

 きっと取り巻き二人も「私達も一緒に強くなるわ!」とか言ってついて行ったのだろう。まぁ本音は違うかもしれないが。

 

「へぇー、そうなのか」

 

「そうなのよ」

 

「で?」

 

 

『──お待たせしました! こちら、唐揚げ定食に、キャベツサラダとスープの有り合わせでございます。唐揚げは熱いのでお気を付けて』

 

「私を仲間に入れてください!」

 

 そう言って頭を下げるアクア。

 めぐみんを見ると……どうでもいいのか受け取ったサラダをフォークで刺しているところだった。

 俺は一言アクアに向かって。

 

「断る」

 

「そこをなんとか……!」

 

「いや、お前が問題を起こすのはもうなんとなくだけど分かるから嫌だ」

 

「キツラギが帰ってくるまでで良いんです。荷物持ちでも何でもしますから! カズマさんの指示に従いますから!」

 

「……あのさ、他のパーティーには頼まなかったのか?」

 

「言いました! ……そしたら皆『あぁあのイケメンハーレムの子か。断る』とか、『……尻軽女を入れたくないので』とか、『アンタがあのイケメンに甘やかされていたのは知っている。偶には苦労しろ』と言われまして……」

 

 なんだろう、最後の意見はまともだがそれ以外はあんまりだな。

 というか、アクアは別にあのイケメンのことをあんまり好きじゃないらしい。俺は今までの会話でそれを確信した。

 だって、確かあの男の名前キツラギでもハツラギでもカツラギでもない。

 

 ──『アツラギ』だ。

 

 この数ヶ月、アクアはアツラギと過ごしていたのだろう。

 だが名前すら覚えられていないとは……何とも哀れである。

 俺は唐揚げを咀嚼しながらどうしようかと頭を悩ませていた。

 断るのは簡単だが……。

 

「私は最上職の〈アークプリースト〉です。必ず二人の力になりますから!」

 

  最上職、という言葉を聞いた瞬間俺は。

 

「取り敢えずアクア。お前あっちにいろ。めぐみんと話す時間をくれ」

 

「はい、分かりました……」

 

 哀愁漂う姿を見せながらアクアはカウンター席へと去っていった。

 〈アークプリースト〉かぁ。是非とも欲しい。

 だけどなぁ、中身がなぁ……。

 俺が迷っているとそれを見かけためぐみんがスープを飲みながら。

 

「カズマ、どうするつもりですか?」

 

「めぐみんはどう思う?」

 

「ぶっちゃけ私はどっちでもいいです」

 

 いやしかし、強い仲間はできるだけ欲しいよなぁ……。

 

「カズマ、あのアクアって子は一体どんな女性なのですか?」

 

「問題児、だと思う」

 

「思う?」

 

「あぁ、実際俺とアイツはたいした付き合いはしていないんだよ」

 

「だったら仲間じゃなくても友達になるのはどうでしょうか? 友達の付き合いで臨時的にパーティーに入れるというのは?」

 

「おぉ、それだったらいいかもしれない。けど今の我儘なアイツと友達になってもなぁ……」

 

「それじゃあ、こういうのはどうでしょう?」

 

 何か良い策があるのか、めぐみんはドヤ顔でそんな言葉を言ってきた。

 イラッとするが我慢して耳を傾けると……。

 

「────────どうでしょうか?」

 

「……おぉ。流石めぐみん! それだ、それなら問題ない!」

 

「それでは伝えてきたらどうですか? 待ってますよ、あの子」

 

「分かった」

 

 俺は席を立ち、アクアの元へと近づく。

 俺の気配に気がついたのか、アクアが俺を不安そうな目付きで見てきた。

 

「アクア、悪いけど仲間としては一緒にパーティーは組めない。けど友達としてだったら、偶には組んでいいと思う」

 

 かなり都合がいいことを言っているのは口にしながら分かった。

 俺だったらそんな巫山戯(ふざけ)たことを言っている奴を舐めてるのかと思うし、普通の人ならそうだろう。

 

「……友達になってくれるの?」

 

「あ、あぁ……。アクアはそれでいいのか?」

 

「それでいい。私、友達誰もいなかったから……」

 

 なんと。この女神様はボッチだったのか。

 まぁ天界では相当やんちゃ娘だったらしいなぁ……。

 

「けどその前に、今から言うことをやって、沢山のことを学んで来い。それは────────だ。」

 

「……分かった、私頑張るわ!」

 

 そう言って自分を鼓舞するようにガッツポーズをするアクア。

 人は中々変変われないが、引き籠もり兼ニートの俺でも少しだけ変われたのだ。

 アクアが変われることをことを切に祈っていよう。

 

 

 §

 

 

「おら働け! 女だからって許されると思うなよ!」

 

「はい親方!!」

 

「それも終わったらこっちも頼むよ、アクア!」

 

「はい、分かりましたカミツジさん!」

 

「俺の名前はミミツジだオラァ!」

 

「すみません!」

 

 土木工事の現場にて様々な声が響き渡るなか、男達の声に混じって聞こえる高いソプラノの音。

 そこには女神アクアが丸太を持ってせっせと働いている姿があった。

 俺は近くのいた元同僚に話しかけて。

 

「ういっす、ネル。アクアの調子はどうだ?」

 

「あぁ、カズマか。見ての通り、頑張って働いているよ。最初は親方に叱られる度に泣いてたけどね。今じゃ見間違えるようさ」

 

 そう。

 俺が言ったこととは『半年間土木工事で真面目に働き続けてお金を貰い、そのお金で生活し真っ当な社会人になれ』だ。

 アクアがかなりのめんどくさがり屋であることは分かっている。実際これはアクアを知っている冒険者達の言葉だ。

 なんでも聞いたところによると、奴はアツラギにかなり甘えていたそうな。

 アツラギはそんなアクアを怒ることはせずにむしろ甘やかしていたようだ。

 ……これでアツラギが惚れていることが確定した訳だが……それは置いておこう。

 兎も角、アクアのその性質を変えなければ意味がない。

 そこで俺とめぐみんはこの提案をしたのだ。

 あの女神様には自分で稼いだお金でご飯を食べるその喜びや社会の苦労を知った方がいい、とめぐみんが考え俺は同意した。

 ……流石は紅魔族。知能が高いのは本当らしい。

 親方に頼んだのは俺である。

 最初は渋っていたが──女の子を危険がそこそこ伴う土木工事に雇うこと抵抗を感じるのは仕方がない──事情を話したらすぐに了承してくれたのだ。俺の人生で最も尊敬している男第一位は伊達ではない。

 まだ始まって二週間も経っていないが──もしかしたら本当に改心するかもしれない。

 俺はそんなアクアを一時間ほど見た後、明日も頑張ろうと馬小屋に帰り明日に備えることにした。

 

 俺の名前は佐藤和真。

 なんだかんだ異世界生活を楽しんでいる駆け出し冒険者だ。








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