このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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女騎士

 

 アクアが改心する為土木工事のアルバイトを一生懸命に働いているなか、俺とめぐみんは現在。

 

「喰らえ、このカエルが! 『クリエイト・アース』ッ!……からの『ウインドブレス』ッ!」

 

  『五匹のジャイアントトード討伐』クエストを受けていた。

 だがそこにあるのは何時もの紙一重の勝負ではない。

 このアクセルの街に滞在して数ヶ月が経ち、俺とめぐみんも少しは成長している。

 俺は知り合いの剣士から『片手剣』スキルを教えて貰ったのだ。

 それによって俺は人並み以上には剣を扱う事が可能になり、カエルをザックザックと斬る事が可能になった。めぐみんは『詠唱短縮』や『爆裂魔法威力増加』を取り、本人が常日頃から言っている爆裂道を歩いている。

 ちなみに、俺が初期から使っている『クリエイト・ウォーター』や『フリーズ』 、今使った『クリエイト・アース』『ウインドブレス』 といった魔法は初級魔法を取る事で使用可能になるのだが、このスキルを取っている者は冒険者だと少ない。

 何故なら初級魔法には殺傷力がある魔法が一つもないからだ。よって本職の魔法使いはスキルポイントを貯めてからいきなり中級魔法を取る者が多いらしい。

 先程から出ているスキルポイントとは、新しいスキルを得るために使う対価であり、これはレベルアップする事で手に入れる事ができる。しかし特異な才能を持つ者はいきなりこのスキルポイントが十とか二十あるらしく、最初のスタートラインから凡才と天才では明らかに違う。

 ……という事を女神であるアクアから聞いた俺は、この世界の非常理に苛立ちながらも生活している。

 土を生成する『クリエイト・アース』から風を生成する『ウインドブレス』のコンボでジャイアントトードの目を砂利まみれにする事に成功した俺は万が一がある為深追いしたりはせず一目散に『逃走』スキルを使ってめぐみんの元へと急いだ。

 爆裂魔法の爆破距離から充分な距離をとった俺は魔力を最大限使って水を生成する『クリエイト・ウォーター』を上空に放ち、待機しているめぐみんに合図を送り、それを見た彼女が声高らかに叫ぶ……!

 

「行きますよ! 『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 カエル達の悲鳴が平原に響き渡り、そこに残ったものは──中規模なクレーターだった。

 俺は倒れ伏しためぐみんの元に近づき……良くやったとばかりに頭を撫でた。気持ち良さそうにして目を細めるめぐみん。

 まるで猫みたいだなぁ……。

 

「よし、よくやったぞめぐみん。特に、威力を最小限に収めてくれたのは高評価だ」

 

「そりゃあ……ゴホッ……ゴホッゴホッ…………」

 

 砂利を口の中に入れてしまったのか咽ているめぐみんに俺は『クリエイト・ウォーター』で水をゆっくり注いで流してやる。

 

「ふぅ、ありがとうございます。そりゃあ、毎回私の夕飯のオカズを食べられたら流石に気をつけますよ。おまけにセクハラも意図的にいやらしい手でやってきますしね……」

 

 すみません、セクハラは何時もしています。

 めぐみんをおぶって街に帰っていると、他の冒険者パーティーと何組か通り過ぎる。

 彼らと挨拶をすると、決まって彼らはその後爆裂魔法で抉られた地面を見てから言うのだ。

 

「おっ、今日は何時もより小さな穴じゃないか。良かったなカズマ、今日はあんまり天引きされないぞ」

 

 彼らは決まって俺に少しばかりの同情の視線を送ってから別れる。

 天引きされる事に俺はもう慣れてしまっているのでちっとも心に響かない。

 それに貯金も溜まってきたからか余裕が生まれ毎日を一生懸命生きる必要がなくなってきた。

 めぐみんも爆裂魔法以外は比較的常識人だから、彼女といるのも苦ではない。

 この世界も意外に住みやすいなぁ。

 立ち止まって綺麗な青空を暫く眺めていると。

 

「カズマどうしたのですか? 急に立ち止まったりして。何かありましたか?」

 

「いや何だ。意外にこんな生活も楽しいなぁと、思ってたんだよ」

 

「……そういえば、カズマは何処から来たのですか? 私は紅魔族ですから以前紅魔の里と言いましたけど、カズマの出身地はまだ聞いてませんよね? そろそろ教えてくれてもいいと思うのですが」

 

 別に話してもいいとは思うが、何て説明すればいいかが分からない。

 俺は曖昧な返事をしながら冒険者ギルドに足を進めた。

 

 

 §

 

 

「そろそろ安定の住いが欲しいんだ」

 

「藪から棒に急に何ですか?」

 

「それはいいと思うわよ、カズマ!」

 

 上から順に、俺、めぐみん、アクアである。

 アクアとは最近、一緒に夕飯を食べるようになった。その理由は、彼女の性格が少し変わったからである。

 あの世の中を舐め腐った性格が少しずつだがいい方向に変わってきたのだ。今度親方達に差し入れを持っていこう。

 最初はアクアとよそよそしかっためぐみんもここ最近は心を開いたのか仲良く話している。

 ……女神ジャンヌ様、アクアは変わりつつあります。

 俺は脳内の女神様に意味もなく報告してから二人の顔を見て。

 

「いいか。そろそろ本格的に秋になる。知り合いから聞いたんだが……秋を越して冬になったら、強いモンスターが闊歩する代わりに、弱いモンスターはいなくなるそうじゃないか。つまり、冬は俺達みたいな駆け出し冒険者だと稼げない」

 

「それは分かりますが……それが安定した住いと何か関係があるのですか?」

 

「大いにあるとも。めぐみんとアクアは宿で寝泊まりしてるから分からないだろうがな、馬小屋だとその寒さの訪れを肌で感じるんだよ」

 

 そう。

 最初は貧乏で腹を空かしていためぐみんだが、ここ最近は安定したエリス通貨を得られるようになった為に宿で過ごしている。

 アクアもそうだ。

 俺はというと、未だに馬小屋である。

 一緒に朝の準備体操をしてくれる人が日を跨ぐにつれいなくなっていくあの寂しさは、誰にも分からないだろう。

 

「なるほど。……だったらカズマも宿に泊まればいいじゃないですか。そうすればそんな思いをしなくてすみますよ」

 

「うん、俺もそうしようと思っていたんだが……。どうせ高い金を取られるくらいなら家を購入しようかと思ってだな」

 

 正直、自分でも馬鹿な事を言ってるのは分かっている。

 何故なら冒険者とは各地を転々と移動するから、住居を定める必要がないからだ。

 しかしこの世界には転移魔法の『テレポート』がある為、そんなに変わらないだろう。

 宿は高い。

 それはもう詐欺かと疑われるくらいに金を取られる。

 めぐみんが宿を取っているのは女の子だからであり、男だったら絶対取らないとこの前口に零していた。

 アクアは知らないが。

 なので、この案は意外にいいと思うのだが……。

 

「「無理!」」

 

 二人が呆れた様子で否定の言葉を言ってくる。

 

「いいですかカズマ。いくらお金を得ようと、家を購入するのには多大なお金が必要なのです」

 

「そりゃあ知ってるさ」

 

 俺だってそれくらい分かっている。

 ……けどなぁ。プライベートな空間がそろそろ欲しくなってきたのだ。

 アクアが唐揚げを一つ口の中に放り込みながら、

 

「いいカズマ。この世界の家はね、とても高いのよ」

 

「うん、だからそれくらいは知ってる」

 

「カズマが思ってるのとは違うんだって。いいカズマ、私達は冒険者よね? 私達冒険者は税金を免除されたり、そこそこ国から援助されてるわ。けどね、全てがそうとは限らないのよ。でね、ここからが本題何だけど冒険者が家を買う時は、一般人より多くの──それこそ二倍くらいの代金を払わないといけないのよ」

 

 何それ初耳。

 ……だが成程、一理ある。

 確かに俺達冒険者は一般人より多くの面で優遇されているが、その逆もあるのだろう。それに、冒険者は何時死んでもおかしくない職業だからローンとかを考えるとそれも仕方がないかもしれない。

 俺はがくっと首を落として。

 

「そっか、じゃあまだ宿生活は止めとくよ……」

 

「それがいいでしょうね。お金はあった方がいいもの」

 

「私もアクアに同意ですね。ないよりはあった方がいいですし」

 

 こうして俺の夢は終わった。

 俺が虚しく唐揚げをもそもそと食べていると──誰かの気配を感じた。だが俺はそれに応える気分とは到底いえないので、めぐみん達に任せるとしよう。

 

「すまない、求人の広告を見た友人から勧められたのだが……。まだ募集はしているのだろうか?」

 

 そんな内容の声が聞こえた瞬間、俺は喜びで顔を上げるがそこにいたのは。

 

「何故カズマがここにいる!?」

 

  俺はその顔を見た瞬間、すぐに顔を下げて何も見なかった事にした。

 隣に座っているアクアがそんな俺を見かねて。

 

「カズマカズマ、知り合い? やるじゃない、こんなお姉さんと仲がいいなんて、中々のプレイボーイね!」

 

 そんな事を無邪気に言ってくる。

 俺は渋々顔を上げて、声の主を見た。

 そこに立っていたのは一人の美しい女性。

 

 女騎士。

 

 そんな言葉は彼女に最も相応しい単語だ。

 何時もクールな表情を浮かべ、何時も無表情なその顔は俺に会ったからか驚きの顔になっている。

 身長は俺より少しばかり大きい。

 頑丈そうな金属鎧に身を包んだ女性は、金髪碧眼の美女だった。

 女性の髪の色と瞳の色は友達のアイリスを思い浮かばせ、会いたいなぁ、と思う。

 はっきり言おう、俺の好みドストライクだ。

 

 ──そう、外見上は。

 

「……それで何だよ、ララティーナお嬢様」

 

「すまない、私の事はダクネスと呼んでくれ。その方が都合がいい」

 

「それで何だよ、ダクネス」

 

 俺はそうダクネスと話しながらもアクアとめぐみんに逃げるサインを手で送る。

 アクアに通じるかは分からなかったが、どうやら通じたらしく頷いてくれた。

 めぐみんはというと、俺の嫌そうな顔から色々と察してくれたらしい。

 流石は一番付き合いがある仲間だ。

 

「久しぶりだな、カズマ」

 

「あぁ久しぶ……──今だ、逃げるぞ!」

 

 そう言って俺達は一斉に席を立ち俺は『逃走』スキルを、アクアとめぐみんはステータスにものを言わせ逃亡を開始する。

 ……開始……する……。

 

「待て、何故逃げようとする!」

 

「あぁああああ、こんちくしょう! 何で普段は動きが遅い癖にこういう時は速いんだよ!!」

 

 俺はダクネスによって首根っこを掴まれてしまった。

 俺の罵倒にダクネスは怒ったりはせず寧ろ……

 

「んくっ。……あぁやはり、カズマの暴言はいいっ!」

 

 寧ろ、喜んでいた。

 相変わらずの様子に俺は、重い、重ーいため息を吐く。

 俺が来ない事に気づいためぐみんとアクアが帰ってきたので、仕方がなく会話をする事に。

 

「コイツはダクネス。俺の知り合いだ」

 

「改めて、私の名前はダクネスだ。職業は〈クルセイダー〉だ」

 

 〈クルセイダー〉という職業名を聞いた瞬間、めぐみんとアクアが驚いていた。

 何故なら〈クルセイダー〉とは最上職の一つなのだ。

 当然こんな駆け出しの街にいる事が珍しく、仮にいるとしても他のパーティーに引っ張りだこの筈なのだ。

 しかし、パーティーに属していないというのならば、コイツに致命的な理由がある。

 それとは……!

 

「いいか二人とも。この女性(ひと)は〈クルセイダー〉だが防御関係のスキルしか取っていない。おまけに攻撃スキルも『両手剣』スキル以外は取っていないからまず使えない。いやそれ以前にコイツは不器用だから攻撃があたりすらしない。……そしてこれが一番重要何だがな、コイツはドMだ」

 

 俺は先手を打つ事にした。

 そう、コイツはドM変態と不器用ではなかったら最高なのだが上記の欠点がある為大して使えない。

 知能が高い紅魔族のめぐみんは俺の言葉で察したのか、

 

「カズマ、帰りましょう」

 

「うん、そうだなめぐみん」

 

 帰りの催促をしてくる。

 まだ子供だから早く寝て身長を伸ばしたいのだろう。

 俺の名前は佐藤和真。

 仲間を大切にする男だ。

 俺はそんな努力をするめぐみんを応援する為、何時の間にか意気投合している二人に向かって。

 

「それじゃあ二人とも。俺達はこれで帰るから。ダクネス、仲間の件は明日の朝に言うから、それじゃあな」

 

「私はダクネスと話したいからまた明日の夜ね?」

 

「あぁ。それと勘定のお金置いておくから払っといてくれ」

 

「分かったわ」

 

 こうして俺とめぐみんはアクア達に別れを告げ冒険者ギルドを出る事にした。

 

 

 §

 

 

 何時もより早めの帰宅。

 沢山の人が往来するメインストリートを歩きながら屋台を見ていると、めぐみんが。

 

「それにしても意外ですね。カズマがあそこまで女性を雑に扱うとは……。本当にダクネスはドMで変態なのですか?」

 

 そんな俺にとって当たり前な事を聞いてくる。

 だがしかしその事を知っているのは俺だけなのでめぐみんが知らないのも無理はない。

 俺は自身の過去を客観的に述べる事でめぐみんの理解を得ようと綺麗な夜空を眺めながら話す事にした。

 

「そうだなぁ。……アイツと初めて会ったのは──」

 

 

 §

 

 

 そう。

 それは俺が王城にいた時の話だ。

 その日、アイリスは貴族のお嬢様と会う約束をしていたのだが、その謁見の場に何故か俺も招かれたのだ。

 

「カズマ様、私が今日会うのはダスティネス家のお嬢様です。その方は私の事を実の妹のように扱ってくれる方なのです。……それで、私にカズマ様という友達ができた事を手紙に書いたのですが……そしたらその方が会いたいとおっしゃいまして」

 

「うん、それは分かったんだけどさアイリス。……悪いな、チェックメイト!」

 

「あっ! カズマ様狡いです!!」

 

「ふっ、話に夢中になりゲームを疎かにしたアイリスが悪い」

 

「それはそうですが……。カズマ様が『何で俺が呼ばれるの?』と私に聞いてきたから……そうなったんですよ?」

 

「うっ……悪かったよ。悪かったからそんな涙目にならないでください! もしクレアが来たら──」

 

 そう言って俺は辺りをきょろきょろと見回して誰もいない事を確認してから浅く溜息をついた。

 このお姫様は最近、新しいスキル『涙目』を的確に使っている節がある。

 まぁその仕草は可愛いので俺的には大歓迎なのだが。

 だがアイリスを泣かしたと白スーツにでも勝手に勘違いされたら俺の命が保証されない。

 冷や汗を垂らしている俺を見てアイリスは楽しそうに笑っていて、そんな彼女を見ると俺も自然と楽しくなってくる。

 

「よし、それじゃあ今のはノーカンでいいから、もう一回やろうぜ」

 

「……? のーかんとは何ですか?」

 

「今の勝負をなかった事にする、っていう意味だよ」

 

「なるほど! カズマ様は私が知らない言葉を沢山知っていますね!」

 

 そう言って無邪気に尊敬の目を向けてくるアイリス。

 ……ごめんなさい、これは地球の言葉何です。

 俺は、い心地が悪くなったので咳払いをして。

 

「それでどうする? もう一回やるか?」

 

「はい! ……っと言いたいのですがそろそろララティーナが来る時間ですからまた後にしましょう!」

 

「分かった」

 

 そう言って俺が開発したゲーム『チェス』の盤上と駒を片付けをしていると……扉をノックする音が部屋に響いた。

 

「入っていいですよ」

 

 失礼します、と言いながら入ってきたのは護衛を務めているクレア。

 白スーツは俺の方を一瞬見て眉を顰めるが、何時もの事なので慣れたのか何も言う事はなかった。

 

「アイリス様、ダスティネス卿がお見えになりました。……サトウカズマ、今日来る貴族は王家の懐刀と言われている家のお嬢様だ。いいか、くれぐれも粗相がないようにしろ」

 

「はいはい、分かってるって。適当に流しておくよ」

 

「それが心配なのだ! いいか、まず……というより絶対にだがセクハラをするなよ! あとは言葉遣いだ! 分かったな!?」

 

 そう言って失礼な事を言ってくるクレア。

 ……ここはそろそろ俺も本気を出さなければ。

 俺は持っていたチェスセットをアイリスに預け、ゆっくりと席を立つ。

 俺の雰囲気が何時もとは違う事に気づいたのか、クレアは訝しながらも黙って様子を見守る事に決めたようだ。

 俺はそんなシンフォニア卿にゆっくりと近づき、優雅に一礼をして。

 

「畏まりました、シンフォニア卿。本日矮小な私はアイリス様の友として失礼がないよう、最大限の注意をして臨みます。もちろん、ララティーナお嬢様にも失礼がないようする所存です」

 

「……!?」

 

 お前は一体誰何だ!? とそんな目で見てくるシンフォニア卿に俺は再度一礼してアイリスの元へと向かい、座っていた席に腰を下ろした。

 そして、まだ驚いている白スーツに不敵な笑みを浮かべて。

 

「ふっ。これでどうだ?」

 

 そんな勝利宣言を高らかに言ってやる。

 

「カズマ様、凄いです! 足取りも仕草も充分貴族相手に通じます! クレアもそう思いますよね?」

 

「……認めたくはありませんが……はい、そうですね。恐らく、貴族の社交パーティーでも通じるでしょう」

 

「それにしてもどこでそんな技術を身につけたのですか? ……もしかしてカズマ様はどこかの国の王族だったのでは!?」

 

 興奮しているアイリスを宥めながら、俺は。

 

「いや違う。覚えた。……クレアやレインさん、本場のメイドのリーシャンがいるからな、遊び半分で覚えてみようかと」

 

 そんな過去を自慢してアイリスに言っていると、白スーツが怒りの目で見ながら。

 

「だったら何故何時もそうしない!」

 

「だってめんどくさいじゃん。そもそもの話だ、俺とアイリスは友達だからオーケーだろ?」

 

「はい、そうですね。それに元々私がそのようにしてもいいと許可したので……」

 

「……それについては解った。……が、何故私にはしないのだ! そもそも何故レインには『さん』づけなのに私は白スーツやらクレアやらと呼び捨てに……!」

 

 何やら喚いている貴族様を見て俺は、

 

「いいかアイリス。ああいう大人になっちゃ駄目だぞ?」

 

「……? はい、分かりました?」

 

 アイリスは素直で純粋だなぁ。

 こんな俺の言葉を素直に聞き入れてくれるなんて、何ていい子だろう。

 

「……えぇい、そろそろ時間だ! アイリス様、それでは行きましょう」

 

 そう言って俺を除け者扱いする白スーツ。

 いらっとしたが報復は後にして取り敢えず付いていくと事数分後。

 無駄にでかい王城の中を歩いていくと、大きな部屋が俺達の前に立ちはだかった。

 

「それではアイリス様。良い時間をお過ごしください」

 

 そう言って室内にアイリスを案内し、俺もそれに乗じて中に入るとそこには……

 

 ──一人の美女がいた。

 

 その女性は俺達に気がつき、優雅に席を立つとこれまた優雅に一礼をして。

 

「お久しぶりです、アイリス様。今日はこのような謁見の場を設けて下さり感謝致します」

 

「はい、お久しぶりですねララティーナ」

 

「……!? ……シンフォニア卿、少しいいだろうか」

 

 ララティーナ、という名前を聞いた瞬間吹き出しそうになるが最悪死刑になるので我慢していると……。

 美女は護衛として後に控えていたクレアの元にやや駆け足になって近づき、二人は廊下に出てしまった。

 何だったんだ……?

 帰ってくる気配がないので取り敢えず用意された椅子に座り──アイリスの席の横に席があった。恐らく、友達という名目の為彼女がそのように指示したのだらう──あの美女の端正な顔を思い出していると、くすくすと横から笑い声が漏れてきた。

 横に目を向けるとそこには手を口に当てて上品に笑っているアイリスがいた。

 

「申し訳ございません、カズマ様。私は普段、こういう時は話さないようにしているのです。その、恥ずかしいので……」

 

「あぁなるほど。だからあのお嬢様は驚いていたのか。そうだよな、アイリスも俺と初めて会った時はかなりビクビクしてたもんなぁ」

 

「むっ。それはそうですが……そんな事を言ったらカズマ様だって自己紹介の時名前を噛んでいたじゃないですか」

 

「仕方ないだろ、クレアに脅かされていたんだから。……そっか、あれから二週間か。月日が巡るのは早いなぁ」

 

「そうですね。私はカズマ様に会ってから毎日がとても楽しいです!」

 

 そんな嬉しい事を言ってくれるアイリスに照れているとお嬢様とクレアが再び戻って来た。

 その後は主にアイリスとララティーナと呼ばれた美女が話していたのだが……俺は眠気を堪えるのに苦労した。

 というのも、俺に話が全然振られない。

 ……俺を招待したのは向こう何だからもうちょっと気を遣ってもいいと思うんだが。

 だがまぁ、それも仕方がないかもしれない。

 あの金髪美女は何でもアイリスの事を妹のように思っている訳だし、成長した彼女と話したくもなるのだろう。

 ……別に、寂しい訳ではないのだ。

 

 数分後。

 

「それでは私はこれで。アイリス様、今回は本当にありがとうございました」

 

「いえ、私もララティーナと話せて楽しかったです。それではまた会いましょう」

 

 どうやらお嬢様はお帰りになるらしい。

 結局最後までこの女性(ひと)とは話さなかったが、まぁ二度と会う事はないと思うので別にいいか。

 一人の男としては、是非とも話して仲良くなりたかったが。

 そんな俺の思いが通じたのか、

 

「申し訳ございません、アイリス様。最後にこの男性と二人きりで話す時間を貰えませんか?」

 

 そんな嬉しい事を言ってくれる。

 アイリスは少し思案していたが小さく頷いて。

 

「分かりました、でも本当に少しですよ? この後カズマ様とは約束があるので……」

 

「畏まりました。感謝致します」

 

 そう言ってクレアと共に部屋を出ていった。

 そして部屋には俺と絶世の美女の二人だけ。

 ヤバイ。

 これはもうヤバイ。

 こんな時にコミュ障の弊害が……!

 頭がパンクしそうになるのを懸命に堪えていると。

 

「始めまして、改めてダスティネス・フォード・ララティーナだ。よろしく頼む」

 

 こ、怖っ……!

 アイリスと話してる時はあんなに表情豊かだったのに、何でこんなにも差が出るの!?

 これが貴族の処世術か……!

 俺は震えそうになる体に鞭打って。

 

「ははは、始めまして! さささ、佐藤和真です!」

 

 そんな裏声が出てしまう。

 

「私の事は好きに呼んで構わない。それと敬語もなしでいい」

 

 何ていう太っ腹だ。白スーツにも見習わせたい。

 俺は男の意地で平静を取り戻して。

 

「あっ、はい。……それでララティーナは俺に何か用があるのか?」

 

「カズマにはお礼を言おうと思ってな。……アイリス様の友人になってくれてありがとう。……それとララティーナはやめて欲しいのだが

 

 そう言って頭を下げる貴族。

 クレア曰く、ダスティネス家は王家の懐刀と言われているらしい。

 そんな家柄の人間が平民の俺に頭を下げていいのだろうか。

 

「いや、いいから頭をあげてくれ! もし誰かに見られたら……!」

 

 お互い困るだろう、と言おうとした時……──

 

「もし誰かに見られたらその人は『ダスティネス卿があんな小僧に弱みを握られて凌辱されてる!』と思うだろう!」

 

 ──ん? 今このお嬢様は何て言った?

 いやいや、俺の聞き間違いだろう。

 そうだ、落ち着け佐藤和真。

 いくら俺の好みの年上お姉さんとは言え、初対面の人に俺は何を思っているんだ……!

 そうやって、落ち着いていると。

 

「あぁ、それで私はカズマに凌辱されて、凄い事をこの室内でやられた後捨てられるんだ……んんっ……そしてカズマは部屋を出る時こう言うのだ『お前は今から俺の性奴隷な!』と! 何というシチュエーションだ!」

 

 勝手な事を叫ぶ変態貴族様。

 

「おいこら、そんな事する訳ないだろう!?」

 

 そうだ。

 俺はそんな事しない……と思う。

 

「カズマが私と会った時から私の胸を下卑た目で見ている事は知っている!」

 

「べべべべ、別にみみみみみ見てないし! 自惚れなんじゃないですかねぇぇぇえええ!?」

 

「ふっ、嘘をつくな。カズマ、女性は視線に敏感何だ」

 

 そう言って、分かっているという目で優しく慰めてくるララティーナに俺は。

 

「じゃあなララティーナお嬢様。この後アイリスと遊ぶ約束があるんだ!」

 

 戦略的撤退をする事にした。

 だが掴まれる服の襟。

 何てこった、アイリスといいクレアといいこのお嬢様といい、脳筋しかこの国にはいないのか。

 これ以上この女と話していると頭がおかしくなるので強引に逃げようと全身に力を入れようとしたした……

 ──その時。

 

「まぁ待て。真面目な話があるのだ。カズマはもうすぐ王城を出るのだろう? ……実は私は貴族の傍ら、冒険者もしているんだ。……一緒に私とパーティーを組まないか?」

 

「詳しく」

 

 席に着く事にした。

 ……別に、腕に押し付けられて服越しに感じた膨らみに動揺した訳では無い。

 王城から出たら俺は無一文だ。

 当然、仲間や武器は自分の力で集めなければならない。

 だったら、ドMで変態とは言え、美人なお姉さんと過ごしたいってものだ。

 そう、たとえ変態でも。

 

「私の職業は〈クルセイダー〉だ」

 

  〈クルセイダー〉とは最上職の1つだとレインさんから教わった俺は真面目な態度をつくる。

 これは案外このお嬢様も使えるのでは……。

 

「だが〈クルセイダー〉としての役割は期待しないでくれ。スキルポイントは防御系のスキルしかとっていない。一応『両手剣』を取っているが不器用なせいで攻撃は当たらないが、守りは任せて欲しい! 」

 

 そう言って頬を赤くし、はあはあと息荒く詰め寄ってくるララティーナお嬢様に俺は一言。

 

「舐めてんのか。お前アレだな、本当にドMだな!」

 

「んくっ……!」

 

 身体をビクンと震わせる変態貴族をもう一度見てから俺は放置する事にして、そそくさとアイリスの元へ向かう事にした。

 

 

 §

 

 

「──という事があったんだ」

 

 過去を振り返りめぐみんに聞かせてやると、

 

「……それは正直、ないですね……。というかそれ以上に私は、カズマがアクセルに来る前は王城にいた事に驚いているんですが」

 

 ドン引きしながらも俺の言葉に肯定してくれた。

 いくら俺の好みドストライクとはいえ、ダクネスは中身が残念すぎる。

 これでまだ〈クルセイダー〉として使えるなら仲間に入れてもいいのだが。

 

「では結局、あのダクネスという女性を仲間にはしないのですね?」

 

「あぁ、そうだな。そもそも、ダクネスはこのパーティーに相性が悪すぎる」

 

 実は俺がダクネスを拒否しているのは、彼女の性癖にドン引きしている……というのもあるがそれ以上にれっきとした理由があるからだ。

 ダクネス曰く、彼女は盾役を所望しているらしい。

 だが爆裂魔法を操るめぐみんがいる俺達には専門の盾役は必要ないのだ。

 これは以前にも述べたが、盾役が非常に危険だからだ。めぐみんの爆裂魔法の爆波に巻き込まれて──というか喰らって──生存できる人間はまずいないだろう。

 

 仲間集めは苦労するなぁ。

 

 

 §

 

 

 翌日。

 あれだけ馬小屋で寝泊まりしていた冒険者も数が減っていき、とうとう残っているのは三人になってしまった。

 少人数ながらも声を大きく出して仲良く準備体操をしていると、

 

「カズマー! おはよう! 他の皆もおはよう!」

 

 アクアが走りながら来たので取り敢えず挨拶をする事に。

 

「おはようアクア。それで朝からどうしたんだ?」

 

「ダクネスについて言いたくてね」

 

 ……ダクネスについて?

 そう言えば昨日は意気投合していたな。

 もしかして、仲間にしてあげなさいよ! とか言うつもりだろうか。もしそうだったら理由を懇切丁寧に教えてやろう。

 

「それでダクネスがどうかしたか?」

 

「あの子ヤバイわ!」

 

 ヤバイ、と言っても良い意味でのヤバいと悪い意味でのヤバイがあるんだが……どうやらアクアの表情を読み取るに悪い意味の方らしい。

 俺は取り敢えずジャージから以前買った冒険者ローブや剣を装備しながら、壁の向こう側にいるアクアの話を聞いてみる事にした。

 

「カズマ。あのダクネスって子、かなりの変態ね。あの子の将来の夢はね『甲斐性が一切無く、ダクネスの事をゴミのように扱い、けど性行為を強要する腹が太った男と結婚する』ことなんだって! それにこうも言ってたわ『オークのオスに凌辱されて孕まされたい』だって! どう思うカズマ? 昨日あの子と意気投合してお酒飲んでたらそんな事を酔いながら言うのよ? 飲む前は凄い落ち着いていて良かったのに……カズマ、私がおかしいのかしら?」

 

 アクアが正常です。

 装備を整え、ウィズの魔道具店に向かう道中もアクアはダクネスの話題を止めない。

 

「けどそんな変態なのに一般常識とかはあったりするのよねぇ。これでカズマのいた世界の言葉を借りて『キチガイ』だったら私もすぐに帰ったんだけど……」

 

 それについては深く同意する。

 そう、アイツはあの性癖さえなければ普通に良い人なのだ。だが何度も言うようにあの性癖な為、友達を作るのには苦労するだろう。

 

「まぁ仲間にはしないが、時々なら付き合うさ」

 

「私は普通に付き合う事にするわ。偶には女神っぽくしたいしね」

 

 ……本当にコイツは変わりつつあるなぁ。

 何だろう、これが世の中のお父さんの気持ちなのだろうか。

 

 ────最初は可愛い娘だった。

 一緒にお風呂に入ったら決まって、「私、パパと結婚する!」と言い、……しかし月日が経つにつれて一緒に風呂に入る回数も減ってしまう。

 中学生になると、「ウワッ、マジキモイ。死んでくれる?」と暴言を放ち、しかしながらそれがコミュニケーションになる。

 高校生になるとますます手がつけられなくなり、娘が犯罪を起こさないか毎日気が気でなくなり眠れないでいると、妻からは「アンタは明日も仕事だから寝てろ!」と寧ろ怒られる日々。

 大人になると落ち着きをみせ、親孝行をしてくれる娘。

 そして遂に結婚相手を連れてくる。

「娘はやらん!」の常套句を告げて、ちゃぶ台をひっくり返し、妻からは「散らかった物、ちゃんと元通りにしなよ」と言われ猛省しながら元に戻して連れてきた男が娘に相応しいか見定め、渋々認める。

 そして遂に結婚式。

 ウエディングドレスを着た娘に感動のあまり涙ぐんでいると、「お父さん、育ててくれてありがとう」と言ってくれるのだ────

 

 しみじみとアクアの成長に感動しながら、待ち合わせの場所に着いてめぐみんを待っていると、そう言えばアクアはまだウィズに会っていない事に気づいた。

 室内をそっと覗くと光が灯っているので店はやっているようだ。なのでドアを開けて店に入りウィズを呼ぶ事にした。

 

「おーい、ウィズ。おはよーう」

 

 俺の声に気づいたのか、奥の方から現れる女性。

 俺がアクアに紹介しようとして横を見ると……そこには誰もいなかった。

 

「『ゴッドブロー』ッ!」

 

「きゃあああああああ!!!!!」

 

 ……えっ。

 俺が驚きのあまり声も出せずにいると……、

 

「アンタ不死王(リッチー)ね! よくもぬけぬけと街にいるわね!? 私が成敗してあげるわ!」

 

 ……。

 …………はっ!

 俺はアクアを止めるべく慌てて掴み合いをしている戦場に武器を持って行った!

 








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